ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~
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神風と流星
Chapter2:龍の帰還
Data.27 たった一つの冴えたやり方
『ルリくんが問題にしてるのって、ようするに火力不足でしょ?』
『ならさ、その足りない分の火力を他のところに頼ればいいんじゃない?』
「おいルリ、シズクちゃんを一人で行かせて大丈夫なのか?」
「大丈夫、だと思う。いくら相手が強くても、あいつならここまで走って戻ってくるくらいなら出来るはず」
俺たちが落ちてきた大きな空間から渓谷に繋がる通路の端、渓谷側の出入り口に俺とクラインはいた。
もちろんドラゴンのブレスから逃げ切れるように、いつでも駆け出せる準備は出来てる。クラインなんかは少しでも動きやすいように鎧も脱いで軽装になっている。万が一のために、クライン以外の彼のパーティメンバーは置いてきている。
で、なんでこんなところに男二人でいるのかと言うと。
シズクが思いついた攻略法とやらを実践するというので、それを見に来たのだ。
「でも、足りない分の火力を他のところに頼る、っていったいどこにだよ……」
「地面とか崖じゃないのか?たしかSAOは地形は破壊不能で、勢いよくぶつかったらダメージが入ったような気が……」
「俺もその線を考えたんだが、ぶっちゃけ現実的じゃないんだよ。ドラゴンの皮膚を貫いて落とすなんて、それこそ本気で準備した俺レベルの《投剣》使いが必要だ」
前回、俺は主にブレス攻撃を暴発させて落としていたが、それだってこの状況では幾分無理がある。
四龍くらいなら俺とシズクだけでも上手く立ち回れば、俺が落とす→シズクが倒す、のサイクルが作れるが、今回は更にもう一体、しかも上位種のジョーカーがいる。ナイフの数も足りないし、シズクが攻撃に専念している間、他の龍を抑えるのは実質不可能だ。
だが、そうすると今度は他の方法が思いつかない。まさか運よく地上近くまで爪や牙で攻撃しに来たところを迎撃して倒すつもりなのだろうか。いや、それも無理だ。前回の龍狩りの主なダメージソースは落下ダメージだった。それはつまり、高所からの落下ダメージが無いとシズクでも龍を削り殺しきれないという意味だ。もちろん時間を掛ければいけるだろうが、そのためには前回より遥かに多くの時間、他の龍からの猛攻を何とかしなければいけない。
「結局、実際に見てみないとわからないってことか」
自分の思考に終止符を打ち、顔を上げるとちょうどドラゴンたちが現れたところのようだった。
どうやら初めて実物を見てビビったらしく青い顔で口をパクパクさせているクラインは意識的に視界から追い出し、いつも通り余裕そうな風体で立っているシズクに注目する。
さて、シズクはいったいどうやってドラゴンに挑むのかと思って見ていると、シズクがいきなり走り出した。
ただし、ドラゴンたちのいる方向ではない。無論、逃げるためにこっちに向かったわけでもない。全然関係ない方向へ駆け出した。全速力で。
おいおいいったい何するつもりなんだ、と思っていると今度はもっと理解不能な行動をしだした。
登りだしたのである。壁を、垂直に。走って。
理解不能どころか、原理不明である。え?それどうやってやってんの?
そうこうしてるうちにドラゴンたちは渓谷に到着。それと同時にシズクは力強く壁を蹴り、一番近くにいたスペードの上に乗った。
「あ……」
そこで気づく。シズクが何をする気なのかを。
シズクは持っている剣を思い切りスペードに突き刺す。当然、スペードは暴れだす。シズクは無理にその背中に留まろうとせず、今度はダイヤの背に乗り移る。
先ほどの攻撃によりシズクへの憎悪値が溜まり、スペードはシズクを攻撃ターゲットにする。そして対象が爪や牙の届かない距離にいるなら勿論、遠距離攻撃に頼る。
スペードのブレスがシズクを狙って放たれる。そのシズクを背に乗せたダイヤにも当たるコースで。
ドラゴンのブレス攻撃の予備動作は、分かりやすく、そして長い。シズクレベルの速度があれば、一つぐらいなら避けることはたやすい。
案の定シズクは広いドラゴンの背中のブレスの当たらない位置に避難していた。
「えっぐいこと考えるなアイツ……」
つまり、シズクの考えていた攻略法とは。
『高火力のドラゴンの攻撃を他のドラゴンにぶつけ、同士討ちさせよう』というものなのだ。
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