戦国異伝
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第百六十八話 横ぎりその十二
「織田信長を」
「ご自身の片腕とされるとか」
「上杉謙信と共に」
「そのうえで天下に泰平をもたらされると」
「そうお考えだとか」
「織田信長を討たぬのか」
このことがだ、義昭にとっては理解出来なかった。それでこう言うのだった。
「わからぬのう」
「信玄殿には信玄殿のお考えがあるのでしょう」
「天下の為に」
「ふうむ。ならばな」
信玄がそう考えているのならとだ、義昭は口をへの字にさせながらもこう言うしかなかった。
「織田信長はわしに頭を下げさせる」
「はい、それがよいかと」
「さしあたっては」
二人も義昭をそうした考えにもっていった、今や義昭は二人の言葉なしでは考えることも出来なくなっていた。自身では気付いていないが。
だからだ、ここではこう言ったのである。
「では」
「そうしましょうぞ」
「うむ、では信玄を待とうぞ」
今はこう言うのだった、そして。
その話の中でだ、義昭は二人に言った。
「さて、気分がよいからな」
「どうされますか、では」
「これからは」
「酒を飲もうぞ」
二人は僧侶であるから般若湯になる、それを勧めたのだ。
「田楽もさせてな」
「それはようございますな」
「それでは我等も」
「うむ、共に飲み観るのじゃ」
今は全幅の信頼を置く二人に言うのだった。
「よいな」
「公方様と飲めるとはです」
「我等も光栄です」
「はっはっは、そう言うか」
義昭は彼等の世辞に気をよくして笑って言った。
「ではな」
「飲みましょうぞ」
「是非」
「うむ、今よりな」
義昭は周りに二人以外誰もいない、小姓ですら今はいなくなっている状況にも何も思わないまま笑っていた。彼は最早そうなっていた。
それでだ、まだ言うのだった。
「御主達がいればよい」
「我等を頼りにして頂いていますか」
「そうして下さっていますか」
「そうじゃ。だから頼むぞ」
こう言ってだった、彼は今は飲み楽しむのだった。自分には最早何もないことになぞ一切気付くことのないまま。
第百六十八話 完
2014・1・20
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