ソードアート・オンライン ~呪われた魔剣~
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神風と流星
Chapter1:始まりの風
Data.2 《鼠》
あの迷宮区での一件の後、俺と彼女――――シズクは連れだって最寄りの町《トールバーナ》に来ていた。
結局あの後俺が女であるという誤解はすぐに解けた。本来ならソロプレイヤーの流儀に従いそのまま何事もなく別れるべきだったのだが、シズクが、
「助けてもらったお礼と女の子と間違っちゃったお詫びに、ご飯奢らせて?」
と言うので、折角だからご相伴に与ろうというわけだ。べ、別に金がないわけじゃないからな!?《投剣》なんてバカみたいに金のかかるものを主武器にしているからといって、飯が食えなくなるほど俺の懐は寒くない。むしろ一般的な他のプレイヤーより金持ちのはずだ。装備の強化代が浮くからな。
どうやら行き先は決まってるらしいので、迷わずぐんぐん進むシズクの後をついていく俺。なんだか妙に視線が集まっているような気がするが、まあ気にする必要はないだろう。どうせ傍目には美少女二人が連れ添っているようにしか見えないのだから、「リア充爆発しろっ!!」といった風に街中でリンチされることはないはずだろうし。……それはそれでムカつくな。俺は男だってのに。
そんなことをダラダラと考えながら歩いていると、不意にシズクが立ち止った。どうやら目的の店についたらしい。
「はい、到着。ここがあたしのお気に入りのレストランだよ」
微妙に自慢げに言うシズクの紹介を聞きながら、俺はこう思った。
うわ、ボロいな!?――――と。
くすんだ色の木材と途切れ千切れに点滅する照明。ドアノブは錆に覆われ、窓は半数近くが割れている。これならまだ、この街で最安価の食べ物である一つ1コルの黒パンを売っているパン屋のほうが綺麗だ。
そんな製作者の趣味を疑うような外装の店に、シズクは何の躊躇いもなく入っていく。錆だらけのドアノブを捻って押し込み、軋むドアを開けて身体を半分くらい入れ、目線でついて来いと指示する。短い時間でどんだけのことをやってんだ。
一つため息をついてから仕方がなく俺も店に入ると、その中は外装からは考えられないほど立派だった。
「すっ……げぇ…………」
外装とのギャップが凄過ぎて、余計にそう感じる。一目で上質な素材と分かるテーブルやイス、天井には小振りながらも豪華なシャンデリアがあり、店の中を明るく照らしている。
「ほら、早く座って座って。好きなもの頼んでいいから」
「お、おう」
太っ腹なシズクの言葉に、未だ呆けたままの俺は適当な返事を返し、彼女と対面するイスに座る。
その後も料理の値段を見てまたもビックリしたりもしたが、概ね平和な食事が済んだ後、俺は黒エールというビールのようなものを飲みながら、ようやくずっと気になっていたことを切り出した。
「そういえば、何でおまえは俺のことを知ってたんだ?俺たち、あの時が初対面だよな?」
「ああ、あれはね――――」
俺の言葉に、シズクが苦笑いを浮かべて答える、寸前――――。
チリン、と。来客を告げるベルが鳴り、内側から見ると立派なドアが開かれる。
そしてそこから現れたのは――――
「ふう、今日も一日よく働いたナ」
「「アルゴ!?(さん!?)」」
「「へ?」」
「ん、ルー坊にシーちゃんじゃないカ。二人で何してるんダ?」
俺とシズクの意外な接点に思わず顔を見合わせる俺たちを見て、情報屋《鼠》のアルゴは首を傾げるのであった。
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