戦国異伝
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第百六十八話 横ぎりその十一
「だからな」
「では」
「織田とは戦うことになる」
これは絶対だというのだ、だが元就はこうも言うことも忘れない。
「しかしそれは天下を取る為でも織田家を滅ぼす為でもない」
「あくまで毛利を守る為」
「そして力を手に入れた領国を守る為ですな」
「そうじゃ」
だからだというのだ。
「一戦交えるのじゃ」
「では、ですな」
「その為にも」
「公方様からも文が来ておるがな」
義昭は毛利にも文を送っていた、言うまでもなく信長を倒させる為だ。北条にも送っているがこれは無視されている。
「これは関係ない」
「そういえば文が来ておりましたな、公方様から」
「そうでしたな」
息子達も家臣達も言われて気付いた。実は彼等も今の今まで義昭からの文のことは忘れてしまっていた。
「その文のことはですか」
「関係ありませぬか」
「公方様はわかっておられぬ」
はっきりとだ、元就は言い切った。
「最早幕府の命運は尽きておる」
「ですな。幕府は」
「その命脈は」
既に義輝が松永達に殺された時に命脈は完全に尽きていた。先の嘉吉の乱や応仁の乱でどうしようもないまでに衰えていたが。
もう幕府は終わっていた、その証拠に山城の国一国はおろか都ですら治められずその一隅にいるだけだ。
だからだ、元就は言うのだ。
「織田信長に生かしてもらっているだけじゃ」
「ですな。それで織田信長を討てとは」
「何もわかっておられませぬ」
「それではです」
「どうにもなりませぬ」
「その通りじゃ。若し織田家に逆らっていることがわかれば」
その時のことも、元就はよくわかっていた。
「潰されるだけじゃ」
「神輿にもならぬと判断されてですな」
「それで」
「そうじゃ。挙兵するにしても兵もない」
そもそも銭もなかった。
「幕臣も殆ど織田家に入っておるからな」
「到底ですな」
「挙兵も」
「幕府は頭があるだけじゃ」
「そしてその頭も」
「最早」
終わろうとしている、毛利家の者達もそれはわかった。どちらにしても幕府はもう神輿でしかなかった。傀儡になるかならないかだ。
だからだ、元就も義昭の文についてはこう言うのだった。
「よい」
「ですな」
「無視して」
「うむ、それでよい」
それで終わらせてだった、元就は今は東に兵を進め浦上や山名を攻めさせるのだった。その途中で従う家もあった。
天下は大きく動こうとしていた、その中で義昭だけがはしゃいでいた、彼は信玄の上洛を今か今かと待っていた。
そのうえでだ、傍にいる天海と崇伝に言うのだった。
「武田が織田を倒せばじゃ」
「その時はですな」
「どうされますか」
「武田信玄を管領に命じる」
武田が勝つとばかり思っている、それでこう言うのだ。
「そして織田信長はじゃ」
「信玄殿は織田信長を殺さぬつもりの様ですが」
「己の家臣に加えるとか」
「何と、殺さぬのか」
そう聞いてだ、驚く義昭だった。
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