我が剣は愛する者の為に
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とある村での出会い。
孫策と別れてから、数週間が経った。
俺と師匠は旅を続けている。
修行に関しても、夜に打ち合う(一方的に)だけで本格的な修行的な事はまだしていない。
こうして色んなところを回っていると色々な事が分かってきた。
まず第一に漢王朝は徐々にだが、国を治める事ができないでいた。
その証拠に街や大きな集落はしっかりと兵士が守っているのでそれほど賊の被害は出ていない。
だが、俺の居た村のような小さな村は違う。
真面に戦える人すらいないのでされるがままである。
ただ一方的に奪われるだけ、俺達が訪れた村ではこのパターンがほとんどだった。
そんな時に立ち上がったのが師匠だった。
その村の人の事情を聞いて、賊の集団を壊滅させたりしている。
もちろん、ボランティア的な活動みたいなもので報酬などは貰わない。
ただ師匠は言っていた。
「私がやっている事など所詮は一時凌ぎに過ぎない。
少しすれば新たな賊が現れ、この村もまた奪われる側になるだろう。
根本的に、漢王朝が滅び新たな世代の者がこの世の治めない限りこの負の連鎖は終わらない。」
そう語っていた。
実際、俺達が去ってからの村のその後は知らない。
そのまま平和に暮らしていると願いたいが、この世はそんな甘くできていない事を俺は転生した瞬間に体験している。
俺は一人でも俺のように親が目の前で死んで悲しい思いをする人を減らしていきたい。
そう日々決意しながら旅をしているのだが。
「意気込み大いに結構。
しかし、実力が伴わなければ意味がないぞ。」
地面に大の字で倒れている俺に師匠はそういう。
この光景は凄いデジャブを感じる。
ああ・・・星と月があんなに綺麗だ。
(縁の奴、凄まじい速度で上達しているな。
これはひょっとすると呂布を超えるな。
ふふ、楽しみだ。)
何だか、師匠が怖い。
凄い意味深な笑みを浮かべて俺を見ている。
もしかしてS属性にでも目覚めたのだろうか?
そして、俺のM属性に開発して夜にSMプレイをしようと!?
ウホッ、イイオトコ。
みたいになるのは嫌だぞ。
考えただけで鳥肌が立ってきた。
「今日はここまでだ。」
俺が馬鹿な事を考えていると師匠はそういう。
くだらない事を考えていないで寝よう。
師匠は基本的に夜の番をするので寝ない。
身体を壊すのではと思ったが、師匠はこういった。
「私は少ない時間でも生活できるように訓練してある。」
「凄いな。」
「まぁ、多く寝た方が完璧になるがいつ賊が来るか分からない以上、こういうのは本当に役に立つ。
ちなみに、これができるようにお前にも訓練させるぞ。
今の内に、ゆっくり寝れるありがたみを実感しているんだな。」
物凄く怖い事を言い出した。
俺は顔を引きつりながら、寝る事にする。
こんな風に熟睡できるのも残り少ないかもしれない。
次の日の朝。
馬に荷物を載せて、歩きながら旅をする。
「師匠、次はどこを目指しているですか?」
「いや、特に決めていない。
地図を見ながら、一周しようと考えている。」
それってかなりの日数がかかると思うんだが。
「端から端を行く訳ではない。
既にこの世の中がどうなっていて、これからどうすべきなのか。
お前は既に見えていると思うんだが。」
その言葉を聞いて呆気にとられる。
師匠は俺が考えていた事を読んでいたらしい。
「はい。
俺がやるべき事は決まっています。」
「一応、ある程度は回るつもりだ。
2年懸けて回り、それから本格的な修行に入る。」
ついに明確に師匠が修行について話してくれた。
今まではいつから始めるか聞いても、教えてくれなかった。
あと2年。
この2年で少しでも強くならないといけないな。
それから数日が経った。
路銀に関しては師匠が懸賞金などで賊を討伐して稼いでいる。
宿では基本泊まらないので、食費だけなのだが、食事も俺も師匠も大食いってほど食べないのでそれほどかからない。
なので一回の懸賞金で結構やっていける。
師匠が出払っている間は素振りや筋トレなど自分が出来る範囲でトレーニングしている。
生まれというのは凄いと思う。
前の世界では剣道で日本一になったけど、これほど筋トレなどはしなかった。
別に慢心している訳ではないが、これほどまでにしなかった。
けど、転生して、両親が目の前で死んで、新しい家族ができて、それを守りたいと思った。
それが原動力になっている。
昔の日本は国の為に命を捨てる覚悟で戦っていた。
前世の俺は馬鹿げていると思ったが、今なら少し分かる。
生まれてそう教え込まれたら、誰だってああなったと思う。
村に着いた。
師匠は近くに村があったら寄るようにしている。
さっきも言ったように、小さな村は賊などの被害に遭っている場合が多い。
そういうのを助ける為に師匠は村に寄るのだ。
村に近づいて行くと、何やら黒い煙が村から出ていた。
それも一つではない。
複数の煙があがっている。
「師匠。」
俺は前に歩いている師匠に話しかける。
師匠の手には既に戟が持たれていた。
「行くぞ。」
一言だけ言って、師匠は馬に乗り込む。
俺もそれに続いて後ろに乗り込む。
村まで馬を走らせると案の定か、村は賊に襲われていた。
入り口付近で馬を下りると、師匠は村人を襲おとしている賊に向かって走り出す。
今まさに剣を振り下ろそうとしている賊の両手を斬り裂く。
賊は何があったかを確認する前に、首を刎ねられ絶命した。
師匠に続いて俺も馬を下りる。
「あ、あなた達は?」
助けられた村人は戸惑いながらも師匠に聞く。
「賊に襲われているのだろう。
手を貸そう。
縁、やれるな?」
「はい!」
「今のお前の実力なら賊程度の腕なら問題ないはずだ。
自信を持て、されど慢心はするなよ。」
そう言って師匠は村を襲っている賊達に向かって走り出す。
木刀を抜刀して、できる限り村人を助ける為に走り出す。
すると視界の端で、幼い子供を引き連れて逃げようとしている女の子の姿が見えた。
足を止めて、その方を見ると後ろから二人賊が追いかけていた。
迷うことなく、俺はそっちに向かって全速力で走る。
子供を追い詰める為にゆっくり走っているおかげなのか、すぐに追いつく事ができた。
後ろにいる賊の後頭部に向かって渾身の一撃を加える。
後ろからの奇襲に全く対応する事ができずに、意識を失って倒れる。
仲間が倒れた事に気がついて、前にいた賊がこちらに振り向く。
「テメェ、よくもやりやがったな!!」
「お前達賊も罪のない人の命を奪っているだろうが。」
「黙れ、クソガキ!!」
剣の抜いて、俺に向かって剣を振り下ろす。
しかし、速度が圧倒的に遅い。
師匠や黄蓋に比べれば遅すぎる。
余裕でかわす事ができた俺は、カウンターで賊の胴に向かって打ち込む。
「ぐふぇ!!」
さらに追撃で、左の肘鉄で顎を打ち上げる。
賊は仰向けに倒れ、気絶した。
周囲を警戒しつつ、追い駆けられていた子供達に近づく。
「大丈夫か?」
俺の言葉に子供達は頷く。
彼らを引き連れていた女の子は俺に近づいて頭を下げる。
「助けていただいてありがとうございます!」
髪の色はピンク色で、緑の服を着ている。
肩まで伸びた髪は鮮やかで、女の子自身も可愛らしい人相をしていた。
俺は村の方に視線を向けると、悲鳴などが聞こえなくなっていた。
師匠が全部討伐したのだろう。
俺は安全である事を伝えてると彼女達は安心した表情を浮かべた。
子供達を引き連れて、村に戻るとその子達の親が子供達に駆け寄り抱きしめる。
どうやら騒ぎのせいで逸れたようだ。
しかし、子供達を引き連れていた女の子に駆け寄る親が居ない。
「君は親はいないのか?」
俺が話しかけると軽く笑みを浮かべて、女の子は言う。
「うん。
私の親はこの村に私を預けて、どこかに行っちゃったらしいの。」
「そうか。」
捨てられたのとは多分違うだろう。
そう思いたい。
その話を聞いた俺は少し暗い雰囲気を出していたのか、女の子は話しかけてきた。
「それより、さっきはありがとうございます!
私は劉備、字は玄徳。」
「・・・・・」
驚きを隠せなかった。
孫策に続いて今度は劉備だ。
大英雄に次々と面識ができる俺は数奇な運命を辿っているな。
もちろん、相手は女性だが。
「どうかしたましたか?」
俺が驚いているのを見て劉備が心配そうな視線でこちらを見てくる。
「あ、ああ。
俺は関忠、字は統だ。
よろしく。」
俺は手を出すと劉備も俺の手を握り返してきた。
あの劉備と握手している。
女の子だけど。
その手は柔らかく、すべすべだった。
「縁。」
と、師匠が俺を呼んでいた。
劉備の手を離して、師匠の元に向かう。
「どうやら、この近くに賊の住処があるようだ。
おそらく、明日にでも賊が襲いに来るだろう。
私は村の案内のもと、その賊の集団を壊滅させるつもりだ。」
「俺はどうすれば良いでしょう?」
「この村に残っていてくれ。
奇襲はないと思うが、もしもの場合は村の人と協力してくれ。
その旨も伝えてある。」
見ると鍬など、武器になりそうな物を村人の男達が持っている。
「今すぐに殲滅しに行くつもりだ。
明日の朝には戻ってくる。」
それだけ言って、複数の村人を連れて師匠は賊の住処へ向かった。
師匠だけならそれほど手こずる事もないはず。
毎晩修行しているのだから分かる。
やることもないので、木刀で素振りをしていると劉備が話しかけてきた。
「関忠さん。」
「どうした?」
「私に剣術を教えてくれませんか!」
突然、こんな事を言い出してきた。
訳を聞くと。
「さっき襲われた時に思ったんです。
少しでも剣を振るう事ができたら、あの子達を守る事が出来る筈だって!」
「ふむ・・・」
軽く劉備の身体つきを調べる。
といっても、視線でだぞ。
身体を直接触っていないぞ!
(どう見ても武の資質があるように思えないが。)
だが、見た目で判断してはいけない。
とりあえず、木刀を劉備に渡して素振りをしてみてくれと言う。
数分後。
「はひ~~
腕が上がらないよぉ~~」
数十回振っただけでギブアップだった。
「劉備。
君は武の才はないと思う。
どうしても強くなりたかったら、せめて100は余裕で振れるようにならないと。」
「100ですか・・・」
少し顔を引きつっている。
と、先ほどの子供達が劉備の所にやってきた。
「桃香お姉ちゃん!」
「遊ぼう、遊ぼう!」
わらわらと集まってきて、いつの間にか輪ができていた。
劉備は子供達を見て少し困った顔をしている。
「え、えっと~~」
ちらちら、と俺の顔を見る。
どうやら俺との修行の事を気にしているのだろう。
劉備から木刀を返してもらい、遊んで来いと言う。
笑いながら頷くと、劉備は子供達と遊びに行く。
その光景を村人達は暖かく見守っていた。
劉備はかなり天然でドジっ子だ。
それがさらに周りを笑顔にしていった。
俺はそれを見て確信した。
夜になって、師匠が帰ってきた。
予想していたより賊の数が少なく、早めに壊滅させる事ができたらしい。
村の人達は師匠にお礼を言い、その夜は宴のように騒いだ。
「劉備。」
その輪から離れるように劉備は座っていた。
俺はその隣に座る。
「関忠さんの師匠さんは強いですね。」
「あの人から色々教えて貰ってこの乱れた世界を少しでも良くするように、俺も頑張るつもりだ。」
「私も力があればな・・・」
少し落ち込んでいる劉備。
俺は劉備の頭に手の乗せて撫でる。
「君は力を持っているよ。
俺より、強いものを。」
「えっ?」
「君は皆を笑顔にさせる。
その笑顔に、君自身に他の人はついて行く。
君の持つ強さはこれだと思う。
これは望んで手に入るものじゃないからな。」
俺は立ち上がり、木刀を抜き高らかに剣を振り上げる。
「俺は強くなる。
大事な人を守れる強さを手に入れる。
だから、劉備。
君も強くなれ。
武としての強さじゃない。
君自身が強くなるんだ。
そうすれば周りはついてくる。」
あの劉備にこんな事を言っても仕方がないと思う。
けど、言いたかった。
俺の言葉を聞いた劉備は少し驚いたが、すぐに笑顔になって立ち上がる。
それを見て俺は劉備に言う。
「劉備、俺の真名は縁だ。」
「どうして真名を?」
「これから同じ高みを目指す者同士、俺達は友だ。
なら、真名を預けるべきだと俺は思ったんだ。」
「それなら、私は桃香って言います。」
「改めて桃香。
明日には俺はこの村を出て行くことになる。
けど、俺と君が同じ所を目指すのならきっと会える。
再会する時までにもっと強くなるよ。」
「私ももっと強くなります。
私自身の強さを強くするために。」
そう誓い合い、俺達は宴を楽しんだ。
次の日の朝。
俺と師匠は村人達に挨拶をして村を出て行く。
桃香と俺は最後にもう一度握手をして、村を出て行くのだった。
後書き
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