アイシャドー
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第三章
第三章
「モスバーガーなんだけれどね」
「ああ、あそこなのね」
「そこのハンバーガーがよくて」
モスバーガーは作っている人間まで紹介するところに特徴がある。
「それでどうかなって思ったうんだけれど」
「いいわね。それじゃあ」
「うん、行こうね」
「ええ」
内心不満を覚えながらも友樹の誘いを受ける唯だった。そうしてそのうえでその日はモスバーガーに行った。それから暫くしてまたトイレで女の子同士化粧をしながら話すのだった。
「で、この前は少し工夫してね」
「どうしたの?」
「これこれ」
一人が自分の頭の左の部分を得意そうに指し示してみせる。そうして言うのだった。
「これね。見て」
「ってただのリボンじゃない」
「それがどうかしたのよ」
「これをさりげなく見せたのよ、さりげなくね」
「さりげなく?」
「そう、さりげなく」
だが言葉は露骨であった。
「見せたのよ。そうしたら最初はこれに気付いてくれてね」
「それからは?」
「どうなったの?」
「いや、一つ気付いてくれたら後はどんどん気付いてくれるのね」
「一つからなのね」
「そうだったのよ」
明るい顔で皆に話すのだった。
「もうね。それだけでね」
「ふうん、そうなんだ」
「それだけでなの」
皆それぞれ彼女の言葉に頷く。話を聞くと興味が湧いて仕方がないといった感じだった。
「じゃあ私もやってみようかしら」
「私も」
「唯はどうするの?」
そしてここでもまた一人が彼女に顔を向けて尋ねてきたのだった。
「あんたは。どうするの?」
「そうね。とりあえずはね」
唯は少し考えてからその問いに答えるのだった。
「目かしら」
「目って!?」
「私今目は睫毛を伸ばしてるだけじゃない」
実際のところこれは誰でもやっているものである。睫毛を伸ばしてそれで長く見せるのも女の子の化粧の基本の一つであるのだ。
「それだけじゃなくてね」
「ああ、アイシャドーね」
「そう、それよ」
それだと答えるのだった。
「アイシャドーも考えてるんだけれど。どうかしら」
「いいんじゃない?それ」
「っていうかあんた今までアイシャドーしてなかったの」
「うん、実はそうなのよ」
自分の目を鏡で見ながらの言葉だった。
「アイシャドーはね。してないのよ」
「また何でなのよ」
「どうしてアイシャドーしてなかったの?」
皆はそのことをすぐに唯に突っ込みを入れるのだった。
「そんなの基本じゃない、アイシャドーなんて」
「それしてないなんて」
「何かいらないかなって思って」
唯はだからだと言うのだった。
「それでしてなかったのよ」
「あっきれた。アイシャドーしてないなんて」
「それしてなかったらそれこそ鰻の入ってないうな丼よ」
こうまで言う女の子までいた。
「何の意味もないじゃない」
「っていうか鰻がなければそれこそただの御飯じゃない」
唯はその鰻の入っていないうな丼という例えに突っ込み返した。
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