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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百七十六話 準備進行中

 
前書き
お待たせしました。

今回は三部作になっております。

 

 
帝国暦485年12月18日

■銀河帝国 アムリッツア星系クラインゲルト子爵領

大規模転封により辺境領全域からの引越が行われている中、クラインゲルト子爵領では最終的な引越が行われていた。その引越を率先して手伝う屈強な男達がいた。

「おーい、婆ちゃん、この荷物はどの車に載せれば良いんだい?」
筋肉隆々で屈強な大男が農民のお婆さんに質問している。聞かれたお婆さんは最初はおっかなびっくりだったが直ぐに彼等が気が優しくて力持ちな好青年達だと判ると、ありがたやと、引越を手伝って貰っていた。

「あいよ、それは老人会の品物だからね、老人会用の車じゃね」
「はいよ、おう、お前達、間違えるなよ」
「「「おう」」」

クラインゲルト子爵領の各地では、50万人に及ぶ屈強な男達が日に焼け真っ黒に成りなり汗をかきながら荷物を運んでいる。クライゲント子爵邸でも、引越が行われ、クラインゲルト子爵と50万人の引越助っ人の代表者が話している。

「中将、50万人もの応援、真に忝なく存じます」
「なんの、此も陛下と殿下の思し召しという物です」
子爵の感謝を受けながら中将は考えたのは陛下と殿下なのですよと教える。

「皇帝陛下と皇女殿下に、此ほど辺境の事を考えて頂けるとは、ありがたい事です」
「そうですな」
「陛下のお陰で、こうして引越も滞りなく進んでいるのですから、それに民にも負担をかけることなく進められるのですか」

「そうですな、陛下と殿下のお考えで、私のように辺境の下層出身でも今では中将にまでなる事が出来たのですから」
キルドルフ中将の話を聞いたクラインゲルト子爵は頷いていた。

実は先行していた装甲擲弾兵はキルドルフ中将達が中心となってクラインゲルト子爵領の引越を手伝っていたのである。此は50万人もの人員の移動を帝国内部に巣くうフェザーンや地球教や同盟のスパイや内通者達に怪しまれないために、表向きはこの所地上戦闘が無く暇をしている装甲擲弾兵を移民が始まっている辺境星域の人手不足解消のために“帝通のアルバトロス便~♪”とGIO48の歌声で帝国全土へCMまで打っている全帝国の通運&引越業者として組織されたダミー会社帝国通運のアルバイトとして引越業務に参加させていたのである。

装甲擲弾兵はクラインゲルト子爵領の全てが12月20日に引っ越すために、その後、クラインゲルト子爵領で残務整理をすると称して残るが、実際には翌日にイゼルローン要塞に向けアムリッツア星系を通過する捕虜を乗せた輸送船に紛れて、要塞に12月23日に到着する事に成っていた。

此により、テレーゼ達上層部と彼等装甲擲弾兵達を除いて、装甲擲弾兵50万人がイゼルローン要塞で手ぐすね引いている事をフェザーン、同盟、地球教などの者達は知るよしもなかった。


帝国暦485年12月23日

■銀河帝国 イゼルローン回廊 イゼルローン要塞

イゼルローン回廊同盟側出口から1000隻程の艦艇が10数隻の輸送艦を護るように帰投してきた。
「元帥閣下、ツェルベルス作戦艦隊旗艦グナイゼナウのレンネンカンプ少将より入電、“我無事収容す”」

それを聞いたエッシェンバッハ元帥が“ウム”と頷き、オフレッサーが無言で頷く。
その横ではテレーゼが、にこやかに元帥に話しかけている。

「元帥、総監、皆無事帰還できたようですわね」
「御意、此で無駄に兵を損なわなくて済みます」
「極寒の地で数年、よく頑張ってくれたものです」

「無事なのは良い事よね」
「「御意」」

数時間後、無事に要塞へ入港してきたレンネンカンプ以下の将兵とカプチェランカ駐留の陸戦部隊全員をテレーゼとエッシェンバッハ元帥、オフレッサー上級大将が出迎えた。

グナイゼナウから降り立つレンネンカンプ以下の面々は、皇女殿下自らと宇宙艦隊司令長官、装甲擲弾兵総監の出迎えに驚く。

「皇女殿下、司令長官閣下、総監閣下には、この様な所まで、お越し頂き恐悦至極に存じます」
レンネンカンプが杓子ばった表情で緊張しながら頭を下げる。
それを聞いたテレーゼは“Mrレンネンは真面目な堅物だからねー”と思いながらも、それをおくびにも出さずに労いの言葉を述べる。

「レンネンカンプ提督を始めとする各員の皆、良くやってくれました。御苦労様です」
皇女自らの労いの言葉にその場にいたほぼ全員が感動に包まれていた。普段なら貴族出身者の上役から罵声こそ浴びても労われることなどほぼ無かったのであるから、その上で雲の上の存在と言える皇女殿下から直接のお褒めの言葉である。彼等は否応無しに帝国の変化を感じる事と成った。

「卿等のお陰で、装甲擲弾兵の仲間を救出できた。ありがとう」
オフレッサーからの感謝の言葉に、レンネンカンプ以下も狐に化かされたような表情で驚いていた。

その後を継いでエッシェンバッハが述べる。
「卿等御苦労であった。卿等の働きにより無事、ノルトラント旅団の撤収が出来た。此により無駄な命が失われずに済む。此より卿等には1週間の休暇が与えられる故、英気を養うように」

エッシェンバッハの話を聞いて、皆の頬が緩むのが判った。


艦隊員が点呼の後、歓楽街へ散っていくと、テレーゼ達は続いて、カプチェランカ駐留のノルトラント旅団関係者の謁見を行う。

第111竜騎兵旅団ノルトラント、総員数九千名強を誇る独立混成旅団であり極寒のカプチェランカに10年にわたり駐屯し同盟軍と干戈を交えて来た部隊ではあるが、戦略的、戦術的価値も無いにも係わらず、只単に、上層部の一度取った場所を明け渡したくないなどと言うくだらないプライドにより多くの血を流してきた部隊である。

その為に見捨てられたかんが有り軍規の乱れも甚だしい状態で有り、士官が率先して婦女暴行や物資横流しなどに手を染める状態と成っていたが、帝国暦482年に当時の司令官ヘルダー大佐からマーテル中佐に指揮官が交代し、補給などに関しても改善されると、元々の精鋭としての意識向上に繋がり、同盟軍の総攻撃を跳ね返る働きをしていた。

この度、テレーゼのイゼルローン要塞への同盟軍誘引によりほぼ確実に前哨戦で撃滅されることが予測されたために、全帝国人の撤収が行われたのである。

「ノルトラントの勇者達よ、10年の長きにわたり御苦労様さまでした」
テレーゼの労いに、艦隊員以上の驚きを隠せないノルトラント旅団。

「卿等の、活躍を知りながら、放置し続けた者共はこの儂が直接折檻してきた。長い間苦労をかけて済まなかった」
オフレッサーからの折檻話では皆があり得るあり得るという顔をし、謝罪では驚くだけである。

「卿等の活躍を鑑み、全員を二階級昇進させる事になった」
エッシェンバッハの話には、全員がやっと報われると言う表情である。

そして、代表者としてマーテル大佐がテレーゼの前に呼ばれて直接話しかけられる。
「エルヴィン・マーテルであります。皇女殿下の格別のご配慮に全将兵に代わり感謝致します」
見事な挨拶を行うマーテルであったが、次の瞬間テレーゼから発せられた言葉に耳を疑う。

「マーテル少将、御苦労であった。しかし卿等をこのままオーディンへ帰す訳には行かぬのじゃ」
マーテルは瞬間に、皇女の意図を推測した。既に少将で呼ばれてる点、即ち二階級昇進とは生きて帰さぬと言う事なのかと、所詮貴族にしてみれば俺達は単なる塵芥でしかないのかと。その事を考え、次第に顔色が白くなる。

テレーゼの言葉とマーテル大佐の様子を見ていた、旅団員にも緊張が走るが、直ぐに大笑いに代わるのである。
「殿下、それだけでは判りますまい」
言葉が足りませんぞとエッシェンバッハが指摘する。

「おお、そうで有ったな。マーテル少将、卿等の雪焼けした顔色やその窶れ姿を家族などに見せるのは忍びがたいのでな、二ヶ月の休暇と一時金を与える故、最初の一ヶ月間はリゾート惑星クックスハーフェンで、英気を養ってから家族の元へ戻るが良いぞ。無論家族に直ぐに会いたいのであれば、家族を呼び寄せることも可能じゃ、無論無料でじゃ、卿等が希望すれば差配致すぞ」

此でもかと言う様な屈託無い笑顔で、話すテレーゼに皆が、天使を見るようなまぶしさを感じていた。そして殆どの者が思った。“この方こそ、我々の苦労を知って下さるお方”だと、此により更に支持者を増やすテレーゼであった。

絶望からすくい上げ、希望を見せておきながら、再度絶望を与え、その後助けるという、宗教で良くある方法で、信徒を増やす悪辣なテレーゼであるが、一度懐に飛び込んだ窮鳥は見捨てないと言うスタンスは変わることが無いのが彼女の利点と言えた。

テレーゼの浸透力は地球教よりズッと素早く、深く浸透する。平民と下級貴族にターゲットを絞っての行動で有るが故に、僅かの事でも感動され、敬愛される。その為に多くの人が彼女を支持するのであるが、多くの門閥貴族やフェザーンにしてみれば、所詮は下賤な平民や下級貴族からの支持など、影響力が少なすぎると、余り問題視されない状態で有った。

門閥貴族、フェザーンにしてみれば、この数年来精力的に成り次々に新しい治世を行う皇帝の働きに目を光らせ、その原因であると考えられているグリューネワルト伯爵夫人に目が行く事に成っており、全くと言って良いほど武勲がないのにもかかわらずスピード出世するラインハルトが悪目立ちする事で、テレーゼから目が離れる要因にもされていた。




帝国暦485年12月24日

■銀河帝国 イゼルローン回廊 イゼルローン要塞

イゼルローン要塞で、GIO48のコンサートが行われていた。
「みんな、愛してるよ♪」
「いえい♪」
「ヘイ!ヘイ!ヘイ!」

イゼルローン要塞特設会場では50万人もの観客で埋め尽くされていた。12月24日から1月3日まで11日間に渡る史上最大規模のイベントに大規模立体映像など、劇場艦ゲフィオンの機材が大活躍していた。

イゼルローン要塞の構成人員550万人に今回の遠征軍286万人に装甲擲弾兵50万人合わせて886万人強全員にチケットが発行され昼と夜の部で必ずどちらか一回には参加出来るようになっていた。更に、放映自体は録画を含めて24時間放映されているために、捕虜の間でも視聴されていた。

既に宗教観が無くなって早10世紀ほどであるが、それでもクリスマスは祭りとしては残っていたが、今年は特に、このイゼルローン要塞から初めて帝国全土へ生放送される“クリスマスから新年までぶっ続けライブ485&486”により、例年にない盛り上がりを見せ。立体TVは近年に無いほどの高視聴率を得ていた。それほど、皆が娯楽に飢えていた証拠であり、テレーゼ商法の成功と言えた。更にこの放送はフェザーンのTV局へも放映権が売られて、フェザーンから同盟本土へも流されていた。

GIO48は同盟、フェザーンにも無い新たな音楽として、既にフェザーンでライセンス生産された音楽媒体が同盟本土でも流行の兆しが見え始めていた。文化侵略が始まっていたのである。更に同盟からの資金が売り上げという形で帝国へともたらされる事にも成っていた。

皆が皆盛り上がる中、ラインハルトと、キルヒアイスだけは、タンホイザーの自室にいるか、艦橋でブツクサと2人だけで話しているだけで、完全に周辺から浮いていたが、ラインハルトにしてみれば、他人の評価など価値のない物と端っから馬鹿にしているので、気にもしていなかった。
 
 

 
後書き
テレーゼから平民、下級貴族の心への侵略がジワジワと進んでいます。 
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