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パンデミック

作者:マチェテ
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第六十二話「女性兵士と女性適合者」

 
前書き
投稿遅れて本当にすみません。m(__)m 

 
―――【レッドゾーン“エリア27”旧市街】


クレアは自身の隊を率いて、旧市街をひたすら疾走していた。
他の部隊の援護に加わるためだ。

エクスカリバーと適合者集団“レアヴロード”との戦いが始まってから、既に20分経過している。
適合者達を殺すか、撤退するか。
このまま戦闘が長引けば、エクスカリバー側の被害は甚大なものになる。

「(なんでこんなことをしたの………フィリップ……!)」

クレアは静かな怒りと悲しみを表情に表した。



『クレア、聞こえるか?』


クレアの通信機が、一人の兵士の声を拾った。

「ブランク?」

声の主はブランクだった。
通信機の音声をよく聞くと、装備品がガチャガチャと揺れる音と、整った息遣いが聞こえる。
ブランクもクレアと同じように走っているのだ。

『今どこにいる?』

「旧市街の南側。これから他の部隊の援護に回るつもり。ブランクは?」

『適合者を探している。見つけ次第、俺が殺す。いいか、適合者を見ても戦おうとするな。おそらく
適合者をまともに相手できるのは……同じ適合者の俺くらいだ』

「………分かったわ。でも、ブランクもくれぐれも無茶はしないで。少しは私達を頼ってね?」

『……………了解』

そこでブランクからの通信が途絶えた。
適合者と戦うつもりなら、少しでも自分達が手助けをしなければならない。
いくらブランクが強いといっても、一人では限界がある。

「(確かに適合者には勝てないかもしれない。でも、私だって精鋭部隊の一人なのよ、ブランク)」



「? クレアさん、あれ………」

クレア隊の兵士の一人が、ある方向を指差して立ち止まった。

「どうしたの?」

クレアは兵士の指差す方向に視線を向ける。



そこには、白いトレンチコートを着た女性が立っていた。
他の兵士達は怪訝な表情でその女性を見ているが、クレアだけはダガーナイフ数本を取り出し警戒する。

女性と目が合った瞬間、気づいた。
黄色い爬虫類のような眼。


「適合者…………!」

クレアの言葉を聞き、クレア隊の兵士達も一斉に武器を構え始めた。

白いトレンチコートの女性は、ポケットに手を突っ込んだまま動かない。
兵士一人一人の顔を睨み、首の骨を鳴らす。まるで喧嘩をする前の男のような仕草だ。

「ふーん……エクスカリバーの精鋭って結構平凡な顔してんのね」

女性はひどく退屈そうな表情でため息を吐く。

「………一応確認するけど、あなたは何者?」




「アタシは“ヴァルゴ”。スコーピオの部下の一人」

「……そう」


クレアの右手から、ダガーナイフが消えた。
正確に言えば、投げたのだ。投げたモーションは誰の目に止まることもなかった。
投げられたダガーナイフは、既にヴァルゴの目の前にあった。

しかしダガーナイフがヴァルゴの顔に突き刺さる直前………

「危なっ!」

ヴァルゴはいつの間にか空中にいた。
空中で身体を捻り、ダガーナイフの直撃をギリギリで回避していた。
そしてヴァルゴの片足が地面に着いた瞬間、凄まじい勢いでクレア達目掛けて疾走した。
咄嗟にクレアは後ろに下がるが、クレアの近くにいた兵士がヴァルゴの接近を許してしまう。

「っ! 逃げ……」

クレアが兵士に逃げろと言うが、遅かった。
兵士との距離を詰めたヴァルゴは、走ってきた勢いを殺さずに掌底を見舞う。

兵士の首からゴキャリ、と嫌な音が鳴り、白目を剥いて倒れた。

「クソ! よくも……」

兵士の一人が、仇を討とうとナイフを構えた。

ヴァルゴは掌底から再び身体を捻り、強烈なローリングソバットを食らわせた。
踵が兵士の下顎に当たり、顎関節ごと頭蓋が割れ、兵士は派手に吹き飛び絶命した。

「なんだコイツ!? 滅茶苦茶速え!」

「クソ! 急いで応援を……」


「待ちなさい! 君達は撤退して!」

残った兵士達にクレアは命令を出す。

「クレアさん、しかし!」

「君達じゃ適合者を相手にできない。君達を死なせるわけにはいかない」


「ずいぶん優しいんだねぇ、女兵士さん!」

ヴァルゴが走り出す。その先にはクレアの方を向いた兵士。ヴァルゴは既に拳を構えている。

クレアは兵士の襟首を掴み、その場からどかす。
そして反対の手に忍ばせておいたダガーナイフを突き出し、ヴァルゴの拳を刺した。


「絶対に殺させない………!」

「…………やるじゃない、女兵士さん」


「早く撤退しなさい……2度も同じことを言わせないで」

「そうよねぇ……消えな雑魚共。女同士の争いに手出ししないで頂戴」


「クソっ……! 他の部隊から応援を呼んできます! どうか……ご無事で!」


そう言って、残った兵士達は撤退を始めた。

「(他の部隊の援護に回るつもりだったのに……逆に迷惑をかけてしまうなんて……)」



「さて、女兵士さん。アタシの拳貫いたんだから、死ぬまで遊びに付き合ってもらうわよ」


ヴァルゴは拳に刺さったダガーナイフを見たまま、ニタリと笑った。 
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