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ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~

作者:enagon
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第4章 俺の幼馴染とテロ屋さんが修羅場すぎる!
  第59話 思いもよらぬ大騒動

 
前書き

さあ第四章突入です!
前回の更新から1ヶ月以内に更新出来ました!
今後もこの更新ペースで行けるように頑張りたいです。

そして今回、後半からちょっと過激です。
18禁ではありませんが17.9禁位はあるかもしれません。
苦手な方は読み飛ばしちゃってください。
逆に好きな方は……何度も読みなおしてニヨニヨしてください。

ではどうぞ。


 

 



 ……気まずい。そこはかとなく気まずい。

 イリナたちが俺達の元を離れて約一週間。俺達は以前の日常に戻っていた。堕天使が領内で不穏な計画を図ることも、悪魔貴族が厄介事を持ち込むことも、堕天使幹部が来襲し、それを追って教会の追手がやってくることもなく、実に平穏な日常が過ぎ去っていった。

 そして今日、いつも通り剣道部が終わった後、火織と共に部室に来たらこれである。もうなんというか、どうしていいのか分からない。

 大抵の場合飄々としている火織も若干笑顔が引き攣ってるし、この中で一番マイペースな黒歌姉や白音ちゃんも、今は窓辺でひなたぼっこをせずにちゃんとソファーに座っている。さらに

「お願いソーナ! すぐにオカ研の部室に来て頂戴! もう私にはどうすればいいのか分からないの!」

 という部長の悲鳴のような連絡を受けて

「どうしましたリアス!? 一体何……が…………」

 と、生徒会のメンバーを引き連れ慌ててやって来た会長も部室の状況を見るや、困惑した表情の後気まずげに俺たちから視線を逸らせた。

 さて、そろそろなんで部室内がこんなに気まずい空気に包まれてしまっているのか説明しようか。っていうか気まずい原因は部長と会長の対面に座っている














「「………………」」

 イリナとゼノヴィアの所為なんだけどな。







 さあ、これでなんで俺達がこんなに気まずくなってしまっているのか察して貰えたであろうか? だってさ、もう二度と会えないかもしれない、会えても今度は殺し合わなければならないかもしれない、でもそれでもまた必ず皆笑顔で会おうって涙ながらに約束して別れたのがつい先週だぞ!? 俺だってそう思って、俺の我が儘通すために一日でも早く昇格しようって一層気合入れて修行始めたってのに、なんかそれ全部台無しにする形でこうして再会しちまってるんだぞ!? しかも間はたったの一週間! もうホント、何がどうしてこうなった!?

「とりあえず……もう一度説明してもらえるかしら?」

 と部長がため息混じりに言った。部長はもう先に2人に事情を軽くだけど聞いていたらしい。さて、一体どんな理由が飛び出すものやら。

「その、だな……教会本部に戻ったあと、打ち合わせ通りなんとか我々だけでエクスカリバーを破壊しつつも核は回収、さらに途中で乱入してきた堕天使側の白龍皇がコカビエルを倒して連れ去ったと報告したんだ」

「一応それで上は納得してくれて任務は成功という形で終わったんだけど……次の日に私達天界に招集されて……」

『『『っ!?』』』

 天界!? いやあるのは知ってたけど人間が行けるもんなのか!?

「そこで私達はミカエル様に引き合わされたんだ」

 ミカエル!? ミカエルって確か天使の長だよな!? っていうか一介の聖剣使い、まぁエクスカリバーとデュランダル使いは一介の、じゃないかもしれないけど、それでも天使長が人間を呼び出して会うなんてことがありえるのか!?

「それでね、その………………ミカエル様は全部ご存知だったの」

 ………………え? ちょ、それって。

「ちょっと待て、全部って……一体どこからどこまでだ?」

「全部さ。コカビエルを倒して聖剣を回収したのが火織と龍巳だということも、火織にエクスカリバーを貸し与え稽古をつけてもらったことも………………そしてエクスカリバーを我々が必要もないのに折ってしまったということも全部………………」

 と、先程からどんどん意気消沈しながら説明してくれるゼノヴィア。けど俺達はそれに対し何か反応を返すことが出来ずにいた。何故かと言うと、部屋の空気が完全に凍りついてしまっていたからだ。

「その、なんでミカエル様はこのことを?」

 そんな空気の中でも火織がぎこちなくも質問の声を上げる。その問いに答えてくれたのはイリナだった。

「それが、どうやらあの白龍皇が結構前から私達を観察していたらしくて……それで神の子を見張る者(グリゴリ)が内容を細かく報告してきていたらしいの」

 なっ!? 白龍皇が!? っていうかあいつずっと見てたのかよ!?

「にゃぁぁぁ、なんか視線感じるなとは思ってたけど……」

「殺気もありませんでしたし、気付けませんでした……」

「……結界、不可視すればよかった」

 それを聞いて頭を抱える黒歌姉と龍巳、白音ちゃん。いやでももう過ぎたことだし。っていうか誰も気付けなかったんだからしょうがないって。

「それでさイリナ、ゼノヴィア。結局2人はどうしてここに戻ってくることになったんだ? ……もしかしてエクスカリバー折ったことの報復……とか?」

 その俺の発言を聞いたイリナとゼノヴィアは慌てたように首を横に振った。

「いやいやいや! 決してそのような指示は受けていない!」

「えっとね、ミカエル様のご指示なんだけど、私達連絡係としてここに送り込まれたの。『堕天使の動きが不透明で不誠実のため、遺憾ではあるが連絡を取り合いたい』とのことで……」

「……なるほど。つまりあなた達が天使長ミカエルから言伝を受け、それを私が聞いて兄の魔王様に伝えればいいのね?」

「話が早くて助かる」

「あの部長、なんでわざわざイリナたちと部長を介して連絡を取るんですか?」

「膠着状態と言えど天使と悪魔は敵対中。だから魔王様と天使長が直接コンタクトをとるためのホットラインなんて存在しないし、正規の手段で連絡を取ろうにも手紙ひとつ送るだけで幾つもの検閲を通されるからとても長い時間がかかるらしいの。だからこうして魔王様にいつでも直接コンタクトの取れる私やソーナの元に連絡員を寄越したのでしょうね。……でも裏を返せばそれは何か急ぎの用件があるということかしら?」

 部長は俺や悪魔になりたてで分かってなかった火織たちに説明し、後半はイリナへと質問を投げかけた。

「えぇ、何でも近いうちに天使、悪魔、堕天使の代表が会談を開くらしいの。そこで堕天使側から話したいことがあるみたい。それで開くための打ち合わせをスムーズに行いたいから私達は送り出されたの」

「おそらくコカビエルに関して何らかの謝罪があるのではないかと私達は予想している。それからそのコカビエルなんだが、入ってきた情報では独断によるエクスカリバーの強奪と、その結果3すくみの均衡を崩して戦争を起こそうとした罪であの氷のまま『地獄の最下層(コキュートス)』に送られたらしい。永久冷凍の刑だそうだ」

「まぁ未遂ではあるけれど起こそうとした事が事でもあるし、妥当でしょうね。それにしても堕天使が話をしたいだなんて……総督のアザゼルが本当に謝罪でもするつもりなのかしら?」

 その部長の言葉を最後に部室にいる皆は神妙な空気に包まれ、総督のアザゼルが一体何の用だろうと考え始めたんだけど……俺はそれよりも気になることについて聞いてみることにした。

「なぁイリナ、ゼノヴィア。話は分かったんだけどさ、なんでわざわざお前たちを寄越したんだ? いくら俺達と面識があったって言っても、わざわざ連絡係に聖剣使い、それも2人も送ってくるか普通?」

 そう俺が言った瞬間……イリナとゼノヴィアがダーッと目の幅涙を流し始めた!?

「やっぱり……やっぱりそう思うのかイッセー!?」

「うわーん! 悪魔と関係持っちゃったし、これってやっぱり左遷ってことなのぉ!?」

「って落ち着け! まだそうと決まったわけじゃねぇだろ!? ほら! 急ぎの連絡ならスムーズに会話出来た方がいいし、なら知り合いのお前らが送られてもおかしくないって!」

「そ、そうかなぁ……?」

 そう言って俺は2人を慰める。皆も

「そうそう、大丈夫だって!」

「聖剣も取り上げられてないんでしょう?」

「むしろミカエルと直接連絡取れるようになるんだし!」

 と、2人を元気付けていた。……でも、ああ言っといてなんだけど、左遷の可能性って結構高いよな。他にあんまり理由が思いつかないし。でも……例えそうであったとしてもこうしてまた一緒にいられるってのは素直に嬉しいな。

「グスッ……皆、ありがとう!」

「これからまた当分よろしく頼む」

 それにこの2人もなんだかんだで今はこうして笑顔だしさ。

 当初あった気まずい空気も今ではすっかりどこかへ行ってしまった。

「ねぇねぇゼノヴィア」

 と、そこでゼノヴィアに話しかける黒歌姉。

「ん? 何だ、黒歌?」

「『プライベートは、別だ』」

 と、黒歌姉がキメ顔で言った瞬間ゼノヴィアの顔が真っ赤に!

「にゃっはははっ! ゼノヴィアっち顔真っ赤!!」

「だぁ~~~っ!! やっぱりお前は滅してやるこの化け猫ぉっ!!」

「にゃ~はっはっ!! 鬼さんこちら! 手の鳴る方へ!」

 笑いながら逃げる黒歌姉とデュランダルぶん回して追いかけるゼノヴィア。どっかで見た光景だなこれ。黒歌姉もホント悪戯好きだよな。ゼノヴィアがいじりやすいってのもあるんだろうけど。それに嫌なこと忘れさせるためにわざとやってるんだろうなあれ。やり方はともかく優しいよな黒歌姉って。

 と、今度は火織がイリナに近付く。え、もしかして火織もイリナをいじるつもりか? いや、さすがに火織はそんなこと……

「ねぇねぇイリナ」

「な、何? 火織ちゃん?」

 警戒したような表情で火織のことを見るイリナ。そして……

「『答え』は見つかった?」

 うぉいっ!! 火織、お前もか!?

 そしてその言葉を聞いたイリナはまた目の幅涙を流し始めた!

「うぇ~ん!! こんな短期間で見つかるわけ無いよぅっ!!」

「ごめんごめん、冗談だから泣かないで。ね?」

「火織ちゃんの意地悪ぅっ!!」

 そして火織の胸で泣き始めるイリナ。そしてそんなイリナの頭を火織は苦笑しながら撫でていた。ったく、忘れてたぜ。普段は黒歌姉の影に隠れてるけど、火織も意外と人のこと弄くるの好きだったんだよな。

 でも、なんだかんだで皆笑顔だし、良かったんだよなこれで。

 ……と、思ってたんだけど、その時俺は気づいた。この中でたった一人だけ、笑顔じゃない人がいたことに。

「これは……由々しき事態ですね」

 その人……会長が発した重々しい内容の発言に、先程までの和やかな空気は鳴りを潜め、皆が会長に注目した。

「ど、どうしたというの、ソーナ?」

 そんな重苦しい空気の中、部長が会長に尋ねる。

「……リアス、あなたはもう今月の報告書は提出しましたか?」

「えぇ、つい一昨日に……」

 と、そこまで部長が言った途端………………顔を真っ青にして脂汗をダラダラとかき始めた!?

「マズい……これは非常にマズいわ!!」

 あの部長がめちゃくちゃ取り乱してる!? 一体どうしたっていうんだ!?

「落ち着いてください部長! 何があったんですか!?」

 そしてそんな部長の肩を掴み、落ち着かせつつも何があったのか問いただす火織。

「……私達は特別な留学生として冥界の学校には通わずに人間界で学生をしているわ。でもその代わりに人間界における様々な事柄のレポートや日々の出来事の報告書を挙げなければならないの。普通ならこれらの書類は冥界の教育に関する部署などに挙げられるのだけれど、私達の場合は出生が特殊、つまり魔王さまの妹という理由でこれらの書類を魔王さま、もしくは魔王眷属の方々に提出しているの」

 部長たちそんなものを定期的に提出してたのか。全然気付かなかった。……でもそれがどう関係してるんだ?

「問題は私達が最近提出した報告書にあります。私とリアスは先の聖剣騒動について打ち合わせ通り、『領内に墮天使と、それを追って聖剣使いが侵入、しかし程なくして両者は領内から消えたため、問題なし』と報告書に記しました」

「えぇっと……。つまり打ち合わせ通りなんですよね? 何か問題があるんですか?」

「イッセー、天界には神の子を見張る者(グリゴリ)からことの詳細が伝えられていたのよ。となれば今回の件に噛んでいた私達悪魔側、つまり魔王さまにも神の子を見張る者(グリゴリ)から連絡が来ていると見て、間違いないわ」

「っ!!」

 俺、そして皆も、この時になってようやく事態の最悪さを理解した。つまり……

「俺達が虚偽の報告をしたということが、魔王さまにバレてる?」

 その俺の言葉に、2人は項垂れるようにして頷いた。マジか、それってマジでヤバイんじゃ……

「うふふ、これはもしかすると冥界に強制送還かしら?」

「それならばまだいい方です。最悪の場合魔王さまに虚偽の報告をしたとして処罰される可能性も……」

 その言葉と同時、さっきまでの明るい空気はどこへやら、どん底へと落ちていた。

「あの、墮天使側の報告が嘘だと主張したりとか……」

 と、匙が提案してみるが……

「イリナとゼノヴィアが証言してしまっている以上、流石に無理でしょうね」

「一時的にしのげても、いずれは必ずバレます」

 そ、そんな。じゃあ本当にもうダメなのか? 部長と会長は、もはや諦めたような表情だ。

「……書き忘れた、じゃダメですよね?」

 俺は絶望的な空気の中、それでもダメモトで言ってみる。しかし

「それよ!」 「それです!」

 え、えぇぇぇええっっ!? 意外にも部長と会長が喰い付いた!?

「ちょっ!? 自分で言っておいてなんですけど、それでいいんですか!?」

「えぇ、確かにあなたの言う通りただ書き忘れました、ではダメでしょうね」

「しかしながら補足説明として追加の報告書をあげるのであれば話は別です! 前回の報告書で『問題なし』と挙げましたが、これに補足をするのです! 『前回問題なしと挙げましたが、具体的にはこうこうこういったことがありました。しかしながら特に被害もなくあっさり解決。故に問題はない』と言った感じにです。実際我々の間では何一つ問題はなかったのですから、虚偽の報告にはなりません! あったことを正直に書いて、その上で問題なしと報告するのです!」

 え、えぇぇ………………そ、そんな子供の言い訳のような報告書で本当にいいんですか? しかしながら俺の疑問をよそに話は着々と進んでいく。

「とは言ってもあまり間を空ける訳にはいかないでしょうね。私達が追加の報告書を挙げる前に上から追求されたらその時点でアウトよ」

「明日までには……いいえ今夜中には挙げる必要があるでしょう」

「私の眷属とソーナの眷属、全員で取り掛かってギリギリ、といったところかしらね?」

「考えている暇はありません。すぐに取り掛かりましょう。幸い生徒会室には全員分の設備があります」

「なら遠慮なく使わせてもらうわ。聞いてたわね皆! 事態は一刻を争うわ! すぐに生徒会室に移動して作業に取り掛かるわよ!」

 お、おぉぅ……あっという間に決まっちまった。今夜は修羅場だな。俺たち今日家に帰れるのか、これ?

 と、そこでイリナとゼノヴィアが焦ったように立ち上がって口を開けた。

「ふむ、皆も忙しそうだし私達はそろそろお暇しよう!」

「そうねゼノヴィア! じゃあ皆、頑張ってね!」

 そしてそそくさと部室を後にしようとするイリナとゼノヴィア。しかし……

「「ちょっとお待ちなさい」」

 その2人の肩を部長と会長がガシッと掴んだ!

「あなた達が天界にした証言と私達の報告書に齟齬があればまた問題になりかねないわ」

「お二人にも報告書作成に付き合ってもらいます」

「「ひっ!?」」

 そして部長たちの表情を見て悲鳴を上げるイリナとゼノヴィア。俺もこの時になってようやく気付いたけど、部長と会長の目が血走っててめっちゃ怖かった。

「で、でもでも! 実はミカエル様に報告した後、事情聴取のために他の様々な部署をたらい回しにされてるの私達!」

「この1週間まともに寝ていないんだ! 頼む! もう限界なんだ! 寝かせてくれ!」

 うぉっ!? マジか。確かによく見りゃ化粧で隠してるけど目の下にはくまがあるし、肌もガサガサだな。さすがに可哀想だし寝かせてあげたいんだけど……

「悪いけどこちらも余裕がないの! 黒歌! 白音!」

 部長は無慈悲にもイリナとゼノヴィアの主張を切って捨ててしまった。

「ごめんねゼノヴィアっち~。にゃんか私達ピンチみたいだしさぁ~」

「アニメの時間までには帰りたいんです。観念してください」

 そして2人を押さえつけ、生徒会に連行していく黒歌姉と白音ちゃん。

「「い、いやぁぁぁ………………」」

 聖剣使いの悲痛な悲鳴が響く中、俺達は報告書作成のため生徒会室へと向かった。














「あ゛~~~~~~、気持ちいい~~~~~~~」

「イッセー、お疲れ?」

「そりゃまぁ、あんなことがあったらなぁ~」

 と、俺は龍巳に間延びした声で答えた。なんたってあの後、生徒会の仕事やオカ研のミーティング、果ては悪魔の仕事さえほっぽり出して追加の報告書を書き上げたからな。ようやく終わった段階で、メンバーは皆グロッキーになってたよ。更に人間で、ここ最近あまり睡眠時間も取れずにいたイリナとゼノヴィアなんか終わった途端気絶しちまったからな。結局今晩は前2人に貸していた部屋も準備ができていないということで火織のうちに寝かせることになったんだ。おかげでここまで担いで帰るのも大変だった。まあ背中に感じたイリナの柔らかい感触は役得だったけどな!

 しかし俺達はこれで仕事は終わりだったんだけど、ここから大変なのが部長や朱乃さん、会長や副会長なんだよな。報告書がまとめ終わるや皆に解散を伝えると、疲労の気配を色濃く滲ませながらも魔法陣ですぐに跳んでいった。部長たちはお兄さんであるルシファー様の元へ、そして会長たちはお姉さんであるレヴィアタン様の元へな。2人が言うには魔王様に直接報告ができればそこまで大きなことにはならないんじゃないかということだ。遅れたとしても一応嘘ではない報告書は提出できたし、何より魔王様2人が度を越すシスコンであるのが大きな理由らしい。……これ聞いた時には驚いたよ。魔王2人がシスコンって、なんか俺の中の魔王のイメージがめちゃくちゃ崩れたんだが。

 まぁそんなわけでうまく本人たちに報告できればすぐに問題なく開放されるだろうとの事だったんだけど……お付きの魔王様の眷属に捕まったらどうなるか正直分からないとのことらしい。例えば部長で言うと、グレイフィアさんに捕まった場合とか……。なんとかして本人のもとに直接乗り込んでみると言っていたけど、部長の表情はその決意とは裏腹に悲壮感に包まれていたし……部長、大丈夫かな?

「ん、イッセー、終わり」

「おぅ、サンキュー龍巳」

 まぁそんな訳で、帰ってきた頃にはとっくに日付をまたいじまってた。そして黒歌姉と火織が夜食を作ってくれてる間、俺達はこうして先に一緒に風呂を済ませていた。うん、実はもうこうして2人で風呂に入ることが完全に習慣化しちまった。あんまり良くないなぁ~とは思ってるんだけど、やめようとすると龍巳が泣きそうになるし、もう普通に受け入れるようになっちまったよ。加えて

「なぁ龍巳、水着着たまま体洗うのってめんどくさくね?」

「うん、毎回お風呂の後水着洗うのもめんどくさい」

 という共通の見解を得たことにより……

「いいか龍巳。基本タオルで隠すこと、相手のを無理やり見ないこと、そして相手に無理やり見せつけないこと。……あと当然エッチな事も無しだかんな。守れるか?」

「うん」

 という約束を取り付け、一緒にお風呂入り始めて3日目にして俺達は水着無しの素っ裸で一緒にお風呂に入るようになっちまった。……これ、皆にバレたらまたなんか言われるんだろうな。今でこそもう普通になって何も言ってこないけど、一緒にお風呂入るようになった頃は皆にも文句グチグチ言われたし。まあそれでも誰も反対しなかったのはお互い水着来たまんまってのがでかかったと思うし、水着着てないことバレたらなんて言われるか……。……あとおじさんたちが出張から帰ってきたらなんて言われるか、それが怖い。

「よし、んじゃあ交代するか」

 と言って俺は腰にタオルを巻き直し、場所を龍巳と交代しようとする。さっきまで俺は龍巳に背中を洗ってもらっていたんだ。で、次は位置変わって俺が龍巳の背中を洗ってあげる番。まぁこれも完全にいつものことだな。……けど今日はここからがいつもと違っていた。

「ん、イッセー、待つ」

 と言って龍巳が背後から抱きついてきた!? せ、背中にさっきまで感じていたイリナのものより圧倒的なボリュームのものが、それも隔てるものもなくダイレクトに背中に押し付けられてきた!?

「ど、どうしたんだよ龍巳!?」

「ん、確認。イッセー、疲れてる。合ってる?」

「いやそりゃまぁな! っていうかさっきもそう言ったじゃん!」

 っていうか現在進行形で俺の精神、っていうか理性がガリガリ削られてるんですけど!?

「ん、じゃあ我、イッセーの前も洗ってあげる」

 ………………はぁっ!?

「いやいやいいって!? 別に洗えないほど疲れてるって訳じゃないしさ! っていうか龍巳! エッチな事はしないって約束だよな!?」

「ん、それ勘違い。ただ洗うだけ。エッチなことしない」

 そう言ってアワアワの手を俺の胸板の上で滑らせ、洗い始める龍巳。でもそうすると背中のボリュームがグニグニと形を変えつつこすれるわけで!

「ぐっ……、で、でも背中に」

「後ろから手を伸ばして洗う。そうすると当たるの、不可抗力」

「た、確かに……」

「もちろんおち○ちんは洗わない。エッチは無しだから」

「って女の子がそんな言葉口にしちゃいけません!」

 あぁもうホント、なんで龍巳はこんな娘に育っちまったんだか。

「分かった、もう好きにしてくれ」

 そう言って俺は脱力した。なんか今のやりとりだけでどっと疲れたし、もうどうにでもなれという気分になっちまった。まあなんだかんだで龍巳も約束は守ってくれるしな。けど……

「んしょ、んしょ……」

 一生懸命洗ってくれてるのは分かる。分かるんだけどやっぱりその背中に感じる膨らみはどうにかならんのか!? 体がちっちゃい龍巳が一生懸命前に手を伸ばすと、その分さらに押し付けられて感触がもうとんでもないことに! それになんだか柔らかい感触の中にだんだん硬くなるしこりのようなものが………………いや! 考えるな俺! でないと取り返しの付かないことになっちまうぞ!

「んっ、んっ……」

 な、なんか龍巳の声もいつもより艶っぽいような……ってだから考えるな! 心を無にするんだ!

 そう俺は理性の間でもがき続けるうちに、俺の体を洗う龍巳の手はだんだんと下腹部に近づいていき………………

「お、おい龍巳、そこから先は……」

「……ん、分かってる。イッセー、そこは自分で……」

 そう言うとギリギリまで下降してきた龍巳の手はそのまま両側に分かれ、両太ももへと伸ばされた。よ、良かった。ここまで龍巳に触られたら流石に俺も我慢できなかった。龍巳がちゃんと約束守ってくれる子で本当に良かったよ。さて、じゃあ俺はここを自分で………………ん?



 自分で洗う?



 ギンギンにいきり立つこれを?



 全裸の龍巳に背後から密着されてる状態で!?



 で、出来るかぁぁぁぁあああっっ!! これじゃあ完全に怪しい店のサービスみたいじゃねぇかっ!! っていうかやってること第三者から見たら完全に変態だよ! アウトだよ!!

「ん? イッセー、洗わないの?」

「い、いや、その……」

「……洗ってほしい?」

「って、だからそれはダメだろ!?」

「じゃあ、何?」

「だ、だって……」

 これで俺のマグナムの銃身磨いたら完全にいやらしいことしてるようにしか見えないし。っていうか、磨いたら暴発するかもしれないし!

「イッセー、何悩む? 体洗うこと、普通のこと」

「……普通?」

「そう、誰でもすること。もちろんそこも」

「そ、そう?」

「そう。洗って何か感じたり起こったりしても………………それは不可抗力」

「……不可抗力」

 た、確かにそうだよな。そもそもここは体の中で最も汗臭くなる部分の1つだし、ならしっかり洗わないと。女の子と暮らしてる以上、臭いなんて思われたくないし。っていうか黒歌姉や白音ちゃんは猫だから嗅覚が俺達より敏感そうだし、ならなおのことしっかり洗っておかないと!

「そうだよな! 例えどんな状況でもちゃんと洗うのが普通だよな!」

「そう! それが普通!」

「よし! となれば……!」

 龍巳が俺の体を洗い終わるまでの間、俺は万難を排して黒光りする刀身を磨いた。







「よし、じゃあ今度こそ交代な」

「うん」

 と言って、俺達はいる位置を入れ替えた。今度は俺が龍巳の背中を洗ってあげる番だからな。ちなみに俺の息子だが、いつもよりもさらにしっかり磨いたおかげでテッカテカの黒光りになったわけだが、代わりに今でもギンギンのMAXパワーが抜けないぜ。まぁ暴発だけは避けたけどな!

「じゃあ髪どけてくれ」

「ん」

 龍巳が髪を肩から前に垂らすことにより、白くきめ細やかな肌の背中が露わになる。俺はそこにしっかり石鹸の泡を載せたスポンジを当て、丁寧に洗い始めた。女の子の肌だし、俺みたいに垢すりでゴシゴシするわけにもいかねぇしな。

 龍巳の背中、何度見てもちっちゃいな。この小さな背中にあれだけの強大な力が備わってるなんて、目にした今でもにわかには信じがたい。………………なあ龍巳、お前って一体、本当にどういう存在なんだ? いつか、俺にもちゃんと話してくれるのかな。お前のこと、もっとちゃんと知りてぇよ。

「ぅし、終わりだ。もう髪後ろに戻していいぞ」

「……イッセー」

「ん?」

「前も」

「ぶふぅっ!?」

 ま、まままま、前もぉぉぉおおおっっ!?!?

「アホかぁっ!? 前ってお前、それじゃあおっぱい触っちまうじゃねぇか!! エッチはダメって言ったろ!?」

 龍巳が俺の前を洗うのと、俺が龍巳の前を洗うのじゃぜんぜん違うだろ!

「イッセー、質問」

「………………何だよ?」

「エッチの定義は?」

 ……は? エ、エッチの定義? 改めてそう言われると……

「えっと、エッチはエッチで……だからその、こ、子作りに関するようなこと、とか?」

「そう、つまり性器を触ったり触られたり、性器を合体させるようなこと」

「ブホッ! だ、だからお前、そういうことは口にするなと……」

「イッセー、よく聞く。おっぱいは性器じゃない」

 ……は?

「い、いやいやいや、性器じゃなくてもエッチな事に変わりないだろ! 子作りの時だっておっぱい揉んだりするし!」

「それ、エッチな目的で触るから。今は表面、洗うだけ。揉むんじゃない。だからエッチじゃない」

「で、でもだな、例えそうでも触ったらそれだけで男はエッチな気持ちに……」

「イッセー、それは……」

「それは?」

「不可抗力」

「ふ、不可抗力? そうなの……か……?」

「そう」

「……そう、か」

 えっと、今から龍巳のおっぱい触るのは洗うためだからそれはエッチな行為ではなく、そして触った結果俺がエッチな気分になったとしても、それは不可抗力だから問題なく、つまり俺が龍巳のおっぱい、いや、龍巳の前を洗うのはエッチな事ではないから約束を破ることにもならない?

「えっと、じゃあ、いい……のか?」

「ん、ちゃんと手で、洗って」

「お、おぅ」

 ま、まぁさっき龍巳には俺の全身洗ってもらったし、なら俺も龍巳の全身洗ってあげるべきなんだよな? もちろんその、せ、性器は各自で洗うんだし。つまりエッチな事は何もないんだから、こうすることにも何の問題もないんだよな?

「じゃあその……失礼します」

「ん」

 龍巳の脇から腕を前に出し、後ろから抱きかかえるようにして龍巳の肌に手を添える。そして



むにゅんっ



 な、なんという圧倒的なボリューム感、そして柔らかさ! 瑞瑞しき張りの中にもマシュマロのような柔らかさを持つ、まさに人類の、いや、世界の至宝! こうしてこの手でおっぱいに触れたのは部長、レイナーレ、アーシア、朱乃さんに続いて5人目だが、こうして自らの意志で、それも両手でしっかりと触れたのは初めてだ。これまでにない高揚感が俺を包む!

 って今さらっと流しちまったんだけど、なんだかんだで俺ここ最近で4人もの人の生乳触っちまってたんだな。昔から俺を好いてくれてる幼馴染みたちより先に触っちまうって、もしかして俺結構最低か?

 ま、まぁそれは置いておいて、今は俺の手の中にあるおっぱいだ! 龍巳は体はちっこいくせに胸はデカいからな。アンバランスで気持ち悪いほどデカいってわけじゃないし、カップ数も黒歌姉や部長、朱乃さんよりも下だろうけど、体が小さいことが相まって黒歌姉たちと同等かそれ以上に感じちまう。まったく、おっぱいは最高だぜ!

「ん、イッセー、そろそろ……」

「え? ……あ、すまん! 俺つい!」

 し、しまった! あまりにもおっぱいの衝撃が強すぎて、つい目的を忘れて揉みしだいちまった!

「い、いい。問題ない。不可抗力。だから……」

「お、おぅ。じゃあその、洗うからな……」

 俺は揉んでいた指から力を抜き、そのまま円を描くように表面を撫でて洗っていく。そして洗うと同時にもにゅもにゅとおっぱいが形を変える様子が俺の目に飛び込んできた。……うん、実は丸見えなんだ。龍巳の前を洗おうとするともちろん俺は龍巳の背後から密着する必要があるんだが、そうすると龍巳の体がちっちゃいせいで上から龍巳の体が丸見えなんだよ。……で、でも無理やり見てるわけでも見せつけられてるわけでもないし、約束を破ったわけでもないからこれも不可抗力だよな!

 そして見えるからこそ、さっきから気になっていることが一点あった。それはおっぱいの頂、きれいな桜色の突起だ。柔らかいおっぱいの中でそこだけがパンパンに隆起し、存在を主張していた。あれ、あんなになって痛くないのかな? なんか痛そうで、あそこだけ触れず洗えてないんだけど、などと考えたところで……

つるっ

「あっ」

「んんっ!」

 て、手が滑って思わず突起を弾いちまった! そして密着していた龍巳の体がビクンッと跳ねる!

「大丈夫か龍巳!? 痛かったか!?」

「……ん、大丈夫。続けて」

「いや、でもお前、目がうるんで……」

「大丈夫。これも、不可抗力だから………………だからちゃんと、()()、洗って」

「……分かった」

 そ、そう言われちまったら、仕方ないよな。

 俺は一旦おっぱいから手を離し、手のひらの中心がちょうど突起に当たるようにまたおっぱいに手を当て、そのまま手のひらで突起をくりくりするようにして洗い始めた。その途端……

「ん、んぅっ……んっ……!」

 俺の腕の中で龍巳が悶え始め、ビクビクと痙攣した。っていうかこれって痛がってるんじゃなくて気持ちよくなってねぇか!? や、ヤバっ!? もうこれ以上はないと思ってたのに、龍巳のあられもない仕草見てると限界を超えて俺の息子がさらにむくむくと! で、でも全部洗うためには必要なことだし、これも不可抗力なんだよな!? で、でもこれで理性が飛んだら洒落にならんし、名残惜しいけどおっぱい洗うのはこのくらいにしてそろそろお腹の方に……!

 そう思い俺はおっぱいから手を離し、手を下に下げようとするんだけど、何故か龍巳に腕をガシッと掴まれた。

「ど、どうした龍巳?」

「イッセー、ちゃんとここも」

 そう言って俺の手が持って行かれたのは下乳のさらに奥、おっぱいの付根! おっぱいとお腹によって手のひらが挟まれ、重みによって感じるのは圧倒的なまでの『肉』!

「ここ、汗たまりやすい。だからしっかり」

「りょ、了解」

 た、確かに谷間同様肉と肉が密着してるし、汗も溜まりそうだよな。じゃあしっかり洗ってあげないと。

 そう思い下からおっぱいをすくい上げるようにして洗おうとした途端、まるで流れるようにしておっぱいが手の隙間からこぼれ落ちる! しかもその時、龍巳の突起が俺の手と強く擦れた! その結果

「んんぅっ!?!?」

 今まで以上にビクビクと痙攣する龍巳!

「だ、大丈夫か!?」

「……ん。問題ない、続けて」

「で、でも……」

「大丈夫。これも不可抗力。仕方のないこと」

「不可抗力……なのか?」

「そう」

「じゃあ……しょうがないよな」

「ん、そう。だから……」

「あぁ、分かった。じゃあ続けるぞ」

「ん」

 という訳で俺は、龍巳が納得してくれるまでしっかり丁寧に龍巳の裸身を磨き続けた。

「ん、んんんんぅぅぅぅっっっ!!!!」







「あ~~~、生き返る~~~」

「ん~~~♪」

 お互いの体を洗いっこした後、俺達は揃って湯船に浸かっていた。そろそろ暑くてお風呂に入らずシャワーだけで済ませちまうような季節だけど、やっぱりそれでもこうして湯船に浸かるとまるで疲れが体から溶け出すようで癒やされるよな。まぁ今日は風呂に入るに当って精神的にも疲労したおかげでプラマイで言えばマイナスのような気がしないでもないが……。あれ? 何で疲れ取るために風呂に入って逆に疲れてるんだ俺?

 ……まぁ気にしないでおこう。俺の体にもたれかかってる龍巳もご機嫌だし、それでいいか。

 ちなみに家庭用の湯船に2人で入る時は普通向かい合わせで入ると思うんだけど、俺達の場合は俺の股の間に龍巳が座り、俺の体に背をもたれかけるようにして入っている。向かい合わせより接触面積が上がるけど、こうしないとお互いの体がモロに見えちまうからな。……まぁ上から龍巳の体がバッチリ見えちまってるわけだが、これは不可抗力だよな。

「イッセー」

「ん?」

「いつもの」

「はいはい」

 そう言って俺は龍巳が差し出してきた頭を撫でてあげる。

「んふー」

 そして満足そうに息を吐く龍巳。こうしてると本当に一緒に風呂入ることが習慣化しちまってるということを実感する。

 ……でも、いつまでも習慣化したからとか、そんな理由でダラダラこんな関係を続けるのはやっぱり良くないよな。龍巳は俺のことが好きだから俺と一緒にお風呂に入ってるんだということはもちろん俺も理解している。それに比べ俺は………………未だに決心がついていない。

 火織は言っていた。『自分のことを愛してくれる女性くらい、全員まとめて幸せにしてみせると言い切るのも、同時にいい男の条件』って。もちろん悪魔は一夫多妻も許されるということは理解してるし、それに俺も男だ。ハーレムにだって憧れる。でもやっぱりついこの間まで人間だった俺にとって、ハーレムは夢物語なんだよ。

 第一俺が龍巳達全員を受け入れたとして、もちろん俺は幸せだろうさ。でもさ、龍巳たちはどうなんだ? やっぱり好きな人には自分だけ見て欲しいんじゃないのか? 俺だったら……好きな人が自分以外にも気持ちを向けていたら、やっぱり苦しい。器が小さいとか言われるかもしれないけど、それでも俺は自分だけを見てほしいと思っちまう。

 ……火織、やっぱりさ、俺には無理なんじゃないかな、ハーレムなんてさ。皆の気持ちを考えたら、とてもじゃないけど俺には……。やっぱり皆にちゃんと俺の気持ち伝えて、俺のことは諦めてもらって……それで俺じゃない、自分だけを見てくれる人を……

 俺の脳内で龍巳の、黒歌姉の、白音ちゃんの隣に俺じゃない男が並ぶ。それを想像しただけで胸がズキリと痛んだ。でも、これは俺が感じてもいい痛みじゃ……







「イッセー、我の隣、イッセーの物。他の男、ありえない」

「……え?」

 気がつけば、俺は龍巳と正面で向かい合っていた。

「なんで……分かったんだ?」

 その俺の問いに対し、滅多に表情を変えない龍巳が……微笑んだ。

「我、幼馴染み。このくらい分かる、当然」

 そう言って龍巳は正面から俺に抱きつき、耳元に口を寄せてくる。

「この10年、一番長く一緒に過ごしたの、我」

 ……あぁ、そうか。もう龍巳と出会って、それだけの時間が過ぎたんだよな。それに、一番一緒に過ごした時間が長いのは龍巳だ。何をするにしても、いつも俺たちは一緒だった。意外かもしれないが、父さんや母さん、火織よりも単純な時間は長いんだよ。父さんや母さんは普段朝晩しか顔合わせないし、火織も道場行ったりしてたからな。クラスもほとんど一緒だったし、黒歌姉と白音ちゃんが来るまでそれこそ朝から晩まで一緒にいた。それにそれは今でも続いている。ずっと龍巳の隣にいたのは……俺だ。

「でも龍巳、俺は……」

「ん、知ってる」

「なら分かるだろ。俺は、お前だけを見ることは出来ない。お前だってそんなのは……」

 嫌だろう? と続けようとした言葉は、意外な言葉に遮られた。

「構わない」

「……え?」

 俺はこの時、自分の耳を疑った。

「我も、黒歌お姉ちゃんも、白音も、もちろん知ってる。イッセーにとっての一番、火織お姉ちゃん」

 そう、そうなんだ。これは理屈じゃない。好きだから、自然とそう思っちまうんだ。皆のことを受け入れたとしても、心の何処かでそう思ってしまう自分は絶対にいる。そしてそれが、皆のことを傷つける。

「でも……」

 しかし、その後に続いた龍巳の言葉は俺にとっては意外な、まさに青天の霹靂だった。

「我信じてる。イッセーいつか、全員平等に愛してくれる。皆、一番にしてくれる」

「……え?」

 全員が……一番? そんな風に、思えるもんなのか? いや、例え思えるとしても

「……でも、そんなのいつになるか」

「我慢する」

「我慢って……」

「我、ずっと一人ぼっちだった。それに比べたら、なんてこと無い。皆もいる。一緒に待ってる。イッセーが我らのことも、見てくれるのを」

 それに俺は、もう、この言葉以外告げることが出来なかった。

「……努力するよ。なるべく早く、そうなれるように」

「ん、待ってる」

 龍巳は、どれだけの想いを込めて決心したんだろう。龍巳は俺のことなんでもお見通しなのに、俺には龍巳の気持ちが、その強い決意が、どれだけのものか想像もつかなかった。

 ……俺も、覚悟を決めよう。今すぐには無理でも、それでも、いつか必ずそうあれるよう、努力しよう。

 と、そこで龍巳が耳元で囁いた。

「でも我慢、やっぱり辛い。だから我慢のご褒美、欲しい」

「ご、ご褒美?」

 ご褒美っつったって、俺に出来る事なんて、それこそたいしたことは……等と思っていると



ちゅっ



「えっ?」

 頬に柔らかい感触がした。えっ、もしかして俺今キスされた!?

 俺の混乱をよそに龍巳は少し離れるとそのまま正面で向かい合う。その龍巳の頬には朱が差していて、まるで天使のような笑顔を浮かべていた。

「次、いつか、イッセーから。できればここ」

 そう言って口元に指を当て微笑む龍巳。その笑顔を見た時、俺は唐突に理解した。そっか、そうだったんだ。火織への気持ちは今でももちろん変わらない。でも、俺はいつの間にか龍巳のことを………………火織と変わらないくらい………………これが龍巳の望んでいた………………

「龍巳……」

 今はまだ……でも近いうち、必ず伝えよう。俺ももう、とっくの昔に龍巳のことを………………














「こっちが無理なら下の口でもいい」

「って全部台無しだよ!」

 さっきまでの甘い空気や、今後の俺達の行く末を決める会話はどこへやら。俺は迷うことなく渾身のチョップを龍巳の脳天に振り下ろした。














「……ありがとな、龍巳」

「ん♪」


 
 

 
後書き

次回予告

「ここは……有名な高級ホテルじゃねぇか!」

「じゃあこんなことしてもあんたは気持ちいいのかしら、ねっ!!」

「ふっ、龍巳姉さまに比べたら、どうということはないですね」

「木場! 貴様なんて不埒な!! 見損なったぞ!!」

「なんか……悪魔に対するイメージが崩れたわ、私」

 次回、第60話 皆のお仕事 

「……何やってんのよ、あんた達」


 
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