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パンデミック

作者:マチェテ
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第六十一話「異質な適合者」

 
前書き
引っ越しの準備とか試験の準備とか……本気で忙しくなってきたな……
でも投稿しますよ! 読んでくれる人がいる限りは! 

 
―――【レッドゾーン“エリア27” 中央広場】


タガートと彼の部隊の兵士4人は、中央広場に足を踏み入れた。

「………懐かしい場所に来たもんだ」

かつて集合予定ポイントとして活用され、負傷した兵士や戦死者が次々と担ぎ込まれた場所。
今となっては人気もなく不気味なほど静かな場所であるが。

タガートは簡易テントだったボロ布を掴み、じっと見つめた。
そのボロ布には、黒い血の染みが大きく付着していた。
それを眺めるタガートの眼は、静かな悲しみに満ちていた。


「いつまでこの悲しみを繰り返せばいい? フィリップ、お前はこの惨状に加担するつもりか……?」




「タガートさん……………」



誰よりも冷静な兵士が見せた静かな悲しみと怒り。

仲間だった人物を殺さなければならない悲しみ。
戦火を広げようとする裏切り者に対する怒り。

「(分かっている………どちらを優先させるかなんて既に決まっているだろう)」


フィリップは裏切った。
そしてこの惨状に加担している。
その事実が示すやるべきことはたった一つ。

フィリップを“スコーピオ”と認め、裏切り者として殺す。


「……俺はもう覚悟ができた。お前達もできたか?」

タガートは自分の隊の兵士達に覚悟を問う。

「自分達は既に“タガートさんを支える”と決めています。判断はタガートさんにお任せします」

兵士達は全員真っ直ぐな眼でタガートを見つめていた。















「…………………いい面構えだなぁ。兵士共」


タガートと兵士達は全員、武器を構えて声が聞こえた方に視線を向ける。
しかし、そこには誰もいなかった。

「………………ここだよ馬鹿」

今度は耳元で声が聞こえた。
タガートが振り向くと、そこには先程までいなかった黒コートの白髪の男が立っていた。
爬虫類のような赤い眼が、タガートをじっと見ている。

タガートは驚きを表情に出すところだった。
冷静さを保とうとするが、冷や汗が止まらない。武器を握る手に力が籠る。

「…………………ふーん、驚いてはいるが反応が悪いな。冷静さを保とうとしているのか」

黒コートはタガートの状態を淡々と分析した。

「何者だ? お前………」

黒コートはポケットに手を突っ込んだまま、無気力な調子で答えた。






「………………………“アクエリアス”とでも呼べ。今はそう名乗ってる」


タガートと兵士達は警戒心を限界まで強めた。
当然だ。今目の前にいるのは“適合者”なのだから。
感染者よりも突然変異種よりも厄介な存在。

「そうか……本部防衛作戦の時は世話になったな。お前達のせいであの後面倒が山積みだったよ」

「……………その時は参加しなかったが、それはすまなかった」

「お前達は何が目的だ? 何故、人類の敵になる? お前達だって元は人間だったはずだ」

「…………少し違うな。我々は“人類の敵”じゃない」





「………………現在の“感染地域の隔離”と“人類の維持”だけで世界を維持していくのは非合理的だ」


「…………感染する人間を絶やせば、コープスウイルスによる被害は無くなる」


「…………………人類がいなくなった後の世界を立て直すのは我々適合者の仕事だ」




アクエリアスの話を聞いたタガートは、スコーピオの考えを理解した。
それを一言で言うならば“歪み狂った正義感”。

どういう経緯で適合者になったのかは分からない。
しかし、適合者になったフィリップの中で正義感は歪んだ。
残酷な現状と、それを覆す怪物のような力が、フィリップを“スコーピオ”に導いた。

「お前達のリーダー……スコーピオだったか? 彼はそれが正義だと信じているのか?」

その質問にアクエリアスは面倒そうに答える。

「……………さあ? 適合者になったってだけで“レアヴロード”に入れられた自分にはさっぱり……」

それを聞いたタガートは拍子抜けした。
なんなんだ、こいつは。
今まで戦ったどの敵よりも強いだろう。目の前の男から感じられる気配はかなりのものだ。
だが、敵意や殺意といったものがまるで感じられない。
こいつは本当に俺達を殺す気があるのだろうか?

「…………自分は面倒が嫌いでな。戦闘行為やその他の仕事は他人任せだ」




「………………だが、まあ………指示された以上は……仕方ない」


タガートは咄嗟に回避行動をとった。

直後、アクエリアスの指がタガートの頬を掠めた。

「ッ!?」

前転して体勢を立て直したタガートの視界に入ってきたのは………


左手を突き出したままこちらを見つめているアクエリアスの姿。
引っ掻こうとしたのか、頭を掴もうとしたのかは分からないが、明らかに殺すつもりの攻撃だった。
今の今まで感じられなかった殺意が、一瞬だけだが背筋が凍るほどに増大した。

「お前………一体……!?」




「……………………各地で同類達が戦闘を開始したようだな……面倒だが、まあ……仕方ない」




「………………死ぬ気で来い、雑魚共」



アクエリアスの表情が激変した。
全てが面倒臭いといった無気力な表情が嘘のようだ。
“殺してやる”という意思が明確に分かる表情に変わっていた。


「ぼさっとするな。武器を構えろ。こいつは今まで戦ってきた奴らとは違う」

タガートの指示で、兵士達は一斉に武器を構えた。



「………………いい面構えだなぁ。兵士共」


歪な笑みを浮かべ、指の骨を鳴らす。

その笑みを見た瞬間、タガートは言い様のない違和感を覚えた。



こいつは何かがおかしい。
しかし、何がおかしいのか上手く説明ができない。

違和感を抱えながら、タガートは異質な適合者“アクエリアス”と対峙した。 
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