戦姫絶唱シンフォギア/K
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EPISODE13 傷心
~AM 11:00 都内某所~
悪夢と化した廃都市区画に、歌が木霊する。静寂を貫いて災悪を振り払うその歌は少女達の奏でる戦いのためのもの。
警報を受け出動した響、翼、雄樹の三人は手分けしてノイズの対処にあたる。剣が舞い拳が躍り青い軌跡が駆け抜けて悪夢を灰へと変えていく様は救いの光景か。
「ハアァァァァァァァァァァァ!」
響の拳がノイズを捉え吹っ飛ばされた一見ぬいぐるみのような形は周りを巻き込みながら次々に灰と化す。再び腕のユニットを展開し、正拳とともに打ち出す。放たれた衝撃波が空気の波をうみ、触れた周囲のノイズを消し去っていく。そしてその波に合わせて翼が剣を振るうと響の波に合わせて翼の斬撃が拡散、さらに威力をあげてノイズを消滅させる。
あの一件以来ふたりのコンビネーションは見違えるほど向上している。素人同然だった響も「強くなりたい」という意思に感応した弦十郎に特訓を受け戦い方もかなりマシになってきた。今では翼だけでなく雄樹ともコンビで任せられることが多い。つまり、三人の仲は好調、ということ。加えて最近は響の機嫌がやたらといい。これにはおそらく未来との間に空いていた溝が少しずつ埋まってきていることを意味するのだろう――――と、翼は解析した。
ともあれ、好調なのはいいことだ。さっさと終わらせて自分も仕事に戻らねばならない。
「これで、終わらせる!」
――――蒼ノ一閃!
大刀を振るい、斬撃にて残りのノイズを灰変える。
「さっすが翼さん!」
その一声が戦闘を終了させた一撃だと理解するとビルから飛び降りて着地する。青いクウガにもだいぶ慣れてきたなと感覚を確かめていると、不意に耳へと音が響いた。わずかな音ではあるが、たしかに聞こえてくるそれは羽のような、何かが小刻みに動く音。
これは――――蜂・・・・か?
「どしたのユウ兄?」
『…まだなにかいる!』
雄樹の言葉に緩んだ気を一瞬にして引き締める翼と響。サッと素早く背中合わせになり周囲の警戒に努める。
「いるって、まさかネフシュタンの!?」
「そのとーり!」
空で響く声に三人は見上げる。そこには太陽を背に堂々と佇む白い影があった。
「またおまえか!」
「またとはなんだまたとは!…今日はちょっとしたプレゼントを用意してやったよ」
ニヤリと笑う。またあの笑顔――――彼女は戦い、というよりは戦闘行為をどこか楽しんでいる節がある反面、心のどこかになにかわだかまりを抱えているようにも見える。あの時見た反応が気がかりだった雄樹は今度こそと思うも、この音のせいでそうはできない状況にいた。あきらかにこの領域になにかいる。警戒を高める三人に、少女の「やっちまえ!」という声の次に何かが降り注いだ。危機感知に身を任せとっさに転んで回避する間に見えたのは・・・・針。地面に突き刺さったそれはノイズと同じ体色をしていることから彼女の放ったものではないことを理解し、それがノイズのものであると推測する。
《気をつけろ。近くに潜んでいるぞ!》
「こいつはソロモンの杖を使って生み出した合成ノイズでなァ。一度動き出したらアタシでも止めらんねーから気をつけな!」
二課の分析でも認識困難なノイズ。認識とエリア特定はできても詳しい位置まではピンポイントで割り出せないようだ、しかも一度命令を出したら飼い主でも言うことを聞かない暴走列車のごとく破壊活動を繰り返す。さっきはようやく回避した程度で次はどうなるかわからない。
「敵がどこにいるのかわからないのでは対処のしようがない。ならば・・・・!」
ビル伝いに走り、脚力を生かして翼が跳ぶ。この中で雄樹に次いで跳躍とスピードが秀でているのは翼のギアであるのを理解している為に自分が行くべきだと判断しての攻撃だろう。響や雄樹には飛び道具的なものはない。響には衝撃波というものがあるにしても射程が短すぎる為跳躍までは行っても次につなぐことはできない、故に翼のおこしたアクションだった。
蒼ノ一閃なら――――届く!
振るった剣から放たれる斬撃は鎧を襲撃。それを防御するネフシュタンだが、それがあだとなり地に落ちる。なんとか着地するも、まんまとやられてしまったことに舌うちをする。
「でェェェェェェェェェェェェりゃァ!」
落ちてきたところに響が全力で撃ちこむ。力と力拮抗しギチギチと音を鳴らすが相手は完全聖遺物、そう簡単にはパワー勝負でも負けはしない。拮抗していた力と力のバランスが崩れ、やがて押し返される。その刹那、相手がニヤリと笑った。
上空から放たれる針。地に足のついていないこの体勢からでは回避は不可能、となれば起こりうるこてゃただ一つ。直撃による大ダメージ。いくらギアのフィールドがあってもこんな無防備で直撃を受けたらただではすまない。
眼を閉じる響。が、直後に包まれた温かい感覚に目を開くとそこには青い瞳のクウガが。言葉を発するために口を開こうとしたその時、その身体が苦痛を耐えるかのように少しのけぞる。
「ユウ兄・・・・?」
『・・・・、大丈夫?怪我とかない?』
「う、うん・・・・それよりなに今の音?なんか、ブスリって・・・・」
背中に手をまわす。なにか、突起に触れた感覚がありそれから彼が今耐えているであろう苦痛の意味を知る。
「まさかユウ兄、ノイズの攻撃を・・・・!?」
『大丈夫。これくらいなら、まだ・・・・、!』
そして何かをまた感知したように雄樹が飛び出す。その際響をそっと降ろして向かった先はネフシュタンの少女。うまく動かない身体を精一杯動かし、肩から突っ込む。タックルを喰らった相手は少し吹っ飛び、尻もちをつく。なんとも間抜けな姿を晒してくれた相手を睨み据えたその時――――再び針が雄樹に突き刺さった。その光景に唖然とする。
今のは攻撃じゃなく、自分を庇って・・・・?
「ユウ兄ぃ!」
「雄樹さん!」
慌てて駆け寄る響。翼は行く手を阻まれ、発射された第二射を剣で弾く。
「ユウ兄ィ、ユウ兄ィ!」
もう泣き声で自分の名前を呼んでくる響に力なく大丈夫と告げる雄樹だがその言葉にいつもの説得力はない。みるみる内に弱っていくのが見て取れる。
「ユウ兄ィ!ヤダよ・・・・ヤダよ!」
手を握る。握り返そうと手に力を入れる雄樹だが、うまく力が入らない。それどころか目もかすれてきた。
「なんで・・・・なんで、アタシなんかを・・・・!?」
『…、言ったでしょ?理由なんてない、だから殺させないって・・・・』
力なく出されるサムズアップ。乾いたやはり力ない笑いが少女の心を強く打った。
『大丈夫…?ちょっと乱暴だったから・・・・怪我、してない…?』
「ダメだよ、喋っちゃダメだよ、ユウ兄!」
「な・・・・な、んで・・・・!?」
ひたすら驚愕するネフシュタン。しかしそこに翼の斬撃が入ったところで思考がまとも働く程度のレベルに戻され、退却する。それに舌うちする翼だが、大剣を盾代わりにして二人を素早く拾い上げて退却した。
♪
~PM 12:30 特異災害対策機動部二課 集中治療室前~
赤いランプを見上げ設けられた椅子に腰かける響と、壁に背を預けもたれかかる翼。あのあと担ぎ込まれた雄樹は意識不明の重症。心肺停止の最悪の状況で今もなお了子他医療スタッフによる懸命な措置が行われている。
「・・・・あのノイズ、どうなったんですか?」
「…位置はあの場からうごいていないらしい。どうやら特定の範囲内にいるものにたいして行動するらしい。云わば自動迎撃の砲台・・・・といったところか」
話題に雄樹のことを出さないあたり努めて踏ん張っているのだろう。おそらく頭の中はぐちゃぐちゃに違いない。ままならない思考を必死に動かしている姿には感心するが・・・・翼としては非情、とも受け取れた。なにせあれだけ雄樹にべったりだった響が心配こそしていても話題にすら出そうとしないのは意外なことだからだ。普段の彼女からすればこういう時、軽くパニックになるか泣きじゃくるかのどちらかと思っていたがそうではない。
心の持ちよう・・・・なんだろうか。それとも元々鉄のハートの持ち主なんだろうか。どちらにしろ翼にしてみればかなり意外なのは間違いない。
と、治療中のランプが消え中から了子が姿を見せた。それに気が付くなり響が弾かれたよう了子に駆け寄る。
「了子さん!ユウ兄は、ユウ兄は無事なんですか!?」
縋るような響に翼はさっきまで抱いていた考えを捨てる。あの子は・・・・少女だ。防人でも、奏者でもなく、今目の前にいるのは・・・・ただの、立花 響だ。どこまでも純粋で、まっすぐで、素直で。防人として、剣として生きることを決めた自分とは違う。
「・・・・電気ショックでなんとか心臓は動かせたけど・・・・一命を取り留めたとはいえ、かなり危険な状況よ」
「じゃあ、ユウ兄は?」
「ええ。生きているわ」
それを聞いて、よかったと息をついてその場にヘタレ込む。それを翼が支え、椅子に座らせる。緊張の糸が切れたのか、気を失ってしまったらしい。
「・・・・櫻井教諭、お願いがあります」
決意を込めた目が、了子を映した。
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