ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第1章 動き出す日常と新たな仲間
第21話 レイナーレ
「お前の愛は薄汚れてる」
うるさい
「俺だって愛が何なのかはっきりと分かってる訳じゃねえ。でもてめえの愛が薄汚れてるってことくらいは分かる」
なんにも知らないくせに
「人から奪って、蹴落としてまで手に入れるもんが愛であるわけがねえ!!」
あんたなんかに
「そんな薄汚れちまったら愛なんて手に入るわけねーだろうが!!」
貴様のような幸せそうなガキに
「それでもまだてめえが愛を得られるなんて思ってんならもう一回愛がなんなのか……!」
今さらそんな事言われなくたって……そのくらい……
「考え直しやがれ!!!」
「分かってんのよ!!!」
ハァ……ハァ……ハァ……夢? ここ、どこ?
私は確か……そうよ、アーシアを悪魔どもに奪われて、奴らの本拠地からアーシアを奪い返したんだけどすぐに追いつかれて、儀式が終わる前にアーシアを開放されちゃって、私はあのチビの悪魔に全然かなわなくって、それで、それで……
「あいつに、ぶん殴られたんだっけ……」
そう、あのガキ。名前は確か兵藤一誠。あいつに宿ってる神器が計画の邪魔になるかもしれないからと殺す前に調査しに行ったら多分私より強い女どもに追い返されて、結局放置したら案の定アーシアを奪われちゃって、それでも本人自体はさほど脅威にはならないと思ってたらあろうことかあの赤龍帝。あいつに関わった時点で私には勝ち目はなかったとでも言うの? ……ホント、なんでこう何もかもうまく行かないのかしらね。私は……ただ……。
ガチャ
「よお、起きたんだな」
☆
……気まずい。
正直に言ってこの状況は想定してなかった。天野さんのこと、アーシアから聞いてた限りだとめっちゃプライドが高くて自分以外を見下してるやつだと思ってたからいろいろ罵倒してくるもんだと思ってた。もしくはいきなり襲ってくるとか。
何かあれば火織たちがすぐに飛んでくるって分かってるから俺も余裕を持ててるけど、あいつらがいなかったらこんな無茶しなかったな。次やったら絶対負けるだろうし。でも向こうもこっちが赤龍帝だって分かってるはずだからそんなに無闇に手出しはしないんじゃないかって予想も立ててた。実際の強さは別として。
とまあそんな感じに色々と考えた上でこの場に来たわけだが……この状況は予想外だぜ。天野さん、一言も喋らずにベッドの上で体育座りしてずっとこっちを睨んでる。こ、これ、一体どうしたらいいんだ? 俺から話しかけるべきなのか? 一体何を? いろいろと言いたいことはあるんだが正直どうやって切り出せばいいか分からねえ。
マジで参ったぜ。これなら罵倒されたほうが話の切り口が見つけられそうでまだマシだ。と、とりあえずなんか言って話しかけるべきか?
「あ、あのさ」
「なんであんたがここにいるのよ」
「……」
……話す気あんならさっさと言えよ。こっちが決心して話そうとしたら言葉被せてくるってどうなんだよ。
「聞いてるの?」
「ああ聞いてるよ。ここは俺の部屋なんだ。居て当然だろ」
「……なんで私があんたなんかの部屋で寝かされてたのよ」
「お前を消し飛ばそうとしてた部長に俺が頼んでお前の身柄を預かったからだ」
「……」
ん? なんだ? 天野さんが自分の肩を抱いて俺から離れるようにベッドの端に移動したんだが。
「最低。力に任せて女連れ込んで手篭めにしようなんて。これだから悪魔は嫌いなのよ」
「ちっげーよ!! なんでそうなんだよ!?」
「私みたいな美人を部屋に連れ込むのに他にどんな理由があるってのよ!?」
「自意識過剰だなおい!? つーかお前俺が好きな奴いるの知ってんだろうが! そんな奴がそんな事するわけねーだろ!」
「じゃあなんで敵の私を助けたりしてんのよ!」
「お前に言いたいことがあったからだ!」
「はっ! いっちょ前に説教でもするつもり!? ざけんじゃないわよ!」
「ちげーよ!」
ああもう! 話したら話したでなんでこうなるんだよ!? このままグダグダ言っててもしょうがないしここは一気に
「すまん! 悪かった!」
と言いながら頭を下げた。よし! 言ってやった!
「!?」
……おい、なんとか言えよ。いつまで俺に頭下げさせる気だ。
「……あんた、何やってんのよ?」
「見てわかんねーのか。頭下げてんだよ」
「そんなの見れば分かるわよ。なんで謝ってるのか聞いてるの。私の計画を邪魔してくれたことを謝ってるわけ?」
「それこそふざけんな。そのことに対して謝る気は毛頭ねえ。むしろお前がアーシアに謝れ」
「……じゃあなんだってのよ」
「それは……」
くっ、いざとなると言い難い。あまりにも自分がみっともなくて涙が出てくる。
「ちょっと、なんとか言いなさいよ」
「……俺が八つ当たりでお前を殴ったからだ」
「……はぁ? 何言ってんの? 頭おかしいんじゃない?」
「腹が立ったんだよ。お前が俺に似てたから。なんか自分自身を見てるみたいでさ」
「な!? 言うに事欠いて……! ふざけるな! 貴様のような恵まれてるガキが私と似てるって!? そんなわけあるか! 私が……今まで……どれだけ……」
「確かに過去お前に何があったかは知らない。けど知ってることもある」
「……何よ」
「同じように雲の上の存在に片思いしてるって点だ。お前が愛が欲しいって言ってたアザゼルとシェムハザって堕天使の総督と副総督なんだってな」
「……」
「俺の好きな人ってさ、お前よりは近しい人かもしれないけど、それども本来俺なんかが気軽に話せるような人なんかじゃねーんだよ」
「あんたの好きな人ってポニーテールで長い剣持ってる奴よね?」
「ああ。人間だった頃、まあついこの間まで人間だったわけだが、その頃俺はどこにでもいる高校生でさ、一方あいつは剣道で負けなしの全国のスターみたいな奴だったんだ。幼馴染でもなきゃ俺みたいな奴が接点を持つなんてありえなかったんだよ」
「……あんたとなんかじゃ月とすっぽんね」
「分かってんだよそんなこと。第一堕天使総督と下っ端のお前でも同じ月とすっぽんじゃねーか」
「うるさい。分かってるわよそんなこと。それにやっぱり私とあんたじゃ違う。私はアザゼル様やシェムハザ様に愛されたかったわけじゃない。誰かに私のことを愛して欲しかった。ちゃんと私のことを見て欲しかった。それで、私のことをバカにしてきた連中を見返したかった。私のことをちゃんと見てくれる人もいるんだぞって。ただ、それだけなのよ」
その言葉を最後に天野さんは膝に顔を埋めて黙りこんじまった。多分俺なんかには想像できないような過酷な人生を歩んできたんだろうな。
「なあ、そのお前をバカにした連中って……」
「……天使よ。まだ私が堕ちる前の時私は無能扱いされて虐められてたのよ。笑えるでしょ? 天使が子供みたいに寄ってたかって虐めなんてしてるのよ? なのに神の基準ではそれは悪いことじゃないみたいね。誰も堕ちたりしなかったわ。私がいくら祈っても尽くしても神は私に手を差し伸べてはくれなくって、辛くて、苦しくて、耐えられなくって……それでやり返したいって強く思った途端に私は堕ちたわ。実際に暴力を振るうあいつらは堕ちないのに私は思っただけで堕ちたのよ!? ざっけんじゃないわよ!!」
天野さんはまるで血を吐くかのように言葉をぶちまけた。
「私はその後行く所がなくて神の子を見張る者に身を寄せたわ。そこで出会ったのよ。堕ちてもなお真っ直ぐな目をしたあの方々に。私はあの方々の力になりたくて、私のことを見てほしくって必死に任務もこなしたわ。いつかあの方々の目に止まることを信じて」
「……ならなんで今回みたいなことになってんだよ。なんでお前は曲がっちまったんだ?」
「……結局私はあいつらの言う通り無能だったのよ。任務もまともにこなせずあの方々の目に止まるなんて夢のまた夢。諦めかけてた時アーシアのことを知ったわ。なら、もうそこに飛びつくしかないじゃない! なりふり構っていられるわけないじゃない!!」
……そういうことか。確かにこいつは俺とは違う。こいつはずっと一人ぼっちだったんだな。俺は……
「むしろなんであんたは曲がってないのよ。なんでそんなに真っ直ぐなのよ。あんただって振り向いてもらえないのは同じなんでしょ? なのになんであんたは……」
「俺にはあいつらがいたから。大切な幼馴染が……いや、違うな」
そう、違う。あいつらはただの幼馴染じゃない。だって……あいつらは……
「俺のことを、好きでいてくれる奴らがいたから」
そう、ほんとは気付いてた。黒歌姉が、龍巳が、白音ちゃんが、俺にどういった気持ちを持っているのか。でも俺は火織が好きだから、今の関係を壊したくなくって、自分を騙して、気付かないふりして……
「俺は火織が好きだからあいつらの気持ちに応えることは出来ない。だからせめて、あいつらに誇れる自分でいようって、あいつらが好きになったこと、後悔するようなことだけにはならないようにしようって、そう、思ったんだ」
「歪んでるわね」
「……かもな。自分でも嫌になる。んで、お前の姿がそんな自分と重なって腹が立った。だから八つ当たりだって分かってても殴らずにはいられなかった」
「そう……」
火織たちを家に上げなくてよかった。こんな話、絶対に聞かせられない。いつかはちゃんと言おうと思ってはいるんだけど、せめてもう少しこのまま……
「ねえ」
「ん?」
「あいつらは、あの後どうなったの?」
「気になるか?」
「……別に。お互い利用しあってただけだし」
「……お前の仲間の堕天使は全員捕縛。悪魔祓いは1人逃したけど残りは捕縛または死亡。捕縛した連中は堕天使と一緒に冥界に送られた。後日堕天使側に抗議と一緒に引き渡されるってよ。部長は向こうに引き渡された後向こうの軍法会議にかけられるだろうって。死は免れないだろうとも言ってた」
「……そう。……ねえ、私は?」
「部長は主犯格のお前をその場で消し飛ばそうとしてたけど俺が頼んでやめてもらった。こうして話したかったし、それに……お前には死んでほしくない」
「何それ? 安い同情のつもり?」
「そんなんじゃねーよ。ただ、お前がその想いを遂げられなかったらなんか俺も遂げられないって言われてるようで嫌だったんだ。だからお前にもお前の想いを遂げて欲しい、諦めてほしくないんだ」
「……随分自分勝手な理由ね。しかもこの状況でまだ私に諦めるなって……。私、向こうではもう犯罪者なんだけど?」
「それでもだ。よく言うじゃねーか、恋は障害が大きいほど燃えるって。だから」
そう言って俺は天野さんに手を差し出した。
「だから一緒にがんばろうぜ、天野さん」
励ます意味も込めて俺に出来る最高の笑顔を向けてみる。……ってあれ? なんで目を逸らすんだよ? 俺の笑顔そんなにダメだった? 顔も若干赤いし……もしかして怒らせた?
「……よ」
「え?」
「レイナーレよ、私の名前。天野夕麻はあんたに近づくために使った偽名。私の本当の名前はレイナーレよ」
そう言って天野さん、いやレイナーレは俺の手を掴んだ。
「おう、よろしくなレイナーレ。俺は兵藤一誠、イッセーでいいぜ」
「……ふん」
こうして俺達はお互いの想いを遂げるための協力関係になった。
☆
「二人の気の波長が沈静化してきたにゃん」
「邪悪な気も感じません。どうやら2人共もう寝るようです」
「そう、とりあえず心配してた事態にはならなかったっていうことかしらね?」
正直イッセーがレイナーレの助命を言い出したときはすっごい驚いた。私というイレギュラーが入っただけでここまで変わるものかな?
「イッセー、あの女、どうする気?」
「さぁねぇ~? 私たちは何話してたのかも知らないし、分かるわけないにゃん」
「明日また部室に集まることになってるんだし、その時に話してくれるんじゃない?」
「明日は折角の日曜なのに……」
「言わないの。帰りにまた遊びにどっか寄ってもいいんだし、ね?」
「はい」
はてさて、どうなることやら。全ては明日、ね。
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