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戦国異伝

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第百七十話 信長と信玄その九

「麒麟も獅子も加わる、天下はな」
「その神獣達を従えた殿のもの」
「殿が泰平にされますな」
「戦国の世は終わりじゃ」
 そしてだというのだ。
「泰平の世になるのじゃ」
「ですな。では」
「天下泰平の為に」
 彼等は今戦おうというのだ、信玄は夜になる前に信長を見ていた。そのうえで両軍は互いに夜襲を警戒しつつ飯を食いに入った。双方の陣から無数の飯を炊く煙があがる。 
 織田軍も当然ながら飯を食っている、信長はその煙達を見ながら傍らに控えている丹羽に顔を向けて問うた。
「飯を好きなだけ食う様に伝えておるな」
「はい、既に」
 丹羽は信長のその問いに確かな声で応えた。
「飯を存分に食う用意をしております」
「ならよい。明日は相手がこれまでとは違う」
「武田ですな」
「天下であれだけ強い者達はない」
 それ故にというのだ。
「思いきり食って力をつけさせよ。そしてじゃ」
「そしてですな」
「日が昇る前にも食わせろ」
 即ち早朝にもだというのだ。
「飯は幾分か残しておいてな」
「冷や飯をですな」
「うむ、冷えていても飯は飯じゃ」
 食える、だからだというのだ。
「固くなっておったら水をかけてでもな」
「食えばよいですな」
「何か腹に入れておくと違う」
「だからこそ兵達も」
「夜は思う存分食らいじゃ」
 そしてだというのだ。
「朝も食うのじゃ、そのうえで戦うのじゃ」
「明日の戦を」
「その代わり思う存分戦ってもらう」
 食うだけはというのだ。
「覚悟して戦えと伝えよ。褒美は思いのままじゃ」
「敵を倒せばですな」
「銭も禄も好きなだけやるとな」
 褒美も弾むというのだ、ここでこう言うのが信長だ。信長は手柄を立てた者に対しては褒美は思いきり弾む男なのだ。
 それでだ、こう言うのだ。
「わかったな」
「はい、ではそのことも伝えます」
「それではな。そして御主もじゃ」
「それがしもですか」
「そうじゃ、御主も食うのじゃ」
 その飯をというのだ。
「そして手柄を挙げよ。よいな」
「さすれば」
「近頃権六や牛助、それに猿や十兵衛が手柄を立てておるがな」
 ここで丹羽もだというのだ。
「御主も槍働きをまた挙げよ」
「そうして宜しいですな」
「出来るな」
「お見せしましょう」
 是非にとだ、丹羽は信長に確かな顔で答えた。
「天下の強者達相手に」
「そういうことでな。次に上杉との戦もある」
 信長は武田との戦だけを見てはいない、既にその次の上杉との戦も見てそのうえで考えているのである。
 それでだ、このことも言うのだった。
「早馬も用意せよ」
「わかりました、では」
「主な者達にはすぐに北陸に行ってもらう」
 武田との戦が終わればというのだ。
「すぐにな」
「ではそれがしも」
「無論じゃ」
 そこには丹羽も入っているというのだ。
「御主にも越前に行ってもらうぞ」
「そして上杉とも」
「頼むぞ」
 信長は丹羽に確かな声で言った。
「御主にも頑張ってもらわねばな」
「武田、上杉には勝てぬと」
「皆がじゃがな」
 丹羽だけではないというのだ。 
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