ファイナルファンタジーⅠ
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5話 『成すべき事』
「ン………何だ、まだ夜かよ。────ちょっくら城の中でもブラついて、めぼしいモンでも見っけるか」
緑のバンダナは外して茶髪のツンツン頭を露にしたまま、音を立てずに個室を後にするシーフのランク。
城内通路には明かりが灯り、夜の巡回の兵士などがいてその目を避けて進む動きは、城に忍び込んだ泥棒そのものだ。
(スリルはあるが、目的のブツってのがハッキリしねーから面白味に欠けるぜ。……ン? そういや向こうが騒がしいな、姫さんの生還パーティーでもやってンのか?
ハッ、呑気なモンだな城の連中ってのは。何が"予言の光の戦士"だ……ガキくせェ。
それにオレらはヤツを倒しちゃいねーぞ、勝手に消えやがって───── )
「そこの盗人が………何をお探しだ?」
不意に低い声に呼び止められた。……考えに耽って気配を察するのに遅れたその背後に、1人の陰険そうな兵士が立っていた。
「おや?……これはこれは、どこのならず者かと思えば、姫様を救い出した光の戦士のお1人じゃあないか。それにしては────盗人のように城中を徘徊するのは如何なものですかな」
「うっせーな、どーでもいいだろがッ」
「いくらあのガーランドを倒したといっても、貴公のような盗人が予言の光の戦士とは滑稽な………」
「お褒めに預かって光栄だぜ。……ンなつもり初めからねーよ」
「ほう……では貴公は、予言の使命とやらに怖じ気づいたという訳かな?」
「下らねェな、テメェら本気でンなモン信じてんのかよ」
「無論、予言者ルカーン様は偉大なお方。……だがこちらからすれば、エセにしか思えないがね。とはいえ、"源の力"が弱まっているのは事実らしい。西から大地は腐り始め作物は育たず、北の海域は濁り出し魚介類が捕れなくなってきているそうだ。
極端な嵐と、森林火災も増している。───まぁ、貴公らには存在する場所すら確定せぬ『クリスタル』に輝きを取り戻すなど、無理なお話か。"欠片"を携えているといっても貴公の場合、どこぞから盗んだのだろうに」
「 ……勝手に云ってろ、しょーもねェ話でテメーを殺る気も起きやしねェ」
面倒そうに引き返してゆくランク。
(挑発に乗って騒ぎを起こすかと思えば────ふん、つまらん奴だ。せいぜい光の戦士として足掻くがいいさ)
────────────
「あ゛~、調子狂うぜ……ッ」
気晴らしになるかと夜の城内をブラついてみたものの、余計気分を悪くして客間に戻って来たランクは、個室に通じる同じような幾つかのドアの前で迷ってしまう。
「オレが使った部屋、どれだ? 確かこっちだったか。……朝までもうひと眠りすっか、その後はどーせこの城ともおサラバだ……ッ!?」
室内には、淡い燭台の灯りがひとつ。ベッドの隅に腰掛けている存在は、羽付き帽子は外しているがマントは脱がずに、露な白銀の長髪流れる頭部を少し下向かせ、仮眠しているようにも見受ける。
……赤魔道士、マゥスンの居る部屋と間違えたらしいランクは、一瞬我を忘れてその姿に見入る。
────視線に気付いてか、マゥスンはおもむろにランクに目を向けた。
その瞳は艶のある漆黒のようで、白銀の長髪から覗く端正な顔立ちはあくまで無表情だった。
「 ………何だ」
「ハ………? あ、いやッ、間違えた、だけだ、部屋ッ」
「 そうか 」
「じゃ、邪魔したなッ。いや、ちょっと待てよ……。そーいや、アンタに"借り"作っちまってた、な」
「 ………気にするな」
マゥスンは淡々としており、ランクから顔を逸らす。
「ひとつ……、聞かせろよ。アンタこれからどうする気だ?」
「 役目を果たす 」
「マジで予言ってのに従うつもりか?」
「 ……意志の無い者に、共に来いとは云わない」
「イシ……? 確かにオレにゃンなモンねーよ、成り行きでこうなっただけだしな」
「 この先をどうしようと、貴様の勝手だ 」
「いいのか? 予言の光の戦士ってのは"4人"だぜ」
「 ……問題ない 」
「あーそうかよ、ンじゃこちとら勝手にさしてもらうぜ。……邪魔したなッ」
────────────
「あ、おはようランク。よく眠れた? って、ぷふっ! 何その頭!」
翌日、偶然個別の寝室のドアから一緒に出て来て、ただでさえ無造作にツンツンしている茶髪が寝癖で更にボサボサになっているのを見た白魔道士のシファは、つい吹き出してしまった。
「身支度くらい済ませてきたらどう? バンダナだってしてないじゃない」
「それよかオレ……オマエに云っときてェんだけどよ……」
「え……、え? 何、急に改まって……?」
「なぁ、聞いてくれよ……オレは──── 」
(これってまさか、いきなりランクがわたしに、告……!?)
「ふわあぁ……おはようございまスぅシファさん、ランクさぁん」
寝ぼけ気味だがとんがり帽子はしっかりと被って、黒魔道士のビルも起きて来た。
「(もう、いい所だったのにっ)……お、おはよビル!」
「はれぇ? マゥスンさんは、どうされたんでスかぁ??」
「まだ寝てるよーなヤツには、思えねェけどな……」
「声、掛けてみようか。マゥス~ン、起きてる~?」
「 ────あ、皆さん、よくお休みになられましたか?」
使用人らしき女性が、客間にやって来た。
「赤魔道士の方でしたら、先に起床されて謁見の間へ向かわれましたが………」
「気の早ェヤローだぜ。オレには関係──── 」
「もしかして、この先1人で行くつもりじゃないでスよね……?!」
「とにかくわたし達も、すぐ謁見の間に行こう!」
「………ちッ」
「ふあっ、良かったでス! まだ居てくれまシた……!」
ナイト・ガーランドに裂かれたはずの背の赤マントは、縫い目も判らぬほど元通りになっており、玉座のコーネリア王とその横に佇むセーラ姫を前にした赤魔道士は、後からやって来た3人に対し振り向きもしない。
「マゥスン、わたし達にも声をかけてくれればよかったのに……!」
「そ、そうでスよぅ。ボク達は4人で光の戦士、なんでスから……っ!」
「ンなこたどーでもいいんだよ」
シファとビルを遮って出るシーフのランク。
「オレはオレのやり方で勝手にやる。……それだけだぜ」
「え、ランク、それじゃあ……?」
「ンだよシファ、文句あっか?」
「そんな事、ないよ……!」
(赤魔のヤツに借り作ったままってのも、シャクだしな………)
「わたしは、予言の光の戦士なんて実感ありませんけど………出来る事を、やってみようと思います」
「ボクは、えっと………皆さんの為に、頑張ってみたい、でスっ」
「 ────よくぞ申してくれた、光の戦士達よ」
シファとビルの答えにも満足した様子のコーネリア王。
「まずは、どこへ向かえばいいんでしょうか? 源のクリスタルは、四方の大陸にあると仰ってましたけど……」
「うむ、しかし定かではない。その存在に関しては、予言者ルカーンに直接尋ねると良かろう。……何せ光の戦士の現れを自ら予言しているのだから、お主らの助けとなるに違いない」
「その予言者ルカーンさんは、どこにいらっしゃるんでスか……?」
「予言伝道の為、以前はコーネリアにおられましたがの、それも随分経ちますな……」
「居所が知れねーンじゃ捜しようがねェだろッ」
大臣の話に呆れたように云うランクに、セーラ姫が付け加える。
「エルフの民に、力を借りては如何でしょう。彼らは内海の南……、緑豊かな森に住まう種族です。ルカーン様は、そこにも足を運ばれているに違いありません。……それに、エルフは人より長命で見識も深く、有力な手掛かりが得られる筈です」
「そうするにしても、内海を渡る為の船が必要となろう。コーネリアの都からすぐ北側の橋を渡り、そこから東に位置するプラボカという港町から経由して行くと良い」
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