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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―HERO―

 いつものデュエルアカデミアの深夜、俺はなんとなく森を散歩していた。
完全消灯まで後数時間といったところで、もうあまり人の影は見えないのだが、この暖かい島での夜の散歩というのがこれでなかなか面白い。

 ……たまに、カードの精霊と思しきぼんやりとした影が、見えたり見えなかったりするのが問題点と言えば問題点だろうか。
……この頃は、薄ぼんやりと見えたりしてしまう。

 たまに考えてみるのだが、カードの精霊とは何なのだろうか。
聞いたところによると、十代にはハネクリボーの精霊が、万丈目にはおジャマ三兄弟と不特定多数のカードの精霊が憑いており、自分には、この《機械戦士》たち全ての精霊が憑いているという。
しかし、自分にカードの精霊が見えにくい為か、《機械戦士》たちを精霊の姿で見れたのは、廃寮でのタイタンとの一件だけである。
あそこには何やら化け物や闇のデュエリストとなった高田が住み着いていたことから、何か精霊として重要な場所なのかもしれないが……高田の地縛神が破壊してしまった今では、確かめようの無いことだった。

 ……そろそろ寮に戻ろう、と思って森から出ようと来た道を戻ってオベリスク・ブルー寮へ戻ろうとした時。

「……ん?」

 何やら人間二人の話し声が、風に乗って俺の耳へ聞こえてきた。
さて、わざわざこんな夜中に話すような内容だから興味がないわけではないが、それよりも厄介事はゴメンだという気持ちが強く、無視することにする……いつもならば。
だがそれが、二人とも知り合い――それも片方は、厄介な知り合い――の声であるとすれば、無視するわけにもいかない。

 どうせ寮に戻っても後は寝るだけだ、と鼓舞して、俺は声のした方向へ向かった。


 デュエルアカデミアの森の中で比較的開けた場所である、自然のデュエルスペース。

そこで、二人のデュエリストがデュエルディスクを構えて向き合っていた。

「遊矢!?」

 そのうち一人は、今や同級生で少なめになって来ている真紅の制服を着た友人、遊城十代。

「黒崎遊矢、か……今日はお前に用はない。黙って見ているんだな」

 あの時と同じ、白いスーツ姿に身を包んだプロデュエリスト――

「エド……?」

 俺の前で十代とデュエルをしようとしている人物は、間違えようもなく、先日は礼儀正しい後輩に扮して俺にデュエルを挑んできた、エド・フェニックスだった。
その口調を聞くかぎり、先日のように演技はしていないようだが……?

「十代! 何がどうなってるのか簡単に説明してくれ」

 十代に説明を求めると、そういうのが苦手そうな十代のイメージに従い、少し悩んでから手振り身振りを交えて答えた。

「ええと……目の前にいたこのエドっていうプロデュエリストが前にも挑んできて、その時は変なデッキだったんだけどさ。今度は、きちんとしたデッキを持ってきてデュエルしろって言ってきて……」

 十代の拙い説明で分かったことは、残念ながら俺には十代も、前にエドの変なデッキとデュエルを頼まれただけだということだった。
今度はもう一人、エドの方へ向き直る。

「エド。お前は俺たちとデュエルをして何がしたいんだ? 何の目的がある?」

 十代とは対照的に、面倒くさそうにかつ、慇懃無礼にエドは答えてきた。

「答える必要はあるのか……と、言いたいところだが、まあいい……ある人の命令でね」

 ある人の命令。
まだ質問の答えとしては不明瞭だが、それ以上のことは、エドは言う気は無いようだ。

 ……まだ、この新進気鋭のプロデュエリストの目的は分からない。
だが、デュエリストとしてデュエルを挑まれた時、俺も十代もとるべき行動は決まっている。
……すなわち、デュエルだと。

「なんだか良くわかんねぇけど、デュエルするなら受けて立つぜ!」

「僕は最初からそう言っている……そこのそいつが、横からしゃしゃり出てきただけだ」

 両者共に、エドの言うそこのそいつ――つまり俺だが――に中断されていたデュエルディスクを展開し、準備が完了する。

『デュエル!!』

十代LP4000
エドLP4000

「僕の先攻。ドロー」

 どうやら先攻と表示されたのはエドのようで、エドが先にカードをドローする。
この前はグレート・モスを主軸にしたビートダウンデッキだったが、あれがエドの本来のデッキというわけではない。
プロリーグにおいても、エドはファンから募集したデッキを使用して勝利を収めていて、本来のデッキではなかった。
さあ、今日はどんなデッキだ……?

「僕は《E・HERO クレイマン》を守備表示で召喚!」

E・HERO クレイマン
ATK800
DEF2000

「HEROだって!?」

 自身もE・HERO使いである十代が、俺より先に驚きの声を上げる。
別にE・HEROは、どこかの青眼と違って一般流通されているため、ミラーマッチになってもまったく不思議ではないのだが、いきなり自分のデッキと同じデッキとデュエルすることになったら、驚くことになるだろう。
……だろう、というのは、俺がまだミラーマッチを経験したことが無いからだが……

「僕のHEROたちを、お前のようなお気楽なHEROたちと一緒にしないで欲しいね……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「お気楽?」

 エドの鼻で笑った感じを含めた言葉に、十代は自身のHEROたちを馬鹿にされたようで不快感を露わにした。

「だったら、どっちが真のHERO使いかデュエルで決着だ! 俺のターン! ドロー!」

 だが、口論をすることはなく、そのままデュエルに発展するのは、流石十代と言ったところだ。

 それと、十代は気づいていないようだが、エドは先程『僕のHEROたち』と言った。
つまり、エド本来のデッキは【E・HERO】……?

「俺は《E・HERO スパークマン》を召喚!」

E・HERO スパークマン
ATK1600
DEF1400

 俺が思索する間にも、十代の切り込み隊長の登場によってデュエルは進む。
スパークマンの攻撃力では、クレイマンの守備力には適わないが……?

「スパークマンに装備魔法《スパークガン》を装備して、効果を発動! クレイマンの表示形式を変更するぜ!」

 スパークマンに専用の銃が装備され、その効果によってクレイマンの表示形式を変更する。
なるほど、このカードがあったからか。

「バトル! スパークマンでクレイマンに攻撃! スパークフラッシュ!」

 いくら粘土の身体を持ち、守備力が高いクレイマンであろうとも、今は攻撃表示。
スパークマンが手から放つ、スパークフラッシュによって破壊された。

「く……だが、《ヒーロー・シグナル》を発動! デッキから《E・HERO フェザーマン》を守備表示で特殊召喚する!」

エドLP4000→3200

E・HERO フェザーマン
ATK1000
DEF1000

 先手は十代が貰ったが、やられたエドもただではすまない。
仲間であるクレイマンがやられたシグナルに反応し、次はフェザーマンが現れた。

「ターンエンドだぜ!」

「僕のターン、ドロー!」

 時に、エドのヒーローの方が、十代のヒーローよりも色が濃いのは何なのだろうか。
色違いなんてあったのか……

「僕は通常魔法《融合》を発動! 手札の《E・HERO バーストレディ》と、フィールドの《E・HERO フェザーマン》を融合する!」

 E・HEROの十八番を先に使うのはエド。
融合素材は十代のフェイバリットと同じだが、出て来るのはどっちだ……?

「カモン、《E・HERO フェニックスガイ》!」

E・HERO フェニックスガイ
ATK2100
DEF1200

 ……フェニックスガイの方だったか。
フレイム・ウイングマンよりは防御向きの効果ではあるものの、攻撃力2100の戦闘破壊耐性という、《スカー・ウォリアー》と同じ効果は単純ながら強力である。

「な、なんでフェザーマンとバーストレディを融合したのにフレイム・ウイングマンが出てこないんだ!?」

 対面の十代が驚きの声を上げる……おい、もしかしてお前はフェニックスガイのことを知らないのか?

「……フェザーマンとバーストレディの融合は、フレイム・ウイングマンの他にもう一体いる。それがあの、フェニックスガイだ」

「へぇ……そんなカードがあるとは知らなかったぜ!」

 どうやら本当に知らなかったらしい十代の対面では、若干呆れ顔のエドがフェニックスガイに攻撃命令を下そうとする。

「バトル! フェニックスガイでスパークマンを攻撃! フェニックス・シュート!」

 フェニックスガイの炎を纏った突撃に、スパークマンは持っている銃も使うことも適わずに破壊された。

「ぐああっ!」

十代LP4000→3500

「僕はターンを終了する」

「俺のターン! ドロー!」

 最初のターンの戦いは、エドがボード、十代がライフとハンドのアドバンテージをとったような結果で終わる。
さて、十代は戦闘破壊耐性を持っているフェニックスガイをどうするか……?

「俺は《カードガンナー》を守備表示で召喚するぜ!」

カードガンナー
ATK400
DEF400

 十代の使用する、三種類の『カード』と名の付くモンスターのうちの一つ、カードガンナーが守備表示で現れる。
他の二種類より、遥かに汎用性が高いことが特徴だ。

「カードガンナーの効果! デッキからカードを三枚墓地に送る!」

 カードガンナーの効果の限界ギリギリの三枚を墓地に送って攻撃力は上がるものの守備表示であり、そもそもフェニックスガイには届かない。
狙いは、次のターンへの布石。

「カードを一枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 防戦一方である十代に対し、戦闘破壊耐性の効果を持つフェニックスガイを擁するエドの次の手は、攻撃しかないだろう。

「僕は《E・HERO ワイルドマン》を召喚!」

E・HERO ワイルドマン
ATK1500
DEF1600

 背中に大きな剣を持った、罠の効果が効かないという単純かつ有効な効果を持つヒーローがエドの下へ降り立つ。
やはり、十代が召喚しているワイルドマンとは少し色が違っている。

「バトル! ワイルドマンでカードガンナーを攻撃! ワイルド・スラッシュ!」

 ワイルドマンが大剣を振り下ろし、カードガンナーの機械の身体を一刀両断にした。
だが、切り裂かれたカードガンナーの身体から、『H』の文字が頭上に舞い上がった……!

「へへ、こっちも使わせてもらうぜ! 《ヒーロー・シグナル》を発動! デッキから《E・HERO ワイルドマン》を召喚!」

E・HERO ワイルドマン
ATK1500
DEF1600

 カードガンナーのいた地点に、十代の色が薄いワイルドマンが現れる。
エドのワイルドマンと一瞬睨み合った後、エドのフィールドに戻っていった。

「更に、カードガンナーの効果で一枚ドローするぜ」

「なら、フェニックスガイでワイルドマンを攻撃! フェニックス・シュート!」

 またも炎を纏ったフェニックスガイの突撃を、突如としてワイルドマンの前に現れた戦士が防いだ。

「墓地の《ネクロ・ガードナー》を除外することで、相手の攻撃を一度だけ無効にする!」

 なるほど、ネクロ・ガードナーがカードガンナーの効果で墓地に送られていたか。
……十代がカードガンナー使って、墓地に何も送られないことなんて無いからな……

「……カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「俺のターン! ドロー!」

 十代のフィールドにはワイルドマンが一体で、エドのフィールドにはフェニックスガイとワイルドマン、リバースカードが一枚。

「よっしゃあ! 俺は《融合》を発動!」

 十代も来たか……E・HEROのキーカード!
場にはワイルドマンで、この状況を逆転出来るヒーローといえば……

「俺はフィールドのワイルドマンと、手札のネクロダークマンを融合! 来い、《E・HERO ネクロイド・シャーマン》!」

E・HERO ネクロイド・シャーマン
ATK1900
DEF1800

 現れたのは、俺の想像通りにヒーローというよりシャーマン……というか自分でもシャーマンって言ってるしな。
ヒーローとシャーマンって兼業出来るのかな……

「ネクロイド・シャーマンの効果! フェニックスガイを破壊して、お前のフィールドにクレイマンを特殊召喚するぜ!」

 俺が限りなくどうでも良いことを考えてしまっている間に、十代のネクロイド・シャーマンがフェニックスガイを破壊した。
破壊した後に他のモンスターを特殊召喚するため、直接アドバンテージには結びつかないものの、戦闘ダメージを与えられるという点では優秀だ。

「バトル! ネクロイド・シャーマンで……」

「リバースカード、オープン! 《融合解除》! 融合解除のエフェクトにより、ネクロイド・シャーマンをエクストラデッキに戻してもらう!」

 融合デッキの切り札、融合解除もミラーマッチにおいてはただのメタカードだ。
ネクロイド・シャーマンが融合解除によって、時空の渦に吸い込まれていったものの、残念ながら融合素材は帰ってこない。

「ネクロイド・シャーマンが! く……カードを一枚伏せてターンエンド!」

「僕のターン、ドロー!」

 ドローしたカードをチラリと見て、エドはデュエルディスクを操作した。
攻撃力の低いクレイマンをどうするか……

「クレイマンを守備表示にしてバトル。ワイルドマンで遊城十代にダイレクトアタック! ワイルド・スラッシュ!」

 十代がいつも使っているE・HEROが十代にダイレクトアタックをし、十代のライフが大きく削られる。

「ぐああ!」

十代LP3500→2000

「僕はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!」

 このターンでの攻防は、エドが十代の上をいったように感じられた。
しかし、十代だってまだまだ負けちゃいない……!

「俺は《強欲な壺》を発動して二枚ドロー! ……来たぜ! 墓地のネクロダークマンの効果を発動! レベル5以上のE・HEROを召喚する時、一度だけリリース無しで召喚出来る! 来い、《E・HERO エッジマン》!」

E・HERO エッジマン
ATK2600
DEF1800

 通常召喚が可能なE・HEROの中で、もっとも高い攻撃力を誇る金色のヒーロー、エッジマン。先程のネクロイド・シャーマンの融合で、リリース条件を緩和するヒーローであるネクロダークマンを落とせたと思えば、さっきの融合もまったくの無駄というわけではなかったようだ。

「バトル! エッジマンでワイルドマンに攻撃! パワー・エッジ・アタック!」

 ワイルドマンは強力な効果を持つとはいえ、ただの下級モンスター。
通常召喚出来る最強のヒーローの名は伊達ではなく、ワイルドマンをあっさりと破壊してしまう。

「ちっ……!」

エドLP3400→2300

「ターンエンドだぜ!」

「僕のターン、ドロー!
……こちらも《強欲な壺》の発動! そなエフェクトにより、二枚ドローする!」

 強欲な壺が破壊されると共に、エドも先程の十代と同じく二枚ドローする。

「僕は《E・HERO スパークマン》を召喚!」

E・HERO スパークマン
ATK1600
DEF1400

 十代が後攻1ターン目で出した、光のヒーローがエドのフィールドにも現れる。
しかし、単体ではエッジマンに適わず、エドのフィールドにもう一体いるクレイマンと融合し、《E・HERO サンダー・ジャイアント》を融合してもエッジマンは破壊出来ない。
どうする気だ……?

「僕は《ミラクル・フュージョン》を発動! セメタリーのフェニックスガイと、フィールドのスパークマンを融合させる!」

 ……この状況を想像出来なかった自分に歯噛みする。
ミラクル・フュージョンは手札を参照しないために、フィールドに出す必要があり、またスパークマンは様々な融合素材になる優秀なヒーローなのだから。

「カモン! 《E・HERO シャイニング・フェニックスガイ》!」

E・HERO シャイニング・フェニックスガイ
ATK2500
DEF2100

 エリクシーラーと並ぶ十代の切り札であるシャイニング・フレア・ウイングマンとまたも対をなすモンスター、シャイニング・フェニックスガイ。
効果はそちらと同じく、墓地のヒーローの数だけ攻撃力がアップする……!

「僕のセメタリーに眠るE・HEROは三体。よって、攻撃力は3400となる! バトル! シャイニング・フェニックスガイでエッジマンを攻撃! シャイニング・フィニッシュ!」

 光り輝く炎。
そう形容するのが、おそらくは相応しい姿にシャイニング・フェニックスガイは変身し、エッジマンを貫いた。

「ぐああっ!」

十代LP2000→1200

「更にカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

「俺のターン! ドロー!」

 十代のフィールドには、おそらくはブラフであろうリバースカードが一枚のみ。
対するエドは、シャイニング・フェニックスガイにクレイマン、リバースカードが二枚という磐石な態勢を整えている。

「へへ……エド。お前、すげぇ強いな!」

「ふん……それがどうした、諦めるのか?」

 あり得ない。
エド本人も分かっているだろう。
目の前の十代の姿を見れば、その質問がどれだけ意味のない、馬鹿馬鹿しいことか……!

「いや、お前を倒すことにワクワクしてきたぜ! 《ミラクル・フュージョン》を発動!」

「何っ……!?」

 初めてエドに、少しだけだが動揺が走る。
融合がE・HEROのキーカードならば、墓地が肥やされていれば、墓地のヒーローたちがまさしく無限大の選択肢を持つミラクル・フュージョンは切り札。
自分がそれを切ったあと、相手が即座にそれを返してきたのだから。

「墓地のスパークマンとエッジマンを融合! 現れろ、《E・HERO プラズマヴァイスマン》!」

E・HERO プラズマヴァイスマン
ATK2600
DEF2300

 金色のヒーロー、エッジマンがスパークマンの電撃を引き継ぎ復活する。
攻撃力自体は変わらないものの、強力な効果を兼ね備えて……!

「そしてリバースカード、《クリボーを呼ぶ笛》を発動! 手札に《ハネクリボー》を加えるぜ!」

 リバースカードはブラフではなくクリボーを呼ぶ笛だったか……ワイルドマンのダイレクトアタックの時に発動せず、まだとっておいたことが幸いしたようだ。

「プラズマヴァイスマンの効果発動! 手札を一枚墓地に送ることで相手の攻撃表示モンスター、つまりシャイニング・フェニックスガイを破壊する!」

 今手札に加えたハネクリボーを手札コストに、プラズマヴァイスマンは電撃により光り輝くヒーローを破壊した。

「シャイニング・フェニックスガイが破壊された時、僕のリバースカードが発動する。《D―タイム》を発動!」

 D―タイム……!?
三沢ならば知っていたかもしれないが、俺はそんなカード名は一度も聞いたことがなく、初めて見るカードだった。

「僕のフィールドのE・HEROがフィールドを離れた時、そのモンスターのレベル以下の《D―HERO》を手札に加える。僕はダイヤモンドガイを手札に加える」

D―HERO。
またも、聞いたことの無いシリーズカード名がエドの口から語られる。
まさか、前述のミラーマッチの話の際、俺は青眼を例えに出したが……まさか、それと似たような出自のカードか……!?

「なんだか良くわかんねぇけど、バトル! プラズマヴァイスマンでクレイマンに攻撃! プラズマ・パルサーション!」

 電撃を纏った腕による攻撃に、いくらクレイマンであろうとも耐えきれない。
更に、プラズマヴァイスマンのもう一つの効果により、エドのライフに貫通ダメージが及ぶ。

エドLP2100→1500

「カードを一枚伏せてターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

 先程手札に加えられた、謎のカード《D―HERO》のダイヤモンドガイ。
どんなカードなんだ……?

「……まさか出すことになるとは、やはり僕はまだ未熟だな。僕は《D―HERO ダイヤモンドガイ》を召喚!」

D―HERO ダイヤモンドガイ
ATK1400
DEF1600

 その身体はダイヤモンドで覆われ、アメリカのヒーローらしいE・HEROよりも、どこか西洋のダークヒーローを思わせる雰囲気のヒーロー、ダイヤモンドガイ。
攻撃力は1400とやや低めだから、何らかの効果を持っているだろうが……

「D―HERO。
『DESTINY』
『DESTROY』
『DEATH』の三つの意味が込められた、運命を操るヒーロー……E・HEROを超えるHEROであり、D-HEROを超えるHEROはこの地球上には存在しない」

 運命・破滅・死。
三つのDが込められた、E・HEROを越える運命を操るヒーロー……!

「なら、お前の本当のデッキは……」

「お前が考えている通りだ、黒崎遊矢。E・HEROなどただのオマケに過ぎず、僕の本当のデッキはこのD―HEROたちだ」

 期せずして、エドの本当のデッキのことを知る。
知ると言っても氷山の一角に過ぎず、まだ何なのかはさっぱりわからないが、あのエドが自らのデッキに選ぶほどの力がある、ということ。

「俺のE・HEROたちを馬鹿にすんな! 俺はまだ負けちゃいないぜ!」

「……確かにそうだな。デュエルを再開する」

 E・HEROたちが馬鹿にされたことに十代が怒り、エドがそれを受けてデュエルを再開させる。

 しかし、十代のフィールドには攻撃力2600を誇るプラズマヴァイスマンがいる。
何か突破する策はあるのだろうか……?

「まずはダイヤモンドガイのエフェクトを発動! ハードネス・アイ! デッキの一枚上のカードを確認し、通常魔法カードだった場合は墓地に送る……通常魔法カード《ミスフォーチュン》だ。よって墓地に送る」

 通常魔法カードを墓地に送る効果……?
それだけでは、何がメリットになっているのかすらわからないが、他に何かあるのだろうか。
しかし、俺の予想に反してエドは何の行動も起こさず、代わりに不敵に笑いながら十代に宣言した。

「遊城十代。このデュエルの運命は、僕の勝利で決定している! 更にフィールド魔法《ダーク・シティ》を発動!」

 十代が多用するE・HEROのサポートカード、《摩天楼−スカイスクレイパー》のように、アカデミアの森がせり上がってきた西洋風のビル街となる。

「バトル! ダイヤモンドガイでプラズマヴァイスマンに攻撃!」

 さっきの意味深な勝利宣言もそうだが、攻撃力の劣るダイヤモンドガイで攻撃……?
いや、この光景が摩天楼−スカイスクレイパーに似ていると言うのならば、もしかしたら効果も同じなのではないか……?

「ダーク・シティのエフェクト発動。D―HEROが自らよりも攻撃力の低いモンスターに戦闘を仕掛ける時、攻撃力が1000ポイントアップする!」

「返り討ちにしろ、プラズマヴァイスマン! プラズマ・パルサーション!」

 予想通りに摩天楼−スカイスクレイパーと同じ効果だったが、それだけじゃまだプラズマヴァイスマンの攻撃力に足りない。
まだあるはずだ、十代……!

「ダメージステップに《収縮》を発動! プラズマヴァイスマンの攻撃力を半分にする!」

 プラズマヴァイスマンは、トドメに攻撃力が半分になる収縮を喰らう。
しかも、ダーク・シティは摩天楼と同じ効果ならば、ダイヤモンドガイの攻撃力が上がるタイミングは攻撃宣言時であるため、ダイヤモンドガイの攻撃力1000ポイントアップは止まらない……!

 最終的にダイヤモンドガイの攻撃力は2400、プラズマヴァイスマンの攻撃力は1300だ。

「うわああっ! プラズマヴァイスマンが……」

十代LP1200→100

 十代にはぎりぎり100ポイントのライフが残った。
危なかった……!

「ターンエンドだ」

「俺のターン! ドロー!」

 エドの発言を信じるならば、いつ決着がついてもおかしくはない。
十代としては、このターンで勝負を決めたいところであろうが、手札はたった一枚……バブルマンであったとしても、リバースカードがあるから二枚ドローは不可能だ。

「俺はリバースカード、《ヒーローズルール1・ファイブ・フリーダムス》を発動! お互いの墓地から合計五枚のカードを除外する! 俺は、俺の墓地からフェザーマンとバーストレディを、エドの墓地からバーストレディ、フェザーマン、クレイマンを除外する!」

 伏せていたカードはファイブ・フリーダムスか……罠版魂の解放と言って良いカードだが、今の状況では何の意味も……ある。

「行くぜエド! 俺は《平行世界融合》を発動! 除外ゾーンからフェザーマンとバーストレディをデッキに戻し、マイフェイバリットヒーロー《E・HERO フレイム・ウイングマン》を融合召喚!」

E・HERO フレイム・ウイングマン
ATK2100
DEF1200

 ライフが100ポイントである限界の状況の中、平行世界から舞い戻ってきたのは十代のマイフェイバリットヒーロー、フレイム・ウイングマン。
その効果を持ってすれば、エドのライフを0に出来る……!

「バトル! フレイム・ウイングマンで、ダイヤモンドガイに攻撃! フレイムシュート!」

「くっ……」

エドLP1500→800

 フェニックスガイとはまた違った炎の攻撃で、ダイヤモンドガイは無残にも消し飛ぶ。
未だに謎であるダイヤモンドガイも、戦闘破壊耐性のようなものも持っていないようだ。

「トドメだ! フレイム・ウイングマンが相手モンスターを戦闘破壊した時、相手に攻撃力分のダメージを与える!」

 フレイム・ウイングマンがエドに近寄っていき、腕の発射口を向ける。
そして、そこから大火力の炎が発射されエドに浴びせられた。

エドLP800→0

 エドのライフポイントが0になり、十代がいつものポーズを爆煙冷めやらぬエドの方へ向けた。

「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」

 十代の勝利した時のお決まりのセリフだが、何かがおかしい。
どうしても、違和感が拭えない……

「十代! まだデュエルは終わってない!」

「……何言ってんだよ遊矢。もうエドのライフは0になったんだぜ?」

 確かに十代の言うことはもっともだ。
だが。

「だったら何で、フレイム・ウイングマンは消えていない……?」

 通常、デュエルが終わればその役目を終えて消えるはずのソリッドビジョンが、未だに十代の近くから消えない。

 そして、フレイム・ウイングマンの攻撃によって出来た爆煙が、ようやく風にのって消えていく。
その中心には、何事もなかったかのような涼しげな顔をした、エドの姿。
そのライフポイント、残り100ポイント……!

「リバースカード、《ヒーロー・ソウル》。このカードは、HEROが破壊されたターン、ライフが0になった時に自動発動し、プレイヤーのライフに100ポイント加える!」

「何だって!?」

 HEROが破壊されたターン限定の、プレイヤー蘇生カード……!
以前、高田が《インフェルニティ・ゼロ》なるカードを使ってきたが、あれと似たようなカードがあったか……!

「ただ勝つならば誰にでも出来る。……これが、プロのタクティクスだ」

「くそっ……これでターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー」

 しかし、十代のフィールドには十代のマイフェイバリットヒーロー、フレイム・ウイングマンがいるが、エドのフィールドには何もない。頼みの綱のダイヤモンドガイも、フレイム・ウイングマンに破壊されてしまったが……

「僕は前のターンのダイヤモンドガイの効果を発動!」

 前のターンの効果だと……?
前のターンにダイヤモンドガイが使った効果と言えば、通常魔法カードを墓地に送ったことだが……まさか。

「墓地に送った通常魔法は未来に飛ばされ、運命を確定させていた! 《ミスフォーチュン》を発動!」

 デッキトップが通常魔法だった場合、次のターンに発動する『運命』が確定する効果……!
発動に成功させれば、無条件で最低でもアドバンテージが一枚であり、まさしく運命を操るヒーローの効果。

 ……そして、ミスフォーチュンの効果は……

「ミスフォーチュンによって、フレイム・ウイングマンの攻撃力の半分のダメージを与える! ……言ったはずだ、このデュエルの運命は僕の勝利で決定していると」

 ダイヤモンドガイを出した時から、この状況になることが分かっていたのか……!?
そのことに戦慄する暇もなく、十代を、マイフェイバリットヒーローの攻撃力の半分のダメージが襲った……!

「うわああああっ!」

十代LP100→0


 十代も《ヒーロー・ソウル》などといったご都合展開はなく……そもそも十代にはリバースカードが無く……デュエルは、エドの予言通りに決着した。
十代は力が抜けたように、膝を地につけた。

「やはりこんなものか……黒崎遊矢。次はおそらくお前の番だ。せいぜい、簡単には負けないようにするんだな」

 そう言って、エドはまたも港の方へ立ち去っていった。

 ……次はおそらく俺。
勝てるのか、十代をも倒した、あの運命を操るヒーローに……

「……じゃなく、大丈夫か十代!」

 デュエルが終わって脱力した親友に手を貸し、なんとか立たせる。

「いやー負けちまったぜ! 惜しいところまで……っつうか、ライフポイントを0にしたのになぁ」

 見た目より充分元気そうで、いくらかホッとする。
そしたら今度は、何故だかキョロキョロと回りを見回し始めた。

「どうした?」

「いや……相棒がいないんだ。いつもは横にいるんだけどよ」

 相棒……というと、ハネクリボーの精霊のことか。
姿はぼんやりとしか見たことはないが、前に話を聞いたことがある。

「……何言ってんだ、すぐ横にいるぞ?」

 目をゴシゴシと擦ると、なんとかぼんやりと見えるようになった。
……しかし俺が場所を教えても、十代はハネクリボーを探す動作を続ける。

「まさか十代、精霊が……」

 見えなくなったのか、と続ける前に、十代はデュエルディスクの墓地を確認した。
ハネクリボーのカードを、確認しようということなのだろう。

 そして、譫言のように――呟いた。

「……カードが、見えねぇ……」

 
 

 
後書き
ようやく、ストーリーが進行し始めた気がします。

あの子安の暗躍により、カードが見えなくなった十代。
更に、子安の手は彼らをも捕らえていた……!

……次回予告風にするとこんな感じ?
(内容は予告なしで変更する恐れがあります)

では、感想・アドバイス待ってます。 
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