銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百七十七話 Willkommen zurück !!(ヴィルコメン ツーリュック)
前書き
大変お待たせしました。
リハビリ一作目です。三田の方は現在考案中です。
宇宙暦794年 帝国暦485年12月22日
■自由惑星同盟 ヴァンフリート星域 自由惑星同盟軍 第7艦隊ワーツ分艦隊旗艦ベロボーグ
「参謀長、あと5日で拉致被害者を迎え入れることが出来るね」
「はい」
「明日からは、哨戒も緻密にすることが決まっているから、今日はもう上がって構わんよ」
「ありがとうございます。それではお先に休ませて頂きます」
ラムゼイ・ワーツ提督がヤン・ウェンリー参謀長に休息を勧めると、元々面倒くさがりなヤンは、お言葉に甘えてさっさと食堂へと去っていった。
ヤンが食堂に着くと既にキャゼルヌ准将が待ち構えていた。
「おう、ヤンこっちだ」
「先輩、よく判りましたね」
「その辺は色々とな、何と言っても今の俺は暇な者でな」
ヤンは自分の質問にニヤリとしながら受け答えするキャゼルヌの姿を見て申し訳ない感情がわき上がる。
「先輩済みません、自分のせいで先輩にまで迷惑をかけてしまって」
キャゼルヌはユリアンの問題で奔走した結果、宇宙艦隊司令長官ロボス元帥に睨まれた挙げ句に宇宙艦隊後方次席参謀を罷免されていたのである。
「なーに、お前さんが気にする事じゃ無いぞ、元々司令部の元帥閣下の取り巻き共は本部長(シトレ元帥)に近い俺のことをお前さんと同じで、本部長のスパイだと陰口をたたいていたんだからな。それでユリアンの事を出汁して俺とお前さんを追い出した訳だからな」
「私が無理を言わなければ、先輩にも……」
ヤンが言い終わらないうちにキャゼルヌが話を止める。
「ヤン、お前さんが、ユリアンの惨状を見て見ぬ振りする気だったら、俺はお前さんと絶交していただろうよ。けどお前さんはそうしなかった。それは誇れることであり恥じる事じゃ無いぞ。俺はそうできた事に誇りを感じているし何ら恥じていない」
「先輩……」
「それにな、ユリアンはシャルロットの婿にする予定なんだからな手放してたまるかい。そんな事をしたら、俺もお前さんもオルタンスに何をされるか判らんぞ」
真面目に語っていたキャゼルヌの戯けた口調にヤンも思わず笑みを見せる。
「そうですね、奥方は敵に回せませんからね」
「そう言う事だ、真の実力者たる妻を敵に回しては家内安全には成らないからな」
そう言って笑い始める。
ヤンにしてみれば、先輩を巻き込んで、先輩が宇宙艦隊後方次席参謀を罷免させられた時に謝罪に行ったキャゼルヌ家で“私はヤンさんと貴方がユリアン君の為に頑張ったことで左遷された事は、恥とは思いませんよむしろ胸を張って名誉だと自慢しますよ。もし貴方たちが自分の保身のためにユリアン君を見捨てたなら、私は娘達を連れて実家へ帰って居ましたよ”
そう言い相変わらずの態度で接してくれるキャゼルヌ夫妻にはどれだけ感謝しても足らないぐらいであった。
「所で先輩」
「ん、どうした?」
「いや、先輩が抜けた後で宇宙艦隊の補給関係がまともに働くんですか?」
ヤンは気になっていた事を聞いて見る。
「ああ、その点なら、後方勤務本部長サダ大将も心配していたんだが、今を時めくトリューニヒト国防副委員長閣下の口利きで元第一艦隊後方主任参謀でありゃされたドーソン少将閣下が宇宙艦隊後方主任参謀にお付かれなさって辣腕を振るっているそうだ」
ヤンにしても後方主任参謀にドーソンが付いたことが知っていたが、キャゼルヌの喋りようによほど酷い人物なのかと察する。
「ドーソン少将はそれほどなんですか?」
「ああ、後方支援に関しては意外や意外、結構優秀な成果を出しているんだがな。問題は一々細かすぎて駆逐艦一隻単位でネチネチと補給の無駄を指摘して、必要量以下しか補給してこないそうだ」
心底呆れたという表情でキャゼルヌは渋い顔で話す。
「それでは、まともな戦闘が出来ないではないですか」
「それなんだがな、やっこさんは、第一艦隊後方主任参謀時代に、駆逐艦一隻単位でゴミ箱をあさって食べられる食材が捨てられていると、その艦の後方参謀を名指しで旗艦へ呼び出して叱責していたんだよ。ある時、ダストシュートからジャガイモが多数見つかってな、艦長以下を旗艦に呼び出した末に艦長以下士官全員が罷免されて、それ以来皆が奴をジャガイモ士官と言う様になった訳だ」
「それは酷いですね」
「だろう、補給担当者があれが足りない此が足りないと書類を出してくると、一々“貴艦には何を何キログラム何日に補給した、それを僅か数日で使い切る訳がない、物資の無駄遣いである故、此だけ補給する”と添削して書類を突っ返すそうだからな」
「それはまた」
「お陰様で、奴が後方主任参謀になった宇宙艦隊の補給量はセレブレッセ中将の時代に比べて3割減で済んでいるとのことで、国防委員会では高評判だそうだがな。実戦部隊じゃ怨嗟の声が上がってるよ」
「それでですか、艦隊の後方主任参謀が物資が足りない物資が足りないとブツブツ言っていたのは」
「何だ、ヤン、そんな事も知らなかったのか、駄目だぞ仮にも参謀長になったんだから、艦隊全般に目を光らせないとな」
「いやー、中々其処まで目が行き届かないのですよ」
「お前さんは、やっぱり紅茶を飲んで昼寝でもしているのが似合っている訳か」
「自分でもそう思いますよ、早く退役したいものだと」
「まあ、本部長がお前さんを気に入っている以上はそう簡単には退役させてはくれないさ」
「酷い話ですね」
「そう、酷い話だよ」
「しかし、ユリアンの事で本部長にも迷惑をかけている以上はそう簡単には止める訳にも行けないですよね」
「そうだな、本部長もロボス元帥閣下に何度か嫌みを言われたそうだし、親孝行のつもりで頑張るしか有るまい」
「そうですね。今回の捕虜交換で何とか帝国との和平、或いは休戦協定でも結べれば、早くに退役できるんですけどね」
「其処は、一緒に来てらっしゃる国務委員長閣下達の手腕に期待するしかないな」
「そうですね」
「まあ、取りあえず喰おう」
「ええ」
宇宙暦794年 帝国暦485年12月24日
■自由惑星同盟 ヴァンフリート星域~イゼルローン回廊間 自由惑星同盟軍 宇宙艦隊総旗艦アイアース司令長官公室
「あと2日か」
「はい、艦隊は26日にイゼルローン要塞へ到着し2日かけ捕虜と拉致被害者の受け渡しを行います。其処で帝国側代表との調印式を行います」
「そうか、総参謀長御苦労」
「はっ」
捕虜交換についての話を終えたグリーンヒル総参謀長がロボス元帥の下から艦橋へ帰ると代わって参謀のフォーク中佐が入室してきた。
「元帥閣下」
「入れ」
「元帥閣下、ヤン、キャゼルヌ准将ですが両名とも外部との接触を取った形跡は今のところ無いとのことです」
フォークの報告にロボスは髭をさすりながら頷く。
「そうか、未だにシトレには連絡していない訳だな」
「残念ですが」
「フォーク中佐、貴官の策は大丈夫なのだろうな?」
「お任せ下さい、シトレ、ヤン、キャゼルヌには情報部長ブロンズ中将の特命で情報部の腕利きを張り付かせております故、何れ同盟軍の情報をヤンがユリアン・ミンツ経由で帝国へ流していたと如何様にもでっちあげられます。何しろ、何故か帝国側がヤンとキャゼルヌとの会談を求めて来ているのですから、その辺からも突っつけばシトレの責任を追及することが出来ます」
自分も名指しで会談を求められた事を無視して針小棒大にヤン、キャゼルヌの罪にしようとフォークは考えていた。
「そうなれば、イゼルローン要塞攻略の戦果と共に儂が統合作戦本部長へ就任する事に反対する事は誰も出来なく成るな」
「はい、今回の第6次イゼルローン要塞攻略戦における最大の戦果として帝国皇女捕縛により帝国に屈辱的な降伏を求める事に成ります。さすれば、ロボス元帥閣下の名は同盟史に燦然と輝く事に成りましょう」
フォークの心にもないお世辞に満更でもない表情のロボス。
「うむ、そうだな、此をバネに何れは政界進出を視野に入れねばならぬな」
「はい、その際には父も元帥閣下の支援に廻ると行ってくれておりますし、サンフォード先生も御自分の派閥へ是非にとの事でした」
「おおそうか、フォーク中佐、お父上とサンフォード先生には宜しく頼むよ」
「お任せ下さい」
そう言い、フォークは未だ今後のバラ色の人生を夢想してにやついているロボスを残して部屋を出た。
“フッ阿呆には阿呆なりの操縦法がある訳だ、まあこの私の将来のために精々頑張ることだな。イゼルローン要塞攻略戦が成功すれば良し、万が一失敗したならば、情報漏洩でシトレを引きずり下ろせるのだからな、精々ペテン師にはシトレに連絡をして貰わなければならんな。元帥を失脚させるのは無理でも、たかが一准将如きならば幾らでも罠にはめることが可能だからな”
部屋を出ながらフォークは今後のことを考えていた。
宇宙暦794年 帝国暦485年12月26日
■銀河帝国 イゼルローン回廊 アルテナ星系イゼルローン要塞宙域
22日にヴァンフリート星域で合流した同盟艦隊は宇宙艦隊司令部直属艦隊、第7艦隊、第9艦隊合計31000隻となった後、25日にイゼルローン回廊同盟側出口に達し其処で出迎えに来た帝国軍の嚮導艦が先導し回廊へと進入した。
帝国艦艇に嚮導される違和感を感じながら翌26日に同盟軍はイゼルローン要塞の近傍へ到着した。
「イゼルローン要塞まで20光秒です」
「全軍停止せよ」
ロボスの命令でトールハンマーの射程距離の二倍に当たる地点で同盟軍は全鑑停止し、要塞周辺で出迎えの満艦飾で飾った帝国艦隊を見ていた。
「帝国軍より入電です“貴艦隊の来訪を祝す。銀河帝国軍元帥宇宙艦隊司令長官グレゴール・フォン・エッシェンバッハ”」
「返信せよ“丁重な対応感謝致す。自由惑星同盟軍元帥宇宙艦司令長官ラザール・ロボス”」
その様な遣り取りの中、帝国軍を信用できない同盟側はイゼルローン要塞へ向かう艦隊として、何故か帝国側が会談を指摘してきたヤン、キャゼルヌのいるワーツ分艦隊を捕虜と脱帝者で帰国を望んだもの達を乗せた輸送艦の護衛として派遣した。
此も、航海中一度もシトレに連絡しないヤン達に苛ついたフォークが万が一の際の玉除け代わりに使おうとロボス元帥に指摘し前日に決まった事で有った為、ワーツ分艦隊では参謀長のせいでと怨まれたが、ワーツ少将がヤンを庇って事なきを得ていた。
ワーツは、前任のワイドボーンの様に強引で我が強い参謀長に辟易して居た所でヤンのような必要なときに的確な指摘をしてくれる参謀長が来てホッとして、信頼を置いていたからである。
ワーツ分艦隊がイゼルローン要塞へ嚮導艦の先導で近づき浮遊砲台の射程距離に入った所で、イゼルローン表面に光の渦が見え始めた。
輸送艦のスクリーンを見ていた捕虜や脱帝者が驚愕の表情と口々に叫び声を上げる。
「俺達を撃つ気だ!」
皆子供を抱きかかえ、恋人同士で抱き合い、家族で泣き叫ぶが、一向に功撃が始まらない、よく見ればワーツ分艦隊も回避もせずに悠然としていた。
恐る恐るイゼルローン要塞表面を見ると其処にはレーザーで文字が書かれていた。
“Willkommen zurück !!(ヴィルコメン ツーリュック)「オカエリナサイ」”と。
その文字を見て涙を流す者、歓声を上げる物、何も言わずに家族と抱き合う者がいたが、暫くすると自然に“帝国万歳、ジークカイザーフリードリッヒ”の掛け声が艦一杯に響き渡っていたのである。
後書き
最後にタイトルの意味が判る訳です。
一応同盟側にはイゼルローン表面を使ったセレモニーがあると伝えてありましたが、まさかお帰りなさいとは思わなかった訳です。
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