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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第236話:内外の戦い

 
前書き
どうも、新年あけましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします! 

 
 方針が決まってからの颯人達の行動は早かった。元々、チフォージュ・シャトーがジェネシスのアジトになっていると言う結論が出てから空路で向かおうとしてはいたので、ヘリの準備は出来ていた。なのでキャロルとの通信が終わった後、彼らは即座に待機していた2機のヘリに乗り込んでシャトーの方へと向け飛んでいた。

 そのヘリの中で、颯人はシャトーで待っている奏の事を考え機内のベンチに静かに腰掛けていた。その手の中には複雑な形をした知恵の輪があり、彼は機内の虚空を見つめながら指先の触覚だけで知恵の輪を解いていく。ヘリのローター音が響く機内に、エンジン音に紛れて金属がぶつかり合うカチャカチャいう音が薄っすらと響く。

 同乗している響が横から覗き込む様に彼の顔を見てみるが、彼の表情から胸の内の感情を読み取る事は難しかった。
 ポーカーフェイスで何を考えているのか分からない颯人の様子に響が緊張していると、翼が彼女の肩に優しく手を置いた。

「そっとしておけ」
「翼さん?」
「颯人さんにとって奏がどれ程大切な存在かは、今更言うまでもないでしょう?」

 それは言われるまでもない。そもそも彼が命の危険を冒してまで魔法使いになったのは、奏に迫る死の運命を覆し彼女を守り続ける為だったのだ。その後も彼は奏の為に体を張り命を懸け、何度も彼女の窮地を救ってきた。そしてそれは奏も同様であり、彼女もまた彼の為に命を懸けてきた。
 その2人の互いを想い合う愛が、アダムとの戦いの最中に訪れた颯人の命の危機を救ったのである。

 互いを強く想い合う2人。その相手が、無事である事は分かっていても離れ離れになっている事がどれ程不安かは響にも痛いくらい分かる。彼女だってこれから、親友の未来を救いに行くのだ。意気込みに関して言えば颯人にも負けていない。
 2人の意気込みを察した翼は、まだ落ち着かない様子の響を元気付け発破を掛ける為声を掛ける。

「心配するな。奏がああして元気なんだ。小日向だって無事だ。それにあちらにはキャロルも居る。作戦はきっと成功するさ」

 力強くも頼りになる翼の言葉に響は勇気をもらった。そしてその勇気を後押しするように、同じヘリに乗っているクリスと透もそれに続いた。

「そうそう。それにだ、幾らあそこが今はジェネシスのアジトになっててアホほど敵の魔法使いが居るとしてもだ。このアタシ様と透が居れば有象無象なんて蹴散らせるから心配するな」
「僕らの役割はシャトーの上に出た繭の相手をする事ですけど、これまでにも色々な相手と戦ってきたんです。今度だってきっと勝って、未来さんと奏さんを助けられます」
「クリスちゃん……透君……うん!」

 翼に続くクリスと透の言葉に、響の中から不安は完全になくなった。覇気のある顔で頷くと、それと同時に機内に金属が床に落ちるチャリンと言う音が響いた。颯人が知恵の輪を解いたのだ。ヘリの機内はエンジンとローターの音で喧しく、こうして話すのも一苦労なのだが颯人が解いた知恵の輪が床に落ちる音は驚くほど鮮明に響達の耳に入った。その音に釣られるように響達が颯人の方を見れば、彼は床に落ちた知恵の輪を回収し帽子を被り直していた。
 何時になく大人しい颯人の様子に響達が注目していると、当の本人は仲間達に視線を向け目を瞑り小さく肩を竦めた。

「そう気にしなさんな。ちょっと気合入れてただけだ」
「知恵の輪を解く事がか?」
「ちょっとした気合入れさ」

 そう言って颯人が新しい知恵の輪を取り出し、それを片手で包んだ。クリスが見ている前で颯人が軽く知恵の輪を握る手を動かすと、今度は一気に知恵の輪が外れて床に落ちた。

 床に落ちる知恵の輪を、颯人と響達の視線が追いかける。その直後、耳に装着したインカムにあおいの声が響く。

『間も無く現着です!』
『よし! 装者および魔法使いは全員降下用意!』
「「「「「!!」」」」」

 あおいの声に続き耳に入った弦十郎の言葉に、颯人達の表情が一気に引き締まる。そしていの一番に颯人が扉に手を掛け勢いよく開けると、隣のヘリでもガルドがヘリの扉を開けていた。扉を開いた瞬間颯人とガルドの目が合い、無言で頷き合うと後ろから響達が外を覗き込んでくる気配を感じながら眼下の光景に目を向ける。

 眼下にはまだ復興が進んでいない都庁周辺の光景が見える。復興が進んでいない為、都会のど真ん中であるにも関わらず都庁周辺は夜闇に包まれていた。少なくとも、昨日までは…………

 今この時、都庁周辺は不思議な光に包まれていた。光の発生源はチフォージュ・シャトー。ジェネレーターが起動した影響からかシャトーからは光が放たれ、更にはその上部に浮かぶ蔦に包まれた胎児の様な繭が発光している為シャトー周辺はまるで夜のライブ会場の様に明るかった。

 その明るいシャトーを見下ろしながら、颯人は左手の薬指に最強の力を発揮できる指輪を嵌めた。

「さて……悪いが今日は最初から全力を出させてもらうぜ」

 そう呟き颯人はヘリから飛び降り、落下しながら空中で左手をハンドオーサーに翳してウィザードに変身した。

「変身ッ!」
〈イィィンフィニティ! プリーズ! ヒースイフードー! ボーザバビュードゴーーン!!〉

 颯人は初手からインフィニティースタイルとなり、アックスカリバーを召喚してアックスモードで手に取るとそのまま落下の勢いを乗せた一撃を繭に叩き込む。

「ハァァッ!」

 破壊に特化した一撃を得意とするアックスモードのアックスカリバーによる一撃。例え相手が強固な鎧を持つ魔法使いであろうとも大ダメージを与える事が出来るだろう。実際、胎児の様な繭を包む蔦の様な部分は今の颯人の一撃でバッサリ切り裂かれた。

 しかしそれが逆に顕現したシェム・ハの力を逆に叩き起こしてしまったらしい。シェム・ハの力を包んでいた蔦が開かれると、無数の触手となった蔦が一斉に颯人達に襲い掛かった。全部で6本ある触手は颯人だけでなくその背後に降り立った装者達にも向かっていく。本来であればそれらを全て颯人が相手をしてやる必要はない。装者達だって自力で対応する事は出来る。

 ただ今回ばかりは話が違った。今回の戦いで、装者達はシェム・ハの力と直接戦う訳にはいかなかった。

 シェム・ハの力は言うまでもなく神の力の顕現。生半可な攻撃では一瞬ダメージを与えられても神の力特有のダメージの無効化により攻撃を受けた事実そのものが無かった事にされてしまう。実際先程颯人が切り裂いた場所もとっくの昔に元に戻っていた。

 この反則的な能力を相手にどう対処するか? その答えはチフォージュ・シャトーにあった。
 響の神殺しの力に頼ってもいいが、それだと全ての負担が響1人に集中してしまう。以前に比べれば適合係数も上がり、安定した能力が発揮できるようになったとは言え不確定要素はついて回る。しかし、チフォージュ・シャトーであれば? チフォージュ・シャトーは世界全てを解剖・分解する事を目的に様々な聖遺物を複合させて作り出したメガストラクチャー。その気になれば神の力を打ち破る事も可能であると言うのはキャロルの言である。
 ただこのままでは勿論シャトーも全力を発揮する事は出来ない。シャトーは再起動したばかりだし、何よりシャトーは大きく破損している。この状態ではシャトーは全ての性能を発揮する事は出来ない。

 そこでキャロルが目を付けたのが装者達のフォニックゲインである。前述した通りチフォージュ・シャトーは様々な聖遺物を組み合わせて作られた。その性質上、シャトーはフォニックゲインを動力源に力を発揮する事が出来る。
 今回、装者達に求められるのは彼女達自身による直接戦闘ではなく、歌う事で発揮されるフォニックゲインであった。セレナを含む装者7人の歌で生み出すフォニックゲイン、それも絶唱によるフォニックゲインであればシャトーに本来の性能を発揮させる事も可能だろう。

 この作戦を実行するに当たり、セレナにも絶唱を歌わせる事に対してガルドとマリアが渋った。しかしセレナ本人のたっての希望と、響がS2CAを用いる事等もあり最終的に2人も首を縦に振った。

 そんな訳で今回準備が整うまで、シェム・ハとの戦いは颯人達3人の魔法使いしか出来ない。そして彼らは、シェム・ハの攻撃が装者達に及ぶ事が無いようにしなければならなかった。
 得体の知れないシェム・ハの力を前に、制限を課された戦いを強いられる。この状況に颯人だけでなくガルドと透もケイオスタイルやアーマードメイジとなって立ちはだかる。

「やらせはしないッ!」
「デュラハンッ!」

 ケイオスタイルのガルドは強烈な砲撃で触手を焼き払い、透は鎧をパージしデュラハンと共闘する事で愛する者達を守っていた。颯人もまた、アックスカリバーをカリバーモードにしてインフィニティーの超高速移動で装者達に届きそうになった触手を弾き守った。

 奏を助ける為に守る戦いをする。ある意味で矛盾した戦いに身を投じながら、颯人は背後から聞こえてくる戦姫達の歌声に耳を傾けていた。




***




 上空から颯人達がシャトー上部に降り立っていた時、内部では変わらずハンスとグレムリンが戦っていた。

 一度はグレムリンの巧みにして狡猾な戦術に翻弄されたハンスだったが、一度痛い目に遭ったからかそれからは油断することなくバッファマントを纏って相対していた。先程の戦いでグレムリン相手に透明化は意味をなさない。どうせカメレオンマントで姿を消しても同じ方法で看破されるに決まっている。それなら最初から透明化に頼らず戦った方がまだ利口だ。何よりグレムリンもまたハンスとの戦いで消耗し、高速移動は多様出来なくなっている。
 互いに相手を追い詰める為の一手が打てなくなった状態で、彼らは相手の出方を伺うように距離を取りながら一瞬の相手の隙を見逃さないよう身構えている。

 円を描くように横移動しながら睨み合うハンスとグレムリン。先に動いたのはグレムリンの方であった。

「フッ!」

 超高速は事実上封じられたグレムリンであったが、素の機動力は相変わらず目で追うのも難しい速度であった。何よりもグレムリンの戦いの真骨頂はアイソレーションによる錯覚を用いたフェイントにある。反応速度が速い相手であればあるほど引っ掛かり易く、ハンスもまた鋭い反応速度により瞬間的にグレムリンの動きに防御姿勢を取ろうとしてしまう。

「――そうじゃねえッ!」

 だがハンスは咄嗟の判断で防御を取り止めると、床を力強く殴りつけた。するとその瞬間ハンスを中心に円形に衝撃が広がり、衝撃が届いた場所は床がトランポリンの様に跳ねた。床に足をついている限り逃れようのないこの衝撃は、グレムリンも逃さず捉えハンスに向けて駆けていた彼も衝撃に足を取られ空中に跳ね上げられた。

「なっ!?」
「らぁっ!」
「ぐっ!?」

 流石のグレムリンも空中では十分に身動きが取れない。そのまま接近したハンスによりタックルを喰らったグレムリンは大きく吹き飛ばされ、壁が凹むほどの勢いで叩きつけられた。

「がはっ!? く…………!」

 壁に叩き付けられながらも、グレムリンはまだ戦意を失っていない様子で立ち仮面越しにハンスの事を睨んでくる。存外しぶといグレムリンにハンスも思わず溜め息を吐いた。

「チッ……面倒臭い戦いをするくせして、なかなかガッツあるじゃねえか」

 口ではこんな事を言っているが、戦いに終わりが見えてきたのをハンスは感じ取っていた。自分は多少消耗してはいるがまだまだ戦えるのに対し、グレムリンは大分消耗している。ここから逆転できるだけの一手が無い限り、このままグレムリンはハンスに敗北する未来しかなかった。

 勿論ハンスはそれを許す様な事はしない。ここでさっさと勝負を決めるべく、ハンスはダイスサーベルを左手に持ち右手でサーベルに内蔵されているダイスを回転させた。
 サーベルからドラムロールが響き、ハンスは高速で回転するダイスを見つめタイミングを見計らって右手の指輪を使ってダイスの回転を止める。

〈ファイブ! バッファ、セイバーストライク!〉
「トドメッ!」

 ハンスがダイスサーベルを振るうと、彼の前に展開された魔法陣から5体の魔力で出来たバッファローが飛び出しグレムリンに襲い掛かる。迫る5体のバッファローを前に、グレムリンが仮面の奥で歯噛みしていると不意に事情に視線を向けた。

「ッ! 来ちゃったか……仕方ない」

 グレムリンがそう呟いた直後、バッファローが殺到し爆炎が周囲を包み込む。爆発により巻き上げられた砂埃がハンスの視界を塞ぎ、彼は咄嗟にバッファマントで砂埃から顔を守った。
 衝撃と風がマントを叩く。しかしそれは長くは続かず、直ぐに収まりハンスも顔を上げる事が出来るようになる。

 戦果を確認すべくハンスがマントを下ろして顔を上げると、そこにはセイバーストライクの余波で破壊された壁などがあるだけでグレムリンの姿は影も形も無かった。

「あ?……やった……て感じじゃねえな。逃げたか?」

 幾ら高威力の5の目によるセイバーストライクでも、流石に跡形もなく消し飛ばす様な威力はない。なのにグレムリンの姿が影も形もないと言う事は、彼は恐らく上手い事逃げおおせたのだろう。逃げ足の速さは戦ってる時以上だと、ハンスはグレムリンを嘲る様に鼻を鳴らした。

「フンッ! 張り合いのねえ……まぁいい。キャロル、今行くぞ!」

 1人残されたハンスはそう呟くと、自分が破壊した壁を抜けてキャロルが向かっていった方に駆けていくのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第236話でした。

原作だと響を欠いていた為不安のあったフォニックゲインによるシャトーの能力引き出しは、本作だとそんなに苦労する事はないかもしれませんね。響が健在だし、マリアだけでなくセレナも居るからS2CAのサポートも万全。
その分的に魔法使いが居たりと不確定要素もありますけどね。

年末から始まっていたハンスとグレムリンの戦いは、グレムリンの撤退で一応の決着となりました。グレムリン側にタイムリミットが来てしまったからこそのこの決着ですが、あれ以上長引いていたらどうなっていたか。

改めまして今年も一年よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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