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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第225話:本部襲撃

 翼とマリアがトレーニングルームで鍛錬に励んでいた頃、颯人もまた己を鍛えていた。人の居ない甲板の上で、彼にしては珍しく真剣な表情で佇んでいる。

 変身していない状態で彼は手にソードモードにウィザーソードガンを構え、右手に指輪を嵌めハンドオーサーに翳し魔法を使用した。

〈コピー、プリーズ〉

 使用するのはコピーの魔法。自身と寸分違わぬ分身が彼の目の前に向き合う形で現れると、彼は静かに剣を構えて呼吸を整えた。当然、同じ動きをする魔法であるコピーにより生み出された分身も同じ動きをする。まるで、と言うより完全に鏡合わせそのものの状況に、颯人は軽く深呼吸すると次の瞬間2人の颯人は同じタイミングで相手に斬りかかった。

「シッ!」

 手首のスナップを利かせて、相手の視線を惑わす様に剣を振り回しながら斬りかかる。目の前で自分が自分に斬りかかってくる状況を、颯人はつぶさに観察しながら剣を振るうと同時に放たれた斬撃がぶつかり合い弾かれる。だが颯人は攻撃を止める事無く続け、結果颯人が自分を攻撃し合うと言う傍から見ていると奇妙な光景が広がった。

「フッ! シッ! ふぅ……ゼヤッ!」

 何度も振るわれる剣が互いにぶつかり合い、弾かれ合うも颯人はそれに自ら対応し時にはフェイントを掛ける様に蹴りを放つ。分身はそれにもしっかり追従し、2人の颯人は蹴りがぶつかり合うとその状態で鍔競り合う様に動かなくなった。互いに片足で立ち、相手の足に体重を掛ける様にしてバランスを取り片足での立ち姿を維持していた。

「くっ……チッ」

 暫し互いに支え合う形で立っていた2人の颯人は同時に後ろに跳び、距離を取って呼吸を整える。呼吸を整える最中、颯人は今し方の自分の分身の動きを脳内で再生した。
 颯人がやっているのは、謂わば鏡を見て自分の動きを分析するようなものだ。自分と全く同じ動きをするコピーの魔法を使って、実際に自分自身と戦いその中で自分の動きを観察する。戦う相手から自分はどう見えるのかを見ながら戦う事で、来たる戦いで敵対した者が自分に対しどのような攻撃を仕掛けてくるかを予想するのだ。

「ふぅ……ふぅ……」

 これは颯人にとって、鍛錬であると共に自分自身を見つめ直し心を落ち着ける為の瞑想のような物でもあった。今、颯人は奏を連れ去られた事で冷静さを欠こうとしてしまっている。彼自身の奏を愛する心と、彼の内に巣食うドラゴンが今すぐにでも奏を助けに行こうと飛び出そうとするのを、彼は自分で必死に抑えていたのだ。

――確か、連中はキャロルを狙ったんだったな。記憶を失っても尚キャロルを求める……その理由を考えれば連中が何処に居るのかは大体見当が付く――

 恐らくジェネシスにとって、キャロルではなくハンスを連れ去ってしまった事は大きな誤算だっただろう。本来であれば直ぐにでも何らかの行動を起こしたかっただろうが、肝心のキャロルが居なければそれも儘ならない。きっと連中は今頃内心慌てている筈だ。

 未来を連れ去った事と、キャロルの身柄を求めた事。この二つの事実から見えてくる答えとは即ち…………

「落ち着いているようだな」
「ん?」

 不意に背後から声が掛けられる。颯人が後ろを振り返れば、そこには何時から居たのか輝彦の姿があった。父親の姿に颯人は肩から力を抜くと、コピーの魔法で作り出した分身を消して剣を小脇に抱える様に持ち替え体をリラックスさせた。

「何の用だよ、父さん?」
「いや何、あまり気を張り過ぎてバテているのではないかと心配してな」

 奏を連れ去られて颯人の気が気でないのを輝彦は見抜いていたらしい。それを分かっていながら待機させている父に、颯人は敢えて不満を分かり易く表に出しながら訊ねた。

「無策で飛び出すほど俺も馬鹿じゃねえよ。今すぐ飛び出したい気持ちはあるけどな」
「その気持ちはいざと言う時の為に取っておけ。必ず必要になる」

 輝彦の言葉に颯人は眉間に皺をよせ口をへの字に曲げながら小さく頷く。と、その時彼らの耳に何かが風を切る音が響いた。何かと2人がそちらを見ると、そこには透とガルドがそれぞれ杖と槍に跨りクリスとマリアを後ろに乗せた状態で飛んでいく姿が見えた。既に変身している様子からして、何らかの戦闘が求められているらしい。穏やかではない様子に颯人だけでなく輝彦の表情も険しくなった。

「……何かあったらしいな」
「その様だ。気をつけろ、こちらにも何らかのアクションが無いとは限らない」

 今この瞬間に何が起きたのかは分からない。だが透達4人が一斉に動き出さねばならない程と言う事はそれなりに緊急事態なのだろう。ジェネシスの動きがそれだけで終わるとは思えない。

 一先ず2人は一度弦十郎達に今何が起きているのかを訊ね、然る後にこれからの動きをすり合わせる為の話をしに行こうと甲板を後にしようと踵を返した。
 その瞬間、周囲の空の色が変わった。まるでインクが水に広がるように夜の帳が降りて黒かった空が赤く染まっていく。

 突然の異変に颯人と輝彦が空を見上げると、2人は赤く染まった空から微かに魔力のうねりを感じた。

「これは……父さん!」
「あぁ、結界だ。周囲を結界で囲まれたな」

 2人は背中合わせになって周囲を警戒する。結界は本部潜水艦のみならず湾港もすっぽり覆っていた。これほどの規模の結界を張れるような相手も、その理由も一つしか考えられない。
 2人が次に起こる事を予想していると、上空に次々と魔法使いが転移してくる。その数、10人や20人ではない。

「先手打たれたぞ、いいのか?」
「何とかするしかあるまい」

 次々と周囲に降り立ってくるメイジ達を前に、颯人と輝彦は左手中指に指輪を嵌める。

〈〈ドライバーオン〉〉
〈プリーズ〉〈ナーウ〉

「蹴散らすぞ、颯人」
「了解!」

「「変身!」」
〈フレイム、プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!〉
〈チェンジ、ナーウ〉

 変身の準備を進める2人にメイジ達が一斉に飛び掛かる。だがそれより早くに同時に変身した2人は、魔法使いの鎧を身に纏うと同時に颯人は足に炎の魔力を集めて回し蹴りを放ち輝彦は敵の攻撃をかいくぐって両手にそれぞれ別のメイジの頭を掴むと甲板の上に叩き付ける。

「ハァッ!」
「ムンッ!」

 颯人の蹴りで数人のメイジが吹き飛ばされ、その先に居た別のメイジが飛んできたメイジに撃ち落とされるように甲板に叩き付けられる。一方輝彦は素早く2人のメイジを無力化すると、すかさずハーメルケインを取り出して次に襲い掛かって来たメイジを切り裂き返り討ちにした。

 向かってくるのはどれも以前は雑魚と甘く見ていた琥珀メイジばかりだが、輝彦は攻撃した際の手応えから相変わらず琥珀メイジも能力が上がっている事を実感した。

「ち、連中硬くなってきているな。そう簡単にはいかないか」

 最初に甲板に叩き付けて戦闘不能にしたと思っていたメイジ2人が起き上がっている。それに今切り裂いたメイジも、切り裂かれた部位を手で押さえてはいるがまだ戦闘は続行できるようだ。魔力が上昇して鎧の強度も上がっている証拠だ。ただでさえ数が多い上に、アルカノイズ何かと比べて遥かに頑丈なメイジが更に厄介な敵になっている事に輝彦も思わず舌打ちせずにはいられなかった。

 それでも2人の実力であれば琥珀メイジであれば敵ではなかった。次から次へと襲い掛かって来るメイジを、2人は時に巧みに連携して迎え撃つ。
 その最中突如甲板が大きく揺れ、颯人達だけでなくメイジ達も思わずバランスを崩しそうになりその場に膝や尻をついて転倒する事を防ごうとした。

「ととっ! おいおい、どうやら連中かなり本気らしいぞ」
「あぁ、目的は間違いなくキャロルだろうな」
「人質交換で連れてくつもりじゃなかったのか?」
「さぁな。そこは連中に聞くしかない」

 どうやらジェネシスの攻撃は他の所にも及んでいるらしい。内部に入られたのか、本部潜水艦のあちらこちらで振動が響いている。

 この状況に輝彦はこの場を手っ取り早く片付ける為、右手にエクスプロージョンの指輪をはめた。一度に複数の敵を一網打尽に出来るこの魔法は、使い時を誤れば被害を増やす事にもなりかねない。故に今までここで使う事は控えていたが、もうそんな悠長な事を言っていられる状況ではなくなっていた。

「颯人、今から周りの連中を纏めて吹き飛ばす。その隙にお前は中に戻って、アリスと共にキャロルを守るんだ」
〈エクスプロージョン、ナーウ〉

 魔法を発動し輝彦が手を翳すと、その瞬間周囲に無数の金色の魔法陣が出現する。目の前に魔法陣が出たメイジは息を飲んで固まり、何人かは急いで障壁を張って防御しようとしたりその場から逃れようとしたりするが間に合わず全員爆発に巻き込まれた。
 爆発は一応本部潜水艦や颯人を巻き込まないよう計算されて展開されたが、それでも無数の爆発による余波は避けられず颯人は吹き飛ばされないよう咄嗟にその場に伏せた。

「くぅぅぅ……!」

 全身を叩く爆風の衝撃から身を護る颯人の耳に、吹き飛ばされたメイジ達の悲鳴が響く。瞬間的な衝撃に思わず目を瞑っていた颯人は、衝撃が過ぎ去り目を開けると見渡す限りでは無傷のメイジが皆無な状態となっていた。
 相変わらず大した威力の魔法に、颯人は思わず乾いた笑いが零れた。

「うへぇ、何度見てもスゲェ威力。これ本部にダメージ入ってないか?」
「調整はした。そんな事を気にしている暇があるならさっさとアリスの所へ向かえ。ここに幹部が居ないと言う事は、内部に入り込んだと言う事になるぞ」

 等と話していると、ダメージの少ないメイジが早くも体勢を立て直していた。更には追加で新たなメイジが転移してきて、代わりに動けずにいるメイジが同様に転移で姿を消す。戦いが終わった後に颯人達の手で魔力を封印されて戦えなくさせられる前にこの場を離れるメイジに、輝彦は色々と対策されつつあることを察し舌打ちしつつ颯人を押し込む様に本部内へと向かわせた。

「急げ。ここは私が何とかする」
「分かった、任せたぜ!」

 颯人は輝彦の言葉に力強く頷き、ふら付きながら立ち上がったメイジの横を通り過ぎて本部の中へと入っていく。その際に何人かのメイジが颯人を引き留めようとするが、それらは全て輝彦の妨害により失敗に終わった。

「悪いがここから先は通行止めだ。中に入りたいなら許可証でも持ってくるんだな」

 背後から輝彦がメイジ達と戦う音を聞きながら颯人は本部の中へと入り廊下を駆けていく。本部内ではあちこちで戦闘が行われているのか、そこかしこから騒音や振動が響いてきていた。

 周囲から絶えず響いて来る振動に、颯人は内心に感じる不安を押し殺しながら一路アリスとキャロルが居る医務室の方へと向け廊下を駆け抜けるのだった。 
 

 
後書き
と言う訳で第225話でした。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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