戦国異伝
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第百七十話 信長と信玄その十
「無論わしもじゃ」
「殿もですか」
「うむ、敵はあまりにも強い」
武田も上杉も侮てはいない、それがよく出ている言葉だ。
「だからな」
「では殿も上杉との戦に向かわれますか」
「当然じゃ、上杉謙信もまた強い」
信玄と同じくだ、彼もまたというのだ。
「あの者との戦にも出ねばな。そして武田も上杉もな」
「双方共ですか」
「既に鉄砲を今よりも作らせ買うことを進めておるな、それにじゃ」
「あれですな」
「うむ、あれも使う」
信長は丹羽に強い声で言うのだった。
「本願寺に対してもな」
「本願寺との和議が切れれば」
「その時はまた戦じゃ」
石山に今も立て篭っている、戦が再びはじまるのは誰の目にも明らかだ。それで信長は既にその用意も進めているのだ。
「石山も他の家もじゃ」
「その時に」
「あらかた降す」
これが信長の考えだった。
「後でな」
「機が来れば」
「そういうことじゃ。その為にもな」
今はというのだ。
「武田は防ぐぞ」
「さすれば」
「その為にも食うのじゃ」
今は飯を、というのだ。
「ではよいな」
「はい、ではそれがしも」
「たんと食え」
飯をだというのだ。
「やはり食ってこそじゃ」
「食わねば力が出ませんな」
「兵達もな。たらふく食わねばな」
どうにもならない、信長は言う。
「では食うぞ」
「それでは」
丹羽は応えた、そしてだった。
織田の者達は皆飯をたらふく食った、それは武田もだった。幸村は今信玄と共に鍋を囲んでいた。無論他の将達もいる。
その中でだ、幸村は信玄にこう言うのだった。
「いや、この鍋は」
「美味いのう」
「猪ですな」
「そうじゃ、その肉じゃ」
その鍋を食っているとだ、信玄は幸村に答えた。
「余計に力がつくな」
「左様ですな、では」
「明日は戦ぞ」
「思う存分戦います」
「源助、それでじゃが」
ここで高坂に顔を向けてだ、信玄は彼にも言った。
「御主にじゃ」
「この度の戦では」
「後詰を頼むぞ」
「いざという時のですか」
「うむ、やはり後詰は御主じゃ」
武田家の家臣達の中でだ、後詰は彼が最もよいというのだ。
「だからな」
「その時は」
「うむ、頼んだぞ」
「わかりました、それでは」
「その時は御主にの後詰を命じる」
信玄は幸村にも顔を向けた。
「よいな」
「さすれば織田の者達を寄せ付けませぬ」
「頼むぞ」
「畏まりました」
幸村も確かな顔で応えた。
「それがし、後詰も務めましょうぞ」
「十勇士達と共にじゃな」
「あの者達がいれば」
十勇士、彼等がだというのだ。
「それがしに恐れるものはありませぬ」
「御主の忠実な家臣達か」
「家臣達であると共に」
それに加えてというのだ。
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