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遊戯王GX-音速の機械戦士-

作者:蓮夜
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―女王―

 【クリフォート】を使う戦士長を倒したのも束の間、闘技場のような場所で佇んでいた俺に対し、場違いな拍手が響いていた。ここが敵の本拠地である以上、戦士長以外の敵がいることは何ら不思議でもないのだが、そ拍手の音というのは良く分からない。

 戦士長にやられた身体を無理やり起こしながら、俺は拍手の発生源へと身体を向ける。自分が今いる場所が闘技場のスタジアムならば、その音が響いているのは観客席の方からだ。

 そして、観客席にいるのは――

「覇王……!?」

 その正体について考える前に、口からその言葉が先に出る。リリィから敵の主は『覇王』と呼ばれる存在だと聞いていたが、確かにそこにいたのはまさしく《闇魔界の覇王》そのものだった。

「いかにも」

 ずっと続けていた拍手を止めると、予想に反して覇王は理知的な声色で会話をし始めた。その手には特注のデュエルディスクが装着されていたが、覇王は観客席から降りてこようとする気配はない。

「いや、まさかあの戦士長を倒すとは。驚きだよ、これではもう私では勝てはしない」

「……それじゃあ、どうする気だ」

 覇王と言えども、デュエリストの腕は未知数だと考えていたが、どうやら戦士長よりその腕前は下らしい。戦士長とのデュエルの疲労を隠すように、デュエルディスクを前に構えて威嚇するように声を発した。

「そうだなぁ……この世界から後退するしかない」

 覇王は、あくまで軽くそう言ってのけてみせた。こちらの威嚇などには何の感情を覗かせることもなく。「ただし」と前置きをしながら、覇王は台本を読むかのように言葉を続けていく。

「戦士長に匹敵する実力を持った戦士がもう一人いるんだ。ソレと戦ってからにして欲しいな。君がソレに勝てば、我々はこの世界から手を引こうじゃないか!」

 芝居がかった覇王の台詞にイライラして来るが、その条件を飲む気はさらさらない。わざわざそんな条件を飲まずとも、目の前にいる覇王を倒せば良い話なのだから。その人物が現れる前に覇王にデュエルを挑まんと、スタジアムから観客席へと走っていこうとしたその時、ギギギギ――と重い音とともに闘技場に繋がる扉が開いた。覇王と自分しかいなかった闘技場に、新たな闖入者が現れたのだ……この状況で仲間だとはとても思えない。

「…………」

 しかして現れたのは、闇魔界のモンスターでもヒロイックのモンスターでもない。所属は分からないものの、その姿は天使族の融合モンスター《聖女ジャンヌ》であった。天使族らしい神々しい姿に目を奪われてしまうが、腕に装着されていたデュエルディスクを見て、すぐにジャンヌへと警戒の視線を送る。

 ジャンヌは、そんな俺の様子を一瞥もせずに覇王の元へと歩くと、観客席にいる彼に対して膝をついてかしづいた。
「覇王様……侵入した戦士達の殲滅を完了しました」

「ふむふむ……あそこにはもう、誰もいないんだけどなぁ」

 ――その一言で俺はあらゆることを悟った。目の前にいる《聖女ジャンヌ》が敵であり、覇王の言う実力者であること。そして、捕らわれたデュエリストを救出しようとしていたヒロイックの戦士達の作戦が、デュエリストが囚われていない場所に誘導されて失敗したこと。ヒロイックの戦士達はともかく、リリィの安否が気になるところではあるが、今はそれどころではない。

 俺を眼中に入れず、覇王とジャンヌは二言三言会話を交わし終わると、聖女ジャンヌはこちらに向けてデュエルディスクを展開する。

「さて、これが先程言った戦士長に匹敵する戦士だ。条件を……飲むかい?」

「ああ……!」

 こうなれば覇王だけを狙うことは不可能だ。二人かがりで挑まれては適わないので、俺は口惜しくも戦士長の申し出を受け入れる。聖女ジャンヌに対して、こちらも負けじとデュエルディスクを展開すると、覇王がふと呟いた。

「……そう言えば君、こんな話知ってるかい?」

 そう問いかけられるものの、そんな言葉はとんと記憶にない。覇王の言葉が続いているうちはデュエルする気がないのか、聖女ジャンヌはピクリとも動こうとしない。仕方なく覇王の言葉に耳を傾けると、覇王は嬉しそうに言葉を続けた。

「デュエリストを何十人ほど同じ閉鎖空間に閉じ込めてさ。最期の一人までデュエルさせるのさ」

 ただのトーナメント制のデュエル……などという話ではない。俺たちの世界なら合宿か大会で済む話だが、この世界のデュエルとはすなわち、命がけなのだから。最期の一人になるまでの殺し合い――本来の意味でのバトルロイヤルに他ならない。

 いきなり何の話なのかと聞き返すよりも先に、覇王は熱っぽく語り出していく。

「そして最期の一人を素材にモンスターと融合! これで良いデュエリストが生まれるんだ。……君たちの世界では壺毒って言うんだっけ?」

 壺毒。器の中に多数の虫を入れて互いに食い合わせ、最期に生き残った最も生命力の強い一匹を使って呪いをする……という昔ながらの呪いのことだったか。そんなうろ覚えの知識ととともに、俺の脳内に最悪の想像が走った。まるで連想ゲームのようにその想像は、連鎖的に俺の脳内に入り込んで来る。

『デュエリストを何十人ほど同じ閉鎖空間に閉じ込めてさ。最期の一人までデュエルさせるのさ』――闇魔界の軍勢はデュエリストを捕らえ、どこかに閉じ込められていた。

『ふむふむ……あそこにはもう、誰もいないんだけどなぁ』――俺はそれを聞いた時は、捕らえたデュエリストをどこかに移動させたのかと思っていたが。そう奇をてらって考えるのではなく、本当に『いなくなった』のだとしたら。

『人を素材にモンスターと融合! これで良いデュエリストが生まれるんだ』――俺の目の前にいる覇王に忠誠を誓っているデュエリストは、《聖女ジャンヌ》。『融合』モンスターである。

 俺のこの考えが正しければ。もしも明日香が闇魔界の軍勢に捕まっていたとしたら。彼女はもういない――ないし、俺が今から彼女を殺すこととなる。

「……いくわよ」

 茫然自失となっている俺から反応がないのがつまらなかったのか、楽しげに語っていた覇王の言葉が止まると、聖女ジャンヌがデュエルの準備を完了させる。ただで殺されるわけにはいかない、こちらもデュエルの準備を完了させねば……!

『デュエル!』

遊矢LP4000
ジャンヌLP4000

「私の先攻」

 先攻を得たのは聖女ジャンヌ。……一度考えてしまうと、その凛々しい姿はどうしても明日香と被ってしまう。

「くっ……」

 デュエル中に文字通り命取りになる思考を頭から追い出すと、俺はジャンヌのデッキの内容へと思考を切り替える。明日香のデッキは紆余曲折あったのか、ヒロイックの一人であるカンデラが所持していて、今は俺のデッキケースの中にあるが……いや、あの聖女ジャンヌは明日香とは関係ない。……関係ないのだから明日香のデッキのことを考える必要はないはずだ。

「私は儀式魔法《祝祷の聖歌》を発動!」

「儀式!?」

 聖女ジャンヌが発動した儀式魔法《祝祷の聖歌》に驚きの声が漏れる。サイバー・エンジェルではないようだが……偶然だと信じきれなくなってきている……

「あら、儀式がそんなに珍しいかしら? ……まあ良いわ、私は《儀式魔人デモリッシャー》と《儀式魔人プレコグスター》をリリースし、《竜姫神サフィラ》を儀式召喚!」

 どこからか聞こえてくる祝福の歌声とともに、美しく白く輝く竜をかたどったモンスターが降臨する。さらにその降臨には、モンスターに更なる効果を与える儀式魔人たちが付随している。

「カードを一枚伏せてターンエンド。そして、エンドフェイズ時に《竜姫神サフィラ》の効果が発動するわ!」

 竜姫神サフィラから発せられた光が収束すると、聖女ジャンヌのデュエルディスクに収められたデッキへと光が吸収された。それと同時に聖女ジャンヌへと、光り輝くカードが手札に加えられる。

「儀式召喚されたターン、私はカードを二枚ドローし、一枚墓地に送ることが出来る」

「……俺のターン、ドロー!」

 《竜姫神サフィラ》の効果によって聖女ジャンヌはカードをドローすると、改めて俺にターンが回ってくる。《竜姫神サフィラ》の効果が儀式召喚したターンのドロー、という効果だけとはとても思えないが……

「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」

 まずは《レスキュー・ウォリアー》が戦陣を切る。だが、《竜姫神サフィラ》のステータスは、上級モンスターの平均値である2500。攻撃力をアップさせる効果を持たないレスキュー・ウォリアーでは適わない。

「《レスキュー・ウォリアー》をリリースし、《ターレット・ウォリアー》を特殊召喚!」

 《レスキュー・ウォリアー》をリリースし、砲台の機械戦士《ターレット・ウォリアー》が特殊召喚される。効果によってマックス・ウォリアーの力を受け継ぎ、その攻撃力は2800。《竜姫神サフィラ》の攻撃力を超える。

 迷っている暇はない。今は……戦わねば。

「ターレット・ウォリアーで竜姫神サフィラに攻撃! リボルビング・ショット!」

 《ターレット・ウォリアー》の肩に装備された機銃が火を噴くと、《竜姫神サフィラ》へと放火を集中させる。神々しい姿をした美しい竜姫神に、無骨な薬莢とともに銃弾が発射された。しかし《竜姫神サフィラ》はその身体に纏った光を強くさせる。

「墓地の《祝祷の聖歌》の効果を発動! このカードを除外することで、儀式モンスターの破壊を無効にする!」

「……だがダメージは受けてもらう!」

ジャンヌLP4000→3700

 墓地にあった《祝祷の聖歌》という予想外のところから、《ターレット・ウォリアー》による《竜姫神サフィラ》の破壊は無効にされ、その衝撃は聖女ジャンヌの元へと向けられる。微々たるダメージだから気にするほどでもない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「あなたのエンドフェイズ時にリバースカード、オープン! 《明と宵の逆転》!」

 聖女ジャンヌへとターンが回る瞬間に発動される、永続罠《明と宵の逆転》。一ターンに一度、指定されたモンスターを墓地に送ることで、同じレベルの戦士族モンスターを手札に加えるカードである。指定されたモンスターとは、光属性を捨てたならば闇属性。闇属性を捨てたならば光属性のモンスターと、カード名を強く意識したカードである。

「私は、光属性レベル4の《白夜の騎士ガイア》を捨て、闇属性の《極夜の騎士ガイア》を手札に加える。さらに、《竜姫神サフィラ》の効果を発動!」

 そして聖女ジャンヌが残された一枚の手札を捨てると、新たな戦士族が手札に加えられる。そしてその効果に連動するかのように、再びサフィラに光が集まっていき、聖女ジャンヌの手札に二枚のカードが加えられた。

「墓地に光属性モンスターが捨てられた時、《竜姫神サフィラ》は効果を発動する。……カードを二枚ドローして一枚を墓地に」

 毎ターンのエンドフェイズ時に発動する効果なのかと思ったが、光属性モンスターが墓地に送られた時というトリガーがあるらしい。だが、聖女ジャンヌのフィールドに《明と宵の逆転》が残されている限り、毎ターン発動されることに変わりはない……

「そして私のターン、ドロー!」

 《竜姫神サフィラ》と《明と宵の逆転》のコンボにより、聖女ジャンヌはデッキを巧みに回転させる。迷っている暇はないどころか、迷ってなどいてはその隙に攻め込まれる、と感じさせた。

「私は《極夜の騎士ガイア》を召喚!」

 先のターンに《明と宵の逆転》によってサーチされた、かの《暗黒騎士ガイア》のリメイクモンスター、純白の馬に跨がる漆黒の騎士《極夜の騎士ガイア》。その効果は、闇属性と光属性という二つの属性に関わる効果である。

「《極夜の騎士ガイア》の効果を発動! 墓地の光属性モンスターを除外することで、私のモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる! 《竜姫神サフィラ》の攻撃力を500ポイントアップ!」

 《極夜の騎士ガイア》の効果により、《竜姫神サフィラ》の攻撃力は3000……2800の《ターレット・ウォリアー》の攻撃力を超える。《明と宵の逆転》の効果で光属性モンスターを墓地に送り、《極夜の騎士ガイア》をサーチ。光属性モンスターを墓地に送り《竜姫神サフィラ》の効果の発動トリガーにした後、《極夜の騎士ガイア》の効果のトリガーにもなり、儀式魔人とともに《竜姫神サフィラ》のサポートを行う。

 それが聖女ジャンヌのデッキ。《竜姫神サフィラ》の効果を主軸とし、《極夜の騎士ガイア》や儀式魔人などのサポートとともに攻め込むデッキ、だと仮定しておく。

「バトル! 《竜姫神サフィラ》で《ターレット・ウォリアー》に攻撃! サファイアボルト!」

遊矢LP4000→3800

 《ターレット・ウォリアー》へと発せられる青い閃光。美しく輝くその光から目を背けると、その瞬間にターレット・ウォリアーは破壊されていた。僅かなダメージが俺の元へと届くとともに、その光が俺の手札の周りを旋回する。

「素材にした《儀式魔人プレコグスター》の効果を発動! 儀式モンスターが戦闘ダメージを与えた時、あなたは一枚手札を捨てなくてはならない」

 これこそが儀式魔人シリーズの効果。儀式モンスターの降臨の素材とした時、正確に言えば違うものの、そのモンスターへと新たな効果を付加する。《竜姫神サフィラ》の素材となった《儀式魔人プレコグスター》は、儀式モンスターにハンデス効果を付加する。

 そして、俺が手札のカードを一枚、《竜姫神サフィラ》が放った光に奪われている間に、俺に向かって漆黒の騎士が駆けてきていた。

「さらに《極夜の騎士ガイア》でダイレクトアタック!」

「つっ……!」

遊矢LP3800→2200

 早くもダイレクトアタックを一撃食らってしまうが、まだまだデュエルは序盤だ。敵のデッキタイプが分かったと思えば問題はない。

「さらに永続罠《明と宵の逆転》の効果を発動。光属性モンスターを捨て、闇属性モンスターを手札に加える。よってエンドフェイズ、《竜姫神サフィラ》の効果が発動!」

 光属性モンスターを墓地に送ることにより、エンドフェイズに《竜姫神サフィラ》の効果が発動することが決定する。聖女ジャンヌはカードを二枚ドローして一枚捨てると、そのまま俺にターンを渡す。

「ターンエンドよ」

「俺のターン、ドロー!」

 俺の《ターレット・ウォリアー》はあっさりと攻略され、こちらのフィールドはリバースカードが一枚。聖女ジャンヌのフィールドには、エースモンスターである《竜姫神サフィラ》と《極夜の騎士ガイア》に永続罠《明と宵の逆転》が発動されている。最初のターンの攻防は、完全にこちらが遅れをとった結果に終わる。

「俺は魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》を発動! セットカードを破壊することで二枚ドロー!」

 自らのセットカードを破壊し、二枚のカードをドローする効果のある魔法カード《ブラスティング・ヴェイン》の効果により二枚ドローすると、フィールドに旋風が巻き起こる。旋風が戦士の姿を形作っていくと、マイフェイバリットモンスターがその姿をフィールドに晒す。

「破壊したカードは《リミッター・ブレイク》! デッキから現れろ、《スピード・ウォリアー》!」

『トアアアッ!』

 雄々しい叫び声を伴って、マイフェイバリットモンスターがデッキから特殊召喚される。セットカードを破壊してカードをドローする《ブラスティング・ヴェイン》と、墓地に送られた時にスピード・ウォリアーを特殊召喚する《リミッター・ブレイク》によってフィールドを整えると、さてどうするか……と思索を巡らせる。

「スピード・ウォリアー……?」

 ――そのせいで俺は、そう一人ごちた聖女ジャンヌの呟きを聞き逃した。いや、耳には入っていたのだろうが……

「……よし。チューナーモンスター、《ドリル・シンクロン》を召喚!」

 当面の戦術をまとめて考えることを終えると、頭に小さなドリルを三つ装着したチューナーモンスター、《ドリル・シンクロン》を新たに召喚する。そのレベルは3であり、レベル2のスピード・ウォリアーとチューニングしては、対応するモンスターをシンクロ召喚するにはレベルが一つ足りない。

「さらに装備魔法《シンクロ・ヒーロー》を《スピード・ウォリアー》に装備! 攻撃力を500ポイント上げ、更にそのレベルを1上げる。――二体のモンスターでチューニング!」

 装備魔法《シンクロ・ヒーロー》の効果により、スピード・ウォリアーのレベルを3に変更。これで合計のレベルは6となり、《ドリル・シンクロン》のドリルが高速で回転していく。

「集いし力が大地を貫く槍となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 砕け、《ドリル・ウォリアー》!」

 そして二体のモンスターによって、シンクロモンスター《ドリル・ウォリアー》がシンクロ召喚される。巨大なドリルで闘技場に穴を空けながら登場するが、《竜姫神サフィラ》にその攻撃力は及ばない。

「ドリル・ウォリアーは攻撃力を半分にすることで、相手にダイレクトアタックが出来る! バトルだ、ドリル・ウォリアー!」

 出来れば、聖女ジャンヌのデッキのキーカードである《竜姫神サフィラ》を破壊したいところだったが、一時的に攻撃力を越えたところで敵には攻撃力を補う《極夜の騎士ガイア》がいる。この点から《グラヴィティ・ウォリアー》から《ドリル・ウォリアー》を選択し、その効果によってダイレクトアタックを行っていく。

「ドリル・ウォリアーでダイレクトアタック! ドリル・シュート!」

「くっ……」

ジャンヌLP3700→2500

 《ドリル・ウォリアー》のダイレクトアタック限定で仮定すれば、聖女ジャンヌのライフポイントが切れるまであと三撃。もちろんそれだけで決まるとは思えないが、どれだけこの攻撃だけで削りきれるか。

「メインフェイズ2。《ドリル・ウォリアー》の効果を発動! 手札を一枚捨てることにより、次のスタンバイフェイズまで、このモンスターを除外出来る」

 攻撃を終えた《ドリル・ウォリアー》が、自身の効果によって時空の穴に吸い込まれていく。これで俺のフィールドはがら空きになったものの、もちろん身を守る手段は手札に残しているので、効果の発動に戦闘ダメージを介する《儀式魔人プレコグスター》の効果は発動出来ない。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「あなたのエンドフェイズ時、《明と宵の逆転》の効果を発動。光属性モンスターを捨て闇属性の戦士族を手札に。さらに《竜姫神サフィラ》の効果を発動!」

 墓地に捨てる光属性モンスターがまだ手札にあったようで、このターンにはもう発動しないだろう、と踏んでいた俺の予想を裏切った。しかし、予想を裏切ったのは効果の発動タイミングではなく、効果そのものでもあった。

「《竜姫神サフィラ》第二の効果。あなたの手札を一枚墓地に送る!」

「何!?」

 手札交換効果だけではなかったのか――と歯噛みすると、俺の手札のカードが墓地に送られる。身を守る手段だと考えていたカードが捨てられ、《ドリル・ウォリアー》の効果のコストも併せて、これで俺の手札は0枚……!

「……ターンエンドだ」

「私のターン、ドロー!」

 《儀式魔人プレコグスター》の効果と《竜姫神サフィラ》第二の効果。ハンデスまでもがデッキのコンセプトだったらしく、聖女ジャンヌには計画通りだと言わんばかりに、小さく笑みが浮かべられていた。やはり《竜姫神サフィラ》を破壊しなくては……

「まず速攻魔法《サイクロン》を発動! あなたのリバースカードを破壊する!」

「チェーンして《和睦の使者》を発動! このターン、俺は戦闘ダメージを受けない!」

 聖女ジャンヌから放たれた竜巻が俺のリバースカードに届くより早く、俺はチェーンしてリバースカード《和睦の使者》を発動する。先程《竜姫神サフィラ》の効果で捨てられた、《速攻のかかし》とのコンボが破られた時の為に伏せておいたカードだが、まさかこんなにも早く発動することになるとは。

 ……そしてこれで名実ともに、俺のフィールドには何もない。伏せカードどころか、手札さえも。

「防がれた……なら私は《儀式の準備》を発動! 私は墓地から《祝祷の聖歌》を手札に加え、デッキからレベル6以下の《竜姫神サフィラ》を手札に加える!」

 既に《竜姫神サフィラ》の第一の効果で《祝祷の聖歌》を墓地に送っていたらしい。しかし手札に加えられることで、墓地で発動する戦闘破壊耐性を与える効果ではなく、儀式魔法における本来の効果が活用される。

「私は《祝祷の聖歌》の効果を発動。墓地の《儀式魔人デモリッシャー》と《儀式魔人リリーサー》を除外することで、《竜姫神サフィラ》を儀式召喚!」

 ……儀式魔人は、墓地においても自身を除外することで、儀式召喚の素材となれる。その効果により、二体の儀式魔人を除外することで、やはり降臨する二体目の《竜姫神サフィラ》……さらにその神々しい輝きは光を増していき、《和睦の使者》に守られているにもかかわらず気圧される。

「私はこれでターンエンド。エンドフェイズ時、儀式召喚に成功した《竜姫神サフィラ》の効果により、二枚ドローして一枚捨てる」

 このターン、光属性モンスターを墓地に送っていないため、もう一体の《竜姫神サフィラ》の効果は発動しない。発動するのは、新たに降臨した《竜姫神サフィラ》のみだ。

「俺のターン……ドロー!」

 そしてこのターン、先のターンに除外ゾーンへと逃れていた《ドリル・ウォリアー》が、サルベージ効果と併せて俺のフィールドに蘇る。ハンデス効果によって手札がない以上、ここは《ドリル・ウォリアー》を頼りにするしかない――

 ――のだが、《ドリル・ウォリアー》がフィールドに帰還することはない。恐らくはこのデュエル中には。

「《竜姫神サフィラ》の降臨の素材にした《儀式魔人リリーサー》の効果。リリーサーを素材にした儀式モンスターがいる限り、あなたは特殊召喚を行うことは出来ない」

「ドリル・ウォリアー……!」

 相手の特殊召喚を封じ込める。そんな単純にして強力無比な効果こそが、《儀式魔人リリーサー》の効果である。儀式魔人の中で最も警戒していたのだが、いつの間にか墓地に送られていたらしい。本来ならば、《ドリル・ウォリアー》はスタンバイフェイズに特殊召喚される筈だが、《儀式魔人リリーサー》の効果により特殊召喚は封じられている……!

「……俺は《貪欲な壷》を発動! 墓地から五枚のモンスターをデッキに戻し、二枚ドロー!」

 《儀式魔人リリーサー》の特殊召喚封じを打開するには、二枚目の《竜姫神サフィラ》を破壊する必要がある。《儀式魔人リリーサー》を素材にした儀式モンスターがフィールドから離れれば、《儀式魔人リリーサー》の効果も効力を失うからだ。……《ドリル・ウォリアー》はもう戻って来ないが。

 ……だが、事態はそう簡単ではない。

 理由の一つに、聖女ジャンヌの墓地にある《祝祷の聖歌》。墓地から除外することにより、儀式モンスターの破壊を一度防ぐ魔法カードである。このカードが墓地にある限り、俺は二度《竜姫神サフィラ》を破壊しなくてはならない。

 更に二つ目の理由は、ハンデスを食らった俺のフィールドの状況。特殊召喚を封じられた上に、手札もフィールドも満足に揃っていないこの状況では、そもそも《竜姫神サフィラ》を破壊出来るかどうか。《竜姫神サフィラ》を破壊出来るようにパーツを集めようとしても、それこそあちらにはハンデス効果があるのだから。

 ……そんな絶体絶命の状況の中、逆転のカードを祈って《貪欲な壷》を発動する。墓地のモンスターたちをデッキに戻し、新たに二枚のカードをドローする……!

「……俺は《一時休戦》を発動! お互いにカードを一枚ドローし、次のターンの戦闘ダメージを無効にする!」

 ……逆転のカードではなかったが、この状況では非常にありがたいカードには違いない。戦士長を始めとする、この世界のデュエリストの大量展開からの一斉攻撃への対策カードとして入れておいたカードだったが、どうやら入れておいて正解だったらしい。

「カードを二枚伏せ、ターンエンド」

「随分足掻くのが上手いのね。私のターン、ドロー!」

 またハンデスされては堪らない、とドローしたカード二枚ともを伏せる。聖女ジャンヌのキーカードである《明と宵の逆転》が永続罠である以上、《大嵐》が来る可能性は低いはずだ。

「私は《明と宵の逆転》の効果により、光属性モンスターを墓地に送る」

 永続罠《明と宵の逆転》の効果により、光属性モンスターを墓地に送ることで、闇属性の戦士族モンスターを手札に加える。厄介なのは、手札に加えられた闇属性の戦士族モンスターよりも、《竜姫神サフィラ》の効果の発動が確定したことにある。

「更にカードを一枚セット。エンドフェイズ、二体の《竜姫神サフィラ》の効果を発動!」

 《一時休戦》によって攻撃は出来ないものの、もちろん効果の発動には何の制限もない。二体の《竜姫神サフィラ》のどちらもが、第一の手札交換効果を選択したようで、聖女ジャンヌは驚異の四枚のドローを行っていく。

「ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 俺のフィールドには二枚のリバースカードであり、ライフポイントは2200で手札は0枚。対する聖女ジャンヌのフィールドには、エースカードである《竜姫神サフィラ》が二体に《極夜の騎士ガイア》に、永続罠《明と宵の逆転》とリバースカードが一枚に、ライフポイントは2500で手札は三枚。

 《儀式魔人リリーサー》を素材にした《竜姫神サフィラ》がいる限り、俺の攻め手は封じられてしまう。まずは、あのモンスターを破壊することが先決だと、望みを賭けて今ドローしたモンスターを召喚する。

「俺は《ドドドウォリアー》を妥協召喚!」

 上級モンスターなるも攻撃力を1800にすることで、斧を持った機械戦士《ドドドウォリアー》を妥協召喚する。攻撃力は及ばず、その効果もこの状況で役に立つものではないが……

「リバースカード、オープン! 装備魔法《デーモンの斧》をドドドウォリアーに装備する!」

 ハンデス効果対策に伏せてあった装備魔法《デーモンの斧》を発動すると、《ドドドウォリアー》は器用にも、元々持っていた斧とデーモンの斧を片手ずつに別々の斧を持つ。これで攻撃力が1000ポイントアップし、《竜姫神サフィラ》の攻撃力を超える――

「カウンター罠《魔宮の賄賂》を発動!」

 ――ことはなく、聖女ジャンヌが発動したカウンター罠《魔宮の賄賂》に発動を無効とされる。《ドドドウォリアー》が持っていた《デーモンの斧》が砕け散り、代わりに俺はカードを一枚ドローする。《魔宮の賄賂》のデメリット効果も、《竜姫神サフィラ》のハンデス効果があれば問題ないということか……?

「……バトル! ドドドウォリアーで極夜の騎士ガイアに攻撃! ドドドアックス!」

ジャンヌLP2500→2300

 《ドドドウォリアー》は《デーモンの斧》ではない、本来の斧をパワフルに振りかざすと、ガードしていた剣ごと《極夜の騎士ガイア》を破壊する。しかしダメージは微々たるもので、聖女ジャンヌは涼しい顔でその一撃を受け流した。

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

「私のターン、ドロー!」

 ハンデス効果を警戒し、《魔宮の賄賂》で引いたカードをセットすると、再びこちらのフィールドは二枚の伏せカードが展開される。この状況を見るに、《サイクロン》を《和睦の使者》に無駄撃ちさせたのは不幸中の幸いか。

「私は《極夜の騎士ガイア》を召喚!」

 《明と宵の逆転》で手札に加えていたのだろう、再び召喚される《極夜の騎士ガイア》。純白の馬がいななきながら闘技場の中を駆け回る。

「《極夜の騎士ガイア》の効果を発動。墓地の光属性モンスターを除外し、《竜姫神サフィラ》の攻撃力を500ポイントアップ!」

 俺のフィールドに伏せられた二枚のリバースカードが何であれ、確実にライフポイントを0にしようとして来ているのか、先に召喚されていた《竜姫神サフィラ》の攻撃力を500ポイントアップさせる。よって攻撃力は3000と、ドドドウォリアーでは遠く及ばない。

「バトル! 《竜姫神サフィラ》でドドドウォリアーに攻撃! サファイアボルト!」

 まず攻撃して来たのは攻撃力を上げた《竜姫神サフィラ》。こちらのサフィラは《儀式魔人プレコグスター》により、戦闘ダメージをトリガーとしたハンデス効果を備えているが、俺にもはや捨てる手札はない。

 《竜姫神サフィラ》の青い閃光が《ドドドウォリアー》へと煌めく。攻撃力の差は歴然だったが、《ドドドウォリアー》は光による攻撃を受け止める。その身体には、聖なる鎧が装備されていた。

「リバースカード、《聖なる鎧 -ミラーメール-》を発動!」

「……ミラーメール!?」

 攻撃して来た相手モンスターと同じ攻撃力にする、という効果を持った聖なる鎧が《ドドドウォリアー》に装備され、その攻撃力が《竜姫神サフィラ》と同じ3000となる。サフィラから放たれた閃光を弾き返し、その身体を両断せんとドドドウォリアーが向かっていく。

「……墓地から《祝祷の聖歌》を除外し、《竜姫神サフィラ》の破壊を無効にする!」

 聖女ジャンヌの対応は早かった。墓地から儀式魔法《祝祷の聖歌》を除外すると、《竜姫神サフィラ》に戦闘破壊耐性を付与し、《ドドドウォリアー》の斧による一撃を防いだ。そして反撃に閃光を纏った光線がドドドウォリアーを消し飛ばす。

 ――しかし、《竜姫神サフィラ》が墓地から《祝祷の聖歌》によって戦闘破壊を無効したように、《ドドドウォリアー》の前には盾を持った機械戦士が立ちはだかっていた。

「墓地から《シールド・ウォリアー》を除外し、《ドドドウォリアー》の破壊を無効にする!」

 《シールド・ウォリアー》が《竜姫神サフィラ》の攻撃を防ぎきると、役目を終えたかのようにフィールドから消えていく。ハンデス効果はカードを墓地に送る両刃の剣、《儀式魔人プレコグスター》のハンデス効果の際に、《シールド・ウォリアー》を墓地に送っていた。

 《シールド・ウォリアー》に守られた《ドドドウォリアー》は、ミラーメールを装備したまま俺のフィールドへ舞い戻る。

「……カードを二枚伏せてターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 かくしてその聖女ジャンヌのターンの攻防は、どちらも墓地からカードを除外しただけに終わる。しかし、前のターンと決定的に違うことは、《ドドドウォリアー》の攻撃力。《聖なる鎧 -ミラーメール-》は、攻撃して来た相手モンスターと同じ攻撃力となり、更に次のターン以降も攻撃力が持続する。

 よって、ミラーメールが装備された《ドドドウォリアー》の攻撃力は、《極夜の騎士ガイア》に強化された数値と同じく3000。戦闘破壊耐性を付与する《祝祷の聖歌》は、相打ちを恐れて先のターンに使用して恐らく墓地にはない……!

「ドドドウォリアーで竜姫神サフィラに攻撃! ドドドアックス!」

「くうっ……!」

ジャンヌLP2300→1800

 ダメージとしては僅かに500ポイント、対した数値ではないが、《ドドドウォリアー》の斧は確実に《竜姫神サフィラ》を破壊した。これで新たに儀式モンスターが降臨しない限り、《儀式魔人リリーサー》の効果を受けることはない。ここから反撃だ……!

「俺はカードを一枚伏せ、ターンエンド!」

 俺のフィールドは、《聖なる鎧 -ミラーメール-》の効果で攻撃力が3000となった《ドドドウォリアー》。更にリバースカードが二枚で、やはり手札は一枚もない。《儀式魔人リリーサー》が付与された《竜姫神サフィラ》を破壊し、ここから反撃だというタイミングだが、更に攻め込むことは難しい。

「私は《明と宵の逆転》の効果を発動。光属性モンスターを墓地に送ることで、闇属性モンスターを手札に加える。……私は《白夜の騎士ガイア》を召喚!」

 しかし聖女ジャンヌは慌てることはなく、《明と宵の逆転》の効果で《竜姫神サフィラ》の効果がエンドフェイズに発動することが確定する。しかし、召喚されたのはサーチされた闇属性モンスターではなく、光属性の戦士族《白夜の騎士ガイア》であった。

 漆黒の馬に跨がる純白の戦士。先に召喚されている《極夜の騎士ガイア》とは、鏡あわせのような存在のモンスターで、やはりその効果は戦闘を補助する効果。やはり都合良く、《ドドドウォリアー》と《竜姫神サフィラ》で睨み合い、とはいかないようだ。

「私は二体のガイアの効果を発動。墓地の光属性と闇属性モンスターを除外し、サフィラの攻撃力を500ポイントアップし、あなたのモンスターの攻撃力を500ポイントダウン!」

 《極夜の騎士ガイア》の効果が光属性モンスターを除外し、自分のモンスターの攻撃力を500ポイントアップさせるならば、《白夜の騎士ガイア》の効果は鏡のように逆。闇属性モンスターを除外することで、相手モンスターの攻撃力を500ポイントダウンさせる効果……よって、《ドドドウォリアー》の攻撃力は2500となり、《竜姫神サフィラ》の攻撃力は3000となる。

「バトル! 《竜姫神サフィラ》で攻撃! サファイアボルト!」

「ドドドウォリアー……!」

遊矢LP2200→1700

 墓地から戦闘破壊耐性を付与するカードを除外したのは聖女ジャンヌだけでなく、《シールド・ウォリアー》に類するカードはもう俺の墓地にはない。《竜姫神サフィラ》の攻撃に今度こそ耐えることは出来ず、《ドドドウォリアー》は青い閃光の前に散る。反撃の狼煙を上げてくれたドドドウォリアーに感謝しながら、俺は迫り来る二体のモンスターを見据えた。

「まずは《極夜の騎士ガイア》でダイレクトアタック!」

「……《儀式魔人リリーサー》の効果がなくなった今、このカードを発動出来る! リバースカード、オープン! 《シンクロコール》!」

 攻撃してくる二体のガイアの攻撃を、リバースカードから現れた半透明のモンスター二体――《レスキュー・ウォリアー》と《ドリル・シンクロン》が止めると、そのまま《ドリル・シンクロン》は頭の上のドリルを高速回転させながら、三つの光の輪となっていく。相手のバトルフェイズ中にもかかわらず、それはまさしくシンクロ召喚の光景であった。

「《シンクロコール》は墓地のモンスターでシンクロ召喚を行うことが出来る! ドリル・シンクロンとレスキュー・ウォリアーでチューニング!」

 通常罠《シンクロコール》。墓地のチューナーと非チューナー一体でシンクロ召喚を行うカードであり、当然ながら《儀式魔人リリーサー》の効果があっては発動出来なかった。だが、《ドドドウォリアー》が《竜姫神サフィラ》を破壊してくれた今、このカードを発動出来る。合計レベルは7――召喚するのはもちろん、黄色の装甲を纏った機械竜。

「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 半透明の《ドリル・シンクロン》と《レスキュー・ウォリアー》をシンクロ素材に、《パワー・ツール・ドラゴン》が俺のフィールドにシンクロ召喚される。鎧の中から龍の咆哮が溢れ出し、ダイレクトアタックを仕掛けようとした二体のガイアが攻撃を中断すると、聖女ジャンヌのフィールドへと戻っていく。今は攻撃力増減効果を使うことは出来ず、聖女ジャンヌには《パワー・ツール・ドラゴン》を突破する術はないようだ。

「パワー・ツール・ドラゴン…………私は、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー!」

 これで俺のフィールドには《パワー・ツール・ドラゴン》に、今まで発動するタイミングはないリバースカードが一枚。このターンのエンドフェイズ時まで、攻撃力3000の《竜姫神サフィラ》に二体のガイアこと《極夜の騎士ガイア》に《白夜の騎士ガイア》。サフィラの発動トリガーである永続罠《明と宵の逆転》に、リバースカードが二枚。……ただし、先のターンに《ドドドウォリアー》の攻撃を止めなかったため、攻撃を抑制する効果はないカードだろう。

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動! デッキから三枚の装備魔法のうち一枚を手札に加える! パワー・サーチ!」

 ならば、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を使用して、一斉に攻勢に出る……という訳にはいかない。まずはエースカードである《竜姫神サフィラ》を破壊したいところだが、今は《極夜の騎士ガイア》のパンプアップ効果があり、破壊することは難しい。ならば、まずは状況を整えるべきか、と三枚の装備魔法を選ぶ。

「……左のカードを」

「……選ばれたカード、《スピリット・バーナー》を《パワー・ツール・ドラゴン》に装備する!」

 聖女ジャンヌに選ばれた装備魔法《スピリット・バーナー》が《パワー・ツール・ドラゴン》に装備する。攻撃力をアップする類の装備魔法カードではないが、それでも二体のガイアより攻撃力は上。

「バトル! パワー・ツール・ドラゴンで、極夜の騎士ガイアに攻撃! クラフティ・ブレイク!」

 攻撃目標は闇属性の漆黒の騎士である、《極夜の騎士ガイア》。《パワー・ツール・ドラゴン》が右手のショベルを馬に跨がった騎士へと振りかざした。……だがそれは、半透明の戦士に防がれていた。

「墓地から《ネクロ・ガードナー》の効果を発動! このカードを除外し、《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃を無効にする!」

「墓地に送ってたか……」

 先のターンの《竜姫神サフィラ》の効果で墓地に送っていたのだろう、《ネクロ・ガードナー》が《パワー・ツール・ドラゴン》の攻撃を止める。――計算外の効果の発動だったが、むしろ好都合だとニヤリと笑うと、手札から一枚の速攻魔法を手札からデュエルディスクにセットする。

「速攻魔法《ダブル・アップ・チャンス》を発動! 攻撃が無効にされた時、攻撃力を倍にし、もう一度攻撃する! もう一撃だ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」

 《ネクロ・ガードナー》のおかげで、手札のこの魔法カードを発動することに成功する。《パワー・ツール・ドラゴン》は再び動き出し、《極夜の騎士ガイア》へと再攻撃を開始する――その攻撃力は4600。聖女ジャンヌのライフポイントは1800、《極夜の騎士ガイア》の攻撃力は1600と、この攻撃でライフポイントを0に出来る……!

「なら……伏せてあった《ガード・ブロック》を発動! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドロー!」

「くっ……」


 伏せてあった二枚のうち一枚は《ガード・ブロック》。戦闘ダメージを0にし、一枚のカードをドローする罠カード。圧倒的な攻撃力となった《パワー・ツール・ドラゴン》は、あっさりと《極夜の騎士ガイア》を破壊したものの、聖女ジャンヌへのダメージは現れたカードの束が防いだ。《極夜の騎士ガイア》を破壊する、という目的は果たせたが……

「俺は《スピリット・バーナー》の効果を発動。装備モンスターを守備表示に出来る……」

 《スピリット・バーナー》第一の効果により、守備表示となった《パワー・ツール・ドラゴン》の守備力は2500。《竜姫神サフィラ》の攻撃力では突破出来ず、《白夜の騎士ガイア》の効果では攻撃力を下げることしか出来ない。《極夜の騎士ガイア》を破壊したのはこの為で、攻撃力を上げる効果が無ければ《パワー・ツール・ドラゴン》は突破出来ない。

「……俺はターンエンド!」

「私のターン、ドロー! ……私は《明と宵の逆転》の効果を発動!」

 早速発動される《明と宵の逆転》。しかし、《極夜の騎士ガイア》はもうデッキにはなく、手札には加えられない筈だと今までのデュエルを思い起こす。……そして、確かに手札に加えたカードは《極夜の騎士ガイア》のようには見えなかったが、それよりも遥かに、禍々しい様子のカード……!

「……このターンで終わらせてあげるわ! まずは魔法カード《スターレベル・シャッフル》を発動! 《白夜の騎士ガイア》を墓地に送ることで、墓地の《極夜の騎士ガイア》を特殊召喚!」

 フィールドのモンスターを墓地に送ることで、墓地の同レベルのモンスターを特殊召喚する魔法カード《スターレベル・シャッフル》により、《白夜の騎士ガイア》と《極夜の騎士ガイア》が文字通り入れ替わる。攻撃力をアップさせる効果を持つ、《極夜の騎士ガイア》の召喚は確かに痛いが、『このターンで終わらせる』と豪語している相手が、これだけで終わる筈がない。

 ならば、やはり警戒すべきは、先程手札に加えられたあのモンスターカード……!

「私の墓地に光属性と闇属性のモンスターが同数いる時、どちらかの属性のモンスターを全て除外することで、このモンスターは特殊召喚出来る。私は墓地の闇属性モンスターを全て除外!」

 他に類を見ない、特殊な条件を持ったモンスター。強いて言えばカオスモンスターに近いか――聖女ジャンヌの墓地から闇のエネルギーが溢れ出し、時空の穴へと吸い込まれていく。妨害する手段を持たない俺には、その様子を黙って見ているしかない。

「現れなさい! 《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》!」

 墓地の闇属性のモンスター達のエネルギーを生け贄とし、時空の穴を一閃して現れたのは、かの高名な元祖最強戦士カオス・ソルジャー。デュエルキングが使用した『開闢の使者』とはまた違う、新たな『宵闇の使者』だった。闇属性モンスターを除外したからか、その鎧は頭から爪先に致るまで漆黒に染まっており、兜から覗く目に理性は感じられない。正しく狂戦士、という感想を俺に抱かせた。

「《極夜の騎士ガイア》の効果。墓地の光属性モンスターを除外し、サフィラの攻撃力を500ポイントアップさせ、バトル!」

 《極夜の騎士ガイア》の効果により、《竜姫神サフィラ》の攻撃力を上げたところで、聖女ジャンヌのフィールドの三体のモンスターの一斉攻撃の準備が整う。頼む《パワー・ツール・ドラゴン》、耐えてくれ……!

「まずは《竜姫神サフィラ》で《パワー・ツール・ドラゴン》で攻撃! サファイアボルト!」

「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動! 装備された装備魔法を墓地に送ることで、このカードの破壊を無効にする! イクイップ・アーマード! …………ぐうっ!?」

 《パワー・ツール・ドラゴン》は自身に装備された装備魔法を除外し、一時的だが破壊耐性を得ることが出来る。装備された《スピリット・バーナー》を墓地に送っていると、《竜姫神サフィラ》の雷光が俺の元にまで届き、ライフポイントを着実に削り取った。

遊矢LP1700→1200

「く、ダメージ……!?」

「私は伏せカード《メテオ・レイン》を発動していたわ。このターン、私のモンスター達は貫通効果を得る」

 発動したターンに、自分のフィールドのモンスターに貫通効果を付与する罠カード《メテオ・レイン》。二枚のリバースカードのうち残された一枚はそのカードであり、《竜姫神サフィラ》の攻撃が貫通して俺のライフポイントを削ったのだ。そして、全てのモンスターに適応するカードであるため、まだ貫通効果は残っている……!

「まだよ! 《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》で《パワー・ツール・ドラゴン》に攻撃! 宵闇漆黒斬!」

「ぐあっ……!」

遊矢LP1200→700

 もはや《パワー・ツール・ドラゴン》を守る装備魔法はなく、《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》に一太刀の下に斬り伏せられて大地に落ちた。その衝撃が斬撃の形となって俺を襲い、さらにダメージを受けてたまらず膝をつく。

「これでトドメよ! 《極夜の騎士ガイア》でダイレクトアタック!」

 罠カード《メテオ・レイン》の貫通効果によって、《極夜の騎士ガイア》の攻撃力でも削りきれるほどに、俺のライフポイントは消耗していた。疲れと痛みから膝をついた俺に、追撃とばかりに純白の馬が駆けてくる。漆黒の騎士が剣を振り上げたが、その進路上に大量のカードが壁となって現れ、《極夜の騎士ガイア》の攻撃を阻む。

「……こちらも、伏せてあった《ガード・ブロック》の効果を発動! ダメージを0にし、カードを一枚ドロー!」

 聖女ジャンヌと同じくずっと伏せてあった《ガード・ブロック》が日の目を見るとともに、俺のピンチを首の皮一枚でつなぎ止める。《極夜の騎士ガイア》の攻撃を止めたカードが一枚、俺の手札に加わり、聖女ジャンヌのバトルフェイズは終了したようだ。

「……よく耐えたわね。だけどここまでよ。私はカードを一枚伏せ、エンドフェイズ時に《竜姫神サフィラ》の効果を発動!」

 このターン、《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》の手札を加える為に、《明と宵の逆転》の効果により光属性モンスターを墓地に送っていた。よって《竜姫神サフィラ》の効果が発動し――もちろん選択されたのは第二の効果であるハンデス効果であり、《ガード・ブロック》でドローした手札が使うことなく捨てられてしまう。

 ……この効果により、俺のフィールドは手札も伏せカードもない状態に戻る。まだデュエルは序盤故にフィールドを整えられたが、もうデュエルは終盤で戦術も使い切った。加えて聖女ジャンヌのフィールドには、切り札であろう《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》が控えている……

「サレンダーしなさい。そうすれば、命だけは助けてあげられる」

 絶望的な状況から聖女ジャンヌの声がかかる。死を目前にした時の凛とした彼女の声は、まさしく『聖女』のようで……俺は自然と、片手がデュエルディスクに収められたデッキの上に伸びていく。もう、これしかない……と。

「俺のターン…………!」

 デッキに手を伸ばす。俺にはもう、このデッキトップを引くしかないのだから。

「あなた……良いわ、そんなに死にたいならドローしなさい」

「ああ……俺は、明日香を助けなきゃいけないんだ……ドロー!」

 我ながら会話になっていないな、と苦笑する。それでも俺は明日香を助ける為に、カードをドローする他ない。……たとえ敵が元は明日香だったとしても、明日香を助ける為には敵を倒すしか――はて。自分は何を考えているのだろうか。思考が支離滅裂にも程がある……だが、明日香を助ける為に引いたカードをデュエルディスクに発動する。

「俺は通常魔法《狂った召喚歯車》を発動! 墓地にいる攻撃力1500以下のモンスターを特殊召喚し、さらにデッキから同名モンスターを特殊召喚する! 現れろ、《チューニング・サポーター》!」

 ドローしたカードは《地獄の暴走召喚》の相互互換、《狂った召喚歯車》。あちらと同じように、聖女ジャンヌにはフィールドのモンスターと同じ種族とレベルのモンスターを特殊召喚する権利が与えられ、デッキから《極夜の騎士ガイア》と同じ種族とレベルの《ダーク・グレファー》が二体、念のためか守備表示で特殊召喚される。

 遂に五体のモンスターで埋まる聖女ジャンヌのフィールドに対し、俺のフィールドには三体の《チューニング・サポーター》が特殊召喚される。三体合わせても攻撃力が1000にも満たない弱小モンスターだが、この状況ではこのモンスターが最も相応しい。

「手札が0枚で、そんなモンスターを出してどうする気かしら?」

「……これで良いんだ。墓地のこのモンスターは、機械族モンスターが二体以上同時に召喚された時、墓地から特殊召喚出来る! 来い、チューナーモンスター《ブンボーグ001》!」

 まさかの墓地からのモンスターの特殊召喚に、聖女ジャンヌの顔が驚愕に包まれる。《チューニング・サポーター》は機械族であり、《狂った召喚歯車》の効果は対象モンスターの同時召喚。さらに《ブンボーグ001》はチューナーモンスターであり……これでシンクロ召喚の準備が整った。

「そんなっ……!」

「自身の効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》二体と、レベル1のままの《チューニング・サポーター》に、レベル1の《ブンボーグ001》をチューニング!」

 そして《チューニング・サポーター》は、その名の通りシンクロ召喚のサポートに特化したモンスター。その効果を十全に活かして自身のレベルを自在に操り、合計レベルは計画通りの六。《チューニング・サポーター》たちを包んでいた光の輪が収束していき、俺のフィールドに新たな機械戦士が降り立つ。

「集いし事象から、重力の闘士が推参する。光差す道となれ! シンクロ召喚! 《グラヴィティ・ウォリアー》!」

 シンクロ召喚されるのは獣の意匠をかたどった、重力の機械戦士《グラヴィティ・ウォリアー》。フィールドに君臨するなり遠吠えを轟かせ、敵のモンスター達を睥睨していく。

「グラヴィティ・ウォリアーがシンクロ召喚に成功した時、相手モンスターの数×300ポイント攻撃力がアップする! パワー・グラヴィテーション!」

 そして《グラヴィティ・ウォリアー》は、敵の数が多ければ多い程にその攻撃力を増す。聖女ジャンヌのフィールドのモンスターは、《狂った召喚歯車》の影響もあり五体。大量の敵に際し《グラヴィティ・ウォリアー》の闘争心が刺激され、彼の武器である機械化された爪が鋭く研ぎ澄まされていき――

 ――《グラヴィティ・ウォリアー》は俺のフィールドから姿を消した。

「リバースカード、オープン。《煉獄の落とし穴》」

 攻撃力2000以上の大物を対象とする《煉獄の落とし穴》。静かに発動されたそのカードに対し、《グラヴィティ・ウォリアー》はなすすべもなく破壊された。《ブンボーグ001》からの最後の望みをかけたシンクロ召喚だろうと、神から与えられる天罰には勝てないというのか……

「……だが、《チューニング・サポーター》の効果は発動している!」

 ……だが、俺には《グラヴィティ・ウォリアー》が繋げてくれた『希望』が残っている。《チューニング・サポーター》がシンクロ素材になった時、カードをドローする効果は《煉獄の落とし穴》では無効にならない。何故なら、《煉獄の落とし穴》が無効化するのはチェーンした《グラヴィティ・ウォリアー》の召喚のみであり、《チューニング・サポーター》の効果処理は問題なく行われるからだ。

 ……要するに、《グラヴィティ・ウォリアー》がまだチャンスを残してくれた、ということに他ならない。

「《チューニング・サポーター》の効果により、俺はカードを三枚ドロー!」

 そしてドローした三枚のカードは――

「俺は魔法カード、《発掘作業》を発動! 手札を一枚墓地に送り、カードを一枚ドロー!」

 まずは更なるドローに繋げていく。いや、魔法カード《発掘作業》は確かにドロー効果もあるが、主に活用する効果はやはり墓地に送る効果である。そして、もちろんこの局面で現れるモンスターは――

「墓地に送ったカードは《リミッター・ブレイク》――俺はデッキから《スピード・ウォリアー》を特殊召喚!」

『トアアアアッ!』

 ――やはり、このモンスターに他ならない。マイフェイバリットモンスターが旋風とともにフィールドに現れ、《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》へと目標を定めて立ち向かう。

「たかが攻撃力900のモンスターで、宵闇の使者に……? ……でも、あのモンスターは……」

「さらに通常魔法《アームズ・ホール》! このターンの通常召喚を封じることで、装備魔法《サイクロン・ウィング》を手札に加える!」

 このターン、俺はまだ通常召喚をしていない。よって装備魔法をサーチする魔法カード、《アームズ・ホール》を発動出来る。どうせもうモンスターは手札におらず、二枚の魔法カードをデュエルディスクにセットする……これで手札は0。このターンで決める他ない。

「さらに装備魔法《サイクロン・ウィング》を《スピード・ウォリアー》に、装備魔法《樹海の爆弾》を《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》に装備!」

 《スピード・ウォリアー》には疾風を巻き起こす機械の翼が、《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》の胸部には漆黒の球体が装備される。《樹海の爆弾》と称されたその球体は、森の枝で雁字搦めにされていて、枝が宵闇の使者に食い込んでいくと、エネルギーを吸収しているかのように肥大化していく。

「バトル! 《スピード・ウォリアー》で《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》に攻撃!」

「攻撃……!?」

 二体の攻撃力の差は言うまでもない。それでも、《スピード・ウォリアー》の攻撃に反応し、背中に装備された《サイクロン・ウィング》が風を巻き起こす。《サイクロン・ウィング》は装備モンスターが攻撃する時、フィールドの魔法・罠カードを破壊するという、生きた《サイクロン》とも言うべき効果を持つ。破壊するのは、相手のキーカード《明と宵の逆転》――ではなく、俺のフィールドの装備魔法《樹海の爆弾》。

「《樹海の爆弾》が破壊された時、装備されているモンスターを破壊し、相手にそのモンスターの攻撃力分のダメージを与える!」

「…………」

 装備魔法《樹海の爆弾》の効果は今宣言した通り。《樹海の爆弾》を破壊することで、装備された《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》を破壊するとともに、その攻撃力分のダメージを与える。《ニトロユニット》の相互互換とも言える効果である。……破壊するのはモンスターではなく、装備魔法の方であるという違いはあるが。そして、攻撃する時に相手モンスターを破壊する装備魔法《サイクロン・ウィング》を絡める事により、その効果で《樹海の爆弾》を破壊する……《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》の攻撃力は3000。

 よって、聖女ジャンヌに与えられるダメージは3000。

「これで終わりだ……サイクロン・ソニック・エッジ!」

 《スピード・ウォリアー》が俺の号令を合図にし、《サイクロン・ウィング》の旋風を付加した回し蹴りを《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》の胸部にある《樹海の爆弾》へと叩き込む。すると、衝撃が漆黒の球体へと伝播していき、ビリビリとヒビが入っていく。

 爆発する前に《スピード・ウォリアー》は《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》から離れると、最後に《サイクロン・ウィング》からの旋風をカマイタチとなって発射し、《樹海の爆弾》を爆発させる。《カオス・ソルジャー -宵闇の使者-》のエネルギーを取り込んだ爆弾は、聖女ジャンヌのフィールドを全て飲み込む程の爆風を発生させ、《竜姫神サフィラ》たちも巻き込んでいく。聖女ジャンヌのライフポイントは1800と、あの爆風に耐えられる数値ではない。

 聖女ジャンヌは抵抗する様子もなく飲み込まれていき、俺はその様子を見てこのデュエルの勝利を確信する。それと同時に、《樹海の爆弾》に巻き込まれないように、距離を取ると――

「……遊矢……」

 ――最期に、爆風に紛れてそんな声が聞こえて。



明日香LP1800→0

 
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