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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第224話:メロディーに隠されたもの

 本部を取り戻す事は出来たが、その代わりに颯人達は大切な仲間である奏と未来、そして未だ眠りから目覚めないハンスをジェネシスに奪われてしまった。しかもハンスと奏はキャロルを手に入れる為の人質としてだが、未来に関しては神の力を下ろす為の依り代として連れ去られた可能性が高いと言う。このままだと未来がどうなってしまうか分からない。最悪響の時の様に、神の力を取り込んだ怪物になってしまう可能性すらあった。

 だが現状、颯人達に出来る事はない。何しろ連中が何処に隠れ潜んでいるのかが分からないのだ。故に、今彼らに出来る事は、何時出動する必要に駆られる事になっても迅速に動けるようにコンディションを整えておく事だけであった。本部を日本政府に制圧されていた時の追い出された様な休息とは違う。次の戦いに備える為の休息だ。

 しかしやはり何もしないと言うのはなかなかに落ち着かないものがあったのか、マリアは翼と共にトレーニングに励み体を温めていた。

「フッ! フ、フッ!」

 トレーニングウェアに身を包んだ2人は、翼が嵌めたミットにマリアが拳を叩き込むミット打ちをしていた。最初はマリアがサンドバックに1人でグローブを嵌めた拳を打ち込んでいたのだが、1人だと色々と考えてしまうと言う事で途中から翼が参加。折角だからと言う事で2人でミット打ちをしていたのである。

「ッ! どうした、マリア? 狙いが甘いぞ!」
「くっ!」

 的確にマリアの拳を受け止める翼は、時折挑発する様に言葉を投げかける。それに反応してマリアが鋭い拳を叩き付ければ、その衝撃に翼が満足そうに頷いた。

「いいぞ、今のは良かった。どうする? そろそろ止めるか?」
「なんの、まだまだぁ!」

 正直な所、そろそろいい感じに疲労も溜まって来たのだが、まだ体を動かしていたいマリアはミット打ちを続行。翼もそれに付き合い、グローブを嵌めた拳がミットを打つ音が止んだのはそれから数分後の事であった。

「「はぁ……はぁ……はぁ……」」

 マリアと翼は、2人揃って顎先から汗が滴り落ちるほどに体を温めていた。暖め過ぎているような気もするが、お陰で余計な事を考えずに済む。ガッツリ汗をかいたおかげで、いいストレスの発散になったようである。

「ふぅ……悪いわね、付き合わせちゃって」
「ん? あぁ、いや。構わない。私も体を動かしておきたかったからな」

 そうマリアに返してくる翼の顔には、多少の憂いはあれど深刻と言う程の不安は見当たらない。相棒である奏が敵の手の内にあると言うのに、必要な分の冷静さは保てている様だった。S.O.N.G.において颯人に続いて奏を大事に想っている翼が案外落ち着いている事に、マリアはちょっぴり意外そうな顔をしていた。

「思ってる以上に冷静ね? こう言っちゃなんだけど、もっと慌てたり神経質になってるかと思ったのだけど?」

 マリアのその言葉に咄嗟に唇を尖らせ反論しようとした翼ではあったが、よくよく考えずとも存外否定できないと言う結論に達して不服そうにしながらも喉元まで出掛かった言葉を飲み込むしか出来なかった。

「む……ん、まぁ……当然心配はしているさ。ただ……」

 翼が冷静さを保てているのには理由がある。その理由にも見当が付いているマリアは、床に両足を投げ出す様に座り天井を仰ぎ見ながら翼が落ち着いている理由を予想し口にした。

「颯人が黙ってるから……でしょ?」
「……当たらずとも遠からずと言ったところだ」

 実際には、奏が連れ去られた直後の颯人の様子があったからこそ保てている冷静さだった。奏を連れ去られると言うのに、何も出来ずにいた無力感を感じているのは颯人も同様だった。そして彼は、その無力感を受け流す事が出来るほど落ち着いた人間ではない。彼が怒りに身を任せて瓦礫を粉砕した事や、その足元で漏れ出た魔力に火が付き足跡が燃えている様子は翼の脳裏にも鮮明に刻まれていた。
 人間と言うものは自分よりも怒り狂った者を見れば、自分の怒りを忘れる事が出来る。翼は正にそんな気持ちであり、普段飄々としている彼が感情を露わにしている姿に逆に冷静さを取り戻せていた。もし彼が怒り狂う様子を見ていなければ、もう少し翼も冷静さを欠いていた事だろう。

「颯人さんなら、奏を助ける為に何だってやる。なら、私はそれを手助けしてみせるさ」
「…………そう」

 疲労を滲ませながらも強い意志を持った目をする翼に、マリアは眩しいものを感じて思わず目を細めた。以前ウェル博士がギアの力を引き出すのには愛が必要だと宣い、そして実際に愛の力がシンフォギアの力を引き出すのに役立っていると知った。それが例えどんな形のものであっても、だ。
 であるとするならば、翼もきっと奏への愛で力を引き出すに違いない。そう思うとマリアは何だか彼女達が羨ましく感じられてしまった。

 あまりにジッと見過ぎていたからか、視線に気付いた翼がキョトンとした顔で首を傾げる。

「? どうした?」
「え?」
「さっきから私の顔をジッと見ているようだが……何かついてるか?」

 言われてマリアは、自分が翼の顔を凝視していた事に気付き慌てて手を振りながら顔を背けた。

「あ、いや! 違う違う、ちょっとぼーっとしてただけだから」
「そう、か……?」

 あまりの慌てように翼もそれ以上の追及はしないでおいたが、気にはなるのか時折視線をマリアの方に向けている。その視線が何だか居心地が悪くて、思わず明後日の方に目を向けているとその先にある扉が開いてガルドが入ってきた。

「おぉ、やっぱりここに居たか」
「あらガルド、何か用?」
「いや何、本番前に余分に疲れてるんじゃないかと思って、ちょっと差し入れをな」

 そう言ってガルドが差し出してきたのは、タッパーに入ったレモンの輪切りのハチミツ漬けだった。体を動かして疲労が溜まった筋肉にはありがたい差し入れに、マリアと翼は早速手を伸ばした。

「ありがとう。ちょうどこういうのが欲しかったの」
「うむ。冷えたドリンクもいいが、これもまたありがたい」

 ハチミツの甘さとレモンの酸味が疲れた体に染み渡る。2人が一息ついている間、ガルドはまるで何かを探す様に周囲に視線を向けていた。ガルドの異変に気付いたマリアは、レモンを齧りながら彼の視線の先を追いつつ何を探しているのかを訊ねた。

「何? 何か探し物?」
「ん? あ~、まぁ。セレナが最近姿が見えない事が多くてな」

 割と最近の話だが、ガルドはセレナとの時間が少なくなってきている事に気付いていた。無論その理由の一つは南極での出来事に端を発した騒動で時間に余裕が少なくなってきているからだが、それとは別にセレナがガルドに内緒で1人何処かに行っている事が多くなっていたのだ。それとなく何をしているのかを聞いてみた事もあるが、本人に直接聞いてもはぐらかされて終わってばかりであった。

 寂しさと不安にガルドが表情にほんのり影を落としていると、マリアは彼を元気付ける様に軽口を叩いた。

「何しょげてるのよ。いい歳した大人なんだから、そんな事で肩を落とさないの。折角だから、歌って元気付けてあげましょうか?」
「マリア、そんな子供扱いしなくても――」

 ちょっと揶揄おうと少し悪い笑みを浮かべるマリアを翼が宥めようとするが、一方のガルドはそれどころではなかった。彼はマリアが放った一言に、何かに気付いたかのようにハッと顔を上げた。

「歌……そうだ! マリア、何時もの”あの歌”! ちょっと今歌ってみてくれないか?」
「え? 何よ急に?」
「いいから!」

 何やら突然急かしてくるガルドに、マリアも翼も頭にハテナマークを浮かべる。とは言え、何か考えがあっての事だろう事は分かるので、取り合えずマリアは要望通りに彼の言う歌……マリアとセレナがよく口ずさむ『Apple』を歌い出した。

「リンゴは落っこちた、お・そ・ら・に~……」

「リンゴは落っこちた、地・べ・た・に~……」

「星が~、生~まれて~、詩が~生~まれて~……」

 暫し、トレーニングルームにはマリアの歌が響く。ガルドは真剣にその歌に耳を傾け、翼も何処か不思議な歌詞に聞き入る様に目を瞑っている。
 そんな時、歌っていたマリアは自身が口ずさむそのメロディーに何かを感じた。

「ルルア~メルは、笑った~、と・こ・しえと~…………ッ!?」

 途中で歌を止め、ハッとした顔で考え込むマリア。それは彼女だけではなかった。歌をリクエストしたガルドも、そして目を瞑り歌に耳を傾けていた翼も、何かを感じ取ったのかマリアに注目した。尤も、感じた違和感の程度には違いがあったのか、ガルドがマリア同様何かを掴んだような顔をしているのに対して、翼は歯の間に物が挟まったような異変を感じた程度だったようだが。

「このフレーズ……最近何処かで聞いた様な……」
「マリアもそう思うか? 俺もだ。だが何処だ? 何処で聞いた?」
「むぅ……」




***




 装者や魔法使い達が次の戦いに備えている頃、サポートスタッフでもある慎次は別命を受けてある物を受け取っていた。

 先日ヴァネッサ達が隠れ家としていた廃棄物処理場跡、そこの残骸を調査している時に発見した物を調査機関に預け、その結果を現物と共に受け取っていたのだ。

 そのある物とはズバリ、アンティキティラの歯車。そう、パヴァリア光明結社の長であるアダムがオートスコアラーのティキに組み込んでいた聖遺物だ。最終決戦の最中に破壊されたティキから破損した状態で飛び出た歯車は、戦闘終了後に回収され保管されていた筈なのである。
 その保管されていた筈の聖遺物が、あんな場所に落ちていたのはどう考えてもおかしい。似た形状の何かである可能性も考えて調査をしてもらったのだが、結果は間違いなく件の歯車である事が分かった。

 これが意味しているのはつまり…………

「やはり、鎌倉とジェネシスないしあの錬金術師達の間には、何らかの繫がりがあるとみて間違いないでしょうね」

 ハンズフリーで運転しながら慎次がそう口にすると、通信機の向こうからは弦十郎の腹の底から押し出すような溜め息が聞こえてきた。

 正直な話、そうと思いたくはなかったと言うのが弦十郎の率直な意見であった。曲がりなりにも国を守る為の組織が、国や民を危険に晒す組織と結託しているなどとは。
 だがここまで証拠が揃ってしまえば、もう言い逃れも出来よう筈がない。保管された聖遺物が強奪されたなどの報告はない筈なのに、物が敵対組織の手に渡っていたのだ。どう考えても横流し以外にはあり得ない。そしてそれが出来る人物となると、最も考えられる人物はただ1人。

『考えたくはなかったな。その一線だけは超えないと、思いたかったのだが……』

 心苦しそうに呟く弦十郎に、車の運転をする慎次も苦虫を噛み潰したような顔になる。何と言葉を掛ければいいか分からないのだ。

 通信機越しに重苦しい雰囲気を感じていると、慎次の耳に輝彦の声が入ってきた。

『今はそれよりも、証拠物件を確実に持ち帰る事の方が先決だろう。向こうだって馬鹿ではない、自分達が不利になる様な代物が持ち出されるのを黙って見ている事はしないだろう』

 窘める様な輝彦の言葉に、慎次も表情を引き締める。今回の行動は秘密裏に行っていた為感付かれてはいないと思いたいが、相手側に魔法使いがついているとなると油断する事は出来ない。
 同時に慎次は輝彦に感謝した。今のは恐らく、弦十郎達の思考を逸らす為の彼なりの気遣いだったのだろう。風鳴機関、そしてその長である訃堂が何らかの不正を行っていた事を悩む弦十郎を、一時とは言え悩みから解放する為の発言でもあったのだ。

 その気遣いが、結果的に慎次を危機から救った。

「――――ハッ!?」

 不意に頭上から察した殺気。咄嗟にハンドルを切ると、直後に先程まで彼の乗る車の進行方向だった場所に無数の光の矢が突き刺さった。矢が突き刺さった場所は爆発し、コンクリートの道路を粉砕する。

 それが敵の魔法使いの攻撃である事に気付いた慎次は、車が敵の攻撃を受けない様にとハンドルを絶えず切りながら通信で状況の報告と救援を求めた。

「くっ!? 敵襲ですっ! 目的は恐らく証拠物件の奪取か隠滅と思われます!」

 生憎と車内からは頭上の様子が分からない。だが後方の護衛車両が次々と撃破されていく様子がバックミラーに映る様子から、敵は複数いるのだろう事が伺えた。

 その襲撃者……メデューサは、部下のメイジ達に残る慎次の車への攻撃を命じた。

「必ず仕留めなさい。今あの男との関係が知られたら面倒な事になるわ。証拠物件も纏めて吹き飛ばして構わないわ」

 残されたのは慎次が運転する車のみ。たった1台の車に、総勢5人の琥珀メイジが群がり四方から攻撃を仕掛けようとした。
 だが現代の忍者である慎次は、車の運転も尋常ではなかった。彼はアクション映画も真っ青な運転テクニックで、ギリギリのところでメイジ達の攻撃を躱し時には車を側転させるなど常識外れの動きで逆に敵を翻弄してみせた。

 あまりにもとんでもない動きを見せる慎次の車に、業を煮やしたメデューサが一気に片をつけようとバニッシュストライクの魔法を発動。巨大な魔力球で、道路や周囲のビルごと慎次の乗る車を吹き飛ばそうとした。

「終わりよ!」
〈イエス! バニッシュストライク! アンダスタンドゥ?〉

 頭上から迫る魔力球。当たれば跡形もなく吹き飛ぶ威力のそれが直撃しそうになる寸前、信じられない事に慎次の乗る車が3台に分身し攻撃を回避してしまったのだ。

「な、ぁ……!?」

 分身した車はギリギリのところでメデューサの魔法の威力から逃れ、道路は大きく抉られたが車は無事にその場から走り去ってしまう。その光景にメデューサも唖然と見送ってしまった。

「あれに乗ってるのはまさか魔法使い? いや、あんな魔法聞いた事も……って! ぼんやりしてる場合じゃないわ!」

 慌てて部下と共に車を追おうとしたメデューサであったが、その部下達が後方から飛んできたミサイルで次々と撃ち落とされていった。まさかと思い背後を振り返ると、そこには透が変身したグロウ=メイジがライドスクレイパーに跨り、それにタンデムしたクリスがスカートアーマーを展開してマイクロミサイルを発射している光景を目にした。
 更にその後方には、同じようにマイティガンランスを魔法の箒代わりにして飛んでくる、キャスターに変身したガルドとアガートラームを纏ったマリアの姿があった。

「見つけた、メデューサ!」
「今日こそ決着をつけてやる!」
「くっ!?……フフッ」

 迫る魔法使いと装者の姿に、メデューサは状況の不利を悟った。が、同時にほくそ笑みもした。まさか自分1人に4人も投入してくるとは思っていなかったから焦りはしたが、それは寧ろ好都合。とは言え流石に1人で4人を同時に相手をする訳にはいかないので、メデューサは4人を撒く為透と同じくライドスクレイパーを駆り首都高へと入った。御丁寧に高度を下げ、他の一般車と同じ目線に立ってである。

 その光景にマリアが嫌悪に顔を顰めた。

「相変わらず卑劣な……! 一般人を巻き込んでッ!」

 あそこまで一般車両と接近されては、クリスお得意の広域殲滅攻撃が使えない。地道に追跡して倒すしかない状況に、透とガルドが杖と箒を操り上空からメデューサに接近しようとした。
 彼らの眼下で、メデューサは手頃なサイズのトラックの荷台に乗ると下から魔法の矢で迎撃し始める。下からは好き放題に撃てるが、あちらは下手に攻撃すると道路や一般車両に被害を出してしまう。その甘さを逆手に取った形だ。

 今までの透達であれば、或いはこれで動きを大幅に制限されていただろう。今もそれ自体は変わらないが、しかし以前までの彼らと今の彼らではこういった状況への対応にも違いがあった。

「マリアさん、頼みます!」
「分かったわ!」
「クリス、行くよ!」
「あぁっ!」

 透は徐にカリヴァイオリンの片方をブーメランの様に投擲した。弧を描いて飛ぶ剣は、そのままの軌道を行けば横合いからメデューサに襲い掛かる。だが見え透いたその攻撃を素直に喰らう程、メデューサも甘くはなかった。

「その程度!」

 メデューサは軽く上体を逸らす事で飛んできたカリヴァイオリンを回避。避けられた剣は虚しく空を切り、そのまま明後日の方へと飛んでいく筈であった。
 だがここで今度はマリアが動いた。彼女はアガートラームのアームドギアである短剣を蛇腹剣にして伸ばし、明後日の方へと飛んでいく筈であったカリヴァイオリンにぶつけて軌道を変えさせたのだ。軌道が変わったカリヴァイオリンは別方向からメデューサへと迫り、それに気付いた彼女は透達への反撃を中断して大きく体勢を崩しながらもギリギリのところで飛んできた刃を交わした。

「くぅっ!?」

 危うい所だったが、何とかこれも躱す事が出来た。その事にトラックの上で起き上がりながら安堵をしていると、今度はクリスがライフルに変形させたアームドギアで飛んでいるカリヴァイオリンを撃った。その銃弾は回転しながら飛んでいる剣に弾かれ、完全に油断しているメデューサの脇腹に突き刺さる。

「貰った、そこだぁッ!」
[RED HOT BLAZE]
「うぐぁ、なぁ……!?」

 最初に一撃のみならず、続く二撃目までもがフェイント。本命はクリスの一撃である事に気付いた時には既に遅く、脇腹に走る熱い衝撃を感じたと思った次の瞬間にはメデューサはトラックの荷台から突き落とされていた。

「く、そぉぉぉっ!?」
〈イエス! スペシャル! アンダスタンドゥ?〉

 だがメデューサもただではやられない。彼女は落下の直前、悪足搔きの様に周囲に石化魔法を放ったのである。あれは普通の魔法では防御出来ない事を知っている透とガルドは、咄嗟に足元の道路を破壊しその残骸を壁にして自分達と周囲の一般車両を守る為の盾にした。

「チィ、トオル!」
「はい!」
〈キャモナ! シューティング、シェイクハンズ! ファイアー、シューティングストライク!〉
〈イエス! グラビティ! アンダスタンドゥ?〉

 ガルドが破壊した道路の残骸を、透が重力魔法で浮かせて石化光線を受け止める。それと同時にガルドは後方から走って来る車両を強制的に停車させる為、バインドの魔法で迫る車両を根こそぎ急停車させ被害の拡大を防いだ。お陰で道路の破損以外に被害はなく、トラックから振り落とされたメデューサは落下すると慣性の法則で前方に転がりながら変身が解除されその場で倒れた。

「うぐ……うぅ……」

 痛む脇腹を押さえるメデューサ。幸いと言うべきか、クリスの放った銃弾は直撃はしたが跳弾した際に威力を幾分か失っていたのかメイジの鎧を抜く事は出来なかった。だが衝撃までは完全に防ぎきれず、内臓を傷付けられたのか口からは血が零れ落ちている。

 満身創痍になりながらも、この場から逃れようと腕だけで這って移動するメデューサだったが、一般車両を守り切った透達は崩れた道路の先で地べたを這う彼女に追い付きクリスがリボルバー拳銃に変形させたアームドギアを突き付ける。

「プチョヘンザだ! 観念しな、メデューサ」
「年貢の納め時と言う奴だ」
「あ、今度は間違わなかったわね?」
「これぐらい間違えるか!」
「ゴメンナサイ、僕もちょっと驚いてます」
「はぁっ!?」
「今までの事を思い出すんだな」

 漸く因縁のあるメデューサとの戦いにも決着が付きそうだと言う事で、警戒は怠らないながらも互いに軽口を叩き合い始めるクリス達。

 だがこんな追い詰められた絶体絶命の状況にありながら、メデューサは不意に口から笑みを零し始めた。

「フ……フフッ、クククッ……!」
「あ? 何が可笑しいんだ、お前?」
「気をつけろクリス。何か企んでいるかもしれん」

 突然笑い出したメデューサに怪訝な顔をするクリスと、まだ何か仕込んでいるのではと警戒するガルド。その彼らに対し、メデューサは傷だらけの顔で笑いながら口を開いた。

「ば、馬鹿な奴らね……まだ気付かないの?」
「何がですか?」
「さっきから、耳が静かな事に……よ」

 耳が静か……その意味が分からず最初首を傾げていた透達だったが、その言葉の意味に気付きマリアが顔を青褪めさせて本部と通信しようとする。

「まさか……本部、応答して! ねぇ聞こえてる? ちょっと!」

 マリアの呼び掛けに、しかし本部からは何の応答も無い。

 それが意味する事はつまり……本部への直接攻撃であった。 
 

 
後書き
と言う訳で第224話でした。

原作では歯車を追跡するのはヴァネッサでしたが、本作ではメデューサにその役が回ってきました。作中ではこの時ヴァネッサはそれどころではないので。しかもメデューサの行動自体、実は陽動であったと言う事がラストで明らかとなりました。ヴァネッサ達とは目的も何もかもが違うが故の変化です。次回はこの時本部で何が起きているのかをお見せできればと思います。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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