つぶやき |
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「う~ん、我ながら完璧な計画!アーリアル王国はちょーっと油断すると直ぐに戦争だの侵略だのをしようとするからね……これでいい牽制になったでしょ!はーっはっはっはっはっは!!」 燃える巨大マッチを肩に担いだサーヤは上機嫌に肩を揺らして大笑いし――不意に、その笑顔が途切れた。 「成程な……どうも怪しいとは思ってたんだが、まさかそのナリでテロリストとは、たまげたね」 「げげー!………つかぬことをお聞きしますが、全部聞かれてたりしますかお兄さん?」 「お前さんがマッチ箱を媒体にこんなテロをやらかしたことは理解できたよ」 彼女の余裕の笑顔を崩した者。それは、先ほど正にマッチを売りつけた若い男だった。 腰に剣をぶらさげて上質な武具をつけていたため名うての傭兵(マーセナリー)か冒険家だとは思っていたが、まさかこちらの思惑に気付かれるとは夢にも思わなかった。 「おっかしーなぁ……なんでバレたん?」 「理由その一。貰ったマッチを調べてみたら、極少だが神秘術らしい記述がマッチに彫り込まれていた。しかも記述がクリスタルへの神秘供給システムと部分的に似通っている。遠隔操作数列式だと気付いて危険物保管用のテレポットに放り込んだよ――おかげでテレポットが一つおじゃんだ」 テレポットとは、内部に一種の異空間を作り出して物体を格納できる道具のことだ。内部で強い衝撃を受ければ壊れるが、異空間を突き破る際に破壊力の殆どを使い果たしたのだろう。男には少々鎧の一部に煤がついているが怪我はない。 並の人間なら、仮にマッチ箱を開いてもその数列を見つけきれないだろう。それほどに微細な数列だった。サーヤはひゅう、と口笛を吹く。 「わお、名探偵!で、他にも理由があるの?」 「ある。理由その二。そもそもこの辺りでマッチを売ってること自体が解せない。この辺りは比較的裕福な人間の住む区域だ。金は持っていても人通りが少ない。儲けたいなら一段下の、丁度労働者でにぎわってる中層のほうが儲けが見込める。しかも一箱30ロバルというのもおかしい」 「え、良心的な値段だったと思うけど?」 「この町の連中はマッチの相場なんか知らん。本気で小遣いを稼ぐならもっと吹っかけた値段で攻める」 おおー、と関心の声をあげるサーヤの笑顔を苦い顔で見ながら、若い男は腰の剣に手をかける。 マッチに違和感を覚えて少女を追いかけたが、結果的に彼女によってマッチは爆発させられてしまった。あの威力ではかなりの死者が出たに違いない。 家族がいただろう。 出世欲や憧れがあっただろう。 語らいたいことが沢山あっただろう。 仕事の後の楽しみが、目の前にあっただろう。 それが、こんな少女に一瞬で――歯がゆい思いを堪えながら、若い男は言葉を続ける。 「そして、疑った最後の理由。――『マッチ売りの少女』はエレミア教で使われる古い隠語だ。その意味は、『炎とともに尽きる命』……炎の凶兆を示す」 「……博識だねぇ、とっても博識!まさかこの皮肉が通じる人に会えるとは思わなかったよ!エレミア教の地方司祭ならそんな古い隠語なんて知りもしないよ?」 「生憎と、俺の家はそういうのに縁があってね」 若い男は、それだけ言い終えると腰の剣を完全に抜き放った。 黒を基調とした両刃の剣が、月光を反射して煌めく。 それを見た少女は大袈裟に自分の身体を抱いてわざとらしい悲鳴を上げた。 「きゃー!ゴメンナサイゴメンナサイ!私、ある人に頼まれてやっただけなのぉ!家族とか人質に取られちゃってさ、しょうがないじゃん!?」 「よく回る舌だが、嘘がモロバレだぞ。お前の持っているその巨大なマッチ棒……『ヘファイストスの松明』だろう。過去に反女神派の異端集団と認定された『スチュアート派』が強奪したオリュンポス十二神器のうちの一つだ」 「ウッソ!そこまでバレちゃう訳!?お兄さんってば実は良家のお坊ちゃんか教会関係者でしょ!!」 今度は流石の少女も本気で驚いたようだ。 オリュンポス十二神器は騎士団の上層部とエレミア教会上層部のごく一部しかその存在を知らない古代兵器だ。その半数は強奪されて教壇の手元にはないが、それをこの短期間に看破するなど、その情報を持っているだけでも異常な事だ。 ヘファイストスの松明は、その中でも炎を司る古代兵器。 見た目は巨大なマッチ棒にしか見えないが、数十もの数列を同時遠隔操作してあの規模の爆発を起こすなど、まともな神秘術では不可能だ。故に若い男は、過去に見た資料と照らし合わせてあの武器を特定していた。 だが、その古代兵器を肩に担いだ少女は不敵な笑みで男を見上げた。 「――で、さ。お兄さんはこの後どうするのかな?勇ましく剣なんか抜いちゃってるけど、あたしのこと斬っちゃう?」 「………………」 「考えてること当てたげようか?そうだねぇ~……私の目的があくまでこの国への牽制だって話を思い出して、本当の神器の力はこんなものじゃないなって密かに戦慄してるでしょ!」 十二神器は、普段は封印されている。それは、その力が余りにも強力過ぎるからというのもあるが――実際には、使い方が伝わっていないからだ。十二神器は神秘数列の媒体として以外にも、特殊な使用方法が存在する。だが、その使用法を記した書物も神器使いの一族も、過去に起きた魔物との大戦によってすべてが失われていた。 だがこの少女は、神器の使い方を知っている。先ほど町に放火する際、彼女は神秘術には存在しない過程を使用していた。 何故神器の使い方を知っている。 何故それを持っている。 お前は、何者なんだ。 「で、今の自分じゃ勝てないから今回は見逃そうとか!」 あくまで余裕は崩さずににやにや笑うサーヤに、若い男は内心で覚悟を決めた。 彼女の言う事は正しい。確かにその考えも頭を過った。彼女が本気でこちらに攻撃すれば――十中八九防ぎきれずに焼死するだろう。利口に生きていたいのなら、ここは見逃すべきだ。 だが、それでも――と、ニーベルは歯を食いしばる。 ここで黙って引けば、自分自身を許せなくなるから。 弟との間に立てた誓いを破ってしまうから。 見て見ぬふりをして、素知らぬ顔で悪から目を逸らしたくないから。そんな最低な自分など、存在する価値がない。 「我が名はニーベル・フォルツ・ブルグント。愛国の徒として、無辜の民を焼いたお前を黙って帰す気は毛頭ない」 「無辜の民、ねえ………知らないってのは幸せだ。いいよ――あたしの名前はサーヤ!その喧嘩、特別に付き合ってあげる!」 サーヤが肩に担いだ神器を振り上げ、槍のように振り回しながらニーベルに突き付けた。 ニーベルもまた、抜き放った剣を正面に構える。 空気が、張りつめた。 「………ただし、果てしなく後ろ向きにねーっ!!」 瞬間、サーヤは神器を担いだままバック走でその場を離脱した。 一瞬その姿に呆気にとられたニーベルは、やがて自分がからかわれたことに気付いて慌てて追いかける。 「なっ……てめぇふざけんなコラぁ!!人をおちょくってんのかこのチビ女!!」 「ふざけてないけどさ!さっきの爆破でかなり力使っちゃったし、あまり暴れすぎると六天尊(グローリーシックス)が動く可能性あるんだもん!寧ろ全力で見逃してください!」 「くそ、なんでバック走で俺の全力疾走より足が速いんだよ!ちょっと気持ち悪いわ!!」 「ははははっ!……あ、ひとつカン違いしてるみたいだけどー!!」 鬼ごっこをして遊ぶようにけらけらと笑うサーヤは、必死に追いすがるニーベルに一声かけた。 「あの炎はねー!熱いし燃えるけど、ヒトは殺さないよう定義付けしてあるからー!トラウマは残るかもしれないけど、死者は一人も出てないよーーっ!!」 「なっ……なんだとぉぉぉーーーー!?」 「あははははっ!またいつか会おうねー!!」 結局、必死の追跡もむなしくサーヤは姿をくらました。 翌日確認を取ると、確かに彼女の言うとおり死人は出ていなかった。 爆発によって吹き飛んだ破片などで重傷を負った者はいたものの、不思議な事に発火したものに触って火傷したものはいても、炎そのものに焼かれた者は一人もいなかった。 しかしこの事件で主要な酒場が壊滅したことと、下手をすれば都市に壊滅的な打撃が与えられていたであろうことから、アーリアル王国兵の士気は著しく低下した。 結局サーヤが何者で、何の目的でアーリアル王国にちょっかいを出したのかは不明のままだった。あの無邪気な少女がこんな凶行に及んでいる理由は想像も出来ない。 だが、ニーベルには小さな予感があった。 ――あの子とは、またどこかで出会う気がする。 その後、ニーベルは元々続けていた武者修行の旅を再開した。 そして彼は、彼女とはまた別の運命的な出会いを果たし、それを境に大きな動乱に巻き込まれることになるのだが――それはまた、別のお話。 あとがき: あれ、おかしいな?マッチ売りの少女を書きたかったんだけど。 しかも気付いたら五千文字超えてました。なんか最近こんなのばっかり書いてる気がする。 一応質問とかあったら受け付けますけど、多分質問は来ないと予言します。 |
オセーニ大陸西部は、大昔から「マギム」と呼ばれる種族の支配する地域である。 世界最大宗教であるエレミア教の教えによれば、このマギムという種族はアドラント大陸に住まう「ガゾム」、天空都市バベロスに籠る「ゼオム」と並ぶ古代人種であり、文化的な歴史は最も深いとされている。 マギムは繁殖力が高く、世界のあちこちにマギムの町や集落が存在し、この世界で最も総人口が多い種族だと言われている。 そのマギムが治める「アーリアル連合王国」が首都アーリアルの城下町は、真冬の寒さに見舞われていた。 余りの寒さに早めに店をたたむ行商とは逆に、屋台や酒場は時間が遅くなるにつれて騒がしさを増していく。その寒空の下に敢えて身を晒し、喉を焼くような酒と料理に舌鼓を打つ。それが彼らなりの冬の過ごし方なのだ。 町内を見回る王国兵たちも、己の見回りが終わると我先に腹を満たそうと夜の街へ踏み出していく。 「もし、そこのお方」 不意に、その若い男は背後から掛かった透き通るような声に呼び止められた。 振り返った男は少し驚く。 声の主は、幼い少女だった。 この寒空の下で、赤い頭巾と手袋に安物のマフラーを身に着けているその様は、防寒が十分だとは言い難い。手にはバスケットを握り、そのバスケットの中には小さな箱がたくさん入っている。 寒さからか鼻先が赤くなったその姿はいかにも辛そうで、すこし気の毒に思えた。 「俺に何か用かいい、レディ?」 「ええ……わたし、マッチ売りをしているのです。良ければひとつ、いかがでしょうか?」 「これは、木製のマッチか?今時珍しいものを売っているな」 今や木製マッチは都市部では滅多に見かけない。 特にアーリアルのような都市には『クリスタル・インフラ』という技術が広く普及しているからだ。 蓄積結晶(クリスタル・コンデンサ)に溜めこんだ大量の神秘を子機結晶に供給し、それを火を操作する神秘術を組み込んだ機械(マキーネ)に組み込めば、それで火が起こせる。 調理の火や暖炉は勿論、神秘術を変えて光源や冷蔵庫の冷気などにも変換できるこの技術が導入されたのはもう一世紀以上昔の話だ。 神秘術を用いない木製マッチを使う者は、煙草の愛好者などの一部の物好きだけだ。 クリスタル媒体の発火装置に比べて使いづらく、またそもそも物を燃やす機会が少ない。 クリスタル技術が発達していないよその国ならともかく、この国では旧時代の遺物だった。 とはいえ、この町の中では珍しいものでもある。 「いくら?」 「30ロバルです」 「買おう。ほら、お代」 「あ……ありがとうございます!」 少女の顔がぱっと明るくなった。 この寒空の下で働いているのだ。彼女がどのような事情の下にここで物売りをしているのかは知らないが、一つくらいは勝ってやってもいいだろう。どうせこれから酒場でもっと金を使うのだ。その話の種にでもなれば元が取れるだろう。 マッチの箱を受け取った男は、頭を下げる少女に小さく会釈をして、「身体に気を付けろよ」とだけ言い残してその場を去っていった。 それを遠目に見送った少女は、ふふ、と笑みを漏らす。 「さてはて、下ごしらえはこんなものでいいかな?誰も彼も純真(ピュア)すぎてイカンね?見た目に騙されて直ぐにマッチ買って行っちゃうんだもん!」 悪戯猫のようにニヤニヤと笑った少女は、そのまま路地裏へと身を翻す。 彼女は路銀を稼ぐためにマッチを売っていたわけではない。本当に重要なのは、「マッチを持った人間が町中に散らばる」ことそのもの。 「この時間帯にうろついているおっさんたちはどいつもこいつも酒場目当て。そしてこの時間帯なら酒場には末端の兵隊どもが集まってくる!つまりああやって子供のふりしてマッチを売れば、後は各々好きな酒場に散らばっていくわけでっ!」 路地裏に放置されたゴミを飛んで避けながら、少女は笑いが止まらないとでも言うように一気に駆け抜け、町の外へつ続く道へと出た。 「そこで連中は『今日、道端で珍しいものが売ってたんだ』と酒場の席でマッチ箱を取り出すのです!だけど実はぁ~……そのマッチ、細工されてるよっと!」 店もない夜の小道には誰もおらず、人目の有無をしっかり確認した少女はその辺に立ち止り、残りのマッチをバスケットごと放り投げた。投擲先には町の大動脈となる大通りが存在するが、今の時間帯にはそこに人など通らない。例え通ったとしても少女にとっては問題の無いことだった。 「そう、実は!このサーヤちゃんが持つごんぶとマッチでちちんぷいぷいと呪文を唱えると――?」 その服の何所に入っていたのかと聞きたくなるほどに大きなそのマッチ棒を取り出したサーヤと名乗る少女は、マッチ棒で自分を中心に円を描いたのちに、マッチの先端を地面に激しくこすりつける。 マッチの先端に火が灯った。そしてそれに呼応するように円が輝き―― 「なんと、大爆発して超高熱の炎を如何なく放出するのですっ♪」 ――アーリアルの城下町に、爆音とともに数十の火柱が高らかに立ち上った。 彼女が配ったマッチ箱を中心に起こった大爆発の炎だった。 建物全てを焼き尽くすような地獄の高熱が、町を赤く染める。 炎は店の外へも飛び出し通行人さえも焼かれ、更には火事で近隣もパニックになった。 すぐさま城より消防部隊が出動するが、そんな彼らを待っているのは――石畳さえも焼ける紅蓮の炎によって破壊された大通り。先ほど彼女がバスケットを放り投げた、まさにその場所で立ち往生を余儀なくさせる。 僅か数分前まで平和そのものだった首都は、混乱と悲鳴に彩られた。 |
そこで小説は、読者にとって一種の終わりを向かえます。 例えその後に色々な展開が待っていても、作者が成長して文章力が上昇しても、最初の数話を読んで「面白くない」と感じてしまえばその読者にとって小説は終わります。当たり前と言えば当たり前の事ですが、そうやって私たちは読む小説と読まない小説を分けているのです。 その事実をおしてまで自分の持つ一作品を他者に認めてもらいたいのなら、もう修正か書き直ししかないですよね。なので私は細かい修正や書き直し、書き足しはちょくちょくやってます。 そういえば「○○○(リメイク)」みたいなタイトルの小説って、実はリメイク前とほとんど変わってない事が結構ありますよね。アレ不思議です。何をどうリメイクしたのか全然分からないし、前と比較して面白くもなってない。全部が全部それという訳ではなくちゃんと改良されている物もありますが、正直毛が生えた程度の変化しかないものが多いと思います。 でもそれを感想には書きません。というか読んだ小説に取り敢えず点をつけることはあっても感想は積極的には書きません。何故かと言うと、書く感想の6,7割が同じ内容になるからです。 つまり、私が他人にダメ出しをすると大体が下記のようになります。 「読ませていただきました。文章は書けてると思います。でもすぐに飽きました。特に面白くもなかったし見どころも見つからなかったのでこれ以上読む気はしません。」 もしくは、こう。 「特に理由はありませんが、展開を見ていて何となく白けたというか、疲れました。これ以上この作品に期待を感じません」 自分の作品にこんなことを書かれたら、恐らく心が折れます。 でも、絶対に自分の作品を読んでる人間の内だれかがこんなことを考えている。 小説の何所が良くてどこが悪い、なんてものは本当はどうでもいい事です。何となくで評価されるこの世界だから、「何となく面白くない」などと言われないような作品を書きたいという一種のハングリー精神を手放したくないと思う今日この頃でした。 「本心がでる感想っていうのは「悪い点」のほうなのじゃないか」……という話でして。 上記のようなコメントというのは本当はちっとも厳しくないんです。ただ歯に衣を着せなかったと言うだけで、むしろ読者の内心にはこんなコメントが溢れているようなありふれた感想だと私は思っています。 読んでみて、続きが気にならなかったから読むのを止めた。 それを馬鹿正直に言葉にすると上記のコメントになると思います。つまり、「お前の作品はつまらん」、です。端的にして単純明快。ゆえに恐ろしい。 そして、それが悔しいから私は自分に満足できないのです。 私は感想は付けますね。出来るだけ。 ……最近はそうも言って居られない程、時間に余裕がなく成って居るのですが。 出来るだけ悪い点は挙げない。 確かにもう一、二行。もう一言でも描写を継ぎ足せばマシに成るのに、と思う時は有りますが、それを言い出すときりがない。 それに最近は『メモ』を立ち上げて、誤字や脱字。言葉の用法のチェックなども入れながらウェブ上の小説を読んでいるいるので、その時々に感想をちょろちょろ書いて居ますから、読み終わった段階で忘れて居る、などと言う事も有りませんし。 確かに商業作家になろうと言う理想があるのなら別ですが、所詮は趣味で書いている程度の物なら、そんなに厳しい感想も必要ないと思いますしね。 私はこう思いますから。 およそ小説と言う物は最高の物でも影に過ぎない。最低の物でも何処かしら見どころがある物だ。 想像力で補ってやれば。 まぁ、私の場合は自己満足。他者の評価よりは自分が満足する方が先です。それがなければ延々と自分の時間を削って書き連ねて行く事は出来ません。 正直、なんでこんなにお気に入りの登録があるんだろう。原作が人気がある二次小説は違うし、怖いな、と思いながら書いて居ますからねぇ。 本当の私はもっと―― ヤバそうなのでこれで失礼。明日の更新から逃げている最中でした。 |
もうね、皆の中での間違ISは「佐藤さん」で説明されてしまってるんだな~と思わざるを得ないのです。書き込みとか見てると。もうこの作品佐藤さんがいなくなったら持たないよ……と思わずにはいられないです。そうですつまり佐藤さんなのです。 そんなに佐藤さんは強烈ですかね?設定としては割とテンプレに近い水準を維持しているつもりなのですが…… 一応ながらほのぼの系IS二次として認知されているらしいうちの作品。最近は結構筆の進みが遅かったのですが、それでもやっぱり待ってる人がいるんだと思うとちょっとモチベーションがアップします。 さて、次はあの子が暴走してこっちの子とぶつかって、あっちは覚醒して……こっちはミニ伏線回収して……忙しくなるなぁ。 |
懲りずにやってたブレイブリーデフォルトですが、この前すこし腹立たしいことがありまして。 これはプレイ中の人にはネタバレになりますが、第8章サブイベントにおいてエタルニアボスラッシュの最後に立ちはだかる最凶4人集が鬼のように強くて、攻略方法を全然見いだせなかったのですよ。 だから仕方なしにネットで攻略方法を探したのですが……結論から言うと攻略サイトにあった戦法が(恐らくハードモードを想定していなかったせい?)全く役に立ちませんでした。もう駄目駄目。あれでは成功するのに何回やり直さなければいけないのやら……という奴でした。 なんか腹が立ったのでここに自己流攻略法を乗せておきます。自分用ですが、多分お手軽。 前提として、以下のジョブは全てレベルカンストです。 まず、ティズから。 ①ジョブはスーパースター、サブで聖騎士。 ②サポートアビリティは「魔法防御特化」「ダメージ分散」「ストップ無効」「両手盾」「盾の心得」 ③装備は当然両手盾。それ以外は魔防アップを優先。光属性軽減の装備を一つは持つ。 次、アニエス。 ①ジョブは魔界幻士、サブで白魔導師。 ②サポートアビリティはティズと同じ。 ③装備についても同じ。 次、リングアベル。 ①ジョブは魔法剣士。サブは指定なし。 ②サポートアビリティは「身代わり召喚」「道連れ」「アンデッド化」「速度10%アップ」「両手持ち」 ③全身お勧めで可。ただし「光の護符」を推奨。 最後、イデア。 ①リングアベルに同じ。 ②上記に同じ。 ③同じ。 ヴィクターのワールドヘイストのせいでBPはバンバン増えますが、使用は1~3の間に留めて4回行動は避けた方がいいでしょう。でないとBPがマイナスに落ちてしまいます。 サポートと回復の二人は完全に防御に特化させ、敵の猛攻から生き残ることを目的にしてます。敵の攻撃、アルテミアのマルチバーストはこの装備で殆ど脅威ではなくなります。また、ブレイブの攻撃も危険性はグンとダウン。ヴィクターのホーリーもノーダメで乗り切ることが可能です。 ただ問題はマヌマットが撃って来る2連メテオです。これを乗り切るためにティズには「ココロノカギ」など守りのステータス上昇を多用しつつ、デフォルトで死なないよう身を守る。アニエスは召喚合体で防御、特防、回避、速度が上昇した状態を保ちつつ回復に専念させます。恐らくMPが足りなくなると思うので機を見てアイテムで回復させてください。 ティズは聖騎士のスキルでランパートを行えば、聖騎士とアルテミアからのダメージを更に減らすことが出来ます。歌で自分の防御力を確保し、暇が開いたらランパートがいいでしょう。 逆に残りの二人は死亡覚悟の、というより死ぬこと前提のスタイルです。 速度上げによって2人は相手より速く攻撃し、後は敵の攻撃を受けて倒れ、倒れ際にダメージを与えるのが役割になります。ターンエンドでアンデッド化が発動して復活すれば役割続行で、生き返らなければ機を見てアイテムで生き返らせるのがいいでしょう。 この2人にとってはメテオもマルチバーストも同じくらい脅威ですが、逆を言えばそのどちらかを撃破出来ればかなり生存確率が上がります。よってこの戦法では炎弱点でてっとり早く弱点が付けるアルテミアを最優先で攻撃します。 基本的にブレイブを積んでファイガ、攻撃、攻撃です。ブレイブはしょっちゅうランパートで物理無効の壁を出してきますが、無視して殴ってください。変に遠慮すると死んで道連れが発動してもランパートで弾かれます。攻撃あるのみです。また、さらに効率を求めるなら必殺技パーツを火属性にして予め使えるようにしておくのもいいと思います。死ぬことが仕事なので間違っても彼等にアレイズなど使ってはいけません。使うならレイズでないとMPがもったいないです。 これで常にティズとアニエス(願わくば回復のアニエス)を生き残らせつつ攻撃と自爆の二重ダメージでアルテミアを追い詰めます。 で、アルテミアが倒れたら後はマヌマットを集中攻撃です。アルテミアを追い詰めた時点で恐らく自爆ダメージが蓄積しているので、比較的簡単に撃破できると思います。 ここまでくれば後は簡単。 アニエスは回復しつつも隙を縫って魔法で攻撃。 ティズは「私の彼は勇者様」で魔法剣士2人の攻撃回数を増やす。 そして魔法剣士は残り2人の弱点である闇属性「ダーク」を使用してひたすら攻撃。これで突破できます。 リングアベルとイデアに関しては、恐らく魔法剣士以外でもやってやれない事はないと思います。ただ、道連れのダメージと召喚魔法の威力を両立しながら「アンチマジック」の発動でメテオ連発にも耐える可能性を持たせるには魔法剣士が都合がいいと思っただけです。 |
突然だが、この世界には「リメインズ」と呼ばれる七つの巨大迷宮が存在する。 もはやそれがいつの時代から存在しているのかも不明なその迷宮は、失われし古代技術の宝庫であるダンジョンをさらに上回る規模を誇る。 規模が大きければその分古代技術の量も膨大。もしもこの中から一つでも使用可能な古代技術を持ち帰ることができれば、それだけで一攫千金になるほどの経済的な価値を秘めている。 だが、リメインズには別名がある。 奈落。 全てを失う場所。 冒険者の墓場。 ダンジョンにつきものの危険が、このリメインズでは果てしなく大きい。 罠が多くあるわけではなく、一度解放した仕掛けは戻らない。 特殊な構造ではあるが、複雑ではないので迷うこともそう多くはない。 では、何がリメインズをそう呼ばせているのか。 それを確認するために、今日はリメインズを調べる二人の冒険者に注目してみよう。 第4リメインズ「ラクシュリア」。 超国家条約によって第4にリメインズに認定されたエリアだ。 リメインズにはその超国家条約によって設立された「審査会」に認定された特別な人間しか入ることを許されない。つまりこれから注目する二人はその特別な人間――「マーセナリー」と呼ばれる存在に該当する。 その地下、おおよそ三十層近くの通路。 その外壁である人造石が――何の前触れもなく爆発した。 轟音とともに立ち上る土煙の中から現れる人影。 片方は小柄な少女。 褐色の肌をむき出しにするような露術の目立つ、防具のない服装。その体系に不釣り合いなほど豊満なバストと抱えた携行大砲に目が行く。大砲からは火薬の煙が立ち上っており、その大砲によって壁に大穴が開けられたことが分かる。 もう一人は軽装の鎧を装備した剣士。 左手の手甲は二の腕近くまで伸びているのに対し、右手は川の手袋だけでむき出しに等しい。そのほか、動きの邪魔になる関節部分の鎧を排除した姿は如何にも傭兵といった風体だ。ただ、その真っ赤な瞳だけが彼の存在に暗い影を纏わせる。 少女は爆発で空いた穴から出ようとし、携行大砲が引っかかって「はうっ!?」と情けない声を出して転びかけ、後ろの男に助けられる。起き上がった少女は今度こそ穴を突破すると、男のほうを見て胸を張った。 「ほら!絶対にここは構造的に弱いと思ったんですよ!言ったとおりだったでしょ!?壁を吹っ飛ばした先に道は出来るのです!」 「……………マッピング中に道を増やすな」 「い、いいじゃないですか!ホラこれで行き気も楽になりましたし!」 「……壁の先に、古代技術があったらどうする。粉砕する気か?」 「あう……ご、ごめんなさい」 「俺は別に、構わんのだが」 男はこのリメインズに眠る財宝や古代技術には興味がない。だが、少女は技術屋であるため、とくに機械(マキーネ)の技術には並々ならぬ関心がある。男はそのことを知っていて指摘しただけなので謝られる謂れはないのだが、少女には間違った認識を与えてしまったらしい。 二人はあくまで仕事上の都合でコンビを組んでいるだけであり、特別な関係などではない。立場としては対等だ。だが、男の持つ暗い影が、彼の言動の一つ一つに重みをもたせている。 しゅんと肩を落とす少女を一瞥した男は、気にする様子もなくおもむろに通路を向いて剣を構える。 「まぁ、いい。それよりも派手に音を立てたせいで魔物どもに気付かれた。俺は右をやる」 「じゃあ私は左ですね!」 魔物、と彼は気軽に言った。 魔物――自然の生み出した存在とは思えない、魔を内包する異形。 この世界における人類の天敵であり――そして、「このリメインズから魔物は発生している」。 つまり、ここは人類にとって最大にして最悪の敵の巣。 ひとかけらの希望と膨大な災いを内包したパンドラの箱。 跳梁跋扈する魔物たちは冒険者を骨の髄まで食らい尽くす。 マーセナリーという戦闘集団でさえも、その生存確率は低い。 尤もひどかったころの生存確率は三割。今でも新人マーセナリーの生存確率はそれと大差ない。 ゆえに、奈落。 ゆえに、全てを失う場所。 ゆえに、冒険者の墓場。 だが、彼らは物怖じ一つしない。 「困ったら俺を囮にしてもかまわんぞ、カナリア」 「いざとなったら私を盾にしてもかまいませんよ、ブラッドさん?」 ブラッドと呼ばれた男は、その腰に携えていた刀身をすらりと剥き出しにする。 カナリアと呼ばれた少女は、携行大砲をバックパックにしまい、両手に短距離携行砲を装備する。 二人の武器が、鈍い光を放った。 「まずは初撃、スプラッシュ・バウンッ!!」 上下にそれぞれ砲身のある携行砲の下段が火を噴く。 発射されるのは刺のように鋭い無数の弾丸。散逸するニードルは弓などとは比べ物にならない速度で直線状を飛び、正面にいた蝙蝠と狼の魔物を吹き飛ばした。 狼の魔物は全身に容赦なく突き刺さった針のような弾丸にもだえ苦しみ、蝙蝠の魔物は羽ごとハチの巣になった。そのほかの魔物たちも多かれ少なかれ怯んでその動きを止める。 だが、その隙こそが命取りであったことを、魔物たちは身をもって知る。 「次撃、マシン・バウンッ!!」 上部砲身から鋼鉄の弾丸が矢継ぎ早に発射され、足を止めた魔物たちに殺到した。 直線に進むそれは、一撃一撃の弾丸が今までとは比べものにならないほど重く、正規軍でさえ手こずる魔物の丈夫な体に次々着弾していく。衝撃は容赦なく魔物の皮膚を突き破り、骨をへし折り、なんとか立ち直ろうとしたその体に追い打ちをかけるように連続で叩き込まれる。 スプラッシュ・バウンの広域射撃で足を止め、連射性のマシン・バウンで一網打尽にする。 言葉にすれば簡単だが、この方法は誰にでもできる真似ではない。 まず、携行砲というのはこの世界でも最新鋭、最高峰の技術で製造されたものである。 次に、この携行砲を扱うには、この世界における魔術である「神秘術」の特別な素養が必要である。 そしてこれが非常に重要なことなのだが―― 「グギェエエエエエエエ!!」 「あれ?仲間を盾に切り抜けましたか……?」 正面から、二足歩行の蜥蜴が奇声を上げながら突進してくる。魔物の中でも武器を扱う亜人タイプ、厄介な相手だ。爬虫類的な速度と武器というリーチを得た魔物は、マシン・バウンの射撃を壁伝いに躱し、カナリアに肉薄する。 小柄な体躯に迫る命の危機に、カナリアは目を大きく見開き――すぐさま脇を引き絞り、携行砲をまるで打撃武器のように、そのままカウンターの要領で蜥蜴に叩き込んだ。 「やあああぁぁぁぁッ!!」 「グゲッ!?」 驚愕と衝撃で、蜥蜴の瞳が驚愕に染まる。 突進の運動エネルギーが、携行砲の殴りつけで完全に相殺。いや――逆転した。 「どっ……せぇぇええええええええいッ!!!」 「ギュギェエエエエェェェェェェ!?」 カナリアは豪快にそのまま携行砲を振り抜いて、蜥蜴を床に叩きつけた。 蜥蜴はその衝撃で頭蓋が割れて、ぴくぴくと体を痙攣させながら絶命した。 「携行砲が飛び道具?何のことですか?これは接近戦重視の武器ですよ!」 実は「携行砲」とは名ばかりで、片手用の武器であるにもかかわらず平均的な種族では構えることすら難しい重量を誇っている。故にそれは、その砲を構えることのできる者にとっては立派な「鈍器」なのだ。 カナリアは、ガゾムと呼ばれる種族の出である。そしてガゾムの特徴は大別して3つある。 手先が器用で技術者が多い。 成人しても体は小柄で、子供のように見えるが長寿。 そして、柔軟性を持った鉱物のような肉体を持っているため、とてつもなく頑丈で怪力。 種族としての長所を全面的に生かした、火力と怪力のパワーファイター。それがカナリアというマーセナリーの本質である。 敵を全滅させたカナリアは、パートナーであるブラッドの方に加勢しようかと振り返る。 が、すぐに必要ないな、と判断してその光景から目を逸らした。 「汚らわしい獣共が……血反吐をまき散らして、無様に死ね」 瞬間、一閃。 魔物の死骸と断面から漏れ出した血の飛沫(ひまつ)がリメインズの通路を彩った。 返す一閃で次の魔物を切り裂き、その奥にいた巨大な魔物にその刃を突き刺して、斬り抜いた。 切り裂くたびに、魔物の切り傷からは不自然なまでに大量の血潮が噴き出し、絶命する。 噴出する返り血を頭から浴びたブラッドの目の輝きが、狂気を帯びた。 「く、は。はは……はははははっ」 がばりと開いた口から洩れる、乾いた嗤い。 顔から垂れた返り血を舌なめずりで啜ったブラッドが、スイッチが切り替わったように弾丸のように跳ねて奥の魔物の群れへ飛び込んだ。 そこから先は、もはや惨状としか言えない凄惨な光景だけが量産されていく。刺突し、斬り飛ばし、抉り、肉片や臓物が飛び散るほどに荒々しく、貪るように、ブラッドは嗤いながら魔物を刈る。 もうカナリアにとっては見慣れた光景であるが、それでも未だに血の臭いから逃れるように口元を覆った。 「『呪剣ヴァーミル』……傷口から強制的に血を『吐き出させる』呪いの剣。いつ見ても凄惨ですね………」 舞い散る血潮は自然に切り傷で噴き出たものではない。 ブラッドの持つあの呪剣が齎す一種の呪いが、その体から強制的に血液と肉体を分離させている。 つまり、あの剣で斬られれば命の源を強制的に奪われ、死に至る。 だが、カナリアは知っている。 ブラッドの狂気は、たとえあの剣を握っていなくとも変わらないことを。 何故なら、剣はあくまで負わせた傷に追加効果を与えるだけ。だから―― 「邪魔だ、でくのぼう。血飛沫だけまき散らして、果てろ」 巨大な魔物が振り落とした大木のような腕を、ブラッドの剣が真っ二つに切り裂く。 それによって出来上がった血潮の滝を気にも留めずに跳躍したブラッドは、魔物の顔に両手持ちに代えた剣を振りかざした。 べぎり、と鈍い音が響き、魔物の首が重力に従って落下する。 ――例えばブラッドの五倍はあろうかという巨大な魔物を彼の剣が骨まで断ったとしたら、それは彼の膂力によって断ち切られたものなのだ。 例え呪剣ではなくとも、頑丈な剣ならば彼はあれを再現できる。 そして、首を切り落として出来た魔物の血の噴水の下に佇むブラッドは――その血飛沫を全身に染み渡らせるように浴び、正気に戻ったように嗤いを解く。 「先に、進むぞ。今日中にマッピングを終わらせる」 「………」 無言で頷き、カナリアは血の海を越えてブラッドの隣へと行く。 殺戮を楽しむように暴れた後の彼の顔はどうしてか、少し寂しそうに見えた。 彼の過去にいったい何があったのか、カナリアは未だに知らない。彼がなぜ戦いにのめりこむように暴れるのかも、それでいて人に辛く当たることをしない理由も。 ブラッドとは「血みどろ(ブラッドリー)」という仇名に由来するもので、名前すら知らない。 彼を動かす原動力は何なのだろう? 私は――復讐だけれども。 という訳で、ちょっとだけ書いてみました。いろいろとややこしい説明を省いてざっくりわかりやすくですけど。今は準備とか実力とか全然足りてなくて、書きたくとも書けないやつです。書ける日が来るんだろうか。 |
小説書いてたら何もボタンを押してないのにページが勝手にリロードされて書いた文字が全て吹き飛んだのでショックで新年のご挨拶に参りました。このパソコン嫌い。 何なのこれ?そんな機能のキー存在しないじゃない。なんで消すの?奇跡的に書き始めの文章だけ残ってたけどさ、あそこものすごく重要なシーンだったのよ? こういう時、消えたという事実よりももう一度書かなければいけない事実のほうがしんどいです。 何度か経験したことはあるんですが、消えた瞬間はほんとうにキツイですよね。 さっきまで目の前に出来上がっていく文章があったことがどうしようもなくもどかしい。 なかなかいい雰囲気で書けてたんですけど、もう再現とか無理なので内容をマイナーチェンジしつつ本質だけ寄せて……実家の使い慣れないPC使ったのが完全に仇になりました。 自分の場合は、不注意でEscキーを押してしまいました。重要な描写の時だったので、本当に絶望しましたよ。もう一度同じ文章なんて書けないので、思い出しながら『あぁ、消える前の文章の方が面白かった』と唸っていた記憶があります。 もうあんな思いしたくない。 |
姉にPC占領されたりおなかの調子悪かったりで気分が乗らず、結局なにもしないまま年末を迎えてしまいました。ですが、なんとかあれだけはやり遂げましたよ。 ブレイブリーデフォルト、真終章――攻略終了。 プラス、魔装機神Ⅱのストーリーを一通り回収完了。 なかなかにしんどい戦いでしたが、睡眠時間をささげてなんとか。奇しくも両方ギリギリの戦いになりました。考えてみれば私のやるゲームはスパロボ以外いつもギリギリの戦いになりがちです。 ついでに時期的にも小説書いていられるギリギリの時期。 今は晩御飯食べ過ぎてギリギリの胃袋と戦ってます。 割とギリギリのタイミングになりましたが、ギリギリの年越しそばを啜って年を越したいと思います。 ギリギリまで、よいお年を。 |
ちなみにこの暇潰シリーズは何故かスクライドを見た影響で書き始めました。 ※ ※ ※ モノレール駅への近道であるはずの橋は、たった一人のベルガーによって安々と閉鎖されていた。 突如として日常に現れた大きなベルガー犯罪に、周囲の人間の多くが逃げ惑う。この法治国家日本に突如として現れた水の脅威に人々は恐れおののき、悲鳴を上げて逃げ惑う。 犯人を取り押さえようとする者はいない。いや、出来ない。 高い能力強度を誇るベルガーは、既に一種の災害と見られている。人間が水の脅威に生身で挑めば待っているのは死に他ならない。ゆえに、ベルガー犯罪に対して最も有効な対応策は逃げること。 ベルガーの相手は同じベルガーか、ベルガーに対抗する訓練を受けた人間に任せるしかない。 騒ぎは既に警察へと通報されてはいるが、非常に突発的に発生した事件なだけに対応は間に合っていないのか、一向に現れなかった。 つまり今、洪水(ホンシェイ)の活動を警察は止めることができない。 散歩でもするように前進する洪水がいる場所は、自身の作った巨大な水の塊の内部。 そこからアイテールの気配と視覚の両方を使いながら、素体(アビィ)の乗る車を発見する。乗っているのは運転手と助手席に男が一人ずつ――そして後部座席に、素体。 男は車から逃げもせずにこちらを見続けている。怖気づいたか、それとも大人しく素体を引き渡す気になったか。 (まったく、兄さんにも困りものだ。手っ取り早く竜巻でも起こして障害を薙ぎ払ってしまえばよかったものを……) 大風ならば出来るはずだ。 あの兄なら間違いなくできる。 だが、それでもそれをしなかったのは――まだ、過去を引きずっているのだろうか。 (僕ら兄弟が犯してきた多くの過ちの一つ。あの日からだっけな、兄さんが「戦士」としての戦いを追求し始めたのは――……?) 不意に。 「――掌握完了。上書開始」 洪水は、自分の操る水に別の人間が操作するアイテールの流れが混入したことに気付いた。 異能による性質の変化、しかも自分が主導権を握る強力な流れにさえ強制的に割り込む法則の上書き行為。 アイテールの流れ込む元を振り返ると、金髪の女がアイテールの渦に身を包みながら、静かに手を掲げていた。 「法則奪取(インターセプト)だと!?くそっ、あの女はベルガーなのか!!」 法則奪取――アイテール操作の主導権を強引に奪取する技術。 遠隔操作や放出型の異能は、ベルガー独特の特殊脳波をアイテールを通して空間に干渉することで遠隔発動を可能にしている。あの女が行ったのはその遠隔発動の為に収束したアイテールに自分の異能発動ラインを打ち込んで操作権を奪う行為。 口にするのは簡単だが、実現するにはアイテールの流れの感知及び精密な操作と収束地点の見極め、性質の正確な理解、そして相手の操作ラインと接触せずに一瞬で法則を書き換える能力強度が必要になる。 「……並じゃないっ!」 「――強制結晶化(クリスタライズ)!!」 宣言のようなその言葉とともに、洪水の集めた膨大な水分が、一瞬で結晶化した。 ただ凍り付いたわけではない。操作権を剥奪された海水は彼女――アレティア・エヴァンジェリスタの意のままに計上を変化させ、橋の中心にたたずむ巨大な十字架の形状となって橋に道を作る。 水の壁に巻き込まれた車たちも結晶化の過程で持ち上げられていき、挙句に氷晶は法師たちの乗る車の邪魔になる放置車両までも持ち上げた。 「今だよ、法師!」 「ありがとうティア!この借りは次のデートできっちり返すからたのしみにしてろ!!」 「待ってるんだからねーっ!!」 大声で言葉を交わすと同時に、空いた道を車が突っ走る。 障害がなくなってしまえば残る関門は駅前だけだ。 「ってうおぉぉぉぉぉぉッ!?路面が凍結してる、路面がぁぁ!!」 「か、法師ぃー!?」 「しまったな……スタッドレスはさすがにもう外しているし。だが大丈夫だ俺よ!アビィはむしろ車のスピンを楽しんでいるぞ!さすがは俺!うっかりで子供を喜ばせるとはやり手だな!!」 「てめえは楽しそうに解説してないで黙ってろボケぇッ!!」 「きゃあ!くるくる回ってる!すごい!」 「凄くない!!」 怒鳴りながらブレーキとアクセルを踏み分けてハンドルを全力で切った操縦で、車のスピンはコントロール可能な域にまで立て直した。 「だ、大丈夫なの法師!?ごめんね、道路凍らせちゃって!」 「けけけ結果オーライ!俺が次から気を付ける……!」 幸い道路が広かったおかげでクラッシュを免れた車は、虎顎の二人目の刺客を突破した。 法師たちを見事に送り出したティアは遠ざかる車に目いっぱい手を振った後、自分の作り出した海氷を見上げて首をかしげる。 「でも変ね?いくらなんでもこれだけ大きな異能発動があったんだから警察が動いててもおかしくないのに……渋滞が起きてるとはいっても、異能課は移動用に四脚重機とかヘリコプターとか所持してる筈でしょ?」 「――それはな、女。僕たちの仲間が足止めしているからだよ」 「ッ!結晶化!」 次の瞬間、発砲音。 咄嗟に声が聞こえた方向へ手を掲げた。 「……驚いたな。一杯喰わされたのもそうだが、展開したそれは障壁ではなくアイテール結晶か?」 放たれた弾丸は、ティアに届く前に淡翠の壁に遮られてその威力を失っていた。 淡翠の発光色が示すものは、大気中のアイテールを物質化したもの。高濃度のアイテールは一定環境下で液状化し、さらにそこから結晶化させることが可能である。 そして、ティアの異能である「結晶化(クリスタリゼーション)」を用いれば、この程度は造作もないことだ。 障壁は役目を終えたように結晶化が解け、大気中に再び吸い込まれていった。 銃を突きつけるその男に、ティアは正面から睨み返す。 「一応死なないように閉じ込めたから、こういう展開も想像してたけど……」 「僕の能力強度を低く見積もるな。大気中のアイテールを物質化できるのは君だけじゃない」 |
一日中森林伐採と放火の幇助をしていたせいで肩が痛くて……明日の筋肉痛が怖い次第でございます。 転んで木の切り株にお尻をしたたかに打ち付けたり、転んで竹藪の中に転がり落ちたり、折れた木の枝が眉間に直撃して悶絶したり、煙で軽く燻されたり。あとしいたけ見つけた。 とりあえず魔装機神ⅢとFを買うためにⅡクリアせねば。という感じで執筆休みです。 しかし、山仕事やってて思ったんですが、やっぱり若さって大事ですね。インドア派でも案外体は動くものです。 |
わたしの通う大学は1月2日から通常講義やるらしいんですよ(白目) ※ ※ ※ 某月某日、とある街の山奥。 少し離れたところには誰が使っているとも知れない道路が走り、山の環境はいいがそれ以外には何もないような、そんな場所の一角――ぼろぼろになってしまった森の一角で、警察が大規模な捜査を行っていた。 周囲には力任せにへし折られた樹木やめくり返った大地、そしてあちこちに火を放たれたような燃焼の痕が見受けられる。既に捜査はひと段落着いたのか、一部の捜査員は折れた樹木を椅子代わりに休憩している。 「嵐のような1日だったな」 「ええまったく。もう疲れやら焦げ臭いやらで肩が痛いですよ……」 「ま、大変な事態だったしなぁ。ほれコーヒー、一本300円」 「もう持ってます。それ、さっき捜査員全員に配ってた奴でしょ?阿漕なこと言わないでくださいよ」 「ちっ、昔はもう少しかわいげのある後輩だったんだがな……」 「求めないでくださいそんなもの」 漸く現場の整理を終えた先輩刑事は、後輩に押し付けようとしたブラックコーヒーのプルタブを引いて香ばしい液体を煽った。と、同時に顔を顰めてため息を漏らす。 「苦い。俺はカフェオレかコーヒー牛乳がよかったのに、なんでブラックしかないんだ!」 「お茶だってあったでしょ?」 「全部緑茶だった。緑茶は苦いから飲まん」 「どんだけ苦いもの嫌いなんですか!まさかいい年してピーマン嫌いなんて言わないでしょうね!?」 「…………食べれないわけじゃない。苦手なだけだ」 「かーっ、この人はもう……」 だいたい、ブラックとはいっても飲みやすいようにミルクと砂糖は入っているだろうに、と呆れ果てた後輩は自身のコーヒーを飲み干す。コーヒーの味はするが、それほど苦いとは感じなかった。 「……で、甘党先輩はさっき上がったボンボンの証言、どう思います?」 「どうってお前……とりあえず逮捕は免れないだろうな」 後輩のいうボンボンとは、この山をめちゃくちゃにした犯人と思われる容疑者のことだ。 今現在警察のいる山から200メートルほどの場所に、とある個人所有の山があり、容疑者はそこの所有者だった。父親はIT企業の重鎮で、その息子である彼は株で大儲け。巨万の富を得た彼は海外で豪遊したり国内で豪華な別荘を建てたりと金持ちそのものの生活を送っていた。 だが、最近になって彼は自身の所有地であるこの山の別荘にばかり足繁く通うようになり、しかもしょっちゅう大きな荷物を入れるようになった。それに呼応するように、隣の山では聞いたこともない獣の遠吠えや、生息する野獣の変死体が次々に発見されるようになり、昨日ついに住民から通報があったのだ。 その結果、発見されたのがこの荒れ果てた山肌である。 実際にはその場所にはもう一つ警察の度肝を抜く存在があり、それは既に証拠物として運び出されている。そのせいで2人はほかの警察の面々とともにこんな山奥で 「まさか、自分の所有地で『怪獣』を飼育してましたなんて……しかも手懐けに失敗して逃げられてちゃ世話ないぜ」 「そうですね。発見した時には黒こげにしたいでしたけど、6、7メートルはくだらないサイズでしたよ。まさしく怪獣……いや、恐竜?」 「検査結果さえ出ればどっちでも一緒だ。あーあ、ジュラシックパークの時代が来ちまったな」 産業革命や戦争がそうであったように、劇的な環境の変化は多くの金と人員を動かして技術の発展を促す。現代の技術力は全体的に見て、21世紀初頭のペースから考えれば20年ほど進みすぎているそうだ。 その原因である『アイテールの発見に伴う技術発展』――通称『霊素革命』は、ベルガーの異能発動メカニズムの研究による生物工学分野の大発展をも齎した。 その結果、現代の技術力を使えば出来てしまうのだ。 合成獣だの恐竜だのといった、いわゆる怪獣というやつが。 もちろん金も設備もかかるし一般的とは言い難い。だが、それでも逆を言えば金と設備さえあれば生物工学の粋を尽くした化け物というのは製造出来てしまう。 事実、10年ほど前から日本を含む世界の各地で新種とも雑種とも知れない奇妙な生物の発見、捕獲例が後を絶たず、数年前には純粋種保護の為に国際条約において「遺伝子操作生物種」の厳しい規制が定められた。 「当時は相当話題になったな。生態系への悪影響とか倫理とか、動物愛護団体と宗教がぶつかってちょっとした暴動になったり。結局、国が有害でないと認定したもの以外は一切合切禁止ってところで蹴りが付いた」 「でもいまだに悪趣味な連中はこうしてこっそり作って飼ってるのが困りものですよね。しかも今回のはべらぼうにでかい。日本で発見されたものとしては最大級じゃないですか?」 「ああ。まったく、もう飼い始めて数か月だっていうじゃないか?よく今まで犠牲者が出なかったもんだぜ」 今のところ、警察の予測ではその怪獣が暴れた結果、隣の山に侵入して餌として動物を捕食しながら住み着いたのだろうというものだ。 しかしそうなると不明な点が一つ浮かび上がってくる。 「しっかし、なんであの怪獣は真っ黒焦げになってたんですかね?生物改造で無理やり炎が吐けるように作られた結果、うまくいかずに自分の炎で燃え散ったとか?」 「けっ、ゴジラじゃあるまいし。それだったらこんなに焦げ跡が残っているのに山火事にならなかったことの説明がつかんだろうが。誰かが焼き殺したんだよ」 「誰かって……ベルガーですか?」 「そうなるな。そうなるんだが……」 先輩刑事は腰を上げて周囲を見渡す。 例の怪獣が倒れ伏していた一から目算で、半径30メートルほどの草木がすべて燃やし尽くされた焼野原を。 きれいに円を描くようなその炎はただの炎ではない。 火が付いた割には灰が少なく、特に中心に近い部分はまるで炭焼き職人が作ったかのようにきれいに炭化している。炭を割ってみれば中はまだ生で残っているが、あまりにも表面がきれいすぎる。 単に火がついたのではなく、まるで――『燃やされた』という結果だけを張り付けられたかのように。 こんな燃焼の仕方は、通常ではありえなかった。 「こんな広範囲を丸焼きにして、挙句怪獣の体を半分炭化させるほどの熱量を操れるベルガーだと……?ただの派手好きか、自分の力を誇示したかったのか……それとも純粋な実力で?」 「そして、一体何のために……ですね」 辺境の山奥で違法飼育されている違法種など、探せば他にいくらでもいるだろう。 この山を焼いた人間もこれから器物破損で探さなければいけないかもしれないと思うと、生きた心地がしない。そう、その場にいた全員の警察がひそかに恐怖した。 = = = 『だ、か、ら!やりすぎなんだよこの放火魔(プロマニアック)が!!毎度毎度仕事はこなす癖に余計な被害ばかり出しやがって・・・・・・!』 「う……しょうがないじゃん、コントロール難しんだから」 『嘘をつくな嘘を!どうせ面倒になったかハイになってやりすぎたんだろう!!』 「うぐぐ……しょうがない。正義の味方として余計な損害を出してしまったのは事実だし、報酬から被害額引いておいて」 『アホ。あの山の木はなぁ、すげぇ良質な杉の木が大量に生えてたんだよ!その分の損害を引いたらお前への報酬は……ゼロだ。もともとそんなに高額の依頼でもなかったしな』 「むぐぐぐぐっ……はぁ、また法師に叱られちゃうわね」 電話越しに依頼者の男性と携帯端末で会話する少女は、その肩を落として深いため息をついた。 正義の味方を自称するその少女は、実際には少女などではなくれっきとした成人だったりするのだが、そんなものは言われなければ気付かないだろう。それほど彼女は小柄だった。 依頼者は違法生物の販売経路を暴いていた過程で危険性の高い個体の存在を知り、その始末を彼女に依頼していた。だが彼女は余計な損害を大いに出してしまい、現在のところただ働きに近い状況である。 『ったく、ベルガーとしてはトップランカーに数えられるくせに、肝心なところでへましやがって……証拠を残すような真似してないだろうな?』 「しないわよ。空飛んで行って、空飛んで帰ってるんだもん」 『はぁ……どこから突っ込んだらいいんだか。もういい、お前とも長い付き合いだ。今回はちょっとだけ色つけてやるよ。いくら正義の味方でも、腹が減ってはなんとやらだ』 「オネガイシマス……」 情けない声でそれだけ絞り出した彼女は、通話を切って端末の画面をGPSモードに切り替える。 「そろそろ関西エリアを越えるわね。……って、アレ?法師からメール?」 珍しいと思いながらも、彼女はそのメールを読んだ。 日本の上空――高度約1000メートルを異能の力で飛行しながら。 |
もうほとんど日記の域。 いい加減投稿しろよとか言われそうだけどアビィ編だけ書き終わりたいと思って進めてたら、アビィ編の文字数が5万に届きそう。しかも書き直し前提の内容。 ※ ※ ※ 人通りの少ないアライバルエリアの住宅地付近。 そこは、2人のベルガーによって決闘場と化していた。 周囲の住民は警察に連絡しつつも家から一歩も出ず、対ベルガー防犯シャッターを閉めて室内で震える。そのシャッターを揺らすほどの振動が、街に響き渡った。 響く振動の正体は、吹き荒ぶ風と放たれる弾丸の二重奏。 互いに一歩も引くことなく、一方が発砲してはもう一方が躱し、一方が攻め込んではもう一方が躱す。 ベルガーの戦闘はこれほど熾烈なのかと思わせるほどに一進一退の戦闘が続いていた。 だが、その趨勢は明らかに空を支配する者――大風に偏りつつある。 すでにABチャフも無力化され、大風を縛るものは何もない。 解き放たれた風の化身は、衛相手にその力を存分に振るい、狩人のように容赦なく追い立てる。 「圧縮大気、解放(エミッション)」 ドウッ、と大風の手のひらに集められていた大気が圧から解放され、烈風が迸る。 直線状にいた衛が回避した場所に命中したその烈風は、道路わきの街路樹を平然とへし折り、奥にあった住宅の門を突き破った。人間に命中すればおそらく空高くに巻き上げられて落下しするか、壁にたたきつけられて死亡するだろう。 最悪の予想を顔色一つ変えずに回避した衛と同じように、大風も攻撃が外れたことに特別な感情はない。なぜなら、今はなったのは彼にとって単なる牽制に過ぎないのだから。 「解放(エミッション)」 避けた方角へ、大風が飛ぶ。 足の裏や腰を起点に圧縮した空気を噴出し、瞬間的にF1スポーツカー並みの速度を得ているのだ。 10メートルはあったはずの距離が一気に詰まる。 衛はその動きを予想していたとでもいうように冷静に霊素銃を構え、発砲。 直撃コースを辿る弾道はしかし、大風の飛来する軌道が突如として変化し、むなしく空を切って対向車線の家の壁を穿つだけに終わった。 (高速で移動しながら複数の空気の流れを作り、路線を切り替えるように自身の軌道を変化させているようだな。やはりまっとうに銃で撃ちあっては勝ち目がない) 常人を逸した段階まで強化した脚力を用いて真横へ跳ねるが、大風はその動きを追尾して体を回転させる。 「解放(エミッション)!」 足先、足首、膝、腰、肩を圧縮大気による噴射で的確に加速させ、回転と速度のすべてを踵に乗せる。 大風はそのギロチンのような蹴りを、瞬時に叩きつけるように放った。 「はぁああッ!!」 「――ッ!!」 跳躍時間に一瞬だけ生まれたその隙に、殺人的な威力の踵が衛の横腹へ叩き込まれた。 純粋に空力的に飛行している大風と跳躍しているだけの衛では空中の動きの自由度が変わってくる。その隙を、大風は的確に突いていた。 猛烈な衝撃に、衛の体が宙を浮いて真横に吹き飛び、街路樹に激突する。 「かはッ……!!ご、ぐぅぅ……!!」 「………あのタイミングでガードを間に合わせたか。まぁ、僕が認めた戦士なのだからそれぐらいはやってもらわねば……な」 「ぐっ……言って、くれるな。乙女の横っ腹に蹴りを叩き込んだ罪は重いぞ?」 「僕がいまさら罪を気にする人間に見えるか?」 踵が命中する寸前衛が腹と蹴りの間に肘を滑り込ませていたことに、当然ながら大風は気付いていた。恐らく跳躍した時には既にこの展開を読んでいたのかもしれない、と黙考する。 目の前で苦悶の表情を浮かべながらも、銃を油断なく握り敵から目を離そうとしない目の前の女。戦士としての場数の多さが痛みを凌駕しているのだろう。常人なら痛みに耐えきれずにその場でもがくか、力の差に絶望して戦意を喪失するところだ。 蹴った瞬間に感じたが、あの細身の体はあり得ないほどに鍛え上げられ、絞り込まれていた。 いや、あれは単純に鍛錬を積んだものの肉体ではない。あれは自身の筋肉をナノマシン管理の人工筋肉に置き換えたり、身体強化(ブーステッド)の類で筋肉を強化したような、通常の人間では持ちえない筋肉の『質』を持っている。 (だが、どれほどに肉体を強化しようとも、僕とお前とでは土俵が違う) お前は地を這う存在だが、こちらは空を舞う風そのもの。 確かに相手は油断のない人間だ。だが、ABチャフは大量に持っているわけでもないらしく、先ほどから使う様子も見せない。 戦士として相対した以上は背中を見せる気などないが、大風は既に勝敗の結果を予見していた。 (お前に勝ち目はないぞ、マモル。さあ、お前の戦士としての意地を見せてみろ。でなければ――お前は無様に負けるだけだ) 手持ち無沙汰気味の小刀を構えながら、大風は再び飛んだ。 (虎顎のエージェント……恐ろしいまでの速度と体術だ。あれだけの機動に振り回されない体捌きは見事としか言いようがないな。さて、どうするか) 樹木に激突した振動でダメージを受けた衛もまた、まっとうに戦えばこのまま敗北するであろうことは察しがついていた。 大風の機動力は凄まじく、こちらから攻めて勝ちを拾うのは困難だった。霊素銃を叩き込もうにも、彼自身この手の武器とのやり取りには慣れているのか隙を見せない。このまま彼のヒット&アウェイを受け続ければダメージばかりが蓄積し、致命の一撃を叩き込まれて行動不能にもされかねない。 それに、彼の気が変わればいつでもこちらを振り切って依頼主のほうへ向かえる。だからこそあまり時間をかけたくない。 幸い彼はABチャフを警戒してか大技は放ってこないらしい。それとも戦士としての矜持がそれを出し渋らせているのか。どちらにしろ衛にとってはありがたいことだ。 既に警察へ通報は行われたようだが、大風ほどの実力者が相手ではむしろ人数が増えることでより動きにくくなる可能性がある。そうなれば相手の思うつぼだ。 だからこそ、急いで決着をつけなければいけない。 だが、こんな状況下でも衛に焦りは存在しない。 再び空を飛んで襲い来る大風がまた掌から烈風を放つ。今回は一発ではなく複数だ。 姿勢を低くして疾走しながらそれを躱す。瞬間的にならば台風の風速を超えるその突風に、外に停めてあった自転車、ブロック塀、花壇などが次々に宙を舞う。まるで空気の爆撃だった。 その爆風に晒されながら、衛は静かに霊素銃に装着されたアタッチメントをアクティブにし、大風のインファイトを再び迎え撃つ。 今度は蹴りではなく右手に握られた小刀。肘を起点に噴出された大気によって加速され、かまいたちのような刃が頬を掠る。刃の先端が音速を超えたのか、衝撃波で予想以上に頬の傷が深い。 だが、その瞬間に大風は勝負の決着を確信した。 「この勝負、俺が貰ったッ!!」 同時に、もう一方の左拳が開かれる。 目に入りやすい刃をおとりに、本命の圧縮空気を叩き込む。とてもシンプルで、確実な手段。 左の拳にため込まれた圧縮大気が、拳によって間合いが詰まった隙を逃すまいと衛の胸元に強引に押し当てられた。 大風にとってはこちらこそが本命。命中するかどうかわからない突風よりも確実に相手を仕留めるならば、これが最も手っ取り早い。 もはや衛にその風を回避する手段は存在しなかった。 |
BDFFでいい加減パーティメンバーのレベルがカンストしそう。 なのにまだ7,8、最終章に辿り着いてない。 24日になってようやく書いた。 ※ ※ ※ 「わかった!もういい!もういいからその説明をやめてくれ!」 「あー、とにかくあれです。多分あれと関係あるんじゃないかなってことで、ね?」 具体的な話ならば誰よりも饒舌に語る癖に、人が説明出来て当たり前に事は抽象的な言葉ばかりを使う。異能課にいて最も会話に困難な男に、難儀な奴だと周囲はため息をついた。 「ABIE……アビー……それでアビィと呼ばれていたのか。得心した。これが例の少女を監禁していた理由という訳だ」 「でもあれなんっすよねー。そうなると辻褄があれでして……やっべーっすよ先輩」 「……なにが!どう!あれなんだ!?論理立てて喋れ!!いいか……より簡潔に、短くだ!!」 割と神経質である水無月の血圧は今日も高い。どこか飄々としている吉田とは対照的なこの男が、実は吉田を異能課にスカウトした張本人だというのだから世の中は面白い。 そしてこの吉田という男、念を押されても結局話は長くなるが、対話という形ならば割としっかり会話ができる。……少々遠回しな言い方に変化するが。 「先輩、人の死の定義って何だと思います?」 「それは……一般的には心臓の停止、若しくは脳の活動の停止だろう」 「そうっすね。昔も今も、どっちが正しいと言う決着はついていません。どっちにもなりうるものっすから。例え心臓が動いていても脳の活動が止まっていれば。心臓の鼓動と脳の活動の維持は直結している以上、二つの間には切り離せない因果関係がある。しかしこの資料によると研究を行っていた連中はそこから一歩踏み出した方向へ方針を進めたようです」 「それで、結局吉田は何が言いたいんでシか?」 焦れた玉木の言葉を拾うように、饒舌になった吉田が言う。 「ABIEシステムは生きたベルガーを利用した生体兵器の開発、若しくは異能の組み込みを前提とした全く新しい兵器のインターフェイス作成を主眼としていると仮定します。そして異能はベルガー本人の意思でしか発動できない。でも、そうなると本人の意志や感情に左右され、安定した力は発揮できない」 ベルガーの能力は原則、異能を持った本人にしか行使できない。 この前提があるからこそ、ベルガーに対する人体実験の類は殆どが初期段階でとん挫した。 洗脳、薬物による判断能力の低下は全てが異能の能力強度をがた落ちさせ、脳の活動が低下した脳死状態のベルガーは何の実験を施しても普通の人間となんら違いがない。 結局、それらの実験も人権を確実なものにしたベルガー性質の手によって徹底的に弾劾され、検挙されていった。今でもベルガーにこのような実験をしていたという負の歴史を恨み、反社会的な活動を続ける過激派ベルガー集団も存在する。 そして、その反社会的な実験を未だに行なっていた存在。それが、虎顎だった。 「彼らはその発動を機械的に乗っ取って自分たちの発した信号をあたかもベルガーが本心で発信したかのように見せかけること……いや、ベルガーの脳に事実を誤認させる技術に最も心血を注いだようです。その為のナノマシン、そしてその結果、彼らが出した結論――それこそ、アビィちゃんとやらが『殺される』と思い込んだ理由に繋がると思うのです」 「で、その結論ってぇ?」 「はっきり言ってしまえば、彼らはこう考えたのです」 淡々と語る吉田の目はどこか冷たくて、虚しさを感じさせる。 熱の完全に引いた声色で、やはり淡々と、告げる。 「脳の活動『のみ』を維持できる機械にベルガーの脳髄だけを放り込み、自己判断も出来なくなったそれに仮想的な現実世界と肉体を与え、今までの洗脳用ノウハウをて利用すれば異能は発動する。つまり――連中が欲しいのはあくまでアビィの脳髄だけなんですよ。体はどうでもいいんです」 そのおぞましい思想に外気が凍りついたような錯覚を覚える。 唯一霧埼だけはさほど動揺してもいないが、同じ人間である筈のベルガーをそうまでして利用したいのか、という嫌悪感だけは全員に共通していた。 「悪魔の研究、と言うべきっすかね。その類です」 「ノウハウってぇ――今まで本気の人体実験やってたってことぉ……日本でぇ?」 「うん。あいつらの本土に比べればよほどやりやすかったと思うよ。脳の操作関連の研究は、例の地下施設で全部行ってたみたいだよ?研究所の規模的に苦しくなったこと、表向きの会社で十分にカネが集まったことが重なってお引越ししてきたのがここみたいだ」 つまり――虎顎は昔からABIEシステムの開発の為に多くの人体実験を行っていた。 そして様々な議論を重ね、データを集めた結果、ベルガーの脳髄だけを生きた状態に維持すればABIEシステムの最終目的に近づくと判断した連中は、その頃の研究所が手狭になって地下室の存在を隠匿し、所持していた研究資料や機材は使える物だけ持ち出し、あとは足がつきそうな証拠を隠滅した。 「証拠を、隠滅……普通ならリスクの大きい遺体処理も、一部の異能者ならば証拠を残さず消せる……ベルガーにベルガーの後始末をさせたに違いないでシ。……イカれてまシ」 「あいつら、一体何年前から我等の足の下でこんな……このような!」 「でも実はこの話、続きがあるっす」 厄介なことになった、と言わんばかりに目頭を押さえ、吉田は資料を水無月に渡す。 「システムは完成した。あとは素体を入れるだけ……これ、昨日の資料です。連中、もうシステムを完成させて公安とのごたごたの隙に逃げ出してる!虎顎のベルガー部隊は全部アビィちゃんの回収に向かっていますよ!!」 = = = 「もう少し兵隊を集めたかったのですが、『子供たち』をあまり大勢連れていなかったのは失敗でしたねぇ。先行した2人も含めてたった16人ですか……まぁ、いいでしょう。それでも今の私にとっては心強い味方です」 周囲を見渡した初老の男は、それもよきかなと柔和なほほえみで周囲を見渡す。 並ぶのは彼の私兵、彼の忠実なしもべ、そして彼の子供たち。 その年齢は高いもので30代、若いものでは10代の者さえいる。 彼らの中には実験の素体とされたものも存在する。 実験の痕が体に残っている者もいるし、親友が彼の命令で命を散らした者もいる。 だが彼らは男に従っている。 あくまでも自分の意志であり、そこには男の化け物染みた戦闘能力に対する敬服はあれど畏怖はない。男を本気で敬愛し、自ら望んで付き従っているのだ。 「では、みんな頼むよ。君たちならきっとできるとは思っていますが、気を付けるのですよ?アビィの奪還には成功しても失敗しても……必ず生きて帰ってきなさい」 「我知道了!」 「我知道了!」 「我知道了!」 了承の意を示した若きエージェントたちは次々にその場を離れ、空間転移(テレポート)を使用するベルガーとともにアイテール光のなかに消えた。 男はそれを笑顔で送り出す。自分の子供を学校に送り出すような父性を感じさせる笑みだった。 彼はそういう男だった。 いまだに能力の制御がへたくそで、抑制した意識を破壊という形でむき出しにもするが、本質的に彼は愛を重んじ調和を重んじる。研究者気質で自己管理がなっていないと子供に怒られて落ち込んだりもするし、戦えなくなった者に対するいたわりもある。 おおよそ犯罪組織の幹部にはふさわしくないと思える人間だ。 しかし、そんな男がただ一つ狂気を抱いているのだとしたら――それは、『しあわせ』の意味。 「アビィもそんなに怖がらなくともいいだろうに……ただ君の生きる世界が『物質』から『情報』へと変わるだけなのに」 それがさしたる問題もないことであるように、初老の男は不思議そうに首を傾げた。 |
何を持って行かれたって……自転車のサドルですよ。 ご丁寧に抜き取った後の穴にゴミまで詰めていくんだからため息が出ます。近所の修理屋的な所に行ってサドルだけ買いました。お代は300円。取られた時間はプライスレス。気分はほんのりマリッジブルーです。 正直怒るより呆れましたけど。こんな阿呆な悪戯する悪餓鬼が……そういえばうちの近所には悪餓鬼が結構いました。これはしたり。 ちなみに診断メーカーによると、私が禁忌を冒したら代償としてシャネルの品全部とツイッターのアカウントを持って行かれるそうです。どっちも持ってないんですけどね。 |
SAO二次のオリキャラの強さ発表が流行ってるらしいじゃないですか。ここは流行に乗って(?)私もウチの子のを発表しなければ……ええと、SAOクリア時のブルハの戦闘能力は……。 ブルハ(クリア時)<コペルとかディアベルとか(死亡時)<<<ロザリアらへん<<<<<<キリト うん、会心の出来だ。 ……推定百数名の読者からは「知ってた」って言われるような気がするけど。 |
誰が読んでいるか確認すら取れない小説を呟きに投稿する。 これを読んでる人がいるかもしれないし、誰も読んでないかもしれない。その真偽を確かめたいようで、だが確かめなくてもいいやと思っている自分がそれを押し止める。 その狭間のギリギリ感が、いいのです。 |
終わらないブレイブリーなデフォルト、一向に進まないエピソードデルタ。 とりあえず今日はカミイズミ先生の生存ルートに辿り着いたので、明日はレックウザ捕まえたいです。 ついでに我が家の家電に加湿器追加。これ、部屋は潤ってるのか……?水蒸気の落下先は湿気を吸い込んでないようなので多分効果はあるけど。 ※ ※ ※ 車は橋の中腹までたどり着く。モノレール駅までは間もなくだ。 「ねえ、BF。海と空の間に出来てる線はなんていうの?」 「それは『水平線』だな。ちなみに大地と空の間だと『地平線』」 「ふ~ん……じゃあ、さっきから海が盛り上がって上へのぼってるのはなんていうの?」 「………海が、上る?」 一瞬、いったいアビィが何を言っているのか理解しかねた法師はつい海の方を見て――絶句した。 橋の左右にある海水がひとりでに動き、そこだけ重力が反転しているかのように空へのぼる滝が形成されている。 「待てよおい……こんなダイナミックな交通規制初めて見たぞ?」 「これは、海水が集まって橋を……!?いったいどれほどの水をかき集めて来たのか計算してみたくなるな」 「一人でやってろ!それよりも洒落にならんぞあれは!?」 のぼった水は丁度法師たちの進行方向へ流れて行き、橋の全てを封鎖する『水の壁』が出現した。 既にその海流に巻き込まれた数台の車が海水に突っ込み、推進力を失って水の壁に閉じ込められた。運転手はパニックになって車のドアを開けようとするが、水圧に押されてびくともしなかった。10トントラックでさえもアッサリと呑み込んだその海水の壁は、うねりながら少しずつ前進していた。 奥行きは10メートル近くあるだろうか。高さも目算では10メートルほど。 膨大な体積の水が、何者かの意志によって形成されているという事実は疑う余地もない。 咄嗟にブレーキを踏んで停止する。他の車の乗客たちも車を止めて行ったが、まずいことに車を置いて逃げ出してしまった。前後に停止した車があるため、自然とこちらの車が道路に閉じ込められる。 「……やられた!水流操作系のベルガーか!このままだと車ごと攫われちまう!」 「どうする、俺?」 BFが、こちらが少し腹が立つほどに冷静な面を下げて判断を促してくる。 水流操作系の能力者というのは様々なタイプがいる。 大気中の水分をかき集めて疑似的なアイテール流体を作り出す奴もいれば、ペットボトルの水を操って鞭のように使う奴もいる。今回の相手は恐らく戦闘の際には常に水場を意識しながら行動するタイプだろう。 このタイプの恐ろしい所は、人間では受け止めきれないほどの膨大な質量を全面的に味方につけられることだ。相手に攻撃する水も、動きを封じたり捕獲する水もほぼ無制限に使い放題。高圧水流を矢継ぎ早に飛ばせば弾幕になり、水のドームでも使って籠城すれば攻め込むのも難しい。それでいて水流を相手に纏わせて動きを封じる事も出来る。 相手が素人ならどうとでもなるが、今回に限ってそれはあり得ない。 そもそも、この橋は現在の海面より30メートルは上にある。それほどに離れた距離にある海水を橋上に移動させるには、いくら水流操作系の能力とは言えど10年単位の練習が必要になるだろう。 それをこうもあっさりと行っているのだ。 素人である筈が無かった。おそらくは虎顎のエージェントだろう。 「いざとなれば『あれ』を使うという手段はあるが、相手が水流操作系のベルガーなら悪手になりうる。衛を信じて引き返すのも手だぞ?」 「分かってるよ!くそっ……ああもでかい壁を作られちゃまともな方法での突破は無理だ!それにベルガー本人は恐らくあの壁の向こう側にいる。お前にアビィを預けて敵をブッとばすにしても距離が――」 不意に、ポケットに放り込んでいた携帯端末が電子音を鳴らした。 電話だ。発信元は――ティアからだ。 反射的にポケットから端末を抜き取り、通話ボタンを押し込む。 「もしもし、ティアか?今どこにいる?」 『うん!あのね法師?わたし、今橋の上にいるんだけど……黒いコートを着た人が異能で道を塞いじゃってて合流が難しそうなの。ひょっとしてあの黒い人が依頼者の敵なんじゃないかな?』 「ティア、今すぐそいつをぶちのめせるか!?そいつのせいでこっちは駅に行けずに困ってるんだ!」 『……わかった!無力化を最優先だね!』 普通ならばもう少し言葉を交わす場面かも知れないが、法師は時間がない事で焦っていることをティアならば分かってくれると考えている。そしてティアもまた法師が事情を理解してほしいであろうことを理解している。 だから2人の間にそれ以上の意思疎通は必要なかった。 「よし!ティアなら水流操作系の異能と相性抜群だ!思った以上に早く埒があきそうだぜ!」 停止することを許されない状況は、動き続ける。 = = 株式会社『ボーンラッシュ』はその日、社の創設以来最悪の事態に見舞われていた。 公安警察と異能課警察のほぼ同時踏込と、まさかの一部社員による威力妨害。 そしてこの騒ぎに乗じて、社の幹部数名が忽然と姿を消したことによって、この会社は事実上の廃業を余儀なくされることになるだろう。 そんな人の不幸を尻に敷きながら、異能課の面々は公安五課より先に会社の地下室へと入り込み、様々な資料を発見していた。 「こいつは……あれっすね。あれですあれ……あの……とにかくヤバイあれっす」 「おい、誰かこの頭の悪そうな男を現場からつまみ出せ。鬱陶しいを通り過ぎて殺意が湧いてきた」 「まぁまぁ水無月くぅん。吉田くんだってぇ、ボキャブラリーが果てしなく乏しいだけでちゃんと資料の内容は理解してるのよぉ?」 「言葉で説明できなきゃ分かってないのと同じでシ。報告書が書けるのに口頭報告の出来ない奴なんてお前ぐらいっシ」 あれとヤバイ以外にこれといって意味のある言葉を喋らなかった男は吉田巡査部長。それに怒った短気な男が水無月警部補。フォローしたのは何だかんだで面倒見のいい霧埼だ。なお、独特の息の吐き方でやたらシが目立つのは玉木巡査である。 他にも数名が資料や物品の回収捜査を続けている。 「で、結局なんだったんでシか?」 「うん、あれあれ。具体的に言えば、これはベルガーの持つメヘラ因子をオキソデポリシンやニクレミン等の薬物で刺激することによって疑似的にアイテール収束と定義付けをコントロールし尚且つプログラミング的な方法によって機械的に具現化させるいわば『異能を使う機械』であってこれを連中は総称『ABIEシステム』と呼称していたようですよ。この資料の部分では異能者の脳内にインプラントなどの器具を取り付けて施術する方法による実験結果を報告するもので報告によると脳内の電気信号と最新の超小型非ノイマン型光回路を脳細胞と接続させるために培養した疑似ニューロン神経を――」 「わかった!もういい!もういいからその説明をやめてくれ!」 「あー、とにかくあれです。多分あれと関係あるんじゃないかなってことで、ね?」 具体的な話ならば誰よりも饒舌に語る癖に、人が説明出来て当たり前に事は抽象的な言葉ばかりを使う。異能課にいて最も会話に困難な男に、難儀な奴だと周囲はため息をついた。 |
超高校級の実況中継者っていう奴を追加しましてね。起こった出来事を事細かに自前のマイクを使って実況するんですよ。 霧切さん以上に何所にいるか分かんない奴でして、殺人が起こりそうな予感を察知するとそっちに向かい、被害者か加害者の様子を延々と実況し続けるんです。 『さあ、今日は深夜遅くに動き回っている桑田君の姿を追おうと思います!桑田君、今日の意気込みは?』 『あっとぉ!?倒れた筈の山田くんが起き上がったー!これはどうやら死んだふりをしていたようです!これは驚きです!』 『あ、出てきました!モノクマです!何やら霊安室から遺体を取り出したようですが、いったい何に使う気なのでしょうか……追跡してみたいと思います!』 ってな感じでミステリー殺しを連発。しかも常に動き回っているので殺すターゲットとしてもやりにくい。しかも本人たちの真横で熱く実況するものだから殺しの必須条件を常に満たせないし、いざ襲おうとすると全力で実況している所為でみんな騒ぎに気付くという迷惑っぷり。 ただ、これやると話が進まないのでボツりました。 |
スピードワゴンの小沢かスリムクラブのフランチェンの方、若しくは矢尾一樹さんみたいな声しか出なくなってきたので病院行って薬貰いました。今では裏声があとちょっとで出そうな程度にまで回復しました。 最近こんなのばかり書いて小説投稿してない。 ※ ※ ※ 基本的に彼の事務所のメンバーは個人で仕事を拾うことが多い。 ティアは容姿の美しさから、衛はその家柄と実績から。今は遠出している残りの二人もそれぞれ単独で仕事を拾うことが多い。 そして彼らが事務所を空けている間、ずっと留守しながら算盤を弾いてはため息を漏らすのが法師の仕事だった。 しかし、大きな仕事や厄介な仕事になると、彼らも単独での解決は難しいと判断して事務所に持って帰る。その際に司令塔として働くことになるのが法師だ。 同時存在(バイロケーション)による素早い情報収集と状況判断は指示を飛ばす側にもってこいであり、何より信用と信頼がある。 というか、癖のある事務所メンバーの手綱を引いてちゃんと指示を飛ばせる人間自体が稀有である。 (事務所の方の追手は既に衛が足止めしてる。出来れば倒してほしい所だな) 状況は現在も進行中。 仕える手駒が少ないが、乗りきれないほど難所じゃない。 衛に後ろは任せたとして、問題は正面にある。 (ティアが移動中……できれば合流したいな。モノレール周辺、やっぱり怪しいお兄さんたちがいるみたいだし) 自分の能力を卑下する訳ではないが、アビィを守りながらそれらの追手を追い払うのは少々厳しい。 BFは戦闘能力を持ってはいるものの、圧倒的に脆い。数発殴られただけでも崩壊する。作り出すBFにありったけのアイテールを注ぎ込めば強くも出来るが、そもそも銃を所持しているかもしれない大人数を相手に徒手空拳だけで挑むなど無謀極まりない。 だからティアとは是非とも合流したいのだが……と、法師は不意に自分の周囲に不自然なアイテールの流れがあるのを感じた。 流れの正体は直ぐに判明する。自分の背後から流れを感じたからだ。 「こらアビィ。人が考え事をしてる時に横から意識を覗くのはよくないぞ?」 「ご、ごめん……なさい。つい癖で」 「敬語、使いにくいならしなくていいよ。それで、何で覗いたんだい?」 「ノリカズならあの青い絨毯みたいなののこと知ってるかなって」 「青い絨毯?」 そんなものはこの周辺には存在しない筈だが。 この辺りで見える青いものと言ったら空か、この辺りからよく見えるようになる海くらいしか―― 「ウミ……あれが海なんだ!なんだか光ってて綺麗……白い線が動いてて、まるで生物みたい」 「あー……海の事も知らなかったか」 車が橋の上に乗る。 数年前に出来たかなり大きな橋であり、今まではモノレール駅までたどり着くために海岸線を大回りしなければいけなかった道を直通に変えたものだ。待ち伏せの可能性もあるが、橋以外の道は渋滞に捕まるリスクが高すぎて止めた。 アビィは真横にまで近づいた人生で初めての海がよほど気になるのか窓に張り付いて外を眺めている。彼女の言う白い線というのは恐らく波の事だろう。行き交う車にも目移りしていた彼女の興味は、既に海へと完全に傾いていた。 「海についてはどれくらい知ってるんだ?」 「わかんない。時々、大人が『海の向こう』とか『海の底』とか言ってたけど、魚っていう生き物が住んでることくらいしか分からなかった」 海の事を知らない人生など、法師には考えも及ばない。 彼女の口ぶりでは、海が水で構成されているという事実さえ知らない可能性がある。川や湖は知ってるだろうか。池やプールの意味は。魚のことを見たことはあるのか―― 彼女は一体どれほど知るべきことを知らずにいたのだろうか。 それを考えると、一刻も早くこの少女を閉じ込めていた環境を取り払ってやりたくなる。 大蔵さんが上手くやっていれば後顧の憂いも断てるかもしれない。 そうすれば彼女も人並みにいろんなことを勉強し、体感できるはずだ。 「なら今回の件がひと段落したら行ってみるか?今日は無理だがそのうちな」 「本当!?約束だからね、ノリカズ!嘘ついてない!?」 次の瞬間、アビィは問答無用で意識結合(ユナイテッド)を実行した。法師は短い間、アビィと再び意識を共有した。 能力を使い慣れているというか、アビィは法師が彼女が分から発信された情報を具体的に読み取る前に自分の欲しい情報を拾って満足したらしく、直ぐに能力を切断した。 「嘘じゃないんだね!」 嬉しそうにぱっと顔を輝かせるアビィだが――今、ものすごく危ない事をしたことは自覚していないだろう。 結合解除と同時に法師はハンドルを取り直して彼女を叱責した。 「嘘じゃないのはいいけど、車の運転中に意識結合しちゃ駄目っ!!いますっごく危なかったから!!分かった!?」 「え……?」 彼女は車の運転という行為を軽く考えていたのかもしれない。 その危険性を知らないがゆえにあんなことが出来たのだ。 意識結合を使用中は、思考が共有される。 しかし結合中は基本的に神経が肉体より精神に重点的に向く為、肉体の動きが鈍くなるのが普通だ。咲くほどの彼女の結合はかなり強く、法師は一瞬ハンドルを取る手と視界がゼロに近づいていた。 それは運転中に急に目隠しをされるようなもの。 控えていたBFが慌ててハンドルを取ってくれなければ事故になってもおかしくなかったのだ。 「わ、わたし悪いことしたの?」 突然の叱責にアビィは完全に狼狽えていた。 何所に向けていいのかも分からない手をおろおろ動かして一種のパニック状態になっている。 アビィとしては、さっきまで仲の良かった友達が突然怒ってしまい、その訳が分からないという状態だろう。 やはり、精神的にはかなり未熟だ――と法師はため息をついた。 「した!何で悪いのかは後で説明してあげるけど、いくら気を許してるからってそんなに気軽に異能を使っちゃ駄目!……いいね?今のは俺もアビィも両方が危なかったんだ。もどかしいかもしれないけど、今は言葉だけで確かめてくれ」 「……………」 しゅんと肩を縮ませて無言で首肯したアビィは、酷く沈んだ顔で窓の外へ頭を向けた。 抱く感情は落胆か、それとも失望だろうか。こうも落ち込まれるとこちらが悪い事をしてしまったかのような錯覚に陥ってしまう。 嫌われていなければいいが――そう内心で呟いた法師に、アビィから再び声がかかった。 「ノリカズ」 「なんだい?」 「……ごめんなさい」 「……こっちも怒鳴って悪かったよ。BFにしっかり説明させるとか他の方法があったのにな」 自分は想像以上に子供の相手をするのに向いていないのかもしれない。未熟な精神とやらは人のことを言えないか、と苦笑した。 「お呼びかな、俺?さっきは俺がそれを望んでいなかったから何も言わなかったが、俺ならば今からでも何の問題もなく彼女に事情を説明し、なおかつ落ち込ませないようにやんわり注意して見せよう!」 「それは俺に対する嫌味かあてつけなのか!?やっぱりお前は黙ってすっこんでろ!」 「………くすっ」 アビィに笑われた。 少々恥ずかしい気分になったが、これもBFのせいだと思う事にしておく。 車は橋の中腹までたどり着く。モノレール駅までは間もなくだ。 |
風邪のせいで悪くなった喉が治らなくてイライラする……薬用ドロップが苦い。寝不足。 こんな時は何かをぶちのめすに限る。 ※ ※ ※ 雪は、その冷気ゆえに命を凍てつかせる。 生きとし生ける者なら持っているであろう肉体、その半分以上を占める水分をを凍りつかせる。 それこそは死と同意義であり、雪は風に乗ってそれを容易に生物に齎しうる。 だから生物は寒きを嫌い、雪風を嫌って穴倉に籠る。そうして森からは生の気配が消える。 ほんの一部の動物たちの息遣いと雪のばさりと落下する音だけが銀表の世界に響く美しき森――その森に、大きな振動が響く。 ――巨人。 足の一歩を踏み出すたびに地ならしを起こしながら、巨人が歩く。 その足は山岳を悠々と走破し、巨岩をいともたやすく砕き、高い木々さえ藁のように押し倒す。 余りにも巨大なその身体は、ゆうに民家の10倍以上、城壁にも達しようという高さにも上っていた。 肌はまるで墨で構成されているかのように黒く、胸や腰など体の要所にはまるで鎧のように分厚い殻で覆われる。関節部分はその黒が剥がれて内側に秘めるマグマの様な灼熱が垣間見えていた。 そう、巨人は炎を内に宿していた。 巨人の周囲は一面が雪に覆われた氷雪と生死の世界。だが、巨人の灼熱を冷ますには到底足りるものではない。巨人が足を踏みしめたあとは、雪ごと大地が焼け爛れ、硝子の足跡が永久凍土に刻まれていく。 その足が、不意に止まる。 「何者だ、貴様」 鋭く、美しい音色。 白い衣を実に纏い、雪に融けて消えそうなほどに儚く可憐な姿に反し、声から感じられるのは絶対的な存在感。 横一文字に閉じられたままの巨人の真正面に、それは立ちはだかった。 「ここが妾の国であることを知ってここまで土足で入り込んだのか?我が『エドマ』の地に」 『……………』 巨人の目線の高さにまで高く形成された氷柱の頂点から見下ろす女性が、見下ろされるはずの巨人を不遜に見下ろしていた。 氷雪と見まごうほどに透明度の高い長い白髪を風に委ねるその女性は、少女というには大きく、しかし大人の女と呼ぶには少々幼い顔立ちをしている。だが、巨人をねめつけるその瞳からは、か弱さや儚さを感じ取れない強固な自我を宿していた。 ヒトの女性としては長身であるものの、巨人にとってはそんなもの背伸び程度の違いもない。 ただ、目の前に意思疎通が可能な「敵」が現れた。巨人が抱いた認識はただそれだけだった。 巨人は「母なるもの」に肉体を、魂を、知恵を与えられた者――魔物を総べる魔将のひとりだった。 そして魔物と魔将はその本能に、人間と闘争を行い続けることを刻印づけられている。 つまり、巨人がこのエドマと呼ばれる地に入り込んだのは決して偶然でもなんでもない。 「私の国に何の用だ」 『……潰シ…ニ、来タ……』 口からもうもうと火花と煙を吐き出しながら、巨人は挨拶でもするように緩慢とした声で返事を返した。 巨人はただ単に母の役に立つために、この先にあるであろうヒトの住処を蹂躙し、女子供を踏み潰し、戦士を殴殺し、災禍と悲劇を撒き散らしに来た。巨人にしてみれば、ただそれだけのことだった。 女はさして驚いた様子も見せず、ふんと鼻を鳴らす。 「愚鈍なだけのウドの大木かと思えば、貴様『魔将』か?呆れたでかさ、であるな。部下はいないのか?」 『……居ラヌ…ドウセ…気付、カヌウチ……ニ、縊リ、殺ス…ダケ、ダ……』 どうせ魔物を引き連れたところで誤って踏み潰す。ヒト里を襲わせた所で、後から来た巨人の拳に巻き込まれて人知れず死ぬ。そして仮に生き残ったところで、巨人の移動速度にはどうせついて来られない。 一人にして全ての将。それが灼熱の巨人だった。 果たして巨人の拳の一振りで、脚の振り下ろしで、一体どれほどのヒトの命を狩れるだろうか。 体より漏れる灼熱にどれほどの命が焼かれるだろうか。 一夜にして国を日の海に変えることさえも造作ないであろう、絶望的なまでの力。 故に必要がない。 だが―― 「妾もだ。貴様のような愚鈍な輩と気が合うというのも気に食わんが、な」 『……………』 見栄を張る風でもなく、女も平然とそう言い放った。 それが当然であるとでも言うように。 お前の出来ることなど自分も出来ると鼻で笑うように。 はったりの粋を超えた圧倒的な現実味と、その言葉を疑いたくなる理性的な不合理を同時に内包した言葉。しかし巨人の心の天秤はそのどちらにも傾かず、それ以上女に構う暇はないとでも言うように再び足を運びだした。 女が戦うなら、殺せばいい。 はったりであったのならば、殺せばいい。 どちらにしろ、巨人はこの先にある町を潰す。それだけだ。 足元は既に高熱で周囲の氷と永久凍土が融けたせいでぬかるみになりつつあり、蒸発する水分に水を足すように周囲の雪解け水が流れ込んで大量の蒸気が吹き上げていた。巨人はそのまま足を進め―― 「待たぬか、不遜者めが」 不意に、巨人は自分の身体の全てを覆うほどの影が周囲に出来ていることに気付いた。 影の正体を見定めるようにその顔を上げた巨人の眼前に広がっていたもの。 それは―― 「エドマの領地を踏み鳴らした挙句に第四皇女たる妾を無視とは――図が高いぞ」 『……………!!!』 巨人は、一瞬目の前の光景を疑った。 言葉にして説明するのならば、「氷山」と呼ぶにふさわしい、巨人の身体と同程度の質量はあろうかという――余りにも巨大な氷塊だった。 ――Ⅴ(クィンクェ)の神秘術。 クィンクェとはこの世界に置いて水の流動属性を表す理。 巨人が身に宿すⅠ(ウーヌス)――炎の理の正反対に位置する属性数。 あれは、間違いなくその神秘術によって形成されたものだ。 大気中に溢れる神秘に属性を付与し、大気中の水分と掛け合わせて莫大な質量の氷塊を虚空に形成していたのだ。巨人と会話しながら、平然と。 これを、目の前のちっぽけな女がたった一人で形成した――? あれを維持するのにどれほど膨大な神秘をコントロールする必要があるというのか。 神秘を内部に循環させる巨人と違い、あれは放出した神秘によって形成された大質量だ。 最早、ただのヒトの女が形成できる神秘の量を大幅に越え――魔将と同位にまで達しているとしか考えられない。例え目の前の女がクィンクェの属性数を得意としているとしても、巨人の身体にも並ぶほどの大規模神秘術など、あり得なかった。 「跪け、愚昧が」 女のガラス細工のように繊細な指先がすっと氷塊を指し、そのまま振り下ろすように巨人に向ける。 瞬間、大気を押しのけてごうごうと風切り音を立てる氷塊が、その膨大な質量を持って巨人の頭上に直撃した。 『……ゴ…ア、ァ……ッ!?』 重力加速と純粋な重量の重ねがけが齎した運動エネルギーに、巨人の口から苦悶の声が漏れる。 巨人の身体さえも震える程の衝撃と重量が巨人の頭部の表皮をかち割り、中から血液のようにマグマ染みた炎が噴出した。 同時に首、腰、膝と全身の負担がかかった場所に次々亀裂が入り、同じように紅蓮の炎が噴出。巨人の身体はゆっくりと、だが確実に氷塊の一撃によって傾いた。 が。 『ア……ハ、ハ……融、ケロ!燃エロ……!!』 「暑苦しい輩め……これでも倒れぬか」 噴出した炎が、氷塊を融かしていく。 骨どころか魂までもを融解させそうな灼熱が、氷塊だけでなく周囲の森や山そのものを焼くほどにそれは熱く猛り、女性もその熱に顔をしかめた。 巨人はぐらつく体を踏み止めながら、ゆっくりと顔を氷塊から押し上げ、両手で氷塊を抱きかかえた。耳を劈くほどの蒸発音を立てて、小山ほどもあろうかという氷塊が音を立てて縮む。 『俺ハ、魔将…!…魔将……スルト、ル……雪遊ビ、デ、ハ……我ガ、勇猛ナル…焔、ヲ、止メラレヌ……ゥゥ!!』 口から火山の火口のような灼熱を吐きだした巨人は、その氷の塊を砕いた。 神の鉄槌にすら見えた大質量さえも焼く、地獄の業火の化身。 鬼か、悪魔か、将又それは最早神と恐れるべきなのか。 ヒト一人が覆せる力を凌駕した最強にして最悪の魔物。 それを打倒しうる存在がいるとすれば、それはやはり、神か悪魔に相違ない。 「ほう。ほうほう……ほほう!?倒れぬ、倒れぬか!良きかな良きかな、いいぞでくのぼう!実によい余興である!」 女の顔が、喜色で弾ける。 まるで新しい玩具を試したくてしょうがない子供のように目を煌めかせた女性の身体が、氷を蹴って更に高く舞い上がる。 その頭髪の隙間から出ずる、耳。 腰から延びる、美しい純白の尾。 そして骨の髄まで噛み砕かんとする牙が、めきめきと反り出す。 そして、その双眸からは――黄金の光が漏れる。 その国に住まうものならば、その意味を理解できたろう。 黄金の瞳とは、この国で「白狼の一族」と呼ばれる王族の証であるのだから。 そして「白狼の一族」は先祖代々から、ある仇名で呼ばれている。 「――今まで妾には遊び相手がおらなんだ!なにせ本気でこの手を振るえば『国ごと砕けてしまう』が故にな!!」 王となれるのは、一人でエドマという国を相手に出来る実力を持った者のみ。 故に仇名は――「国潰し」。 = = 「――ま。――オさま。――ネスキオさま?お客さんですよ?」 「む……女王陛下と呼べ」 うたた寝から現世へ女性――ネスキオの意識を引き戻したのは、侍女のフラッペだった。 気だるげに体を起こしつつ、見ていた夢の内容を思い出してニヤニヤと笑う。 ――アレとの喧嘩は、実に楽しかった。人生でもう2度とあれほどの喧嘩は出来まい。 もしも旧友たちが本気で自分と敵対したならば可能性は無でもないが、可能性がありそうなのは行方不明中のブラッドリーとルードヴィヒくらいのものだろう。 「……して、誰が来たと?」 「はぁ……鬼儺(おにやらい)と名乗っておりますが……」 「お?その客は黒ずくめのわっぱであったか?」 「ええ……」 「なんと!」 エドマ氷国連合の盟主であるネスキオに謁見の申し込みもなく現れ、鬼儺を名乗る黒ずくめの子供などネスキオはたった一人しか知らない。 最近はすっかり宮殿に姿を見せなかったが、過去の夢は旧友来訪の兆しであったようだ。寝ぼけ眼もすっかり冷めたネスキオはまるで子供のようにウキウキしながら体を起こす。 「先の夢は吉兆の知らせであったか!!ささ、急いで坊を連れてまいれ!!」 「あのーネスキオさま。私、その『坊』さまの事を知らぬのですが……」 「おお、そういえばおんしはあの頃まだ乳飲み子であったのう?ほれ、あれの事は知っておろう?」 ネスキオが指さした窓の外を見たフラッペは、町の向こうに見える巨大な氷の塊を見て頷く。 「確か30年前、ネスキオさまが連合盟主に即位される切っ掛けになった戦いの残りですよね?国潰しの炎の巨人を打ち払ったという――」 「うむ。あの戦いを見て当時の退魔連合が協力要請を送ってきたときに、使者としてきたのが坊なのだ。懐かしいのう……あの氷槌、30年経ってもまだ融けんのは不思議じゃ」 「ああ、それは女王の親衛隊が住み込みで融けぬよう維持しているからだそうですが」 「………初耳なのだが!?」 山を越えても尚目につく、永久凍土に突き刺さった戦いの残滓。 世界最南端に連なる永久凍土の山脈――その全てを支配するエドマ氷国連合盟主。 化物より化物らしき、『白狼』の王族に生まれし女帝。 彼女の住む城よりも巨大なその「氷槌」の下に、最悪の魔将スルトルの亡骸がいまだに眠っている。 というわけで、いつぞや書いた黒翼のショタと同じ世界の話です。 一応私の脳味噌の中ではクロエの話もネスキオの話も主軸ストーリーの30年以上前に起きた出来事ですし、2人とも主役ではありません。ルードヴィヒはちょっと分かりにくいポジで、ブラッドリーは後の外伝主人公。あーいいストレス解消になった…… |
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2015年 01月 08日 01時 32分