ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第0章 平穏な日常と新たな家族
第3話 聖人少女と永遠の迷子
「珍しい。ドライグと魔獣の主、共に在る」
出会いは突然だった。それはある春の日のことよ。私とイッセーは無事幼稚園を卒園し、あと残すとこ数日で小学校に入学するという日のこと。
この所私は幼稚園に行く、剣道場に通う、魔獣創造の練習と多忙で、イッセーの相手は幼稚園と夜寝る前に少し話す程度になってしまっていた。
その結果……イッセーが拗ねた。
いや別に相手をしなかったわけじゃないし幼稚園でも一緒に遊んだりしてるんだけど、どうもイッセーは私と二人っきりでも遊びたいみたい。幼稚園ではみんなで遊んだりしてるんだけど、私が他の男の子と遊んでるとどうも積極的に絡んでくるんだよね。
……姉を取られたくない弟の心境?
まあとにかくそんなわけで春休みの今日は修行も一旦お休みにしてイッセーと近所の公園でめいいっぱい遊んであげていた。そんな時彼女は私達の前に現れて冒頭のセリフを投げかけてきたのよ。
歳は同じくらいで長い黒髪に何も写してないような漆黒の瞳。前面フルオープンで胸にバッテンシールをつけただけの、もうホントありえない変態的ゴスロリ服。もうこれだけで皆さんお分かりだと思う。
そう、無限の龍神オーフィスが私達の目の前に現れたのよ。外見が原作より幼いのは私達に合わせたんだと思う。
しかしなんでこう毎度毎度死亡フラグが舞い込むかな!? しかもあれだよね? さっきのセリフから私が魔獣創造持ってること明らかにバレてるよね!?
まずいまずいまずい! この娘自身はそんなに悪い娘じゃなかったはずだけど禍の団の首領だし、このままじゃ英雄派に私の居所が知られちゃう。それにこの娘、英雄派や冥府の王ハーデスに狙われてたよね!? そばにいたら私達まで狙われるんじゃない!?
「お前たち、強い力持ってる。お前たち我に協力する」
っていきなり協力しろ宣言キタ~~~! つまりこれって真なる赤龍神帝グレートレッドを倒すのに協力しろってことだよね!? ムリムリムリ! 絶対無理! なんで自分からそんな特大級の死亡フラグに飛びつかなきゃいけないの!? でも断ったら何をされるか「いいよ~!!」ってイッセーーー!? 何をあっさり了承してるの~~!? あんた何に協力させられるのか分かってないでしょ!? って分かってるわけないよね!! ああもう一体どうしたら……。
「じゃあいっしょにあそぼう!」
「???」
ってうおーい!? イッセーったらオーフィスの手を掴んで砂場に連れてっちゃったよ! 大丈夫なの!? ってなんかオーフィスも混乱してる? ……意外と大丈夫なのかしら?
「かおりちゃんもはやく~~~!」
ハァ~もうどうにでもなれ!
「いまいく~!」
取り敢えず今は一緒に遊ぼう。それで後のことは……まあ後で考えよう。今ここでジタバタしてもどうにもならないだろうし……。
なんか結局普通に遊んだ。最初こそ
「遊べば協力する?」
って言ってたんだけど、そのうちオーフィスは自分から積極的に遊ぶようになってきた。さすがは純粋で有名なオーフィスさん。やることなすこと興味津々ですか。もう当初の目的忘れてないかなこの娘? ずっと無表情だったけど、たまに少し笑うようになってきたよ? 今も必死にイッセーと砂山にトンネル掘ってるし。
やっぱりこの娘そんなに悪い娘じゃないよね。最強の存在故に今までこんな風に誰かと遊ぶということがなかったんだろうな。そもそも誰も積極的に関わろうとしなかっただろうし、まともにコミュニケーション取ったことあまりないんじゃないかな? 何万年と生きていようと精神はきっと生まれた時からさして成長していないと思う。
しかしそうなるとほんとこれからどうしようかな? 仲良くなったことだし今更無下にできないししたくない。 だからといって禍の団に所属してグレートレッドと戦うなんて選択肢ありえない。
……ホントどうしましょう?
「火織ちゃ~ん! 一誠く~ん! そろそろお昼ごはんよ~!」
☆
今日火織ちゃんと一誠くんは公園に遊びに行ってる。ここ最近の火織ちゃんは何かに取り憑かれたように剣道に打ち込んでたから、連れ出してくれた一誠くんには感謝ね。やっぱりあの歳の頃の子供なら外で元気にめいいっぱい遊んでほしいもの。
それに一誠くんも寂しかったんでしょうね。兄弟同然にいつも一緒だったのに、だんだんと火織ちゃんが自分の知らない世界に行ってしまって、1人になるのが怖かったのでしょう。それに私の想像では一誠くんは火織ちゃんのこと……ふふふ。知らないところで知らない男の子と喋ってるんじゃないかと思えばそれは気が気でないでしょうね~。
っとそろそろお昼の支度しなくっちゃね。今日は兵藤の奥さん、用事があって出かけてるから一誠くんもうちで食べていくんだったわよね。あの頃の子供はよく食べるし、少し多めに作ろうかしら?
さて、そろそろお昼なんだけどあの子達一向に帰ってこないわね。遊ぶのに夢中でお昼を忘れてるのかしら。火織ちゃんはふとした瞬間妙に大人びた雰囲気を醸し出すことがあるけれど、やっぱりまだまだ子供ね~。確か公園だったわね。それじゃあ迎えに行きましょうか。
いたいた、砂場で遊んでるわね。これはお昼の前にお風呂かしら?
「火織ちゃ~ん! 一誠く~ん! そろそろお昼ごはんよ~!」
「は~い!」
あらあら一誠くん泥んこね。でも一誠くんの後ろをついてくる火織ちゃんはあまり汚れてないわね。やっぱり女の子ってことかしら?
……あら?
「火織ちゃん、一誠くん。あの娘は? 見たことない娘だけどお友達?」
「うん! いっしょにあそんでたんだ!」
「あらそう。でもそろそろお昼ごはんだから一端家に帰りましょうね?」
「は~い!」
「……うん」
? どうしたのかしら? 火織ちゃんちょっと元気ないわね?でもまずはあの娘を家に帰さないと。
「あなたも一旦おうちに……」
私は続きが言えなかった。彼女は私が来てからずっと無表情だったけどその目は悲しそうな、そして寂しそうな雰囲気を醸し出していたから。お昼を食べたあとはまた一緒に遊べるんだからこのまま一度帰すべきなんだろう……けれど
「良かったらあなたも一緒にうちで御飯食べる?」
私はその時の彼女の浮かべた嬉しそうな、そして救われたような微笑が忘れられなかった。
近くで見ると火織ちゃんも一緒に来た女の子もやっぱり泥だらけだったので三人とも身ぐるみ剥いでお風呂に放り込んだ。ふふふ。やっぱり火織ちゃんもまだまだ子供ね。さて、三人の服は洗濯機に放り込んで替えの服を用意する必要があるわね。一誠くんの服は常に予備をうちに置いてるからそれでいいとして、問題は彼女ね。……背格好も火織ちゃんと似たようなものだし、火織ちゃんの服を貸せばいいかしら。
しかしこの服、改めて見るとすごいわね。恥ずかしくないのかしら? ……私は絶対に無理ね。
ところで……ふふふ。お風呂はいつにもまして賑やかね。新しい友達とも随分仲良くなったようだし、一誠くんったらモテモテね。
「「ごちそうさま~」」
「? ……ごちそうさま」
「おそまつさま。三人とも手を洗ってらっしゃい」
三人仲良く洗面所にいく姿はホントの姉弟みたいね。特に火織ちゃんと今日来た女の子は同じ黒髪ロングで今は同じTシャツを着ているから双子のよう。
「さて、三人はこれからどうするのかしら? また公園?」
「わたしのへやであそぶんだって」
「そう、じゃあ3時になったら降りてらっしゃい。おやつ出してあげるから」
「うん」
返事をすると三人は2階にある火織ちゃんの部屋へと上がっていったわね。さて、私もお昼の片付けをしましょうか。
……あら? いつの間にか寝ちゃったわね。時間は……6時!? いけない! もう子供たちを家に帰さなくっちゃ! 一誠くんのお母さんももうとっくに家に帰ってる時間じゃない!
「三人とも~! 降りてらっしゃ~い! そろそろ帰る時間よ~!」
「「は~い」」
三人とも降りてきたわね。一誠くんはお隣だからいいとして、もう遅いしこの娘は家まで送ってあげるべきね。
「君の家まで送ってあげるから、帰る場所教えてくれない?」
その時彼女の瞳は公園で見た時と同じとても悲しそうなものだった。
「……我、帰る場所ない」
世界から音が消えたかのようだった。一誠くんはびっくりしたような顔で彼女の顔を見ているし、火織ちゃんは悲しそうに目を伏せている。どうやら訳ありのようね。だったら……
「まずは一誠くんをおうちに帰してくるから火織ちゃんはその娘と一緒に待っててね。帰ってきたらちょっと一緒にお話をしましょう?」
「「!?」」
あらあら、二人ともびっくりした顔でこっちを見てるわね。その息の合い方、まるでほんとに姉妹のようね。……それにしても帰る場所がないって……どういうことかしら?
「それじゃあ今更だけど自己紹介しましょうか。私は神裂詩織。この娘、神裂火織のお母さんよ。あなたのお名前は?」
「我、オーフィス」
「オーフィス……ちゃん? 珍しいお名前ね。ご両親は日本人ではないのかしら?」
「違う。我、人間じゃない。我、龍。無限の龍神オーフィス」
そう言うと彼女は手のひらから黒い蛇を何匹も出してみせた。さすがにこれは驚くわね。でも……
「じゃあオーフィスちゃん。帰る場所がないというのはどういうこと?」
……あら? なんでオーフィスちゃんはそんな驚いたような顔でこっちを見ているのかしら? 今回驚くのは私の方なんだけれど。
「我、驚いた。詩織、我の力見ても驚かない。普通の人間、我の力見たら驚く。そして怖がる。なんで?」
「あらあら、これでも驚いているのよ? 龍って本当にいるのね?」
「ではなぜ怖がらない? 我の力、簡単に人殺せる」
「でもあなたは人を傷つけていないじゃない? 今日一日火織ちゃんや一誠くんと遊んでいたし。それに今だってその出した蛇で何もしないじゃない?」
「……」
「納得していないって顔ね? でもとりあえずその話は置いておいて、さっきの質問に戻りましょうか。どうして帰る場所がないのかしら?」
「……我の帰る場所、次元の狭間。我の生まれた場所。でもそこ、今グレートレッドいる。グレートレッド、我より強い。だから力いる。倒して次元の狭間に帰る。そして静寂を得る」
「そう。つまりあなたの生まれ故郷がグレートレッドさん? に取られて帰れないのね?」
「そう」
故郷に帰りたいっていうのは人も龍も同じなのね。でもそれは……
「ねえ、オーフィスちゃん。その次元の狭間という場所には何もないんじゃない?」
「そう。何もない。そこで静寂を得る」
やっぱりそうなのね。
「ねえ、オーフィスちゃん。今日火織ちゃんや一誠くんと遊んでどうだった?」
「? ……楽しかった」
「そう。……でもね? 次元の狭間に帰ったらもう二人と遊べないわよ?」
「……」
「何もない場所で静かに暮らす。それってとても寂しいんじゃないかしら?」
「……でも」
「?」
「でも我、帰る場所欲しい」
「なら今日からここがあなたの帰るお家よ」
「「!?」」
うふふ。オーフィスちゃんだけでなく火織ちゃんまで驚いてるわね。
「帰る場所がないのならここに帰ってくればいい。今日からここがあなたのお家。今日から私があなたのお母さん」
オーフィスちゃんは驚いた顔のまま、だけど少しだけ目が潤んでいるわ。私はそっと彼女を抱きしめてあげた。
「……我、人じゃない」
「知ってるわ」
「……我、何万年も生きてる。年上」
「それでもあなたは今日から私の娘よ」
「……我の名、人間と違う」
「あなたのお名前、誰かにつけてもらったの? それとも自分でつけたの?」
「違う。いつの間にかそう呼ばれてた」
「そう、なら……龍巳。龍に巳と書いて龍巳。あなたの名前は今日から神裂龍巳よ」
そう言った途端、彼女の体は少しだけ震えたわ。
「……我、ここにいていい?」
「もちろんよ」
「……う゛ん」
彼女の体はもう目に見えるほど震えていた。
「泣きたければ泣いてもいいのよ?」
でも彼女は顔を私の胸に押し付けつつ首を横に振るだけで泣き声は上げなかった。私はそっと彼女の頭を撫でてあげた。……きっと彼女はずっと寂しかったのでしょうね。周りの人たちはみな誰かとともにいるのに、自分だけはいつも一人ぼっち。龍が彼女だけということもないだろうから、きっと他の龍にも恐れられてきたのでしょう。だから彼女はもう何も見たくなくて、1人でいられる場所に行きたかったのでしょうね。私は彼女を抱きしめ、頭を撫で続けた。彼女の体の震えが収まるまで。
☆
オーフィ……じゃなくて龍巳が泣き止んですぐ、お父さんが帰ってきた。事情を話すと最初こそ驚いていたけれど、すぐに嬉しそうな顔になって新しい娘を歓迎した。それどころか
「俺が今日から龍巳のお父さんだ。さあ! パパって呼んでごらん!」
と言って龍巳を抱きしめていた。うん。うちの親って肝が据わりすぎてると思う。
ちなみにこの時龍巳がまた泣きそうになってたのは公然の秘密よ。そして私は今、龍巳と同じベッドで寝ている。まだ龍巳の部屋の用意ができていないからね。今は龍巳が私の胸に顔をうずめていて、そんな龍巳を私はそっと抱きしめている。すっかり甘えん坊になっちゃって。GLじゃないからね?
「火織、話がある」
龍巳が急に話しかけてきた。なんだろう?
「火織、力がある。それにイッセーも」
そのことか。さて、どうしようかしら。私が転生者でこの先の未来も知ってる……なんてこと言えないし、そもそも龍巳がここにいる時点で原作なんてめちゃくちゃだし、ここは……
「うん、しってる。アナイアレイション・メーカーのことだよね? それにイッセーにいるドライグ」
すると龍巳はびっくりしたような目で見上げてきた。今日は龍巳驚いてばっかりだね。
「こののうりょくがでてきたときに、あたまにいろんなちしきがはいってきたんだ(うそだけど)」
「そう、なら過去の赤龍帝、みんな不幸になったことも?」
「うん、みんなぼうそうしたんだよね? だからおとなになるまでだまってるつもり」
「大人になるまで?」
「うん、りゅうはちからをひきよせる。だからいつかはきっとしる」
「……そう」
龍巳、また悲しそうな顔してる。私達と同じようにイッセーのことも今では大切に思っているんだろうな。なんといっても最初に彼女を受け入れてくれたのは他ならぬイッセーなんだから。その証拠に昼に公園でイッセーに掴まれたところをじっと見ている。
「だからね、たつみ? わたしのこときたえてくれない? イッセーをまもれるように。ぼうそうしてもたすけられるように」
ふふ。鳩が豆鉄砲喰らったような顔してる。イッセーが不幸になるのを悲しむ気持ちはあっても、助けようという気持ちにはならなかった、いえ、なれなかったようね。まだまだ彼女の精神の成熟はこれからなのだから。でも
「分かった。我、火織鍛える。それに我、イッセーを守る」
そう思えるようになるのは意外と早いかもね。
この言葉を最後に私たちは眠りについた。
そうしてずっと迷子だった最強の龍神は、ようやく家に帰ることが出来たのである。
ページ上へ戻る