ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
神風と流星
Chapter1:始まりの風
Data.15 ビーター
黙っているキリトと俺の後ろで、今までずっと我慢してたらしいエギルとアスナが同時に口を開く。
「おい、お前……」「あなたね……」
しかしキリトはその二人を微妙な手の動きで制した。
そして一歩前に出て、あえてふてぶてしい顔を作り、見下すような視線をシミター使いに向ける。肩を竦め、なるべく無感情な声で言い放つ。
「元βテスター、だって?……俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」
「な、なんだと……?」
シミター使いの言葉に、今度はキリトではなく俺が答える。
「思い出してみろよ。SAOのCBTはすげえ倍率の抽選だったんだぜ?通った千人のうちに、本物のMMOプレイヤーが何人いたと思う?ほとんどはレべリングのやり方も知らない初心者だったさ。今のお前らの方がまだマシだ」
見下すような俺の発言に、部屋の中の雰囲気が徐々に変わっていく。重く、冷たく、鋭く。まるでボス戦前のようになる。
「――――でも、俺達は違う」
意図的な冷笑を浮かべ、キリトは俺の言葉を引き継ぐ。
「俺達はβテスト中に、他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスの使う《カタナ》スキルを知ってたのも、ずっと上の層で《カタナ》を使うモンスターと散々戦ったからだ。他にも色々知ってるぜ?情報屋なんて比較にならないくらいな」
「…………なんだよ、それ……」
最初に俺達を元βテスターだと指摘したE隊の男が、掠れ声で言った。
「そんなの……βテスターどころじゃねえじゃんか……もうチートだろ、チーターだろそんなの!」
他のプレイヤーからも「そうだ、チーターじゃねえか!」「ベータのチーターだ!」という声が上がる。それらが混ざり合い、《ビーター》という不思議な響きを持つ単語が俺の耳に入る。
「……《ビーター》、か。いい名前だな、それ」
ククッ、と噛み殺すような笑いを漏らす俺の横で、キリトはにやりとした笑いを浮かべて周囲のプレイヤーに言う。
「そうだ、俺達は《ビーター》だ。これからは元βテスター如きと一緒にしないでくれよ?」
そう言った後キリトはウインドウを操作した。可視モードじゃないから俺には見えないが、動きから装備フィギュアを操作していることは分かった。
操作を終えると、纏っていた灰色のコートが消え去り、代わりに艶のある漆黒のロングコートがキリトの身体を包む。
その黒いコートの裾を翻し、キリトは背後にある、次の層への階段がある小さな扉に向かって歩き出す。ので、俺もそれについていく。
しかし一応、言っておかなければならないことがあったのを思い出し、再びプレイヤー達の方を振り返って言う。
「二層の転移門は俺達が有効化しておいてやるよ。ついてきてもいいが、初見のモンスターに殺される覚悟をしてから来いよ?」
それだけ言うと、俺は再び扉に向かって歩き出す。
前半は親切心による提案。後半はあるバカに向けたメッセージだ。
……メッセージ、だったのだが。
どうやら伝わらなかったようだ。
「……おい。何でついてきてんだ」
俺は再度足を止め、振り返る。
するとそこには、半分予想通り、半分予想外の光景が。
「何でって……あたしはルリくんの仲間だからね。キミが行くところにはどこにだってついていくよ」
「私だって、あなたたちのパーティメンバーですもの。今はまだ、だけど」
想定内と想定外は二人揃って俺達についてくる気満々だ。
俺ははあ、と溜め息を吐いて、どうやって説得をするか考える。
結論:無理。
「キリト、どうする?」
少し先で立ち止まっていたキリトに振ってみる。
「……諦めるしかないんじゃないか?」
「だよな」
仕方ない。諦めよう。
キリトと俺は無言で歩き出す。シズクとアスナはそれについてくる。
こうしてビーター二人と女性プレイヤー二人の、珍しいものだらけな奇天烈パーティは揃って二層へ向かうことになった。
ああ、今日はロクなことが無い。
後書き
第一層終了
ページ上へ戻る