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魔法少女リリカルなのはStrikers~誰が為に槍は振るわれる~

作者:nk79
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夢追い人
  第2話 心を許せない仲間

 
前書き
どうも約一か月ぶりです。
今回も今回でまた説明多くなっちゃいました(汗
それでは、第2話、お楽しみください。 

 
 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは焦っていた。
 普段は穏やかで心優しく理知的な女性なのだが、そんな彼女でもこのときばかりは焦らずにはいられなかった。
 なぜ彼女がここまで焦っているのか。それは先程送られてきた念話が原因だった。

 “彼”が来た。いったん部隊長室に戻ってきて。

 先程フェイトの上司であり、なによりも親友である八神はやてから送られてきた念話。
 裏もなにもない、額面通りの意味のその念話だが、それを聞いた時、彼女は自責の念のあまりその場で膝から崩れ落ちそうになったのだった。

 “彼”とはすなわち、今日来る予定になっている新人のこと。
 つまりは今日、自分が、部隊長室まで案内するはずだった隊員のことである。

 走るのと変わらないスピードで廊下を歩きながら、フェイトは自分を責め続ける。もっと早くロビーで待機していればよかったと。

 常識的に考えればあまつさえ約束の時間の一時間も前に来て、誰の断りもなしに勝手に隊舎内を歩き回った彼の方に責がある。
 だが優しいというか人がいいというか、フェイトはそうは考えられなかった。
 確かに普通は一時間も前に来るのはおかしい。だが、六課隊舎の敷地面積を考えれば一時間前に来る可能性を考慮にいれるべきではなかったのか。

 しかも今日来る新人は、あの首都防衛隊の隊員だという。
 あまりいい噂は聞かない隊ではあるが、それは見方を変えればそれだけ強い志を持った局員たちが集まった部隊なのだと捉えることもできる。
 ならば、これから自分が働く部署がどのような部署で、どのような局員たちが集まっているのか、それを無機質な文字の並ぶ書類の上ではなく、生きた空気の中で知りたいと思ってもおかしくないことであり、アグレッシブな人間なら一通り知っておくために隊の長に会う前に一通り隊を見て回りたいと思うかもしれない。
 自分はそこまで考慮にいれるべきはなかったのではないのだろうか――否。彼が隊舎内で迷子になり、自力で部隊長室まで辿り着かなければならなくなったこの状況を見れば、自分はそこまで考慮に入れなければならなかったのだ。

 そこまで考えが行き着き、フェイトは唇を噛みしめた。
 そもそも、事の発端からして自分に責任があるのだ。

 機動六課設立から一か月と少し。なぜこのような中途半端な時期に、新人を迎えることになったのか。それは現在のライトニング分隊の状況に原因がある。

 現在ライトニング分隊は、フェイトを隊長とし、副隊長にシグナム、そして隊員にフェイトの秘蔵っ子であるエリオとキャロの計4人で構成されている。
 無論これはただ単に縁者を集めたとかいう安直な理由で構成されたのではなく、各々の能力や、隊内での役割を鑑みて編成されたものである。

 が、にもかかわらずある点で問題が起きてしまった。
 デスクワークである。

 そもそも機動六課は、レリックと呼ばれるロストロギアに対応するための部隊という面の他に、少人数精鋭で構成された機動力に富んだ部隊の試験的運用という実験的部隊の側面も持っている。
 そのため隊員のデスクワークの中には、通常の部隊のものとは別に、実験的部隊特有のものも上積みされており、他の隊に比べて量的に多くなっている。
 だが分隊長であるフェイトはライトニング分隊の隊長としての業務の他に、執務官としてレリック事件の捜査と、法務担当官としての業務もあり、多忙を極めている。
 その上、分隊員であるエリオとキャロはデスクワークに不慣れであり、結果ライトニング分隊のデスクワークはギリギリの状態になってしまったのだ。
 無論それでもやらなければいけないことはきちんと期日以内にこなせているのだが、前線部隊の隊員という職務上、いつ事件が起き、そしてその報告書を上げなければならなくなるか分からない。
 もしそういった事態に陥った時、ただでさえギリギリの状態で回しているライトニング分隊が仕事をこなすことができるかと聞かれれば、答えは限りなく厳しいものになる。
 それを口実に自分たちの手の者を送り込む絶好のチャンスと見た地上本部が、ラディオン・メイフィルスを出向させた――それが今回、機動六課が新人を迎えることになった経緯である。
 
 無論、このことに関してフェイトに落ち度などない。
 むしろこれまで三足のわらじをはいた状態でよくやったと褒められていいくらいである。
 だが、生まれった持った性格というやつだろうか。彼女自身が許せないのだ。
 もっと効率よく仕事をこなすことはできなかったか?
 あの時間を仕事に回せばよかったのではなかったのか?
 もっと自分に余裕があれば、エリオやキャロ達に気を回すことができたのではないか?
 考えれば考えるほど自分を責める言葉しか浮かんでこない。

 だからこそ今回のこの失態はフェイトにとって止めの一撃といってもいいほどのものだった。
 それこそ部屋の隅に座ってひたすら暗く沈んでいたいくらいに。

 胸の内の暗い気持ちとは裏腹に足は慣れた道どりを順調に辿り、気づけばもうフェイトは目的地である部隊長室へと着いていた。
 心は依然自責の念で暗澹としていて、冗談でもこれから面倒をみることになる新人に会える状態ではない。だが、もう先延ばしにすることはできない。
 少しでもマシになればと、彼女は一度、深呼吸をして呼吸を整える。

「バルディッシュ、私、大丈夫かな?」

 部隊長室と書かれたプレートが掲げられた部屋の前で、フェイトは長らく連れ添ってきた相棒に尋ねる。
 その声はひどく弱々しく、不安げに揺れていた。

≪笑ってみてください≫

 主の心中を察しながらも、彼女の愛機であるバルディッシュは応える。
 いつもと変わりない無骨で無愛想、けれど力強くて暖かいその声に、少しだけ心が落ち着くのを感じながらフェイトは笑った。
 いつもみんなと――仲間といるときの笑顔を意識して。

≪問題ありません。大丈夫です≫
「ありがとう、バルディッシュ」

 短いやり取りではあったが、それでもフェイトの心はいくらか平静を取り戻した。
 いまだ好調には程遠いが、それでも先程よりは随分とよくなった。
 これならば初顔合わせ早々、不安げで自身のない顔を見せて新人を幻滅させることはないだろう。

 さぁ、行こう。

 心の中で気合いをいれ、フェイトは扉の隣にあるコンソールへと手を伸ばしボタンを押す。
 少しの間の後、どうぞという聞きなれた声がし、部屋のスライドドアがゆっくりと横へと滑る。

「失礼します」

 部屋に入りまず最初に見えたのは、親友であるはやての姿。
 いつも一緒にいるときとは少し違う笑顔を浮かべながら自分のデスクに座っていた。
 そして次に見えたのは、来客用のソファの前に立つ一人の青年。
 地上(りく)の制服に身を包んだ、白髪と黒目の部分に青の混じった瞳が印象的な青年。

 そうか、この人が……

「初めまして。今日からお世話になります。ラディオン・メイフィルスといいます。よろしくお願いします」

 こちらの視線に敬礼をする青年――ラディオン・メイフィルス。
 彼に合わせフェイトも敬礼を返した。

「初めまして。ライトニング分隊分隊長のフェイト・テスタロッサ・ハラオウンです」

 よくあるなんの変哲もない新人とその上司のやり取り。しかしこれまで何度も繰り返してきたそのやり取りに、フェイトはどこか違和感を感じていた。
 その違和感を頭の隅に押しのけ、フェイトは開いた手を彼に差し出したのだった。

「これから一年間、よろしくお願いします」


○●○●○●○●○●○


 差し出された手を取り握手を交わすフェイトとラディオン・メイフィルスを見ながら、はやては彼を受け入れる上での一つの不安が的中してしまったことを悟っていた。
 
(こりゃフェイトちゃん全然警戒しとらんな……)

 一応フェイトにもラディオン・メイフィルスが地上本部から送られてきたスパイであるかもしれないということはそれとなく伝えてある。伝えてあるのだがどうもこの様子だと、頭の片隅に置いてあるだけで、危機感を抱いてはもらえなかったようだ。
 昔から人を疑うことを知らないほど世間知らずではないのだが、どうにも身内を疑うことはできなかった。執務官という人を疑うことが仕事のような職についても結局それは変わらなかった。
 その純粋さはフェイトの美点であり、はやてにとってフェイトの好きな部分ではあるのだが、このような場合はもう少し腹黒くなってほしいとも思う。

(まぁ、そういう腹黒い役回りは私が担当すればええだけの話やけど)

 喉元まで出かかった溜息を胸に落とし、はやては軽く手をたたいて談笑する二人の注意を自分に向けた。

「ほな、役者も揃ったことやし、ラディオン君の仕事の説明でもさせてもらうわ」

 そう前置きした後にはやては少し間を置き、二人の顔が程よく緊張でしまったのを確認して本題を始めた。

「事前に首都防衛隊(むこう)で渡された書類にもあったと思うけど、いまライトニング分隊の方はデスクワーク周りの業務がパンク寸前になっとる」
「うぅ……。ごめん、はやて」

 自分の預かるライトニング分隊の現状の話になり、途端に暗い顔で謝り始めるフェイトに気にせんでええよ、と優しく声をかけ、話しを続ける。

「そこでや、ラディオン君には副隊長としてライトニング分隊に入ってもろうて、主に他の隊員()らのデスクワークの――」

 そこでいったんはやては言葉を区切り、自分でも嫌な顔だと思うようなにっこり笑顔を浮かべた。

「――“フォロー”を頼みたいと思っとる。もちろんなにをどこまで“フォロー”するかは、こっちのほうで決めるから、ラディオン君は気を回さんで大丈夫や」

 言うまでもなく、はやてが選んだこの“フォロー”という言葉はあくまで便宜上使っているだけで、実際には、彼を隊の運営の根幹に関わる業務から外すための体のいい方便である。
 本音を言えば猫の手も借りたい状況ではあるのだが、手を借りた猫に爪をたてられてしまっては元も子もない。
 こういうずる賢い政治家のような言葉回しができるようになってしまった自分を内心で嫌悪しながら、はやては視線を落としなにか考えている素振りを見せるラディオンの様子を伺った。
 今の“フォロー”という言葉に何も反応しないならそれでよし。後はこっちで適当に転がせばいい。
 だがもし、“フォロー”という言葉に反応したとすれば、その返しはおそらく――

「二つほど、質問をよろしいでしょうか?」
「どうぞ」

 指を2本立てる彼に穏やかな声で先を促しながら、はやては気を引き締める。

「先程フォローする分はこちらで決める、と仰いましたが、現場でこちらがフォローの必要があると判断した場合は、独断でフォローしても構わないでしょうか?」

 ラディオンの返しに、はやては内心予想通りとほくそ笑んだ。
 彼の返しは、ようははやての“フォロー”という言葉の定義を拡大解釈するもの。
 スパイとしては動いても咎められない範囲は広ければ広いほどいい。そしてその動ける範囲をあらかじめ、上の人間から言質を取れていればなおさらいい。
 そのことをキャリア持ちとして上の人間とやりあってきたはやては経験から学んでおり、“フォロー”という言葉を使う時点で、この返しは想定済みだ。
 もちろん、そう返された時のこちらの返しは準備済である。

「そうしてくれて構わんよ。ただ、どこをどうフォローしたかは、後で口伝でもええから報告してくれると助かるわ。こちらとしても、隊員の得手不得手は把握しときたいからな」

 もちろん、その後でフォローしたいうところはきっちりチェックさせてもらうけどな。
 最後の一文は心の中だけで付け足し、ラディオンの反応を覗う。
 彼は少しだけ考える様子を見せたが、こちらの答えに満足したのか立てていた片方の指を下げた。

「それではもう一つの質問を」

 はやてはそこで気を引き締めなおす。
 最初の質問は読めていた。だが、こちらの質問の方は読めていないかったのだ。
 つまりはここからは、台本なしのでたとこ勝負。
 少し体が前のめりにしながら、彼の一言一句、一挙手一投足に注意を傾ける。
 はやての注意を一身に受けながら、ラディオンは最後の質問を口にした。

「自分の仕事はデスクワークだけですか?それならすごい不満です」
「……」
 
 予想外の質問にはやての思考が止まる。
 ラディオンのこの質問。そのまま裏の心意を汲むのなら、他の仕事――おそらく具体的には戦闘方面だろう――もしたいということになる。
 だが戦闘に参加することに(スパイ)のメリットは少ないはずだ。
 戦闘というのはつまるところ結果さえでればいいという面がある。
 定式など存在しないしやり直しもきかない以上、意見を言ってもケチをつけていると一蹴されることも多い。
 しかも戦闘に出れば否が応でも目の前の敵に集中しなければならなくなり、現場からは全体が見えにくくなる。
 確かに現場でしか見えないものもあるにはあるが、その多くは戦闘の後に上げられる報告書を見ればある程度は把握できる。

 つまるところ彼のこの質問は、自分の仕事を余計に増やしてほしい、ということになる。

 いや、もしかしたら自分の考えが及んでいない裏の意図があるのかもしれない。
 はやてはそう考え、一度黙って彼の質問の分析を続けた。
 しかし質問をしたラディオンの方は、その沈黙が催促に思えたのだろう。さらに自分の話を続けた。

「自分は確かにデスクワークもできますが、本職は戦闘です。なのに今回の任務は、“デスクワークの補助”、とあります。一介の局員が人事に関して口出しするのは分不相応とは思いますが、これでは、なんというか……不満です」
「え、えぇっと……」

 だがはやての危惧はただの深読みのしすぎだったようだ。
 目の前できつく眉根を寄せるその姿は、どう見ても現状に不満な一人の少年そのもの。
 よくよく考えてみれば、確かに今回の出向での任務がデスクワーク周りだけというのは彼個人にとってはかなり不満だろう。
 情報量こそ少なかったが、事前に送られてきたパーソナルデータにも、彼が優秀な騎士であるということは明白だった。
 いくらデスクワークができるとはいえ、ただそれだけのためだけに他の部隊へ出向し戦線から遠ざけられるというのは、彼の優秀な騎士であるという自負心に泥を投げつけているのと同じ。

 つまるところ、先程の彼の質問は実際には質問ではなく、デスクワークだけしかやらなくていいなら他の人間にしろという抗議だったのだ。

 その結論に至り、考えすぎな自分にあきれて苦笑を浮かべた。

「いや、もちろん戦闘にも参加してもらうで。六課には優秀な人材を腐らせとく余裕なんてないしな」
「それに戦力は多いに越したことはないですしね!!」
「むしろこちらからお願いしたいくらいだよ」

 はやての答えにリインとフェイトも強く頷く。
 その様子と言葉に安心したのか、きつく結ばれていたラディオンの眉根も元の形に緩んだ。

「いえ、それならいいんです。こちらこそ失礼な態度と物言いをしてしまい、申し訳ありません」
「えぇよえぇよ頭なんて下げんで。説明不足やったこっちが悪いんやから」

 頭を下げようとするラディオンをはやては手を振って制止する。
 一瞬彼は中途半端な位置で止まった頭をそのまま下げるか上げるかで悩んだようだが、素直にはやての指示に従い下げかけていた頭を上げた。
 
「さて、以上がここでやってもらうラディオン君の仕事なわけやけど、納得してもらえたかな」
「はい。大丈夫です」

 先程のことがあったからだろうか。納得という部分に少しバツが悪そうな表情をしたものの、今度は素直にうなずいた。
 
「そか。なら早速で悪いんやけど、一つ仕事を頼みたいんよ」
「仕事……ですか」

 仕事という言葉に、ラディオンとフェイトは身構え、肩の辺りでふわふわと浮かんでいたリインはあっとなにか気づいたような顔をする。

「先程、機動六課の正式な後見人でもあるカリム・グラシア少将から、あるロストロギアの回収任務が下された。特別危険言うわけやないけど、場所が場所だけに、早めに回収してほしいいうことや
もちろん、ラディ君一人やのうて、他の前線メンバーも一緒や」
「場所が場所……ですか。市街地の付近とか、そういう感じですか?」

 説明に即座に反応し質問を返すラディオンに、はやては当たらずも遠からずやと笑った。

「ロストロギアの発見地点は、なんと――第97管理外世界地球の日本、海鳴市。うちら隊長陣の故郷や」



to be continued

  
 

 
後書き
いかがだったでしょうか?
個人的にはもっと引きうまくならないとな~とか思ったりしてます。
そこら辺のアドバイスとかくださると作者は泣いて喜びます!!

これからは少しリアルの方で忙しくなっていくと思われるので、月更新でいきたいと思っています。
それでは最後に、読んでくださった読者の方々に感謝を… 
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