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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第235話:道化師の策略

 
前書き
どうも、黒井です。

これが本作の今年最後の更新となります。今年も一年、ありがとうございました。 

 
 キャロルからの救援要請を受けてから、S.O.N.G.は大忙しであった。最初彼女からの救援要請を受け、予め連れ去られた場所がチフォージュ・シャトーであろうと予想していた彼らは颯人達の魔法で即座に全戦力を転移魔法で送り込もうとした。
 しかしそれは、場所が割れる事を予期したジェネシス側に結界を張られ防がれてしまった。こうなると移動手段は空路しかなくなる。輸送ヘリの2機手配して、出動準備が整いさぁこれから乗り込もう、と言うところでシャトーの方で再び異変が起こった。

「あ? 何だ?」
「あれ見てくださいッ!」

 突如シャトーで光が放たれたかと思うと、透が指さした先にシャトーの上空に浮かび上がる異形の姿を捉えた。光と共に異様な不協和音が周囲に響き、その異音に多くの者が顔を顰める。

「何だ? この音?」
「この……音は…………」

 魔法の産物とは思えないその姿に、危険な何かを感じた弦十郎は一時出動を中止。装者と魔法使いを一度発令所に呼び戻し、現状の確認とシャトー上空に現れた何かの解明に取り掛かった。

「――――で、ありゃ一体何なんだ?」

 颯人が了子と共にコンソールに齧り付いているアリスに問い掛ける。この場でああいった超常的な事に関して一番知識を持つのは彼女だ。技術者の了子に対して、アリスは知識人としての地位を確立している。
 そんな彼女であっても、突如シャトーの上空に出現した繭の様な物に対しては理解が追い付かないと言うのが正直な意見であった。

「ここから見た限りでは、何とも……ただ、あの発光現象は、嘗てパヴァリアとの……アダム元局長との戦いの際に何度も観測された神の力に近いものを感じますね」

 神の力……その単語に颯人達は一様に嫌な予感を感じた。今シャトーには、神の力……アヌンナキに由来する聖骸の腕輪がある。颯人達の予想では、響同様神獣鏡の光により原罪を浄化された未来を依り代に神の力を降ろして利用するのがジェネシスの目的であろうと考えられていた。その2つを照らし合わせると、響の脳裏に最悪の結末が浮かび上がる。

「まさか……まさか、未来がッ!?」
「可能性は、言いたくはありませんが、ゼロではないかもしれません」
「ど、どうしよう……!? 早く、早く行かなきゃッ!?」
「待ちなさい響。今慌てて無策で飛び込んでも危険なだけよ」
「でもッ!?」

 焦る響をマリアが宥める。それでも尚食い下がる響だったが、そんな彼女の肩に颯人が手を置く。

「落ち着けって響ちゃん。気持ちは俺も分かる。今あそこには奏が居るんだ、早く助けに行きてえ。だが、今あそこはワイズマンの本拠地。後先考えずに飛び込むのは、罠が満載のキルゾーンに自分から飛び込む様なもんだ」

 そう言って響の事を宥める颯人の手を見れば、指が白くなるほど拳を握り締めているのが分かる。彼だってあそこで異常が起こっていると知って、今すぐ飛び出したくて堪らないのだ。だがそれが自身の身だけでなく、結果的に奏の身にも危険が及ぶ可能性があると考え理性で行動を押さえている。

 颯人が彼自身も内面で葛藤しているのを悟り、響も荒れ狂う心を拙いながらも必死に抑えようとする。そんな2人の姿に、マリアは小さく息を吐くとあおいに声を掛けた。

「それより、あおい? 頼んでたものはどうなったかしら?」
「少し待って、今……! 司令、マリアさんから頼まれていたデータの検証、完了しました!」

 何やら自分達が預かり知らぬところで交わされていたらしきやり取りに、マリアに近しい切歌に調、セレナが顔を見合わせた。

「データの、検証?」
「何デスかそれは?」
「姉さん、何時の間に?」

 3人からの問い掛けに対し、マリアは正面のモニターをつぶさに見つめながら答えた。

「腕輪の起動時に検知される不協和音に、思うところがあってね。多分セレナ、あなたも何かを感じてくれる筈よ」
「え?」

 マリアの言葉にセレナが何の事なのかと首を傾げていると、朔也が行っていた検証の内容を話してくれた。

「あの音に、経年や伝播距離による言語の変遷パターンを当てはめて、予測変換したものになります」
「言語の変遷パターンを?」

 説明を聞いてもイマイチ何をしていたのか分かり辛い。取り合えずここは見守っておくのが得策かと颯人達が黙っていると、発令所内に件の音声が流れた。最初こそ不協和音でしかなかったが、変換されるとそれは一定のパターンを持つ音楽に近いものである事が分かる。

 その音楽は、特に元F.I.S.に所属していた者達にとっては耳馴染みのあるものであった。

「この曲、何処かで聞いた……」
「何時かにマリアが歌ってたデスよッ!」
「知ってるのか?」

 切歌と調の反応にクリスが問い掛ける。それに対しマリアは、クリス達には視線を向けずに答えた。

「歌の名は『Apple』……大規模の発電所事故で、遠く住むところを追われた父祖が、唯一持ち出せた童歌……」
「私と姉さんを何時も元気付けてくれた詩だった」
「そうだな……マリアもセレナも、施設に居た時からよく歌ってた」

 マリアの説明にセレナとガルドもしみじみと思い出す。決していい思い出のある幼少期ではなかったが、それでもあの頃の出会いがあったからこそ今がある。そう思うとこの曲は彼らに郷愁を感じさせ、心に沁み込む曲に昔を懐かしんだ。

 ただ問題なのはそこではない。何故腕輪の起動時に聞こえる音声が、現代でも尚受け継がれている歌に酷似しているのかと言う事であった。あおいもそこは分からないのか、困惑を滲ませながらこれが間違いなくその曲であると断言する。

「変質変容こそしていますが、大本となるのはマリアさんの歌と同じであると推察されます」

 その結論に颯人は眉間に皺を寄せ、帽子を押さえて目元を隠しながら唸った。

「ん~? え~っと? つまりあれか? マリア達が覚えてる詩は、実はものすんごい大昔から伝えられてる曲だったって事か?」
「それは何とも言えんが、少なくとも、フロンティア事変にて見られた共鳴現象……それを奇跡と片付けるのは容易いが、マリア君とセレナ君の歌が引き金となっている事実を鑑みるに、何かしらの秘密が隠されているのかもしれないな」

 紆余曲折はあったが、取り合えず一定の方針は決まった。ともあれ奏と未来、キャロル達の救出が最優先。その為装者と魔法使いは全力出動し、シャトーに乗り込んで救出作戦を慣行。その間にアリス達技術班はマリアとセレナの歌と腕輪の起動音の更なる解析を行い、最悪の事態が起こった際に何らかの対処が出来る様に備える事となった。

「ヘリの発艦準備は完了です。何時でも……」
「あぁ」

 先程一度は出撃しようとしていた事もあり、ヘリの準備は滞りなく終わった。後は颯人達が乗り込むだけと言う段階になって、シャトーから再び通信が入った。

 再び正面モニターにシャトー内部の様子が映る。だがそこに映し出された者の姿に、弦十郎だけでなく颯人達までもが驚愕した。

「その姿は……!」

 そこに映っていたのは、嘗て魔法少女事変で対峙したダウルダブラのファウストローブを纏った成人女性の姿のキャロルだったからである。それだけではない。彼女の傍には奏と、ヴァネッサ達ノーブルレッド3人の姿までもがあった。
 颯人と響、翼の3人は奏が無事な姿を見せてくれた事に喜び、アリスは敵対する様子もなくキャロルや奏と行動を共にしているヴァネッサ達の姿に安堵した。

「「奏ッ!」」
「良かった、奏さん無事だったんですね!」
『おぅ! 心配掛けて悪かったな皆!』

「あなた達は……!」
『あなたね、私達の体を治せるって言う錬金術師は。ミラアルクちゃんから聞いたわ』
『我々も、あなたの事を、信じてみるであります』
『そう言う訳だ。……頼むぜ、本当に』
「はい……この命に代えることになっても、必ず……!」

 自分を押し退けて互いに話したい相手と話す奏達に、キャロルは額に青筋を浮かべて今度は自分が奏達を左右に押しやった。

『邪魔だ、後にしろお前らッ! 全く……コホン。久しいな……と言うのもおかしな話か? 何せ、今まで一緒に居た事は変わりない訳だからな』

 記憶を失ってはいても、キャロルはキャロルとして颯人達と行動を共にしていた。そう考えれば、久し振りと言うのも何だか違う気がする。しかし他にいい表現は思いつかない。何しろ”この”キャロルと颯人達が対峙するのは、彼女の言う通り久し振りだからだ。それならば確かに久し振りと言う表現を用いるのもおかしくはない気がする。

「別にどっちでもいいよ。それより、記憶戻ったんだな?」
『あぁ。お前の母親のお陰でな。因みにここには居ないが、ハンスも目が覚めた。記憶もしっかりある』

 キャロルだけでなくハンスも目覚めたと言う情報に、響が喜び胸を撫で下ろした。あの事変以降、キャロルとハンスの容態を誰よりも気にしていたのは他ならぬ響だったのである。その心配が裏返って記憶を失っていたキャロルに過剰なスキンシップをしてしまい、結果避けられる要因となってしまったのは皮肉と言う他ないが。

「良かったッ! キャロルちゃんもハンス君も治ったんだね!」
『まぁな……その事に関しては、本当に感謝している。立花 響……お前もまぁ……俺達を気に掛けてくれていた事に関しては感謝しておこう』

 案外素直に感謝を示してくれた事に、響は感激した様子で目を潤ませる。その響の反応に、記憶が戻る前の面倒臭い位に絡んできた記憶が蘇り思わず画面から顔を仰け反らせ、話を戻すべく咳払いして仕切り直した。

『ん゛ん゛ッ!』
「どうやら、本当にキャロル・マールス・ディーンハイムのようだな」
『まぁな。あぁ、安心しろ。流石にもう世界の分解とかは考えていない。大切な事を、思い出せたからな』

 そう言って自然に微笑むキャロルからは、嘗ての戦いの時に感じた危うい雰囲気は感じられない。奏が行動を共にしている事からも信用して良さそうだと感じて、改めて颯人達はキャロルに協力を申し出た。

「共に戦ってくれると言うのであれば百人力どころか千人、万人力だ。早速だが、そちらの状況はどうなっている?」
『一先ず言える事は、ベルゼバブとか言う敵の幹部を1人始末した事だ。メデューサとか言う奴も痛い目に遭わせはしたが、倒したかどうかまでは確認できていない。それとハンスが今グレムリンと対峙している。まぁ、直ぐに終わらせてこっちに来るだろう。こちらから今すぐ言えるのはこんな所だ。そちらは?』

 どうやらキャロルが居る所からでは、腕輪が起動した事は分からないらしい。なのでアリスが、外部からシャトーを見た映像を交えながら現状とこれからの行動を伝えた。

「これが、外部から見た現在のシャトーの状況です。御覧の通り、アヌンナキの腕輪が起動したらしく、神の力の一部が顕現しつつあります」
『なるほど……まだ完全に覚醒しきったと言う訳ではなさそうだな』
「えぇ。ですのでこれから急ぎ颯人達をそちらに送り、未来さんの救出作戦を慣行する予定です」
『承知した。そちらは外部から頼む。恐らく今上にある繭は、繭の状態でも迎撃能力は持っているだろう。そちらの対処を任せる。こちらは内部から、小日向 未来の救出を行おう』

 キャロル直々に未来を救出するとの言葉に、響は何度目になるか分からない感激と共に彼女に感謝した。

「キャロルちゃん、ありがとう!」
『礼を言うのはまだ早いぞ、立花 響』
「ちょっと待てッ! 簡単に言ってくれるが、そのデカブツって前に出たディバイン何とかって奴と似たような奴なんだろ? そんなのそう簡単に――」

 アダムとの戦いでの記憶が蘇りクリスが渋る。あの時も、結局ディバインウェポンは倒すと言うよりは取り込まれた響に語り掛ける事による無力化で何とか出来た。今回は神殺しのガングニールを使える響を戦力に勘定できるが、あの得体の知れない存在の戦闘力が未知数な現状では迂闊な攻撃は躊躇われる。

 しかしキャロルにはある確信があった。

『出来る。ここはチフォージュ・シャトー……その気になれば世界だって解剖可能なワールドデストラクターだ。残された猶予に全てを懸ける必要がある。お前達は神の力の破壊を……そして俺達は、力の依り代である少女を救い出す。お前達にも当然手伝ってもらうからな?』

 キャロルが画面外に向け鋭く告げた。カメラには映っていないが、恐らくはそこにヴァネッサ達も居るのだろう。一刻の猶予もない今、確かに戦力を遊ばせている余裕は無い。

『分かったわ。今までのツケもある訳だし、ね』
『よし、早速行動開始だ!』




***




 キャロルがS.O.N.G.と通信を行っている間、ハンスとグレムリンの戦いは激しさを増していた。

「アハハッ! ほら、こっちこっち!」
〈ハイスピード、ナーウ〉

 目にも留まらぬ超高速で動き回るグレムリンを相手に、バッファマントを纏ったハンスは流石に苦戦を強いられていた。

「うぉっ!? チィッ! がっ!?」
「アハハハハッ!」

 グレムリンはハンスの周りをおちょくる様に動き回り、時に動きを止め時に素早く動いて、彼の目を翻弄させた。動きが読めず、捉える事も出来ないグレムリンを相手にパワー型のバッファマントでは相性が悪かった。

「この野郎……だったら!」
〈カメレオン! ゴーッ! カカッ、カッカカッ、カメレオー!〉

 バッファマントの代わりに身に着けたのは、姿を消す擬態能力を身に着けられるカメレオンマント。如何にグレムリンが素早く動き回れようと、攻撃すべき相手の姿が見えなければ意味はない。

 マントを装着したハンスが姿を消すと、攻撃を空振りしたグレムリンはその場で立ち止まり姿を消したハンスを探そうと周囲を見渡した。

「! 何処に……」
「正気かいッ!」
「がっ!?」

 思わずグレムリンが足を止めると、それを待っていたかのようにハンスがダイスサーベルによる刺突をお見舞いした。

「へっ、折角のアドバンテージ捨てて足止める奴がいるかッ!」

 再び振るわれるダイスサーベル。しかしこれはグレムリンに避けられた。二度同じ攻撃は通用しないと言わんばかりに躱された。

「チッ! すばしっこい奴……」

 攻撃を躱されはしたが、しかし状況はハンスにとって有利であった。何しろ攻撃されない為には常に動き回らなければならないグレムリンに対し、ハンスは何もする必要が無い。向こうが勝手に疲れて動きが鈍るのを待っていればいいだけの話なのだ。

――あいつと俺は相性が俺の方に傾いてるらしいな。何だ、幹部とか言うから気張ってたが、案外大した事ない奴だぜ――

 既にハンスは勝った気でいるらしい。それも当然か、もう勝敗は見えたも同然なのだから。

 だが彼は知らなかった。グレムリンがジェネシスの魔法使いの中でも特に姑息で狡猾であると言う事を。いずれ限界が来ると知りつつも、しっちゃかめっちゃかに動き回っている事の意味を彼はもっと考えるべきであった。

 どうもグレムリンは派手に動き回りながら、当たるを幸いに滅茶苦茶に剣を振り回しているらしい。無駄に周囲を破壊して、砂埃を巻き上げるだけの攻撃を繰り返すグレムリンをハンスは高みの見物と決め込んでいた。

 そして遂に、ハンスが待ち望んでいたタイミングが訪れる。体力が切れたのか、グレムリンが視認出来るほどに動きが鈍くなったのだ。

「はぁ、はぁ……」
「貰った!」

 グレムリンの動きが止まったタイミングで、ハンスが飛び出しダイスサーベルを振るう。突き出された刃が真っ直ぐグレムリンの胸を貫こうと迫った、次の瞬間…………

 何と、ハンスの放った一撃は僅かに逸れてグレムリンの脇を通り過ぎるだけに留まった。

「な、に……!?」
「アハハッ!」
「がはぁっ!?」

 攻撃が外れた事に唖然としていると、グレムリンは明らかにそこにハンスが居る事を理解した攻撃を仕掛けてきた。放たれた双剣による斬撃は、ハンスの纏うビーストの鎧を大きく切り裂き姿を露にさせた。

「ぐ、あ……な、何で? お前、何で俺の居場所が分かったッ!」

 攻撃を喰らい直前まで、彼は自分の姿が消えていた事を確かに確認している。だから見える筈がない自分を攻撃できるはずがないと、信じられない思いを抱えていたのだ。

 グレムリンがハンスの居場所を探知した方法は実に単純である。彼は何も無意味に周囲を破壊していた訳ではない。
 彼が超高速で動き回りながら周囲を切りつけていたのは、当てずっぽうに攻撃していたのではなく周囲のものを傷付けて砂埃を巻き上げる為であった。例え姿を消していようとも、存在していれば活動の痕跡は必ず残る。グレムリンは巻き上げた砂埃によって、ハンスの動きを可視化させたのである。

 姑息にして狡猾、だが着実に相手を追い詰めるグレムリンの真骨頂を前に、ハンスは思いもよらぬ窮地に立たされるのであった。 
 

 
後書き
と言う訳で第235話でした。

ハンスとグレムリンの戦いは一進一退と言った感じでしょうか。一度は颯人達をも追い詰める実力を持つハンスに、颯人と似て非なる相手の裏を掻く戦いをするグレムリン。実力が拮抗した両者の戦いの結末はまだ分かりません。

改めまして、今年もありがとうございました!また来年もよろしくお願いします!

来年の更新もお楽しみに!それでは、少し早いですが良いお年を! 
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