戦国異伝
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第百七十話 信長と信玄その十一
「友であります」
「友か」
「左様です、我等は」
幸村と十勇士はというのだ。
「まさにそうした絆です」
「そうか、では御主はよき友を持ったな」
「まことに」
「しかも十人もな。それだけの友を得られるとは」
このことからも言う信玄だった。
「やはり御主は天下一の漢になれるわ」
「それがしがですか」
「そうじゃ、なれる」
まさにだ、天下一の漢にだというのだ。
「御主はな」
「それがしの望みは一つです」
ここで幸村は信玄を見据え熱い声で言った。
「たった一つであります」
「ではその一つの望みは何じゃ」
「御館様が天下を治められることです」
これこそがというのだ。
「それだけであります」
「御主のことはよいのか」
「それがしは武田の臣です」
それならというのだ。
「そう願うのが道理ではありませぬか」
「名や富はいらぬか」
「いりませぬ」
そうした多くの者が欲しがるものもだ、幸村は興味がなかった。
「官位も権勢もです」
「どれもか」
「はい、いりませぬ」
そうしたものは一切というのだ。
「ですから」
「わしの天下か」
「そして天下を泰平にされることが」
「禄もいらぬか」
「食えるだけあれば」
彼とその家臣達がというのだ。
「いりませぬ」
「まことに無欲じゃな」
信玄は幸村のそのことにも唸った。
「御主は」
「左様ですか」
「うむ、しかしその無欲もまたよし」
「漢としてですか」
「御主程無欲の者はおらぬ」
こうまで言う信玄だった。
「そしてその無欲さでじゃ」
「男の道を歩めと」
「存分にな」
そしてだというのだ。
「果てまでな」
「登るのですな」
「そうせよ」
こう言うのだった。
「ではよいな」
「わかりました」
「御主の天下はそれになるな」
「天下人になることだけが天下でありませぬか」
「天下は一つではない」
はっきりと言った信玄だった。
「それはな」
「多くあるのですか」
「例えば茶じゃ」
信玄は茶にも通じている、歌や古書にも通じている。この辺りの深みが信玄という人物を形成しているのだ。
「茶にしてもじゃ」
「天下ですか」
「利休殿がはじめられたな」
「それがしも近頃茶をしていますが」
「どう思うか」
「まだよくわかりませぬ」
素直に答えた幸村だった。
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