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ファイナルファンタジーⅠ

作者:風亜
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10話 『腐りゆく大地』

 ─────メルモンドの町並みは荒廃し、ひび割れて腐敗の進んだ大地は雑草すら生えていない。

男女問わず生気を失ったように何するあてもなくじっとしている者や、数多く乱立する墓石の前で項垂れている人々ばかりだ。


「何だココは……? 墓場専門の町みてェな」

 陰気な様子に、シーフのランクは顔をしかめる。

「見て、あそこの作物……。何も実ってないっていうより、枯れちゃってるみたい」

 農作物や活気のない人々を心配する白魔道士のシファ。

「こ、この町は見るからに大地が腐る影響を受けてるんじゃないでスかっ……?」

「墓石が多いのも、建物が荒れてンのもそのせいだってのか?」

 黒魔道士のビルは云い知れぬ不安を覚え、どうもそれだけが原因ではない気がするランク。

赤魔道士マゥスンは、羽付き帽子の下から黙ってひび割れた大地を見つめている。


「 ────あなた達は、旅の人……でしょうか」

 そこへ、やつれたような1人の若い女性が4人の来訪者にか細い声を掛けて来た。

「今現在……、この町メルモンドは大地が腐り出している影響で作物は育たず、食糧も殆ど無くなってきている始末────
悪い事は云いません、早々に立ち去った方がいいでしょう。……私も、明日にはこの町を出ようと思っているんです」

「その方がいいンじゃねーの? こンな陰気腐ったトコに居たって、胸クソ悪ぃだけだろーしな」

 ぶっきらぼうに同意するランク。

「大地が腐り、町が廃れていく中で、バンパイアと呼ばれる魔族にも夜毎、この町は襲われています」

「 え……? 」

「ここから南西の、悪魔の尻尾と呼ばれる半島……アースの洞窟に住み着いているらしく、そのバンパイアが大地を腐らせている元凶とか──── 」

(バンパイアが、12賢者の人達が云ってた"土のカオス"、なのかな)

 そうは思ってもまだ確信を持てないシファ。

「バンパイアは男女問わず人間を襲っては生き血をすすり、残らず吸われる人もいれば"半端"にされる人もいて、そういった人は操られてアースの洞窟に連れてゆかれるんです。私の両親も襲われてしまい、恋人はバンパイアを倒しに向かったきり………戻って来ません。
この町は、辛すぎます………。行く当てがないといっても、私は近い内に町を出ます。
あなた達は、夜が深まらない内にここから離れた方がいいですよ。
……そういえばあなた達の他に、大地が腐っていく原因を突き止めにやって来たと云う、珍しいドワーフがいましたけど」


「ふぇ? もしかして、そのドワーフさんは……!」

 その時、ビルの背中を何かが小突いてきて
振り向くと、そこにはビルと同じくらい小柄で陽気なドワーフのネリクがいて、再会に特有の挨拶をしてくれる。

「ラリホ! お前さん達も、大地が腐る原因を探りに来てたか!」

(あれ、さっきの女の人は……?)

 ここへ来て色々話てくれた女性が、いつの間にかいない事にシファは気づく。

「町のニンゲンから色々と聞いたぞい、大地と共に生きるワシらドワーフだけの問題じゃあないな………」

「オレらもさっきの女から聞いたけどよ、大地腐ってンのはバンパイアの仕業だってか?」

 面倒そうに云うランクに、ドワーフのネリクは難しい顔をする。

「ふむぅ……ひとまず夜も近いでな、宿屋の食堂にでも行って話そうじゃあないか!」


────────────


 生暖かく湿った空気の流れと共に、灰色の空が黒く塗り潰される夕闇の頃、辛うじて営業しているメルモンドの宿屋には、カウンターにいる中年男性と最近泊まり掛けのドワーフ1人に、新たにやって来た4人の若者だけで、蜘蛛の巣が張り巡った食堂内で出された物といえば、小さめに切られた芋のスープのみ。

宿屋の主人は早々に戸締まりを済ますと部屋の奥に引っ込んでしまい、食堂のテーブルを囲んだ5人はまずドワーフのネリクから話し出す。

「ここに留まって数日、夜な夜なバンパイアに襲われたニンゲンを何度かワシも目にしたよ。町の者は戸締まりをしっかりするんじゃがな、それでも突然家の中に現れては外にわざわざ引きずり出して生き血をすすりよるんじゃ……!
悲鳴がして宿屋の窓から初めてその光景を目の当たりに時はどうする事も出来なんだが、二度目はさすがに見ておれんとツルハシで立ち向かおうとしたんじゃがの、直前で奴は闇に同化して姿を暗ましおった……。しかも血を吸われたニンゲンもいなくなっておったんだよ!」

 少なからず興奮して語るネリク。

「そのバンパイアが大地を腐らせとる元凶らしいと知ったワシは、アースの洞窟へ退治しに行こうとしたんじゃが、ワシ1人ではさすがに無理があるしの………。
町のニンゲンにも協力してもらおうと思ったんだが、ヒトの数も減る一方で戦える者もおらんし気力すら失っとる……。そんな行き詰まった所に、お前さん達は来てくれた!」


「そ、そうでスとも! ボクらがそのバンパイアを倒して、大地が腐るのを止めてみせまスよっ……!」

 ドワーフのネリクの前で意気込で見せるビル。

「ソイツが土のカオスだってか? 何かイメージと違ェ気がすンだけどよ」

「 ………そうだな 」

 共感したような赤魔道士マゥスンの一言に、ランクは内心驚く。

(うはッ、コイツがオレに同感しやがるなンざ、ありえねェッ。いや、別に悪かねーけどよ……?)

「ところでな……、バンパイアはどうやら血を吸うのに男女問わないとはいえ、やはり"オナゴ"を好むようなんじゃ。白魔道士の娘さんは、そこの所気をつけるんじゃぞ?」

「え、えぇ、分かりました……!」

「赤魔道士のお前さんはどうか分からんが……、気をつける事じゃ!」

「 ────忠告、留めておく」

( ………待てよ? シファは別として何で赤魔のヤツが狙われる必要あるンだッ。いや、どっちにしたってオレにゃ関係──── )

 ランクの妙な気分をよそに、夜の深まりつつある屋外から突然、女性の叫び声が上がった。

「バンパイアが現れたんじゃ……、誰かが襲われとるぞい!」

「 行こう、みんな!」

 シファの掛け声と共にドワーフのネリクと4人は、しっかり閉じられた戸を強引にこじ開け、夜闇に身を投じた。 
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