ファイナルファンタジーⅠ
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12話 『不死への抵抗』
「腐敗した大地こそ、死者の再生に相応しい────── 」
アースの洞窟内奥の開けた場所に、漆黒のマントに身を包んで蝋のように白い顔、口元から覗く鋭い牙、血に染まったような紅い短髪と眼光。
バンパイアは、侵入者を待ち構えていたかのように佇んで居た。
「死の恐怖に直面する時は必ず来る────逃れる術はない。その死を受け入れた時、生あるが故の"痛み"を感ずる必要は無くなる………
拒む意味はない。死こそは皆平等、そして始まりなのだ。そこから真の不死を、得る事が出来よう」
「うぜェな……、黙ってたっていずれくたばンならこちとらやりてーようにやるだけだッ」
問答無用と云わんばかりのシーフのランク。
「人間如きに云い聴かせた所で無駄か……。ならば身をもって死の恐怖を味わうがいい」
異臭を放つ腐敗した地表から這い出るようにアンデッドが多数出現し、上からも多くのココウモリが4人目掛けて襲い来る。
「ふえぇっ、出まシたぁ……!?」
「ビビってねーでおめェは黒魔法で何とかしやがれ!……シファ、オレと赤魔から離れンなよッ」
「う、うん……!」
「 ………… 」
ランクは二刀のダガーで素早く斬り込み、赤魔道士マゥスンは剣身に炎を宿らせた剣で斬り伏せてゆき、上から集団で邪魔をして来るコウモリはビルが雷系黒魔法で次々と倒し、白魔道士のシファは<アディア>という聖なる光を放つ白魔法でアンデッド達を消滅させてゆくが、倒す端から涌き出て4人を阻む。
「ちッ、キリがねェ! さっさとバンパイアの野郎を──── 」
臭気もさる事ながら嫌気が差すランクだがその時、
「 きゃ……!? 」
ランクと背中合わせのシファが小さな悲鳴を上げたその眼前には忽然と、朱色の口元から鋭い牙を剥き出したバンパイアが────
「まずはこの娘から頂くとしよう……!」
背筋が凍り付くようなぞっとする囁きに、ランクが振り向いた時には一条の聖なる光が頭上から降り注いだ。
「 <アディア>!! 」
シファが咄嗟に放った白魔法により突如苦しみ出したバンパイアは焦げたような異臭を放ち、目の前で俯せに倒れるとそのまま動かなくなった。
「 え、あれ……?? 」
「し、シファさんすごいでスっ、一発で倒しちゃうなんて……!」
「呆気なさ過ぎだっつのッ。アンデッドにコウモリ共の姿もなくなってンぜ?」
「きっとシファさんがバンパイアを倒したからでスよっ」
ビルはシファを称え、ランクは急な静寂を不審に感じるがマゥスンは黙然としている。
「ンで、肝心の"祭壇"ってのはドコにあンだよ」
「そ、そうでスね……? 向こうの端の地面に置かれてる四角い石版みたいな物以外、ここには何も無さそうでスけど──── 」
「何か分かるかもしれないから、調べてみよう?」
シファがそう呼び掛けた時、ふとマゥスンが地に伏しているバンパイアに近寄り、剣の柄を逆手に持ち直すとその切っ先をバンパイアの背に突き立てる。
────他の3人は一瞬彼の行動に理解を示せなかったが、ピクリともせず地に伏している黒マント姿のバンパイアは見る間に小形のコウモリへと変化した。
「これって、どういう事……?」
「な、何だか小さくなっちゃいまシたね」
「元はバンパイアもコウモリだったってだけだろッ」
シファとビルは不思議そうに見下ろし、ランクはさも当然のように云うが────
「バンパイアは胸を貫かなければ倒せない。………これは偽者、本人は姿を暗ましている」
剣先を引き抜き、あくまで無感情に述べるマゥスンにぎょっとさせられる3人。
「はあ?! それを早く云えっつの!……ドコいやがる、出てきやがれッ!」
ランクの呼び掛けに応えるはずもなく静まり返っているが、気配を消していた上に忽然と背後に現れたバンパイアは瞬時に獲物を捕らえて黒マントに包み込み、
首筋に食らい付かれた白い娘は痛みよりも奇妙な得体の知れない感覚と恐怖に抵抗しようもなく身体の力が抜けていき、えもいわれぬ気分に陥り遠のいてゆく意識─────
一瞬の出来事にランク、ビル、マゥスンすらも気付いた時には既に遅く、シファがバンパイアの牙に掛かった。
「やりやがって……! シファを放しやがれッ!」
背後から掴み掛かったままのバンパイアを引き離そうとするランクだが、再びコウモリが多数出現し阻まれる。
「くそ、ジャマだッ!」
「ランクさん下がって……!<サンダラ>っ!」
「 …………… 」
ビルが雷属性を、マゥスンは炎系黒魔法を放ちコウモリ達を退け、前方が開けた先にはバンパイアの姿はなく1人倒れ伏したシファが─────
「おいシファ、しっかりしやがれッ!」
二刀のダガーのうち一方を収めたランクが駆け寄り、白フードが脱げて肩程までの長さの黄髪が乱れたシファの頭を抱え起こすが次の瞬間、閉ざされていたエメラルド色の瞳が突如見開かれ、片方腰に収められていたダガーを瞬時に奪い取ってシファはランクに襲い掛かった。
「 な゙ッ……?! 」
首を斬られるのを間一髪で避けたが、シファはダガーを手にしたまま3人から素早く遠ざかり、姿を現したバンパイアを守るように立ちはだかる。
「し、シファさん……っ?」
「やっぱ操られちまったか……ッ」
「 ………… 」
動揺するビル、舌打ちするランク、悠然と構えているマゥスン。
「武器か魔法であろうと、この娘はその身が朽ちるまで我を庇うだろう。我を倒すなら、娘を亡き者にしてまで向かい来るといい。それが出来ぬなら仲間内で殺し合い、我等の同士となれ!」
バンパイアの言葉を号令とするかのように、地表から再びアンデッドが多数涌き出る。
「ふぇーん、どうすればいいんでスかランクさん、マゥスンさぁん……?!」
「こーなりゃシファが死なない程度に動き封じて、バンパイアの野郎に集中攻撃仕掛けりゃ……ッ」
とはいえ、ランクとビルは多数のコウモリとアンデッドに阻まれバンパイアとシファになかなか近づく事が出来ず、体力と魔力が否応なしに削られる。
キイィィン─────
何かの金属音で思わずランクが目を向けた先で垣間見たのは、手にしていたダガーを手元から弾かれたらしいシファが、赤魔道士マゥスンの足元にふと倒れ………
「(あいつ、シファに何して────)おわッ!?」
背後の気配に気付くも遅く、ランクは数体のアンデッドに押し倒され俯せに押さえ付けられた。
「ら、ランクさん……!? ふひゃあっ」
ビルも同様、身動きが取れなくなる。
バンパイアはマゥスンの背後へ瞬間移動するがすぐに気取られ、振り向き様剣で抗されるがその剣刃を片手で掴み取った。
一瞬動きを失う二人だが、自らの赤黒い血の滴る剣刃を掴み取ったまま離さないバンパイアに至近距離から<ファイラ>を放ち、
炎に巻かれて剣刃を離し後退った所へ確実に仕留める為、胸部を剣先で貫こうと迫った刹那─────
不意に眼前に翳されたバンパイアの片手から赤黒い血液が飛び散り、羽付き帽子はしていたとはいえ鍔の下までそれは襲い、両眼に浴びせられて視界は奪われ動きを失うマゥスン。
そこへ間髪を入れず背後に回り込み、赤マントの背に掴み掛かって牙を剥くバンパイア。
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