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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第四話

「何なんだこいつらは!」
「くそっ!一体どれだけ出てくれば気が済むんだ……!」

 黄金の一撃が打ち砕き、氷河の斬撃が切り払う。だが、輪郭のはっきりしない闇色の蛇たちは消え去らない。緑色の瞳をらんらんと輝かせて、いつまでもいつまでも増殖を続ける。

『十九八七六五四三二一〇
  いと尊き我が兄にこの誓いを捧げよう』

 響くのは漆黒の祝詞。こだまする邪悪なざわめきが、さらなる増殖を生み出していく。

『心せよ、旅人よ。
  緑の瞳の獣に出会ってはならぬ。
   なぜなら其れは嫉妬の亡霊。
    行きとし生ける者をねたみ続ける
     楽園の愚かな蛇の亡霊』

 影の存在するあらゆるところから、漆黒の蛇は姿を現し続ける。そして増えたそれらが生み出す陰から、さらにまた一匹、一匹とその数を増やしていくのだ。

 央都に向けて歩を進めるラーヴェイとコクトが、この不気味な闇の蛇たちと戦いを始めてから、既に二十分近くが経過している。ラーヴェイの《ギア》である巨大ゴーレム《イフリート》も、その輝く黄金の炎の威力を弱めてきたような気がする。コクトの《ギア》、《冥刀・(イテツキ)》の切れ味も、戦闘開始前と比べれば相当悪くなっている。

『――我が兄に、Gloria(栄光あれ)――
  《生餌求めし亡霊蛇(シャドウヴァイパー・オブ・エンヴィー)》』

 蛇たち個々のステータスは恐ろしく低い。切りつけるだけで霧散する。影の蛇たちの恐ろしい所は、いくら潰しても潰しても無限数に再び出現するところだ。すでに視界の大半は闇色の蛇の姿で埋まっている。

「イフリート!《ゴールド・スマイト》!!」
『ギガガガガガガッ!!』

 《イフリート》の黄金の一撃が、闇色の蛇を大きく減らす。だが、つぎの瞬間には空いたスペースに新たな蛇たちが流れ込み、彼らが抜けたところには新たに蛇が生成される。らちが明かない。どれだけ攻撃をしても消えないのであれば、勝てないのとほぼ同義である。

 上空を飛んでいく、という考えもあった。が、蛇はコクトやラーヴェイがジャンプして通り越せる距離をはるかに超えた場所まで出現している。唯一の頼みはイフリートの飛行機能だが、足元を蛇で覆われているために飛行することができないでいた。ちなみにこの蛇たちを切り払うことにも挑戦してみたが、すぐに新たな蛇が出現してしまい意味がなかった。

 響く漆黒の祝詞の声に聞き覚えがあった。《白亜宮》による全仮想世界への侵攻を宣言した少女、ノイゾ・イクス・アギオンス・レギオンビショップのものだ。恐らくはこの黒い蛇は彼女の能力。

 強い。コクトは無意識のうちにそう感じていた。蛇たちのことではない。彼らの操り手であるノイゾのことだ。個々の力は非常に弱い闇の蛇たちであるが、その尋常ではない数がコクト達を足止めするのに十分な力を発揮している。

 そう――――この蛇たちの目的は、恐らくコクトとラーヴェイの足止めだ。それが一体なんのための足止めなのかは分からないものの、その役割は確実に成し遂げている。現に、先ほどからほぼ全くコクトとラーヴェイはその場を動けないでいる。

 ノイゾは、無尽蔵に出現する小型のMobが、二人を足止めすることに最大限の力を発揮すると分かっているのだ。相当頭のまわる存在なのだろう。前回《白亜宮》内部に入った時に、一度だけ会ったが、その体が放つ重圧は非常に強大な物だった。

「ひゅるり、ひゅるり、なりひびく、さきひのみえないふぶきのよるぞ――――」

 祝詞を唱え、《凍》の力を解放する。猛吹雪を思わせる氷の斬撃が、漆黒の蛇たちを薙ぎ払っていく。さらにその斬撃の通った後が凍り付く。陣取りゲームの要領で、フィールドを使用不可能にする作戦だ。

 だが――――

「!?」
「馬鹿野郎、このウサ耳!」

 氷によって形成された影から、さらに蛇たちが姿を現したのだ。その数、数百余り。

「うおぁぁぁぁっ!?」

 たちまち飲み込まれたコクトとラーヴェイの悲鳴が、六門世界にこだました。



 ***


「このっ!何よ……せあっ!!」

 《妖魔槍》ソードスキル《アシッド・サンフラワー》五連撃。敵を追尾して攻撃する衝撃波を放つ、便利なソードスキルだ。だが、それが命中しても、影の蛇が姿を消すことはない。次から次へと、わらわらと湧き出してくる。

「気持ち悪いわね……このっ!!」

 続けて《妖魔槍》ソードスキル《ソリッド・カトレア》四連撃。旋回攻撃からの切り払い、切り払い、一発目とは反対向きに旋回攻撃。

「ハクナ!」
「はい!」

 ハクナが大きな弓に、光の矢を装填する。その数三本。リアルで再現できるのかどうかは、武術の心得などからっきしのコハクにはよくわからない。が、その矢は敵陣に飛び込むと、大きな水のたつまきを巻き起こした。

 ALO型《弓》ソードスキル、《メイルシュトロム・サジッタ》。ソードスキル使用による技御硬直時間(スキルディレイ)を、この世界では意志力で大分軽減できる。それを利用して、間髪入れずに次の弓ソードスキル。装填された光の矢が、鎌のように広がって蛇たちを薙ぎ払う。同じくALO型《弓》ソードスキルの一つ、《タイダルアロー》だ。

 それをしり目に、コハクも《妖魔槍》のエクストラ効果である衝撃波を飛ばす。薄紫色の衝撃波は、槍の振り方によってさまざまな形状に形を変えることができる。例えば、突き技をすれば槍の形の衝撃波が出現する。切り払いをした今回の場合、花びらを思わせる刃状の衝撃波が飛び、影の蛇たちを薙ぎ払った。

 それでも蛇たちは消えない。その数はいくばくか減ったような気がするが、しかし全滅とまではいかない。それだけでなく、奴らはオブジェクトの影から無限に増殖するのだ。オブジェクトの影を全て取り払っても、お互いの影からいつまでたっても出てくるだろう。

「どうしましょう……」

 弱気な表情を見せるハクナに、気丈に笑いかけてみせるコハク。

「大丈夫よ。きっと、なんとかなるから……」

 そう。何とかなるはずなのだ。セモンだって、ずっとそうやって戦ってきた。

 大丈夫。彼にできるなら、私にだってできる。

「ヤァァァァッ!!」

 そう信じて放つのは、《妖魔槍》最上位ソードスキル、《ネメシス・フラワー》。ありとあらゆる槍ソードスキルの総力を結集したそのソードスキルの連撃数は、長物にはあってしからざるべき二十八。アインクラッド第七十五層時点での《二刀流》最上位ソードスキルと言われた《ジ・イクリプス》の上を行く、コハクのもつ最強の技だ。

 だが、もっと先へ行かなくてはならない。もっと先へ。もっともっと。セモンのところまで。

「アァァァァァ―――――――っ!!」

 その時、ずっとずっと遠くの何処かで、歯車が一つ組み変わった。

 無数のソードスキルリスト。《妖魔槍》の項目に分類された、その最後の空白に、

 《バイオレット・ネメシス・ブロッサム》の名が、煌々と刻まれた。

 二十八連撃目を終えた《青乱》が、さらなる輝きを放つ。ソードスキルは、まだ終わっていなかった。



 ***



「……なぁガっさん」
「なんですか、カズ?」
「あんたは……どこまで強くなるんだ……?」

 カズは、目の前で繰り広げられる光景に、唯々絶句するしかなかった。

 突如出現した、無限に増殖する影の蛇たち。いくら攻撃しても倒しきれない彼らは、現在全く身動きが取れない状態にいた。

 それは、ハクガのスキルの能力。

 名を、《崩壊に回帰する水泡(オメガ・カタストロフ)》。あらゆるものを無へと還す、究極と言っていいスキル。蛇たちはこの水泡に取り込まれ、次々と存在を消滅させていった。もちろん、その増殖は止まらない。だが、増殖する端から、それらは水泡に取り込まれて消えていく。

 ただ、最大の問題は、増殖を続ける蛇たちのせいで、進むことができないでいる、という事だった。恐らくは他のメンバーたちも足止めを食らっているのだろうが、「足止めされている」という点に関しては自分たちも同じだった。早く全ての蛇が取り込まれてしまえばいいものを、最近では水泡を回避するようにもなってしまっている。

 なぜならば、この一方的な無力化が始まってから、もう二十分近くが経過しているのだから。

「さぁ?僕も自分の底力なんて見えませんから……というか自分でも驚いてるんですよ」
「だろうな」

 これだけの破壊をもたらすハクガの本質……。

 カズはかつてハクガに何があったのか知らないが、一体彼に何があったのだろうか……?

 その思案の間にも、影の蛇たちは塵へと回帰させられ続けるのであった。



 ***



 一方、正攻法で影の蛇たちを破壊する一行もいた。シャノンと刹那の兄妹である。

「オラオラオラオラァッ!!今日の僕は機嫌が悪いんだよ!!!どけや蛇ども!!」

 二本の巨剣を振り回して、蛇たちを吹き飛ばす。彼らの耐久値はチリ紙に等しいので、ビットをかすれさせるだけで消えてくれるのもうれしい。

「せぁぁぁっ!!」

 刹那の鎌が銀色に発光し、蛇たちを根こそぎ狩って行く。蛇や竜などのモンスターに有効なソードスキル、《ハルペースラッシュ》。影の蛇たちにも有効だったようだ。

「何が目的だかは知らないが……この程度で僕たちを止められると思ったら大間違いだぞクソどもが……ッ!!」

 悪態は、なかなか消去されない影の蛇に対する悪態だ。シャノンは意外とがまん弱い。同時にひどくケッペキショウだ。完璧主義でもある。『嫌われる人間のトップ3』を極めていると自負するシャノンにとって、この状況はまさしく嫌がらせ以外の何者でもなかった。

「お兄様!」
「分かっている!!くそっ……このクソどもがぁァァァァッ!!」

 ガシャガシャガシャッ!!と音を立てて、ビットが二刀に連結する。黄金の輝きを纏う巨剣を振り払い、《帝王剣》《太陽剣》複合ソードスキル、その最高位の物の一つを放つ。

「《シャマシュ・スヴァローグ》――――――ッ!!」

 二柱の太陽神の名を冠した破壊の一撃は、蛇たちを蹴散らしてシャノンを先へと推し進める。「僕に束縛は効かない」という、自負からくる圧倒的な意志の力でスキルディレイを叩き潰し、さらに連撃する。

「《アメンラー・インティカ》ァアアアアアアアッッ!!!!」

 黄金の光の奔流が、影の蛇たちを吹き飛ばす。それだけではない。爆心地を中心に、大地が抉れていく。

 近い。何かが近づいてくる。僕の中に力を満たす何かが。

 興奮が冷めない。ああ、このままならなんだって叩き潰せる気がする。

「刹那!行くぞ!」
「はい、お兄様!」

 荒々しく妹に叫び、シャノンは足を進める。従順な妹の態度が、少しだけシャノンを冷静にさせた。

 きっとこの興奮は、ひどく危険だ、と――――――――――。



 ***



 《白亜宮》の通路は、純白の一色だ。だが、その最奥部には、一か所だけ、凄まじい重圧で封印されている部分がある。ありとあらゆる神威と心意を以てして封じられたその場所は、究極の拘束所。

 それは、《主》の娘である皆徒の部屋よりもなお強き束縛。

 その部屋に唯一立ち入ることを許されているのも、当然のように《主》だ。白い神装束に着替え直した少年神は、昨日の午後からずっとこの部屋の中にいた。

 その部屋にいるのは、黒い癖っ毛を結んだ少女。無数の鎖に縛られて、目を閉じている。

「昨日で、一年になるんだよね。君を此処に封印してから。……うん。ごめんね。君の《影》は勝手に使っている。皆徒を喜ばせるためと……それと僕自身の慰めの為にも。……うん。ごめん。……ああ、怒らないで。僕が怒られるの嫌いなの知ってるでしょ……?……そっか。そうだよねー。《本尊》である君は《影》である彼女よりも憎悪が強いもんね……」

 そうして《主》は、ゆっくりと黒髪の少女に歩み寄り、その頬を撫でた。

「さて、悪夢の祭り(カーニバル)の始まりの時間だよ。いつまでも変わらない、永遠の《大好き》を……君に、与えよう――――――目覚めろ、ガラディーン」

 黒髪の少女が、その眼を開いた。

 瞳の色は、深い灰色だった。 
 

 
後書き
 お待たせしました、『神話剣』最新話更新です。鬼畜極まりないノイゾの攻撃と、色々キャラクターたちにも新能力が追加された今回の話でした。
刹「それにしてもお兄様はチート極まりないですね。何であんなに攻撃力高いんですか?」
 シャノンのSAOレベルは270越えだから。インフィニティーモーメントの上限突破しちゃってるから。
刹「はぁ……そんなわけで次回もお楽しみに」

 ……六門神の応募がないからしばらく遅くなるけどね。
刹「この駄作者……」 
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