ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第2章 滅殺姫の憂鬱と焼き鳥の末路
第23話 目覚め
「ちくしょう! どうしてイッセーが結婚なんて!」
「これは何かの間違いだ! もしくは誰かの陰謀だ!」
……何だ、これ?
俺は今教会らしき場所にいる。周囲には見知った人々。近くにいる松田と元浜は恨めしそうな表情で呪詛を吐いていたりする。本当になんなんだこれ?
「イッセー! 初孫は女の子だよ!」
「うぅ、立派になって! おっぱいが好きなだけのどうしようもない子だったのにいい嫁さんもらって!」
うっさいわ!? って嫁さん? え? 誰の? もしかして俺の!?
そこで俺はようやく自分の格好に気付いた。白のタキシード。そう、結婚式で新郎が着るあれだ。ってもしかして今俺の結婚式中!? 一体いつの間にそんなことに!? っていうか相手は誰だ!? もしかして俺の好きな、昔からずっと一途に想い続けた……!
「イッセー、落ち着きなさい。きょろきょろしてはダメ」
……え?
気が付くと隣にはウェディングドレスを着た女性が。顔がヴェールで見えないけど今の声って……。それにその鮮やかな紅髪は……。
そこで俺は見た。隣のウェディングドレスを着た女性の向こう、参列者の最前列の席にいる俺のあこがれの女性、火織の姿を。そして彼女と腕を組んでいる俺の知らない男の姿を。おい火織、誰だよその男? 俺はそんな男知らないぞ? なんで、なんで俺の隣じゃなくその男の隣にいるんだよ? どうして……俺はずっとお前のこと……!
「それでは誓いの口づけを」
「さあ、イッセー」
え……あ……ま、待って下さい部長、俺は、俺が好きなのは、あなたじゃなくて……
『随分と愉快なことになってるじゃないか、クソガキ』
!?
な、何だ!? 頭の中から声が!? だ、誰だ!? 俺はこんな声のやつ知らな……いや、知ってる? 知らないはずなのに身近な奴の声のような気が……
『そうだ。俺はずっとお前のそばにいた』
俺の、そば?
そこで俺は気付いた。目の前にいたはずの部長も、離れた所にいた火織も、たくさんいた参列者たちも、教会でさえなくなっていることに。そこにあるのはどこまでも続く闇のみ。一体どうなってやがる? 一体お前は誰なんだ?
『俺だ』
その言葉とともに目の前にそいつは現れた。大きな目、赤い瞳、耳まで裂けた口に鋭い牙。頭部には角が並び、全身を覆う鱗は灼熱の赤。巨木のような腕に足には凶悪な鋭い爪。そして大きく広げられた両翼。そう伝説上の、いやつい最近まで伝説上の存在だと思っていた生物、ドラゴン。龍巳もドラゴンらしいけど、こちらはまさしくドラゴンといった姿をしている。声に出していないけど俺の考えていることが分かったのか口の端を吊り上げたように見えた。
『そうだ。その認識で合っている。俺はずっとお前に話しかけていたんだが、お前が弱すぎたせいで、いつまでたっても俺の声が届かないでいた。やっとだ、やっとこうしてお前の前に姿を表すことができた。まったく、奴もそばにいるならお前を鍛えてくれてもいいようなものを。そうすれば今頃お前もあの女と同等の強さを身に着けていられただろうに』
ずっと話しかけていた? 奴? あの女? だ、誰のことだ?
『気にするな。過ぎたことだ。俺はただこれから共に戦う相棒に挨拶をしておきたかっただけだ』
相棒? 俺には相棒なんて……いや、まさか? お前もしかして……!
『そうだ、それでいい。あいつらから話は聞いているのだろう? それで正解だ。いずれまた話そう。なあ、相棒?』
そして気付いた。俺の左腕が赤い鱗に包まれ鋭い爪むき出しの異形な物になっていることに。
う、うあ、うああああああああああああああああああああああああ!?
ズッパァァァァァァァァァァァァァン!!
「痛ってえええええええええええええええええええ!?」
な、何事!? が、顔面がぁぁぁぁ!
「はぁ、やっと起きた? イッセー」
「うぇ!?」
か、火織!? なんでここに!? ってあれ? ここは俺の部屋? じゃあさっきまでのは夢? って
「火織? その肩に置いてるハリセンはなんだ?」
「何ってあんたが今言った通りハリセンよ? あんたが何時まで経っても起きてこないから……」
じゃあ俺の顔面が猛烈に痛いのはそのせいか!
「っていうかイッセー、一体どんな夢見てたわけ? 最初はニヘラっと気持ち悪い顔してると思ったらいきなり絶望したような表情になって、急に驚いたと思ったらうなされだしたわよ?」
「い、いや、なんの夢だったかな? っていうか火織、起こすの早過ぎないか? 外がまだ若干薄暗いんだが……」
「ハァ……、何言ってんのよ?」
そう言って火織は窓の外を親指でくいっと指した。何だ? 俺は不思議に思い窓の外を覗きこむ。するとそこにはジャージ姿の部長と白音ちゃんがこっちを見上げて……って!?
「忘れたの? 今日から早朝特訓よ?」
「や、やべぇぇぇぇ!」
か、完全に忘れてた! よく見たら白音ちゃんは頬をふくらませてるし部長は笑顔だけど額に血管浮いてるような……
「さっさと着替えて降りて来なさいよ?」
そう言って火織は窓から飛び降り……って何やってんのあいつ!? このくらいあいつにとって訳ないんだろうけど近所の目とか考えようよ!
俺は頭の中で文句を言いつつ急いでジャージに着替えるのだった。
「ほら、ペースが落ちてるわよ」
「ういっス・・・六十五・・・」
今俺は部長を背中に乗せて腕立て伏せ中。かなり辛い。今日はまず最初に20キロ近く走らされた。その時点で結構ヘロヘロになったのにゴールの公園に着いたら今度はダッシュ50本。この時点でかなり死ねるのにさらに部長を乗せて腕立て伏せ。正直もう体力の限界なんですが……
「ほらまた止まってる。それでは何時まで経ってもあの娘たちに追いつけないわよ?」
俺はその言葉に顔を上げる。俺達の視線の先では……
パシパシパシパシパシパシパシパシッ!
火織と白音ちゃんが組手をしていた。お互い一歩も動いてないけど両腕がまったく見えない。騎士のスピードに付いて行ってる白音ちゃんもすごいけど戦車のパワーに対抗できてる火織もスゲーな。いや、それ以前になんであいつらあんなに元気なんだ? 俺に付き合って早朝マラソンとダッシュを一緒にやったのに汗をちょっとかくだけってどういうこっちゃ?
「いつまでも止まっていない! 手を動かしなさい!」
「はい……六十六……」
うぅ……、ほんとに辛い。もう腕が限界。っていうか理性の方も限界。だって部長の柔らかい尻が背中に当たってるんだぜ? 男ならだれでも辛いだろ?
「腕立てはこれで終了。よく頑張ったわね」
「ハァ……ハァ……ハァ……」
な、なんとか耐え切ったぜ。よく頑張ったな俺の腕、それと理性。
「あ~あ、この程度で情けない。ほら、これで最後だからあと少し頑張りなさい」
そう言って火織が竹刀を投げてよこした。これって……
「最後にこの30分で私から一本取ってみなさい」
そう言って火織は片手で竹刀を構えた。火織から一本。今の体力じゃ無理に近いな。いや、万全の状態でも無理に近いんだが。……でも俺だってもう5年近く竹刀振ってんだ! 一本くらい取ってやる! 俺は剣道の基本に忠実な両手持ちで正眼に構える。
「来なさい」
「はぁ!」
俺は先手必勝とばかりに最速で面を打ちに行くけどあっさり受け止められる。っていうか俺両手なのになんで火織は片手で受け止められるんだよ!?
「そう、言えば、さ!」
「何?」
俺は竹刀を振りつつも少しでも火織の気を逸らそうと話しかける。
「前から、疑問、なん、だけ、ど!」
「うん」
「火織の、使う、七閃って! 本当、に!」
「……ねえ、竹刀振りながら話すのって今の体力じゃキツイでしょ。今話さなきゃいけないことなの?」
そんな事分かってんだよ! でも今の俺じゃこうやって火織の気を少しでも逸らせないと一本なんて取れそうにない! それにこの前からずって気になってるんだよ!
「……まったく」
そう言うと火織は一気に後退した。
「で、何?」
「……なあ、七閃って本当に抜刀術なのか? 最初はただスゲーって思ってたんだけどやっぱりおかしいって、一瞬で7回も斬撃を放つなんてさ。それにこの間の戦いで刀に触らずに斬撃飛ばして降ってくる岩斬ってたし」
「へえ、あの状況で白音に守られていたとはいえよく見てたわね。いままで七閃のカラクリに気付いたのは黒姉に龍巳、白音だけなのに(まああの娘達以外の強者には見せたことないからなんだけど)」
「じゃあやっぱり抜刀術じゃないのか?」
「さぁね? 知りたかったら」
ヒュン!
「おわ!?」
バシ!
あ、危ねえ。火織のやつ、一瞬で距離を詰めてきやがった。ギリギリ竹刀で受け止めたけどなんで片手でこんなに重いんだ!?
「私から一本取ってみなさい。そしたら教えてあげる」
「! ……上等!」
絶対一本取って聞き出してやる!
あれから30分火織相手に竹刀を振り続けた。結果は
「ハァ……ハァ……ハァ……」
一本どころかかすりもしなかった! 火織、強すぎだろ! 全国優勝は伊達じゃねえってか!?
今俺はもう体力の限界が来てベンチに寝転んでる。んでもって白音ちゃんが膝枕しつつ左手に持ったうちわで顔を仰ぎつつ右手を俺の体にかざして仙術で俺の疲労を回復してくれている。女の子に膝枕してもらえて嬉しいし、仰いでくれたり回復してくれたりしてありがたいから白音ちゃんには感謝なんだけど……出来れば火織にして欲しかったな。
「むぅ」
ギュウウウウウ
イ、イタタタタタタタタ! 痛い痛い! 白音ちゃん痛い! ほっぺたつねらないで! なんで考えてることバレたんだ!?
……でも今のは白音ちゃんに対して失礼か。好きな人に他の人に膝枕して欲しいなんて思われたくないよな。……好きな人、か。この間レイナーレに俺の思ってることぶちまけちまってから自分を騙すことができなくなってきた。そろそろちゃんとこいつらとも向き合わないとな。告白されても俺には断るしか選択肢がないから本当に苦しいし辛い。
「……お兄ちゃん?」
おっと、心配させちまったか。俺また顔に出てたか? 俺は安心させるように白音ちゃんの頭をなでる。
「……にゃ~♪」
気持ちよさそうだな。こうしてると本当に妹みたいで可愛いな。いや、どっちかというと猫みたいでか? ホント、俺にはもったいないくらいいい娘だよ、お前は。
……ゴメンな、白音。
そんなことをしていると火織と部長の話し声が聞こえてきた。
「初日にしては頑張ったかしら?」
「そうですね。なんだかんだで最後まで立ってましたし。昔から根性だけは人一倍ありますから。性欲もですけど」
「ふふ、彼のことよく分かってるわね。さて、今日の訓練も終わったしそろそろ来てもいいはずなのだけれど……」
ん? 誰かここに来るのか?
「すみませーん」
あれ? 今の声って……
「イッセーさーん! みなさーん! 遅れてすみませ~ん! ……はぅっ!」
「危ない! もう、本当にあなたはそそっかしいわね。見ていられないわ」
「はぅぅ、すみません。ありがとうございます」
そこには転びかけているアーシアとそれを支えるレイナーレがいた。
「イッセーさん、どうぞお茶です」
「ありがとうアーシア」
アーシアが持ってきていたお茶をもらって一息つく。少し横になったおかげでだいぶ楽になった。白音ちゃんが膝枕してくれているときに仙術で俺の体力回復を手伝ってくれていたからなんとか学校に行けるくらいには体力が回復してる。本当に感謝だな。
「ところでアーシア、どうしてここに?」
「今日からイッセーさんがトレーニングを始めると聞きまして、私もお力になりたいなって。私にはお茶くらいしか用意できませんでしたけど……」
「いや、ちょうど喉乾いてたんだ、助かるよ」
「ちなみに私はアーシアが危なっかしいから付き添いで来ただけよ。イッセーを助けに来たわけじゃないわ。そこの所勘違いするんじゃないわよ」
「へいへい、分かってますよ」
ハァ~、俺は一応こいつの主なんだけど、これが主に対する態度なのかね? まあ形式上だから俺も主面するつもりないけどさ。どうせここに来たのもアーシアが心配だったからだろ? そこの所、俺が勘違いするわけ無いだろう? お前ら友だちになってから本当に仲いいもんな。ちょっと前まで殺し殺される関係だったなんて誰も信じないだろうよ。
「……フン!」
グキッ!
「痛って!?」
こ、こいつ俺の足を思いっきり踏み抜きやがった!
「何すんだよ!?」
「フン!」
ああもうなんなんだよ一体!? アーシアも訳がわからずオロオロしてるじゃねーか! 部長もなんか言ってやってくださ……って
「部長? どうかしたんですか?」
部長は何かを考え込んでいる様子だった。それになんだか……悲しそう?
「え、ああ、いえ、なんでもないわ。それより2人共来たしちょうどいいわね。今日にしようと思っていたし、このままみんなでイッセーの家まで行きましょう」
へ? 俺の家? ちょうどいい? まあ俺は朝飯食べに戻るし火織と白音ちゃんもそうだけど、なんで部長とアーシア、それにレイナーレまで家に来るんだ?
「もう荷物も届いている頃でしょうし」
……荷物?
「な、なんじゃこりゃあ……」
俺の家の玄関前には大量のダンボールが積んであった。送り状も貼ってない無地のダンボール。ば、爆弾とか入ってないよな?
「さあイッセー、このダンボールを家の中にに運んであげてちょうだい」
「へ? 運ぶ? これを俺が……俺の家に!?」
「ええそうよ。だってこれはアーシアとレイナーレの荷物ですもの。紳士なら運んであげるべきだと思わない?」
「ちょ、ちょっと待って下さい! なんで2人の荷物が家にあるんですか!?」
「だって今日から2人はあなたの家に住むんですもの」
ゾワッ!
その時背後から浴びせられた、おそらく白音ちゃんの殺気に俺は震え上がって冷や汗が止まらなかった。
トンッ……トンッ……トンッ……
台所の包丁の振るわれる音がリビングまで響いてきてる。
今現在俺の家のリビングでは家族会議が行われていた。議題はもちろんアーシアとレイナーレの住み込みについて。部長が父さんと母さんを説得する形だ。
最初こそ部長はいろいろな理由を並べてぜひ兵藤家に二人を預けたいと言っていた。2人が是非とも俺の家がいいと希望したとも。アーシアは留学先の初めての友達として、レイナーレは天野夕麻と名乗り帰国子女で土地勘がなく友達であるアーシアと一緒にいたいという理由で。でも次第に誰も喋らなくなり今は全員顔を青くして黙り込んでいる。冷や汗もだらだらだ。理由の一つはリビングに居る白音ちゃん。
俺たち兵藤家と部長、アーシア、レイナーレは向かい合うようにしてソファーに座ってるんだけど、俺達の横に一人がけソファーがあって、そこには会議開始からずっと白音ちゃんが座ってる。ただし体育座りで膝に口元を寄せ、目だけが見える状態で。そしてその目は……正直に言おう、めっちゃ怖い。こうなんというかハイライトが消えてる。
白音ちゃん、一体いつからヤンデレになっちまったんだ? 俺首切り落とされたりしないよな? 前に白音ちゃんと一緒に見たアニメでそんなシーンがあったんだけど。父さんと母さんも多分白音ちゃんの気持ちを知ってるだろうから最初こそ白音ちゃんの不機嫌は当然と思ってたんだろうけど、話が進むにつれ白音ちゃんの機嫌が急転直下するもんだから途中からいたたまれなくなってきたよ。
でもまあまだ白音ちゃんは可愛いもんだと思う。だって
トンッ・・・トンッ・・・トンッ・・・
今なお台所からは包丁の音とともにものすごい不機嫌オーラが漂ってきてるんだから。色があったらもう真っ黒だよ。さすがの部長もこれには怯んでる。アーシアとレイナーレも若干涙ぐんでる気が……。ホントごめんね。
「そ、そのですね? そう言ったじ、事情もありまして、是非ともこの2人をこちらのお宅d『ズバン!』ひっ!」
……スゲーな部長。この空気の中まだ説得しようとしてるよ。一方台所からは
「いけないいけない。うっかりまな板ごと切っちゃったわ」
「黒歌お姉ちゃん、気を付ける」
黒歌姉と龍巳のいつも通りの仲のいい会話が。この空気の中いつも通りは逆に怖い。
神裂家の面々は両親が出張でいないためここ最近は朝晩と食事は俺の家でとってる。んで、黒歌姉は料理部に入るほど料理が得意なため母さんと一緒によく台所に立っている。そしてお姉ちゃん大好きの龍巳もよく手伝いをしている。そんなわけで急遽開かれた家族会議の間朝食の準備を任せたんだけど……失敗だったかもしれん。なんせ台所には包丁や火など危ないものがいっぱいあるんだよ。いつこっちに飛んでくるか気が気じゃない。
「で、ですから、お父様とお母様にはご了承頂けr『ベキッ!』っ!」
「ん、菜箸折れた」
「気を付けなさい龍巳。味噌汁が手に散ったら火傷するわよ」
「ん」
部長、今度は悲鳴を上げなかったな。ちなみにさっきの音は龍巳が味噌汁に味噌を溶かしてた時に使ってた菜箸を折っちまったようだ。龍巳なら手で溶かしても火傷はしないんじゃないかな~。 ←現実逃避
「あれ? まだやってたんですか?」
そんな中制服に着替えた火織がバスタオルで髪を拭きつつ入ってきた。くっ! もう上がっちまったのか! たまにうちのシャワーを借りることがあるんだけどその時はバスタオルを届けるなどの理由を見つけてすりガラス越しに火織のシャワー姿見に行くのに今日は行けなかった!
「火織……」
あ、部長がすがるようにして火織を見てる。部長の両サイドに座るアーシアとレイナーレも同様。もう部長、年上の威厳が全くないな。そしてすがられた火織はリビングの様子と、次に台所の様子を眺めると
「ハァ……」
状況を理解したのかため息をついた。そして
「いいんじゃないですか? 住まわせてあげても」
と言った。っていいのかよ!? その言葉を聞いた瞬間部長、アーシア、レイナーレはパァァと救われたような笑顔になった。まああの凄まじいプレッシャーから開放されたからな。さっきまでこの場を支配していたプレッシャーは今は火織に向かっている。
「火織!」
あ、黒歌姉が最初に動いた。
「年頃の男女が同じ屋根の下に住んでいいわけないじゃない!」
「そうは言うけどさ黒姉、私達だって寝る時以外はほぼいっつもこっちにいるじゃない。それでもイッセーは何も起こさなかったんだからこれからだって何も起きないわよ。それに二人の事情は知ってるでしょ? ここで放り出すの?」
「うっ! それは、そうだけど……」
「おじさんとおばさんはなにか問題ってあります?」
「いや、うちとしては娘が増えて嬉しいんだが……」
「はい、じゃあ決まり! この話はこれでおしまい! 白音、次シャワー浴びて来ちゃいなさい。その次はイッセーね。早くしないと朝ごはん食べる時間なくなっちゃうわよ。朝食はその間に準備しちゃうから。アーシアと夕麻は荷物ほどいて学校行く準備。部長も朝ごはんまだですよね? 良かったら食べていって下さい。ほらみんな! 早く動いて! 遅刻しちゃうわよ!」
その言葉にみんな急いで動き出す。た、助かった。黒歌姉たちはまだちょっと不満そうな顔してるけどそれでも渋々納得してくれてる感じだ。良かった良かった。一時はどうなることかと……って3人ともアーシアたちの方に? ま、まさか刺したりしないよな?
「アーシア、レイナーレ。負けないからね?」
「負けない」
「負けません」
……そういうのは俺のいないところで言ってくれよ。意味分からないふりするのにも限界があるんだぞ? それにアーシアもレイナーレもそんなんじゃねーって。出会ってまだ二週間も経ってないしそもそもレイナーレには好きな奴がいるんだぞ?
「……ふんっ」
「うぅ……私だって負けません!」
レイナーレはいつも通りだとして……アーシア? ちゃんと意味分かって言ってるか? って分かってたらあんな返事しないよな。まったく勘弁してくれ。こっちも顔赤くならないように耐えるの大変なんだぜ?
「ほら! そんなところに突っ立ってないでさっさと動きなさい! 遅刻するわよ!」
やべ! そうだった! みんなも慌てて火織の声に従って動き出す。なんかもう火織が家長って感じだなこれじゃあ。じゃあ俺は白音ちゃんがシャワーから上がるまでの間に着替えと学校の準備を済ましちまうかね!
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