戦姫絶唱シンフォギア/K
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EPISODE12 約束
~同時刻 私立リディアン音楽院 音楽室~
私立リディアン音楽院――――そこは都内屈指の名門女子高で特に音楽に精通した学校だ。清楚でお嬢様校のイメージが強く敷居の高いイメージが持たれがちではあるが実際そんなことはない。有名なのは翼くらいで学校そのものの偏差値なのどはそこまで高くはないし、お嬢様学校というイメージも女子校・音楽・綺麗な校舎と歴史ある伝統校というだけでそのようなイメージが持たれているだけであり、中には響のような割とフランクな生徒も多い。また、地下に二課の施設があるとだけあってここには特異災害対策機動部の人間も教員という形で籍がある者もいる。
まぁ、なにが言いたいかというと、二課の人間ということは必然的にここにも出入りできるというわけで、それが生徒の招待だったり、身内であれば承認と身分さえ明らかになれば自由に出入りできる場所ということ。その証拠として、雄樹が首から下げた来客用のパスがそれを示している。
「まさか本当にお願い聞いてくれるなんて思わなかったですよ」
「未来ちゃんの頼みだもん。俺にできることならきくよ。それで、相談って言ってたけど・・・・」
いつぞやフラワーで話していた相談とやらに訊いてみる。なんとなく予想のついている雄樹は普段通りの接し方で近くの席に座って未来の言葉を待った。
「・・・・実は最近、響の様子がおかしいんです。落ち込んで帰ってきたと思ったら、すっごく元気な顔して帰ってきたり・・・・それに、ちょくちょく部屋に戻ってくる時間も遅い時があるんです。雄樹さん、何か知りませんか?」
さて、困ったことになった。響のその事情についてはよく知っている。何せ自分も一緒に居たりするのだから。でも、ノイズと日夜戦っていて、今もその基地で健康診断受けてます、なんて言えるはずもない。響のことだからそこはうまくごまかしたりしているんだろうが、それでも嘘や隠し事は嫌いな未来だ、いつボロがでてもおかしくはない。
親友の帰りが遅い、さらにはなにか隠している。それだけで未来が不審に思ったり心配したりするには充分すぎる材料だ。あらかた予想はついていたとしてもさすがにこの質問に迂闊に答えるわけにはいかない。
どうしたものか。
「・・・・まさか雄樹さん、響がおそい理由について何か知ってるんじゃないですか?」
ギクッ――――そんな言葉が口から出かけて慌てて飲み込む。ジと目で見てくるのがかなりつらい。
「お、俺もわからないかな。最近は休みの日しか会わないし、俺もほとんどこっちに来てからはお世話になってる人の仕事の手伝いとかしてるから」
「ですよね」とため息をつく未来。ホッと胸をなでおろす雄樹だがなんとかここはフォローしてあげたいところ。男として、困っている女の子を放ってはおけない――――が、言葉が見つからない。
すると、そこに響くヴァイオリンの音。いつの間にか未来が弾いており、優しく温かい音色が教室だけでなく、静まり返った校内全体を包むかのように波紋をうむ。どこまでも透き通った素直なその音は聞いていて耳だけでなく、心にも心地いい。そういえば、二年になったら専攻するんだっけと以前聞いた話を思い起こしながら雄樹は目を閉じてしばしその音色に酔いしれる。
そんな時、ふと過去の出来事を思い出した。あれはまだ小学生の頃・・・・だっただろうか。将来はヴァイオリニストになりたいと話していた未来にどうして、と聞いたことがあった。その時未来は満面の笑顔を浮かべてその理由を話していたっけ、と思い返す。
たしか、その時の言葉が・・・・――――
「・・・・あれ、やめちゃうの?」
途中で止んだ音に雄樹は目を開ける。すると未来がなにやらふくれっ面でこちらを見ていた。
「だって雄樹さん私のヴァイオリン聴くとすぐに寝るんだもん。一度も最後まで聴いてくれたことないですよね」
これはマズイ。機嫌をそこねたようだ。相談に乗るつもりが怒らせてしまうとはなんたる不覚だろうか。
「ご、ごめん。未来ちゃんの演奏って、聴いてるとすっごく気持ちよくなるからつい・・・・」
「それ謝る気あります?」
「もちろん!」
得意のサムズアップもこれでは意味がない。もはや苦笑いするしかない雄樹に未来は淋しそうにヴァイオリンをケースにしまう。
「・・・・未来ちゃんはさ、どうしてヴァイオリンを始めたの?」
「え・・・・?」
「・・・・響ちゃんの趣味ってさ、人助けだよね。その理由はなんだかわかる?」
「たしか、人の役に立ちたいから、ですよね。あと、それで誰かが笑顔になれたらって」
う~んと思考し幼馴染の奇行の意味を思い出す。
「うん。じゃあ、未来ちゃんがヴァイオリンを続ける理由は?」
「それは・・・・私が初めて演奏会に出たとき、家族や響が笑顔になってくれたのがうれしくって・・・・」
「そう。響ちゃんも未来ちゃんも、みんなの笑顔の為にがんばってる。・・・・ただ、場所が違うだけなんだよ。今響ちゃんは、響ちゃんの場所で頑張ってる。未来ちゃんは、未来ちゃんの場所で頑張ってる。ふたりともおんなじ理由で頑張ってて、ただ場所が違うだけなんだ」
「場所?」
うん、と頷いて雄樹は席を立つ。階段を降りて、教壇にたってさながら教師のように未来をみて笑顔でいう。
「・・・・だからさ、未来ちゃんは未来ちゃんの場所で頑張ればいいんだよ。響ちゃんが笑顔でまた頑張れるようにさ。だから、笑って。そうすれば、響ちゃんもちゃんと未来ちゃんのところに帰ってくるから」
「・・・・そう・・・・ですか」
それでもあまり腑に落ちない未来に再びう~んと考える雄樹。そして出した結論が――――
「それじゃ、もし響ちゃんが危ない時は俺が絶対に守るよ。で、絶対未来ちゃんのところに一緒に帰る。約束!」
小指を出す雄樹をしばし見つめたあと、未来も同様に小指をだして指切りする。
「でも、その言い方だとまるで響が危険なことしてるみたいに聞こえるんですけど?」
「え!?あいや、その、だね?」
慌てふためく雄樹、そんな彼の姿をみてクスリと笑う未来はやっぱり小悪魔なんじゃないかと思う。でも・・・・
その笑顔は、ちょっとだけ天使に見えた。
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