ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
神風と流星
Chapter1:始まりの風
Data.14 糾弾
ボスが消えるのと同時に、護衛兵の方も消えたようだ。
部屋を照らしていた松明の光も、薄暗いオレンジから明るいイエローへと変わる。それと同時に周囲に蔓延していた薄闇を失せ、清涼感のある風がどこからか吹き込んできた。
戦闘が終了した後も、しばらくは静寂を保っていた。護衛兵の相手をしていた者も、回復を待っていた者も、ボスと激戦を繰り広げた者も。
まるで、あの悪夢が再び訪れるのを恐れるかのように。
誰一人として動かない静寂の中、シズクが急に右手を天にかざし、ピースを作って叫んだ。
「びくとりー!」
その叫びは部屋中に響き渡り、レイドメンバー全員に染みわたっていった。
そしてそれを待っていたかのように、視界にメッセージが流れ始める。獲得経験値、分配されたコル、ドロップしたアイテム。
同じものを見た全員が先程のシズクの宣言と合わせて、本当に戦いが終わったことを認識した。
今まで溜めていたものが溢れだすように、歓声が弾ける。
先程のシズクのように叫ぶ者、泣きながら仲間と抱き合う者、笑みを携え無言で激闘を讃え合う者、一人一人することは違ったが、戦いの終わりを喜んでいるようなのは共通だった。
そんな中、ゆっくりと俺達の元に近づいてくる奴がいた。最後の最後まで壁役として奮闘してくれた、両手斧使いのエギルだ。
エギルはまずシズクに賛辞を送る。
「……素晴らしい激励だった。あんたがいなきゃ俺たちの心は折れてただろうな」
「あたしは自分のやりたいことをやっただけだよ」
無邪気な笑顔を浮かべて答えるシズクに苦笑し、次にキリトの方を向くエギル。
「あんたの指揮も見事なものだったぞ。コングラチュレーション、この戦いのMVPはあんたと彼女だな」
エギルはそう言って右拳を上げる。キリトは躊躇いながらも、その拳に自分の右拳を当てる。
そんな時だった。
「――――なんでだよ!!」
突然、そんな叫びが喜びに震える部屋を突き抜ける。泣き叫ぶような、その悲痛な響に歓声は一瞬にして静まり返る。
その叫びは明らかに、キリトに向けられたものだった。
キリトは後ろを振り返り、そこに座り込むシミター使いを見据えて言う。
「……何がだ?」
「何がだ、だって?決まってるだろ!」
「――――何でディアベルさんを見殺しにしたんだ!!!」
「見殺し……?」
「そうだろ!!だって……だってあんたはボスの使う技を知ってたじゃないか!あんたがあの情報を最初から伝えていれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!」
その言葉に残りのレイドメンバーたちもざわめき出す。
「そういえばそうだよな……」「何でだ……?攻略本に書いてなかったのに……?」
……これは若干、マズイな。まあ、困るのはキリトだから俺には関係な――――
「そこのあんたもだ!なんで……なんで!」
「え、俺?」
いきなり怒鳴られた俺は驚く。え?これってキリトの問題じゃねえの?
「あんただってボスの使う技を知ってたじゃないか!」
「あ、あー……」
そういえば俺も指示出してたなあ。キリトの頼みで。
先程より更に多く、明確な疑問の声がそこら中で上がる。その疑問に答えたのは、キバオウ率いるE隊のメンバーの一人だった。
「オレ……オレ知ってる!!こいつは、元βテスターだ!!だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ!!知ってて隠してるんだ!!」
この糾弾を聞いて俺はまず、意外だな、と思った。
こういうことはキバオウが言いそうなのに、奴は厳しい顔で口を閉じたまま黙っている。
次にシミター使い達の方を見てみると、こちらは予想通りのリアクション。驚きの様子はなく、ただただ憎悪を増した瞳でキリト(と俺)を睨みつけている。
そいつらが再度何かを叫ぼうとした時、エギルと共に壁役を務めてくれた奴らのうちの一人が言った。
「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻略パターンはβテスト時代の情報だ、って書いてあったろ?彼が本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じなんじゃないのか?」
「そ、それは……」
押し黙るE隊メンバーに代わり、シミター使いが憎しみのこもった口調で答える。
「あの攻略本が、ウソだったんだ。アルゴって情報屋がウソを売りつけたんだ。あいつだって元βテスターなんだから、タダで本当のことなんて教えるわけなかったんだ」
……参った。これは本格的にやばい。
キリトが、百歩譲ってそれに俺をプラスした二名が糾弾され、裁かれるのはいい。だが、このままだと元βテスターが『制裁』の対象となる恐れがある。
そうなったら終わりだ。一般プレイヤー達による大規模な元テスター狩り――――古代の魔女狩りのようなものが行われるだろう。それだけじゃない。元テスターと勘違いされた一般プレイヤーも被害にあう可能性が高い。例えば、『全員が動けない中、たった一人でボスに攻撃して活路を開いた、元βテスターの連れ』とかが。
さて、どうしたものか。
キリトにアイコンタクトで尋ねるが、真剣に考え込んでるようで反応がない。というわけで俺も個人で打開策を考えなければならない。面倒くせえ。
数秒考えてみるが特に思いつかなかったので、もういっそあいつら殲滅するか、と末期的な考えに至ったとき――――
「……ルリ」
――――肝心な時に活躍する友人が、小声で話しかけてきた。
「……打開策か?」
「……ああ。でも、この方法だと他のテスターは救えても、俺達の評価は悪化する。俺は大丈夫だけど――――」
「……じゃ、それでいい。やれ」
俺の即答に、キリトが驚いた顔をする。
「……いいのか。説明すら聞かなくて」
「……いいんだよ。俺はこういう時のお前は無条件で信じることにしてるからな」
「……ありがとう」
お礼を言われるほどのことじゃないんだがな。
「……じゃあ、俺に適当に話を合わせてくれ」
「……了解」
そして俺とキリト、二人での本日最後の戦いが始まる。
ページ上へ戻る