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ファイナルファンタジーⅠ

作者:風亜
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11話 『闇に浮かぶ紅き双眼』

 雲間から覗く紅く染まった月夜の元、町の中心でその女性はただ1人、後ろ姿で硬直しているかのように見受けるが、夜目を凝らすと黒マント姿の何者かに両肩を鷲掴みにされ、首筋にかぶり付かれている。


それこそバンパイアだと認識した時、シーフのランクは二刀のダガーを引き抜き女性に覆い被さっているバンパイアに素早く1人先攻する。

「何やらかしてンだ、テメェッ!」

 容赦なく刃が迫る直前、バンパイアは瞬間移動でかわした。

支えを失った女性はその場に倒れ伏し、バンパイアは離れた位置で真紅の双眼をギラつかせ、冷笑を浮かべたまま漆黒のマントに包まれた身体は、暗闇の荒れ果てた大地に吸い込まれてゆくかのように姿を消す。

「ちッ、逃げやがったか……!? おいアンタ、大丈夫かッ?」

 ランクは周囲を警戒しつつ、バンパイアに襲われ倒れている女性に近寄る。

「触れるんじゃない!!」

 武器を腰に差し戻し、身体を起こしてやろうとしたのを、家から出て来た男性に言葉で制止を掛けられる。

「同じ目に遭わされたくなかったら、その女から離れろ! 今に襲い掛かるぞ!!」

「 なに……ッ!?」

 その途端、倒れていた女性が異様な動作で飛び起き、掴み掛かられそうになるランクだが持ち前の素早さで避け、一旦身を引く。

「操られ出したってのか……!」

「あ、あの人って、この町に来たボクらに色々お話してくれた女性じゃないでスか……?!」

 両親をバンパイアに襲われ、恋人すら戻らなかったというやつれた女性だとビルは気づく。

────操られ出した女性は、奇妙に上半身をグラつかせている。


「そこのあんた達! 腕に覚えがあるならその女を、殺してやってくれないか!?」

「そんな……?! あの人は操られているだけなのに!」

 町の男性の非情な言葉に当惑するシファ。

「バンパイアにやられた奴は連れ去られるか、仲間を増やそうと他の人間に襲い掛かるかのどっちかでしかない!
正気に戻すには元凶のバンパイアを倒すしかないが、その前に操られた人間のせいで町の者が餌食にされる……!」


「おねぇちゃあん、どうしたのぉ……?」


 その時、眠そうな目をこすりながら家の中から1人の少女が出て来る。

操られている女性がそれに気づき、異様な速度で少女に向かい諸手を前にして襲い掛かった。

「「 あ………!」」

 助けに向かおうにも間に合わないと思われた中、既に動いていたマゥスンが颯爽と少女の前を遮り、操られている女性が前に突き出した両手首を掴み捕って押さえ込む。

(アイツ、どうする気だ……?!)

 夜目の利くのランクは、その様子をしっかりと見てとる。

一歩も引かない両者だがその刹那、相手の女性が勢いよくマゥスンの右首筋に喰らい付く。

「 ─────!」


「 マゥスン!」

 思わず名を呼んだランクは、すぐ様その場へ駆けてゆく。

「ぼ、ボクにはよく見えませんでシたけど、どうなったんでスか……?!」

「わたしにもよく分からなかったけど、マゥスンがどうかしたみたい……!」

「小っこいの、娘っ子! とにかく坊主の後に続くんじゃ!」

 ドワーフのネリクの呼び掛けでビルとシファも走り寄る。


「 ────あ? どうしたってンだ、その女……」

 ランクが駆け寄った時には、女性はマゥスンの足元に倒れ込んでいた。

「オマエは、大丈夫なのか……ッ?」

 片膝を落とし、項垂れているマゥスンに声を掛けるものの、バンパイアに血を吸われた者に襲われると伝染するように、

その人間も下等ではあるが吸血鬼へと変貌する可能性がある為、今にも操られ出すのではないかと思ってしまうランク。

────しかし、マゥスンは黙ったまま何事もなかったように立ち上がる。


「噛まれたって本当? 身体のどこか、おかしくない?」

「 ………問題ない 」

 シファに普段通り、無感情に答えるマゥスン。

「とにかく、回復魔法は掛けておくね。……<ケアルア>!」


「おねぇちゃん……、どうしたの? おねぇちゃん!」

 ぴくりともせず仰向けに倒れている女性にすがり付く少女。

「この女……いきなし倒れやがって、どうしちまったンだッ?」


「 ………眠らせた 」

 ランクの疑問にひと言しか答えないマゥスンの言葉を捕捉するかのようにビルが気づく。

「それってもしかして、睡眠系の黒魔法で、でスか……っ?!」

「魔族のバンパイアには通用せんだろうが、操られたオナゴは元々ニンゲンじゃから効いたんだろうな?……それにしてもあの状況でよくそんな余裕があったのう」

 ドワーフのネリクは感心し、少女の父親と思われる男性が礼を述べてくる。

「 ………娘を守ってくれて、感謝するよ。その女性は、母を失くした娘の面倒をよく見てくれていた人なんだ。けれど娘には内緒で、近い内にこの町を出て行くと云っていたが────」

「で、どうするんだこの女は。目が覚めたら、町の人間襲うんじゃないか?」

 別の男性が気味悪そうに尋ね、マゥスンが淡々と答える。

「暫くはこのまま動かない。────閉じ込めておけばいい」

「し、しかしなぁ、正気に戻らないんだったら閉じ込めとく意味もなかろうに! やっぱり、この場で息の根を止めといた方が……」

「わたし達に時間を下さい! 今すぐアースの洞窟へ行ってバンパイアを倒してくれば、その女性は正気に戻るはずだから……!」

「だ、大地が腐るのもボクらが止めて見せまス……っ!」

「メンドくせェが、そーゆう事にしとくぜ」

 シファの言葉に同意を示すビル、ランク。




────月は暗雲に隠れ、松明の代わりとなる白魔道士シファと黒魔道士ビルの持つ杖灯りを頼りに、4人は夜道を突き進む。

「あの町に残ってたっていずれ全滅だろーがよ。だったら町出てこうとしてた女みてェに、生き残った奴らで他の町にでも移住すりゃいーのによッ」

「でも……町の外にはモンスターがうろついてて、他の町までは遠いしまともに戦える人がいないんじゃ、結局──── 」

「あ、あの女の人が独りで町を出て行こうとしてたのって、自殺行為だったんじゃないでスか……!?」

 ランクとシファの話にハっとするビル。

「町に居残っても出て行こうとしても、どっちにしたってくたばるしかねェってか?……気の毒なこった」

 同情より、皮肉るランク。


「マゥスンは……、本当に体調平気?」

「 ────問題ない 」

 ふとシファが気遣うも、返答は素っ気ない。

「オマエはそれしか云えねーのかっつのッ!」

 目の前に出現したモンスターをランクは二刀のダガーで瞬時に斬り倒す。

……4人は時折現れるモンスターを退けつつ、メルモンドの町から南西のアースの洞窟を目指す。 
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