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I want BRAVERY

作者:清海深々
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二話 突然



 そしてまた月日は流れ、その日、俺はこれから忘れられないであろう出来事を経験した。

 学校では勉強もそれなりにこなし、顔もそれなりで、そこそこ勇気のある俺は明るく、クラスのムードメーカー的な存在だった。
 前世でもそうであったように、周りに合わせて笑ったり、笑わせたり、それらのことを特に苦もなくやっていた。

 学校でも友達は多く、部活もよくやっていた。
 そして、何より前世でありえなかったことだが、それなりに女子からも人気があった。

 なにより特に勉強しなくてもテストで点が取れるというのは、学生にとっては最高だろう。
 まぁ、勉強が本分というレベルの学生ではないのだが。
 そして俺はそのまま、なんの悩みもないまま、というのはいささか言いすぎだが(というよりも悩みはかなりあるのだが、もう諦めることにした)、かなり順調に過ごしていた。

 そしてその日も、いつも通り部活をして、友達と一緒に下校し、そのまま家へと帰ってきた。

「ただいまー」

 いつも通り、自分で鍵を開けて家へと入る。
 しかし、いつものようにそこへ返答する声はない。
 ふと疑問に思いリビングを覗く。

 すると、いつもは付いているはずの電気がついていない。

「あー、そっか。今日は二人の結婚記念日だったか」

 両親はラブラブ、というわけではないが、俺の世話に小学生頃から一切手間がかからなくなったためか、よく二人で出かけていた。
 そして今日はその二人の結婚記念日。
 夫婦水入らずでどこかへ出かけていったのだ。

 そうボヤきながた手を洗い、着替えるために自分の部屋への階段を上がる。
 制服を脱ぎ、それに皺が出来ないようにハンガーにかけ、そして部屋着に着替えて再びリビングへと戻る。

 ちょうど時刻は夕刻の6時。
 両親は、今日が金曜日のため今日から二泊三日で日曜日の夕方に帰ってくるとのこと。

 リビングでは、特にやることがないので適当に学校の宿題を持ってきてそれを開いてテレビをつける。
 テレビを見ながらでは集中できない、と思うのは最もだ。

 しかし、問題は集中する必要があるのか、ということだ。
 正直にいうと、ない。
 その一言に尽きる。

「・・・ふっ、ククク」

 お笑い系の番組を見ながら独り笑う。
 はたから見れば少し奇妙な光景だろう。

 そして、スラスラと学校の宿題を解く。
 それらの問題は自分のレベルに合ってなさ過ぎる。

 まぁ、そんなことは当たり前なので、適当に終わらせて高校生用の問題を解く。

 これらの高校生用の問題集は父親の書斎にあったものだ。
 何故あの歳になってまで高校生の時の物が残っているのかは知らない。
 しかし折角あるのだから使わせてもらう。

 転生らしきものをしてから、何故か自らを高めることに関しては何故か進んでやろうという気になるのだ。

 そして、父親の昔使っていたであろうボロボロの参考書を、書斎の奥から引っ張り出し、それをパラパラめくりながら解いていく。
 今の自分は、前世の受験を控えた人生で最高潮の頭よりも良いと思う。

 なんだかんだ思いながら、時刻が8時頃になり、流石に腹が減りだす。
 元々減っていたのだが、先にこれをやろうと決めてやっていたのでそちらをほって置いてしまったのだ。

「晩飯は自分で作らなきゃダメかな・・・こんなことならコンビニ寄っとけばよかったわ」

 別に料理ができないわけではない。
 正直、学生が勉強をしない、そして新たに発見することに対する好奇心があまりないとなると、おのずと趣味は増えるものだ。
 しかしこの時間になると、作るのも億劫になってしまうというものだ。

 両親はおいしいと言ってくれるが、正直なところ味は普通だと思う。
 特に料理の腕を上げようとは思わないが、できればおいしいものを食べて欲しいと思い、両親のいない今日に新しいものに挑戦しようかな、と考えキッチンへ向かう。

 そして、キッチンの戸棚にある料理本を取る。
 適当に今まで作ったことのなかったものを選び、それの作り方を確認していく。

「〜♪〜♪」

 『ペルソナ3』の『Burn my dread』を歌詞も大してわからぬまま、音楽だけを鼻歌で歌いながら、ご飯を作っていく。

 だいたい40分程度かけて料理をつくり、外が大分暗くなったのを見ながら一人ご飯を食べる。
 食べ終わったら、食器を流しに置いて、フロを沸かす。

 そうやっていつも通りに過ごしていく。

 時刻が0時を回る。

「お?もうこんな時間か」

 普段は親に言われるが、今日はその親がいないため、気付けば0時を回っていた。

「まぁ、どうせ明日休みだし」

 学校は土曜日はない。

(ゆとり万歳!)

 内心叫ばずにはいられない。

 とか思いながら、携帯ゲーム機を取って、ベットの上で適当なカセットで遊ぶ。





———Purururururu


 ふと家の電話が鳴った音で目が覚める。

「あれ?いつの間にか寝てたのか」

 手元にあるゲーム機の画面には『GAME OVER』と書かれている。
 
 ゲーム機の電源を切って立ち上がる。

「こんな時間に誰だよ・・・」

 時刻を見やると、午前5時。
 正直言ってこんな時間に電話をかけてくるやつなんているはずがない。

 この歳で携帯なんて持てるはずもなく、大抵は家電で友達と連絡を取っている。
 だからと言って、ここまで常識がない友達はいないはずなのだが。

 両親かな?と思い、眠たい目をこすって一階へと落り、今だ鳴り響く受話器を取る。

「もしもし?」

 眠そうなの口調で言う。
 しかし、一瞬受話器の向こうは無言で、一泊置いてから聞き慣れない声が聞こえた。

「・・・もしもし、流峰さんのお宅でしょうか?警察です」

 嫌な予感がする。
 手に握る受話器に力が自然とこもる。

「ご両親が・・・交通事故で亡くなられました」

 強く握ってたはずの受話器がスルリと手から滑り落ちた。
 手から力がなくなり、足にも力が入らず、空腹も感じなくなった。
 そして、落ちた受話器がガタン、と音を立てて床に当たる。

 自分以外誰もいないリビングで、その音はやけに大きく聞こえた。
 落ちた受話器からなにやら声が聞こえるが、聞こえない。

 世界に音がなくなったような気がした。
 
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