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パンデミック

作者:マチェテ
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第六十話「2対2」

―――【レッドゾーン“エリア27”旧市街地跡】


レックスは旧市街地跡を単独で歩き回っていた。

「さて……………どうしたもんか……」

感染者はあらかた片付けた。感染者などは問題ではない。問題なのは…………



『………………………………我々を見くびるな、人間』


本部を襲撃した奴らが“エリア27”に侵入したことだ。
死んだと思っていた同胞は生きて、敵として現れた。しかも、人間であることを放棄した。
フィリップは、自身が名乗る“スコーピオ”として生きる道を選んだ。

つまり、完全に人類の敵になった。

「仲間だった奴を…………斬れってのかよ………」

敵に回ったとはいえ、仲間だった人間を斬るのは胸糞悪い。



「おい、レックス」

瓦礫を踏みながら、レックスに声をかけて来たのは、ネロだった。

「ん、あぁ、ネロか」

「……………今の無線、当然聞いてたよな?」

「………あぁ」

「ここにエクスカリバーが来るって知ってんなら、こっちの戦力も知ってるはずだ。本部防衛の時は
装甲壁内に適合者3人、壁外に1人。で、感染者と突然変異種が多数。それで駄目だったんだから………
まぁ今回は強力な突然変異種か、適合者の助っ人を呼んだかだろ」

ネロは自作のチェーンソーを片手で担ぎながら、呆れた表情でため息を吐く。

「お前はフィリップを……“スコーピオ”を殺す覚悟は出来てるか? 殺せないなら、俺様が殺す」

ネロの眼は本気だった。ネロはフィリップを“スコーピオ”として認識することに決めたようだ。

「俺は………」

「迷ってるなら、お前には無理だ。引っ込んでろ」








「聞いたよ~兵士のお2人さん」




突然聞こえた少年の声。あまりに今の状況に不釣り合いな声に、2人は警戒心を強めて振り返った。

そこにいたのは、声の印象通りの少年だった。
黒いジャンパーを着た白髪の少年が、穏やかな笑顔で2人を見ている。

レックスとネロは武器を構えて。
黒いジャンパーの少年はポケットに手を突っ込んだまま。
お互いに睨み合った状態だ。


「あっ、自己紹介がまだだった………僕は“タウロス”って言うんだ。よろしく!」

タウロスと名乗った少年は、明るい表情でレックスとネロに自己紹介した。

「まったく………適合者ってのは本当に厄介だな。見かけに大いに惑わされる」

「惑わされる? 何の話?」

「とぼけるな。兵士殺しには慣れてんだろ?」

ネロの言葉に、タウロスは笑顔のまま答えた。



「僕は兵士殺しなんて出来ない。彼の方がずば抜けて慣れてるけどね」



後ろに気配を感じた。
レックスとネロは咄嗟に防御の構えを取ったが、遅かった。

ザシュッ

「ぐっ!?」

「くそ!」

レックスは右脇腹を鋭利な刃物で切りつけられ、ネロは自作のチェーンソーを切られ、壊された。



「探すの苦労したぜ、クソガキ」

「お疲れ様~」

タウロスの隣には、両腕が黒く巨大な爪に変異している黒髪の青年が立っていた。

「くそっ……ネロ、戦えるか?」

「代わりの武器くらいはある。お前は脇腹、大丈夫かよ?」

ネロは腰のコンバットナイフを取り出しながら、レックスの脇腹を見た。
レックスの脇腹には、3本の爪痕が深く刻まれていた。そこから赤い血がドクドクと流れていた。

「あぁ……痛えけど、戦える。大丈夫だ」

レックスは歯を食いしばって痛みに耐えている。誰が見てもその顔色は悪い。
足元には既に血溜まりができ始めている。


「あ~あ、オレとしたことが、ターゲットを殺し損ねるとはなぁ」

2人を切りつけた青年は、軽く舌打ちをして、自身の爪を見た。

「オレは“キャンサー”。そのクソガキのパートナーにさせられた上に、お前らを殺し損ねてムカついて
いるんでなぁ。オレの気が済むまで刻んでもいいよなぁ?」

キャンサーと名乗った青年は、下卑た笑みを浮かべてカチャカチャと両腕の爪を鳴らす。

「へぇ………楽しみだよ。その腕で刻めるかどうかだけどな」

「あぁ? なんだと死に損ないが……」


ガシャッ



何かが落ちた。鉄のようなものが落ちた音が聞こえた。

「………あぁ?」

キャンサーは左手に違和感を感じて、自分の左手を見た。

左手の人差し指と中指、薬指にあたる爪が斬れて無くなっていた。

「はぁ!? どうなってんだ、こりゃ!?」


「なぁ、ネロ。俺の居合の動きも、まだまだ鈍ってはいないみたいだな」

「見事なもんだよな、お前の居合」


キャンサーは今気づいた。
背後から襲撃した時、レックスは日本刀を鞘に納めて左手に持っていた。
今は鞘を手放し、日本刀を右手に持っている。
しかし、いつ刀を抜いて斬ったのかが分からない。

「へぇ~面白っ。オレも退屈しないで済みそうだよ」

キャンサーの左手がグチャグチャと音をたてて変異していく。
次第にキャンサーの左手は人間の腕に戻り、変異が止まった。

残った右手の爪を構え、2人の兵士を見据えた。


「………他の仲間も、コイツらと同じ連中の襲撃を受けてんのかな……」

「……………さぁな」



「楽しみだなぁ、キャンサー。この2人は相当手強いよ?」

「だろうな。でも殺せねぇとオレがスコーピオに殺されちまうよ」



2人の兵士と、2人の適合者の戦いが、スコーピオの宣言から僅か10分で始まった。 
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