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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―ティアドロップ―

「融合召喚! 《サイバー・ブレイダー》!」

 二種類のモンスターが時空の穴に吸い込まれ、そこから銀盤の女王《サイバー・ブレイダー》が融合召喚される。そのモンスターを扱うのは、当然ながら天上院明日香という名のデュエリスト。気丈に立つ彼女の傍らに、フィールドを滑走する《サイバー・ブレイダー》がピタリと付いた。

「助太刀はありがたいが天上院くん! 他の場所は大丈夫なのか?」

 デュエルアカデミアのステージ入口。明日香と同じように、《おジャマ・キング》をフィールドに召喚している万丈目が、助けに来てくれた明日香に礼を言いながらもよそを心配する。ダークネスの軍勢と戦っているのは、なにもこの万丈目が戦っている場所だけではないのだから。

「大丈夫よ。あの二人がいるから」

「あの二人……?」

 明日香が言う『あの二人』というのを万丈目は一瞬だけ考えていたが、彼女がそこまで全幅の信頼を置く人物は多くない。それもコンビというのならば、それが指している人物たちは――

「……なら貴様等は、ここで大人しくしていてもらおうか!」

 明日香にそこまで言わしめる二人を、万丈目は少し羨ましく思いながら、対戦相手の方へと向き直った。ミスターTと呼ばれるダークネスの尖兵の、その大軍とデュエルをしていた万丈目だったが――すでにデュエルは終わっていた。

『いやー、すいませんねー。おジャマしちゃって』

 ミスターTのフィールドには、いずれも《おジャマトリオ》による三体のおジャマトークンが居座っており、残る二種類のモンスターカードゾーンは、《おジャマ・キング》の効果によって封じられている。

「《サイバー・ブレイダー》、第三の効果。パ・ド・カドル。相手モンスターが三体の時、全てのカード効果を無効にするわ」

 それだけでは、ただモンスターカードゾーンを使用不能にしたにすぎないが、そこに明日香の《サイバー・ブレイダー》の効果が発動する。三体の《おジャマトリオ》が存在する限り、ミスターTはあらゆるカードの効果の発動を無効にされるが、カードの発動が出来なければ《おジャマトリオ》の排除は不可能。自爆特攻をしようにも、《おジャマ・キング》も《サイバー・ブレイダー》も守備表示のため、ダメージを受けるのみで《おジャマトリオ》は破壊されない。

「あとは……頼んだわよ……」

 ここにはいない『彼』のことを案じながら、明日香は祈りを込めて呟いた。

 ――藤原優介、という人物を知る者は少ない……いや、この世界にはいなかったと言っていい。過去のトラウマから、自らダークネスと尖兵になった彼は、世界から自らという存在を消し去ったのだ。

「やあ藤原。久しぶりじゃないか」

 しかしアカデミアには、彼の存在を知る者がいた。かつてアカデミアで競い合った、ライバルである――二人。

「スパーリングは充分だ。三年越しのデュエルといくか」

「吹雪……亮……」

 アカデミアのデュエル場に続く、万丈目が守るメイン通路とは違う、使われることの少ない対戦者用の通路。そこで待ち構えていたのは、丸藤亮と天上院吹雪――アカデミアのカイザーとキングだった。

「そうか……クク。ここに向かった連中が、跡形もなく消えていると思えば……」

「まあ、キミと戦う前の肩慣らしにはなったかな?」

 吹雪の軽口に小さく笑いながら、藤原は暗がりから二人に姿を現した。その姿はアカデミアから消えた時からまるで変わらなかったが、雰囲気は大きく変わっていた。快活とした優男だった彼は見る影もなく、漆黒のオーラを――ダークネスを背負っていた。

「お節介焼きだった吹雪はともかく……亮までいるとはな」

「吹雪のお節介焼きが感染したか……いや。やるか」

「ああ。二人がかりで来い」

「それじゃあ、遠慮なく」

 もはや語る言葉など不要だった。少ない言葉だけを聞けば、まるで世界の行く末をかけたデュエルとは思えないほどだったが、三人の雰囲気が言葉の代わりに語っていた。

 隙を見せた人物から消し飛ぶ、そんな確信を抱かせる雰囲気を。

『デュエル!』

藤原LP8000
吹雪&亮LP8000

 藤原の二人がかりで来い、という発言から、変則タッグフォースルールによるデュエルとなる。フィールド、墓地、ライフポイントを全て共有し、藤原は二人分のライフポイントからスタートとなる。

「俺の先攻」

 そしてデュエルディスクが選んだ先攻は藤原。五枚のカードを手札に加えると、最初からすべきことは決まっていたかのように、すぐさま行動を開始していた。

「モンスターをセット。さらにカードを二枚伏せ、ターンエンド」

「じゃあ亮、お先に。僕のターン、ドロー!」

「ああ」

 セットモンスターとリバースカードを二枚伏せてターンを終了する、という守勢に向いた初手。シンプル故に強い、相手に自らのデッキを悟られないその布陣に、吹雪は思索を巡らせながらカードを引く。

 藤原のアカデミアの頃のデッキは、光属性の戦士族ビートダウン。とはいえ今の藤原のデッキは、かつてと同じデッキではないだろう。

「僕は《竜の霊廟》と《レッドアイズ・インサイト》を発動!」

 ならばやはり、ダークネスの軍勢が使う『ナンバーズ』を主軸としたデッキか。そう当たりをつけた吹雪は、まず通常魔法《竜の霊廟》によって二体のドラゴン族を墓地に送り、《レッドアイズ・インサイト》によってさらにレッドアイズモンスターを墓地に送り、さらにレッドアイズのサポートカードも手札に加える。

「そして《思い出のブランコ》を発動! 墓地から通常モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《真紅眼の黒竜》!」

「来たか……レッドアイズ……」

 そして《思い出のブランコ》によって特殊召喚されたのは、《竜の霊廟》によって墓地に送られていた、吹雪の象徴とも言えるモンスター《真紅眼の黒竜》。初手から出してきたエースモンスターに、藤原は何を思ってか笑みを深めた。

「さらに《伝説の黒石》を通常召喚。このモンスターは、自身をリリースすることで、デッキからレッドアイズを特殊召喚出来る!」

 さらに通常召喚されたのは、真紅に輝く竜の卵《伝説の黒石》。その外見通りにレッドアイズを特殊召喚する効果を持ち、召喚されるやいなや、自身を孵化させていき――産まれたのは、新たなレッドアイズ。

「デッキから《真紅眼の黒炎竜》を特殊召喚し、バトル!」

 デッキから特殊召喚されたのは、既にフィールドに存在するレッドアイズとは細部が異なる《真紅眼の黒炎竜》。とはいえステータスなどは一致しており、初手に二体のレッドアイズを揃えてみせた吹雪は、レッドアイズたちに攻撃を命じてみせた。

「《真紅眼の黒炎竜》でセットモンスターに攻撃! ダーク・メガ・フレア!」

「破壊されたモンスターは《クリアー・キューブ》。このモンスターは破壊された時、デッキから同名モンスターを特殊召喚する」

 《真紅眼の黒炎竜》の攻撃に正体を見せたのは、吹雪に亮も見たことのないモンスター《クリアー・キューブ》。その効果は単純にリクルート効果らしく、新たな《クリアー・キューブ》が守備表示で特殊召喚された。

「……続いて《真紅眼の黒竜》で攻撃しよう」

「三体目の《クリアー・キューブ》を特殊召喚」

 二体目のレッドアイズの攻撃が《クリアー・キューブ》を爆散させるものの、すぐさま新たな《クリアー・キューブ》がデッキから生成される。同名モンスター縛りのため、あれが最後の一枚の筈だったが、吹雪にこれ以上攻め手はない。

「メインフェイズ2。僕は二体のレッドアイズで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」

 結果的に藤原の二枚のリバースカードを使わせることも出来ずに、二体のレッドアイズの攻撃は簡単に防がれてしまう。藤原の腕は変わっていないようだ――と思いながら、藤原はレッドアイズに新たな力を見せろ、と命じる。


「闇より深き深淵より目覚めし、其は、真紅の瞳輝く竜! エクシーズ召喚! 《真紅眼の鋼炎竜》!」

 エクシーズ召喚の力を取り入れたレッドアイズのいななきが、フィールドに対して響き渡っていく。これでエンドフェイズに自壊するという《思い出のブランコ》のデメリット効果もなく、レッドアイズはフィールドに健在のままだ。

「だが吹雪。そのエクシーズ召喚の前に、俺は《リミット・リバース》を発動させてもらった。墓地から《クリアー・キューブ》を特殊召喚する」

 ただし変化が起こっていたのは吹雪のフィールドだけではなく、藤原のフィールドにも二体目の《クリアー・キューブ》が蘇生されていた。何かを狙っている様子だったが、吹雪の手札にそれを止める手段はない。

「カードを二枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー!」

 最初のターンの攻防が終わり、吹雪のフィールドは《真紅眼の鋼炎竜》に二枚のリバースカード。藤原のフィールドは《クリアー・キューブ》が二体に、発動済みの《リミット・リバース》にリバースカードが一枚。

「俺は二体の《クリアー・キューブ》で、オーバーレイ!」

 《クリアー・キューブ》は攻撃的も守備力も0、効果も同名モンスターのリクルートという守備向けの効果だが――藤原のフィールドには、レベル1のモンスターが二体揃っていた。それらはやはりエクシーズの素材となっていき、吹雪たちに新たな『ナンバーズ』の降臨を予感させた。

「全てを吸い込む闇よ。変幻自在に姿を変えよ! エクシーズ召喚! 《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》!」

 ――召喚されたのは『闇』だった。闇そのものとしか形容出来ない、深く深く沈んでいく漆黒。もはやモンスターとも呼べないソレは、それでも確かに『ナンバーズ』の名を冠していた。

「《ナンバーズ・アーカイブ》は、自らをエクシーズ素材にすることで、その身を新たなナンバーズに変化させる……!」

「なるほど。アーカイブ、か……だけどタダではやらせない。《真紅眼の鋼炎竜》は、相手モンスターが効果を発動した時、500ポイントのダメージを与える! ダーク・フレア!」

藤原LP8000→7500

 《アーカイブ》の名に相応しい、他のナンバーズに変身するという効果を持つナンバーズ、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》。相手プレイヤーの効果の発動に連動して発動する、《真紅眼の鋼炎竜》のバーン効果が藤原を焼くものの、ナンバーズ・アーカイブの効果の発動自体は止められず。

「《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》!」

 闇は、新たなナンバーズとして転生した。

「っ……!」

 本来ならばデッキの切り札となり得るその威圧感に、吹雪は身を震わせる。攻撃力4000を誇る闇から産まれた竜は、その漆黒に濁った瞳でレッドアイズを睥睨した。

「ダークマター・ドラゴンがエクシーズ召喚に成功した時、俺はドラゴン族モンスターを三体墓地に送ることで、相手はデッキのモンスターを三枚除外する」

「……だけどその効果を発動した時、《真紅眼の鋼炎竜》の効果で500ポイントのダメージだ」

藤原LP7500→7000

 《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》の効果による特殊召喚だったが、どうやらエクシーズ召喚扱いになるらしく、吹雪のデッキから三枚のモンスターが除外される。だが吹雪とて地道ながらもただやられている訳ではなく、《真紅眼の鋼炎竜》の効果は藤原のライフポイントを着実に削っていく。

「墓地に送られた《エクリプス・ワイバーン》は、デッキのドラゴン族モンスターを除外できる……さらにダークマター・ドラゴンは、エクシーズ素材を一つ取り除くことで、二回の攻撃が可能となる!」

藤原LP7000→6000

 しかし藤原は、ライフポイントへのダメージに構わず効果を発動していく。墓地で発動された《エクリプス・ワイバーン》はまだともかく、ダークマター・ドラゴンの効果は、シンプルながら強力な二回攻撃であり――ライフポイントが8000であるタッグフォースルールだろうと、脅威的な効果に変わりはなく。

「バトル! 壊滅のダークマター・ストリーム!」

「ぐっ……!」

吹雪&亮LP8000→6800

 藤原にダメージを与え続けていた《真紅眼の鋼炎竜》は、ダークマター・ドラゴンの放った闇の奔流によって、破壊を周囲に撒き散らしながら消えていった。さらに問題と言えるのは――ダークマター・ドラゴンが、未だにその行動を終えていないところか。

「ダークマター・ドラゴンの二回攻撃、ダイレクトアタックだ!」

「くっ……リバースカード、オープン! 《レッドアイズ・スピリッツ》!」

 吹雪が伏せていた二枚のカードのうち一枚が開き、そのカードの中から《真紅眼の黒竜》がフィールドに舞い戻った。発動された《レッドアイズ・スピリッツ》の効果は、墓地のレッドアイズモンスターを特殊召喚する効果だったが、壁にしかならずダークマター・ドラゴンに破壊された。

「……チィ。カードをさらに一枚伏せ、ターンを終了する」

 それでもダークマター・ドラゴンの攻撃を防いだことに変わりはなく、紙一重のところで攻撃力4000の二回攻撃を防ぐことに成功する。しかし一枚のリバースカードを伏せ、藤原はターン終了の宣言をしたところ、ダークマター・ドラゴンは再びいななき始めた。

「《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》の効果で特殊召喚されたモンスターは、ターン終了時に除外される。光が来れば闇は消え失せるように」

 ダークマター・ドラゴンが叫んでいるのは苦悶の声。ナンバーズ・アーカイブによってフィールドに現れるナンバーズは、その出自から完璧な状態にはほど遠く、エンドフェイズ時には除外されてしまう。

「だが闇は――ダークネスはこの世界を覆う。光が来ることはない! リバースカード、オープン!」

 ――今までは。

「《王宮の鉄壁》、か。……俺のターンだ」

 藤原が発動したリバースカードは《王宮の鉄壁》。お互いにカードを除外できなくなる罠カードであり、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》のデメリット効果も、《王宮の鉄壁》によって封殺される。しかも《王宮の鉄壁》を破壊しようとも、もはやナンバーズ・アーカイブのデメリット効果は発動しない。

「ドロー!」

 そして吹雪、藤原のターンを経て、遂に亮のターンにたどり着く。藤原のフィールドは、攻撃力4000を誇る《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》に、永続罠《王宮の鉄壁》に一枚のリバースカード。

 亮のフィールドに残るは、吹雪が伏せたカード一枚のみ。そこで亮が取る手段は。

「俺は《未来破壊》を発動! 手札の枚数分、俺は自分のデッキの上からカードを墓地に送る」

 自らのデッキを破壊することだった。魔法カード《未来破壊》によって、初期手札五枚分のカードを墓地に送ると、さらに魔法カードを発動する。

「さらに《サイバー・ダーク・インパクト》を発動!」

「サイバー・ダーク……? サイバー・ドラゴンはどうした、カイザー?」

「すぐに分かる。《サイバー・ダーク・インパクト》は、墓地のサイバー・ダークモンスターを三種類デッキに戻すことで、融合を果たす!」

 異世界の一件から亮のデッキに投入されている、裏サイバー流こと【サイバー・ダーク】。今の今までアカデミアを去っていた藤原が知る由もなく、亮は不敵な笑みを返しながらも、《未来破壊》で墓地に送られた三枚のサイバー・ダークを融合していく。

「ならば俺は、《エクシーズ・リボーン》を発動! このカードをエクシーズ素材に、墓地からエクシーズモンスターを特殊召喚する!」

 藤原のフィールドに伏せられていたリバースカードが開示され、亮のサイバー・ダークたちの融合より早く、藤原の墓地からエクシーズモンスターが蘇生する。藤原の墓地にエクシーズモンスターは一種類しかおらず、蘇生されたモンスターは必然的に決まっていた。

「現れろ《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》! そしてその姿を変えよ!」

「こっちのターンでも発動出来るのか!?」

 吹雪の驚愕の声とともに、ナンバーズ・アーカイブは先のターンと同様に、その姿を他のナンバーズへと変化させていく。対して亮のフィールドでも、三種類のサイバー・ダークが一度バラバラになり、その姿を巨大な巨影と成していた。

「融合召喚! 《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》!」

「エクシーズ召喚! 《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》!」

 お互いの二体のモンスターが同時に召喚され、フィールド内に振動を巻き起こす。どちらも曰わくを持った闇のカードらしく、相手のフィールドを威圧するオーラを放つ。

「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の効果! このモンスターが融合召喚に成功した時、墓地のドラゴン族モンスターを装備し、そのモンスターの攻撃力を得る! ……吹雪、使わせてもらう」

 本来ならば、前もって装備するドラゴン族モンスターを墓地に送っておくところだが、今回は吹雪とのタッグデュエル。既に墓地にはレッドアイズモンスターがおり、サイバー・ダーク・ドラゴンの牙がレッドアイズを捕らえていく。

「甘い! 《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》の効果を発動! 相手のレベル5以上のモンスターの効果を、ターン終了時まで無効にする! ソウル・デベロップ!」

 ただしその牙がレッドアイズを捕らえよるより早く、藤原のフィールドに現れた新たなナンバーズ、フォーカス・フォースの光線がサイバー・ダーク・ドラゴンに放たれた。その効果は、相手モンスターの効果を無効にする効果であり、サイバー・ダーク・ドラゴンの装備効果ももちろん例外ではない。

「おっと! 伏せといた《禁じられた聖杯》を発動!」

「何!?」

 ただしフォーカス・フォースの光線が、サイバー・ダーク・ドラゴンに届くことはなく。吹雪のリバースカードに防がれ、光線はどこへともなく消滅する。

「《禁じられた聖杯》の対象となったモンスターは、効果が無効化される!」

「《真紅眼の鋼炎竜》を装備し、その攻撃力を得る」

「……たがダークマター・ドラゴンの攻撃力には及ばない!」

 《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》の効果を無効化する効果を、《禁じられた聖杯》による無効化効果の無効化により、サイバー・ダーク・ドラゴンの効果は無事に発動する。墓地に眠っていた《真紅眼の鋼炎竜》の力を取り込んだが、それだけでは《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の攻撃力には及ばない。

「ああ、まだだ。サイバー・ダーク・ドラゴンは、墓地に存在するモンスター×100ポイント、攻撃力がアップする。よって攻撃力は4200」

 だが《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の効果はそれだけではなく、このデュエル序盤では微々たるものだが、それでもダークマター・ドラゴンの攻撃力を超える。《未来破壊》によって送られた亮のモンスター二体と、吹雪の二体のレッドアイズが、サイバー・ダーク・ドラゴンに力を与えていく。

「バトル。《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》で、ダークマター・ドラゴンに攻撃! フル・ダークネス・バースト!」

「チッ……!」

藤原LP6000→5800

 効果とリバースカードを使い切ったせめぎ合いを制し、亮の《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は、藤原の《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》を破壊してみせた。エクシーズ素材が残っている《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》より、その高い攻撃力を誇ったダークマター・ドラゴンを警戒し、亮は先に破壊することを選ぶ。

「俺はモンスターをセット。カードを二枚伏せ、ターンを終了する」

「俺のターン、ドロー! ……《強欲で貪欲な壺》を発動! デッキトップからカードを十枚裏側で除外することで、カードを二枚、ドローする!」

 そして藤原が使ったカードは、デッキトップからカードを十枚裏側で除外する、という強烈なデメリットを代償に二枚のドローを果たすカード。裏側で除外されれば再利用出来るカードは数える程しかなく、十枚ともなればデッキ切れの可能性も出て来るが、どうやら藤原は最初からデッキ枚数を増やしたデッキらしく。

「《イービル・ゾーン》を召喚し、効果を発動!」


 藤原のフィールドに召喚された魔界の植物は、藤原の命によってすぐさま種子を破裂させて爆散する。飛び散った種子は亮と吹雪を襲うだけではなく、新たな植物を生やす土壌となっていく。

「《イービル・ソーン》は自身をリリースすることにより、300ポイントのダメージを相手に与え、さらにデッキから二体の《イービル・ソーン》を新たに特殊召喚出来る」

吹雪&亮LP6800→6500

 つまり亮と吹雪にダメージを与えながらも、藤原のフィールドには二体のモンスターが召喚される。さらに《イービル・ソーン》の効果を発動することも可能だが、藤原の狙いはそこではない。

「《イービル・ソーン》二体でオーバーレイ! 《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》をエクシーズ召喚!」

 レベル1モンスターである《イービル・ソーン》によって現れる、二体目――フィールドに現れたというだけなら三体目の、藤原の主力モンスター《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》。そして闇は、新たなナンバーズを生み出していく。

「ナンバーズ・アーカイブのエクシーズ素材を取り除き、現れろ! 《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》!」

 そして闇は、人型の戦車となって現出した。現れた新たなナンバーズは、その砲身をサイバー・ダーク・ドラゴンへと向ける。

「チャリオッツの効果。このターン、相手に与える戦闘ダメージを半分にすることで、相手モンスターとセットカードを一枚ずつ破壊する!」

「《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》は、装備モンスターを墓地に送ることで、破壊を免れる!」

 チャリオッツの放った一撃は、その一撃のみで《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》と、亮が先のターンに伏せたセットカードを破壊する。サイバー・ダーク・ドラゴンは、装備していた《真紅眼の鋼炎竜》を身代わりに防ぐが、セットしていた《決闘融合-バトル・フュージョン》はそうもいかずに破壊されてしまう。

「決闘融合か……いいカードを破壊したらしい」

「…………」

 さらに破壊を免れたとは言えども、装備していた《真紅眼の鋼炎竜》が破壊されたことにより、《鎧黒竜-サイバー・ダーク・ドラゴン》の攻撃力は大きく減じる。自身の効果によるパンプアップのみとなり、下級モンスタークラスの1500となってしまい、もちろん藤原の二体のナンバーズに及ぶべくもない。

「バトル! フォーカス・フォースでサイバー・ダーク・ドラゴンを攻撃!」

「サイバー・ダーク……」

吹雪&亮LP6500→5950

 そしてサイバー・ダーク・ドラゴンは破壊されてしまうものの、他でもないチャリオッツの効果によって、亮たちが受ける戦闘ダメージは半分となっている。崩れ落ちていくサイバー・ダークを見ながら、亮はダメージに耐えてみせた。

「さらにチャリオッツでセットモンスターに攻撃し、ターンを終了する」

「破壊されたモンスターは《サイバー・フェニックス》。このカードが戦闘破壊された時、カードを一枚ドローする」

 藤原のナンバーズの猛攻によって、再び亮と吹雪のフィールドにモンスターは消えた。これで藤原のフィールドには、《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》と《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》という二体のナンバーズと、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》のデメリット効果を消す永続罠《王宮の鉄壁》。

「すまない、吹雪。モンスターだけでも残すつもりだったが……」

「なに、お互い様さ。僕のターン、ドロー!」

 亮と吹雪のフィールドには、亮が伏せていたリバースカードが一枚という状況で、ターンは吹雪へと移行した。

「僕は《紅玉の宝札》を発動! 手札からレッドアイズを捨て二枚ドローし、さらにデッキからレッドアイズモンスターを墓地に送る!」

 専用サポートカード《紅玉の宝札》の効果により、手札の交換と墓地肥やしをしてみせ、吹雪は一時だけ手札を見て考えにふける。そして一瞬の後、新たな魔法カードをデュエルディスクにセットした。

「僕は《闇の量産工場》を発動! 墓地の通常モンスターを二体、手札に加え……《融合》を発動!」

「《融合》、か……!」

 レッドアイズに出来るのは、先のターンで見せたエクシーズモンスターだけではなく。可能性の竜という別名通りに、《闇の量産工場》によってサルベージされた二体のレッドアイズが、新たなモンスターへと生まれ変わっていく。

「融合召喚! 《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》!」

 融合素材となった新たなレッドアイズ、《真紅眼の凶星竜-メテオ・ドラゴン》の意匠を受け継ぎ、まるで不死鳥の如く進化を遂げたレッドアイズ。それが《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》であり、全身に炎を纏って燃え上がりながらも飛翔する。

「流星竜の効果! 融合召喚に成功した時、デッキからレッドアイズモンスターを墓地に送ることで、その攻撃力の半分のダメージを相手に与える!」

「だが、まだフォーカス・フォースのエクシーズ素材は残っている! ソウル・デペロップ!」

 ただし流星竜の効果が発動するより早く、藤原の《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》の効果が発動する。相手ターンだろうとエクシーズ素材を一つ取り除くだけで、レベル5以上の相手モンスターを無効にする効果を持つフォーカス・フォースの前には、流星竜だろうと効果の発動は不可能。

「おっと残念。なら《アトバンスドロー》を発動。レベル8モンスター、つまり流星竜を墓地に送ることで、僕は二枚のカードをドローする」

 そして《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》に効果を無効にされたと見るや、あっさりと吹雪は流星竜を《アトバンスドロー》によってリリースし、すぐさまドローへと変換する――ただし流星竜は、ここからが真髄とも言えた。

「流星竜が墓地に送られた時、墓地からレッドアイズを特殊召喚出来る。現れろ、《真紅眼の黒竜》!」

「何!?」

 流星竜が墓地に送られた時、新たなレッドアイズをフィールドに残す。燃え盛る竜が消えていくと、その場には新たな真紅の瞳を持つ黒竜がフィールドに現れていた。

「さらに《思い出のブランコ》で《真紅眼の黒炎竜》を蘇生し、二体のレッドアイズでエクシーズ召喚! 《真紅眼の鋼炎竜》!」

 最初のターンに引き続き、新たに特殊召喚されるレッドアイズ・エクシーズモンスター。変幻自在に現れるレッドアイズモンスターたちは、まだ終わりではない。

「《真紅眼の鋼炎竜》の効果。エクシーズ素材を一つ取り除き、墓地からレッドアイズモンスターを特殊召喚出来る! 再び蘇れ、《真紅眼の黒竜》!」

 《真紅眼の鋼炎竜》の更なる効果により、もはや何度目になるか分からない《真紅眼の黒竜》の特殊召喚が成されるが、このままでは藤原の《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》には適わない。故にまだ吹雪の手が止まることはなく、新たな魔法カードをデュエルディスクにセットした。

「魔法カード《融合回収》を発動し、墓地から《融合》カードと融合に使ったモンスターを回収し、そのまま《融合》を発動する!」

 《融合回収》によってつい先程使われたばかりの、《融合》魔法カードと融合素材となった《真紅眼の凶星竜-メテオ・ドラゴン》が回収され、再びフィールドの《真紅眼の黒竜》とともに融合していく。魔法カード《融合回収》のサルベージ効果だけではなく、《真紅眼の鋼炎竜》の蘇生効果も絡めているため、この融合召喚の実質的な手札消費は0。二体のレッドアイズが融合していき、フィールドに現れるモンスターはもちろん。

「その燃え盛る翼をもって、再びこのフィールドに飛翔せよ! 《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》!」

「くっ……!」

 《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》による妨害もこともなげに、フィールドに揃った《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》に《真紅眼の鋼炎竜》という、融合とエクシーズ、二対のレッドアイズに藤原は歯噛みする。

「流星竜の効果! デッキから《真紅眼の黒炎竜》を墓地に送り、その攻撃力の半分、1200ポイントのダメージを与える!」

藤原LP5800→4600

 デッキから呼び出した《真紅眼の黒炎竜》の力を借りた炎が炸裂し、藤原のライフを遂に半分まで削る。さらに二体のレッドアイズは藤原のナンバーズの攻撃力を上回っており、さらに戦闘態勢に入っていく。

「《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》で、フォーカス・フォースに攻撃! メテオ・ダイブ!」

「ぐあっ!」

藤原LP4600→3900

 流星竜の攻撃は、単純に自らの質量を込めた体当たり。だがその燃え盛る翼と巨大な質量を持って、あらゆるものを破壊する一撃となる。

「さらに《真紅眼の鋼炎竜》で、チャリオッツに攻撃する!」

藤原LP3900→3600
 そしてエクシーズとなり進化した《真紅眼の鋼炎竜》もまた、通常のレッドアイズから力を増している。これで藤原の二体のナンバーズ、《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》と《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》は破壊され、藤原のフィールドに残るカードは《王宮の鉄壁》のみ。

「僕は……これでターンエンド」

「俺のターン、ドロー! なかなかやるじゃないか、吹雪ぃ……」

 ドローしたカードを確認しながら、藤原は吹雪に向かって敵愾心を込めながら笑いかける。確かにそのフィールドは《王宮の鉄壁》のみだったが、その手札は未だに潤沢であった。さらに墓地には《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の効果で墓地に送った、三体のドラゴン族モンスターが存在しているが、これまでの藤原はドラゴン族を使用していない。

「そろそろか」

「ああ……!」

 つまり、まだ藤原は手の内を見せていない。ただ《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》による小手調べをしていたのみで、亮に吹雪もこれが藤原の本気だとはまるで思っていなかった。

「俺は《死者蘇生》を発動! 墓地から――」

「《死者蘇生》の発動にチェーンし、《真紅眼の鋼炎竜》の効果! 相手がカード効果を発動した時、500ポイントのダメージを与える!」

藤原LP3600→3100

 そして藤原のターンに発動されたカードは、説明不要の蘇生カード《死者蘇生》。ただし吹雪のフィールドに再び召喚された、《真紅眼の鋼炎竜》の効果によって、あらゆるカード効果の発動に500ポイントのライフコストがつく。500ポイントのダメージを受け、藤原が《死者蘇生》で特殊召喚したモンスターは。

「《サイバー・ジラフ》だと……!?」

「亮。お前の墓地から特殊召喚させてもらった。《サイバー・ジラフ》の効果を発動し、俺はターン終了時まで効果ダメージを無効化する!」

 予想外のモンスターの登場に、亮の鉄面皮にも動揺の色が浮かぶ。そのモンスターは《未来破壊》で墓地に送られていた亮のモンスター《サイバー・ジラフ》であり、その効果は、自身をリリースすることで、効果ダメージを無効にする効果。

「っ……」

 本来は亮のデッキに眠る、あるカードのコストを無効にするためのモンスターだった。だが《死者蘇生》によって一時的にせよ藤原の手に渡った以上、《真紅眼の鋼炎竜》の持ち味である、恒久的なバーン効果はこのターンに限り封印される。

 そしてそれは、これから攻め込むという合図でもあった。

「まずは《マジック・プランター》を発動。永続罠《王宮の鉄壁》をリリースし、カードを二枚ドローする」

 もはや小手調べの時は終わったということか、《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》の為の永続罠《王宮の鉄壁》を、《マジック・プランター》によって二枚のドローに変換する。

「俺は魔法カード《狂った召喚歯車》を発動! 相手にモンスターを特殊召喚する代わりに、墓地の攻撃力1500以下のモンスターを、三体特殊召喚する」

「……僕は《真紅眼の黒竜》と、《真紅眼の黒炎竜》を特殊召喚しよう」

 亮と吹雪、二人にしても遊矢が多用するという理由でよく知る、攻撃力1500以下のモンスターを三体展開する魔法カード《狂った召喚歯車》。代償に吹雪のフィールドにも、新たに二体のレッドアイズが特殊召喚されるが、藤原は気にも留めていなかった。

「俺が特殊召喚するのは、墓地に眠っていた《竜王の聖刻印》!」

 金色に輝く竜の卵。その外皮には聖なる印が刻まれているが、まだ竜となっているわけではなく、効果を持っておらずその攻撃力と守備力は0。ただし同じレベルのモンスターが三体並び、ナンバーズの登場に吹雪は警戒するが――

「さらに《馬の骨の対価》を発動し、《竜王の聖刻印》をリリースして二枚ドロー」

 エクシーズ召喚をする気配はない。それだけではなく、三体のうち一体を《馬の骨の対価》でリリースし、二枚のカードのドローするためのコストにしてしまうほどに。

 《馬の骨の対価》は通常モンスターをリリースし、二枚のカードをドローするカードだが、《竜王の聖刻印》はデュアルモンスター。再度召喚をしていないため、フィールドと墓地では通常モンスターとして扱う。

「さらに手札のこのカードは、墓地のドラゴン族・光属性モンスターと、ドラゴン族の通常モンスターを1体ずつゲームから除外することで、手札から特殊召喚できる! 《聖刻龍-ウシルドラゴン》!」

 墓地に存在していた《エクリプス・ワイバーン》と、今し方《馬の骨の対価》によって墓地に送られた《竜王の聖刻印》を除外することで、手札から《聖刻龍-ウシルドラゴン》が特殊召喚される。フィールドに存在する《竜王の聖刻印》とはレベルが違い、このままではエクシーズ召喚をすることは出来ない。

「そして《エクリプス・ワイバーン》が除外された時、除外していたモンスターを手札に加える」

 そして除外された《エクリプス・ワイバーン》の効果が発動される。墓地に送られた際に自身のモンスターを除外する効果と、自身が除外された際に、除外していたモンスターを手札に加える二つの効果を持つ《エクリプス・ワイバーン》により、新たなドラゴン族が手札に加えられる。

「そして墓地の光属性と闇属性を除外することで、手札に加えられた《ライトパルサー・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 墓地の《No.25 重装光学撮影機フォーカス・フォース》と《No.78 ナンバーズ・アーカイブ》が除外され、《エクリプス・ワイバーン》によって手札に加えられた《ライトパルサー・ドラゴン》が特殊召喚され、これで藤原のドラゴン族は四体。ただし、まだ終わることはなく――

「《ライトパルサー・ドラゴン》をリリースし、《聖刻龍-アセトドラゴン》をアドバンス召喚する!」

 さらに上級ドラゴンのアドバンス召喚。またもやレベルがズレた《聖刻龍-アセトドラゴン》がフィールドに現れるが、リリースされた《ライトパルサー・ドラゴン》のいななきがフィールドに響き渡っていく。

「《ライトパルサー・ドラゴン》はリリースされた時、墓地から通常モンスターを特殊召喚出来る。《カース・オブ・ドラゴン》を蘇生!」

 《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の効果で墓地に送られていたモンスターは、《エクリプス・ワイバーン》に《竜王の聖刻印》に《カース・オブ・ドラゴン》だったらしく、最後の一枚が遂に姿を現した。《ライトパルサー・ドラゴン》のリリースされた際の効果により、《カース・オブ・ドラゴン》が墓地からフィールドに現れたことで、藤原のフィールドは五体のドラゴン族モンスターで埋まっていく。

「そして《聖刻龍-アセトドラゴン》の効果。自分フィールドの、ドラゴン族通常モンスターと聖刻モンスターのレベルを、同じレベルにする!」

「ッ!?」

 《聖刻龍-アセトドラゴン》の効果によって、藤原のフィールドの聖刻モンスターのレベル――つまりフィールドに残る他三体のモンスター、《聖刻龍-ウシルドラゴン》と二体の《竜王の聖刻印》は、《カース・オブ・ドラゴン》と同じく5となった。突如としてフィールドを埋め尽くすほどのレベル5モンスターに、もはや吹雪に警戒すらも生ぬるかった。

「レベル5モンスター二体と、レベル5モンスター三体で、オーバーレイ!」

 五体のモンスターは別々にエクシーズ素材となっていき、再び二体のナンバーズの気配がフィールドに香る。

「ダブルエクシーズ召喚! 《No.53 偽骸神 Heart-eartH》!  《No.61 ヴォルカザウルス》!」

 そして二体のナンバーズがエクシーズ召喚され、吹雪のフィールドの五体のレッドアイズと対抗する。《狂った召喚歯車》によって、吹雪のフィールドにモンスターを埋めてまで召喚したナンバーズと、二体とも強力に違いないが……

「《No.61 ヴォルカザウルス》の効果発動! 相手モンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!」

 そして《No.61 ヴォルカザウルス》が起動する。その対象はもちろん、フィールドで最も攻撃力が高いモンスター――《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》。

「流星竜を破壊せよ、マグマックス!」

「なっ……があああ!」

吹雪&亮LP5950→2450

「吹雪!」

「大丈夫大丈夫……ちょっと効いたけどさ」


 《No.61 ヴォルカザウルス》が吐いたマグマは、炎に包まれていたはずの《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》までも破壊し、その火力でもってターンプレイヤーである吹雪を焼く。大幅にライフポイントを削られるものの、まだ吹雪から勝利を渇望する意志は消えない。

「それにやられてばかりでもない! 流星竜が墓地に置かれたことにより、墓地から《真紅眼の黒竜》を特殊召喚する!」

 《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》は破壊された時、墓地の通常モンスターを特殊召喚する効果を持つ。ナンバーズによる更なる攻撃を警戒してか、守備表示で流星竜の亡骸から《真紅眼の黒竜》が蘇生する。

「そして……俺は《No.61 ヴォルカザウルス》と《No.53 偽骸神 Heart-eartH》で、オーバーレイ!」

「二体ともエクシーズモンスターで……エクシーズ召喚!?」

 だが《真紅眼の黒竜》を特殊召喚したのも束の間、藤原の更なる手は二体のナンバーズによるエクシーズ召喚。その常識を超越する手段に対し、二人は驚愕を隠しきれずに。

「万界に散りし我が魂の祈りよ! 今こそこの手に集いその姿を現せ! 現れろ! ナンバーズの真の皇よ! 《No.93 希望皇ホープ・カイザー》!」

 同じランクかつ、エクシーズ素材を持ったナンバーズ――《No.53 偽骸神 Heart-eartH》、《No.61 ヴォルカザウルス》の二体をエクシーズ素材にし、ナンバーズの皇《No.93 希望皇ホープ・カイザー》がエクシーズ召喚される。皇帝の名を関しているが、ステータスは特に強力という訳ではなかったが――その圧倒的な威圧感は、既に吹雪と亮に吹き飛ばさん程だった。

「《No.93 希望皇ホープ・カイザー》の効果! このモンスターのエクシーズ素材の数だけ、エクストラデッキから直接、ナンバーズを特殊召喚する!」

「――――ッ!?」

「皇帝の名の下に集え! 《No.38 希望魁竜タイタニック・ギャラクシー》! 《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》! 《No.46 神影龍ドラッグルーオン》! 《No.85 クレイジー・ボックス》!」


 四体のナンバーズがあっさりとフィールドを埋め尽くし、そのいずれもが攻撃力3000を誇り、同数のレッドアイズと立ち向かっていく。ただし攻撃力3000を超えるモンスター、《流星竜 メテオ・ブラック・ドラゴン》は《No.61 ヴォルカザウルス》に破壊されてしまい、対抗出来るモンスターはない。その中にダークネスに侵された吹雪が使っていた、《No.46 神影龍ドラッグルーオン》の姿もあり、知らず知らずのうちに吹雪は舌を巻く。

「この効果を使った時、ホープ・カイザーのエクシーズ素材は一つ取り除かれ、相手に与える戦闘ダメージは半分になる……効果は無効にされているが、エンドフェイズに自壊する、なんてに甘いことは考えるなよ」

 戦闘ダメージの半減とエクシーズ素材の一つと、特殊召喚されたナンバーズの効果は無効化されるという代償のみで、類似効果のよくある自壊デメリット効果はない。まだホープ・カイザーに効果は残されている可能性もあり、レッドアイズに守られながらも、吹雪は相手から感じる威圧感を抑えられることはなかった。

「バトル! 《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》で、《真紅眼の鋼炎竜》に攻撃!」

「まだだ! 《真紅眼の鋼炎竜》の第二の効果! オーバーレイ・ユニットを一つ取り除き、墓地からレッドアイズを特殊召喚出来る!」

 《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》に破壊される直前に、《真紅眼の鋼炎竜》もまた、最後の抵抗に墓地からレッドアイズを呼ぶ。その直後に拷問機械によって切り刻まれてしまうものの、吹雪のフィールドに希望を繋げていた。

吹雪&亮LP2450→2350

「レッドアイズどもを破壊しろ、ナンバーズ!」

「っつ……!」

吹雪&亮LP2350→1450

 残るレッドアイズたちも、攻撃力3000のナンバーズたちにそれぞれ破壊され、吹雪と亮のライフポイントはもはや普通のデュエルと変わらないほどに落ち込む。最後に守備表示で特殊召喚されていた《真紅眼の黒竜》が、ホープ・カイザーに破壊されてしまい、吹雪のモンスターは全滅する。

「……すまない……レッドアイズ……」

「……ふん。カードを三枚伏せ、ターン終了する」

 それでも守りきってくれたレッドアイズたちに、礼を言う吹雪を後目にしながら、藤原は残る三枚、全ての手札を伏せてターンを終了する。これで戦闘ダメージ半分のデメリットも消え、ナンバーズ五体が藤原のフィールドに残る。

「だけど藤原、僕は耐えられただけで充分さ」

「何?」

「知ってるだろ? 亮はこの状況、どうにでも出来るってこと」

「っ……!?」

「俺のターン、ドロー!」

 吹雪の言っていることはただの妄言ではなく、藤原に思い至ることがあるからこその警戒。そしてアカデミアのカイザーは、無感情のように見せかけて内心に意志を込めながらカードを引いた。

「墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》は、フィールドにモンスターがいない時、このモンスターを除外することで、デッキから《サイバー・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 カイザー亮の十八番。墓地の《サイバー・ドラゴン・コア》を除外することで、遂に純正の《サイバー・ドラゴン》がフィールドに現れる。もちろん五体のナンバーズに適う筈もないが、それもすぐに変わる。

「リバースカード、オープン! 《DNA改造手術》! ……選択する種族は当然、機械族!」

 先の亮のターンから伏せられたままだったリバースカードが開き、《DNA改造手術》はフィールドのモンスター全てを機械族としていく。そして機械族となった以上、どんな耐性を持っていようと、その一撃に耐えられるモンスターはいない。

「《サイバー・ドラゴン》と、フィールドの機械族を全て融合し、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》を融合召喚する!」

 どんな耐性を持っていようが、融合素材とするという最高の除去に耐えることは出来ずに、ナンバーズ五体は《サイバー・ドラゴン》とともに時空の穴に吸い込まれていく。そして新たな融合モンスター――《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》へと生まれ変わった。

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》は、融合素材の数×1000ポイント。よって攻撃力は6000ポイント」

 藤原の残るライフポイントは3600。攻撃力6000となった《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》から守るモンスターは、全て融合素材となって藤原のフィールドにはいない。

「…………」

 つまり《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》にのダイレクトアタックにより、そのライフポイントは0となり、亮と吹雪の勝利が決定する――筈だが、藤原はどこにも慌てた様子はなく、三枚のリバースカードとともに不気味な沈黙を続けている。

「……バトル! 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》で、藤原にダイレクトアタック! エボリューション・リザルト・アーティレリー!」

 しかしこのまたとないチャンスに対して、みすみすと見過ごすわけにはいかなかった。亮はしばしの沈黙と思案の後、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃を命じてみせると、予想に反して六発の光弾が藤原に炸裂する。

「ぐああぁっ!」

「……これは!?」

「亮!?」

 藤原に直撃する《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃――とともに、亮のデッキに突如として異変が起きていく。デュエルディスクに闇の浸食が起きていき、デッキに墓地からモンスターカードが消えていく。

「亮ならこの状況をどうにでも出来るだと? ああ知っているとも! カイザーの腕前は、俺達がよく知っている!」

藤原LP3600→600

 そして《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃による爆炎が消えていき、中から残るライフポイントが僅か600ポイントとなった藤原が姿を現した。藤原のデュエルディスクにも同様の現象が起きており、三枚のリバースカードが全て開示されていた。

「俺は伏せていた、《ダメージ・ダイエット》と《ヘル・テンペスト》を発動していた!」

 《ダメージ・ダイエット》は戦闘ダメージを半分にする罠カードであり、その効果によって《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》からの6000ポイントの戦闘ダメージを半減、ライフポイントをギリギリのところで踏みとどまらせた。

 さらに藤原と亮のデッキに起きた異変は、《ヘル・テンペスト》によるカード効果。3000ポイント以上の戦闘ダメージを受けた時、お互いのデッキと墓地のモンスターを全て除外するという、発動条件の重さに比例した禁止級の効果を秘めたカード。これによって藤原と亮のデッキと、お互いの墓地のモンスターは死滅する。

 《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の攻撃を読んだ《ヘル・テンペスト》の発動は、藤原にも大きくマイナスなようにも思えるが、藤原は《強欲で貪欲な壷》によって、自らのデッキを既に除外している。恐らくは除外ゾーンも活かしたギミックを搭載しており、二人は藤原のフィールドに顕現していたモンスターを見た。

「さらに《ヘル・テンペスト》の効果が適応される直前、俺は伏せていた《リミット・リバース》により、《No.53 偽骸神 Heart-eartH》を蘇生させていた!」

 先のターンに《No.61 ヴォルカザウルス》とともにエクシーズ召喚され、《No.93 希望皇ホープ・カイザー》のエクシーズ素材となっていたナンバーズ。ホープ・カイザーの効果コストによって墓地に送られていたらしく、唯一《ヘル・テンペスト》の効果から免れ、フィールドに特殊召喚された。

「……メインフェイズ2。《サイバー・ヴァリー》を召喚し、カードを一枚伏せてターンエンド」

 藤原の狙い通りに行動しただけということは分かっていたが、亮にこれ以上打つ手はなく。メインフェイズ2へと移行すると、最後に残ったモンスターである《サイバー・ヴァリー》を召喚し、リバースカードを一枚伏せてターンを終了する。

「俺のターン、ドロー!」

 これで藤原のフィールドには、《リミット・リバース》によって蘇生された《No.53 偽骸神 Heart-eartH》のみで、残るライフポイントは僅か600ポイント。ただし目論見通りに《ヘル・テンペスト》が決まり、わざわざ墓地から蘇生させたナンバーズもフィールドに存在する。

 対する亮と吹雪のフィールドは、攻撃力6000を誇る《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に、《サイバー・ヴァリー》と機械族を指定した《DNA改造手術》。そしてリバースカードが一枚でライフポイントは1400と、あらゆるアドバンテージを藤原を上回っているものの、《ヘル・テンペスト》によってデッキと墓地は死滅してしまっている。

「……ほう。俺は《マジック・プランター》を発動し、永続罠《リミット・リバース》をコストに、二枚のカードをドローする!」

 手札が0枚だった藤原が引いたカードは、永続罠をコストに二枚のカードをドローする通常魔法《マジック・プランター》。同然のように永続罠《リミット・リバース》をコストに、二枚のドローに変換するが、もちろん《リミット・リバース》によって蘇生されていた《No.53 偽骸神 Heart-eartH》は自壊してしまう。

「《No.53 偽骸神 Heart-eartH》は効果で破壊された時、このモンスターをエクシーズ素材にすることで、エクストラデッキから《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》を、エクシーズ召喚する!」

 その行動が理解できなかった亮だったが、すぐに《No.53 偽骸神 Heart-eartH》の効果と藤原の行動を理解する。《リミット・リバース》が《マジック・プランター》によって破壊されたことで、《リミット・リバース》によって蘇生されていた《No.53 偽骸神 Heart-eartH》は破壊され、破壊された時に新たなナンバーズを呼び寄せる効果を持っていた。

「バトル! 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》で、《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》に攻撃!」

 ただし呼び寄せたナンバーズ《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》は、元々の《No.53 偽骸神 Heart-eartH》と同じく、攻撃力・守備力ともに0。とはいえランクは9と高い上に、結果が分かりきった《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》へと攻撃を仕掛けてきた。

「……リバースカード、オープン! 《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》を発動!」

 攻撃力6000の《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》と、攻撃力0の《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》。もはや大人と子供ほどの争いだったが、『ナンバーズ』の未知なる効果は嫌という程に味わった。嫌な予感を拭いきれなかった亮は、伏せていた永続罠《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》を発動する。

「《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》をリリースすることで、攻撃してきた《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》を破壊する!」

 《サイバー・ドラゴン》、もしくは《サイバー・ドラゴン》を融合したモンスターをコストに、何度でも相手モンスターを破壊する永続罠《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》。その効果が十全に発揮され、《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》を完膚なきまでに破壊する。

「亮、お前はつくづく……思い通りに動いてくれる! エクシーズ素材を持って効果破壊された《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》は自己再生する!」

 《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》によって粉々に破壊された《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》は、エクシーズ素材をコストに自己再生を開始していく。さらに藤原や亮のデュエルディスクを浸食していた闇をも体積に含んでいき、先程とは比べ物にならない力を秘めていく。

「偽りの骸を捨て、神の龍となりて現れよ! 真の力を解き放て! 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》!」

 エクシーズ素材を失ったにもかかわらず、それは余計な殻を打ち破ったかのように。真の力を解放した《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》が、質量を含んだ闇を伴って二人の前に降臨する。

「真の力を解放した《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力は、お互いに除外されたカード×1000ポイントとなる!」

「ッ!?」

 お互いに除外されたカード――言うまでもなく《ヘル・テンペスト》によってお互いのデッキは除外されており、それらは全て《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力に変換されていく。つくづく思い通りに――と藤原が言うように、亮は《キメラテック・フォートレス・ドラゴン》の融合から、まんまと藤原の手の内で踊っていた。

「除外されたカードは56枚。よって攻撃力は、56000ポイントとなる!」

 タッグフォース・ルールの初期ライフを遥かに超越するその攻撃力に、亮と吹雪が感じた衝撃は驚愕すらも生温い。亮も高い攻撃力による一撃は得意とするところだが、文字通りに桁が違う数値を誇っていた。

「バトルフェイズはまだ終わっていない! 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃! ハートブレイク・キャノン!」

「くっ……《サイバー・ヴァリー》の効果発動! このモンスターが攻撃対象となった時、このカードをリリースすることで、バトルフェイズを終了し、カードを一枚ドローす――ッ!」

 間一髪、生ける《攻撃の無力化》とも言える効果を持つ《サイバー・ヴァリー》の効果により、何とか戦闘ダメージは0に抑えたものの、その衝撃は吸収しきれずに。風圧に亮は吹き飛ばされ、背にしていた壁に追突するまで止まることはなかった。

「フッ……カードを一枚伏せ、ターンを終了する!」

「……僕のターン、ドロー!」

 亮を庇うように吹雪は藤原の前に立ちはだかると、ターンが移行したことによってカードをドローする。ターンプレイヤーのデッキや手札のみを使えるタッグフォース・ルールによって、《ヘル・テンペスト》の効果が適応された時は、吹雪のデッキはフィールドに存在しなかった扱いとなっていた。よって《ヘル・テンペスト》によって、デッキのモンスターは除外されてはいないが、墓地は共有のためそうはいかず。

「っ……」

 これまでのターンに展開し、そして墓地に送られてきたレッドアイズたちは、全て除外されてしまっているため、主力モンスターがいないという点については亮と変わらない。

「装備魔法《D・D・R》を発動! 手札を一枚捨て、このカードを装備することで、除外ゾーンからモンスターを特殊召喚する! 次元の狭間から蘇れ、《真紅眼の黒竜》!」

 ただし除外されたモンスターを特殊召喚する術が無いわけでもなく、そのうちの一枚である装備魔法《D・D・R》を発動する。手札一枚をコストにすることで、除外ゾーンから――もちろん《真紅眼の黒竜》を特殊召喚する。

「レッドアイズなど、今更……」

「なに……こう見えても、君らのデュエルに付き合っていたおかげで、大型食いは得意でね! チューナーモンスター《ガード・オブ・フレムベル》を召喚!


 《真紅眼の黒竜》が除外ゾーンからの特殊召喚に成功したことにより、《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力が1000ポイント下がるが、もはやそんなものは誤差の範囲内だろう。さらに吹雪が召喚したのは、チューナーモンスター《ガード・オブ・フレムベル》。

「レベル7の《真紅眼の黒竜》に、レベル1の《ガード・オブ・フレムベル》をチューニング!

 そしてすぐさま《ガード・オブ・フレムベル》は光の球となっていき、《真紅眼の黒竜》を包みこんでいく。合計レベルは8、闇に広がっていく光に伴って、新たな竜のいななきが響き渡っていく。

「闇より暗き深淵より出でし漆黒の竜。今こそその力を示せ! シンクロ召喚! 《ダークエンド・ドラゴン》!」

 シンクロ召喚の光るエフェクトとは対照的に、その名が示すように、どこまでも漆黒のドラゴンがシンクロ召喚される。攻撃力は2600と、もちろん《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》に及ぶべくもない、が――

「《ダークエンド・ドラゴン》の効果を発動! 500ポイント攻撃力を下げることで、相手モンスター一体を墓地に送る! ダーク・フォッグ!」

 《ダークエンド・ドラゴン》の効果は、自身の攻撃力を500ポイント下げることによって、相手モンスター一体を墓地に送る効果。たとえ効果破壊された際に発動する効果や、効果破壊耐性を持っていたとしても、無条件に墓地へ送る。

 それは相手がナンバーズだろうと関係なく、ダークエンド・ドラゴンのブレスが《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》に迫り――

「リバースカード、オープン!」

 ――消える。

「速攻魔法《神秘の中華鍋》! 俺は《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》を墓地に送り、その攻撃力分、ライフポイントを回復する!」

 ただし消えたのは、吹雪の《ダークエンド・ドラゴン》の効果によるものではなく、藤原のリバースカード《神秘の中華鍋》の効果。その効果は、自分のモンスターを一体リリースすることで、リリースしたモンスターの攻撃力分のライフポイントを――回復する。

藤原LP600→55600

 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力をそのままライフに変換した結果、藤原のライフは55600ポイントにまで達する。もはやダメージを与えてライフを削る、などという次元ではないその数値に対し、吹雪は思考が一瞬だけ空白となる。

「……バトル! ダークエンド・ドラゴンで、藤原にダイレクトアタック!」

藤原LP55600→53500

 《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》にリバースカードもなくなり、無防備となった藤原に《ダークエンド・ドラゴン》の攻撃が炸裂したものの、まるでダメージを受けた様子はない。当然だ。大海に絵の具を投げ入れて、海に全て色を付けようという愚行と同じことなのだから。

「僕は……カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「……諦めるな、吹雪」

 これ以上の攻撃を諦め、カードを一枚伏せてターンを終了した吹雪の隣に、ヨロヨロと亮が並び立った。先のターンに《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》に受けたダメージは深刻な様子だったが、亮の目に諦めの色は映っていない。

「……諦める? まさか、面白くなってきたところじゃないか」

「……そうだな。その通りだ」

「ふん……俺のターン、ドロー!」

 二人で自らに立ち向かう亮と吹雪を、感情が読み取れない様子で藤原は笑い、ターンプレイヤーの移行によってカードをドローする。

「俺は《ナンバーズ・エヴァイユ》を発動! エクストラデッキのナンバーズと名のついたモンスターをエクシーズ素材として、そのナンバーズの数字の合計のついたナンバーズをエクシーズ召喚する!」

 そして藤原が発動したのは、このデュエルを終局に導く一枚の魔法カード。エクストラデッキの二体のナンバーズをエクシーズ素材に、最後のナンバーズをエクシーズ召喚する。

「《No.11 ビッグ・アイ》と《No.24 竜血鬼ドラギュラス》でオーバーレイ! エクシーズ召喚ッ! 《No.35 ラベノス・タランチュラ》ァッ!」

 蜘蛛を模した巨大なナンバーズ――《No.35 ラベノス・タランチュラ》。それこそが藤原の手に残された最後のナンバーズであり、このエクシーズ召喚によってデュエルは終わる。

「…………」

 藤原のフィールドには《No.35 ラベノス・タランチュラ》のみで、ライフポイントは53500ポイント。

 対する亮と吹雪のフィールドは、効果を一度使用した吹雪の《ダークエンド・ドラゴン》に、《DNA改造手術》に《サイバネティック・ヒドゥン・テクノロジー》、吹雪と亮のリバースカードがそれぞれ一枚、ライフポイントは1400。

「《No.35 ラベノス・タランチュラ》は、お互いのライフポイントの差分、その攻撃力をアップさせる! よってその攻撃力は、52100ポイント!」

「もう驚きも薄まってきたよ……!」

 《神秘の中華鍋》でライフポイントを回復したのは、ただ吹雪からの攻撃に耐えるためではなく。お互いのライフポイントの差分により攻撃力が決定する、という効果を持つナンバーズ《No.35 ラベノス・タランチュラ》のためでもあった。

「その軽口、すぐ利けなくしてやる……! 魔法カード《大嵐》を発動!」

「――!?」

 《No.35 ラベノス・タランチュラ》の圧倒的な攻撃力の前に、もはや風前の灯火だった亮と吹雪のライフポイントは吹けば飛ぶようなもの。ただしフィールドに伏せられた二枚のリバースカードと、亮の二枚の永続罠――必ずあれ等のどれかに逆転の一打を秘めている、と読んだ藤原は、温存していた《大嵐》をここで打つ。

「かかったね」

「……なに?」

「藤原。お前が俺たちの行動を読んで利用するなら、俺たちも同じことをするまでだ」

 《大嵐》が全てを破壊していく中、吹雪と亮は小さく笑う。破壊されたはずの二枚のカードは、吹雪と亮、それぞれの前で発動される。

「破壊された《真紅眼の鎧旋》の効果を発動!」

「発動された《サイバー・ネットワーク》の効果を発動!」

 二人がそれぞれ伏せていたのは、破壊された際に発動する《サイバー・ネットワーク》と《真紅眼の鎧旋》。それぞれの発動を宣言し、効果がフィールドに現れていく。

「《真紅眼の鎧旋》が破壊された時、墓地からレッドアイズモンスターを特殊召喚出来る!」

「《サイバー・ネットワーク》が破壊された時、除外ゾーンから可能な限りサイバーモンスターを特殊召喚する」

 闇の中に消えていったモンスターが、二枚の罠カードによって二人の手の中に戻ってくる。それを頼もしげに見つめると、四枚のカードをデュエルディスクにセットした。

「――現れろ、《真紅眼の黒竜》!」

「――現れろ、《サイバー・ドラゴン》!」

 それぞれ主力モンスターを特殊召喚する罠カードであり、《真紅眼の鎧旋》によって《真紅眼の黒竜》が。《サイバー・ネットワーク》によって《サイバー・ドラゴン》が、それぞれ吹雪に亮の象徴となるモンスターが、フィールドを埋め尽くして《No.35 ラベノス・タランチュラ》に対抗する。

「――ならばそのお前らの象徴、まとめて破壊してやる! ラベノス・タランチュラの効果発動! エクシーズ素材を一つ取り除き、このモンスターの攻撃力以下のモンスターを全て破壊する!」

 ――もちろんラベノス・タランチュラの攻撃力以上のモンスターなどいるわけもなく、特殊召喚された《真紅眼の黒竜》に《サイバー・ドラゴン》の三体、さらに《ダークエンド・ドラゴン》が破壊されていき、亮と吹雪のフィールドは空になってしまう。

「いや、魂は砕けない! 手札から《真紅眼の遡刻竜》の効果を発動!」

 だが、吹雪のレッドアイズは砕けない。手札の最後の一枚に残っていたモンスター、《真紅眼の遡刻竜》の効果が発動する。他のレッドアイズとは違って随分と小ぶりの身体だが、その効果は他に類を見ないものを持っている。

「《真紅眼の遡刻竜》は、レッドアイズモンスターが破壊された時、このモンスターを手札から特殊召喚し、破壊されたレッドアイズを特殊召喚する! 蘇れ、《真紅眼の黒竜》!」

 ラベノス・タランチュラによって破壊された《真紅眼の黒竜》だったが、《真紅眼の遡刻竜》の効果によって、まるで最初から破壊などされていなかったかのように蘇生された。よって二体のレッドアイズが、吹雪と亮を守り抜かんとフィールドに特殊召喚された。

「チッ……《No.35 ラベノス・タランチュラ》で、《真紅眼の遡刻竜》を攻撃し、ターンを終了する……!」

「残念だったね藤原。僕のレッドアイズたちは死なないんだ」

「――俺のターン、ドロー!」

 攻撃力52100ポイントを誇る《No.35 ラベノス・タランチュラ》を、手札の《真紅眼の遡刻竜》の効果によって耐え抜くことに成功し、何とか次なる亮のターンへとバトンを繋ぐ。

「俺は魔法カード《救援光》を発動! 800ポイントのライフポイントを払い、除外ゾーンから光属性モンスターを手札に加える」

吹雪&亮LP1450→650

 《No.35 ラベノス・タランチュラ》の攻撃力が五万オーバーなことに変わりはないが、吹雪が亮に託したバトンは、次なるターンに回しただけではない。魔法カード《救援光》を発動して、ある光属性モンスターを一枚、亮は手札に加えた。

「さらに《サイバネティック・フュージョン・サポート》を発動! ライフポイントを半分払い、墓地のモンスターを融合素材とする!」

吹雪&亮LP650→325

「墓地のモンスター……《サイバー・ドラゴン》!」

 《ヘル・テンペスト》によって全て除外されていた亮のモンスターだったが、先の《サイバー・ネットワーク》によって三体の《サイバー・ドラゴン》だけはフィールドに戻った。ただし《No.35 ラベノス・タランチュラ》によってすぐに破壊されてしまったが、それを介して除外ゾーンから墓地に送られた。そして墓地にさえ存在するならば、亮は《サイバネティック・フュージョン・サポート》の効果により融合することが出来る。

「そして俺は、俺が信じる最強の融合カード……《パワー・ボンド》を発動する!」

 他の墓地融合モンスターとは違い、《サイバネティック・フュージョン・サポート》はそれ単体では融合することは出来ない。ただしそれは他のカードと組み合わせる無限だ可能性がある、ということであり――《パワー・ボンド》を組み合わせ、墓地の《サイバー・ドラゴン》三体を融合する。

「現れろ! 《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

 遂に降臨するカイザー亮の切り札《サイバー・エンド・ドラゴン》。さらに《パワー・ボンド》の効果によって、攻撃力は倍の8000となり、《No.35 ラベノス・タランチュラ》と並び立った。ただし《救援光》と《サイバネティック・フュージョン・サポート》のライフコストによって、さらに《No.35 ラベノス・タランチュラ》の攻撃力は上がっていく。

「今更《サイバー・エンド・ドラゴン》が何になる!」

「……藤原。確かにお前が言った通りだ。俺はどうやら、久しぶりに会ったお前の思い通りに動くような、昔と変わらないデュエル馬鹿らしい」

「……何?」

 《サイバー・エンド・ドラゴン》を傍らに、亮は先のターンに《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の召喚のために誘導されたことを省みる。

「そして常に共に戦ってきたこの《サイバー・エンド・ドラゴン》が、お前を倒す可能性を持つのを感謝する……! バトルだ、サイバー・エンド!」

「攻撃だと!?」

 藤原のフィールドにいるのは、攻撃力53200ポイントの《No.35 ラベノス・タランチュラ》。流石に《パワー・ボンド》を使って融合した《サイバー・エンド・ドラゴン》と言えども、とても適う相手ではない。だが亮は迷いなく《サイバー・エンド・ドラゴン》に攻撃を命じ、忠実に《サイバー・エンド・ドラゴン》は攻撃にエネルギーを貯めていく。

「使わせてもらうぞ、吹雪――藤原!」

 亮の手札にあるのは残る一枚。魔法カード《救援光》で除外ゾーンからサルベージした、ある光属性モンスター――

「俺は手札から《オネスト》の効果を発動する!」

 亮の手札から発動されたモンスターカードは、光属性の切り札とも呼ばれる天使族モンスター《オネスト》。その性能に反してさして珍しいカードではないものの、この三人にとって特別な意味を持つモンスターだった。

「な――なぜそのカード――を、お前が今、持っている!?」

「そんな連れないことを言うなよ藤原……君の相棒だろう?」

 吹雪の《真紅眼の黒竜》、亮の《サイバー・ドラゴン》のように、藤原の象徴的なカードは《オネスト》だった。藤原がダークネスの力を使い世界から消えていった時、この世界に残った唯一のモンスター――そのカードそのものだ。

「どうして今持っているか、という質問なら、君のナンバーズのモンスター効果だ」

 オネストが除外されたタイミングは、藤原の《No.95 ギャラクシーアイズ・ダークマター・ドラゴン》の除外効果。恐らくは《No.92 偽骸神龍 Heart-eartH Dragon》の攻撃力を上げるための効果発動だったのだろうが、吹雪は亮に託すために《オネスト》を除外していた。

「十代ならば、精霊の力を借りてどうこう出来るのだろうが……悪いが、俺たちは門外漢でな。荒っぽくやらせてもらう! さらに速攻魔法《リミッター解除》!」

 《オネスト》の効果は、戦闘する相手モンスターの攻撃力をこちらのモンスターに加える効果。よって藤原の《No.35 ラベノス・タランチュラ》の攻撃力である53200ポイントが、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力に加えられる。さらにそれが速攻魔法《リミッター解除》によって、機械族モンスターはその鎖を解き放ち攻撃力を倍加し――

「攻撃力124000ポイントの……《サイバー・エンド・ドラゴン》……!」

 《オネスト》の輝きに《サイバー・エンド・ドラゴン》が共鳴していき、チャージしていたエネルギーはリミッターを越え、藤原の戦慄の声とともに臨界を迎えた。

「――エターナル・エヴォリーション・バースト!」

「――――――」

藤原LP53500→0

 そして自身すらも全てを消し去る光線とともに、《サイバー・エンド・ドラゴン》の一撃でデュエルは終了する。周囲を纏っていた闇は払拭されていき、藤原の姿はどこからも消えていく。しかし亮に吹雪、二人はデュエル構えを解くことはなく、吹雪は消えていった藤原に話しかけてた。

「まさか、まだ終わりじゃないだろう?」

「ああ。せっかくの3年ぶりのデュエルだ……それに、二人がかりでないと勝てないと思われるのも癪だ。気が済むまで付き合ってもらうぞ……!」

 アカデミアに起きたダークネスの進攻と同時刻。十代が訪れた童実野町も、アカデミアと同様にミスターTたちに襲われていた。

「ヨハン……!」

 ヨハンと協力して何とか海馬コーポレーションにたどり着いた十代は、ここにダークネスの世界へと攻め込むための転移装置があると聞き、自らが囮になったヨハンと別れて転移装置の元にたどり着いた。

「ククク……」

「くそっ!」

 もう十代以外に人間の姿はなかったが、異世界への転移装置は動かすことが出来るようだ。直感的に操作をしている最中、ミスターTが周囲に現れてしまい、十代はやむを得ずデュエルディスクを構えた――ところに、部屋の扉がゆっくりと開いていて、そこからある人物が現れていた。

「ミスターT……真実を語る者、トゥルーマン、だったか。くだらん」

「あなたは……」

 その人物は白銀のコートをたなびかせると、左腕と一体化したデュエルディスクを構え、片目だけに装着したゴーグルと連動させる。すると十代には目もくれずに、ミスターTへとしっかりとした足取りで近づいていく。

「教えてやる。真実は常に、俺の手中にあるということを!」

 そしてホログラムがデュエルディスクのカードゾーンを投影していき、デュエルの準備を整えた気配を察知したミスターTもまた、やむを得ず専用のデュエルディスクを構える。

「新型ディスクの実験ネズミになれることを誇りに思うがいい! デュエルだ!」

 ミスターTとデュエルを始めるその人物に、十代は小さく礼をすると、異世界の転移装置を起動した――

 
 

 
後書き
攻撃力124000の《サイバー・エンド・ドラゴン》とか、特殊召喚数が二桁越えた《真紅眼の黒竜》とか、最後に出て来た人物がもう全部あいつでいいんじゃないかな
 
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