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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第237話:時既に遅し

 颯人達が行動を起こしたのと時を同じくして、奏もキャロル達と共に未来が囚われ儀式が行われている祭壇の部屋へと向かっていた。

「そう言えば、何時の間にか儀式が始まってるっぽかったけど、誰が始めたんだ?」

 道中、奏はヴァネッサ達に訊ねた。ここに囚われた時間は決して長くはなかったが、その間に儀式を行う事が出来た者は限られてくる。ミラアルクは洗脳され操られていたし、ヴァネッサは奏と共謀する為あちこちを駆けずり回ってそれどころではなかった筈。となると消去法で奏の中ではエルザが儀式を始めた様に見えてしまうが、それはヴァネッサにより否定された。

「多分、メデューサよ」
「メデューサが? アイツ魔法使いだろ? 錬金術的な儀式出来るのか?」
「錬金術と言っても、儀式の開始自体は誰でも出来る状態だった。結局は技術だもの、操作方法さえわかれば後はどうとでもなるわ」

 言われてみれば、パヴァリアとの戦いの際一度はアダムが行おうとしていた儀式を中断させたのも、錬金術的な技術を持つ者ではなくただの人間だった。手順さえ分ってしまえば、ああいった事も可能なのかもしれない。
 無論、それは儀式の様な一か所に固定して行われるものが前提であり、個人の魔力を用いて行う戦闘などに関してはまた話が別なのだろうが。

「とは言え、力が顕現しても積極的な活動が確認できないのを見るに、まだ完全な状態ではないのだろう」

 先程モニター越しに見せてもらった外の様子から、キャロルが推察するとそれをヴァネッサが肯定した。

「えぇ、そうよ。儀式御あらましは、顕現させた力を依り代の少女に降ろす事にあるわ」
「その依り代が未来って訳かよ……!」

 そんな事の為に未来を連れ去り、剰え利用しようとしている事実に奏は拳を握り締める。彼女が怒りを滾らせているのを見て、キャロルは小さく息を吐きながらそれを宥めた。

「その怒りは後まで取っておけ。どうせこの後、発散する機会に恵まれる筈だ」
「どういう意味であります?」

 意味深なキャロルの言葉にエルザが首を傾げる。その様子にキャロルは前方を鋭く睨みながら答えた。

「分からんか? 誰かが儀式を行い、それがまだ完全に終わっていないんだ。つまり、まだ儀式の部屋にはそれを行った誰かが居る」

 その言葉に奏達は息を飲む。未来を連れ出す事だけを考えて、誰かが未来の傍にいる可能性を失念していた。先程ハンスがグレムリンを足止めしてくれた。となると、残る幹部で考えられるのはそう多くはなかった。

「メデューサかッ!」
「若しくは、ワイズマン本人かだな。まぁ、見た感じワイズマンは自分でそういう事をしなさそうだから、大方生き残ったメデューサがやらかしたんだろう」

 口では軽く言うキャロルであったが、実はちょっぴり後悔していた。あの時琥珀メイジと共に消し飛ばしたと思って完全に倒したかどうかを確認していなかった。丁度その時はガリィ達を回収する事の方を優先させていたし、ジェネレータールームの様子も気掛かりだったので後回しにしてしまったのだ。
 もしあの時念入りにメデューサの生死を確認しておけば、こんな事にはならずに済んだのでは? そんな考えがふとキャロルの脳裏を過った。

――いや、その場合はワイズマンが動いていただろうな――

 とは言え、自身の愉悦を優先させて動く傾向が感じられるワイズマンであれば、多少の面倒を押して儀式を始める可能性も高かった。結局のところ、未来を最優先で助け出しておかなければこうなる事は必然だったのかもしれない。そう思い直していると、一行は目的の儀式の部屋へと辿り着いた。閉ざされた扉を前に、奏はギアペンダントを持った手をもう片方の手に叩き付けた。

「さて、派手におっ始めてさっさと未来助けて帰るかッ!」
「油断するなよ」
「わ~ってるよ」

「Croitzal ronzell Gungnir zizzl」

 奏がガングニールを纏い、アームドギアを構えるとヴァネッサが腕を曲げ肘からグレネードを発射する。

「離れてッ!」

 言われずともさっさと離れる。奏とキャロルが道を開けると、その間を一発のグレネードが飛んでいき扉を一撃で吹き飛ばした。

「なっ!?」

 爆音と共に扉が吹き飛んだのを見て、部屋で待機していたメデューサが振り返るとそこから奏達が雪崩れ込んでくるのが見えた。一方の奏達は、案の定部屋に控えていたメデューサと祭壇の上に横たわる未来の姿に一目散に彼女に駆け寄ろうとする。

「メデューサッ! 未来を返してもらうぞッ!」
「チッ!」
〈チェンジ、ナーウ〉

 突撃してくる奏を迎え撃つ為、メデューサが紫色の仮面のメイジに変身する。だが槍を片手に奏が飛び掛かろうとした次の瞬間、彼女の体は何かに引っ張られた様に後ろに下がってしまった。そのお陰と言うべきか、メデューサが迎撃の為に放った魔法の矢が何もない空間を通り過ぎるだけになる。

「のぉっ!? どわっ!?」

 後ろに引っ張られ、そのまま尻餅をついた奏。ギアを纏っていても尻餅をつけば痛むのか、ぶつけた所を擦りながらキャロルの方を見た。

「い、つつ……いきなり何すんだよッ!」

 先程体が後ろに引っ張られた際、奏は何か糸のような物が体に巻き付いたのを確かに感じた。それは以前の魔法少女事変の最後の戦いで、キャロルにやられた糸による拘束を思い出させる。
 案の定それはキャロルによるものであり、彼女は考え無しにいきなり突撃した奏を引き留める為多少乱暴だが糸を使って無理矢理後ろに引っ張ったのだ。

「落ち着け馬鹿者。ガングニール使いはどいつもこいつも猪武者か?」

 この場にマリアが居れば真っ先に抗議するだろう事を宣いながら、キャロルは未来が寝かされている祭壇を指差した。

「小日向 未来は今、中途半端とは言え儀式に繋がれている状態だ。そんな状況で周囲を下手に壊して祭壇から引き離す様な事をすれば、最悪あの少女を壊してしまいかねないぞ」

 キャロルからの指摘に奏がヴァネッサ達を見れば、概ね間違いないのか彼女達も頷く。気が急いてつい考え無しの突撃をしてしまった。確かに未来を助ける事を考えるなら、事は慎重に運ぶべきである。今更ながら奏は、自分が思っている以上に冷静ではない事を思い出した。

「悪い、ちょっと頭に血が上ってた」
「気持ちは分からんでもないがな。ともあれ、お前にやってもらう事は単純だ」

 いきなりの突撃は褒められたものではなかったが、しかし奏にメデューサの相手をしてもらう事はキャロルの中でも決定事項であった。何しろ奏には錬金術の知識が皆無なのである。手伝いなんて出来ないし、それなら邪魔が入らないようにメデューサの相手をしてもらった方がずっと建設的だ。
 奏自身もそれは理解しているらしく、気を取り直すと改めてアームドギアを構えてメデューサと対峙した。

「あぁ、分かってる。未来を助ける、邪魔が入らないようにすればいいんだろ?」
「そう言う事だ。お前も消耗してるらしいが、メデューサも俺との戦いで大分傷付いてる。お前1人でも余裕だろ?」
「ハッ、当然ッ!」
「舐めるなッ!」

 先程と同じように奏がメデューサに駆け寄り、それをメデューサが迎え撃つ。槍と杖がぶつかり合うと、奏は受け止めたメデューサの杖を掴みそのまま引っ張って部屋の外へと連れだした。

「悪いなッ! キャロル達の邪魔をさせる訳にはいかないんだ。暫く付き合ってもらうぜッ!」
「チッ、離せッ!?」

 抵抗するメデューサだったが奏は構わず外へと連れだした。壁一枚隔てた先で奏とメデューサが激しく戦い始めるのを耳にしながら、キャロルは手早くヴァネッサ達に指示を出した。

「よし。あっちは天羽 奏に任せておけば大丈夫だ。こちらはこちらでさっさと進める。面倒だが下手な事をすれば小日向 未来がどうなるか分からない以上、手順通りに儀式を中断させる」
「えぇ!」

 意気込むヴァネッサに対し、ミラアルクとエルザは何処か呆けた様子でキャロルの事を見ていた。その視線に気付き、キャロルは訝し気に2人の事を睨んだ。

「何だ? そんなに人の顔をジロジロ見て……」
「え? あぁ、いや、その、何て言うか……」
「あなたは以前、S.O.N.G.と敵対していたと聞いたでありますが、随分と積極的に動いてくれているので少し意外だと……」

 2人の言葉に、キャロルは言葉に詰まった。確かに、自分でも意外なほどS.O.N.G.に対し好意的な思考をしていると言う自覚はある。被害を最小限に食い止めるだけであれば、未来への影響など無視してさっさと機材を破壊し祭壇から未来を引き剥がせば済む話なのだ。だがそれをしようと言う気にはどうにもなれない。
 その理由が、記憶を失っていた頃に響を始めアリスなどから献身的に面倒を見てもらった事で絆された事に起因していると理解しているキャロルは、しかしプライドがそれを素直に認める事を拒むのかバツが悪そうに明後日の方を見た。

「別に……さっきも言ったが、ただ恩を返したいだけだ。何時までも借りを作ったままにするのは、俺のプライドが許さないからな」

 口ではそう言うキャロルだったが、しかし頬の一部と耳の先がほんのり赤くなっている事にミラアルクは気付いていた。故にそれが照れ隠しである事は直ぐに分かり、話に聞いていた以上に人間臭いキャロルの素顔に思わず肩から力を抜いた。

「へへっ……」

 思わずミラアルクの口から笑みが零れる。それを耳聡く聞いたキャロルは、迫力の足りない睨みを利かせさっさと作業に取り掛かる様に告げた。

「そんな事よりも、だ! さっさと作業に取り掛かれ。言っただろう、手順が面倒だと。長引けば長引いただけこちらが不利になるんだ」
「分かってるって!」
「直ぐに取り掛かるであります!」

 ミラアルクとエルザもヴァネッサに続き機材に取り付き儀式中断の準備に取り掛かる。それを見てキャロルは疲れた様に息を吐くと、錬金術で外の様子を投影し現在の状況をリアルタイムで確認した。

「上の方も既に始めている。さて、ああ言った手前さっさと終わらせるか」

 ヴァネッサ達のサポートを受けて、キャロルは手早く儀式中断の為の手順を進めていこうとした。

 が、その時、不意に不愉快な感覚を感じて咄嗟に視線を上に向けた。

 するとそこには、頭上から赤く光る光刃を振り下ろしてくる黒衣の魔法使いの姿があった。

「チィッ!」

 すかさずキャロルは頭上に障壁を張り、奇襲してきたワイズマンの攻撃を防いだ。攻撃を防がれたワイズマンは、その障壁を足場に飛び上がると今度は儀式中断の為の作業をしているヴァネッサへと飛び掛かる。

「させるかッ!」
「むっ!?」

 だがそれはキャロルが放った糸により防がれた。キャロルの糸がワイズマンの足に絡みつき、ハンマー投げの様に振り回して壁に叩き付ける。しかし壁に叩き付けられる寸前、ワイズマンは足に絡みついた極細の糸を光刃で切断し、自由になると振り回された勢いを利用して壁に着地した。

「ふむ……流石に一筋縄ではいかないな、キャロル・マールス・ディーンハイム」
「何処で何をしているのかと思えば、ここぞと言うところで邪魔をしに来る」

 キャロルが不愉快そうに鼻を鳴らせば、ワイズマンは彼女を煽る様に鼻で笑う。

「それはそうだろう。折角の楽しいパーティー、こんな所で止められては興ざめだからな」
「ガリィが可愛く見えるくらいの性格の悪さだ。おいお前らッ!」

 口では軽々しく悪態をつくが、実際問題キャロルはこの得体の知れない黒衣の魔法使いに対して強い警戒心を抱いていた。相変わらず、底が知れないし得体も知れない。と言うより狙いが分からない。ワイズマンが未来を依り代に神の力を降ろそうとしている事は分かるのだが、その先にある筈の最終目標が読めないのだ。何が真の目的であるかが分からず、よって先の行動も読みにくい。その不気味さが気付かぬ内にキャロルに冷や汗を流させていた。

 コイツの相手をしながら、片手間に儀式の中断をするのは無理だ。キャロルは多少効率は落ちても、この場をヴァネッサ達に任せて自分はワイズマンの相手に集中すべきであると結論を下す。

「俺はコイツの相手で手一杯だ。儀式の中断はお前達でやれ。出来ないとは言わせないぞ?」
「勿論よッ!」
「任せて欲しいゼ!」
「やり遂げてみせるであります!」

 ヴァネッサ達の返事に満足そうに頷くと、キャロルはワイズマンを睨み付け顎を部屋の外へとしゃくる。

「表に出ろ。ここは戦うには狭すぎる」
「良いだろう。戯れに相手をしてやるさ」

 今度は大人しくついてくるワイズマンの佇まいに、キャロルはますます警戒心を強めた。

 儀式の中断自体は別にキャロルが居なくても出来る。そもそもこの儀式を最初に始めようとしたのは、ヴァネッサ達3人の方なのだ。儀式の手順は当然彼女達の方が熟知しているし、非常事態が起こった時の為中断の仕方も彼女達は分かっているのだ。キャロルが主導していたのは、その方が単純に効率が良いと言うだけの話に過ぎない。

 にも拘らず、ワイズマンはあの3人だけを残して自分はキャロルとの戦いに臨んだ。それが意味する事とは…………

「貴様……何を仕組んだ?」
「仕組んだとは人聞きの悪い。言っただろう、ただの戯れだと」

 そう言う事かと、キャロルは盛大に舌打ちをした。事はキャロルが思っている以上に深刻だったのだ。自分が読み違えた事に、キャロルは己の不甲斐無さを呪いつつ踵を返そうとした。

「クソッ!」
「おぉっと、もう手遅れだよ」
〈ライトニング、ナーウ〉
「ぐぅっ!?」

 しかしキャロルの行動はワイズマンにより防がれた。放たれた電撃がキャロルの体を焼き、その勢いで壁に叩き付けられた。

「がはっ!? ぐ、くそ……!」
「フフフッ……さぁ、楽しいショーをじっくり見物しようじゃないか」

 まるで道化師の様に両手を広げるワイズマンを睨み付けるキャロル。その彼女の視界に、ワイズマンの背後から飛び掛かるビーストに変身したハンスの姿が映った。

「ワイズマンッ!!」
「ッ!」

 背後からダイスサーベルで斬りかかってきたハンスに気付いたワイズマンは、残像を残して飛び退き放たれた刺突は空を切るに留まる。奇襲は回避されたが、目的のワイズマンをキャロルから一旦引き剥がす事には成功したので当のハンス本人はあまり不満では無さそうであった。

「待たせたな、キャロル」
「いや、正直助かった。グレムリンは?」
「悪い、トドメを刺したかったんだが逃げられた」
「そう、か……?」

 何か違和感を感じる。だがその違和感の正体が分からず、キャロルは気の無い返事を返した。彼女の返事にハンスも違和感を感じたのか、どうしたのかと訊ねようと振り返った。

 その瞬間、先程の部屋から光が漏れ出しヴァネッサ達が慌てて部屋から飛び出してきた。

「あわわっ!?」
「離れてッ! 早く部屋から離れてッ!?」
「何だ何だ? どうした? 失敗したのか?」

 ヴァネッサ達の様子にハンスが仮面の下で怪訝な顔をする。だがキャロルは、それだけで今何が起きているのかを察し錬金術を使って外の様子を見た。

「ッ!? くそ、やはり……!」

 そこには、エクスドライブを起動させたガングニールを纏う響の拳を受け止める、紫と白銀のローブを纏った未来の姿が映し出されていた。 
 

 
後書き
と言う訳で第237話でした。

未来救出組はキャロルに加えてヴァネッサ達も居るので問題無し……とはいきませんでした。ここら辺は原作でもあの時点ですでに手遅れ感あったので、そのまま未来がシェム・ハに取り込まれる形となりました。次回はそこら辺に至るまでの戦いなどを描いていきます。

それと最近になって、エルフナインの寿命問題を完全にスルーしてしまっていた事を思い出しました。今から変に話を挿入するのも大変なので、この件に関しては話の裏でアリスが対処したと言う事でお願いします。
後々話の中でそこら辺に関しても補完していきますので。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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