ファイナルファンタジーⅠ
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7話 『蝕まれる者』
「あれ……? この町、立派なお屋敷が多いみたいだけど、昼間なのに人気(ひとけ)がないね」
クレセントレイクに辿り着くも、白魔道士のシファはその様子に首を傾げる。
「いかにも珍しいお宝でも仕舞われてそーだな、オレとしちゃ盗み出してェとこだぜ」
「ら、ランクさぁん、いけまセんでスよそんな……っ。ボクらは光の戦士として、予言者さんに会いに来たんでスからぁ」
屋敷に忍び込みたそうなシーフのランクを、黒魔道士のビルは態度を慎んでほしげに咎めた。
「……その肝心の予言者ルカーンって人は、どこに居るのかな? やっぱり予言者っていうからには、町外れに居るとか──── 」
「大体、マジで居るかどーかも怪しいモンだぜ。………? おい赤魔、ンなトコに突っ立ってねェでさっさと来やがれ!」
ふとランクが気づいた時マゥスンは、後方で独り離れた位置に俯き佇んだまま動こうとせず、羽付き帽子の鍔に隠れた表情は窺えない。
その様子を不審に感じたランクは、マゥスンに近寄って左肩に手を掛けた。
「オイ、聞こえてンのか……ッ!?」
その時、思わぬ事に彼(彼女?)がこちらの肩に頭を寄り掛からせて来た為、ランクはドキリとしてしまう。
「のあ゛、どーゆうつもりだオマッ……」
「ふわあっ、いつの間に"そんな仲"になってたんでスか……!?」
とんがり帽子の中の闇から丸く黄色い双眼だけを爛々とさせ、ビルはショックを受けたようだ。
「勘違いすンな! コイツが勝手に、オレに──── 」
「ねぇ……、何だかおかしくない? マゥ、スン……!?」
シファは異変を察し、肩に寄り掛かっていた頭部が不意にずり落ちてゆくのを感じたランクは咄嗟に両腕で赤マントに包まれた身体を支え、その反動で羽付き帽子が脱げ落ち仰向けになったマゥスンの白銀の長髪は乱れ、そこから垣間見えた顔色は────
「お、おいッ、どうした?!」
倒れ落ちる所をランクが支えはしたものの、マゥスンは苦しげに瞳を閉ざした表情と共に浅い息をしていて意識が無い。
「オイお前……! しっかりしやがれッ!!」
「ままっ、マゥスンさん……?!」
「そんな、どうしちゃったの……!?」
突然の事に驚くランク、ビル、シファ。
「 ────どうか、されましたか?」
そこへ、メイドらしき格好をした1人の女性が通り掛けに異変に気付き、呼び掛けて来た。
「きゅ、急に倒れちゃいまシて……ど、どうしたらっ……?!」
「ちょっと待って、白魔法かけてみる!……<ケアルア>!」
ビルは動揺し、回復魔法を唱えるシファ。
────清らかな青緑色の光の粒がマゥスンを包み込むが、依然苦しげなのは変わらない。
「効いてない……?! そんなっ」
「少し、宜しいでしょうか」
メイドらしき女性は、ランクの両腕に支えられたマゥスンに近寄り、その額に片手を宛がう。
「 ────! これは……、酷い熱を出されているようですね」
「どーすりゃいい? コイツ、何かヤバいのかッ……!?」
「私がお仕えしている屋敷へ、どうぞ皆さんいらして下さい。……旦那様は旅に出ていてお留守ですので、遠慮なさる事はございません。その方を、早くお部屋へお連れしましょう」
3人は他にどうする事も出来ず、女性に促されるまま屋敷へ案内される。
「申し遅れましたが、私はこの屋敷に仕えているテューテと申します。ここクレセントレイクは身分の高い方々が住まわれる町で、
ほとんどがお屋敷の造りになっていて人気(ひとけ)がないように思われますが、普段屋敷の中で過ごされる方ばかりなので、
遠出するにも魔物が出ますから使用人以外に外出される方はほとんどおられません。
そんな中、私がお仕えしている旦那様は1人旅をして廻るのがお好きな方で、お屋敷にはちっともお戻りにならないくらいで ────すみません、私ばかり勝手に喋ってしまって……」
部屋を1つ提供してもらい、そこのベッドにランクが抱え運んだ意識の無いマゥスンを横たわらせ、様子を見守る3人。
クレセントレイクでもひと際大きな屋敷で、使用人に任せきりで主はしょっちゅう旅に出ているらしいが、ここへ来て突然倒れた赤魔道士マゥスンを案じるばかりで、メイドのテューテの話はあまり耳に入らないシファ、ビル、ランク。
「わたし、もう一度白魔法かけてみるね。<ケア…… 」
「 必要、無い……… 」
「 え、マゥスン……!?」
シファが再び回復魔法を掛けようとした時、意識を戻したマゥスンがおもむろに上体を起こした。
「いけません……! 高熱を出されているのに、急に起きたりしては──── 」
テューテが優しくベッドに寝かし戻そうとする。
「 私に、構わなくていい……… 」
「オマエ……、勝手に倒れといてそりゃねェだろッ」
つい口調が強くなってしまうランク。
「 ………… 」
「ま、マゥスンさん起きちゃダメでス…っ?!」
「そうだよ、まだ寝てなきゃ……!」
ビルとシファの制止も聞かず、ベッドから起き出たマゥスンはおぼつかない足取りで部屋の出口へ向かって行くが、その場でくずおれる。
「どーゆうつもりだ赤魔、大人しくしてやがれッ!」
駆け寄るランクだが、知らぬ間に開け放たれていた部屋の入口に、何者かが佇んで居るのに気付く。
「 だ、誰だアンタ……?」
「 ─────!」
銀髪で紫紺色のローブを身に纏った厳格な顔付きの老翁とおぼしき人物が、跪いていた赤魔道士の眼前に片手をかざすと眠りに陥るように、ふ…っと意識を再び無くしたマゥスンが後ろへ倒れ掛かったのを、ランクが慌てて支えた。
「なッ、コイツに何しやがった、テメェ…!?」
「大人しく、させたかったのだろう。────眠らせただけだ」
「なン、だと? テメェ、一体……」
「東の外れにて待つ。────クリスタルの欠片を持つ者達、独りを除いて来ると良い」
それだけ告げると、威厳のある人物は音もなく引き返してゆく。
「ちょッ、待ちやがれ!」
「今の、人は………?」
誰に問うでもないシファだが、それに関してはメイドのテューテが答えてくれる。
「あの方は、12賢者のお1人でもある予言者ルカーン様……。あの方が直々にこの屋敷を訪れるなんて────
町外れの東の広場は、12賢者様方の瞑想の場でもあります。……あなた方を、お呼び出しに来られたのではないでしょうか」
「独りを除いてって、やっぱりマゥスンさんの事でスか……っ?」
「ッたりめェだろ、こンな状態で連れてけってのかッ」
苦しげな様子から、深い眠りに陥ったらしいマゥスンをベッドに戻してやりながらビルに云うランク。
「早速、ルカーン様の元に行かれてみてはどうでしょう。この方は、私が責任を持ってお世話させて頂きますので、お任せ下さい。容態が回復されるまでは、この屋敷を宿としてご利用なさって構いませんから」
「ありがとう、テューテさん……。わたし達がいない間、マゥスンの事お願いします」
黄昏近い中、シファ、ビル、ランクの3人は町外れの東の広場へ向かう。
(ルカーンって予言者はよーやくお出ましになりやがったが、赤魔のヤツ………何で急に倒れたンだ。あの冷血動物みてェなオトコオンナが───── )
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