遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―太陽―
前書き
あけおめ
「……よし。準備出来たぞ、遊矢」
「ああ」
デュエルアカデミアの一室にて、パソコンのキーボードを目にも止まらぬ速さで叩いていた三沢は、ようやく一息ついてこちらを見た。休憩の時間かと思ったが、作業を終わらせたらしく、タブレット端末でどこかに連絡を取っていた。
「……少し、思う。どうしてあの場所で、お前と対面してるのが俺じゃないんだってな」
「それは……」
「いや、いいんだ。後悔してるわけじゃない」
こちらが何か言おうとするよりも早く、後悔しているかのような言葉を吐いた、当の三沢に止められる。しかも後悔のような――という、こちらの予想までもが否定されて。
「世界を救う舞台でお前との決戦……というのにも憧れるが、これは裏方でも俺にしか出来ないことだからな」
愛おしそうに先程まで酷使していたパソコンを撫でていると、三沢のタブレット端末に新たな連絡が帰ってきた。しかしてその連絡は三沢宛ではあるものの、実質は俺に向けての連絡でもあった。
「それにここの守りも必要だしな。……勝って来いよ、遊矢」
「ついでに、世界も救ってやるさ!」
どこか晴れやかな気分のまま、他愛のない親友との会話を済ませて、部屋の奥に設えられた一角に到着したエレベーターに乗り込むと、この建物の最上階へと向かっていく――つもりだったのだが。そのエレベーターには先客がおり、その彼女が既に最上階へのボタンを押しておいてくれたらしい。
「レイ……?」
「遊矢さ……ううん。遊矢お兄ちゃん、途中まで一緒に行かせてよ」
「……ああ」
どこから忍び込んだやら、そこにいたのは早乙女レイ。変わらぬ笑顔を見せてくれる彼女に、自然と顔を綻ばせながら、俺たちはともにエレベーターに乗り込んだ。
「ねぇ、遊矢さ……お兄ちゃん」
「……言い辛いなら、様でもいいぞ」
「ダメだよ! ボクのけじめなんだから!」
どうしても呼び辛そうにしているレイに苦笑しながら、以前ならば天地がひっくり返っても許さなかったであろう、様付けを許そうとしたものの。それは他ならぬレイの口から否定されてしまう――彼女が言う『けじめ』を、わざわざ詮索することはないが。
「それで、わざわざどうしたんだ?」
「……近くで見届けさせて。ボクには明日香さんみたいに戦う力はないから、明日香さんの代わりに」
「それは……負けられないな」
エレベーターは最上階に向かっていく。俺たちが行おうとしているのは、これまで防御しか出来なかったダークネスへの、こちらからの攻撃だった。
「うん! 負けたら、明日香さんの分まで容赦しないんだから!」
その方法は、三沢によってもたらされた異次元への移動技術。先程、三沢が最終調整を終わらせたそのシステムによって、ダークネスの親玉が住まう次元に直接乗り込むのだ。もちろんそれを敵も黙って見ているわけがないが、アカデミア各地でダークネスの尖兵と、次元移動技術を守る仲間たちの戦いが始まっているだろう。
「ああ!」
彼ら彼女らの無事を挑みながら、レイからの激励を受け取りながら、エレベーターが最上階に到着する。そこに見えてきたのは一面の青空であり、ここがアカデミアの最上階だと分かる。
『シニョール&シニョーラ! お待たせしたノーネ!』
「じゃあ……行ってくる」
「……うん!」
どこかから中継されているクロノス教諭のアナウンスを聞きながら、レイの頭を撫でてからアカデミアの屋上を進んでいく。
『これより、卒業模範デュエルを開始するーノ!』
次元移動技術でダークネスの次元に移動するのはいいが、その起動には多量のデュエルエナジーが必要だということは、俺たちは砂の異世界の件で身を持って体験していた。よってこの、卒業生の一人と指定された下級生によるエキシビジョンマッチである卒業模範デュエルによって、次元移動技術のデュエルエナジーを溜めるのだ。
「懐かしいな……」
もう二年前にもなる、カイザー亮との卒業模範デュエルのことを思い出し、まさかもう一度この場に立つとは思わなかった――と苦笑する。かのバトルシティの最終決戦の場を模した、アカデミアの最上階――アカデミア・タワー。
「…………」
そこに彼は待っていた。最小年プロデュエリスト、エド・フェニックス。一応はアカデミアの下級生であるエドとのデュエルで、ダークネス次元への移動に必要なデュエルエナジーを満たす――
――などというのは、もはや建て前に過ぎない。俺もエドも、出会ってから交わしてきた幾度ものデュエルへ、この場でおあて純然たる決着を。ダークネスとの戦いの為ではない、どちらがデュエリストとして上か、ケリをつけるためにここに来た。
「決着をつけよう……エド!」
「来い、遊矢!」
『デュエル!』
遊矢LP4000
エドLP4000
このデュエルに勝利した者こそが、次元移動を果たしダークネスとの戦いに臨むことになるだろう。しかし、今は彼方に待つ『世界を救う』ことなんかよりも、目の前に立つ好敵手に征すことをおいて他にはない。
「俺の先攻!」
それは俺にエドも、お互いに何を言わずとも分かっていた。故に余計な言葉を交わすことはなく、先攻を指し示したデュエルディスクに俺は従い、手元に現れた五枚の手札を歓迎する。
「俺は《マジカル・ペンデュラム・ボックス》を発動! カードを二枚ドローし、それがペンデュラムモンスターなら手札に加える!」
「ペンデュラム……!」
先まではこの世界では普及していない為に使用を自重していたが、もはやこの決戦にそんなことを言っている暇はない。まずは強力なサポートカード《マジカル・ペンデュラム・ボックス》によりカードを二枚ドローすると、俺は二枚のカードを手札に加えるとともに、新たにデュエルディスクに加えられたゾーンにセッティングする。
「俺は《音響戦士マイクス》と、《音響戦士ギータス》をペンデュラムスケールにセッティング!」
そして二対の音響戦士ペンデュラムモンスターがセッティングされ、真紅と真蒼、二つの光柱が天空に向かって伸びていく。これでレベルが2から6のモンスターが同時に召喚可能ではあるが、今はまだその時ではない。
「《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキから新たな音響戦士を特殊召喚出来る! 現れろ、《音響戦士ドラムス》!」
ペンデュラムモンスターは、ただペンデュラム召喚を可能とするカードではなく、永続魔法のように他のモンスターのサポートに回る。発動された《音響戦士ギータス》の効果もその一種であり、デッキから《音響戦士ドラムス》が特殊召喚される。
「さらに墓地の《音響戦士ピアーノ》を除外することで、フィールドの音響戦士の種族を変更出来る! 俺は《音響戦士ドラムス》の種族を炎族に変更し、さらに《音響戦士サイザス》を通常召喚!」
《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を起点に、盤面が目まぐるしく動いていく。《音響戦士ギータス》の効果の手札コストとして墓地に送られていた、《音響戦士ピアーノ》の効果により、フィールドの《音響戦士ドラムス》の種族は炎族へと変更される。
さらに《音響戦士サイザス》を通常召喚したことにより、チューナーモンスターを含む二体のモンスターがフィールドに揃う。対するエドも目に見えてシンクロ召喚を警戒しているようであったが、俺が得た新たな答えは違うものだった。
「そして《置換融合》を発動! フィールドの音響戦士二体を融合する!」
「融合召喚!?」
まるで予想していなかったのか、驚愕の声をあげるエドをよそに、二体の音響戦士たちは《置換融合》によって一つとなっていく。
「集いし爆炎よ、龍の形となりて飛翔せよ! 融合召喚! 《重爆撃禽 ボム・フェネクス》!」
融合召喚されるはその名の通りに、爆炎とともに飛翔する不死鳥。その融合素材は機械族モンスターと炎族モンスターというもので、本来ならばこの【機械戦士】デッキで融合召喚出来るものではないものの、それは種族の変更を可能とする《音響戦士ピアーノ》でカバーする。
「カードを一枚伏せ、《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の効果発動! フィールドのカード×300ポイントのダメージを相手に与える! フェネクス・ビッグ・エアレイド!」
「くっ……!」
エドLP4000→2800
その効果は、フィールドのカードの数に比例するバーン効果。明日香とのデュエルで使った、同じ融合素材を必要とする《起爆獣ヴァルカノン》と違ってモンスターの除去は出来ないが、こちらは安定したダメージが強み。
「エンドフェイズ、《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果。除外された音響戦士を手札に加え、ターンを終了する」
「僕のターン、ドロー!」
そして《重爆撃禽 ボム・フェネクス》とリバースカードが一枚伏せられ、エドのライフにもバーンダメージを与えつつターンを終了する。加えて《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果によって、自身の効果で除外されていた《音響戦士ピアーノ》を手札に加えた後、爆炎をバックにエドはカードをドローする。
「僕は《デステニー・ドロー》を発動! 手札のD-HEROを一枚捨て、カードを二枚ドロー……さらに《魔玩具補綴》を発動!」
エドの初手は《デステニー・ドロー》。だが比較的よくあるその手札交換魔法とは違い、さらに発動された《魔玩具補綴》はそうではなかった。
「《魔玩具補綴》は、デッキから《融合》とエッジインプモンスターを手札に加えることが出来る。遊矢、進化しているのはお前だけじゃない! 《融合》を発動!」
十代のE・HEROとは違い、エドのD-HEROは融合を多用するモンスターたちではなかった。しかして《融合》のサポートカードである《魔玩具補綴》とともに、エドのフィールドに新たなモンスターが融合召喚される。
「融合召喚! カモン、《D-HERO デッドリーガイ》!」
手札の二体のモンスターを融合することで、紫雲の翼をはためかせた新たなD-HEROが現れる。進化しているのはお前だけじゃない――という言葉の通りに、ご丁寧にこちらと同様に融合召喚で。
「さらにセメタリーの《エッジインプ・シザー》のエフェクト発動! 手札を一枚デッキトップに置くことで、セメタリーから特殊召喚出来る!」
そして墓地で効果を発動したのは、先程《魔玩具補綴》で《融合》とともに手札に加えられたエッジインプモンスターの一種、《エッジインプ・シザー》。もちろんエドと言えばHERO使いであるが、十代も同様に、カテゴリー外のモンスターをサポートに投入することも珍しくない。
「さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚し、エフェクト発動! ハードネス・アイ!」
さらにエドは、まだ通常召喚をしていない。新たに《D-HERO ダイヤモンドガイ》を召喚し、その特徴的な効果を発動する。デッキトップを確認し、それが通常魔法だった場合、そのカードを未来に送る。本来ならば、幾分かギャンブルな効果ではあるが、今回に限ってはそうではない。
「未来は確定している。通常魔法《終わりの始まり》はセメタリーに置かれ、未来にそのエフェクトを発動する」
《エッジインプ・シザー》が墓地から特殊召喚された際、その代償としてデッキトップにカードが置かれた。墓地から特殊召喚する際のデメリットなのは疑いようもないが、それがダイヤモンドガイのサポートに繋がっていた。
「さらにデッドリーガイのエフェクト! 手札一枚をコストにデッキからD-HEROをセメタリーに送り、フィールドのD-HEROの攻撃力を、セメタリーのD-HEROの種類×200ポイントアップする!」
そしてデッドリーガイの効果は、デッキのD-HEROを墓地に送ることによる全体パンプアップ。とはいえパンプアップというよりは、狙ったD-HEROを墓地に送ることの方が脅威的か。事実、デッドリーガイの攻撃力は2800ポイントと、惜しくも《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の攻撃力を越すには至らない。
「バトル! デッドリーガイでボム・フェネクスを攻撃!」
――にもかかわらず。エドはまったく構わないとばかりに、デッドリーガイでの攻撃を敢行した。もちろんこのままであれば、ボム・フェネクスとデッドリーガイが相打ちになるのみだが、俺の脳裏に攻撃時にD-HEROの攻撃力を上げる《D-HERO ダガーガイ》のような、攻撃力増減のカードが浮かぶ。当の《D-HERO ダガーガイ》の効果は、相手ターンにしか発動出来なかった筈だが、攻撃力増減のカードなど数え切れないほどにある。
「リバースカード、オープン! 《くず鉄のかかし》!」
そのプレッシャーに耐えることが出来ずに、デッドリーガイを返り討ちにすることなく、伏せていた《くず鉄のかかし》を発動する。とはいえここで《重爆撃禽 ボム・フェネクス》が破壊されてしまえば、強化された《D-HERO ダイヤモンドガイ》の直接攻撃が炸裂していたので、発動しないという手はなかったものの。
「やはり《くず鉄のかかし》……か。カードを一枚伏せ、ターンを終了する!」
「っ……俺のターン、ドロー!」
そして戦闘結果にさしたる興味もなさそうなエドの様子に、エドの手札には攻撃力増減系のカードはなかったのだと確信する。こちらのリバースカードが《くず鉄のかかし》だと読んだ上で、それを試すべく攻撃を仕掛けてきた。
「ボム・フェネクスの効果発動! フェネクス・ビッグ・エアレイド!」
もちろん後続のダイヤモンドガイのこともあり、《くず鉄のかかし》を発動しない訳にはいかなかったが、結果的にそれは、エドのデッドリーガイを守ったということになり。エドの思った通りにデュエルが進行していることに、焦りを感じながらボム・フェネクスの効果発動を宣言する。
「フィールドのカード×300ポイントのダメージを相手に与える!」
「甘い! 僕はセメタリーの《D-HERO ディシジョンガイ》のエフェクト発動! 僕が効果ダメージを受ける時、このモンスターを手札に戻すことで、そのダメージを無効にする!」
ただし同じ効果が二回通用するほど、エドも甘い相手ではなく。《重爆撃禽 ボム・フェネクス》による火炎弾の爆撃は、いつの間にやら墓地に送られていたモンスター、《D-HERO ディシジョンガイ》の効果で阻まれる。
「……魔法カード《アドバンスドロー》を発動! レベル8であるボム・フェネクスをコストに、カードを二枚ドローする」
ならば攻撃――といきたいところだが、《重爆撃禽 ボム・フェネクス》は、自身の効果を使ったターンに攻撃することは出来ない。最初のバーンダメージを与えてくれたことに感謝しながら、レベル8モンスターをコストに二枚ドローする魔法カード《アドバンスドロー》によって、リリースして二枚のドローに還元する。
「さらに墓地の《置換融合》の効果。墓地の融合モンスターをエクストラデッキに戻すことで、カードを一枚ドローする!」
さらに《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の融合召喚に使用した魔法カード《置換融合》は、融合モンスターをエクストラデッキに戻し、自身を除外することで一枚のドローとなる。よって計三枚のカードをドローし、再び手札は潤沢な状態に戻っていた。
「俺は《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキから《音響戦士ベーシス》を特殊召喚!」
そして展開の起点はやはり、《音響戦士ギータス》のペンデュラム効果。手札一枚をコストに、デッキに残る最後の音響戦士こと《音響戦士ベーシス》を手札に加える。
「さらに墓地の《音響戦士ドラムス》の効果! このカードを除外することで、フィールドの音響戦士の属性を変更する!」
《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の融合素材となった音響戦士、《音響戦士ドラムス》が自身の効果により、フィールドの音響戦士の属性を変えつつ除外される。しかして今回の属性変更は対した意味を持つものではなく、《音響戦士ドラムス》が除外された、という結果こそが重要だった。
「そして墓地の《音響戦士サイザス》は、自身を除外することで、除外ゾーンの音響戦士を特殊召喚する! 来い、《音響戦士ドラムス》!」
同じく《重爆撃禽 ボム・フェネクス》の融合素材となっていた《音響戦士サイザス》の効果により、《音響戦士ドラムス》が除外ゾーンを経由してフィールドに戻る。これで二体の音響戦士がフィールドに並ぶが、音響戦士は単独で戦闘をこなすステータスはない。
そんな音響戦士たちのもとに駆けつけるかの如く、俺のフィールドに展開していた二つの光柱がさらに輝きを放っていき、上空に魔法陣が形成される――ペンデュラム召喚だ。
「ペンデュラム召喚! 《音響戦士ピアーノ》! 《ターレット・ウォリアー》! 《ガントレット・ウォリアー》!」
二体の機械戦士が魔法陣から解き放たれ、通常召喚権を使うことなく三体のモンスターが同時に召喚される。ペンデュラムモンスターを《音響戦士ギータス》と《音響戦士マイクス》しか持っていないため、その真価を発揮することは出来ないものの、こうした召喚補助には役に立つ。
もちろん、シンクロ召喚の補助に他ならない。
「いくぞエド! まずはレベル3の《音響戦士ピアーノ》に、レベル3の《ガントレット・ウォリアー》をチューニング!」
そして五体のモンスターが埋まったフィールドで、続々とシンクロ召喚が開始される。まずは《音響戦士ピアーノ》と《ガントレット・ウォリアー》が光に包み込まれていき、合計レベルが6のシンクロ召喚。
「集いし星雨よ、魂の星翼となりて世界を巡れ! シンクロ召喚! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」
シンクロ召喚されたのは、新緑を基調とした装甲に身を包んだ、星屑の名を冠した機械戦士。機械戦士シンクロモンスターの中でも、最も攻撃力が低いモンスターではあるが、その効果はとびきり優秀だ。
「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》がシンクロ召喚に成功した時、カードを一枚ドロー出来る! ――ドローした《スカウティング・ウォリアー》の効果を発動!」
《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の第一の効果は、シンクロ召喚に成功した際のドロー効果。この効果によってカードをドローし、それが新たな機械戦士の道筋となる。
「《スカウティング・ウォリアー》は通常のドロー以外で手札に加わった時、特殊召喚される。さらに墓地の《音響戦士ピアーノ》を除外することで、《音響戦士ドラムス》の種族を変更し、この二体でチューニング!」
《スカウティング・ウォリアー》が特殊召喚されたことで、新たなチューナーと非チューナーのコンビが生まれる。例によって、除外効果による種族変更自体にあまり意味はないが、ともかく《音響戦士ドラムス》と《スカウティング・ウォリアー》の二体もまた、合計レベル6のシンクロ素材となっていく。
「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」
デュエルスタジアムという大地を打ち砕きながら、獣をかたどった機械戦士が新たにシンクロ召喚される。そしてグラヴィティ・ウォリアーはエドのフィールドを睥睨し、D-HEROたちの放つ威圧感に身を震わせて、その身をさらに鋭くしていく。
「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」
グラヴィティ・ウォリアーは自身の効果により、エドのフィールドにいる三体のモンスター――デッドリーガイ、ダイヤモンドガイ、エッジインプ・シザー――の数だけ、その攻撃力を上げ3000の大台へと突入する。
「最後にレベル1の《音響戦士ベーシス》と、レベル3の《ガントレット・ウォリアー》をチューニング!」
最後に残った《音響戦士ベーシス》と《ガントレット・ウォリアー》もまた、例外なくシンクロ召喚の素材へと使用される。合計レベルは4と低く、そのレベルのシンクロモンスターは、俺のデッキには一つしかない。
「集いし願いが、勝利を掴む腕となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《アームズ・エイド》!」
シンクロ召喚されるは、もちろん機械戦士たちの補助兵装こと、他に類を見ない効果を持つシンクロモンスター《アームズ・エイド》。モンスターの装備カードとなる、という効果を持つモンスターとして、既にフィールドにいた《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備されていく。
「《アームズ・エイド》はモンスターに装備することで、攻撃力を1000ポイントアップさせる!」
よって《スターダスト・チャージ・ウォリアー》の攻撃力も、《グラヴィティ・ウォリアー》と並び3000の攻撃力。エドのフィールドのD-HEROたちを、軽々と破壊できる数値となった。
「さらに魔法カード《シンクロ・クリード》を発動! フィールドに三体のシンクロモンスターがいる時、カードを二枚ドロー出来る!」
そしてシンクロ召喚した三体のシンクロモンスターが、魔法カード《シンクロ・クリード》の発動条件を満たす。本来ならば、相手フィールドも合わせて数えるカードであるが、今回は三体ともこちらのフィールドに存在する。
「バトル! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》で、《D-HERO デッドリーガイ》に攻撃! スターダスト・クラッシャー!」
「リバースカード、オープン!」
《スターダスト・チャージ・ウォリアー》が放つ、《D-HERO デッドリーガイ》を狙う閃光の一撃。デッドリーガイはまるで抵抗する素振りを見せなかったが、その一撃は見えない障壁に阻まれていた。
「僕が発動したのは《リビングデッドの呼び声》。そのエフェクトにより、セメタリーから《D-HERO ドレッドガイ》を特殊召喚していた!」
その障壁の正体は、エドが発動したリバースカード――ではなく。正確にはそのリバースカード《リビングデッドの呼び声》によって、墓地から特殊召喚されていた《D-HERO ドレッドガイ》。
「《D-HERO ドレッドガイ》が特殊召喚されたターン、僕のD-HEROたちは戦闘ダメージを受けず、破壊されない! ドレッド・ウォール!」
先の《D-HERO デッドリーガイ》の効果によって、先んじて墓地に送られていたのだろう、《D-HERO ドレッドガイ》の効果。それは特殊召喚された際に、D-HEROに完全な戦闘への耐性を与えるものであり、三体のD-HEROを破壊する手段は俺にはない。
「だが、D-HEROじゃないそいつは破壊させてもらう! 《スターダスト・チャージ・ウォリアー》、《エッジインプ・シザー》に攻撃!」
しかして《D-HERO ドレッドガイ》の効果で守ることが出来るのは、あくまでもD-HEROモンスターのみ。守備表示のためにダメージは与えられないものの、特殊召喚された相手モンスター全てに攻撃できる効果でもって、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は容易く《エッジインプ・シザー》を破壊する。
「《スターダスト・チャージ・ウォリアー》に装備された《アームズ・エイド》の効果! 破壊した相手モンスター攻撃力分のダメージを、相手に与える!」
「ぐっ……!」
エドLP2800→1600
さらに与えられないのは戦闘ダメージだけであり、《アームズ・エイド》の効果によって生じるバーンダメージがエドを襲った。しかし《D-HERO ドレッドガイ》の効果を、これ以上かいくぐることは出来ずに、バトルを終了しメインフェイズ2に移行する。
「メインフェイズ2、俺はまだ通常召喚していない。《ミスティック・バイパー》を召喚し、効果を発動!」
ペンデュラム召喚を活用したために、まだ俺は通常召喚権を使っていなかった。よってメインフェイズ2に神秘の笛吹き《ミスティック・バイパー》を召喚し、リリースすることで効果を発動する。
「《ミスティック・バイパー》は自身をリリースすることで、カードを一枚ドロー出来る。さらにそれがレベル1モンスターだったため、さらにもう一枚ドロー!」
《ミスティック・バイパー》の効果でドローしたカードがレベル1モンスターだったため、二枚のカードをドローし盤面を再確認する。俺のフィールドには攻撃力3000となった《グラヴィティ・ウォリアー》に、《アームズ・エイド》を装備したことで同じく攻撃力3000となった《スターダスト・チャージ・ウォリアー》。そしてスケールにセッティング済みの《音響戦士マイクス》と《音響戦士ギータス》に、伏せられた《くず鉄のかかし》でライフはまだ削られていない。
「カードをさらに二枚伏せ、ターンエンド。エンドフェイズ時に《音響戦士マイクス》の効果により、除外ゾーンの《音響戦士ピアーノ》を手札に加える」
「僕のターン、ドロー!」
そしてこちらのフィールドには、さらに二枚のリバースカードが追加された。対するエドのフィールドは、《D-HERO ドレッドガイ》を始めとして、《D-HERO ダイヤモンドガイ》に《D-HEROデッドリーガイ》。そして発動済みの《リビングデッドの呼び声》と、ライフポイントは1600。フィールドやライフポイントは特に、今のところこちらが有利だと思わせるものだったが。
「まずは魔法カード《蜘蛛の糸》を発動! 相手プレイヤーが前のターンに使った魔法カードを、こちらの手札に加えることが出来る!」
エドが発動したカードから伸びたソリッドビジョンの糸が、俺のデュエルディスクの墓地から一枚のカードを奪っていく。あのカードは――
「《シンクロ・クリード》を発動! フィールドにシンクロモンスターが三体以上存在する時、カードを二枚ドローする……だったな」
「くっ……」
フィールドには《グラヴィティ・ウォリアー》に《スターダスト・チャージ・ウォリアー》、装備モンスターとなった《アームズ・エイド》の三体が存在しており、それらによって《シンクロ・クリード》の発動条件は満たされる。何から何までこちらのカードで二枚のカードをドローされ、エドは更なる手を進めていく。
「ダイヤモンドガイのエフェクトにより、未来に送った魔法カードが発動される。さらに《D-HERO ディシジョンガイ》を召喚!」
先のターンで《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で墓地に送られていたのは、三枚のドローを可能とする魔法カード《終わりの始まり》。よってカードを三枚ドローするとともに、墓地から自身の効果で手札に加えられた《D-HERO ディシジョンガイ》が通常召喚される。
「さらにセメタリーの《エッジインプ・シザー》の自身を蘇生するエフェクトにより、デッキトップに通常魔法《HEROの遺産》を置き、《D-HERO ダイヤモンドガイ》のエフェクトを発動する!」
そして先程破壊したばかりの《エッジインプ・シザー》が、再び自身の効果によって墓地から蘇生される。そしてコストとしてデッキトップに置いた通常魔法が、ダイヤモンドガイの効果によって墓地に送られ、またもやその通常魔法《HEROの遺産》が未来で発動することが確定する。
その流れるような動きにばかり注目してしまったが、これでエドのフィールドには、下級モンスターが揃っていて。
「三体のモンスターをリリースし、僕は最強のD! 《D-HERO Bloo-D》を特殊召喚する!」
役目を終えた《D-HERO ダイヤモンドガイ》、《D-HERO ディシジョンガイ》、《エッジインプ・シザー》の三体をリリースすることで、エドの切り札の一種たる《D-HERO Bloo-D》が特殊召喚される。下級モンスターの独特な効果でサポートしつつ、最上級モンスターを特殊召喚する――という、D-HEROが得意とする動きだ。
「《D-HERO Bloo-D》のエフェクト発動! 相手モンスターを装備し、その攻撃力の半分の攻撃力を得る!」
「……《スターダスト・チャージ・ウォリアー》!」
そして《D-HERO Bloo-D》の効果によって、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》は吸収されてしまい、《アームズ・エイド》も装備カードとして破壊されてしまう。ただ高い攻撃力を得るためだけであれば、《グラヴィティ・ウォリアー》を吸収した方が高い攻撃力を得られたものの、《スターダスト・チャージ・ウォリアー》を選んだのは《アームズ・エイド》を装備しているからだろう。
事実、《グラヴィティ・ウォリアー》は《D-HERO Bloo-D》の相手モンスターの効果を全て無効化する効果により、攻撃力が元々の2100にまで戻ってしまっている。
「さらに《D-HERO デッドリーガイ》のエフェクト! 手札を一枚コストにD-HEROをデッキからセメタリーに送り、セメタリーのD-HEROの数×200ポイント、フィールドのD-HEROの攻撃力をアップする!」
そして再び発動される、《D-HERO デッドリーガイ》の効果。とはいえ先程のターンで発動された際とは、まるで状況が違っていた。
「セメタリーのD-HEROの種類は7種類。よって1400ポイントアップ!」
まずは墓地のD-HEROの種類が増えたため、単純に攻撃力上昇の数値が上がっているということ。そして第二に――こちらの方が重要だが――エドのフィールドに、《D-HERO ドレッドガイ》がいるということだ。
「そして《D-HERO ドレッドガイ》の攻撃力は、自分フィールドのD-HEROの合計となる」
そして《D-HERO ドレッドガイ》もまた、当然ながらD-HEROであるため、《D-HERO デッドリーガイ》の効果を受けることになる。
「よってドレッドガイの攻撃力は、5300ポイント!」
「ッ……!」
攻撃力5300ポイントをトップに、その他の二体も攻撃力4000に近い。三体の攻撃をまともにくらってしまえば、いくらライフポイントが初期値のままだろうが、こうなれば一瞬でライフポイントは0となる破壊力である。
「バトル! ドレッドガイで――」
「待て! 手札から《エフェクト・ヴェーラー》を発動し、ドレッドガイの効果を無効にする!」
しかしその効果はあくまでドレッドガイの効果によるものであり、《ミスティック・バイパー》の効果で引いた《エフェクト・ヴェーラー》によって効果を無効とする。手札から放たれた《エフェクト・ヴェーラー》が《D-HERO ドレッドガイ》を包み込み、その攻撃力はデッドリーガイの効果による上昇分、つまり1400ポイントとなった。
「瞬殺は免れたようだが……まだD-HEROは残っているぞ! バトル! 《D-HERO Bloo-D》で、《グラヴィティ・ウォリアー》に攻撃! ブラッディー・フィアーズ!」
「ぐあっ!」
遊矢LP4000→1800
《D-HERO ドレッドガイ》を止めることが出来たとはいえ、エドの言った通りに残る二体のD-HEROもデッドリーガイの攻撃力上昇効果を受けている。《D-HERO Bloo-D》の一撃が《グラヴィティ・ウォリアー》の装甲を貫き、初ダメージには大きすぎる一撃が加えられた。
「さらにデッドリーガイでダイレクトアタック!」
「《くず鉄のかかし》を発動!」
最初のターンの攻防の再現のように、《くず鉄のかかし》がデッドリーガイからの攻撃をなんとか防ぐ。その後、発動を待つように再びセットされる姿に感謝する――間もなく、巨大な影が俺を覆っていた。
「ドレッドガイで攻撃! プレデター・オブ・ドレッドノート!」
「っつ!」
遊矢LP1800→400
ドレッドガイの効果は無効にしても、デッドリーガイの効果によって上昇した攻撃力までは無効に出来ない。ダイレクトアタックの一撃を受け、俺のライフは崖っぷちに追い込まれた。
「エンドフェイズ。通常召喚に成功した《D-HERO ディシジョンガイ》のエフェクト発動! セメタリーからHEROモンスターを手札に加える。カードを二枚伏せ、ターンエンドだ」
「俺のターン……ドロー!」
《くず鉄のかかし》のおかげで何とか攻撃をしのぎ、こちらのターンに回ってくる。だがエドも《D-HERO ディシジョンガイ》の効果で、何やら墓地からHEROモンスターをサルベージしており、さらに二枚のリバースカードをセットしている。それらを突破して、《D-HERO ドレッドガイ》、《D-HERO Bloo-D》、《D-HERO デッドリーガイ》の三体を突破する方法は――
「俺は魔法カード《ワン・フォー・ワン》を発動! 手札を一枚捨てることで、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する! チューナーモンスター、《トルクチューン・ギア》!」
まずは魔法カード《ワン・フォー・ワン》により、デッキからレベル1モンスターを特殊召喚する。チューナーモンスターらしく、自らが戦闘に耐えられるステータスではなく、さらにモンスターを展開する。
「《チューニング・サポーター》を通常召喚し、魔法カード《機械複製術》を発動! さらに二体の《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」
「何をシンクロ召喚する気だ?」
《チューニング・サポーター》を対象に《機械複製術》を使うことで、これでフィールドにはモンスターが四体。チューナーモンスターである《トルクチューン・ギア》を合わせて、いかなるシンクロモンスターだろうと召喚出来る布陣が揃う。ただしこちらがどんなモンスターをシンクロ召喚しようが、《D-HERO Bloo-D》を中心とした布陣は突破されない自信があるのか、エドはこちらを挑発してみせた。
「まだだ。《音響戦士ピアーノ》をペンデュラム召喚する!」
確かに今のフィールドのままでは、エドの布陣を突破することは出来ないだろう。しかし俺にはまだ、《音響戦士マイクス》で除外ゾーンから手札に加えた《音響戦士ピアーノ》と、その召喚を可能とするペンデュラムがある。
「レベル3の《音響戦士ピアーノ》と、それぞれレベルを変更した《チューニング・サポーター》をチューニング!」
そして五体のモンスターがフィールドに揃い、その内四体のモンスターがシンクロ素材となっていく。《チューニング・サポーター》はその名の通り、シンクロ召喚のサポートを可能とする効果。それぞれレベルを変更していき、指定のシンクロ召喚のサポートとなる。
「忘れたか遊矢! 《D-HERO Bloo-D》がいる限り、相手モンスターの効果は全て無効となる!」
《D-HERO Bloo-D》をD-HEROの切り札たらしめる、相手モンスターの効果を全て封殺する強力な効果。それは《チューニング・サポーター》の効果も例外ではなく、フィールドにBloo-Dが存在する限り、レベル変更効果を使うことは出来ない――本来ならば。
「いや、墓地から《ブレイクスルー・スキル》を除外することで、《D-HERO Bloo-D》の効果を無効にする!」
「何!?」
ただし、その封殺効果が健在ならの話だ。《ブレイクスルー・スキル》は墓地から除外することで、相手モンスター一体の効果を無効とし、《チューニング・サポーター》たちは十全にシンクロ素材となっていく。
「集いし刃が、光をも切り裂く剣となる。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《セブン・ソード・ウォリアー》!」
そして《チューニング・サポーター》のレベル変更効果を使ってシンクロ召喚されたのは、光をも斬り裂く機械戦士《セブン・ソード・ウォリアー》。その名の通りにあらゆる武器を使ってみせる彼に、フィールドに残った《トルクチューン・ギア》が近づいていく。
「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になった時、カードを一枚ドローする。よって三枚ドロー! さらに《トルクチューン・ギア》は、自分フィールドのモンスターに装備することが出来る!」
《チューニング・サポーター》のシンクロ素材になった際の効果で手札を補充しながら、《トルクチューン・ギア》の効果を発動する。攻撃力・守備力を500ポイントアップさせる装備カードとして、モンスターに装備することが出来る、という。
「そして《セブン・ソード・ウォリアー》にカードが装備された時、相手プレイヤーに800ポイントのダメージを与える! イクイップ・ショット!」
「ぐっ!」
エドLP1600→800
しかしこの局面で重要なのは、《セブン・ソード・ウォリアー》にカードが装備されたということ。よって《セブン・ソード・ウォリアー》の効果が発動し、エドのライフもまた、残り800ポイントという数値となった。
「さらに《セブン・ソード・ウォリアー》に装備されたカードを墓地に送ることで、相手モンスターを破壊する! 対象はもちろん、《D-HERO Bloo-D》!」
狙うは《D-HERO Bloo-D》。装備カードと引き換えに相手モンスターを破壊する《セブン・ソード・ウォリアー》の効果により、《トルクチューン・ギア》が変形したナイフが《D-HERO Bloo-D》に放たれ――
「リバースカード、《D-フュージョン》を発動!」
――《D-HERO Bloo-D》はそのナイフに当たる直前に、突如として現れた時空の穴に吸い込まれていく。いや、《D-HERO Bloo-D》だけではなく、《D-HERO デッドリーガイ》までもが。
「《D-フュージョン》は、フィールドのD-HEROを素材に融合召喚する! 現れろ、《D-HERO ディストピアガイ》!」
伏せられていたリバースカードは罠融合。こちらの《セブン・ソード・ウォリアー》の効果破壊を避けながら、新たなエース級のD-HEROを融合召喚してみせた。その攻撃力は2800と、他にフィールドにいる《D-HERO ドレッドガイ》も自身の効果によって同様の攻撃力のため、残念ながら《セブン・ソード・ウォリアー》が適う相手ではない。
「さらに《D-HERO ディストピアガイ》のエフェクト発動! このモンスターが融合召喚に成功した時、セメタリーのレベル4以下のD-HEROの攻撃力分、相手プレイヤーにダメージを与える!」
「リバースカード、オープン! 《ダメージ・ポラリライザー》!」
そして融合召喚された《D-HERO ディストピアガイ》の効果は、融合召喚した際の強力なバーン効果。こちらに《D-HERO ディシジョンガイ》の攻撃力分、1600ポイントの一撃が放たれるものの、なんとか伏せていた《ダメージ・ポラリライザー》で受け流すことに成功する。
「そしてお互いのプレイヤーは、カードを一枚ドローする」
いつかのアカデミアで亮とトレードしたカードであり、お互いにカードをドローさせるその効果は、彼が標榜していたリスペクトデュエルを思い起こさせる。感謝しながらもカードを一枚ドローし、エドのフィールドに残るディストピアガイとドレッドガイ、リバースカードの一枚をどう攻略するか思索を巡らせる。
「……まだだ。魔法カード《シンクロキャンセル》を発動し、《セブン・ソード・ウォリアー》をエクストラデッキに戻すことで、シンクロ素材をフィールドに戻す!」
新たな融合D-HEROには驚かされたものの、こちらとてまだターンは終わっていない。エドのライフに有効打を与えてくれた《セブン・ソード・ウォリアー》をエクストラデッキに戻すと、《シンクロキャンセル》の効果に《音響戦士ピアーノ》と《チューニング・サポーター》が三体、フィールドに特殊召喚される。
「またシンクロ召喚か?」
「いや……エクシーズだ! 俺は三体の《チューニング・サポーター》で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」
茶化すようにこちらに問いかけてきたエドにそう返し、今度はあちらが驚く手番となった。《シンクロキャンセル》で現れた三体の《チューニング・サポーター》には、シンクロ召喚の際の光に包まれるのとも、融合召喚の際の時空の穴に吸い込まれていくのとも、どちらともまた違う現象が起きていた。
「集いし鉄血が闘志となりて、震える魂にて突き進む! エクシーズ召喚! 《No.54 反骨の闘士ライオンハート》!」
雄々しいたてがみを翻し、身体中に痛々しくも機械を埋め込んだ反骨の闘士。かつてのコロッセオにおける拳闘士のような、そんな風貌をした自分自身の――そう、俺自身のナンバーズ。
「バトル! ライオンハートでドレッドガイを攻撃!」
「攻撃力は……100だと!?」
新たに降臨したエクシーズモンスターのステータスを見たエドが、ライオンハートの攻撃力の数値自体と、その数値で攻撃をしてくることに警戒する。もちろん、ただの自爆特効ではなく、勝利のための一手であった。
「ライオンハートのオーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、このモンスターが受ける戦闘ダメージを、全て相手に与える!」
こちらの《No.54 反骨の闘士ライオンハート》と、《D-HERO ドレッドガイ》の攻撃力の差分は2700。エクシーズ素材となっていた《チューニング・サポーター》一体が取り除かれ、ライオンハートがドレッドガイの一撃を受け止めんと力を込めた――ところに、フィールドに鎖のジャラジャラとした音が響き渡った。
「伏せていた《D-チェーン》を、ディストピアガイに装備する!」
その鎖の音は《D-チェーン》。D-HEROたちの専用罠カードであり、装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる効果と、装備モンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時に500ポイントダメージを与える効果を持つ。
「――よって《D-HERO ディストピアガイ》のエフェクト発動!」
どちらの効果もこの局面には意味はなく、しかも攻撃対象ではない《D-HERO ディストピアガイ》に装備された――という、一見には何の意味もない行動だった。しかしてそれは、ディストピアガイの更なる効果の発動トリガーだったらしく。
「このモンスターの攻撃力が変動した時、その攻撃力を元々の数値に戻すことで、相手のカードを破壊する! ノーブルジャスティス!」
「な……ライオンハート!」
攻撃力が変動した時、その攻撃力を元々の数値に戻す。発動トリガー自体はD-HEROらしくトリッキーなものだったが、効果自体は至極単純なもので。ドレッドガイに攻撃を仕掛けていたライオンハートは、ディストピアガイの一閃の前に破壊されてしまう。
「くっ……メインフェイズ2、伏せていた《リミット・リバース》で、《チューニング・サポーター》を特殊召喚する」
決め手ともなりえた《No.54 反骨の闘士ライオンハート》のあっさりとした破壊に、少しばかりショックを隠しきれないものの、まだこちらのターンは終わっていない。もはやバトルフェイズは行えないが、まだ出来ることはあるはずだと、最後まで伏せていた《リミット・リバース》を発動し、またもや《チューニング・サポーター》を蘇生する。
「さらに墓地の《音響戦士ベーシス》の効果! このモンスターを除外することで、フィールドの音響戦士のレベルを、手札の数だけ増やす!」
そしてそのままシンクロ召喚――する前に、墓地に存在する《音響戦士ベーシス》の効果を発動する。自身を除外することでフィールドの音響戦士に自身の効果を付与する、という音響戦士チューナーに共通の効果により、《シンクロキャンセル》で墓地に戻っていた《音響戦士ピアーノ》のレベルが手札の数――つまり2レベル上がる。
「レベル5と《音響戦士ピアーノ》と、自身の効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》でチューニング!」
合計レベルは7。先のシンクロ召喚の際には《セブン・ソード・ウォリアー》に出番を譲ったが、今こそ鋼鉄の咆哮がフィールドに鳴り響く。
「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」
黄色い装甲に身を包んだ竜がその装甲の下から吐息を漏らし、もはや機械族とは思えない叫び声は、早くこの身を解放しろとせっついているようで。そして確かに、《D-HERO Bloo-D》が破壊された今、効果の発動を止められる者は存在しない。
「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になったため、カードを一枚ドロー。さらにパワー・ツール・ドラゴンの効果を発動し、デッキから三枚の装備カードを裏側で見せ、相手が選んだカードを手札に加える! パワー・サーチ!」
「……右のカードだ」
さらに《チューニング・サポーター》と《パワー・ツール・ドラゴン》の効果が発動され、カードを一枚ドローするとともに、エドが選択した装備魔法が手札に加えられる。もはやメインフェイズ2のため、装備魔法を加えようと攻撃は出来ないが、狙った装備魔法を手札に加えることに成功する。
「装備魔法《リビング・フォッシル》を発動! 攻撃力を1000ポイント下げ、効果を無効にすることで、墓地からこのカードを装備してモンスターを蘇生する! 現れろ、《エフェクト・ヴェーラー》!」
《D-HERO ドレッドガイ》の効果を無効にする為に墓地に送っていた、《エフェクト・ヴェーラー》が装備魔法《リビング・フォッシル》によって、墓地を経由してフィールドに現れた。効果無効と攻撃力ダウンと、本来ならば無視できないデメリットがあるものの、今の《エフェクト・ヴェーラー》にはまるで関係はない。
「レベル1の《エフェクト・ヴェーラー》に、レベル7の《パワー・ツール・ドラゴン》をチューニング!」
「まだ来るか……!」
そして《セブン・ソード・ウォリアー》に《No.54 反骨の闘士ライオンハート》に引き続きシンクロ召喚された《パワー・ツール・ドラゴン》もまた、新たな切り札を呼び込むための呼び水となっていく。そしてこの組み合わせでシンクロ召喚されるモンスターと言えば、もはや特定されているようなものだ。
「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」
《パワー・ツール・ドラゴン》が《エフェクト・ヴェーラー》の力を借りて、装甲を一つずつパージしていくにつれ、真の力を取り戻していく。そして炎を纏って飛翔していき、真の力を取り戻したエネルギーを俺に与えていく。
「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功した時、俺のライフポイントを4000にする! ゲイン・ウィータ!」
「…………」
風前の灯火だったこちらのライフポイントが初期値に戻っていき、ライフポイントだけはエドの値を大きく引き離す。またステータスにおいても、《D-チェーン》による上昇値を自らで無効にした《D-HERO ディストピアガイ》を上回っている。
「エンドフェイズ時、《音響戦士マイクス》のペンデュラム効果で、除外ゾーンの《音響戦士ベーシス》を手札に加え、俺は……ターンを終了する」
「僕のターン、ドロー! ……《アトバンスドロー》を発動し、《D-HERO ドレッドガイ》をリリースすることで、カードを二枚ドロー!」
そしてお互いが攻防を繰り広げた長い一ターンが終わり、ようやくエドのターンへと移る。まずエドはレベル8モンスターをコストに二枚ドローする魔法カード《アトバンスドロー》によって、《D-HERO ドレッドガイ》をリリースして二枚のカードをドローする。
「さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》によって未来に送られていた、《HEROの遺産》のエフェクトが発動する! よってカードをさらに三枚ドロー!」
さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で墓地に送っていた、《HEROの遺産》というドローソースが発動し、エドはさらにカードを三枚ドローする。本来ならばHEROモンスターを融合素材とした、墓地の融合モンスターを二体エクストラデッキに戻す、という発動条件があるのだが、ダイヤモンドガイによって発動条件は無視して発動される。
「……魔法カード《大嵐》を発動! フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する!」
「何!?」
そして潤沢になった手札から放たれる、フィールド全ての魔法・罠カードを破壊するカード《大嵐》。しかして破壊されるのは、エドの効果がほぼ無効となった《D-チェーン》に、無為にフィールドに残っていた《リビングデッドの呼び声》。対するこちらは、フィールドに再セットされた《くず鉄のかかし》に、《音響戦士マイクス》と《音響戦士ギータス》のペンデュラムモンスターたち。
「ようやくその厄介なペンデュラムは消えた。さらにフィールド魔法《幽獄の時計塔》を発動!」
そしてお互いのモンスターカードゾーンにいる《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と、《D-HERO ディストピアガイ》を除いて焼け野原となってしまったフィールドを、エドのフィールド魔法《幽獄の時計塔》が支配する。
「そして《D-HERO ドレッドサーヴァント》を召喚! 回れ、運命の針よ! 刻め、運命の針よ!」
そして《D-HERO ドレッドサーヴァント》の登場により、《幽獄の時計塔》の針が進む。あの針が最後まで進んでしまえば、こちらからの戦闘ダメージは全てシャットアウトされてしまう。
「まだだ。《ドクターD》を発動し、セメタリーのD-HEROを一体除外することで、レベル4以下のD-HEROを蘇生する! 蘇れ、《D-HERO ダイヤモンドガイ》!」
さらに発動されたD-HERO専用の蘇生カード《ドクターD》の効果により、再び《D-HERO ダイヤモンドガイ》が特殊召喚される。続々とフィールドに現れてくるD-HEROたちに、嫌な予感を感じるものの、妨害する手段はこちらにはなかった。
「ダイヤモンドガイのエフェクトで未来に送ったカードは《戦士の生還》。さらにセメタリーの《D-HERO ディアボリックガイ》のエフェクト発動!」
さらに《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果によって、デッキトップに存在していた《戦士の生還》が墓地に送られ、次なるターンに発動が確定する。そして《D-HERO デッドリーガイ》の効果で墓地に送られていたのだろう、《D-HERO ディアボリックガイ》の効果が発動する。
「《D-HERO ディアボリックガイ》は、セメタリーの自身を除外することで、デッキから同名モンスターを特殊召喚する! カモン、アナザーワン!」
――そしてデッキから特殊召喚された《D-HERO ディアボリックガイ》を加えて、新たにフィールドに現れたモンスターは三体。エドの切り札クラスのモンスターの召喚条件を満たし、《D-HERO Bloo-D》を破壊した今、現れるれるのは。
「三体のモンスターをリリースし、《D-HERO ドグマガイ》を特殊召喚する!」
最も攻撃力の高いD-HEROに相応しいパワフルな動きで、黒翼をたなびかせながら《D-HERO ドグマガイ》が《幽獄の時計塔》の下に降り立った。そして元々フィールドにいた《D-HERO ディストピアガイ》と並び、こちらの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と対峙する。
「……そのドラゴンは厄介だ、破壊させてもらう! バトル! 《D-HERO ドグマガイ》で、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を攻撃! デス・クロニクル!」
「……墓地の《シールド・ウォリアー》の効果を発動! このモンスターを除外することで、戦闘破壊を無効にする!」
遊矢LP4000→3500
《D-HERO ドグマガイ》の剛腕から放たれた一撃を、墓地から現れた盾持ちの戦士、《ワン・フォー・ワン》によって墓地に送られていた《シールド・ウォリアー》が防いでみせた。《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は自前の破壊耐性を備えてはいるものの、《D-HERO ディストピアガイ》の破壊効果を警戒し、《シールド・ウォリアー》に任せていた。
「ならばセメタリーの《D-HERO ダイナマイトガイ》のエフェクト発動! このモンスターを除外することで、フィールドのD-HERO一体の攻撃力を、1000ポイントアップする!」
「何!?」
攻撃はないと高をくくっていた《D-HERO ディストピアガイ》の攻撃力が、墓地に送られていた《D-HERO ダイナマイトガイ》によって《ライフ・ストリーム・ドラゴン》どころか、《D-HERO ドグマガイ》すらも越えてみせる。そしてまだバトルフェイズは続いており、《D-HERO ディストピアガイ》もまた、こちらに攻撃態勢を取る。
「続いて《D-HERO ディストピアガイ》で、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》を攻撃! ディストピアブロー!」
「くっ……《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果を発動! イクイップ・アーマード!」
予想だにしない方法で攻撃力の上がった《D-HERO ディストピアガイ》の攻撃に、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の効果が発動する。墓地の装備魔法を除外することで破壊を無効にするというものであり、自身のシンクロ召喚に使用した装備魔法《リビング・フォッシル》をコストに、《D-HERO ディストピアガイ》の一撃を防ぐ。
遊矢LP3500→2400
「だが、これで装備魔法はなくなった。ディストピアガイのエフェクト発動! このモンスターの攻撃力を元々の攻撃力に下げ、相手のカードを破壊する! ノーブルジャスティス!」
「ライフ・ストリーム……!」
ただしこの効果では受けるダメージを減らすことは出来ずに、《D-HERO ディストピアガイ》による効果破壊には耐えられず、あっけなく《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は破壊されてしまう。
それでもエドにもう攻め手はないらしく、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は俺のライフを守りきってくれた、と言っていいだろう。
「カードを二枚伏せ、ターンを終了する……相変わらずしぶといな、お前は」
「お褒めの言葉どうも……俺のターン、ドロー!」
これでこちらのフィールドは文字通りがら空きになり、エドのフィールドは《D-HERO ディストピアガイ》に《D-HERO ドグマガイ》、さらに二枚のリバースカードにフィールド魔法《幽獄の時計塔》。
勝っているのはライフポイントぐらいというこの状況で、ドローしたカードで反撃の狼煙を上げる――と、言いたいところだが。こちらのターンのスタンバイフェイズ時、運命を操るD-HEROたちが行動を開始する。
「《D-HERO ドグマガイ》のエフェクト発動! 相手ターンのスタンバイフェイズ時、相手のライフを半分にする! ライフ・アブソリュート!」
「ぐっ!」
遊矢LP2400→1200
まずは《D-HERO ドグマガイ》の効果により、こちらのライフポイントは半分に減ずる。先のターンに《ライフ・ストリーム・ドラゴン》に回復してもらったというのに、こうもすぐさま削られる姿に戦慄してしまう。
「さらに相手ターンのスタンバイフェイズ時、《幽獄の時計塔》は新たな時を刻む!」
そしてフィールド魔法《幽獄の時計塔》もまた、こちらのターンに運命の針を進めていく。今は六時を示しており、あれがもう一度零時に針が向いた瞬間、こちらの戦闘ダメージは一切通じなくなってしまう。
「俺はカードをセット! さらに通常魔法《ブラスティング・ヴェイン》を発動し、セットカードを破壊し二枚ドロー!」
どちらも大量に展開しているように見せて、もはやお互いに満身創痍。このデュエルは最終局面を迎えようとしており、ならば召喚されるのはこのモンスターに他ならない。
「破壊されたのは《リミッター・ブレイク》! その効果により、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」
「……来たか……」
セットカードを破壊して二枚のカードをドローする魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》と、破壊時に除外ゾーン以外のあらゆる場所から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚するサポートカード《リミッター・ブレイク》により、マイフェイバリットカードが遂にフィールドに特殊召喚される。さらに今回はそれだけではなく、新たな速攻魔法をデュエルディスクにセットする。
「さらに速攻魔法《地獄の暴走召喚》を発動! さらに二体、デッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する!」
そして攻撃力1500以下のモンスターの特殊召喚に反応し、速攻魔法《地獄の暴走召喚》が産声をあげる。その効果によってさらに《スピード・ウォリアー》が二体特殊召喚され、エドも同名モンスターの特殊召喚権を得るが、二体のD-HEROともその条件を満たさない。
「さらに《音響戦士ベーシス》を召喚し、効果発動! 手札の数だけ、このモンスターのレベルを上げる!」
さらに召喚されるのは、除外ゾーンを経由して手札に戻っていた《音響戦士ベーシス》。召喚とともに効果を発動し、手札の枚数――三枚分のレベルを上げる。
「レベル4となった《音響戦士ベーシス》と、レベル2の《スピード・ウォリアー》二体をチューニング!」
そして狙うはレベル8のシンクロ召喚であり、モンスターたちが光に包まれていくとともに、フィールドに激震が走っていく。まさに《幽獄の時計塔》を破壊しかねない勢いに比例して、《スピード・ウォリアー》たちが起こす光も増していく。
「集いし決意が拳となりて、荒ぶる巨神が大地を砕く。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ギガンテック・ファイター》!」
そして大地に拳を打ちつけながらシンクロ召喚されるは、このデッキにおける最強のシンクロモンスター。鋼の機械巨人《ギガンテック・ファイター》は、腕組みをしながら二体のD-HEROと睨み合う。
「まだだ! 魔法カード《ヘルモスの爪》を発動! このカードと《スピード・ウォリアー》を融合させる!」
「魔法カードと融合……!」
機械戦士が新たに生まれ変わった際に現れた、モンスターと融合し装備カードとなるという効果を持つ魔法カード《ヘルモスの爪》。エドの前で使ったのはこれで二回目だが、流石にその他に類を見ない効果にエドも驚きを隠せないらしく、固唾を飲んで《ヘルモスの爪》と《スピード・ウォリアー》の融合を見守っていた。
「融合召喚! 《女神の聖弓-アルテミス》!」
「《ヘルモス・ロケット・キャノン》じゃない……?」
確かに前回のデュエルで見せた形態は《ヘルモス・ロケット・キャノン》だったが、《スピード・ウォリアー》が今回見せた変形形態は、巨大な弓である《女神の聖弓-アルテミス》。それが《ギガンテック・ファイター》に装備され、それを一直線に《D-HERO ディストピアガイ》に向けた。
「《ヘルモスの爪》は様々な形態を持つ。そして《ギガンテック・ファイター》は、お互いの墓地の戦士族モンスターの数×100ポイント、攻撃力をアップさせる! いくぞエド!」
機械戦士とD-HERO。お互いに戦士族モンスターを主軸とするデッキの使い手として、《ギガンテック・ファイター》は更なる攻撃力を発揮する。どちらも除外やエクストラデッキに戻すなど、墓地以外のゾーンも積極的に使っているため、圧倒的な攻撃力とまではいかないが――それでもD-HEROたちを倒すのには充分な、攻撃力4300という数値を誇った。
「《ギガンテック・ファイター》で《D-HERO ディストピアガイ》に攻撃! 女神の聖弓-アルテミス!」
「――リバースカード、オープン! 《デマイズ・アーバン》!」
《ギガンテック・ファイター》が引き絞った《女神の聖弓-アルテミス》から、融合素材となった《スピード・ウォリアー》形のエネルギーが放出された。それが《D-HERO ディストピアガイ》に届くか届かないか――といったところで、エドのリバースカードが発動する。
「相手モンスターが攻撃してきた時、D-HEROの攻撃力をアップさせる。よって《D-HERO ディストピアガイ》のエフェクトが発動――!?」
「《女神の聖弓-アルテミス》の効果! 相手のカード効果を無効にする!」
ただし《女神の聖弓-アルテミス》から放たれた《スピード・ウォリアー》は、先にその永続罠カード《デマイズ・アーバン》そのものを貫いた。よって《D-HERO ディストピアガイ》は攻撃力を増減させることが出来ないため、その効果を発動することは不可能だ。
そして《スピード・ウォリアー》が止まることはなく、デュエルを終わらせんと《D-HERO ディストピアガイ》を貫いた。モンスターが破壊された爆炎が、直接的なダメージとしてエドを覆うが――何か障壁が発生しているかのように、エドには粉塵すらも寄り付かない。
「……さらにリバースカード《エターナル・ドレッド》を発動した。このカードのエフェクトにより、《幽獄の時計塔》の針はさらに二つ進む」
エドのフィールドに伏せられていた、二枚のリバースカード。こちらが無効とした《デマイズ・アーバン》ではなく、さらに発動した《エターナル・ドレッド》の効果により、《幽獄の時計塔》の針は再び零時を指し示していた。
こうなればこちらからの戦闘ダメージは全て無意味となり、かと言って破壊してしまえば、あの《幽獄の時計塔》に囚われている《D-HERO ドレッドガイ》が解放される。そうなってしまえば二体のD-HEROがともに現れ、こちらの戦況は一気に追い込まれてしまうだろう。
「……だが、戦闘破壊だけはさせてもらう! 《女神の聖弓-アルテミス》が無効化効果を発動した時、装備モンスターは二回攻撃が出来る!」
一度だけしか効果を無効に出来ない隙を突かれ、《エターナル・ドレッド》の発動を許してしまったが、《女神の聖弓-アルテミス》の効果はまだ続いている。相手のカード効果を無効化した際には、さらに装備モンスターに二回攻撃を付与する効果であり、《ギガンテック・ファイター》は再び弓を引き絞った。
「ドグマガイに攻撃!」
「だが《幽獄の時計塔》のエフェクトにより戦闘ダメージは受けない」
エドのライフポイントを削りきる一撃が二回ほど叩き込まれたが、それらのダメージは全て《幽獄の時計塔》に吸い込まれてしまう。トドメを刺せなかったことに歯噛みしながらも、二体のD-HEROを倒しただけいいと考えておく。
「カードを一枚伏せ……ターンエンド」
「僕のターン……ドロー!」
そしてエドのターンに移行する。あちらのフィールドには《幽獄の時計塔》と対象のモンスターがいない《デマイス・アーマン》のみで、デュエル終盤ということで手札も心もとない――それはこちらも同じだが。
しかしてエドから感じるのは――このターンでデュエルを終わらせてやる、という気迫。
「僕は《貪欲で無欲な壺》を発動! セメタリーの《D-HERO ドグマガイ》、《D3》、《エッジインプ・シザー》をデッキに戻し、二枚ドロー!」
その気迫が間違いではないというように、墓地の種族が違うモンスターが三体デッキに戻すことで、カードを二枚ドローする魔法カード《貪欲で無欲な壺》を発動する。ただしあの魔法カードには、バトルフェイズを行えないという重いデメリットがあり、それでもなおこのターンで決める気ならば、エドの狙いは。
「さらに未来に送っていた《戦士の生還》のエフェクト発動! 墓地から《D-HERO Bloo-D》を手札に加え……ファイナルターンだ、遊矢! 」
エドのファイナルターン宣言。やはりバトルフェイズを封じられていようと、エドはこのターンで終わらせてようとしていて――実際にこのデュエルを終結に導けるモンスターを、俺は知っていた。
「そして《融合徴兵》で《D-HERO ドグマガイ》を手札に加え……《融合》を発動する!」
エドが発動したカードは、再び《融合》。その融合素材は、《D-HERO ダイヤモンドガイ》の効果で未来に送っていた《戦士の生還》で手札に加えた《D-HERO Bloo-D》と、《融合徴兵》によって手札に加えた《D-HERO ドグマガイ》。
魔法カード《融合徴兵》は、融合モンスターに記されたデッキモンスターをサーチする魔法カードであり――すなわち、今から融合召喚されるのは、《D-HERO ドグマガイ》を融合素材に指定しているモンスターである。
「融合召喚! 《Dragoon D-END》!」
そして降臨する龍の力を得たD-HERO――いや、『最後のD』。融合素材を《D-HERO Bloo-D》と《D-HERO ドグマガイ》の二体の切り札を指定している、エドの正真正銘の最後の隠し玉。攻撃力こそこちらの《ギガンテック・ファイター》には及ばないが、その効果はだからこそ有用に働いた。
「D-ENDの効果! 相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える! インビンシブル・D!」
《Dragoon D-END》の身体に巻き付いていた竜の首が、標的に向かって何物をも一瞬で灰にするかのような熱量を伴った炎を吐いた。標的は当然ながら《ギガンテック・ファイター》。元々の攻撃力分である2800ポイントのバーンダメージに、着実に削られたこちらのライフポイントは耐えることは出来ずに、《女神の聖弓-アルテミス》も無効化効果はこのタイミングでは使えない。
「リバースカード、オープン! 《上級魔術師の呪文詠唱》!」
――だからこそ、俺はあの切り札の登場を待っていた。何故なら、俺は先のエドとDDのデュエルの際に、あの《Dragoon D-END》を駆るエドの姿を見ているからだ。
「このカードを発動した時、手札の魔法カードを速攻魔法として発動出来る! 俺が発動するのは――《ミラクルシンクロフュージョン》!」
そこに付け入る隙があった。エドは最後の最後となれば、あの切り札《Dragoon D-END》で決着をつけにくる、と。そう予測をたてていた俺は、こうしてD-HEROたちに攻撃力が勝る、《ギガンテック・ファイター》という撒き餌をまいた。
「《ミラクルシンクロフュージョン》の効果! 墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と、《スピード・ウォリアー》の力を一つに!」
――エドの切り札に対して、こちらも切り札をもって対抗するために。
「現れろ! 《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」
そして手札の魔法カードを速攻魔法として扱う《上級魔術師の呪文詠唱》により、手札から発動されるのは《ミラクルシンクロフュージョン》。墓地の《ライフ・ストリーム・ドラゴン》と《スピード・ウォリアー》を融合し、このデッキの切り札――《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》を降臨させた。
「……D-ENDの効果は……止まらない……!」
これがD-ENDの攻撃ならば巻き戻しも発生しようものだが、あいにくとそれはD-ENDの破壊効果。こちらの切り札が降臨しようが止められるものではなく、苦々しげにエドがそう呟いた。
そして《Dragoon D-END》が放った炎が、どこか役目を果たしたように満足げな《ギガンテック・ファイター》を燃やし尽くし破壊していく。さらにそれだけで終わるわけもなく、《ギガンテック・ファイター》を焼き尽くしたことによって得た火力が、俺本人にも牙を剥いた――
「《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果発動!」
――だが、それこそが俺の狙い。《Dragoon D-END》の放った炎は、こちらに襲いかかってくることは出来ずに、全て《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の持つ槍に吸収されていってしまう。それこそが《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果であり、《ギガンテック・ファイター》の力が籠もった槍をエドに向けた。
「相手プレイヤーに効果ダメージを跳ね返す! ウェーブ・フォース!」
《ギガンテック・ファイター》の力を得た、攻撃力2800ポイント分のバーンエネルギー。それは《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》によって、《Dragoon D-END》を通り過ぎ、直接エドに襲いかかっていく――
「うわぁぁぁぁ!」
エドLP800→0
デュエルの決着とともに割れんばかりの声援が響き渡り、それでこのデュエルが卒業模範デュエルだったな、と思い出した。どこか気恥ずかしくなってしまいながらも、敗北によるダメージで膝をついたエドに歩み寄ろうとした瞬間、三沢の用意した異次元への移動装置が起動した。
まるでペンデュラム召喚の際の魔法陣のように、空間を裂いて現れたそれは、どこか俺を待ち受けているようで。
「……行ってこい、遊矢。僕の代わりに行くんだ、負けは許されないぞ」
ほうほうの体でエドは立ち上がった。三沢の開発したシステムによって、敗北した者のデュエルエナジーでこの異次元への移動装置は起動している。本来なら立っているのも難しいだろうに、わざわざエドが憎まれ口を叩きながら激励にきた。
「……ああ!」
三沢、レイ、エド。いや、その三人だけではなく、今もアカデミアで敵と戦っているであろう、万丈目を始めとした仲間たち。
そして……明日香。彼ら彼女らの力を借りることで、遂に俺は、ダークネスが待つ次元へと足を踏み入れていた。
後書き
久々活躍のドラゴエクィテスさん。切り札として出したにしては、他にドラゴン族シンクロモンスターいないから効果は基本使えないし、普段は出番が少ないのに負けデュエルには必ずいたり、三期辺りに地の文で『俺のエクストラデッキに入っている融合モンスターは、《サイバー・ブレイダー》のみ』とか完全に存在を忘れられたり、ちょっと不遇な感じですがお気に入りです。なんだかんだ切り札としての面目は保たれている……ような、そうでもないような。
突然ですがここで問題です。このデュエルで、遊矢がエドに与えた戦闘ダメージは何ポイントでしょう?
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