遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―激戦―
反乱軍の基地においてカンテラから襲撃を受けた俺は、騒ぎを聞いて駆けつけた他のヒロイックに即座に拘束された。仲間であるカンテラを殺した、裏切り者として。先に襲って来たのはアイツだと説明しようにも、仲間として戦って来たカンテラの死と、異世界から来た誰とも知れない男の言葉では、どちらを信用するかは火を見るより明らかだ。現場に居合わせていたリリィが庇ってくれていなければ、俺はその場で殺されていてもおかしくはなかっただろう。
結果として、俺は反乱軍からの信用を一瞬にして失った。……元々無いようなものだが、もう彼らに信用されることはないと確信を持って言える。俺が逆の立場ならばそうするだろうから。
そんなことを考えながらも、俺は調整が終わった【機械戦士】デッキをデュエルディスクへと差し込んだ。用意された砂埃まみれのデッキ倉庫に埋もれていた、十代とのデュエルでバラバラになった筈の俺の【機械戦士】デッキ。どのようにしてかは分からないが、世界を超えて再び俺の手へと戻って来た。
デュエリストがカードを選ぶのではなく、カードがデュエリストを選ぶのだ――とは良く聞く話ではあるが、【機械戦士】たちが俺を追いかけて来てくれたのだろうか。そういうことであれば……今この状況ならば助かる。明日香を助ける為の大きな力になるだろうから。
だが、その明日香の行方を知ることはまだ出来ていない。カンテラが使っていたのは間違いなく――少し手を加えられてはいるが――明日香の【サイバー・ガール】デッキだった。奴が消滅する際に、他のデュエリストとは違ってデッキは消滅しなかったため、【サイバー・ガール】デッキは俺の手の中にあるが……それは裏を返せば、明日香が自身のデッキを持っていないことに他ならない。
あまり考えたくない事態を無理やり頭から追い出すと、明日香のデッキを使っていないデッキホルダーに入れながら、砂埃まみれの部屋のドアを開ける。そのまま地下特有の暗い廊下を歩いて行くと、ドーム場に開けた空間へとたどり着く。そこにはリリィが乗っていた《漆黒の闘竜》を始めとした、様々な飛行出来るモンスターが鎖に繋がれていた。
ドラゴンたちの格納庫と言えば分かりやすいだろうか……俺とリリィをこの反乱軍の基地まで連れてきてくれた、二人で乗った《漆黒の闘竜》へと近づいていくと、その背中へと飛び乗った。
……別に出て行こうという訳ではない。周りを見れば、自分以外の竜にも戦士たちが乗り込んで、それぞれ思い思いの行動をしている。……しかしその竜に乗っている戦士たちの中には、自分の方へと目を向けてくれる者と《ヒロイック》の戦士たちは存在しなかった。今この場にいるのは反乱軍の主戦力である《ヒロイック》の戦士たちではなく、自分のようにイレギュラーな存在だったり、命からがらこの場に逃げてきた者だったり、この異世界の原住民だったりと、《ヒロイック》の戦士たちではない者たちで構成されている。
《ヒロイック》の戦士たちが建てた作戦はこうだ。自分たちのようなイレギュラー隊が囮となって闇魔界の軍勢と戦っている間に、ヒロイックの本隊が囚われのデュエリストを救出する。そして救出したデュエリストとともに、そのまま闇魔界の『覇王』の元に攻め込んでいく。
……要するに捨て駒だった、自分たちは。
「戦士の諸君! 今こそ出陣の時だ!」
ヒロイックのリーダーであるスパルタスの声とともに、戦士たちの雄叫びが格納庫を支配した。……ヒロイックの戦士たちだけではなく、自分たち捨て駒部隊も例外ではなく。隣の竜に跨がっていながら雄叫びをあげる、傷だらけの《切り込み隊長》を冷めた目で一瞥しながら、自分は自分だけで決意を固めた。
必ず生き残ると。明日香を見つければ……彼らを見捨てて逃げることも辞さない、と。
「あ、の……」
……そんな仄暗い決意を固めている俺の《漆黒の闘竜》に、もう一人の人物が乗って来た。……彼女にも最後までお世話になったものだ。
「リリィ、お前はこっちの部隊じゃないだろ?」
元々ヒロイックの戦士たちの仲間だったらしい彼女が、こんな捨て駒部隊に配属される訳もなく、彼女の役割はヒロイックの戦士たちとともに、囚われのデュエリストを救出すること。ここの自分の立場をわきまえた突き放した口調で話しかけるが、リリィが《漆黒の闘竜》から降りようとはしなかった。
「……降りろ。降りてくれ」
彼女の方に顔を向けずにもう一度改めて言うと、視線を向けていない俺の背後でもぞもぞと動く音がした。ようやく降りてくれたか――と思った矢先に、片手が温かい感覚に包まれた。
「わたしが絶対に、あなたの大事な人を助けます……ので、死なないで、ください」
耳元でそう呟かれるとともに、片手を包み込んでいた温かい感覚が消えていく。そのままリリィは俺たちが乗っている《漆黒の闘竜》から飛び降りると、足早に自分の持ち場へと駆け出して行った。救出部隊は竜に乗るのではなく、目立たないように陸路を行くのだったか。
「――出撃!」
感傷に浸る間もなくスパルタスの怒声が響き渡り、地上への道筋のように天井が開くとともに、地上の光とともに格納庫にいる竜たちが一斉に飛び上がる。自分も他の戦士たちに習ってリリィから借りた《漆黒の闘竜》を発進させると、異世界の大空へと飛び上がっていった。《闇魔界の龍騎士 ダークソード》と戦った蒼穹を逆走していくと、しばらく経たないうちに闇魔界の軍勢が居城としている、この異世界の中心が見えてくる。
そのまま《漆黒の闘竜》を降下させようとすると、一斉に城壁から対空放火――いや、《対空放花》が火を噴いた。迫り来る植物の弾丸を《漆黒の闘竜》を再び浮上させることで避けたものの、その《対空放花》が止んだ隙に《闇魔界の龍騎士 ダークソード》たちが続々と発進して来る。ざっと見ただけでもその数はこちらの捨て駒部隊を大きく上回っており、その龍騎士部隊を正面で率いるのは――
「戦士長……」
――俺がリリィのデッキで対戦して危うく死にかけた、ペンデュラム召喚を取り入れた【マシンガジェ】を使用していた、闇魔界の戦士長である。あの時は無様に敗北することが確定してしまっていたが、今は俺の手の中には【機械戦士】がある。
「俺が指揮官とやる!」
そう一緒に飛んできた者たちに告げて、返答も効かずに《漆黒の闘竜》を戦士長に向けて飛翔させると……不思議と、全く妨害を受けることはなく、戦士長の竜へと肉迫することに成功する。デュエルディスクを構えて戦士長の方を仰ぎ見ると、奴もその乗機――《デス・デーモン・ドラゴン》に乗りながら、既にデュエルディスクを展開していた。
奴も誘っているのだ……今度こそ、最期まで決着をつけようと。故に周りにいる龍騎士部隊には邪魔されずに、戦士長の元まで来ることが出来たのだろう。俺もその戦士長の覚悟に応えるべく、リリィから借りたデュエルディスクを展開させると、デュエルの準備が完了する。
『デュエル!』
遊矢LP4000
戦士長LP4000
――そしてどちらも一言も交わさぬままに、二度目となるデュエルが開始される。今度こそ逃げられるなんてことはなく、どちらかが確実に消滅する――そんなデュエルを、だ。
「俺の先攻!」
デュエルディスクが先攻として選んだのは俺の方だった。風を切って進んでいく《漆黒の闘竜》から落ちないようにすると、手札に五枚のカードを揃えて確認する。
「俺は《ガントレット・ウォリアー》を守備表示で召喚し、カードを二枚伏せてターンを終了!」
「フッ……私のターン、ドロー!」
腕甲の機械戦士が二枚のリバースカードとともに俺の守備の布陣を固め、戦士長のターンへと移行していく。戦士長のデッキは、ペンデュラム召喚を採用した【マシンガジェ】――その大量展開の前に、先日は大敗を喫することとなった。
だが今回は違う。今の俺の手の中には【機械戦士】たちがいる……!
「そうだな……まずは二枚のカードを、ペンデュラムスケールにセッティングしよう」
二枚のペンデュラムカード――先のデュエルの時と同じように、まずは二体のペンデュラムの魔術師のお目見えかと、俺は気を引き締めて戦士長が構成していく二筋の光を見た。
「魔術師じゃない……!?」
その赤と青のペンデュラムスケールをセッティングしているペンデュラムモンスターは、闇魔界の軍勢が使用している二体の魔術師ではなかった。この世界にない機械のような、まるで俺たちの世界にある機械のような黄金のモンスターが、その場に浮かんでいた。
「私がセッティングしたのは、《クリフォート・ツール》と《クリフォート・アーカイブ》。さて、ペンデュラム召喚をさせてもらおうか!」
そして赤と青のペンデュラムスケールがそびえ立つ天空に、モンスターを呼び出す魔法陣が現れると、戦士長の号令の下でその魔法陣から新たなモンスターが現れる。その魔法陣から現れるのはガジェット族――ではなく、《クリフォート》と呼ばれる、新たな金色の機械だった。
「現れろ、《クリフォート・ゲノム》! ……ククク」
手札からペンデュラム召喚された《クリフォート・ゲノム》を満足そうに見ると、戦士長は小さく、だが満足げに笑いだした。そしてこちらに視線を向けるとともに、そのように宣言を発した。
「私の新たなデッキ、【クリフォート】の力……君で試させてもらおう!」
「くっ……!」
その戦士長の言葉から察するに、彼は【マシンガジェ】から新たなデッキ、【クリフォート】へと乗り換えたそうだが、そのデッキの実力とは如何なものか。今し方ペンデュラム召喚された、《クリフォート・ゲノム》というモンスターは、上級モンスターのようではあるものの、その攻撃力は1800程度のようだが……?
「まずは《クリフォート・ツール》のペンデュラム効果を発動。800のライフを払うことで、デッキからクリフォートと名の付くカードを手札に加える。私が手札に加えるのは、《クリフォート・シェル》」
戦士長LP4000→3200
ペンデュラムスケールに置かれている《クリフォート・ツール》のペンデュラム効果により、戦士長のライフを犠牲に新たなクリフォートが手札に加えられる。まずはクリフォートというのがどのようなデッキなのか、このターンで見定めねばならない。
「そして《クリフォート・ゲノム》に装備魔法、《機殻の生贄》を装備。このカードを装備したモンスターは、クリフォート専用のダブルコストモンスターとなる。《クリフォート・ゲノム》をリリースすることで、《クリフォート・シェル》をアドバンス召喚!」
先程デッキからサーチしたモンスターと同じモンスターだろうが、《クリフォート・ゲノム》をリリースすることで、新たに《クリフォート・シェル》という巻き貝のようなモンスターがアドバンス召喚される。最上級モンスターをリリースするならば、何故最初からペンデュラム召喚をして召喚しないのか……という疑問を俺が抱いている暇もなく、そのアドバンス召喚にて早くも盤面は動き出していた。
「《機殻の生贄》がフィールドを離れた時、デッキからクリフォートを手札に加えられる。私は二枚目の《クリフォート・ツール》を選択。さらにリリースされた《クリフォート・ゲノム》の効果! このカードがリリースされた時、相手のリバースカードを一枚破壊する!」
「このタイミングで効果の発動か……」
リリース素材として墓地に送られていた筈の《クリフォート・ゲノム》から電撃が放たれると、俺の伏せていたリバースカード《くず鉄のかかし》が破壊される。まだ俺のフィールドには《ガントレット・ウォリアー》がいるが、新たな《クリフォート・シェル》はどのような効果を持っているか……
「そしてクリフォートをリリースしてアドバンス召喚された《クリフォート・シェル》は、二回攻撃と貫通効果を得る!」
「なにっ!?」
《ガントレット・ウォリアー》の守備力は1600、《クリフォート・シェル》の攻撃力は2800――《くず鉄のかかし》の破壊によってその攻撃を防ぐことは出来ず、その二回攻撃を食らえば丁度4000のライフポイントを失うこととなる――
「さらに《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果! クリフォートの攻撃力を300ポイントアップ!」
――いや、それ以上のダメージを受けることになるらしい。だがこれで、【クリフォート】というデッキがどのようなデッキなのか、という疑問がはっきりした。《クリフォート・ツール》といったサーチ効果でクリフォートたちを揃え、ペンデュラム召喚によって、リリースされた際に効果を発揮するクリフォートモンスターを特殊召喚し、クリフォートモンスターをリリースすることによって効果を得る、最上級クリフォートモンスターによってトドメを刺す。
……動きは単純だが、その単純だからこそ強いクリフォートたちの力は、早くも俺のライフポイントを0にせんと追い詰めていた。
「ワンターンで終わらせてもらおう! 私は《クリフォート・シェル》で《ガントレット・ウォリアー》に攻撃!」
《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果を得ることによって、その攻撃力は3100。さらに、自らの効果によって二回攻撃と貫通効果を得ていて、リリースした《クリフォート・ゲノム》の効果でこちらの攻撃を防ぐリバースカード《くず鉄のかかし》を破壊している。
「……だからって負けられないんだよ! 俺は手札から《牙城のガーディアン》の効果を発動!」
《クリフォート・シェル》からの攻撃を受けようとしている《ガントレット・ウォリアー》の前に、新たな機械戦士が手札からその場にそびえ立った。その《牙城のガーディアン》の効果によって、《ガントレット・ウォリアー》の守備力は1500ポイントアップする。
「弾き返せ、《ガントレット・ウォリアー》!」
《ガントレット・ウォリアー》の守備力と《クリフォート・シェル》の攻撃力は互角――《牙城のガーディアン》の支援を受け、《ガントレット・ウォリアー》は《クリフォート・シェル》の一撃を跳ね返した。
……いくら相手が強かろうと、【機械戦士】たちは一歩も引かないのだと証明するように。
「ククク……良いぞ、それでこそだ! 私は永続魔法《補給部隊》を発動し、ターンを終了する!」
「俺のターン、ドロー!」
戦士長のデッキが【マシンガジェ】から変わっているのは予想外だったが、【クリフォート】がどんなデッキなのかは嫌になるほど見せつけられた。……そして、俺が何をするかは変わらない。
「俺は速攻魔法《手札断殺》を発動し、お互いに手札を二枚捨てて二枚ドローする!」
所謂いつもの手札交換カードをまずは発動するが、《リミッター・ブレイク》のようなカードは今は俺の手札にない。……代わりと言っては何だけれど、その《手札断殺》に反応し、俺のフィールドに伏せられていた罠カードが開いたが。
「お前がドローフェイズ以外でカードをドローしたため、伏せられていた《便乗》を発動する!」
「……《便乗》だと?」
戦士長が怪訝な視線を俺が発動した罠カードへと向ける。もちろん、普段から【機械戦士】デッキに投入している訳ではなく、この戦士長を相手だと見越して投入したものだった。メタを張ったにもかかわらずデッキが変わっていて焦ったものだが、その《補給部隊》の存在から、まだ使えなくはないようで安心した。
「《ガントレット・ウォリアー》をリリースすることで、《サルベージ・ウォリアー》をアドバンス召喚! サルベージ・ウォリアーがアドバンス召喚に成功したため、墓地から《ニトロ・シンクロン》を特殊召喚する!」
《ガントレット・ウォリアー》をリリースすることによって現れた《サルベージ・ウォリアー》が、その効果によって《手札断殺》の効果で墓地に送っていた《ニトロ・シンクロン》を蘇らせる。チューナーと非チューナーが揃ったところで、やるべきことは一つしかない。
「俺はレベル5、《サルベージ・ウォリアー》に、レベル2、《ニトロ・シンクロン》をチューニング!」
墓地から《サルベージ・ウォリアー》の網で救出された《ニトロ・シンクロン》の、その頭についたメーターを振り切っていき、緑色に光る星の輪となってサルベージ・ウォリアーを包み込んだ。狙うはクリフォートモンスターのパワーについて行ける、最も高火力な機械戦士……!
「集いし思いがここに新たな力となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 燃え上がれ、《ニトロ・ウォリアー》!」
シンクロ召喚の光とともに、悪魔のような形相をした機械戦士がそのフィールドに炎を発しながらシンクロ召喚をされる。その視線は《クリフォート・シェル》を射抜いており、自らが倒すべき敵だと確認しているかのようだった。
「《ニトロ・シンクロン》を素材としたため一枚ドロー! さらに《ニトロ・ウォリアー》に、《ファイティング・スピリッツ》を装備!」
俺が発動したカードから《ニトロ・ウォリアー》へと力が送り込まれていき、その攻撃力を3100へと上昇させる。大量展開を主とする【クリフォート】相手ならば、この《ファイティング・スピリッツ》の効果が有用な筈だと考えると、俺は《ニトロ・ウォリアー》へと攻撃を命じた。
「ニトロ・ウォリアーは魔法カードを使ったターン、攻撃力が1000ポイントアップする! バトルだ!」
《ファイティング・スピリッツ》を装備したことによって、《ニトロ・ウォリアー》の攻撃力を1000ポイントアップする効果の発動条件を満たし、その攻撃力は4100。《クリフォート・アーカイブ》の効果で攻撃力が上昇している《クリフォート・シェル》の攻撃力を上回る。
「ニトロ・ウォリアーでクリフォート・シェルに攻撃! ダイナマイト・ナックル!」
「ぬっ……!」
戦士長LP3200→2200
ニトロ・ウォリアーが《クリフォート・ツール》を捉え、その部分に渾身の右ストレートを叩き込むことにより、《クリフォート・シェル》の破壊に成功する。そのまま戦士長の乗っていたドラゴンにもその衝撃が伝播していき、その竜の身体が大きく揺れた。
「ペンデュラムモンスターは破壊された時、墓地ではなく、エクストラデッキに送られることとなる」
そのペンデュラムモンスターの特性は、先の竜騎士との戦いにおいて既に分かっている。いくらクリフォートモンスターを破壊しようとも、恐らくはただ、最上級クリフォートモンスターのリリース素材となるだけだ。
「だがこちらの永続魔法《補給部隊》の効果は問題なく発動する。戦闘で破壊されたことにより、カードを一枚ドロー!」
以前のデッキである【マシンガジェ】の際にもデッキに投入されていた、一ターンに一度という制約はあるものの、戦士長のモンスターが破壊される度に一枚カードをドローする永続魔法《補給部隊》。……その永続魔法に反応し、こちらの永続罠も起動する。
「お前がカードをドローした時、こちらの永続罠《便乗》の効果が発動する! お前がドローフェイズ以外でカードをドローした時、こちらもカードを二枚ドローする!」
「ほう……?」
永続罠《便乗》の効果は知らなかったのか、戦士長が面白そうに《便乗》のカードを見つめていた。戦士長が使用していた《補給部隊》を始めとした、カードをドローするカードのメタだが、今のところは問題なく作用している。
「カードを二枚伏せ、ターンエンド」
「私のターン、ドロー!」
破壊された《クリフォート・シェル》をエクストラデッキに送った後に、ターンが移った戦士長はデッキからカードをドローする。このまま《ニトロ・ウォリアー》のパワーで押していければ良いが、戦士長のペンデュラムゾーンに万能にサーチ出来る《クリフォート・ツール》がある限り、そう簡単に行くことはないだろう。
「私は800のライフを払い、《クリフォート・ツール》の効果によって《クリフォート・ディスク》を手札に加える」
戦士長LP2200→1400
そのライフポイントが半分を切るにもかかわらず、戦士長は恐れずに《クリフォート・ツール》の効果を使用し、再び新たなクリフォートモンスターを手札に加える。そして、ペンデュラムゾーンにセットされた二対のクリフォートが光り輝くと、天空にペンデュラム召喚の魔法陣が現れた。
「ペンデュラム召喚! エクストラデッキから現れよ、我がクリフォートたちよ!」
魔法陣から光となってフィールドに降り立ったのは、《ニトロ・ウォリアー》に破壊された《クリフォート・シェル》と、そのリリース素材となった《クリフォート・ゲノム》。……破壊されずにリリースされてもエクストラデッキに行くのは、少し計算外だったが。
「そして二体をリリースし、《クリフォート・ディスク》をアドバンス召喚!」
そしてすぐさまアドバンス召喚されたのが、先程手札にサーチされた《クリフォート・ディスク》。その名に違わず緑色の円盤のような形をしていて、あたかもUFOのようだった。しかし、俺がそれ以上の情報を調べようとする前に、まずはリリースされた《クリフォート・ゲノム》の効果が発動した。
「クリフォート・ゲノムがリリースされた時、相手の魔法・罠カードを破壊する! その《ファイティング・スピリッツ》を破壊してもらおう!」
《クリフォート・ゲノム》の効果の狙いは、《ニトロ・ウォリアー》に装備されていた装備魔法《ファイティング・スピリッツ》。そして改めて見る《クリフォート・ディスク》の攻撃力は2800――《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果も併せ、その数値は先の《クリフォート・シェル》と同じく3100。
「さらに《クリフォート・ディスク》の効果を発動! このカードがアドバンス召喚された時、デッキからさらに二体、クリフォートモンスターを特殊召喚する! 現れよ、《クリフォート・アーカイブ》! 《クリフォート・ゲノム》!」
「さらに二体のモンスターを特殊召喚だと……!」
《クリフォート・シェル》のように、アドバンス召喚された際に何らかの効果は持っているとは思っていたが、さらに二体現れたクリフォートモンスターに言葉を失うしかなかった。召喚された《クリフォート・アーカイブ》と《クリフォート・ゲノム》とともに、俺と《ニトロ・ウォリアー》を取り囲んでいた。
「まあ安心するんだな……《クリフォート・ディスク》の効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊され、アドバンス召喚していないクリフォートモンスターの攻撃力は1800に固定される。バトルだ!」
戦士長が笑いながらそう言い放っているが、もちろん安心など出来るはずもない。《クリフォート・ディスク》で特殊召喚された《クリフォート・アーカイブ》と《クリフォート・ゲノム》はエンドフェイズ時に破壊されたとしても、ただエクストラデッキに置かれて次なるペンデュラムモンスターを待つだけであり、さらに《補給部隊》によって一枚のドローに変換される。
そもそもエンドフェイズ時のことを考えるより先に、まずはこのターンの三体のクリフォートモンスターの攻撃を防ぎきらなくてはならない……!
「《クリフォート・ディスク》よ、《ニトロ・ウォリアー》を破壊せよ!」
《ファイティング・スピリッツ》を破壊された《ニトロ・ウォリアー》と、《クリフォート・アーカイブ》の効果によって攻撃力の上がった《クリフォート・ディスク》のぶつかり合いは、当然《クリフォート・ディスク》が制することとなる。《クリフォート・ディスク》の体当たりに《ニトロ・ウォリアー》は破壊され、俺のフィールドはがら空きとなった。
遊矢LP4000→3700
「ゆけ、《クリフォート・アーカイブ》! ダイレクトアタックだ!」
「リバースカード、オープン! 《トゥルース・リインフォース》! デッキからレベル2以下の戦士族モンスターを特殊召喚する! 来い、《マッシブ・ウォリアー》!」
戦士長はアドバンス召喚していないクリフォートモンスターは、攻撃力は1800となるとは言っていたが、《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果により、その攻撃力は2100。新たに召喚された《クリフォート・アーカイブ》と《クリフォート・シェル》の二回の攻撃で、容易く俺のライフを消し飛ばす。その時デッキから特殊召喚され、《クリフォート・アーカイブ》の攻撃を防いだのは、要塞の機械戦士――《マッシブ・ウォリアー》。
「《マッシブ・ウォリアー》は戦闘ダメージを受けず、一度だけ戦闘では破壊されない!」
「なるほど……ならば《クリフォート・ゲノム》で攻撃!」
《マッシブ・ウォリアー》の戦闘破壊耐性の効果は一ターンに一度。《クリフォート・ゲノム》の攻撃を受けて破壊されてしまうが、おかげで俺のライフポイントにダメージはない。
「ふん、しぶとい奴だ……カードを一枚伏せる。そして《クリフォート・ディスク》の効果で特殊召喚されたモンスターは、エンドフェイズとともに破壊される。破壊されたため、《補給部隊》によって一枚ドロー!」
「だが、お前がドローしたことにより《便乗》の効果によって二枚ドロー! 俺のターン、ドロー!」
合計三枚のカードをドローして俺のターンに移行するとともに、改めてフィールドの状況を見直した。戦士長のフィールドには、ペンデュラムゾーンに一ターンに一度、800ライフを払うことでクリフォートカードをサーチする《クリフォート・ツール》に、攻撃力を300ポイントアップさせる《クリフォート・アーカイブ》。さらに攻撃力3100の《クリフォート・ディスク》に、一枚のリバースカードに永続魔法《補給部隊》。エクストラデッキには何体ものクリフォートモンスターが控えていて、そのライフポイントは1400。
対する俺のフィールドにはモンスターはおらず、永続罠《便乗》とリバースカードが一枚。ライフポイントは3700とまだ余裕はあるが、既に二回のワンショットキルをされかけていては、いくらライフがあろうと安心は出来ない。
「俺は魔法カード《戦士の生還》を発動! 墓地から《マッシブ・ウォリアー》を手札に加え、そのまま召喚する!」
先程クリフォートモンスターの攻撃を受けきってくれた、《マッシブ・ウォリアー》が再び墓地から特殊召喚される。今の俺の手札には、この状況を打開して戦士長のライフを削る手段はない。だが、戦士長の攻撃力3100を誇る、《クリフォート・ディスク》をあのままにしておく訳にはいかない。
「バトル! マッシブ・ウォリアーでクリフォート・ディスクに攻撃!」
「……うん?」
《マッシブ・ウォリアー》が《クリフォート・ディスク》に攻撃するものの、その攻撃力の差は歴然であり、簡単に《マッシブ・ウォリアー》の攻撃は弾かれてしまう。戦士長はその俺の行動に疑問の声を示すが、それを無視してメインフェイズ2に移行すると、手札の新たなモンスターを掴む。
「メインフェイズ2、手札から《ワンショット・ブースター》を特殊召喚!」
このターン、《マッシブ・ウォリアー》の通常召喚に成功しているため、ミサイルを装備した黄色い機械族《ワンショット・ブースター》が特殊召喚出来る。そして《ワンショット・ブースター》はその装備したミサイルを、《クリフォート・ディスク》へと向ける。
「《ワンショット・ブースター》の効果を発動! このカードをリリースすることで、戦闘で破壊されなかった相手モンスターを破壊する! 蹴散らせ、ワンショット・ブースター!」
《マッシブ・ウォリアー》の攻撃によって破壊されなかったモンスター――《クリフォート・ディスク》に向けて、《ワンショット・ブースター》は自身をリリースすることで、その二対のミサイルを炸裂させる。しっかりとミサイルは《クリフォート・ディスク》に命中すると、しばし爆発によって発生した爆煙が空間を支配する――そしてその爆煙の中心から、全くの無傷だった《クリフォート・ディスク》が姿を見せた。
「……何!?」
「通常召喚されたクリフォートモンスターには、そのレベル以下のモンスター効果は受けない。つまり、《ワンショット・ブースター》の効果など意味をなさない!」
戦士長が主力としている、最上級クリフォートモンスターたちのレベルは8。レベル8以下のモンスター効果を受けないとすると、【機械戦士】たちの効果はそのほとんどが通用しないこととなる。内心で、無駄使いとなってしまった《ワンショット・ブースター》に謝りながら、デュエルディスクに新たな魔法カードをセットする。
「魔法カード《一時休戦》を発動! お互いに一枚ドローし、次のターンの全てのダメージを無効化する!」
ペンデュラム召喚からの大量展開とワンショットキルを妨害するために、念のために投入していた《一時休戦》が思った通りの活躍をしてくれる。さらにお互いにドローしたことにより、さらに他のカードを誘発する――お互いに。
「ならばチェーンして《神の恵み》を発動! 《一時休戦》によってドローしたため、500ポイントのライフを回復する!」
戦士長LP1400→1900
「だがお前がドローしたため、《便乗》の効果で俺は二枚ドロー! ……さらに《マジック・プランター》を発動し、《便乗》をコストに二枚ドロー!」
これまでドローソースとなってくれていた《便乗》を、《マジック・プランター》のコストにすれのは気が引けるものの、次のターンで《クリフォート・ゲノム》の効果によって破壊されるのは確かだろう。ただ破壊されるだけならば、いっそのことコストにして二枚ドローに変換する。
……そうした方が、今考えているこちらの戦術としても都合が良い。
「さらにカードを二枚伏せ、ターンエンド!」
「私のターン、ドロー!」
戦士長LP1900→2400
カードを一枚ドローしたことにより、先程発動した《神の恵み》の効果が発動し、そのライフポイントが500ポイント回復する。《クリフォート・ツール》のライフコストも、あのカードがあれば幾ばくか減じられる。いや、《補給部隊》によってドローすることも考えれば、むしろライフは徐々に回復していく。
「私は《クリフォート・ツール》の効果を発動。ライフを800ポイント払い、デッキからフィールド魔法《機殻の要塞》を手札に加え、そのまま発動する!」
戦士長LP2400→1600
今回サーチされるクリフォートカードは、二体特殊召喚の《クリフォート・ディスク》か二回攻撃の《クリフォート・シェル》か、それとも新たなクリフォートモンスターか――と考えていたが、手札に加えられたのは予想外のフィールド魔法。異世界の空を戦士長が発動したフィールド魔法が覆っていき、クリフォートたちの要塞がフィールドに現れた。
「さらにペンデュラム召喚を行う! 現れよ、我がモンスターたちよ!」
フィールド魔法ばかりに構ってはいられない。天空に描かれた魔法陣から、閃光が雷のように《機殻の要塞》に炸裂すると、要塞から四体のクリフォートたち――《クリフォート・シェル》、《クリフォート・アーカイブ》、《クリフォート・ゲノム》が二体――がエクストラデッキから発進する。
「《機殻の要塞》がある限り、我がクリフォートたちは召喚を無効化されない。そしてアーカイブとゲノムをリリースし、《クリフォート・ディスク》をアドバンス召喚する!」
《機殻の要塞》から二体目の《クリフォート・ディスク》が発進する。《一次休戦》でダメージを受けることはないと言っても、最上級クリフォートを出してフィールドを制圧していくつもりか。そして《クリフォート・ディスク》のアドバンス召喚に使われた、二体のクリフォートモンスターが半透明で浮かび上がった。
「《クリフォート・ゲノム》がリリースされた時、君のリバースカードを破壊! そして《クリフォート・アーカイブ》によって、相手モンスターを一体バウンスする!」
《クリフォート・ゲノム》の効果は既に分かっていたが、《クリフォート・アーカイブ》の効果はモンスターのバウンスか。《マッシブ・ウォリアー》が手札へと戻されて、伏せてあった三枚のうちの一枚が破壊される。
「チェーンして罠カード《和睦の使者》を発動!」
《クリフォート・ゲノム》の効果の標的になったのは《和睦の使者》。《一次休戦》が適用されていて、かつモンスターがいない今、発動する意味はないが……
「さらに《クリフォート・ディスク》の効果により、デッキから《クリフォート・ゲノム》と《クリフォート・アーカイブ》を特殊召喚する!」
そしてリリースされた、《クリフォート・アーカイブ》と《クリフォート・ゲノム》が再びフィールドに現れる。正確には先程リリースされたモンスターではなく、新たにデッキからから特殊召喚されたモンスターだが。《一次休戦》の効果でダメージを与えることは出来ないため、もう戦士長にやることはないか……と思いきや、《機殻の要塞》が理由は分からないが動き出していた。
「《機殻の要塞》の第二の効果……私はクリフォートモンスターを二度、通常召喚出来る! 《クリフォート・ゲノム》二体をリリースすることで、《クリフォート・シェル》をアドバンス召喚!」
《機殻の要塞》が動き出した理由は二度目の通常召喚。先の《クリフォート・ディスク》の効果の発動は、この《クリフォート・シェル》のアドバンス召喚に引き継ぐため。さらに言うなら《クリフォート・シェル》をアドバンス召喚することで、《クリフォート・ゲノム》二体の効果を発動するために。
「《クリフォート・ゲノム》二体の効果を発動! 君のフィールドの二枚のリバースカードを破壊してもらおう!」
俺のフィールドに残された二枚のリバースカードも破壊され、これで俺のフィールドはがら空き。そんな俺の周囲を、挑発でもするかのように三体の最上級クリフォートモンスターが旋回する。攻撃力3100のモンスターが三体……《一次休戦》でダメージが与えられないことを承知で、戦士長はクリフォートたちでプレッシャーを与えにきた。
「……それぐらいが何だ」
最上級クリフォートモンスター達の前に、二対の旋風が俺の盾になるかのように発生する。旋風は徐々に戦士の姿を形作っていき、俺はそのモンスターの特殊召喚を宣言した。
「《クリフォート・ゲノム》に破壊された二枚のカードは《リミッター・ブレイク》! このカードが破壊された時、デッキ・手札・墓地から《スピード・ウォリアー》を特殊召喚する! 来い、マイフェイバリットカード!」
『トアアアッ!』
二体のマイフェイバリットカード――《スピード・ウォリアー》が旋風からその姿を現した。最上級クリフォートモンスター達に比べれば、そのステータスは頼りにならないかも知れないけれど。マイフェイバリットカードは力強く、クリフォートモンスターたちの前に立ちはだかった。さらに一見意味のなかった先程の《和睦の使者》によって、戦闘破壊をすることも出来はしない。
「私の《クリフォート・ゲノム》を利用したか……何をしてくるか楽しみにさせてもらおう! カードを二枚伏せてターンエンド!」
ターンエンドの宣言とともに、《クリフォート・ディスク》の効果で特殊召喚されていた《クリフォート・アーカイブ》が自壊し、《補給部隊》によって一枚のドローとなり、その一枚のドローが《神の恵み》によって500のライフポイントの回復となる。そして戦士長のフィールドに残ったのは、四体の最上級クリフォートモンスターに二枚のリバースカード、そして《補給部隊》に《神の恵み》。
「俺のターン、ドロー!」
対する俺のフィールドには《スピード・ウォリアー》が二体のみ。しかし、守備に回っていては勝てない。ここは臆せず攻めるのみ……!
「俺は《マックス・ウォリアー》を召喚!」
マイフェイバリットカードの増援に駆けつけたのは、アタッカーこと三つ叉の槍を持った機械戦士《マックス・ウォリアー》。その三つ叉の槍を振りかざし、三体の機械戦士はそれぞれ三体のクリフォートモンスターへと向かっていく。
「行くぞみんな! ここで奴らを倒す!」
「面白い……やってみろ!」
戦士長の言葉にありがたく頷きながら、永続罠《便乗》によって稼いだ手札から、三枚の魔法カードをデュエルディスクにセットする。そのいずれもが同じ種類の魔法カード。
「スピード・ウォリアーに装備魔法《バスターランチャー》、もう一体のスピード・ウォリアーに装備魔法《シンクロニック・アビリティ》、マックス・ウォリアーに装備魔法《団結の力》を装備!」
三体の機械戦士にそれぞれ装備魔法が装備される。《スピード・ウォリアー》には巨大なビーム砲である《バスターランチャーが、《マックス・ウォリアー》には仲間のモンスターの力を得ることが出来る《団結の力》が、そして最後の《スピード・ウォリアー》は、まだその《シンクロニック・アビリティ》のエネルギーは不確定で形がぼやけていた。
「《シンクロニック・アビリティ》は、俺のフィールドにいる同じ種族のモンスターに装備されている装備魔法を選択し、その装備魔法と同じ効果を得る! 俺は《バスターランチャー》を選択!」
《シンクロニック・アビリティ》が装備された《スピード・ウォリアー》の周りにあった不確定なエネルギーが、もう一体の《スピード・ウォリアー》が装備していた《バスターランチャー》と同じ姿となっていく。装備魔法《シンクロニック・アビリティ》の効果は、他の装備魔法をコピーすることが出来るという効果だ。装備魔法が装備されているモンスターが同じ種族である必要がある、というデメリットがあるものの、同じモンスターなのに違う種族である筈もない。
最上級クリフォートモンスターたちに対し、二体の《スピード・ウォリアー》は《バスターランチャー》を構え、《マックス・ウォリアー》はその二体のマイフェイバリットカードから力を借りて狙いをつけた。
「来るか!」
「バトル! スピード・ウォリアーでクリフォート・ディスクに攻撃! バスターランチャー、シュート!」
もはや大物ぐらいとして説明不要。《バスターランチャー》は相手モンスターの攻撃力が2500以上の時、装備したモンスターの攻撃力を2500ポイントアップする。
「《クリフォート・ディスク》の攻撃力は3100。よって《スピード・ウォリアー》の攻撃力は3400!」
《スピード・ウォリアー》の発射した《バスターランチャー》が、《クリフォート・ディスク》の中心部に風穴を空けると、そのまま《バスターランチャー》のエネルギーが貫通して戦士長へと炸裂する。風穴を開けられた《クリフォート・ディスク》はバランスを失うと、そのまま地上へと落ちていく。
LP1600→1300
「だが《クリフォート・ディスク》が破壊されたことにより、《補給部隊》によって一枚ドロー! さらにドローしたことにより、《神の恵み》によってライフを500回復する!」
LP1300→1800
「まだだ! スピード・ウォリアーで、同じく《クリフォート・ディスク》に攻撃! コピー・バスターランチャー、シュート!」
《シンクロニック・アビリティ》によってコピーされた《バスターランチャー》を持って、スピード・ウォリアーがもう一体の《クリフォート・ディスク》へと攻撃する。装備魔法がコピーだろうとその効果は同じであるならば、もちろんその結果は同じに終わる。二体目の《クリフォート・ディスク》も先程と同じく、風穴を開けられて地に落ちていった。
戦士長LP1800→1500
「トドメだ! マックス・ウォリアーで《クリフォート・シェル》に攻撃! スイフト・ラッシュ!」
《団結の力》によって《マックス・ウォリアー》は、フィールドのモンスター×800ポイントの攻撃力がアップしている。よってその攻撃力は4200――さらに自身の効果で攻撃力が400ポイントアップし、その攻撃力は4600。そして《クリフォート・シェル》の攻撃力は3100と、戦士長のライフポイントは1500。
《マックス・ウォリアー》の一撃でジャストキルが成立する――前に、バトルをするはずだった《クリフォート・シェル》が、バトルをする前に突如として爆発した。
「リバースカード《デストラクト・ポーション》を発動! 《クリフォート・シェル》を破壊し、その攻撃力分……3100のライフポイントを回復する!」
戦士長LP1500→4600
フィールドのモンスターを破壊することにより、そのライフポイントを回復する罠カード《デストラクト・ポーション》。その効果によって、ライフポイントは初期ライフを超える4600ポイント――マックス・ウォリアーの攻撃力と同じ数値だが、戦士長のフィールドにはまだ、ペンデュラム召喚された《クリフォート・シェル》が一体残っている。
「くっ……《マックス・ウォリアー》で《クリフォート・シェル》の攻撃! スイフト・ラッシュ!」
「ぬぅぅ……!」
戦士長LP4600→2500
マックス・ウォリアーの乱れ突きが《クリフォート・シェル》を貫いた。ペンデュラム召喚によって特殊召喚されたため、その攻撃力は2100ポイント止まりだったものの、戦士長のライフを守るには充分すぎる数値だった。
「……ターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」
戦士長LP2500→3000
装備魔法を駆使した三体の機械戦士の猛攻は防がれてしまい、そのライフポイントは3000ポイントまで回復してしまった。だが、最上級クリフォートモンスターをアドバンス召喚しても、三体の機械戦士の方が攻撃力は上。《クリフォート・ゲノム》と《クリフォート・アーカイブ》の効果が発動しても、三体の機械戦士全てに対応することは出来ない筈だ。
「まさかクリフォートたちを全滅させるとはな……ならば私も全力で相手をしよう! 《クリフォート・ツール》の効果を発動し、デッキから我が切り札……《アポクリフォート・キラー》を手札に加える!」
戦士長LP3000→2200
「切り札だと!?」
ライフポイントを800ポイント支払うことにより、クリフォートカードを手札に加えるペンデュラム効果を持つ、万能サーチカード《クリフォート・ツール》。その効果により戦士長は『切り札』だというモンスター、《アポクリフォート・キラー》を手札に加えた。そして俺の疑問の声とともに、戦士長の背後にあったペンデュラムスケールが光り輝いた。
「ペンデュラム召喚! 出でよ、我がモンスターたちよ!」
ペンデュラム召喚の魔法陣から、光とともに《機殻の要塞》へとクリフォートモンスターたちが入っていき、そこから五体のクリフォートモンスターが発進する。《クリフォート・アーカイブ》が二体と、《クリフォート・ゲノム》が三体――アドバンス召喚時に効果を発揮する、上級クリフォートたちだった。
「《クリフォート・アーカイブ》二体と《クリフォート・ゲノム》をリリースし、現れよ! 我がデッキの切り札! 《アポクリフォート・キラー》!」
――切り札というだけあって今までのクリフォートモンスターとは違う、まるで天使のようにも見える神々しい機械の白いボディに、三体のクリフォートをリリースしてのアドバンス召喚。その姿に目を奪われていたものの、そのアドバンス召喚された三体のクリフォートモンスターが、半透明の姿となって《アポクリフォート・キラー》の周囲に現れた。
「《クリフォート・アーカイブ》二体により、《スピード・ウォリアー》と《マックス・ウォリアー》を手札に戻してもらおう! さらに《クリフォート・ゲノム》の効果により、残る《スピード・ウォリアー》に装備した《バスターランチャー》を破壊する!」
三体でリリースされたことにより、当然ながら三体の上級クリフォートたちの効果が全て発動する。俺のフィールドは荒れに荒らされてしまい、残るは装備魔法の破壊された《スピード・ウォリアー》が一体のみだった。
「まだだ! 《死者蘇生》を発動し、墓地から《クリフォート・ツール》を特殊召喚する!」
最初のターンで《機殻の生贄》の効果で手札に加えられ、速攻魔法《手札断殺》によって墓地に送られた、《クリフォート・ツール》が特殊召喚される。未だ切り札の《アポクリフォート・キラー》の効果は分からないものの、《アポクリフォート・キラー》と三体の上級クリフォートで攻撃をして来るつもりか、とまで考えたところで、俺はそのことに気づいた。
……まだ奴には、上級クリフォートが三体残っているのだと。
「フィールド魔法《機殻の要塞》の効果により、私はもう一度クリフォートモンスターの通常召喚を可能とする! 三体のクリフォートをリリースし、現れよ! 《アポクリフォート・キラー》!」
アドバンス召喚される二体目の切り札――《アポクリフォート・キラー》。天使か生命の樹か、神々しさを漂わせるその二体のモンスターに対して、俺はその姿を睥睨することしか適わなかった。
「《アポクリフォート・キラー》は自身の耐性により《クリフォート・アーカイブ》のペンデュラム効果は受けられない。だが、《アポクリフォート・キラー》第二の効果が既に発動している! 君の《スピード・ウォリアー》を見てみるが良い!」
「スピード・ウォリアー!?」
戦士長の言葉に従って《スピード・ウォリアー》を見ると、《アポクリフォート・キラー》から重力のようなものが発せられており、その重圧に《スピード・ウォリアー》は潰されかかっていた。動くのがやっと、といったところのようで、バトルなどは行えないように見える。
「《アポクリフォート・キラー》は、フィールド上の特殊召喚したモンスターの攻撃力を500ポイントダウンさせる。よって、君のスピード・ウォリアーの攻撃力は0!」
《アポクリフォート・キラー》第二の効果、フィールド上の特殊召喚したモンスターの攻撃力の500ポイントダウン。クリフォートたちは、ペンデュラム召喚からのアドバンス召喚がメインのため、その効果への影響は少ないが、特殊召喚を主軸にしたこちらのデッキには大打撃を及ぼした。特殊召喚したモンスターの攻撃力が1000ポイント削られては、《アポクリフォート・キラー》を破壊するというのは並大抵のことではない。
……そしてそのことを考える前に、俺は二体の《アポクリフォート・キラー》を前にして、生き延びなくてはならなかった。
「バトル! 《アポクリフォート・キラー》で、《スピード・ウォリアー》に攻撃! キムラヌート・キル!」
戦士長の攻撃を命じる攻撃とともに、《アポクリフォート・キラー》から発せられる重圧がさらに強くなると、効果が及んだのは《スピード・ウォリアー》だけではなかった。俺が飛翔していた《漆黒の闘竜》もその重圧に耐えられなくなり、大空から大地へと墜落し始めたのだ。
「まずい……!」
そのまま俺と《漆黒の闘竜》は闇魔界の軍勢の城へと、コントロールを失って逃げるように落ちていき、そのまま地表へと墜落した。俺は幸運にも、《漆黒の闘竜》がエアバックのように勢いを殺してくれたおかげで墜落死は免れたものの、勢い良く《漆黒の闘竜》から投げ出された。
「……スピード・ウォリアー!」
何とか俺が地表へと激突する前に、一緒に地表へと落ちてきていたスピード・ウォリアーに助けられる。スピード・ウォリアーに掴まって安全に地表へと降り立ち、隣にいるスピード・ウォリアーに顔を向けると――
「…………ッ!?」
――メキャ、という音とともにスピード・ウォリアーは見えない何かに押し潰され、俺は至近距離でスピード・ウォリアーが破壊された爆発を受けることとなった。
「がはっ……!」
遊矢LP3700→700
「今度は逃がさんぞ!」
戦士長も悠々と天空から降りてくると、その乗っていた《デス・デーモン・ドラゴン》から地表に降り立った。改めて周りを良く見てみると、何やら古代ローマの闘技場のような様相を呈している場所だった。
「ここは、捕らえたデュエリストを処刑するデュエル場……幕引きには相応しいか……トドメだ、《アポクリフォート・キラー》でダイレクトアタック!」
「いや、手札から《仲裁の裁定者》の効果を発動! モンスターが破壊された時にこのモンスターを捨てることで、バトルフェイズを終了する!」
《速攻のかかし》の相互互換とでも言うべきか。《スピード・ウォリアー》が戦闘で破壊された際に墓地に送ることで、その効果によってバトルフェイズを終了させた。バトルフェイズを終了させる効果なので、《アポクリフォート・キラー》の効果でも無効にすることは出来ない。
「面白いカードだな……ならばメイン2。私は《アポクリフォート・キラー》、第三の効果を発動!」
自身よりレベルが低いモンスターの効果を受け付けない第一の効果。特殊召喚したモンスターの攻撃力を500ポイントを下げる第二の効果。切り札と誇称するに相応しい効果の数に、第三の効果は何かと警戒する。
「相手は一ターンに一度、フィールドか手札のモンスターを墓地に捨てなくてはならない!」
「くっ……!」
その第三の効果は、こちらの逆転の芽を摘むハンデス効果。……いや、フィールドに強力なモンスターを展開していても、手札にモンスターがなければ、そのモンスターを墓地に置かなくてはならないという恐ろしい効果だ。今は幸か不幸か、《クリフォート・アーカイブ》の効果でバウンスされたモンスターがあるが……
「私はカードを一枚伏せ、ターンを終了」
「俺のターン、ドロー!」
戦士長の切り札、《アポクリフォート・キラー》二体によって、俺のフィールドは壊滅的な被害を受けた。さらにターンを追うごとに第三の効果により、俺のモンスターは墓地へ送られていく。
「……俺のフィールドにモンスターはいない! よって《アンノウン・シンクロン》を特殊召喚!」
黒い円盤状のチューナーモンスター《アンノウン・シンクロン》が、自身の効果によって特殊召喚される。俺のフィールドにモンスターはおらず、相手のフィールドにのみモンスターがいる時、デュエル中に一度のみその効果により特殊召喚が出来る。
「さらに《チューニング・サポーター》を召喚し、魔法カード《機械複製術》を発動! デッキからさらに二体、《チューニング・サポーター》を特殊召喚する! 増殖せよ、《チューニング・サポーター》!」
【機械戦士】における常套手段の一つである、《機械複製術》による《チューニング・サポーター》の増殖からのシンクロ素材の集結。《アンノウン・シンクロン》の特殊召喚効果も合わせ、これでシンクロ召喚が可能になったものの、この状況を打破出来るシンクロモンスターはいない。
……ならば、このまま《アンノウン・シンクロン》と《チューニング・サポーター》を四体のモンスターの壁とするか。《アポクリフォート・キラー》の効果も含めて考えても、一ターンは耐えることが出来る筈だ……
……いや、ここで弱気になってしまっては負ける。一ターン耐えたところで、そこから逆転出来る手段も俺にはないし、奴が《クリフォート・ツール》の効果で《クリフォート・シェル》を加えてアドバンス召喚すれば、守備力0の壁など意味をなさない。ならばここはデッキを信じ、更なる可能性に賭けるしかない。
「俺は、自身の効果でレベル2となった《チューニング・サポーター》三体と、レベル1の《アンノウン・シンクロン》をチューニング!」
覚悟を決めて小型のモンスターたちにシンクロ召喚を命じると、フィールドにいた四体全てがシンクロ素材となる。《アンノウン・シンクロン》が光の輪となり《チューニング・サポーター》たちを包み込み、《チューニング・サポーター》たちはその名の通りのことを実行する。
「集いし願いが新たに輝く星となる。光さす道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」
閃光とともに守備表示でシンクロ召喚されたのは、ラッキーカードである《パワー・ツール・ドラゴン》。次なるカードに望みをかけるならば、その二つの効果の特性からして、やはりこのモンスターが最も適任だった。
「《チューニング・サポーター》がシンクロ素材となった時、カードを一枚ドロー出来る。よって合計、三枚のカードをドロー! ……さらに、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果!」
「そいつはさせん! 1000ポイントのライフを払うことで、伏せてあった《スキルドレイン》を発動する!」
戦士長LP2200→1200
戦士長の二枚の伏せカードのうちの一枚が表側表示となる。そのカードは全く俺が全く予想だにしていなかった、フィールドのモンスター効果を無効にする《スキルドレイン》。その効果によって、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果は無効となる……
「だが、これで《アポクリフォート・キラー》の効果も……」
「いや、《アポクリフォート・キラー》は魔法・罠カードの効果は受けない。《スキルドレイン》の効果すらもな!」
第一の効果の耐性は、自身のレベル以下のモンスター効果を受け付けないだけではなく、魔法・罠カードの効果すらも受け付けない。異世界に来る前に戦った、プロフェッサー・コブラの切り札である、《毒邪神ヴェノミナーガ》と似たような効果。《クリフォート・アーカイブ》の攻撃力アップ効果を受けないのも、レベルという訳ではなく、単純に魔法・罠カードが効かないだけということか。
……これで俺は、モンスターの効果の発動すらも無効にされることとなった。効果を無効化され、特殊召喚したモンスターの攻撃力は1000ポイントダウンし、相手ターンに二枚のモンスターを墓地に送らなくてはならない……だが、《チューニング・サポーター》によってドローした、このカードがある!
「速攻魔法《魔力の泉》を発動! 相手の魔法・罠カードに耐性を加えることにより、相手の魔法・罠カードの数だけドロー出来る!」
戦士長のフィールドにある、表側表示の魔法・罠カードの数は――ペンデュラムゾーンにある《クリフォート・ツール》と《クリフォート・アーカイブ》に、《スキルドレイン》と《補給部隊》に《神の恵み》の合計五枚――よって、五枚のカードをデッキからドローする……!
だがその代償は大きく、俺は次の相手ターン終了時まで相手の魔法・罠カードを破壊することは出来ない。さらにこのターンは既に通常召喚を終えているため、この手札を活かして逆転することは出来ない……
……だが、次のターンにならば。
「俺はカードを三枚伏せ、ターンエンド!」
「なるほどな……ならばこのターンで決着をつけてやろう! 私のターン、ドロー!」
戦士長LP1200→1700
戦士長がカードをドローしたことにより、《神の恵み》によってそのライフポイントを500ポイントを回復する。《アポクリフォート・キラー》二体が戦士長の意志に応えるように、《パワー・ツール・ドラゴン》にかかる重力が増していく。
「私は《クリフォート・ツール》の効果を発動し、デッキから……《アポクリフォート・キラー》を手札に加える!」
「三枚目だと!?」
《クリフォート・ツール》のサーチ効果により、戦士長のデッキから手札に加えられたのは……三体目の切り札《アポクリフォート・キラー》。その効果は既にフィールドにある《スキルドレイン》によって無効化されるが、驚異であることに変わりはない。
「ペンデュラム召喚! 現れよ、我がモンスターたちよ!」
そして《アポクリフォート・キラー》のリリース素材となるべく、三体のクリフォートモンスターがペンデュラム召喚によって特殊召喚される。リリースされた時、相手モンスターを一体バウンスする《クリフォート・アーカイブ》。同じくリリースされた時、相手の魔法・罠カードを破壊する《クリフォート・ゲノム》が二体。
召喚される《アポクリフォート・キラー》が驚異なのは当然のことだが、むしろそのリリースされた際に発動する上級クリフォートの効果も厄介なことこの上ない。墓地で効果が発動するために《スキルドレイン》で無効化されず、俺の布陣はその三体の効果でボロボロにされてしまう。
「三体のクリフォートをリリースすることで、《アポクリフォート・キラー》をアドバンス召喚!」
相手にしているこちらにすら、神々しさまで感じさせる切り札《アポクリフォート・キラー》の三体目が特殊召喚される。だからといってその姿に見とれている暇もなく、そのリリース素材となった上級クリフォートが俺に襲いかかる。
「《クリフォート・アーカイブ》により《パワー・ツール・ドラゴン》を手札に! さらにその二枚のリバースカードを破壊してもらおう!」
半透明となった上級クリフォートがまず《パワー・ツール・ドラゴン》に襲いかかり、《パワー・ツール・ドラゴン》はその一撃に耐えることが出来ず、エクストラデッキへと戻されてしまう。さらに残る《クリフォート・ゲノム》が二枚の伏せカードを破壊せんと迫り来るが、その前に一枚のカードはその姿を見せた。
「チェーンして速攻魔法発動! 《速攻召喚》! 手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚出来る! ――来い! 《トライクラー》!」
作業用ロボットのような三輪がある車がエンジンを轟かせ、今エクストラデッキに戻されてしまった《パワー・ツール・ドラゴン》の代わりのように、俺を守るべく守備の態勢をとった。
「ならば二体の《アポクリフォート・キラー》の効果を発動! 手札かフィールドのモンスターを、二枚墓地に送ってもらう!」
「手札の二枚のモンスターを墓地に送る!」
トライクラーに重圧をかける《アポクリフォート・キラー》に対し、手札から二体の《スピード・ウォリアー》が現れ、俺や《トライクラー》に及ぶ重圧を軽くする。これで後は《アポクリフォート・キラー》三体の攻撃を防ぐのみ……!
「ふん……バトルだ! 《アポクリフォート・キラー》で《トライクラー》を攻撃! キムラヌート・キル!」
攻撃力3000を誇る《アポクリフォート・キラー》には、ステータスが低い《トライクラー》では全く太刀打ちが出来ず、あっさりとバラバラに破壊されてしまう。だが、バラバラになった《トライクラー》の部品が再び固まっていき、二輪の作業用ロボットとして再びフィールドに復活した。
「《トライクラー》が破壊された時、デッキから《ヴィークラー》を特殊召喚する! 来い、《ヴィークラー》!」
「ならばもう一撃だ、《アポクリフォート・キラー》!」
復活した瞬間《ヴィークラー》は破壊されてしまったものの、再びバラバラになった部品が復活する。しかし、最初は三輪あったタイヤは残り一個しかなく、もはやギリギリの部品しかなくなってしまう。それでも、新たに現れた《アンサイクラー》は《アポクリフォート・キラー》に立ち向かった。
「《ヴィークラー》が破壊された時、《アンサイクラー》を特殊召喚!」
「チィ……最後の《アポクリフォート・キラー》で、《アンサイクラー》に攻撃!」
三体目の《アポクリフォート・キラー》の一撃が、《アンサイクラー》シリーズにトドメを刺さんと重圧を増す。だが《アポクリフォート・キラー》と《アンサイクラー》の間に、盾を持った機械戦士が立ちはだかった。
「墓地の《シールド・ウォリアー》を除外することにより、《アンサイクラー》は破壊されない!」
まだ《アンサイクラー》には、やって貰わなくてはならないことがある。墓地から――《アポクリフォート・キラー》の効果で墓地に送られていた――《シールド・ウォリアー》によって、《アンサイクラー》の戦闘破壊は防がれた。
……そして三体の《アポクリフォート・キラー》は全て、その行動を終えた。
「……ターンエンドだ! 君の力を見せてみろ!」
「このターン、俺と【機械戦士】の全てをぶつけてやる! 俺のターン、ドロー!」
俺のフィールドには《アンサイクラー》のみ。対する戦士長には奴のデッキの切り札である、《アポクリフォート・キラー》が三体も並んでいる。さらに機械戦士たちの動きを封じる、《スキルドレイン》までもがある……
「魔法カード《貪欲な壷》を発動! 墓地の五枚のモンスターをデッキに戻して二枚ドロー! ……よし、装備魔法《継承の印》を発動!」
汎用ドローカードによって二枚のカードをドローした後に、装備魔法《継承の印》を発動する。このカードは、墓地に三体同名のモンスターが揃っているモンスターに装備することで、そのモンスターを蘇生することが出来るカード。今墓地に三体揃っているモンスターは、あの機械族モンスターが一種類。
「《継承の印》の効果により、《チューニング・サポーター》を特殊召喚! さらに速攻魔法《地獄の暴走召喚》! さらに墓地から二体、《チューニング・サポーター》を特殊召喚する!」
攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚されたことにより、速攻魔法《地獄の暴走召喚》の発動トリガーとなり、さらに墓地から二体の《チューニング・サポーター》が特殊召喚される。《地獄の暴走召喚》の効果は戦士長にも及ぶものの、既に《アポクリフォート・キラー》は三体フィールドに揃っている。
「さらに墓地から《ADチェンジャー》の効果を発動! このカードを除外することで、モンスターの表示形式を変更出来る。《アポクリフォート・キラー》の表示形式を守備表示に変更!」
《アポクリフォート・キラー》には本来、自身のレベル以下のモンスター効果を受け付けない効果がある。だが三体のうち一体のみは、《スキルドレイン》の発動より後にアドバンス召喚されたため、その効果を無効化されている。その隙を突き、《アポクリフォート・キラー》が一体守備表示となった。
「……守備表示にするとは、どういうつもりだ?」
「さてな。……チューナーモンスター《エフェクト・ヴェーラー》を召喚! ――《チューニング・サポーター》三体と、《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」
チューナーモンスターであるラッキーカードの召喚とともに、すぐさまフィールドの《チューニング・サポーター》三体とシンクロ素材となる。フィールドに《アンサイクラー》一体を残し、他の四体は閃光に包まれた。
「――シンクロ召喚! 再び現れろ、《パワー・ツール・ドラゴン》!」
先のターンは守備表示で召喚して効果を無効化された挙げ句、《クリフォート・アーカイブ》の効果でバウンスされてしまったが、再び《パワー・ツール・ドラゴン》はフィールドへと降臨する。機械の鎧の奥から龍のいななきを轟かせながら、俺の前に降り立ち右腕に新たなパーツを出現させた。
「《パワー・ツール・ドラゴン》に装備魔法《パイル・アーム》を発動! このカードは装備時に相手の魔法・罠カードを破壊する! 《スキルドレイン》を破壊!」
「……だが《スキルドレイン》が破壊された事により、三体目の《アポクリフォート・キラー》の効果も発動する!」
《パワー・ツール・ドラゴン》と《アンサイクラー》……俺のフィールドにかかる重圧はさらに大きくなり、特殊召喚されたモンスターの攻撃力は1500ポイントダウンすることとなる。だが《パワー・ツール・ドラゴン》はそれに負けじと、自身の効果を発動させた。
「《パワー・ツール・ドラゴン》の効果を発動! デッキから三枚の装備魔法を選び、相手がランダムで選んだカードを手札に加える! 《パワー・サーチ》!」
《パワー・ツール・ドラゴン》の効果によって、戦士長の前に三枚の装備魔法カードが裏側で表示される。俺が選んだカードは《パワー・チャージャー》、《ニトロユニット》、《魔界の足枷》の三枚。……その中で俺が望んでいるのは一枚のみ。
「……左のカードにしておこう」
「……さらに俺は《スターレベル・シャッフル》を発動! フィールドと墓地の同じレベルのモンスターを入れ替える! レベル1の《アンサイクラー》と《エフェクト・ヴェーラー》を入れ替える!」
戦士長が選んだカードを左の装備魔法を手札に加えつつ、通常魔法《スターレベル・シャッフル》によって、再び《エフェクト・ヴェーラー》はフィールドに舞い戻る。そして《パワー・ツール・ドラゴン》の周りを飛び回り、その真の姿を解放するためのシンクロ素材となる準備が完了した。
「レベル7、《パワー・ツール・ドラゴン》に、レベル1、《エフェクト・ヴェーラー》をチューニング!」
「またシンクロ召喚か……!」
通常のシンクロ召喚とはまた違う。《エフェクト・ヴェーラー》が《パワー・ツール・ドラゴン》の周囲を飛び回り、その真の姿を隠している鎧を外していき、炎とともに神話の龍を呼び覚ました。
「集いし命の奔流が、絆の奇跡を照らしだす。光差す道となれ! シンクロ召喚! 現れろ、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》!」
ラッキーカード二種によるチューニングにより、機械の鎧を外して降臨する《ライフ・ストリーム・ドラゴン》。さらにその効果を発動するために、俺たちがいるスタジアムから飛び上がった。
「《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がシンクロ召喚に成功した時、俺のライフを4000にする! ゲイン・ウィータ!」
天空から降り注ぐ《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の光によって、俺のライフは《アポクリフォート・キラー》の一撃を受けた700から、初期ライフである4000に回復していく。そのまま最後までライフが回復すると、《ライフ・ストリーム・ドラゴン》は俺の前に再び降り立ち、戦士長はそれを目にしてニヤリと笑った。
「それが君の切り札か……さあ、来るが良い!」
「いや、まだだ……! 《ミラクルシンクロフュージョン》を発動! 墓地にいる《スピード・ウォリアー》と、フィールドの《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の力を一つに!」
融合召喚には欠かせない時空の穴が出現するとともに、墓地の《スピード・ウォリアー》と《ライフ・ストリーム・ドラゴン》がそこに吸い込まれていき、その力を一つにしてフィールドに再臨する。俺の、そして【機械戦士】たちの切り札として。
「――融合召喚! 現れろ、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》!」
嵐の槍を持ち深蒼の鎧を身に纏った、旋風の竜騎士ことドラゴエクィテスが融合召喚される。《スピード・ウォリアー》と《ライフ・ストリーム・ドラゴン》の力を一つにし、《アポクリフォート・キラー》三体に向け、飛竜の翼を展開しその槍を振りかざした。
「だがどんなモンスターであろうと、特殊召喚した以上、我が切り札からは逃れることは出来ん! その攻撃力は1500ポイントダウンする!」
「……だが、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果を発動する!」
《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果。相手が発動したバーン効果を反射する効果と、墓地にいるドラゴン族のシンクロモンスターを除外することで、そのシンクロモンスターの効果と名前を得る効果。だが、バーン反射効果は自発的に発動出来るものではないし、墓地にドラゴン族シンクロモンスターはいない……だが、それでもドラゴエクィテスの効果を発動する!
「チェーンして速攻魔法《コード・チェンジ》! このカードは、カードに記された種族名を変更する! ドラゴエクィテスに記されたドラゴン族を、戦士族へと変更!」
つまり《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の効果はこのターンのみ、墓地の戦士族シンクロモンスターを除外することにより、そのシンクロモンスターの効果を得る、という効果となった。墓地にある戦士族シンクロモンスターは一体だけ……俺はそのモンスターを墓地から取り出し、戦士長にそのモンスターを見せながら効果の発動を宣言した。
「俺は墓地の《ニトロ・ウォリアー》を除外することにより、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》はその効果を得る! 装備魔法《パワー・チャージャー》を装備し、バトル!」
墓地の《ニトロ・ウォリアー》の力を受け継ぎ、《パワー・ツール・ドラゴン》の効果で手札に加えた装備魔法《パワー・チャージャー》を装備し、遂に《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》が攻撃の体勢を取る。三体の《アポクリフォート・キラー》の重圧が強くなるものの、負けじと翼を展開して飛翔するとともに、その一撃を喰らわせる相手をその鋭い視線で射抜く。
「《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》で、攻撃表示の《アポクリフォート・キラー》に攻撃! スパイラル・ジャベリン!」
「迎撃しろ、《アポクリフォート・キラー》! キムラヌート・キル!」
《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の元々の攻撃力は3200。だが、三体の《アポクリフォート・キラー》の効果により、その攻撃力を1700という下級モンスター程度にまで減じさせている。《アポクリフォート・キラー》の攻撃力は3000と、その攻撃力にはまるで届かない。
しかしドラゴエクィテスも、伊達に最も火力の高い機械戦士である、《ニトロ・ウォリアー》の効果を得たわけではない。装備魔法《パワー・チャージャー》の発動により、その効果の発動条件は満たされている。
「《ニトロ・ウォリアー》から受け継いだ効果を発動! 魔法カードを発動したターン、一度だけ攻撃力を1000ポイントアップ出来る! さらに墓地から、《スキル・サクセサー》の効果を発動!」
「攻撃力が……《アポクリフォート・キラー》を上回っただと!?」
先のターンで《速攻召喚》とともに《クリフォート・ゲノム》の効果によって破壊された、罠カード《スキル・サクセサー》が墓地から発動する。《ニトロ・ウォリアー》から受け継いだ効果と、《スキル・サクセサー》の攻撃力上昇は併せて1800――ドラゴエクィテスの攻撃力は3500ポイントとなる。
ドラゴエクィテスから放たれたドリルのように回転するジャベリンは、《アポクリフォート・キラー》が発する重力を突破すると、その神々しい身体に風穴を開けた。
「ぐぬぅ……だが、モンスターが破壊されたことにより、《補給部隊》の効果が発動する! カードを一枚ドローし、《神の恵み》によって500のライフポイントを回復する!」
ドラゴエクィテスによって与えられる戦闘ダメージも500ポイントと、《神の恵み》によるライフの回復と同じ数値。よって、戦士長のライフポイントに変動はない……ものの、その戦闘破壊が《ニトロ・ウォリアー》から受け継いだ効果の、更なるトリガーとなる。
「《ニトロ・ウォリアー》から受け継いだ第二の効果! 相手の守備表示モンスターを攻撃表示にし、強制的にバトルさせる!」
「このために守備表示にしたか!」
《ニトロ・ウォリアー》をフィールドに出した時には使う機会がなかったものの、《ADチェンジャー》の効果で守備表示にしていた《アポクリフォート・キラー》に対し、その効果が発動する。《アポクリフォート・キラー》は……いや、クリフォートモンスターは自身よりレベルが低いモンスターの効果は受けない、という非常に強力な耐性を持っていて、本来ならば《ニトロ・ウォリアー》の効果は通用しない。しかし、今その効果を使用しているのは《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》であり、そのレベルは10と《アポクリフォート・キラー》と同値のため、問題なくその効果は発動する。
「さらに装備魔法《パワー・チャージャー》の効果! このカードを装備したモンスターが相手モンスターを破壊した時、そのモンスターの攻撃力を得る! よってドラゴエクィテスの攻撃力は、《アポクリフォート・キラー》の攻撃力分アップする!」
「……なにぃ!?」
《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》に装備されていた《パワー・チャージャー》が反応する。先程破壊した《アポクリフォート・キラーの力をその《パワー・チャージャー》が取り込むと、《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》に送り込み、その攻撃力は《スキル・サクセサー》や残る《アポクリフォート・キラー》の効果を含めて加減され、最終的に――6000。
《ニトロ・ウォリアー》の力を借りたドラゴエクィテスがその両手を炎で包み込むと、旋風によって《アポクリフォート・キラー》を引き寄せていく。そして自身にかかる重力をものともせずに飛翔すると、《アポクリフォート・キラー》に零距離まで肉薄する。
「《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》で《アポクリフォート・キラー》に攻撃! ……ダイナマイト・インパクトォ!」
……炎の拳が《アポクリフォート・キラー》の身体を貫いた。アポクリフォート・キラーは一瞬だけ抵抗を見せたものの、すぐにその機能を停止したのを確認し、ドラゴエクィテスはその拳を引き抜いた。
――そして、《アポクリフォート・キラー》のドラゴエクィテスが拳で貫いた箇所から、数え切れないほどのカードが溢れ出して、あたかも戦士長を護るかのように展開した。まさかこのカードたちは――
「――《ガード・ブロック》!?」
「ご明察。私は君の二回目の攻撃時に、伏せてあった《ガード・ブロック》を発動していた。戦闘ダメージを0にして一枚ドロー!」
俺も多用する罠カード《ガード・ブロック》。《アポクリフォート・キラー》は戦闘で破壊する以外に対処されることは、その圧倒的な耐性の為に考えられる事態は少ない。そこで戦士長は、今の俺のような一度限りの高攻撃力による、起死回生の一撃をかわせるように準備をしていたのだ……
《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》が破壊した《アポクリフォート・キラー》から流出し、戦士長を戦闘ダメージから救ったカードたちは消えていき、そのうちの一枚が戦士長の手札へと加えられる。さらにカードをドローしたことにより、永続罠《神の恵み》の効果が発動する。……結果として俺の起死回生の一撃は、ただ戦士長のライフを500ポイント回復させて終わったというのか。
戦士長LP900→1400
ドラゴエクィテスに装備された《パワー・チャージャー》が、今戦闘破壊した《アポクリフォート・キラー》の攻撃力を吸い取り、更なる力をドラゴエクィテスに与えていく。だがその攻撃力が維持されるのは、このターンのエンドフェイズまでであり、次の戦士長のターンになれば、《アポクリフォート・キラー》より攻撃力が下回ってしまう。……いや、その前に《アポクリフォート・キラー》の効果で、自分から破壊することを選択する羽目になるか。
「一手……私の方が上だったようだな」
「いや、まだだ……まだ……」
戦士長の目から見れば今の俺は、勝敗は既に決まったも同然だろうに、まだ敗北を認めない往生際が悪い者なのだろう。それでも俺は、まだ諦めていなかった。
「……まだ、俺のフィールドには……リバースカードがある!」
先のターンで《クリフォート・ゲノム》の効果による破壊を免れた、俺のフィールドに残された最後のリバースカード。このカードがある限り俺は諦めない……!
「リバースカード、オープン! 《炸裂突破》!」
最後のリバースカードがその姿を見せる。まだ俺はエンド宣言どころかメイン2に移行すらしておらず、未だにドラゴエクィテスの眼光は《アポクリフォート・キラー》を射抜いていた。
「まさか……まだ……」
「そのまさかだ。《炸裂突破》は自分のモンスターが一体の場合のみ発動出来る。そして、そのモンスターが相手のレベル8以上のモンスターを破壊した時、攻撃力を800ポイント下げることで、もう一度バトルを可能にする!」
《波動竜騎士 ドラゴエクィテス》の手に、最初の《アポクリフォート・キラー》を倒すのに使用したジャベリンが帰って来る。再びドラゴエクィテスは攻撃力の増減を経て、その攻撃力を8700に固定する。……もはや俺も【機械戦士】も全てを出し切った……俺にはもう、その一撃を命じることしか出来ない。
「行け――――スパイラル・ジャベリン!」
俺たちの全てを込めた一撃がドラゴエクィテスによって放たれると、猛烈な勢いで《アポクリフォート・キラー》へと向かっていく。その一撃を前にして、戦士長はニヤリと笑い――
――見事だ。そう言い残して、その一撃を受けてこの異世界から存在が消え去った。
戦士長LP1400→0
そして戦士長が、その乗っていた竜《デス・デーモン・ドラゴン》ごと消え去った空を、しばし望と眺めていると、その場には似つかわしくない、軽快な拍手の音がコロシアムに響き渡った。
後書き
ぶっちぎりで今まで一番長い話かと。何故、前後編に分けなかった……!
時に読者様は、これほどの長さでも良いのでしょうか? それとも、長いから分けた方が良いのでしょうか? ご意見を聞かせて頂けるとありがたいです。
では、また。
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