ハイスクールD×D ~聖人少女と腐った蛇と一途な赤龍帝~
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第4章 俺の幼馴染とテロ屋さんが修羅場すぎる!
第60話 皆のお仕事
前書き
前回の更新でわかったことが1つ。
どうやら読者の皆様はあまりイチャイチャ話やエロ話は好きではないようですね。
なにせページビュー数、感想数、評価数が一気にこれまでの半分くらいになりましたからね。
意外な事実でした。
まぁ私は好きですからこれからも書くんですけどね!
それから今回はこれまでで一番長い話になってしまいました。
本編ではない上に次回へのつなぎ回なのにこんなに長くなってしまうとは……これも原作よりキャラが多いのが悪いんだ!
「面ぇ~んっ!!」
「踏み込みが足りない!」
「はい!」
皆さんこんにちは、兵藤一誠です。今日は放課後の部活、剣道場からお送りします。うん、今回で60話になるけど、剣道部の様子を描写するのって初めてじゃねぇか? ……って俺は誰に向けて説明してるんだか。60話ってなんだよ?
まぁとにかく今日も今日とて俺は剣道部にて練習に励んでいた。まぁ今は順番待ちの途中だけど。
「よし次! 巡!」
「はい!」
そうこうしてるうちに、稽古をしていたうちの1人、うちのクラスの村山が下がり、次に巡が前に出て火織に対峙した。うん、実はうちの部活では稽古の際、火織に挑んではアドバイスを貰うという練習方法を採用していた。このような練習方法になったのも火織が入部初日、当時一番強かった当時の部長に完勝してしまったことに端を発していたりするんだよな。それ以来、うちの剣道部では大きく2班に別れて練習をするようになった。1つは部長率いる基礎の練習を繰り返す、部員同士で練習試合をするなどの一般的な剣道部と同じ内容をする班、そしてもう一つが火織によるシゴキが行われる班だ。
部活でシゴキなんて行ったら、特にうちのように元女子校で、スポーツがそこまで盛んでもない学校で行ったら部員は反発するだろうし、親御さんからも苦情が出て教員側から圧力がかかったりするだろうけど、うちでは自主参加性にすることでそういった問題を回避していた。まぁ本気で強くなって大会で成績残したい奴は辛くてもこっちに自分から入ってくるんだけどな。
それにこれは不純な、つまり火織とお近付きになりたくて入部してくる連中をふるい落とすためでもあるんだ。現に俺達が入部してすぐ、そして2年に進級してすぐの4月は入部してくる男子がものすごい多かった。まぁ大抵はもうやめちまったけどな。不純な理由で続けられるほど、火織のシゴキは甘くないんだよ。……ただ男子はすぐにやめちまったんだけど、女子は意外と粘るんだよな。実際火織の追っかけの女子がまだ数人残ってるし、現レギュラーの1人もその元追っかけだ。火織にシゴカれているうちに本当に剣道も好きになったらしいんだけど。……でも休憩時間中にお姉様と言って火織に擦り寄って行くのはどうにかならんのかね、あいつ? あと俺に毎回敵意の視線ぶつけてくるのもさ。
まぁそんな訳で俺は1年の頃から火織にシゴカれ続け、今年からレギュラーには入れたわけだ。……でも最近、そのレギュラーの座も少し危うくなってきた。なぜなら……
「次! 木場!」
「はい!」
そう、木場……いや、祐斗が入部してきたんだよ。俺たち同様掛け持ちという形でな。強くなりたいってのはもちろんだけど、火織ともっとお近付きになるためってのは本人から入部初日に聞いた。……クソ、今まで火織に告白する奴はいっぱいいたけど火織はそれをことごとく断ってたし、少し安心しちまってたけど、よくよく考えて見れば祐斗ってこれまで告白してきてた連中と違ってめちゃくちゃ優良物件だよな。女子にモテモテだけど今まで誰とも付き合ったこと無いほど身持ちが硬いし、禁手に目覚めたことで火織の『自分より強い人がいい』という条件に一歩近付いているし、何よりこいつら同じ騎士ということで部活内でも結構仲がいいんだよ! 美男美女だし、端から見てもめちゃくちゃお似合いに見える。……チクショウ。
でも俺だって強くなってんだ。絶対に負けねぇ!
「次! 紫藤!」
「はい!」
うん、お気付きかと思うが紫藤とはイリナのことだ。実はあの地獄の報告書作成のあとイリナ、そしてゼノヴィアがうちの学校に留学してくることになったんだ。連絡係としてここに来たわけだけど、天使長のミカエルから連絡が来るまでマジですること無いからな。領内ではぐれ悪魔とかが出没することなんて殆ど無いし、2人とも仕事もなくぶらぶらしてるしかなかったんだよ。それを見かねた部長がせっかくだからと2人にうちの学校への留学を勧め、晴れて俺のクラスに在籍することになった。そんな訳で、昼間はアーシアやレイナーレ、そしてその友達の桐生なんかと楽しそうにやってるよ。ただし問題は……
「次! ゼノヴィア!」
「ハイ!」
問題はゼノヴィアなんだ。というのもゼノヴィア、日本語話せないんだよ。これまでは相手が俺たち悪魔だったから言語の壁はなかったんだが、流石に他のクラスメイトは英語ならまだしも、イタリア語なんて分からないからな。っていうかその事忘れてゼノヴィアと普通に喋っちまったおかげで周りから驚かれたよ。俺は普通に日本語で喋ってたつもりだったんだけど、周りから見たら俺が流暢なイタリア語喋ってたらしいからな。
イリナとは幼馴染みで、その伝手でゼノヴィアとも前から知り合いなため会話だけならイタリア語が使えるというなかなか厳しい言い訳で何とか事なきを得たけど……イリナと幼馴染みだと説明した時には『またお前か』と言わんばかりに男子連中から睨まれたよ。
まぁそんな訳でゼノヴィアはアーシアと一緒に今日本語を猛勉強中だ。アーシアも会話は問題なくても読み書きはまだまだだからな。この間ひらがな、カタカナをマスターして漢字を勉強し始めたって言ってたし。でも2人とも今まで普通の学校に通ったことがなかったらしく、楽しそうに勉強しているよ。この辺りは恵まれてて学校行くのが普通な日本人には分からない感覚だよな。楽しく勉強ってあまり想像がつかない。
「次! 兵藤!」
「はい!」
よし! 俺もいっちょ頑張るか! 今日こそ火織から1本取ってやる! ………………毎回そう言っては一本も取れず終わっちまうけど……今日こそは!
「悪魔の仕事を見学したい?」
そう言って疑問の声を上げる部長。そしてそんなお願いをしたのが
「ああ、ぜひとも頼む」
「よろしくお願いします」
ゼノヴィアとイリナだ。
剣道部の部活が終わったあと、俺達は揃ってオカ研の部室に移動し交代でシャワーを浴び、最後の俺がシャワーから上がるとそんな会話が部室で繰り広げられていた。
「理由を聞いてもいいかしら?」
「私達はこれまで教会の命で悪魔と戦ってきたわけだが……」
「よくよく考えてみると私達、悪魔がどんな仕事をしているのか………………つまり人間と交わされる契約がどういったものかよく知らないの」
「え、教会の方でそういったことって教えられないのか? 悪魔祓いとしての教育課程とか一応あるんだろ?」
疑問の声を上げる俺にイリナが答えてくれた。
「うん、一応教わるわ。でも『悪魔は人間と契約し、人間を堕落させ、魂を奪う』としか教わってないの」
それを聞いた俺は、っていうかそれを聞いてた皆はなんとも微妙な顔をした。だってさ、部長の話を聞く限り最近では魂を奪うような契約なんてほぼありえないって言ってたぜ? もし魂が必要な契約なんかもその事説明すると相手側も断るしさ。っていうか
「なんかもうずいぶんと雑な説明だな。具体例とかそういったものは何も教わってないのか?」
「……うん、特には」
「あぁ、我ながらなんでそんな雑な説明で納得してたんだ、当時の私は?」
頭を抑えため息を吐くゼノヴィア。 ……でもその理由は明らかだ。俺たちと会って、いや、火織の説教聞いて自分で考えるようになったからだろうさ。
「つまり、本当はどういった契約を交わしているのか、そういうことを直接見て知りたい、ということでいいのかしら?」
「あぁ、実際に見た君たちと我々の知識の中の悪魔像はずいぶんと違うように思えてならないのでね」
「そういうわけでお願いしたんだけど……ダメかな?」
「そうね……まぁこの機会に私たちのことをもっとよく知ってもらえるでしょうし、許可しましょう。しっかり勉強していらっしゃい」
「本当か!?」
「ありがとう! あぁ主よ! 心優しき悪魔たちに出会えたこと、感謝致します!」
あだっ!? ず、頭痛が! 悪魔に出会えたことを神に感謝するなよ! っていうか普通に神様怒るだろ!? と、それより……
「あの部長」
「あら、どうしたのイッセー?」
俺は軽く頭を抑え頭痛に耐える部長に話しかけた。
「えっと、俺も一緒に見学に行ってもいいですか?」
「あら、あなたも? 一体どうしたの?」
「いえその……最近少しずつ龍巳やレイナーレの力を借りずに契約取れるようになってきたんですけど、やっぱりまだ数が少ないですから。みんながどうやって契約を取ったりしてるのか勉強したいんです」
「なるほど、確かに新人のあなたにはまだ勉強が必要かもしれないわね」
まぁまだ悪魔になって3ヶ月位だからな。むしろ同じ新人なのにほぼ毎日のように契約取ってきてる火織たちのほうが異常だ。
「いいわ、あなたも一緒に行ってらっしゃい。それにいい機会だからアーシアも行ってくるといいわ。ちゃんと仕事ができているのか不安だって前に言ってたわよね?」
「はい! わ、私もこの期にしっかりお勉強して、り、立派な魔性の女になってみせます!」
おいおいアーシア、それはなんかちょっと違わねぇーか? ……魔性の女になったアーシアもそれはそれでいいかもしれないけど。
「ただし、取引相手には決して迷惑はかけないこと、これが条件よ。皆、いいわね?」
「「「「はい!」」」」
俺とアーシア、それに龍巳とレイナーレも返事をした。今日は魔法陣で移動だろうし護衛は必要ないんだけど、この2人もついてくる気か。
一方イリナとゼノヴィアはというと……
「最大限努力する、とだけ言っておこう」
「申し訳ないんだけど契約内容が人間に害のあるようなものであったなら、流石に見過ごす訳にはいかないわ」
と言った。まぁこいつらの本来の仕事を考えれば当然のことか。……と言ってもそんな心配は必要ないと思うけど。普段俺に来るような依頼の内容を考えてもさ。部長も同意見なのか
「えぇ、それで構わないわ」
と、苦笑しながら言った。
魔法陣の光が消え、目に飛び込んできたのは見覚えのある部屋。っていうかこの部屋って
「おや、兵藤氏じゃないか!」
「森沢さん!」
そう! 俺のお得意さんの一人、森沢さんの部屋だ! 呼ばれた時はいつも龍巳とレイナーレにコスプレをさせ、楽しい写真撮影会を開いている俺の契約者、いやもはや同士!
「今日はどうしたんだい? 白音ちゃんを呼んだつもりだったんだが……」
「実は悪魔の新人研修のようなものでして、いろんな仕事場で契約の見学をさせてもらってるんです」
そう、今日の見学一発目は白音ちゃんの契約だったんだけど、まさか白音ちゃんも森沢さんと契約してたのか。知らなかったぜ。
「端っこのほうでじっとしてますんで、どうかお気になさらず」
「いやいやいいよ。大人数で賑やかなのも嫌いじゃないんだ。じゃあ君の後ろの娘達も?」
「えぇ、こっちの娘は俺と同じ新人で・・・・・・」
「ア、アーシア・アルジェントと申します。今日はよろしくお願いします!」
「へぇ~、シスターコスプレっ娘の新人悪魔さんか。よろしくね」
アーシアのはコスプレじゃなくて本物のシスター服なんだけどな。悪魔だけど。
「で、そっちの娘達は?」
「あぁ、こいつらは」
「私達は教会の者だ」
「故あって悪魔の仕事を見学させてもらってるんです」
「……ねぇ兵藤氏、詳しいことは分からないんだが悪魔と教会の人って普通敵対してるものなんじゃないのかい? も、もしかして僕もお仕置きされちゃうのかな?」
「あはは、いやホントいろいろありまして……。取り敢えずお仕置きはされませんので安心してください」
「そ、そうなのかい?」
まぁ、心配するのも無理ないよな。お仕置きと言った森沢さんがほんのちょっと息を荒らげたのは気になったけど……。
「それで、本日のご依頼は?」
と、そこで白音ちゃんが言った。
「おっとそうだった。忘れるところだったよ。えっと、ちょっと待っててね」
そう言って棚をあさりだす森沢さん。どうやら俺の時と同じくコスプレではなさそうだな。で、森沢さんの様子を固唾を呑んで見守っているイリナとゼノヴィア。一体どんな凶悪な依頼が飛び出るのかと警戒しているかのような目つきだ。さっきから2人の右手の指がピクピク動いてるし、いつでもエクスカリバーに手を伸ばせるようにしてるなこいつら。そんなに心配する必要は絶対ないと思うんだけど。
そして目的のブツを見つけたのか、森沢さんはそれを棚から引き抜き俺達の前に突きつけた! 案の定それは……
「おぉっ! 超路上格闘家4!」
どこにでもある普通のゲームソフトだった!
「「へっ???」」
一方それを見た途端マヌケな声を上げるイリナとゼノヴィア。まぁそうだよね! 悪魔の仕事は関係なさそうだもんね!
そしてそんな2人の反応には一切気付かず話を進める森沢さん。
「おっ! さすが兵藤氏! 知っていたか!」
「もちろんっすよ! 一見さんお断りの超激ムズな名ゲームじゃないっすか!」
「その通り! 実はこれまで白音ちゃんには様々なジャンルのゲームで挑んでは全敗していてね! 満を持して今日は最もやりこんだゲームで挑ませて貰うという訳さ! さぁ! 勝負だよ白音ちゃん!!」
なるほど、白音ちゃんは毎回ゲームで遊ぶのが契約内容だったのか。そして白音ちゃんに負け続けたのが悔しくてやりこんだ高難易度ゲームを引っ張り出してきたわけか。まぁこれなら初めてプレイする相手に負けるわけないもんな。森沢さんもズルい手使うぜ。そんなに白音ちゃんに負け続けたのが悔しかったのかな? ……まぁ、そのズルい手も無駄だろうけど。だって……
「バカなっ!? 僕の持ちキャラがすべて完封だと!?」
白音ちゃんもゲーセンでやりこんでたからなぁ、このゲーム。
「ふっ、龍巳姉さまに比べたら、どうということはないですね」
「えっ? 君たち姉妹だったの? っていうか龍巳ちゃんもゲーマーなの!?」
その森沢さん問いに対して龍巳は胸を張って答えた。
「当然我もゲーマー。我、白音の師匠。このゲームもやりこんでランキングに載ってる」
白音ちゃんも神裂家に引き取られた頃はゲームなんてやったことなかったのに、あっという間に龍巳に染め上げられたもんな。
「……ま、まさかとは思うけどゲーセンのほとんどのゲームの上位ランキングを埋めてる『TATU』と『SIRO』って」
「はい、それ私たちのことです」
「こ、こんな近くに生きる伝説が! 頼む! ぜひとも2人の対戦を見せてくれ!」
「ん、分かった。白音とやるのは久しぶり」
「手加減しませんからね龍巳姉様」
「ん、もちろん。我も全力」
そしてそこから始まった対戦は先程とはレベルが段違いなハイレベルプレーの応酬だった。
「わぁ~、お二人ともお上手ですね~」
「っていうかうますぎるでしょこの2人。どれだけやり込んでるのよ」
感心したように声を上げるアーシアと呆れたようにため息をつくレイナーレ。俺の心情もレイナーレに近いかな? 前に火織に盛大に怒られたはずだけど、絶対懲りてないなこの2人。帰ったら火織に報告……は、流石に可愛そうだからしないけど、一応後で俺から注意しとこうかな。
「えっと………………何これ?」
「これが悪魔の契約なのか?」
呆然としたままつぶやくイリナとゼノヴィア。まぁ一緒にゲームして遊んでるようにしか見えない、っていうか実際遊んでるだけだしな。でもこれが契約なんだよな。後で依頼料も貰うし。
その後ゲームには俺やアーシア、レイナーレも混ざり、皆で楽しく遊んだことで森沢さんにも満足してもらい、無事依頼完了となったんだけど、イリナとゼノヴィアは終始呆然としたままだった。
次の日……
「いらっしゃい木場くん。来てくれて嬉しいわ」
俺達は祐斗の仕事の見学に同行していた。そして目の前にいたのは色っぽいお姉さん! くっ、やっぱイケメンの祐斗に仕事持ってくるのはこういう方々なのか畜生っ!!
「お久しぶりです美香さん。仕事の方は順調ですか?」
「えぇ、お陰様で。ところでそちらの方々は?」
「今回新人の子たちが見学に来てるんです。ご一緒させて頂いても?」
「えぇどうぞ。ごゆっくり」
そして彼女、美香さんがおもむろに立ち上がると……羽織っていた上着を脱ぎだした!?
「早速で悪いんだけど木場くん。いつもの、お願いね」
まさか、まさかこいつ……!
「おい祐斗! いつものってまさか、そういうご奉仕を毎回この人に!?」
「えぇっ!? ウソ!? 木場くんそんなことを!?」
「木場! 貴様なんて不埒な!! 見損なったぞ!!」
こいつ火織が好きなんて言っておきながらなんて依頼を! 見ればイリナとゼノヴィアも憤ってる様子! アーシアも困惑してるし、レイナーレなんか汚らわしい物を見るような目つきだ!
しかしながらそんな非難の視線を受けた祐斗はというと、俺達の態度に苦笑するだけだった。……どういうことだ?
「はい。材料の方は?」
「そ・こ・よ ♡」
「「「「「……??」」」」」」
美香さんの指さした先には……何の変哲もないスーパーのビニール袋が。袋の口から覗くのはどこからどう見ても普通の食材、つまり料理の材料なわけで……えっ? つまりどういうこと?
「……野菜プレイ?」
「って龍巳!? お前何言ってんだ!?」
「男性器に見立てたきゅうりやナスを……」
「誰もそんな説明求めてないわ!!」
「上級者になるとゴーヤやヘチマ、果ては大根へと……」
「だからやめいっ!!」
「へぶっ!?」
俺は心底どうでもいい、いやちょっと興味はあるけど、取り敢えず今はどうでもいい知識を披露する龍巳をチョップで黙らせた。そして俺達のそんな会話をよそに、祐斗と美香さんの会話は続く。
「それじゃあ木場くん。あと、よろしくね」
「はい、お任せください」
その祐斗の言葉を聞くと同時に……美香さんがパタリとソファに倒れこんだ!? って、え? ね、寝てる? ………………えっとつまり……どういうこと?
「かなりお疲れのようですね」
そう言って美香さんにタオルケットを掛けてあげるアーシア。確かによく見ると目の下にうっすらとクマがあるし、こんなソファに横になってるというのに寝息からして眠りはかなり深そうだ。そして祐斗はというと、台所でせっせと料理をしていた。
「美香さんは仕事が忙しくなるといつもこんな感じでね。それで僕がこうして夜食を作ってあげたりしてるんだ」
「なんていうかもう、やってることは悪魔というより完全にお手伝いさんのそれよね」
米神を抑えて唸るイリナ。まぁ言いたいことはよく分かる。
「いや待てイリナ。結論を出すにはまだ早い。木場、他にも仕事としてやっていることがあるんじゃないのか?」
厳しい顔つきで祐斗に尋ねるゼノヴィア。大方さっきまでのいやらしい想像がまだ残ってるんだろうけど、どうせ現実は……
「へぇ、よく分かったね。夜食が出来たら食べてもらっている間にお風呂を沸かしたり、お風呂入ってる間に洗い物を済ませたりなんかしてるよ? あとはまぁ、休日とかに掃除の手伝いもね」
「……それだけか?」
「うん、だいたいこんなものだよ?」
「………………ちなみに依頼料は?」
「そうだね………………前回の契約ではそこの棚のブルーレイを1枚貰ったかな?」
ブルーレイ1枚、つまり1回の依頼で6000円くらいか。そしてこれを聞いたゼノヴィアもイリナと同様米神に手を当て、唸りだした。
「非定期臨時の家事手伝い、しかも休日から深夜まで時間帯はフリーで呼べば魔法陣で一瞬で駆けつける。しかも料金は1万円以下、か」
「業者さんに頼むよりよっぽど良心的な値段で、サービスも充実してるわよね」
なんかもう諦めきった感じにため息を吐くイリナとゼノヴィアに、俺達はただ苦笑を返すことしかできなかった。
「は~いっ! 今日は私の仕事場へご案なぁ~い!」
そう言って魔法陣の上で腕を突き上げて楽しそうに笑う黒歌姉。今日は黒歌姉の仕事先の見学だ。何でも黒歌姉、今は2ヶ月連続契約の真っ最中らしい。2ヶ月連続ってすごいよな。しかも依頼主に気に入られて延長も考えられてるらしい。それにしても……
「やけにテンション高いな黒歌姉」
そう言った俺に対して黒歌姉はニャハハと笑うと……俺の腕に抱きついて来た! めっさ柔らかい感触が二の腕に!
「ちょっ!? 何だよ黒歌姉!? っていうか当たってる! 柔らかいのが当たってるって!!」
「もちろん当ててるにゃん♪」
……ぐはっ
「それにぃ~、お姉ちゃんのかっこいいお仕事姿をイッセーに見せられると思うと嬉しくて♪」
と、さっきまでのニヤニヤ笑いから一転、頬を少し赤らめてはにかむ黒歌姉。か、かわええ……。って俺は今何を!?
「ん、んんっ! あの、黒歌さん? そろそろあなたの仕事場に行かないかしら?」
そう言ってきたのはイリナなんだけど……な、なんか怒ってないか? 米神に血管が浮いてるような……。などと思っていると
「龍巳!?」
なんか黒歌姉とは反対の左腕に龍巳が抱きついてきた!?
「右が黒歌お姉ちゃん。なら左は当然我」
「いやその理屈はおかしいからな!?」
「あと我も当然当ててる」
「聞いとらんわ!!」
「はうぅっ! どうしましょうレイナーレさん! またしても出遅れました!」
「くっ、油断も隙も無いわね。アーシア、こうなったら今夜……」
なんか不穏な会話をしているアーシアとレイナーレ! っていうかお前までアーシアに何を吹き込もうとしてるんだ!
「ああもうっ! 離れなさい! エッチなのはやっぱりいけないわ!!」
「イリナ、一体どうしたんだ?」
俺から黒歌姉たちを引き剥がそうと躍起になるイリナと、そんなイリナを困惑した表情で見るゼノヴィア。っていうか仕事場見学行く前からいつも以上にカオスだな、おい。
「にゃっははは、じゃあイリナも怖いしそろそろ行こうかにゃ?」
そう黒歌姉が言うと同時に俺達は魔法陣の光に包まれる。そしてその光が収まった時見えた光景は……
「え? 路地裏?」
「もしかして転移失敗?」
そう、何故か俺たちはビルとビルの間の狭い路地裏にいた。路地裏の先に見える景色からしてここは駅前の繁華街の近くか?
「あ、ごめんごめん、言うの忘れてた。今から行く場所、依頼主さん以外には私のことは普通のバイト学生として認識されてるから直接跳ぶ訳にはいかないにゃん。こっからは現地まで歩きね。すぐそこだから」
そう言ってすたすたと歩き出す黒歌姉。俺達は顔を見合わせたあと、すぐに付いていく。
「なぁ黒歌姉、それってつまり依頼主以外も人がいっぱいいるってことだよな? 俺達も一緒に行って大丈夫なのか?」
「ちゃ~んと昨日のうちに依頼主さんには事情説明しといたにゃん。とりあえず皆は客として席についてもらって、そこから私の仕事見たらいいって」
客? それに黒歌姉自身はバイト学生として認識されてるとなると……接客業かなんかか?
そして……
「着いたよ、ここが私の仕事先にゃん♪」
そう言って黒歌姉が立ち止まった場所は……
「ここは……有名な高級ホテルじゃねぇか!」
そう! この街一番の高級ホテルだった! っていうかここで仕事!? ホテルのスタッフか何かか!?
「とりあえず私達は裏の関係者通用口から入るにゃ」
そう言う黒歌姉に先導されるまま俺達は裏口からホテルに入っていく。ホテルの裏口ってこんな風になってるのか。な、なんか制服姿の俺達がここ歩くのはすごい違和感がある気が……。
そしてそのまま俺達が通されたのはスタッフの待機所のような場所。奥には扉が2つあって、それぞれに男子と女子のマークが。つまりここは休憩所で、奥の扉の向こうは更衣室か?
「じゃあ私は着替えてくるから皆はここで待っててね」
そう言って更衣室に入って行く黒歌姉。っていうかこの場に俺たちだけで放置って。他の従業員が入ってきたらどう対応すればいいんだ? 俺たち完全に不法侵入してるようにしか見えないじゃん。
「ん、大丈夫。黒歌お姉ちゃん、軽めの人払い、かけたみたい」
「そうなのか?」
まぁそれなら安心だけど……
「なぁ、黒歌姉の仕事って何だと思う?」
「……分からない」
「依頼主以外にはバイト学生に思われてるって言ってたよね?」
「ホテルの受付とか、か?」
「あの……でも私達も客として黒歌さんの仕事を見せてもらえるんですよね?」
「じゃあ受付という線はないわね。いつまでも受付だけ見てる客なんているわけ無いし。やっぱり接客系で……ホテルのレストランのウェイトレスとか?」
う~ん、確かにその可能性が一番高そうだな。もしくは……意外なところでバーテンとか?
などと悩んでいるうちにそこそこ時間が経ち、ようやく黒歌姉が更衣室から出てきた。ってその格好は!
「お待たせ、じゃあ行こっか!」
「いやぁ、黒歌くんには本当に助かってるよ」
そう言って朗らかに笑うのはなんと、このホテルのオーナーさん。この人が黒歌姉の契約者さんらしい。俺達の予想通り、黒歌姉の働いてる場所はこのホテルのレストランだった……んだけど仕事内容はちょっと違っていた。では何の仕事をしていたかというと……
「はい! 3番テーブル、フォワグラのポワレ蜂蜜ソース3色のテリーヌ添え、上がり!」
なんと黒歌姉、ここの厨房でコックをしていた! しかもここのレストラン、客に料理している姿も楽しんでもらえるように厨房一面がガラス張りになっていて、その前で黒歌姉合わせて数人がパフォーマンスを交えつつ腕を振るっているんだ。
俺達はそれをオーナーと一緒にテーブルの一つについて眺めていた。っていうか普段家庭料理しか作らないけど、フランス料理なんか作れたんだな黒歌姉。
「先日コックが偶然ながらも数人連続でやめてしまってね。あそこに立てるスタッフが減って困っていたんだよ。あれはこのホテルの名物の1つだからね」
確かに合間にちょっとしかジョークや、それとは一転高い技工で料理が出来上がっていく様子は見ていて楽しいかもしれない。それに厨房の中全員がそこそこ歳のいった男性の中、コックの服装に身を包んで笑顔を振りまきながら料理する黒歌姉には華があった。
「でもよく他の従業員はバイトを厨房に入れることを了承してくれましたね」
そう、黒歌姉はこのオーナーさん以外にはバイト学生と認識されてると言っていた。普通に考えたらあの場で料理することを他のコックさんたちが了承するとは思えない。
「もちろん最初は反対されたんだけど、一度試しに調理させてみたら誰も文句を言わなくなったね。それにあの明るい性格にいつも笑顔なこともあって、今では厨房の中全員が黒歌くんのファンだよ。お客様の中には彼女の固定客になる方も少なくないんだ」
おおぅ、流石黒歌姉。料理が好きで腕もいいとは思ってたけど、まさか本職の人に混じって働けるほどの腕になってたとは思いもよらなかったぜ。好きなものほど上手になるってのはやっぱり本当なんだな。
「彼女にはぜひこのままここに就職して欲しいのだけどね……」
「ごめんなさいオーナー、前も言ったけどもう就職先は決まってるから♪」
って黒歌姉がいつの間にか料理の乗った皿を持って俺達のテーブルに来ていた。そしてその皿を
「はい、ご注文の品♪」
「ん、ありがとう、黒歌お姉ちゃん」
「って龍巳!? お前いつの間に注文を!?」
「ついさっき」
おいおい、俺達は黒歌姉の仕事見に来たんであって客としてきたわけじゃないんだぞ!?
「大丈夫、お金はちゃんと払う」
「当たり前だ!」
「ふふ、イッセーもなんか食べてく?」
「い、いや、流石にそんな金は……」
だってこの店、水にまで金取るんだぜ? お冷や頼もうとしたらペリエっていうラベルが貼られた瓶に入った水が出てきて、しかもコップ二杯分も入ってないのに1500円ってどういうこっちゃ? こんな店の料理、一体いくら掛かるか分からないし怖くて頼めねぇよ。メニュー見ても値段書いてないし。っていうか料理名見てもこれがどんな料理なのかがまず分からん。龍巳の皿に載ってるのだって……うん、なんとなく美味しそうだなぁとは思うけど、なんの料理かと聞かれると分からんとしか答えられねぇよ。
「なぁに、遠慮することはない。黒歌くんには助けられているからね、今日は私がご馳走しよう。皆も好きなものを頼みたまえ」
「えぇっ!? いや、流石にそれは悪いですよ! 俺達は見学に来ただけなのに!」
見れば龍巳以外の皆も遠慮しますと言わんばかりに手や首を振っていた。流石に俺たちまで龍巳みたいに図々しくなれないって。実際龍巳は金持ちだしな。悪魔になってから知ったけど、こいつ賞金首捕まえてガッポガッポ稼いでるからな。
しかしながら遠慮する俺達に更に薦めてくるオーナーさん。
「いやいやそんなことはないよ。むしろ黒歌くんにはいつもかなり安い代価で働いてもらっていてこちらが悪いくらいだ」
「ふむ、その代価とは?」
そしてその発言に興味を持ったのはゼノヴィアだ。まぁ一応こいつらの目的は悪魔の仕事を知ることだし、その辺のこともしっかり調査するのが本来の目的だったんだろうけど……今は完全に単なる興味だろうなこいつ。なんか昨日、一昨日の白音ちゃんと祐斗の契約を見て、もうなんか色々と悟りきったような顔してたからな。
「契約の初めにまとめて支払ったんだが、ここのホテルやレストランの割引券や関係グループのサービス券や優待券などなどだよ。全部で2000枚くらいかな?」
2000枚!? えっ、そんなに!? 皆も表情からして俺と同じこと思ってるな。そして真っ先にイリナがオーナーにそのことについて質問した。
「えぇっ!? あ、あの……それって安いんですか?」
「それはそうさ。割引券と言っても使われて利益がなくなるほどの割引はしていないからね。それに実質ここ最近割引券を持ったお客様が多く訪れることもあって、収益自体は上がっているんだ。ありがたいことにね。黒歌くん、割引券は配ったりしてるのかい?」
「ん~、私はそのまま主の悪魔に渡してるだけだからよく知らにゃいんだけど、なんか主の家の使用人の人たちがそのまま金券ショップとかでお金に変えたり、人間に紛れて取引したりするときに利用したりしてるって言ってたかにゃ?」
「なるほど。そういう仕組だったのか。まあそんなこともあって黒歌くんには本当に助けられているんだよ。だからぜひともお礼に食べていってくれ」
「えっと、じゃあ……そういうことなら……」
流石にここまで言われたら断る方が失礼か。皆もそう思ったのか口々にオーナーさんにお礼を言ってメニューを覗き込むんだけど……う~ん、やっぱり何が何やらさっぱり分からない。結局俺は……
「えっと、黒歌姉のオススメで頼む。……あとなるべく安めのもの、な」
「にゃっははは、了解。皆もそれでいいかにゃ?」
その言葉に皆も即座に頷く。うん、俺以外の皆も分からないみたいでちょっと安心した。やっぱ俺たちには場違いだよな、ここ。と、そう言えば
「なぁ黒歌姉、さっき就職先が決まってるって言ってたけど、なんかの職につくつもりなのか?」
将来的に俺の眷属になるって言ってくれてるけどこれは就職とは違うし、悪魔の仕事と両立して何かやりたい仕事でもあるのかな?
「それは……」
そう言った黒歌姉は俺の耳元に口を寄せてくると、かすかに聞き取れる程度の声で言った。
「……イッセーに永久就職希望、にゃん♡」
多分俺の顔は真っ赤になってたと思う。
「朱乃くん、どうやらまた君の力を借りねばならないらしい」
「あらあらまたですか、うふふ、お安いご用ですわ、社長」
更に次の日、今日は朱乃さんのお仕事の見学だ。そしてなんと! 今日の依頼主は俺でも知っている大会社の社長さん! 転移先もいかにも高そうなものが並べられた執務室だ。
「大会社の社長さんが悪魔に依頼する仕事って……一体どういったものなのかしら?」
「社長さんなら大抵の悩みは自分で何とかできそうなものですけど……」
「そうとは限らないんじゃない? 人には言えない悩み事とか」
「あ~、もしくはあれだ。人間には出来ないような、もしくはコストが掛かり過ぎるような仕事の話とかじゃねぇか?」
「ん、ありそう。魔力使えばあっという間に終わる仕事、とか」
口々に予想を言い合う俺たち。そこでそれまで黙っていたゼノヴィアがハッと閃いたかのように息を呑んだ!
「まさか! ライバル企業の重役の暗殺などではないだろうな!?」
「えぇっ!?」
「はぅぅっ!? やっぱり私も悪魔として見習った方がいいのでしょうか!?」
「そんな訳ないでしょうアーシアさん!? 流石にそんな依頼、見過ごす訳にはいかないわ!」
そう言ってエクスカリバーに手を伸ばそうとするイリナ!
「待て待てイリナ! まだそうと決まったわけじゃねぇだろ!」
俺は慌ててイリナを止める。っていうか今までの流れからしてどうせ今回だって……なんて思う俺の予想はやっぱり当たるわけで……
「おおぅっ! そこそこ! いいよ! すごく……いいっ!!」
「あらあら、ずいぶんお疲れのようですわね、社長さん?」
なんか朱乃さんが社長さんに足つぼマッサージをしていた。……うん、なんというか、反応に困る。っていうかなんで朱乃さんはあんなエロいボンテージ着てるんだ?
「うふふ、今夜は存分に可愛がってあげますわ」
「おおぅっ!? こ、これだよこれ、こういうマッサージがいいんだよ!」
おそらく相当気持ちいいんだろう、社長さんは足の裏を押される快感に悶えていた。
「痛い! でも気持ちいい………………でも痛い!」
……快感、なんだよな?
「な、なぁ副部長、これは?」
若干引き気味に朱乃さんに聞くゼノヴィア。うん、まぁ気持ちは分かる。
「うふふ、この社長さんは仕事でストレスが溜まると私に足つぼマッサージを依頼して発散するのですわ」
「え……発散、するのか? これで?」
たじたじになるゼノヴィア! っていうかこんなゼノヴィアを見るのは初めてかも!
「い、イリナ、お前どう思う?」
「えぇっ!? ここで私に振るの!?」
「他に誰がいるんだ!? 私はこの手の話題に疎いんだ!」
「って人のこといやらしい事に詳しいように言うのやめてよ! むしろイッセーくんの方がこういったことには詳しいんじゃないかしら!?」
「ちょっ!? 俺かよ!?」
「そうか! 確かにイッセーは学校でもエロくと有名だったな!」
「ん、エロについてイッセーの右に出る者、いない」
「お前にだけは言われたくねぇよ、龍巳!」
「あ、あの……皆さん喧嘩は………………」
あぁ……この場でアーシアは天使に見える。
「っていうかさ、格好とか見たら確かにあれだけど、これっていやらしいことか? 一応単なるマッサージだろ?」
「た、確かにそうだが……」
「ん、よく考えると、もっと直接、いやらしい仕事も、人間する」
「あぁ、風俗とかに比べりゃ圧倒的に健全だよなぁ、これ」
「うっ、確かそうだが……だがそういう仕事も含めてやはりそれも不適切なのでは……」
「で、でもゼノヴィア、それで生活している人達もいることだし、一概に否定するのは……」
「うぐ……それを言われると……」
まぁ確かに、止むに止まれぬ事情でそういった仕事をして食い繋いだり、子供育ててるって話は物語ではよく聞く話しだしな。……実際は知らんけど。
「あぁ……もっと、もっとぉっ!!」
「うふふ、いくらでも押してあげますわこのダメ社長! 社員が見たらどう思うかしら!?」
「あぁっ!? もっと罵って!!」
そんなこと言ってる間になんかあっちは盛り上がってた! いやもうホント、何なのこれ? 最終的な事実だけ見るならただのマッサージなのに、見た目も会話も全く別のことしてるようにしか見えない! ……けどまぁなんにせよ、レイナーレの人に言えない悩み事ってのが一番的を得ていたな。社長ともなると下手にそういう店に入るわけにも行かないだろうし、秘密の漏洩を気にする必要のない悪魔に依頼するってのがうってつけだったってわけだ。
「ってあれ? レイナーレは?」
「あれ? そう言えば……」
いつの間にか俺達の輪からレイナーレが居なくなっていた。あいつ、どこ行っちまったんだ? 一応あいつの主人だし、探しに行った方がいいのかな、と思っていると……
バサァッ!
なんか翼を生やしたレイナーレが社長さんの座る椅子の背もたれの上に降り立った! しかもいつの間に着替えたのか、格好は朱乃さん同様ボンテージ!
「へぇ~、あんた、痛いのが気持ちいいんだ」
「き、君は……?」
困惑する社長さんを無視しレイナーレは片足を振り上げると……
「じゃあこんなことしてもあんたは気持ちいいのかしら、ねっ!!」
かかとを社長さんの肩に振り下ろした!
「おおぅっ!?」
更にそのままグリグリと肩を踏みつけるレイナーレ!
「ふん、汚らわしい。これだから男は嫌なのよ!」
「あぁっ!! その目! もっと! もっと蔑んで!」
「あらあら、レイナーレちゃん。どうやら相当こういったことに慣れているようですわね?」
「ふん、伊達にイッセーの依頼主の相手はしてないわよ」
「あらまあ、そうですか。これは私も負けていられませんわ、ね!!」
「んおぉぉぉうっ!!」
そのまま2人で競い合うようにして社長さんを攻め立てる! ……っていうかもう、レイナーレまで何してるんだか……。
「い、イッセー! あれは、あれはいいのか!?」
「……いやもう、本人がいいならどうでもいいんじゃね?」
完全に引いてしまっているゼノヴィアに対して、もう俺は投げやりにそう返すしかなかった。
「き、効くぅ~~~っ!!」
さぁっ! 今日は待ちに待った火織の仕事見学だ! 今日で一通り皆の仕事を見て回ったことになるな。火織がどんな仕事してるのか楽しみだぜ! ……と、思ってたんだけど
「えぇっ!? 火織もう行っちゃったんですか!?」
剣道部の練習終了後、今日の道場の掃除当番だった俺やゼノヴィア、そしてそれを待ってたイリナと共に部室に行ってみると、火織はもう仕事に行った後だった! 龍巳にアーシア、レイナーレは俺たちを待ってたのかまだ部室にいるな。
「えぇ、先方が時間を早めてもらえるよう火織の携帯に連絡があったらしいの。あなた達のことは伝えておくそうだから、後から追いかけてきて、とのことよ」
まぁ先方の都合ならしょうがないか。うぅ、でもせっかくいつもより火織と長く一緒にいられると思ったのに。
「それでは皆さんを転送いたしますわ。魔法陣の中央へ」
朱乃さんが転送用の魔法陣を起動させながらそう言った。予め行き先を朱乃さんに伝えておいてくれたんだろう。でないと俺達は行き先が分かんねぇからな。
そして転移用魔法陣が起動し、行き着いた先は……
「えと、ここでいいのかな?」
普通のどこにでもあるような一軒家、その玄関の前だった。直接家の中への転移じゃないのか。まぁいきなり家の中に複数の悪魔が現れたりしたら驚かれるだろうから、そのための配慮かな?
取り敢えずここにいても仕方ないので目の前の扉の呼び鈴を押してみる。すると……
「は~い! ……あら?」
中から出てきたのはエプロンを付けた、どこからどう見ても普通の奥さんだった。
「火織さんが言っていたのはあなた達かしら?」
「はい、グレモリー眷属の者です。聞いてると思いますけど、今日は見学をさせてもらいに来ました」
「あらあら、そうですか。どうぞ上がってください」
と言って俺たちを家の中に通してくれる奥さん。なんて言うか、今までで一番普通な依頼主さんだな。これまで森沢さん、見た目エッチなOLさん、高級ホテルのオーナーに大会社の社長と来てたから、なんだかすごい新鮮に感じる。っていうか複数の悪魔が同時に来ても全然動じねぇのな。それだけ火織が信頼されてるってことか?
「火織さんは二階の一番手前の部屋にいますから、どうぞ先に上がっていてください。私はお茶を入れていきますので」
「えっ? あ、いえ、お、お構いなく」
なんか子供の友達が遊びに来たみたいなノリだなこの人。俺達が悪魔だってこと、全然意識してないみたいだ。
そして俺達は二階に上がり、言われた扉の前に立つ……んだけど
「えっと……入っちまっていいのかな?」
「急に入って火織ちゃんのお仕事の邪魔にならないかしら?」
「火織も私達が来ることは知っているだろうから問題無いと思うが」
「取り敢えずこっそり覗いてみる?」
「えぇっ!? あの、よろしいのでしょうか? 覗き見なんて……」
「ん、じゃあ取り敢えず音だけ」
そう言って扉に耳をつけて中の様子を窺う龍巳。俺たちも迷いつつも結局は龍巳同様扉に耳をつけて中を伺う。そして聞こえてきたのは……
「えっと……先生、これですか?」
「そう、それを入れるのよ」
「でも先生、僕、これ使うの初めてで……どこに入れたらいいか」
「よく見て、考えるの。そうすれば自ずと入れる場所が分かるはずよ」
「は、はい! えっと……」
「そう、そのまま落ち着いて……」
「あ、あの……ここ、ですか?」
「自分に自信を持って。思うようにやってみなさい。まだ時間はあるんだからゆっくりと……」
「は、はい!」
………………
………………………………
………………………………………………
「え? え!? えぇっ!? か、火織ちゃん、中で何やってるの!?」
顔を真赤にしてうろたえるイリナ! でもそんなことに俺は構っていられなかった! だって火織が! い、いやでも火織が仕事とはいえそんな依頼を!? まさかそんなわけが! で、でもさっきの会話は!
「あ! ここだ!」
「そう! そのまま入れて……」
えぇっ!? ちょっ、まさか本当に!?
真偽を確かめるために俺は、いや、俺達は更に扉に耳を押し付け一言も聞き逃さないとばかりに耳を澄ます……んだけど、その結果
ガチャッ!!
「えっ!?」
「どわぁっ!?」
「「「きゃぁぁあっ!?」」」
扉が俺達の体重に耐え切れずに開いてしまい、部屋の中に倒れこんでしまった俺達! そして俺達の視界に飛び込んできたのは!
「……何やってんのよ、あんた達」
机に鉛筆持って向かった姿勢のままこちらを振り向いて目を見開いている中学生くらいの男の子と、その男の子の後ろで教科書持って立っている火織だった。
「家庭教師?」
「えぇ、この子来年駒王学園受けるんですって。うまくいけば来年には私達の後輩よ」
あの後混乱する俺達に、火織は仕事内容を説明してくれた。何でもこの子はこの市内の公立中学に通う3年生で、高校受験にあたり親に家庭教師を頼み、その結果火織を召喚することになったらしい。……そこでなんで素直に普通の家庭教師を頼まずに悪魔を頼ったのかは謎だが。あのお母さん、やっぱりちょっとズレてるよな。それにしても……
「よかった。そういう依頼じゃなくて本当に良かった……」
「あんた一体どんな仕事してると思ったのよ……」
「いやそれは………………あ、あはははは」
取り敢えず笑ってごまかす俺。見ればイリナを筆頭に皆も顔を赤らめつつ視線を逸らしていた。ちなみにさっきまでのあれは、この子が今日火織に習った新しい数学の公式を使って問題を解こうとしていたらしい。なんて紛らわしい……。
「先生! 出来ました!」
「あら、早いわね。見せてみて」
そう言ってその子が書いた答案に目を通していく火織。そして目を通し終わるとニッコリと笑い頭をなでた。
「よく出来ました。教えたことはちゃんと理解できたみたいね?」
「はい! 先生の説明が分かりやすかったからです!」
なんて微笑ましい光景が繰り広げられていた。
「火織ちゃんらしいと言えばらしいんだけど、やっぱり悪魔らしくはないよね……」
「あぁ、ホント今更だけどな。後は依頼料だが……」
そうゼノヴィアが言うのとちょうど同時に扉がノックされ、お母さんが入ってきた。
「お待たせしてしまいまして、どうぞ、粗茶ですが」
「あ、ありがとうございます」
ほ、本当に持って来てくれたんだ。やっぱりズレてるな、このお母さん。
「それから火織さん、今日の依頼料です」
「あ、ありがとうございます」
そう言って火織が受け取ったのは……えっ? ケーキ?
「火織、それは?」
「あんた今聞いてたでしょ、契約の依頼料よ」
そう言ってパクっとフォークで一口大に切ったケーキを口に放り込む火織。ってえぇっ!?
「それが代価!?」
「っていうか火織! 依頼料食っちまっていいのかよ!?」
「いや私も最初はそう思って部長に持っていったんだけど、保管しても腐らせるだけだし、お金に変えるほどのものでもないから食べちゃっていいって言われたのよ」
「依頼料でそれは安くないのか?」
「私もそう思ったけど、これにそう出ちゃったし」
そう言って俺達が持ってる依頼料を計算する機械を見せてくれる火織。そこには確かに『おいしいお茶とケーキ』と表示されていた。……最近思うんだけど、この機械はどういう基準で代価を決めてるんだろうか?
「火織お姉ちゃん、我も」
「もう、しょうがないなぁ……はい、あーん」
「あーん」
あ~あ、更にその代価、龍巳にあげちゃったよ。ここまで来るともはやボランティアに近いな、この依頼。
「ゲームに家事手伝い、コックにマッサージ、家庭教師か」
「なんか……悪魔に対するイメージが崩れたわ、私」
昨日までの仕事の見学会も全員分終わり、今日部室では昨日まで取っていたメモの前でイリナとゼノヴィアが微妙な表情をしていた。
「ねぇねぇ、アーシアさんは普段どんな仕事をしているの?」
「私もトランプの相手とか、そんな依頼が多いです」
「……それはわざわざ悪魔に頼むようなものなのか?」
「それだけ今の悪魔の仕事が平和だということよ」
そう言う部長は微妙な表情をしている2人に苦笑を向けていた。
「そう言えば部長、部長はこういった悪魔の仕事はしないのか?」
「あ、それ私も気になってました!」
その2人の問いに答えてくれたのは朱乃さんだ。
「部長は上級悪魔ですから、私達下級悪魔とは違いもっと大きな案件でのみ動くのですわ。普段はどちらかと言うと私達のしてきた仕事の成果の確認など、事務的な仕事の方が多いですわね」
「そうなのよ。これが意外と面倒なのよね。特にここ最近眷属が一気に増えたから合わせて仕事が一気に増えて大変なのよ」
「ふふ、部長は事務的な仕事よりも体を動かすことの方が好きですものね」
あぁ、それは何となく分かる。普段はお姉様してる部長も俺達の前だと稀にお転婆なところとかを見せるもんな。多分そっちが子供の頃からの素なんだと思う。
「う~ん、じゃあリアスさんの仕事は滅多には見れないのかぁ」
「上級悪魔の仕事というのも、少々気になっていたんだがな」
あ、それはなんとなくだけど俺も分かる。俺が眷属になってから部長が契約を取りに行ったのなんてほんの数回しか見たことなかったけど、何をやってるのかは全く知らないしな。確かに一度は部長の仕事も見てみたいかも。でもイリナの言った通り、滅多に見れないだろうしなぁ……と思い部長に目を向けてみると部長は悪戯っぽい笑顔を浮かべていた。
「ふふ、あなた達、運がいいわ」
「え?」
「じゃあもしかして……」
「えぇ、実は今日、大きな仕事が入っていたの。この際だから皆も見ていくといいわ」
「えっ? 部長、私達まで一緒に行っていいんですか?」
「えぇ、全員でいらっしゃい」
火織のあげた疑問の声に即答する部長。じゃあ今日はグレモリー眷属全員で部長の仕事を見学か。部長が一体どんな仕事をしてるか楽しみだぜ。
「ところで部長」
「あら、何かしらイッセー?」
「皆の仕事を見ていて思ったんですが……なんか俺だけ妙に仕事の難易度高くないですか?」
「……えぇ、ミルたんを見て以降私も返ってくるアンケートを詳しく見ていたのだけれどここ最近そう思うようになってきたわ。前は厳しいことを言って本当にごめんなさいね」
「部長! 分かって頂けて本当に嬉しいです!」
ついに、ついに! 俺が普段どれだけ苦労しているか分かってもらえた!
「やっぱりそうですよね! 皆自分の長所を活かせるような依頼ばっかりなのに俺だけ訳の分からん依頼をする変態ばっかでおかしいと思ったんですよ!」
「……それってイッセーの得意なのが変態の扱いとかってことじゃないの?」
「ぐはっ!?」
今のレイナーレの言葉が俺の胸に深々と突き刺さった! そんな、まさか………………え、本当に???
「もしそうだとしたら、これからもやっていける気がしねぇ……」
膝をつき、さめざめと泣く俺を部長が抱きしめてくれた。
「大丈夫よイッセー。あなたに来る依頼が本当に難しいものだということはもう理解しているから。契約をなかなか取ってこれなくても私はあなたを見捨てたりしないわ。だからイッセー、あなたはあなたのペースで仕事をこなしなさい」
「うぅ、部長……」
普段の俺ならすぐさま部長から離れるところだけど、たまにはいいよね。
俺はそのまま温かい部長の胸に顔をうずめ、両腕を部長の背中に回して抱きつきながらこの世の不条理と部長の優しさに泣いた。部長が主でよかったとこの時ほど強く思ったことはなかったよ。
後書き
次回予告
「お、お久しぶりです、悪魔さん」
「その悪魔……もしかして亜麻色の髪の毛をしていなかったかしら?」
「って部長たち、またですか!」
「大丈夫、神鳴流奥義、斬魔剣弐の太刀なら!」
「「若本ボイスじゃない!?」」
次回、第61話 部長のお仕事
「さぁっ! お仕置きしてあげるにょ! 行くにょ!! ディーネちゃん!!」
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