ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~
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神風と流星
Chapter2:龍の帰還
Data.28 In receiving me
五匹の龍の背をシズクは駆ける。柔らかい部分に攻撃を入れタゲを取り、反撃を別の龍に当てさせる。
昔からMMORPGにはMPKというものがある。
適当なモンスターに戦闘を仕掛けてターゲットの場所まで移動し、そのまま相手にモンスターをなすりつけるという外道な行為で、実際にやったら総スカン喰らうこと間違いなしだ。
シズクがやっているのはその応用である。
ターゲットであるモンスターに他のモンスターをぶつける。そうすれば自分が何もしなくても敵が勝手に倒されてくれるというわけだ。
なるほど、確かにこれならダメージソースの不足もカバーできるだろう。だが。
「そろそろ撤退しないとマズイぞ……」
「な、なんでだ?あの様子ならこのままシズクちゃん一人で倒せるんじゃ……」
「バカかお前。この作戦には時間制限があるんだよ」
クラインの言うとおり、この作戦をこのまま続ければおそらくシズクは勝てるだろう。続けられるならば、の話だが。
さて、それではここでシズクの行っている作戦についてもう一度、要点だけをまとめて確認してみようか。
攻撃する→別の龍に移る→その龍に攻撃を当てさせる→攻撃する。
他にも色々あるっちゃあるが、主なものはこれだけである。
では、ここからある致命的な問題点に気づけただろうか。
そう、この作戦では――――
「敵が減れば減るだけ、盾にする奴もいなくなるんだよ」
「あ――――」
最初は五匹いる。次に四匹。そして三匹。二匹。一匹。
三匹くらいまでならローテーションを組んでなんとかなるだろう。だが、二匹でも気をつければ大丈夫だ。
けれど、一匹なら?
攻撃してくる敵と盾が同じなら、この作戦は使えない。
そしてもうひとつ。俺が心配なのはシズクの身体だ。
常に敵の攻撃に晒されつつ動くことは確実にあいつのスタミナと集中力を削っているだろう。龍から龍に飛び移るのだって、落ちる可能性が皆無じゃない。敵の攻撃についても同じだ。四方から襲ってくるブレスはたった一瞬でも警戒が切れればアウトだ。
「おい!シズク!そろそろ戻ってこい!」
この辺りが頃合いだろう。後はあの空洞に戻って今の作戦を元に練って、きちんと準備をしてからまた来ればいい。
だが――――
「なんで戻ってこないんだ!?あのバカは!」
まさか聞こえていないのだろうか。シズクは戦闘をやめる気配すらない。
「いや、でもシズクだってそろそろ限界に近いのはわかってるはずだ……!」
では、何故。
「お、おいルリ」
「なんだ、クライン」
嫌な予感がする。きっと、この話は俺に良くない話だ。
この予感が正しいと証明されたのは、次の瞬間だった。
「もしかしてシズクちゃん、降りられないんじゃないのか?」
そういえばシズクは壁を駆け上がって龍の背に飛び乗ったわけだが、帰りはどうするのかなんて俺は考えてすらいなかった。そして、冷静に考えれば誰にだってわかり切ったことだった。
龍たちは地上から遥かに遠い上空を飛んでいる。あんなところから飛び降りれば俺たちのちっぽけなHPバーは即座に消し飛ぶ。
では地上に近づいてくるのを待つ?不可能だ。タゲを取り続けているシズクが空にいる以上、龍たちはこちらまで来ない。
行きと同じように壁を使うの無理。登りならともかく、降りは勢いがある。着地に失敗して地面に衝突、そのままブレス攻撃の追い討ちで死亡確定だ。
「いやいや、いくらなんでも帰り道くらい考えてるに――――」
決まってる、とは言えなかった。
ついに限界が訪れたのかシズクの身体がよろめく。すぐさま立て直せたから何とかなったが、あと少しでも遅れていたら攻撃が当たっていた。
それでもシズクは戻ってこようとしない。本当に、戻れないのだ。
「――――」
「そ、そうだ!お前の《投剣》でタゲを取ってこっちに引き寄せればいいんじゃないか!?」
「……それは出来ない。シズクが乗っている龍はあいつを振り落とすためにかなり激しく動いてる。あれじゃ、狙いをつけられない」
ブレスのチャージをするときなら流石に止まるだろうが、シズクが上にいる時にブレスを使う龍はいない。
「……」
「ど、どうするんだよルリ。このままじゃシズクちゃん……」
「わかってる」
どうする。どうするどうするどうするどうする。
どうすればいい。どうすればシズクを救える――――!?
あれもダメ。これも無理。それも不可能。
片っ端から手段を挙げていき、それを却下する。
数百にも昇るだろうその行為を続け、もう諦めそうになったとき。
いつも通りの、少女の声が聞こえた。
「ルゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウリィィィィィィィィイイイイくぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんんんんん!!!!!!!!!!!!!」
聞こえた声に反応して顔を上げると、遠い空にシズクがいる。
遠すぎて顔も見えないはずなのに、何故かこちらに視線を向けているような気がして。
そして、その視線が訴えている内容もわかってしまった。
「正気かあのバカ……!」
だが、今回ばかりは仕方ない。他に方法がない。だから、
「乗ってやるよ。お前のプランに」
タイミングは予測できる。シズクが次の攻撃を凌ぎ、跳ぶために駆け出したその瞬間。
「……ッ!」
俺もまた、駆け出していた。
「おい!ルリ!?」
「悪いなクライン!先に戻っててくれ!」
うろたえるクラインに簡潔に応答し、俺は走る。
上を見上げ、位置を調整する。あとは、覚悟を決めるだけだ。
「バーの半分くらいなら、ダメージも覚悟してやるさ」
そう、呟いたのとまったく同じタイミングで。
「スカイ、ダァァァァァアアアイブ!!!!!」
空から、女の子が降ってきた。
「せい、やッ!」
なるべく衝撃を吸収するように身体を使って受け止める。そしてすぐさま、
「逃げるぞ!」
「あいあいさー!」
飛び降りたシズクを追って、龍たちがブレスを撃とうとしている。幸い、チャージにはまだかかる。
その間に扉まで戻れさえすれば、後はどうとでもなる。
「走れ走れ走れ!」
数十分前と同じく、いやそれより速く俺たちは走る。
ちょうど通路にたどり着いた瞬間に、五本のブレスが放たれる。
この距離なら、間に合う――――!
そうして、俺たちは再び扉の内側に飛び込み。
赤と黒のブレスが扉に当たる音を聞きながら、安堵するのだった。
後書き
今年最後の投稿です
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