銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません
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第百七十八話 捕虜交換調印式
前書き
お待たせしました。
かなり強引な感じになっております。
宇宙暦794年 帝国暦485年12月26日
■イゼルローン回廊
イゼルローン要塞表面に書かれた文字を見てヤンは“旨い手だな、此ほどの事をされれば、捕虜も帰国者も感動しているだろう、帝国には相当な知恵者がいると見えるな”と考えていた。
帝国側に攻撃する意志が無いことを知ると、ロボス元帥以下の式典参加者は、旗艦アイアースから戦艦イゾルデに移動し、残りの捕虜を乗せた輸送船を盾にするようにイゼルローン要塞へと近づいてくる。
その姿を見たヤンは以前の捕虜交換で立派な態度で有ったケッセリング提督と比べ帝国と同盟の上級司令官の質の違いをまざまざと感じさせられ、思わず苦笑いするのであった。
嚮導艦に先導されたイゾルデとベロボーグはイゼルローン要塞の流体金属層を抜け同盟軍として初めてイゼルローン要塞ドッキングポートへ接岸した。要塞側からドッキング通路が艦に接続され、気圧などの調整が終わる。
ドッキングポートが開き、ロボス以下の面々とワーツ以下の面々が姿を現すと、帝国軍軍楽隊が同盟国歌及び軍歌を演奏する。同盟側代表団を迎え入れるように、エッシェンバッハ元帥、ケスラー大将達が出迎える。
ロボス元帥はエッシェンバッハ元帥と挨拶を交わす。
「銀河帝国軍宇宙艦隊司令長官元帥グレゴール・フォン・エッシェンバッハと申す。イゼルローン要塞へようこそ」
「自由惑星同盟宇宙艦隊司令長官元帥ラザール・ロボスと申します。この度の歓迎忝ない」
両者とも幾度となく干戈を交えた間柄な故にぎごちない挨拶であるが、威厳から言えば只のメタボで腹が脹らんでいるロボス元帥に対して筋肉質でガッシリとした体格のエッシェンバッハ元帥の方が遙かに力強く大きく見えるの事が際立っていた。
両者の挨拶を特別に許可された同盟側の取材陣が写真や映像で映し、同盟各地にライブ中継されている。
挨拶もそこそこに、捕虜交換の調印式が始まり、帝国側代表者エッシェンバッハ元帥、皇帝代理人としてケスラー大将がサインを行い。同盟側代表として副議長バーナード、ロボス元帥がサインを行った。
ヤンやキャゼルヌは随員として控えてはいたが全く仕事が無く、只単に眺めてるだけであった。
調印が終わると、帝国主催で宴が開かれた。同盟側は少しでも帝国側の情報を手に入れようと随員に紛れ込んでいる情報部出身者が帝国側出席者と話を交わしていた。
ヤンやキャゼルヌは、テーブルの隅で二人してチョビチョビしていたが、暫くすると、壮大なフェンファーレが流されると入り口の扉が開き、着飾った10代中盤の少女がお付きの者を引き連れて会場へと現れた。
式部官が大きな声で説明を始める。
「銀河帝国第三皇女テレーゼ様の御入場でございます」
その声に、殆どの参加者が壇上に上がるテレーゼを見る。
テレーゼが皆を見渡し、話しはじめる。
「皆の者、この度は御苦労であった。こうして多くの臣民が無事帰国出来る事になり、この様な配慮をして頂いた卿らに感謝する」
皇女自らが叛徒に礼をすることに同盟は元より帝国側でも驚きを持って感じられたが、同盟側は皇女が偽物ではないかという疑惑を抱き、帝国側では門閥貴族は“叛徒共に礼を言うなど何を考えているのか”との憤りが、下級貴族や平民は“殿下が真に帰還兵のことを考えている”と感動していた。
テレーゼは挨拶の後、エッシェンバッハ、ケスラーを引き連れ、同盟側首脳と話しはじめる。
最初はバーナード副議長であった。
「テレーゼ殿下、この度の拉致被害者帰国、ありがとうございます」
人物の出来ているバーナードはテレーゼに確りとした挨拶で礼を述べる。
「副議長、お気になさらずに、彼等も道を違えたとは言え元々は臣民ですから、臣民を助けるは皇族の義務ですわ」
テレーゼの同盟人も臣民の内、発言に眉を潜ませる面々だがそれに気づいていながら無視して続いてロボス元帥と話しはじめる。
「ラザール・ロボスと申します」
小娘に負けるかと元帥の精一杯の威厳を出して威圧するが、テレーゼは何処吹く風と普通に対処する。
「お初にお目にかかりますわロボス元帥、所で元帥の御母上は帝国出身だとお聞きしましたけど?」
その様な話が出てくるとは思っていなかったロボスが躊躇する。
「はい」
「残念ですわ。元帥が帝国に生まれていれば、今頃は統帥本部長に推挙していましたのに、其方では上が支えて上がる事が出来ないのですから。いっその事このまま帝国へいらっしゃいませんか?」
いきなりのテレーゼの話しに目を白黒させるロボス。回りからの視線に我を戻して答える。
「殿下、小官は自由惑星同盟の市民としての誇りを持っております。その様な件は冗談でもお止め頂きたい」
キッパリとした拒絶に気分を害することなくテレーゼはにこやかに応対する。
「そうですわね。それでこそ軍人と言うものですわね」
そう言うと、続いてグリーンヒル総参謀長に話しかける。
「お初にお目にかかりますわ、グリーンヒル大将ですわね」
「ドワイト・グリーンヒルと申します」
「グリーンヒル総参謀長とアーサー・リンチ提督は旧知の仲とお聞きしましたが?」
今回の捕虜交換でも帰還してこない後輩の名前を思わぬ所で聞いたグリーンヒルは驚いた表情をする。
「殿下、リンチ提督をご存じなのですか?」
「ええ、リンチ提督は、現在の我が所領のローエングラム星系で捕虜収容所の自治委員長をしていますわ。実は今回の捕虜交換でリンチ提督も帰国して貰う予定だったのですけど“自分が自治委員長で有る以上は全ての捕虜が帰国するまで帰る訳には行かない”と仰って、敢えて残ったのです」
テレーゼの話を聞いて、グリーンヒルは、不器用な後輩の姿を思い出して心が痛んだ。
「そうですか、彼がそんな事を言いましたか、彼らしいと言えます」
「父上も、リンチ提督の清さに感動なさいまして、今回の捕虜交換の件を進める事にしたのですよ」
「そうなのですか」
感動の余り涙ぐむグリーンヒル。そんなグリーンヒルを小馬鹿にしたような目で見つめる顔色の悪い士官がいたので、テレーゼはその人物が誰か知っていたが敢えて聞いて見る。
「其処の顔色の悪い痩せた士官は病院にでも行ったらどうかしらね」
そう言われて、周りから見られた上に含み笑いをされたフォークは目を見開いてテレーゼを見る。
「何を言われるかと思いましたが、此は生まれつきです」
「あらそうなの、で卿の名前は?」
今までとうって変わり小馬鹿にした様な態度にフォークは唇を噛みしめながら叫びたいのを我慢して答える。
「自由惑星同盟軍中佐宇宙艦隊作戦参謀アンドリュー・フォークです」
フォークと言われてテレーゼが思い出した様に手を叩く。
「卿がフォーク中佐か、なるほどね」
そう言いながら、フォークをマジマジと眺める。
「卿と話をしてみようと思ったのだけど、興味が失せたわね」
「な……」
テレーゼの余りの言葉にフォークは真っ赤な顔になりフラフラと倒れた。
騒然とする会場であったが、フォークを随員の数人が休憩室へ連れて行く事で収まった。
「済みませんわ。フォーク中佐がグリーンヒル提督を小馬鹿にした様な態度をしていたのでつい虐めてしまいましたわ」
そう言うと会場に苦笑いが起こった。
そんな姿を見ているヤンとキャゼルヌは二人で話す。
「おい、ヤン、あの皇女殿下は相当の毒舌だな」
「先輩にそう言われるんじゃ、相当なものでしょうね」
「おいおい俺は違うぞ」
「そうしておきますよ」
話していると、彼等の方にテレーゼがやって来て話しかけてくる。
「キャゼルヌ准将とヤン准将ですね、妾はテレーゼですわ。是非お会いしたかったですわ」
先ほどとうって変わった態度に驚く二人。
「アレックス・キャゼルヌ准将と申します」
「ヤン・ウェンリー准将です」
キャゼルヌとヤンに挨拶したテレーゼは早速二入にスカウトをかける。
「キャゼルヌ准将、卿の書いた経済理論など諸々の論文を態々フェザーン経由で取り寄せて、帝国の経済の改変に利用させて貰っていますのよ。その作者たる卿に会える事を楽しみにしておりましたわ。それだからこそなのですが、卿のような優秀な人材を是非帝国に招きたいと常々思っていましたのよ。どうでしょう帝国軍上級大将の地位と商務尚書の地位を用意する故、帝国へ来て貰えませんか?」
「殿下のお言葉ですが、小官は自由惑星同盟に生まれたことを後悔しておりませんので、その旨はご勘弁頂きたく」
「そう言う事ならば仕方が有りませんわね。けど何時でもお待ちしていますわ」
ロボス達に聞こえるように大きな声でキャゼルヌを勧誘するテレーゼにキャゼルヌ自身も大いに迷惑顔で否定しているが、ロボスの取り巻きや情報部はキャゼルヌの動向を益々監視せねばと記録するのである。
続いてヤンに話しかける。
「ヤン准将、エル・ファシルではまんまとしてやられましたわ、逃げる司令官を囮にするとは、普通の考えの持ち主では出来ぬ奇策ですわね」
テレーゼの言葉にヤンが古傷を抉られた様な顔をする。
「あれは……」
「まあ、過ぎたことは仕方が無いことですわ。リンチ提督も今では“あれが最良の作戦だった”と仰っていますからね」
暗い感じになるヤンを明るくさせてやろうとテレーゼは二人に話す。
「ヤン准将、キャゼルヌ准将、彼処にいる金髪の少将はラインハルト・フォン・シェーンバルトと言って、父上の寵姫グリューネワルト伯爵夫人の弟なのです。武勲もないのに少将まで上がってしまった為に、いつも戦争に行きたい行きたいと我が儘を言う上昇志向の強いマザコンでシスコンですわ。今回も伯爵夫人が弟の艦隊司令官就任記念の箔付けの為だけに、父上にお強請りして無理に参加させましたのよ。それだから旗艦もあんな真っ白な斜め2本線を引いてTV映りを良くしているんですわよ」
それを聞いた二人が思わず苦笑いする。
「それはその何と言った良いのやら」
「全く困ったことですわ。此はオフレコですけど、帝国では上流の方々の我が儘やエゴでの出兵が多いもので軍としても壁癖しておりますわ」
「それは専制政治の悪癖ではないのですか」
「まあ、其方も総選挙や統合作戦本部長選挙の度にイゼルローンへ攻めかかる訳ですから、何ら変わりは無いようですけど」
ヤンの皮肉にも簡単に切り返してしまうテレーゼで有った。
後書き
フォークは倒れただけで転換性ヒステリーが発症した訳ではないので大丈夫です。
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