つぶやき

海戦型
 
暇潰15
終わらないブレイブリーなデフォルト、一向に進まないエピソードデルタ。
とりあえず今日はカミイズミ先生の生存ルートに辿り着いたので、明日はレックウザ捕まえたいです。
ついでに我が家の家電に加湿器追加。これ、部屋は潤ってるのか……?水蒸気の落下先は湿気を吸い込んでないようなので多分効果はあるけど。

※ ※ ※

 車は橋の中腹までたどり着く。モノレール駅までは間もなくだ。

「ねえ、BF。海と空の間に出来てる線はなんていうの?」
「それは『水平線』だな。ちなみに大地と空の間だと『地平線』」
「ふ~ん……じゃあ、さっきから海が盛り上がって上へのぼってるのはなんていうの?」
「………海が、上る?」

 一瞬、いったいアビィが何を言っているのか理解しかねた法師はつい海の方を見て――絶句した。
橋の左右にある海水がひとりでに動き、そこだけ重力が反転しているかのように空へのぼる滝が形成されている。

「待てよおい……こんなダイナミックな交通規制初めて見たぞ?」
「これは、海水が集まって橋を……!?いったいどれほどの水をかき集めて来たのか計算してみたくなるな」
「一人でやってろ!それよりも洒落にならんぞあれは!?」

 のぼった水は丁度法師たちの進行方向へ流れて行き、橋の全てを封鎖する『水の壁』が出現した。
 既にその海流に巻き込まれた数台の車が海水に突っ込み、推進力を失って水の壁に閉じ込められた。運転手はパニックになって車のドアを開けようとするが、水圧に押されてびくともしなかった。10トントラックでさえもアッサリと呑み込んだその海水の壁は、うねりながら少しずつ前進していた。
 奥行きは10メートル近くあるだろうか。高さも目算では10メートルほど。
 膨大な体積の水が、何者かの意志によって形成されているという事実は疑う余地もない。
 咄嗟にブレーキを踏んで停止する。他の車の乗客たちも車を止めて行ったが、まずいことに車を置いて逃げ出してしまった。前後に停止した車があるため、自然とこちらの車が道路に閉じ込められる。

「……やられた!水流操作系のベルガーか!このままだと車ごと攫われちまう!」
「どうする、俺?」

 BFが、こちらが少し腹が立つほどに冷静な面を下げて判断を促してくる。
 水流操作系の能力者というのは様々なタイプがいる。
 大気中の水分をかき集めて疑似的なアイテール流体を作り出す奴もいれば、ペットボトルの水を操って鞭のように使う奴もいる。今回の相手は恐らく戦闘の際には常に水場を意識しながら行動するタイプだろう。
 このタイプの恐ろしい所は、人間では受け止めきれないほどの膨大な質量を全面的に味方につけられることだ。相手に攻撃する水も、動きを封じたり捕獲する水もほぼ無制限に使い放題。高圧水流を矢継ぎ早に飛ばせば弾幕になり、水のドームでも使って籠城すれば攻め込むのも難しい。それでいて水流を相手に纏わせて動きを封じる事も出来る。

 相手が素人ならどうとでもなるが、今回に限ってそれはあり得ない。
 そもそも、この橋は現在の海面より30メートルは上にある。それほどに離れた距離にある海水を橋上に移動させるには、いくら水流操作系の能力とは言えど10年単位の練習が必要になるだろう。
 それをこうもあっさりと行っているのだ。
 素人である筈が無かった。おそらくは虎顎のエージェントだろう。

「いざとなれば『あれ』を使うという手段はあるが、相手が水流操作系のベルガーなら悪手になりうる。衛を信じて引き返すのも手だぞ?」
「分かってるよ!くそっ……ああもでかい壁を作られちゃまともな方法での突破は無理だ!それにベルガー本人は恐らくあの壁の向こう側にいる。お前にアビィを預けて敵をブッとばすにしても距離が――」

 不意に、ポケットに放り込んでいた携帯端末が電子音を鳴らした。
 電話だ。発信元は――ティアからだ。
 反射的にポケットから端末を抜き取り、通話ボタンを押し込む。

「もしもし、ティアか?今どこにいる?」
『うん!あのね法師?わたし、今橋の上にいるんだけど……黒いコートを着た人が異能で道を塞いじゃってて合流が難しそうなの。ひょっとしてあの黒い人が依頼者の敵なんじゃないかな?』
「ティア、今すぐそいつをぶちのめせるか!?そいつのせいでこっちは駅に行けずに困ってるんだ!」
『……わかった!無力化を最優先だね!』

 普通ならばもう少し言葉を交わす場面かも知れないが、法師は時間がない事で焦っていることをティアならば分かってくれると考えている。そしてティアもまた法師が事情を理解してほしいであろうことを理解している。
 だから2人の間にそれ以上の意思疎通は必要なかった。

「よし!ティアなら水流操作系の異能と相性抜群だ!思った以上に早く埒があきそうだぜ!」

 停止することを許されない状況は、動き続ける。



 = =



 株式会社『ボーンラッシュ』はその日、社の創設以来最悪の事態に見舞われていた。
 公安警察と異能課警察のほぼ同時踏込と、まさかの一部社員による威力妨害。
 そしてこの騒ぎに乗じて、社の幹部数名が忽然と姿を消したことによって、この会社は事実上の廃業を余儀なくされることになるだろう。

 そんな人の不幸を尻に敷きながら、異能課の面々は公安五課より先に会社の地下室へと入り込み、様々な資料を発見していた。

「こいつは……あれっすね。あれですあれ……あの……とにかくヤバイあれっす」
「おい、誰かこの頭の悪そうな男を現場からつまみ出せ。鬱陶しいを通り過ぎて殺意が湧いてきた」
「まぁまぁ水無月くぅん。吉田くんだってぇ、ボキャブラリーが果てしなく乏しいだけでちゃんと資料の内容は理解してるのよぉ?」
「言葉で説明できなきゃ分かってないのと同じでシ。報告書が書けるのに口頭報告の出来ない奴なんてお前ぐらいっシ」

 あれとヤバイ以外にこれといって意味のある言葉を喋らなかった男は吉田巡査部長。それに怒った短気な男が水無月警部補。フォローしたのは何だかんだで面倒見のいい霧埼だ。なお、独特の息の吐き方でやたらシが目立つのは玉木巡査である。
 他にも数名が資料や物品の回収捜査を続けている。

「で、結局なんだったんでシか?」
「うん、あれあれ。具体的に言えば、これはベルガーの持つメヘラ因子をオキソデポリシンやニクレミン等の薬物で刺激することによって疑似的にアイテール収束と定義付けをコントロールし尚且つプログラミング的な方法によって機械的に具現化させるいわば『異能を使う機械』であってこれを連中は総称『ABIEシステム』と呼称していたようですよ。この資料の部分では異能者の脳内にインプラントなどの器具を取り付けて施術する方法による実験結果を報告するもので報告によると脳内の電気信号と最新の超小型非ノイマン型光回路を脳細胞と接続させるために培養した疑似ニューロン神経を――」
「わかった!もういい!もういいからその説明をやめてくれ!」
「あー、とにかくあれです。多分あれと関係あるんじゃないかなってことで、ね?」

 具体的な話ならば誰よりも饒舌に語る癖に、人が説明出来て当たり前に事は抽象的な言葉ばかりを使う。異能課にいて最も会話に困難な男に、難儀な奴だと周囲はため息をついた。