ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~
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神風と流星
Chapter2:龍の帰還
Data.26 絶望のち希望
「シズク、逃げるぞ」
「わかった」
全身を駆け回る悪寒を精神力と意志力と見栄で捻じ伏せ、状況を分析――――するまでもなく即断。あの戦闘狂がノータイムで同意するくらい、今の状況はやばかった。
一匹でさえ入念に準備し、最大限の戦術・技術を駆使しなければ倒せなかった龍が四体。更にシステム的な弱体化を受けていてギリギリHPバーを一本削れただけで、倒すなんて夢のまた夢な龍が一体。
完全に無理ゲーである。
幸い、今回は前回と違いすぐに逃げられる。ここは逃げの一手こそが最良だ。
「つーわけでダッシュだ!走れ!」
「オッケー!」
合図するわけでもなく同時に走り出す俺達。龍たちは未だ空の向こうにいる。流石にこれで危険が身近に迫ることはな――――
「ルリくん!何かジョーカーが口に火ぃ溜めてるんだけど!?」
フラグ建築乙。くたばれ一瞬前の俺よ。
「だ、だだだだだだ大丈夫だ。いくらなんでもあそこからここまでブレスが届くはずがないだろ?」
「ルリくんルリくん!何か凄い勢いで黒い焔が飛んできてるんだけど!?」
どうして人の希望的観測を片っ端から砕いていくかなぁこの世界は!
「走れ走れ走れぇ!」
「にゃああああああ!!!!」
後ろから爆音と共に迫ってきているであろう黒焔を見ようともせず、ただただ前だけを見て走る。走る。走る。
そしてあの石造りの扉が見えたところで――――
「クライィィィィィィィイイイイイインンンンン!!!!開けろぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」
声に反応して扉が開く。熱気がもうすぐ近くまで来ていることを文字通り肌で感じつつ扉の内部へ飛び込む。
「おい、どうした、何があったんだよルリ。お前達が急に飛び出して行っちまうから――――」
「説明は後だ!今すぐ閉めろ!」
俺の真剣さから事態が緊迫してることを悟ったのかクライン含めた数名が扉を押す。
「うおっ!?危ねっ!?」
本当にギリギリまで迫ってきた焔がクラインの鎧を軽く炙ったところで――――
ギイイィィィ、バタン。
堅牢なその扉は重々しい音ともに閉まりきり、俺達に安堵を与えたのだった。
「おいルリ!今のは何だったんだ!?」
扉が閉まった後も何かが勢いよくぶつかってる音が聞こえていたが、それもようやく止み、へたり込んでいた俺にクラインが問う。
何かと言われれば、そりゃあ、
「ドラゴンのブレス攻撃、としか言いようがないわけだが」
「ど、ドラゴンっ!?」
クラインの素っ頓狂な叫びを起点に、他のメンバーも不安げな声でざわつく。
「本当かソレ!?」
「ああ。《アルゴの攻略本~一層の危険スポット編~》に《赤黒龍の渓谷》てのが載ってたろ?そこの扉の向こうにある道を抜けるとそのデンジャラススポットに辿り着く」
「……」
あまりのことに顔を青くしたまま固まるクライン。その反応は正しいが、この程度で済むと思っているならまだ甘い。
「さらに、おそらくだがそこにいる五匹のドラゴンを倒さないと俺達はここから出られない」
「ハアッ!?」
静止状態から一転し、盛大なリアクションで驚かれる。うむ、俺も出来ればそうしたい。
ただまあ一つ救いがあるとすれば、
「こっちはまだ確定情報じゃない。クエスト開始の知らせも来てな――――」
ピコーン。
「……」
何故だろう。視界の右下端に出てきたこのアイコンをタッチしてはいけない気がする。何故か、本当に何故か分からないが猛烈に。
「あ、ルリくん。何かクエスト始まったぽいね」
ほら、と無邪気にウインドウを見せてくるシズクに折れ、しぶしぶ見ると確かにそこにはクエスト開始の旨が書かれた文面が。
「で、ルリ?何が確定情報じゃないって?」
最早笑うしかないのか笑顔で尋ねてくるクラインに、俺も満面の笑顔を浮かべて言った。
「さて、ドラゴン攻略についての会議を始めようか」
こうして俺は再び、龍を相手取らなければならなくなったのだった。
「結論。この戦力でアレを全部倒すのは無理だ」
作戦会議開始の第一声。それによって会議は終結した。
「ただでさえ強Mobの四龍に、更にプラスしてジョーカーとか無理に決まってんだろ。常識的に考えて」
ゲームバランスに関して言えばこのゲームはまあまあ良心的だと思っていたが、今はこう言わざるを得ない。SAOはクソ運営。ぶっ飛ばすぞ茅場。
「で、でもよ、ルリたちは一回あいつらを倒してるんだろ?それなら――――」
「正確に言えばジョーカー以外は倒した、だな。それも入念に準備しての話だ。シズクはともかく、今の俺の装備じゃ荷が重い」
《体術》取得とここまでの道中は基本的にシズクが蹴散らしていたから持ってきていた分はほとんど手つかずだが、そもそも持ってきていた絶対数が少ない。そしてシズクやクライン、多くのプレイヤー達と違って俺の《投剣》は武器数がほぼそのまま戦力に直結する。
つまり今の俺では戦力外なわけだ。
じゃあ、残りの戦闘要員は――――
「あ、何かこっちのほうが若干座り心地がいい気がするー」
いつも通り暢気なことを言っている、そこのバカと――――
「……一応聞いておくが、お前らのレベルっていくつくらいだ?」
「……6と、後は7が二人だ」
どうやらクラインたちに戦闘を期待するのは無謀っぽいので実質シズク一人なのだった。
そのことを含め現在の状況を客観的に分析し総括すると……
「うん、無理だわこれ。諦めよう」
俺達のSAO生活これにて完結!次回からはキリトが主人公のハーレム系冒険モノが始まるぞ!
「ルリくんルリくん。まだ諦めるには早いかもよ?」
ハッ。
「危なかった……危うくありえない妄想を文章化するところだった。で、何だって?」
「だからさ、ドラゴン退治の方法、あるかもしれないよって」
まるで新しい悪戯を思いついた子供みたいな顔で、シズクはそう言った。
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