美しき異形達
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第十六話 黒蘭の力その五
「じゃあ止めを刺させてもらうよ」
「止めねえ」
「そう、これでね」
こう言ってだ、再びだった。
怪人はその胸から再び鱗を一斉に放たんとしてきた、だが。
それより速くだった、薊は痛みを堪え上に跳び。
棒を両手に持ち大きく振り被ってだ、そのうえで。
その棒にこれ以上はないまでの紅蓮の炎をまとわせてだ、その棒で。
怪人の頭を打った、棒は鱗を放つことに集中していて隙が生じていたその脳天を打った、ぐしゃりと嫌な音が聞こえる様であった。
その攻撃を受けてだ、怪人の背に符号が出た。薊の星の符号が。
薊はその符号を見つつ怪人の前に着地した、鱗は虚しく空を切っていた。
その鱗達を背にだ、薊は怪人に言った。
「勝ったね」
「うん、残念だけれどね」
「言ったよな、あたしが勝つって」
「まさかまだそこまで素早く動けるなんてね」
「これ位は平気だよ」
痛い、しかしだというのだ。
「我慢出来るさ」
「強いね」
「強いから勝つんだよ」
こう返す薊だった。
「勝負ってのは強い方が勝つんだよ」
「確かにその通りだね」
「そうだよ、じゃああたしの勝ちってことでな」
「うん、それじゃあね」
「消えるんだな」
「さよならと言っておくよ」
怪人はこう言ってだ、その身体を灰にして。
消えていった、薊は怪人が消えていくのを最後まで見届けてだった。裕香に顔を向けて微笑んで言った。
「勝ったぜ、今回も」
「ええ、けれど」
「胸の傷だよな」
「大丈夫なの?」
「いや、何かさ」
「何か?」
「急にな」
どうかというのだった、右手で自分の胸をさすってみて。
「痛くなくなってきたよ」
「えっ、どういうこと?」
「傷がさ」
怪人から受けたそれが、というのだ。
「急に治ってきたっていうか」
「そうした感じなの?」
「ああ、どういうことなんだよ」
「傷が回復しているのよ」
ここでだ、既に闘いを終えていた黒蘭が薊に言ってきた。
「だからよ」
「おいおい、傷がかよ」
「力に目覚めるということはただ敏捷性や力が強くなるだけではないわ」
「回復力もかよ」
「これまでとは全く違うまでにね」
上昇するというのだ。
「そうなるから」
「ちょっと見てみるな」
薊は黒蘭の言葉を受けてだ、とりあえずは。
ネクタイを外しブラウスをはだけさせた、わりかし大きなしかも張りのある健康的な胸は。
もう傷は治っていた、傷跡も残っていない。ブラウスもブラも確かに切り裂かれているが。
傷は何ともなかった、ただ血が付いているだけだ。勿論その血も止まっている。
それを見てだ、薊が驚いて言った。
「おいおい、何ともなくなってるよ」
「そうよ、力に目覚めたからよ」
「回復力も段違いか」
「そうそうな傷や怪我は何ともなくなっているわ」
「それは凄いな、じゃあこれからの闘いも」
「滅多なことでは死ななくなっているわ」
実際にそうだというのだ。
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