我が剣は愛する者の為に
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運命という名の縁
桃香がいた村を出ていつも通り旅を続ける俺達。
といっても何だかんだで大体だが半分以上、世界を歩き回っている。
その中で得られるものが多かったことも確かだ。
最近では我が妹である、愛紗の事を考えている。
具体的には何をしているのだろうか?
俺が居なくて泣いていないだろうか?
好き嫌いせずご飯を食べているだろうか?
など、過保護すぎて自分でもびっくりなくらい考えている時がある。
修業が全部終われば、一度村に顔を出す予定だ。
その時に父さんと母さんに俺の意思を伝えるつもりだ。
愛紗もそう遠くない未来、武将として名を轟かせる事もあると思う。
まぁ、未来は変わるかもしれない。
事実、俺の知っている三国志とは違う所も結構ある。
目の前にいる師匠とか。
もしかしたら愛紗が武将ではなく、一人の女として生活していくかもしれない。
出来る事なら、そうして欲しいが武将として生きていくのなら俺は止めるつもりはない。
でも、愛紗と戦場で戦うとなったら嫌だな。
真剣に戦うこそすれ、絶対に命を奪う事はできない。
そんな事をすれば何のために強くなろうと思ったのか分からない。
しばらく荒野を歩いていたが、森の中の街道を歩いている。
次の街に行くには通る道らしい。
行商人も通る道なのかある程度整備されていた。
そろそろ路銀やらなんやらが無くなってきたので、次の街で補給をするようだ。
道なりを歩いていると左右に森があったが、その森が途切れている。
近づいていると崖になっていた。
60メートルくらいだろうか。
高さはそれくらいで崖下は川が流れている。
川の流れは結構強く見える。
「何をしている。
行くぞ。」
俺が崖下を覗き込んでいると、後ろから師匠が声をかける。
はい、と返事をしてそのまま道を進んでいく。
が、道の先で5人の兵士が輪を作り、こちらに向かって歩いてくる。
正確にはこの街道を下りているのだろう。
その中心には顎に整った髭を生やし、鎧を身にまとった男性と、金色の髪で左右に分けた少女がいた。
少女の髪は特徴的で縦ロールの髪形をしている。
俺達や行商人は端に避けて、進んでいく。
少し物珍しい光景だったので、軽く視線で追う。
すると、中心にいる少女と目があった。
物珍しく見られているのが分かったのか、すぐに視線を逸らされる。
そこで師匠が言った。
「何故、あんな馬鹿な事をしている?」
小さく呟いたためか、俺にしか聞こえていないようだ。
師匠の方に視線を向けると、師匠もあの集団に視線を送っていた。
「何がです?」
「考えてみろ。
縁、あれを見たお前は何を想像する?」
師匠の質問に俺は軽く考えた後答える。
「何かお偉いさんぽかった気がしますけど。」
「おそらく、名のある家の生まれである事はあれを一発で分かる。」
「それが何か?」
「この光景を賊が見たらどう思う?」
そこまで言われて俺も気がついた。
あれなら狙ってください、と言わんばかりだ。
護衛がいるとはいえ、それを上回る数で襲われた守る者も守れないだろう。
その集団が崖の辺りまで進んだところで。
森から10人近くの賊が突然現れた。
まるで狙ったかのような登場に師匠は軽く舌打ちをする。
「やはり目をつけられていたか。」
そう言って、戟を持ち助けに向かう。
当然、俺も後ろから追う。
護衛の兵士は賊の突然の登場に慌てて対処しようとするが、数が倍以上の差がある。
兵士は不意打ちに近い賊の剣を受け、倒れてしまう。
周りの行商人は巻き込まれたくないのか、急いでその場から離れていく。
少女は突然の襲撃に驚き、泣き叫ぶかと思いきや、凛とした表情でその光景を見つめていた。
まるでこの襲撃が来ることを分かっていたみたいだった。
師匠は賊の一人の首を刎ねる。
師匠一人なら大丈夫かと思うが、一応少女を安全な所まで運ぶ。
俺は少女の所まで駆け寄る。
「君!」
「な、何よ、あなた。」
突然やってきた俺に警戒する。
「早く此処から離れるぞ!
師匠が敵を倒してくれるけど、他の賊が君を狙うかもしれない。」
少女はほんの一瞬考えたが、俺について行こうとする。
その時だった。
「いけませんね。」
「ッ!?
危ない!!」
と、少女が俺の方に向かって飛び込んでくる。
俺はいきなりだったのでどうする事もできず、俺は後ろの方に倒れる。
次の瞬間、俺の首があった位置に剣が振られた。
もし少女が押してくれなかったら、俺の首は刎ねられていただろう。
視線を向けると髭の男性が剣の抜いていた。
「やれやれ。
君達が来たおかげで計画が台無しです。」
面倒臭そうな顔をしてそういう。
師匠は賊の方に視線を向けているので、こちらに気がついていない。
俺はすぐに立ち上がろうとするが、男性の方が早く動き俺の腹を蹴りつける。
胃の中が混流して吐きそうになるが堪える。
俺に巻き込まれる形で少女も崖の方に突き飛ばされる。
文字通り崖っぷちに立たされた。
何がどうなっているのかさっぱりだ。
何故この男がこの少女を狙うのか?
計画とは一体何なのか?
訳が分からないことだらけだが、やる事は一つだ。
俺は木刀を抜き、構えをとる。
「やれやれ。
抵抗されると後ろの人に邪魔されそうですからね。
手っ取り早く行きますよ。」
男がやった事は簡単だった。
剣をこちらに投げてきた。
高さは俺の腹の位置辺りで、回転しながら飛んでくる。
そして、投げた相手は俺ではなく少女の方だった。
少女の身長だとちょうど首辺りに剣が飛んでいく。
「あぶねぇ!!!」
俺は少女に向かって飛びつく。
しかし、後ろ崖で俺が飛びつく事で後ろに倒れた。
(しまっ!?)
気がついた時には手遅れだ。
俺と少女は下の川に向かって落ちていく。
「うおおおおおおおおお!!!!!!」
「きゃああああああああああああ!!!!!」
お互いが絶叫しながら落ちていく。
せめてこの子だけでも、と思い空中で何とか動いて少女を強く抱きしめできるだけ自分が盾になるように、状態を変える。
そのまま流れの強い川に落ちていった。
激流の中流されていくが、決して腕の中の少女を離さなかった。
次に目を覚ました時は比較的流れの浅い岸辺に打ち上げられていた。
俺は咳き込みながら、腕の中にある感触を確かめる。
先程の少女が気を失っていた。
幸いにも息はしている。
太陽の動きからしてそれほど時間は経っていない。
流れが速かったのが幸いしてすぐにここに打ち上げられたのだろう。
そのおかげで余計な水を飲む事無く無事に打ち上げられたのだ。
(でも、これって結構ラッキーだよな。
普通なら死んでもおかしくねえな。)
自分の運の良さに感心しつつ、俺は少女をお姫様抱っこして立ち上がる。
川の近くには森が生い茂っており、現在の位置が全く分からない。
しかし、川が近くという事は村や街が川沿いにある可能性が高い。
ともかく、少女が目を覚まさない事には行動のしようがない。
適当な所に寝転がせて、俺は薪と枯れ葉などを探す。
日は結構傾いている。
このままだと夜になるだろう。
川を下って村などを探すのは明日でもできる。
今は風邪をひかないように身体を温める必要がある。
近くにある薪や枯れ葉など燃えやすい物を集めて、火を熾す。
火を何とか熾して、枯れ葉などで大きくしていくと少女が目を覚ました。
「此処は・・・・」
「起きたか?」
「あなたは・・・・」
そう言って上半身だけ起き上がって聞いてくる。
そして、少し前の事を思い出したのかいきなりこう言ってきた。
「あなた、馬鹿でしょう!
私を助けてくれたことに感謝するけど、よりにもよって崖の方に突っ込む馬鹿がどこにいる!!」
「面目ない。」
素直に頭を下げる。
事実、あれは俺が悪い。
咄嗟とはいえもっと良い避け方があったかもしれない。
少女は俺が素直に頭を下げるのを見て、少しだけ言い淀むと。
「まぁ、助けてくれたことはお礼を言うわ。
ありがとう。
崖から落ちる時も守ってくれて。」
「気にするな。」
そう一言だけ言って火を大きくさせていく。
ある程度大きくなった火を維持しつつ、自己紹介をする。
「俺は関忠。
字は統だ。」
「私は曹操、字は孟徳。」
うん、まぁ、そんな感じはした。
何故かって?
そんなの孫策、劉備に出会ったのだから曹操にも出会うだろ、と思っていたからだ。
本当に出会ってやっぱり驚いているのだが。
ともかくだ。
自己紹介を終えたので、たき火で身体と濡れた服を乾かす俺達。
火も落ちてきて、もうすぐ夜になろうとしていた。
その時ぐぅ~、とお腹が鳴る音が聞こえた。
俺ではない。
という事は必然的にもう一人の人間になる。
曹操は顔を赤くしながら言う。
「し、仕方がないでしょ。
近くの街で食事をする予定だったのだから。」
その言葉を聞いて軽く笑いながら立ち上がる。
「少し待ってろ。
食べられる物を探してくるよ。
もうすぐ夜になるから火を見ておいてくれ。」
俺は暗い森の中を歩き回る。
木刀は川で流されたせいで手元にない。
適当に木の棒を拾い、木の実やきのこなど、師匠に教えて貰った食べられる物だけを集める。
串となる棒を拾いつつ、曹操の所に戻る。
木の実を投げ渡し、きのこと串を洗いに近くの川に行く。
洗い終わってから、串を差してきのこを焼く。
「本当にそれは食べられるの?」
少し不安そうな顔をする。
彼女自身、こういったサバイバル的な食事はした事ないのだろう。
「このきのこは師匠と旅している時に何度か目にしているから大丈夫。
どっちにしろ、俺が毒見するから安心しろ。」
「そこまで疑っていないわ。
聞いてみただけよ。」
きのこ焼き加減を見つつ、二人の間に沈黙が流れる。
少しだけ考えた後、気になった事を曹操に聞く。
「そう言えば、兵士が倒れたのによく達観した表情ができたよな。」
「ああ、あれね。
慣れているもの。」
その言葉に俺は最初耳を疑った。
曹操は膝を抱えてたき火に視線を注ぐ。
「私の家系は結構複雑なのよ。
私の祖父が中常侍、大長秋という宦官としては最高の地位にいるのだけれど、そもそもその要職になるためには宦官にならなければならかったの。」
宦官って言えば貧しい庶民が宮廷に入る事ができる唯一の要職だ。
だが、それに入るためには厳しい審査と覚悟が問われる。
具体的には男子は股間を切断して、入るというものがある。
想像しただけで鳥肌が立ってきた。
宦官の肩書きがあるという事は、自分の家は貧しい家柄である事を示しているようなものだ。
「祖父はその地位まで上がったのだけれど、他の人達、つまりお偉いさんたちがそれを快く思わなかったのよ。
当然よね。
高貴の生まれである自分達を差し置いて、大長秋になったんですもの。
しかし、祖父には手を出す事ができない。
だから、私にその憎しみが向いたの。
祖父が大長秋だけど宦官という肩書きを消す事はできない。
嫌がらせやいじめなど日常茶飯事だったわ。
陳琳って奴からは『贅閹の遺醜』何て悪口も言われたわ。」
「おい、それって。」
その陳琳という奴に若干怒りを感じた。
『贅閹の遺醜』の意味は『宦官のやしない子の臭いせがれ』という意味だ。
つまり、この言葉は曹操にもその祖父に対しても酷い悪口だった。
自分の大事な所を切ってまでついた地位を馬鹿にされたということになる。
「あなたが怒る必要はないわ。
祖父も宦官になることは、そういう事を言われるという事を覚悟していたいたわ。
だから、私も覚悟を決めたの。
例え何があっても私は絶対に屈しない。
そいつらに後悔させてあげるの。
私に対してそれほど態度をとり、それが如何にして自分の首を絞めるのか。」
曹操の話を聞いて俺は率直に思った。
「君は強いな。」
「強くならないといけないのよ。」
そんな話をしていると、きのこが良い感じに焼けているのを確認する。
俺と曹操はきのこを食べる。
すると、曹操は意外そうな顔をする。
「あら、意外と美味しいわね。」
「だろ。」
そう言って俺達はきのこを食べ尽くした。
「俺が番をするから、曹操はもう寝ろ。」
「いいの?」
「こんな事になったのは俺のせいだからな。
最後まで責任をとるよ。」
「そう、ありがとう。
お言葉に甘えさせてもらうわ。」
曹操は地面に寝転んで寝始める。
床にひくものがあればよかったのだが、探したが良いものがなかった。
俺はたき火が消えないように適当に薪を入れながら朝を迎えた。
日が昇ると曹操も起き、川を下って村などを探す。
「そう言えば、あなたはどうして旅をしているの?」
道中、暇なのか。
曹操が聞いてきた。
「俺は赤子の時に両親を賊に殺されてな。
その時、たまたま通りがかったもう一人の母さんに拾われて、もう一つの家族を暮していた。
けど、賊の集団に襲われてその時に母さんに怪我を負わせたりと、俺は何もできなかった。
そんな時に師匠が来て、助けてくれて強くなる為に一緒に旅をしているんだ。」
「そう。
あなたも強くなる為にね。」
曹操は俺の言葉を聞いて、何かを考えている。
よし、と言う言葉の後曹操は言う。
「関忠。
あなたの真名を教えなさい。」
「はっ?
何で?」
「いずれ、私は出世するわ。
最後には大陸全土を制覇する。
私はあなたを必ず部下にするわ。」
「俺を部下に。」
「少ししか接していないけど、あなたの事は気にいったわ。
私も真名を教える。
つまり、今の内からあなたを私のものにするつもりなの。」
「俺も曹操の事は気にいっている。
けど、ものになるつもりはない。」
「あら、不服なのかしら?
いずれは天下を支配するこの曹孟徳の「違うよ。」・・・・?」
俺の言葉に曹操は首を傾げる。
「俺は君と対等の存在になりたい。」
俺の言葉を聞いて曹操は少し呆けている。
俺は言葉を続ける。
「君が天下に轟く王になるのなら、俺は天下に轟く武将になろう。
それなら対等だろ。」
少し顔を赤くしながら曹操は言う。
「そ、そうね。
では、将来私の所に来てくれるのかしら?」
「それも分からない。
案外、気まぐれだからな。
だから、君が俺に忠誠を誓わせたくなる様な王になってくれ。」
「かなり上から目線ね。
でも、嫌いじゃないわ。」
俺の言葉を聞いて、曹操は笑顔を浮かべて手を差し出す。
「いいでしょう。
必ず、あなたを虜にするような王になるわ。
だから、あなたも。」
「ああ、君が心底俺が欲しくなるような男になるよ。」
俺は差し出された手を握り返す。
そして、お互いの真名を教え合った。
少し歩くと村が見えてきて、そこに師匠が待っていた。
どうやら、俺の行動パターンを読んでここで待っていてくれたらしい。
師匠に感謝しつつ、俺達は華琳を街まで送る。
ちなみに髭の男は師匠が斬殺したらしい。
華琳もあの男に対してそれほど思入れもないのか、逆に殺してくれてありがとうと礼を言った。
街まで送ると、兵士がやってきて華琳を出迎えに来た。
「縁。」
教え合った真名を華琳は言う。
「約束、覚えているわね。」
「もちろんだ、華琳。」
それだけ言い合い、俺達は背を向ける。
遠くない未来再開する事を願って。
後書き
次から修行編です。
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