ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~
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神風と流星
Chapter1:始まりの風
Data.3 勘違いの理由
「ふうン。つまり、シーちゃんのあまりの可愛さに一目惚れしたルー坊がナンパしてそのまま食事に誘ったというわけだナ?」
「違えよそんなこと一言も言ってねえだろ何聞いてたんだこのバカ鼠」
アルゴがこの店を訪れてから数分後。俺とシズクはそれぞれ黒エールとハーブティーを飲みながら、食事中のアルゴに俺とシズクが出会った経緯を説明していたのだが……
「絶対に聞いてなかったろこいつ……」
先ほどの発言を聞く限り、アルゴはまったく話を聞いていなかったようだ。そうだと信じたい。
「まア、今のはちょっとした冗談だから気にするナ。それにしても、今日はキー坊もルー坊も、お得意様が二人とも女連れとはナ。奇妙な縁ダ」
「ちょっと待て。今の言葉に聞き流せないことがあった。キリトが、どうしたって?」
現実でも浮遊城でも親友で、俺の知ってる限り最強の剣士でもあるキリトというコミュ力激低の男が、女を連れていたという情報が混ざってたような気がするんだが。
「あア、ついさっきキー坊に会ってナ。キー坊もルー坊と同じで女連れで街に戻ってきたんだヨ。まア、あっちはさっさと別れちゃったカラ、ルー坊たちのほうが一歩進んでる関係だけどナ」
そう言ってヤハハと笑うアルゴに軽く殺意を覚えたが、大人な俺は華麗にスルーして見逃してやることにした。
「おいアルゴ、圏外に出ろ。その口二度と聞けないようにしてやる」
「ちょ、ちょっとルリくん!?目がマジだよ!?その発言、洒落になってないからね!?」
それまでただ空気のようにそこに存在し、俺とアルゴの話を聞いていたシズクが介入してきたあたり、どうやら殺意がダダ漏れだったらしい。いや、つい本音が出てしまった。よく見ると、シズクの隣に座っているアルゴも細かく震えている。そんなに怖かったのか。
ちょっとばかし罪悪感が湧いてきたので、慌てて話題を逸らす。
「そ、そういえばアルゴとシズクはどうやって知り合ったんだ?アルゴって基本的にコソコソしてるから普通に暮らしてたら知り合わないだろ」
情報屋《鼠》のアルゴは、あまり人前に姿を現さずに《隠蔽》スキルと敏捷極振りの足の速さで、コソコソと情報を掻き集めるのが仕事だ。だから普通の奴はその存在すら知らないはずなのだが……
「あ、あーそれは、えっと、そのー」
「い、色々あったんだヨ」
俺が話を振ると、露骨に口を濁す二人。な、何だ?なんかあるのか?
まあ無理矢理に聞き出すほどのことでもないし、別の話題にするか。
「じゃあシズク。さっき言いかけてた、俺のことを知っていた理由を教えてくれ」
「え!?えーっと、それはまた今度でもいいんじゃない!?」
「そ、そうだぞルー坊。女の子を急かすのはお姉さんちょっとどうかと思うヨ?」
「な、なんだよ二人して……って、あ」
二人の二度にわたる露骨な隠蔽で、俺の中で二つの出来事が繋がった。
「もしかして、アルゴが俺のことを教えたのか!?で、そのときに知り合ったわけだな!?」
「う、うん……」
「その通りだヨ……」
アルゴが俺のことをシズクに教えた張本人。つまり――――
「俺を女だと言ったのはおまえかあああああああああああ!!!!!!!!!」
あまりの怒りに俺はテーブルに身を乗り出してガクガクとアルゴを揺さぶる。ふざけんなよこの駄鼠。ガセネタは売らないのが信条じゃなかったのか。
「ちょ、落ち着いて!落ち着いてルリ君!ち、違うんだよ!私がアルゴさんから買ったのは君の名前だけで、あたしが女の子だと思ったのは君の見た目でなんだよ!」
シズクのその言葉に俺は揺さぶりをやめ、再びイスに腰を下ろして話を聞くことにした。
「いいだろう。話を聞こうじゃないか」
……若干尊大な口調になっているのは仕方がない。何故なら俺はまだ怒っているから。
「えっとまず……そうそう、あたしが一番最初に君を見たときのことから話せばいいかな?」
そう言って、シズクは話し始めた。
「あれは三日くらい前のことだったかな?あたしが街で買い物してたらさ、急に大通りのほうが騒がしくなり始めてね。気になったから見に行ってみたら、とっても可愛い女の子に見えるプレイヤーがいたんだよ。そう、それが君だったってわけ。で、君のことを知りたいなって思って情報を集め始めたときにアルゴさんに出会ったんだよ。でも、その時ちょっとした勘違いがあってね?」
「オイラはシーちゃんがルー坊を女の子だと思ってるって知らなかったんダ。てっきり、ルー坊が見た目女の子なのに実は男の子だってことを、知ってるとばかり思っていたから、わざわざルー坊の性別は教えなかったんだヨ。聞かれたのは名前だけだったしネ」
シズクの説明をアルゴが引き継ぎ、俺は大体ことのあらましを理解した。
「なるほど。シズクは俺を女だと思っていたが、アルゴは男と思っていると認識していた。だからわざわざ俺の性別を教えたりはしなかったと。まあ、わからなくはないが……お前らもうちょっと情報の共有をしろよ。そうすればこんなことにはならなかっただろうに」
呆れ顔の俺の言葉に、シズクとアルゴの二人は気まずそうに顔を逸らす。
「まあ、ちゃんとした事情があったみたいだし、今回のことは許すよ」
「「ほっ」」
「だが、次はないからな?特にアルゴ」
からかうようで実は本気な俺の言葉で、この話題は終了した。
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