魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~
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XV編
第234話:未熟な目覚め
時は少し遡り…………
「うぅ……くぅぅ……!?」
記憶が戻ったキャロルと目覚めたハンスの2人と戦ったメデューサは、ギリギリのところで難を逃れていた。しかし、戦いの傷跡は深く、特に最後にキャロルから喰らわされた錬金術による一撃は彼女の体にも大きなダメージとなって刻まれていた。
生き残る為に全ての魔力を注ぎ込んでの防御、お陰で生き永らえる事には成功したが、もう変身を維持するだけの力もなく傷だらけの体を引き摺る様にシャトー内部を彷徨っていた。
「まだ……まだ、終わっていない……!」
戦いには敗北した。それは認めよう。だが全てが終わったわけではない。未だ神の力は彼女達の手中にあると言っていい状況だった。何しろ腕輪と依り代となる未来はまだ押さえている。ここで神の力を未来に降ろし、その力を利用すれば逆転の可能性はあった。
メデューサは彷徨い歩きながら、未来に神の力を降ろす為の部屋へと入り込んだ。そこでは眠らされた未来が祭壇の様な物の上に寝かされ、祭壇と腕輪がコードで繋がっていた。
寄りかかる様に制御用コンソールに取り付いたメデューサは、儀式が可能な状態となっている事を確認し笑みを浮かべる。
「よし、よし……! これならいける……!」
ジェネレーターの起動により、充分なエネルギーが装置に行き渡っている。メデューサは早速制御盤を操作して、エネルギーを注入し腕輪を起動させ神の力を未来へと送り込み始めた。
「よし……行け、行け、行け!」
エネルギーはどんどん腕輪へと流れ込んでいき、周囲には奇妙な音が響き渡る。耳障りにも感じる音に思考を乱されながらメデューサが制御盤を見ていると、突如計器が次々に異常な数値を叩き出し始めた。突然の事態にメデューサは制御盤を操作し制御を取り戻そうとしたが、腕輪に流入していくエネルギーの流れは止まらずそれどころかさらに激しくなっていった。
このままでは最悪、神の力が顕現する前に装置が吹き飛んでしまう。
「クソッ!?」
この事態にメデューサは止むを得ず緊急パージを作動させた。神の力は惜しいが、制御できずに諸共吹き飛ばされてしまっては元も子もない。
速やかに緊急パージシステムを作動させたお陰で、彼女が部屋諸共吹き飛ぶという事態は避けられた。だが異常動作の影響か、はたまたエネルギー流入中にシステムと切り離した事が災いしたのか、今度はエネルギーがあらぬ方向へと流れていくのを感じた。
その流れていく方向は、シャトーの上部。そこで何かが起こったのを感知したメデューサは、一体何がどうなったのかとコンソールに身を預けながら天井を見上げている。
「い、一体、何が……?」
「ふむ……腕輪は起動したのかね?」
「あっ! ワイズマン様……!」
メデューサが天井を見上げていると、何時から入って来たのかワイズマンがすぐ傍まで来ていた。メデューサと違い明滅する腕輪の方を見ていたワイズマンは、徐に右手をハンドオーサーに翳し外の様子を覗き見た。
するとそこには、シャトー上部に浮かび上がった蔦に包まれた胎児の様な何かが存在している光景を確認できた。それを見てメデューサも困惑した様子で外から見た光景とワイズマンを交互に見比べる。
「こ、これは……ワイズマン様? あれが、神の……?」
「ん~、まぁ……多少は不完全なようだねぇ。中途半端な所でエネルギーの流入を止めてしまったから、完全に覚醒する前の状態で止まってしまったらしい」
ワイズマンの見解にメデューサは顔を青くした。エネルギーの流入が止まったのは、彼女が緊急パージシステムを作動させたからに他ならない。つまり、神の力が完全に起動せず未来に神の力を降ろす事が出来なかった原因は彼女にあるという事になる。
自分がワイズマンの計画を狂わせてしまった事に、メデューサは何よりも恐怖を感じてその座に膝をついた。
「も、申し訳ありませんワイズマン様ッ! わ、私が……私が……」
メデューサの感じている絶望は大きかった。彼女達ジェネシスの魔法使いにとって、ワイズマンは絶対の存在だ。その存在に逆らい、見捨てられる事は死ぬことよりも恐ろしい。彼女は今、己の死以上の恐怖を感じていた。
しかし彼女の予想に反して、ワイズマンからの反応はそう悪いものではなかった。
「何、ここまで来れば上出来だ。後は足りないエネルギーを補ってやれば、神の力は完全に覚醒する。その前に…………」
ワイズマンは一旦言葉を区切ると、煙を払うように手を動かしヴィジョンの魔法で映る景色を動かした。スマホやタブレットの画面がフリックするように景色が動くと、そこに映っていたのは記憶を取り戻したキャロルとハンス、そして奏達の姿であった。
「少し、掃除しておくとするか」
***
一方こちらはジェネレーター室。ファラとレイア、そしてヴァネッサの協力でベルゼバブを倒した奏は、直近の脅威が去った事で安堵しその場に腰を下ろしていた。それと同時にシンフォギアも解除され、元の服装へと戻ってしまう。
「ふぃ~……」
分かってはいた事だが、やはり幹部であるベルゼバブは強敵だった。ファラとレイアが損傷していた上に、颯人からのバックアップが完全ではなかったとは言え、ウィザードギアブレイブまで使っておきながらギリギリの戦いであった。少し何かが違っていたら、倒れていたのは自分達の方だったかもしれない。
「はぁ、はぁ……流石に、疲れた……」
もう颯人から分け与えられた魔力もすっからかんだ。純粋な魔法使いではない為魔力が切れたからと言って激しい空腹や眠気に襲われる様な事は無いが、疲れるものは疲れる。それにプールされていた魔力が無い今、再び戦闘になってもウィザードギアブレイブにはなれない。この状態で未来を救い出しキャロル達まで回収しなければならないとなると、ちょっと気分が重くなった。
それでもやらない訳にはいかないと自分に言い聞かせ、重い腰を物理的に持ち上げようと足に力を入れようとした瞬間、眼前に手を差し伸べられた。
「ん? おぉ、悪い……な?」
奏は最初、それをヴァネッサの手だと思った。こんな状況だが一応は共闘した仲だ、少しくらい砕けた接し方になっても良いとその手を掴んで顔を上げる。
だが顔を上げた彼女の目に映ったのは、ヴァネッサの顔ではなくダウルダブラを纏った成人女性の姿となったキャロルであった。今のキャロルの姿に奏は目を二回ほど瞬きさせ、視線も上下に二往復させると顎が外れたかのように口をポカンと開けたまま動かなくなる。
「あ、え……?」
「何をそんな間抜け面をしている。立花 響でもあるまいに」
何気に響が聞けばショックを受けそうな事を口にするキャロルに、漸く思考が動き出した奏は震える指で目の前のキャロルを指差しながら言葉を口にした。
「そ、の姿って…………え? お前、記憶が……」
「あぁ、お陰様でな」
「俺も居るぞ」
「んなぁっ!?」
キャロルの隣にはビーストに変身したままのハンスの姿もあった。キャロルが大人の姿でダウルダブラを纏っているというだけでなく、ハンスまでもが目覚めているという状況に奏は今度こそ言葉を失ってしまう。
その一方で、色々な意味で戻ってきたキャロルとハンスの姿に歓喜したのがファラとレイアであった。
「マスター!」
「よくお戻りになられました!」
「あぁ、すまなかったな」
「俺が動けなかった時、よくキャロルの事を守ってくれたな」
傷付きながらも喜びを露にするオートスコアラー達に、キャロルは奏の腕を引っ張り上げる様に立ち上がらせるとそちらに向かい横たわっているファラを抱き上げた。その後に続きレイアに近付いたハンスの腕の中には、半壊して動かなくなったガリィとボロボロのミカの姿があった。
「ガリィ……それに、ミカ……お前達も派手に頑張ったらしいな」
「安心しろ、完全に壊れた訳じゃない。想い出が切れて動かなくなっただけだ」
「あぁ、必ず直す。尤も、その前に色々とやらねばならない事はあるがな」
そう言ってキャロルは視線をヴァネッサ達の方へと向けた。底冷えするようなキャロルと仮面に隠れて尚感じられる肉食獣の様な視線に、ヴァネッサはエルザとミラアルクを守る様に抱きしめる。
それを見た奏は、流石にこのままではマズイかと仲裁するように両者の間に割って入った。
「待て待て待て、ちょっと待てって、な? えっと、あれだ……色々蟠りがあるのも分かるけど、今は一応同じ奴らを相手に共闘するって事で……」
強敵との戦いが終わったばかりで少し一息つきたいと思っていたところでのこの剣呑な雰囲気に、奏は内心で額に手を当てながら主にキャロル達の方を落ち着かせようと思考を巡らす。だがそんな彼女を見てかどうかは知らないが、キャロルは暫し奏の事を眺めると溜め息と共に肩から力を抜いた。
「案ずるな、天羽 奏。別にそいつらに何かをしようと言うつもりは微塵もない」
「え、そうなの?」
「あぁ。何があったかは覚えている。そいつも、あのベルゼバブに操られていただけのようだしな」
エルザに肩を貸してもらいながら体を起き上がらせているミラアルクを顎で指したキャロル。その瞬間、ハンスが一瞬だけ敵意を剥き出しにした。彼からすればどんな理由であれ、キャロルに害を加えるものに容赦するつもりは無いらしい。一瞬襲い掛かってきそうな気配を感じ取り、ミラアルクは顔を青褪めさせて息を飲んだ。が、キャロルが優しく手を上げてハンスの胸に触れればそれも直ぐに霧散した。何者が相手でも容赦しない凶暴な獣も、キャロルと言う唯一の存在にだけは静かに従うのだ。
その様子にまるで猛獣使いの様だと感じながら、奏は一応キャロルに確認を取った。
「取り合えず、キャロルとハンスは味方……って事で良いんだよな?」
恐る恐ると言った様子で訊ねる奏。可能性は低いと思っているが、万が一今キャロルに敵対されては勝てる見込みはゼロに近い。
そんな奏の不安は承知しているのか、キャロルは小さく息を吐くと体を揺らす様に小さく何度も頷いた。
「あぁ……安心しろ。お前達をどうこうするつもりは無い。これでも一応、感謝はしているしな」
そう言って熱の籠った視線をハンスに向ける。キャロルからの視線に、ハンスも仮面越しに見つめ返した。
何だか既視感を感じる光景を前に、奏は話を戻す為咳払いをして現状の整理を行った。
「まぁ、味方だってんなら百人力だ。と言ってもあんまり無茶させる訳にはいかないけど」
「安心しろ。俺が居ればキャロルは幾らでも戦える」
「え? あ~……ま、何でもいい。取り合えず後は未来だ。こことは別の場所に居る筈だな。お前ら、案内頼むぞ」
当然だが、ジェネシスに加担していたヴァネッサ達は未来が何処にいるのかを知っている。自分達の保護と人間の体に戻してもらう為の条件となるのであれば、その程度お安い御用とヴァネッサが奏達を未来の元へと案内すべく扉の方へと向かおうとした。
「こっちよ、付いて来て」
「おう、頼んだ……ッ!?」
ヴァネッサが奏達を手招きして後ろを振り返っている。その彼女の死角から、緑の仮面の魔法使いが鋏の様な剣を使ってヴァネッサの首を断ち切ろうとしていた。奏はそれを見て咄嗟にヴァネッサの手を引き、諸共に床に倒れ込む様にして彼女をその魔法使いから引き離した。
「チッ!」
「えっ!? なに、きゃっ!?」
「「ヴァネッサ!」」
突然の事態に理解が追い付かないヴァネッサ達だが、直後に聞こえてきた鋏を閉じる音に一斉にそちらを見た。そこではつい先程までヴァネッサの首があった所で、鋏の様に連結させた剣を閉じているグレムリンの姿があった。彼はあと一歩と言うところでヴァネッサの首を絶ちそびれた事に、残念そうに溜め息を吐いた。
「あ~ぁ、残念。もうちょっとでその綺麗な黒髪と一緒に首を切れたのに」
残念そうだが、口調は何処かおちゃらけている。相変わらずのふざけた態度に、奏は以前の事もあり即座に身構えた。
「テメェ、グレムリン!」
「やっほー、奏ちゃん! 相変わらず可愛いね!」
「はっ、お前なんかに褒められても虫唾が走るだけだ。よくもアタシの前に顔を出せたもんだな?」
怒気を滲ませる奏だったが、グレムリンは全く気にした様子もなく分離させた双剣をジャグリングさせている。本当に道化の様なその立ち振る舞いに奏は咄嗟にギアペンダントに手を伸ばしたが、ハンスが彼女の腕を掴んで後ろに引っ張った。
「ッ、ハンス何をッ!」
「お前はさっさとその未来って女の所に行ってこい。コイツは俺が相手をする。キャロル、そっちは任せたぞ」
「気をつけろ、ハンス。そいつ、只者じゃない」
ハンスは抱えていたガリィとミカを奏に押し付けながら、立ち塞がるグレムリンにダイスサーベルの切っ先を向けて牽制する。キャロルは彼の事を信頼しながらも、同時にグレムリンから感じる得体の知れなさを警戒して忠告する事を忘れない。
久しく聞いていなかったキャロルからの穏やかな気遣いに、ハンスは仮面の下で思わず笑みを浮かべる。
「安心しろ。こんなガキンチョに後れを取るほど落ちぶれちゃいないさ。とは言え、ありがとな」
「あぁ。ハンス、後でな」
そう言ってキャロルは仮面越しにハンスの頬に軽くキスをすると、奏達を伴って壁に穴を開けて強引に部屋から出た。
「こっちだ、先ずはS.O.N.G.に連絡を取る」
「あぁ。お前らも来い」
「え、えぇ」
「さ、ミラアルク、行くであります」
「わ、わりぃな」
壁に開けた穴から奏達が出ていく。その様子をハンス越しに見やり、グレムリンは明らかに面白くなさそうに溜め息を吐いた。
「ちぇ~、折角久し振りに会えたのに……」
「随分大人しく見送るんだな?」
正直ちょっと意外だった。ハンスとしてはここでグレムリンがキャロル達を止めようと動き、それを自分が守るという展開を予想していたのだ。しかし予想に反してグレムリンは大人しかった。その事に違和感を感じていると、彼は背筋を虫が這いまわる様な笑い声を上げながら答える。
「んフフフフフ! いやぁね? ここで君を半殺しにして、キャロルの前に持っていけばそれはそれで面白い反応が見られるんじゃないかと思ってさ」
悪趣味なグレムリンからの答えに、ハンスは反吐が出る思いを抱え思わず舌打ちをした。そして思い出した、そう言えばグレムリンは過去の魔法少女事変において、キャロルを唆して自暴自棄な行動に走らせた事を。尤もその時点でハンス自身も想い出を焼却しすぎて正常な判断力などを失ってしまっていた為、グレムリン1人を責めるのはお門違いかもしれなかったが少なくとも彼がキャロルを唆した事は紛れもない事実であった。
「そういやぁ、お前……前にキャロルに俺が死んだとか抜かして唆してやがったな?」
「あれぇ~? そうだったっけ?」
「あぁ別に覚えてる必要はねえぞ。どっちにしろお前はここで俺に、叩き潰されるんだからな……!」
言うが早いかハンスは一気にグレムリンに接近し、ダイスサーベルを上段から振り下ろした。グレムリンはそれを双剣を交差させる事で受け止める。
2人の剣がぶつかり合った瞬間、生じた火花が束の間2人の仮面を照らすのだった。
後書き
と言う訳で第234話でした。
メデューサはまだ生きていました。ヴァネッサ達もあの状況で何とか逃げ切りましたからね。メデューサもあそこで脱落する程容易くはありません。
遂に顕現した神の力。ただし原作同様、まだ未来との融合は済んでおらずシャトーの上に浮かんでる状態です。
奏達と合流したキャロル。AXZ編での奏達との交流もあり、また自身の記憶とハンスの治療の恩もあってキャロルとハンスは無事仲間となりました。
執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!
次回の更新もお楽しみに!それでは。
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